スペースクルーザー ランディール
第20話 未来に賭けるそれぞれの想い
アリサ３世型大型移民船の一つ”ネオモタビア”の司令室の一角の
諜報分析センターではアベルを始め数人のシステムオペレーターが
ディスプレイに向き合いマザーブレインのアクセスコードを探っていた。
アベル「”すべて世にあるもの、すなわち、肉の欲、目の欲、持ち物の
誇りは、父から出たものではなく、世から出たものである。
世と世の欲は 過ぎ去る。”これはどうかね？」
手にした古びた書物を一節づつ読み上げるアベル。チーフオペレータを
初めて任せられたジェリコがその内容を緊張気味に入力していく。しばらく
画面を見守るが期待できる反応はなかなか帰ってこない。
ジェリコ「だめっすね。システムからの反応は今一つっす。暗号のパターンは
いろいろ変えているんすけど・・・あのうそれはやっぱ地球に伝わる
言葉なんでしょうか？」
溜め息まじりに首をふりつつコンソールを叩いてバックレストに背を伸ばす
ジェリコ。ふと、ジェリコはアベルの持っている書物に興味を示した。
アベル「ふふ・・そうだな。地球でかつて信仰されていた宗教の聖典の一節が
アルゴルを支配する電脳の女神のアクセスコードとはノアの先人も
洒落た事を考えてくれる・・・・。」
ジェリコの問いかけにアベルはわずかに目を細めしばし思案に沈んだ後
苦笑いを浮かべ答えた。
ジェリコ「そうなんすっか・・・。でも今までこの書物の半分以上の文章を試した
のに全然反応なしっすよ。やっぱ・・・違うアクセス言語に変えているん
じゃないっすか・・・。」
不安そうに尋ねるジェリコの問いにアベルはしれっとつぶやく。
アベル「まあ、確かにそうかもしれないなあ・・・。」
途端にジェリコの表情が涙目になった。
ジェリコ「ええ〜！！それじゃあここ一日の俺の苦労はあ
それにここも管制主任に頼み込んでようやく
借りられたんすよ〜まずいっすよ！！」
情報を収集する際、逆に外部からのハッキングやウイルスの侵入を防ぐために
ためこの諜報分析センターは移民船団間のネットワークから完全に独立している。
また収集された情報はここの５００テラバイト記憶媒体に収められ複雑に連携し
あう並列処理メインフレーム群により順じ分析が行われている。そのためここは
情報収集や盗聴などの電子戦の要になっており利用者数は非常に多い。
過密なスケジュールになんとか割り込めるようジェリコは管理主任に頼み込んでいた。
（無論、裏ではアベルがオハリオに話をつけておりいつでも使える状態なのだがそれを
ジェリコに伝えないのがアベルの意地悪なところである。）
アベル「・・・う、そう泣きつかれても困るんだが・・・ふう、まあ君の苦労は無駄には
ならないさ。これを見たまえ、我らの蟻の如き小さな努力が大山を鳴動し始めた
ようだからな・・・」
ジェリコに泣きつかれたアベルは内心彼の深刻な表情を楽しみながらわざと困惑した
様な表情を浮かべリモコンに手をかける。
ディスプレイの一つが円形の議会ホールで怒りや遺憾を口にする議員達を映し出した。
ジェリコ「アルゴル中央政治議会の生中継っすね。」
議会ホールの中央、演壇に登った若き執政官イアムが会場で見守る議員の視線の中、
声を張り上げた。
イアム「反マザーブレインを標榜するテロリスト達の中枢システム不当な乗っ取りの
陰謀に対し私はここにアルゴルの全機構の改良を提案したい。」
途端に財界人の派遣した議員達が、野次や罵声を浴びせ掛ける。マザーブレインの早急な
システムの改変についてこれない企業の不満システム管理を独占するアルカディアに対する
やっかみが主なものだった。会議場を飛び交う私語を押さえようと議長が「静粛に！！」と
制止するにもかかわらず野次は一向に収まる気配を見せない。
イアム「恐るべきテロリスト達はすでにモタビアにおけるアメダスのハッキング並び暴走による
洪水の危機など人民に危険を及ぼす行為にまで手を染め始めている。尊敬すべき議員の
諸君、私はこの平和と自由溢れるアルゴルを愛している。それはここにご列席されている
議員諸君共通の願いであると私は信じていますが・・・」
両手を書見台の脇におき混乱のきわみに達した議員達を見渡すイアム。
イアム「この改革はアルゴルを反マザーブレイン主義のテロリストから護るための策の一つである。
約束しましょう。費用などは我々の支援団体であるアルカディアがその一切を負担し、技術も
独占しないとをここに誓う事を。」
イアムの真摯な訴えは会議場の騒音にかき消された。しかし訴えを無視された筈のイアムの口元
には笑みが浮かんでいた。
アベル「・・・マザーの基本ＯＳを極端に変えれば対応出来ぬシステムが必ず出てくる。
そしてその多くは非アルカディア系企業のものだ。地球人の侵略計画が肝心な
所にきているこの現状でそれは致命的なエラーになりかねない。これが何を意味
しているかわかるかね・・・。」
唐突にそう聞かれジェリコは戸惑いながらも自分の考えを慎重に答えた。
ジェリコ「うーんと、つまり地球人はプロトコルを大々的変えることはできない・・・と言う
ことっすか？」
ジェリコの推測にアベルは達観したような顔で答えた。
アベル「だからこそ奴らはご覧のような回りくどい手法を取ってきた。だが保守派の人間は
急激な改革を好まない。皮肉なものだな・・・人間の欲望が悪魔の計画を遅らせる
ことになるとは・・・・。」
アベル流の皮肉にジェリコもうんうんと頷く。
ジェリコ「トニーＧさんを切り捨てたからいろいろ悪い情報も出ているみたいっすよ。まあ
自業自得っすね。どうせならこれで完全に頓挫してくれれば楽なんすけどね・・・。」
背を再び伸ばしつつ軽い希望を述べるジェリコに対しアベルは肩をすくめると
アベル「果たしてどうかな・・・アルカディアは予想もつかぬ手を用意しているかもしれ
ないし何れにせよ・・・解析は続けようじゃないか・・・急がないと君は管制
主任はおろかルオン副指令からも大目玉を食らう事になるよ・・・。」
ジェリコの耳元に悪魔の囁き（笑）が聞こえてきた。
ジェリコ「ああ〜！！俺に責任を押し付ける気っすかあ！！とほほ〜関わるんじゃなかった〜（泣）」
アベルにからかわれたとも気づかず狼狽するジェリコ。とことん哀れである。
一方技術の城と呼ばれる古城レンソルではハルとミラー博士が新しいパワードスーツの開発を
進めていた。
基礎構造の選定が決まるとケン達の働きは早かった。一日で機構の半分を完成させていた。
ハル「第５中継器の第２３リレーを接続しました。次はどのリレーを繋ぎましょうか」
ケン「そうだなあ、サブジェネレータに繋がる第6リレーを並列に繋いでみよう。これで
空間湾曲用エネルギー伝達効率が30％ほど改善される筈だ。」
ハル「各部のメインシステムの機能異常重力下におけるテストでも事象計算能力の向上により
ほぼ安定。正常稼働率９９・９９９５％です。」
ケン達は時空衛星ヴェルダンディアの様な時空を捻じ曲げる強烈な攻撃に対抗するために
空間を湾曲させるフィールドを形成する装置をパワードスーツに組み込むことにした。
ケン「うむ、駆動系のシミュレーションも上々だし、力もりもりんとの同期も上手くいって
いるようだ。後はフレームデザインとこいつに相応しいナイスな名称を考えないとな。」
装甲系を除きほぼ完成したパワードスーツを頼もしげに見上げるハルとケン博士。
ハル「じゃあ、僕が先生のナイスな名称に相応しい完璧なフレームを精錬しますね。」
ハルに誉められ満更でもないのかケン博士は照れくさく笑う。
ケン「ふふふ、君だけだよ、僕の名称を誉めてくれるのはしかしこの装甲は、やはりすごいなあ。
ラコニアの単一構造の結晶を複雑に組み合わせえっとそれからなんだったかな・・・。」
博士から説明を求められたハルは目に綺羅星を輝かせながら、こと細かく自分の技術を解説して
いった。
ハル「それに特殊な焼入れを施してさらに強度を高めるんです。ちなみにアーミーアイには
さらにエネルギーフィールド発生機まで内臓されているんです。つまりガシャーンでも
ドッカーンでもどんな攻撃でも耐えることが出来るんです！！」
ミラー「ほう、つまりこいつはガガガッシャーンでもドビュビューンでも大丈夫という訳だ。
うむうむ感心感心！！ 防御力に関しては折り紙付だな。」
他人からは何を言っているのかよくわからない言葉のやりとりだが彼らの間では成立するらしい・・・。
やはり通じ合うものがあるのだろう。
ハル「先生にそこまで誉められるなんてこいつは幸せものです。」
パワードスーツをしみじみと眺めながらまるで自分の子供が誉められたように喜ぶハル君。
ミラー「・・・・君は作られたものに本当に愛情を持っているんだねえ。君の友ウォーレンの
整備状態を見てもそれがわかる。」
しかし、その言葉に一瞬複雑な表情を浮かべるハルは
ハル「え、・・・ええ僕、何故か造られたものに親近感がわくんです。それは僕が物心ついた
頃からｋ６６６高度児童教育センターにという孤児院に預けられたからかもしれません
けど。」
と、寂しげに呟いた。その言葉を聞いたケンは、だがｋ６６６という言葉に対し驚き息をのんだ・・・。
ケン「Ｋ６６６！・・孤児院か・・・・そうか君もいろいろ苦労をしたんだなあ。」
ハルにその驚きを悟られないよう彼に話題を合わせるケン博士、だが博士はこの出会いに
運命のようなものを感じずにはいられなかった。
ハル「あそこで接してくれたのは教育プログラムだけで正直少し寂しいなあと感じていました・・・・。
でもそこで僕はミラー博士やルべノ博士の研究について自由に調べることが出来たし
おかげで僕はウォーレンという掛替えのない友を得ることが出来ました。」
目に憐憫の情を浮かばせハルに問い掛けるケン博士。
ケン「・・・・君は家族を求めているんだね」
その問いに一瞬戸惑い・・・そして静かに肯定するハル。
ハル「！！・・・そうかもしれません。」
寂しげに頷くハルの横に座り思いっきり椅子に背を伸ばしながらしみじみと語るケン博士。
ケン「・・・わかるような気がするなあ。ずっとディスプレイや端末に囲まれているとふと
どこかで家族が恋しくなる。」
ハル「先生もそうだったんですか？」
ケン「まあ・・・僕の場合実家とはいろいろ折り合いが悪くてもう数十年音信不通だがね・・・
・・・済まない君のつらい過去を聞いたばかりだというのに」
余計なことを口走ったとばかりに素直に謝るケン博士。一方憧れの人に謝られたハル君は
うろたえた後すぐに元気に振舞った。
ハル「うわあ！？謝らないでください。それに大丈夫ですよ。僕には血の繋がりはないけど・・・・
僕をどこかで見守ってくれる親父さんがいますし・・・。」
だが押さえていた寂しさが胸の奥から湧き上がり涙が零れ落ちる。それでも憧れの人にこれ以上
見っとも無い姿を見られたくない彼は自分を叱咤激励してくれたガンツの言葉を思い出す。そして
その声が整備工場の入り口からいきなり聞こえてきた。
？？？「その親父っていうのはおいらの事かあってんだ！！」
聞き覚えのある言葉と同時にドアが思いっきり開かれデゾリスで別れたはずのガンツと整備
仲間達が駆けつけてくるではないか。
ハル「ガンツ主任・・・それにみんな！？」
意外そうに呟くハルに事情を説明するケン博士。
ケン「僕が彼らを招いたんだ。旋盤や金型製作など彼らの巧み的な技術はこれからの計画には
かかせないからねえ・・・。」
駆けつけた仲間たちはハルに絡みながらも瞳を潤ませハルの肩を持ちあげた。そんな光景を
微笑ましく見守りながら、ガンツは手に持ったハンドスピーカーでいつもの調子で怒鳴りあげる。
ガンツ「ほら、なにボサっとつったっていやがる！！ささっとこいつを完成させちまうぞ！！
まだまだ依頼は山のようにきているんだからなあ！！」
ガンツの大声に耳を押さえつつ
ハル「はい！！」
ハル達はパワードスーツや武器の製造に取りかかって行く。
ガンツ「おい、ケン公、あいつには真実は明かさないでやっちゃくれねえかあ・・・。」
声を張り上げた後それとは打って変り神妙な面持ちでケンの横に腰掛けるガンツ。
ケン「気がついていたんですか・・・・ｋ６６６・・・アルカディアのクローン素体
製造機関・・・」
いつものおどけたような態度とは違い真剣なまなざしでハルとガンツを交互に見つめる
ケン博士。
ガンツ「おうよ・・・素体ちゅうのが何を指しているのかはいまいちようわからんが・・・
クローン技術を悪用し非合法な解剖や生体実験を繰り返しているちゅう胸糞悪くて
反吐がでそうなところってんだ！！」
そう言い捨てるガンツの怒りは人を人とも思わないアルカディアのいやこの時代そのもの
歪な倫理観に向けられていた。
ケン「・・・・クローンラボで登録された遺伝子バンクから多くのデータがこの機関に横流し
されているという・・・解ってはいたんだがね、なんとなく彼が私の遺伝子情報から
造られた人間だという事は。」
ガンツ「だが、あいつがクローンであろうがそんな事は関係ねえ、あいつはおいらの立派な
愛弟子そっして息子だ。」
ガンツは顔を上げハル達を見つめると誇りを持ってそう言いきる。
ケン 「彼の遺伝子データを徹底的に調べたいという興味もありますが・・・・・・・はははっ
冗談ですよ冗談、科学の万能を信じていた昔ならいざ知らず・・・今の僕は彼を傷つける
ような野暮なまねはしたくはないからね・・・。」
もし他の人が今の言葉を口にしようものならガンツは殴りかかっていただろう。だがケンに
対してはつっけんどんに苦言を呈してはいるがあえて殴ろうとはしなかった。
ガンツ「おめえ、その言い方なんとかしろってんだ。いまいち信用がおけねえんってんだよ・・・
ルセロの野郎もどうしてお前と気が合うんだか。」
そして以後、二人はただ黙ってハル達の作業を見つめていた。
一方、別の入り口でもう一人ハルを見つめる人影があった。その人影に近づく一人の少女。
白い服を身に纏い黄金の石ののペンダントを身につけた朱色の髪の少女は穏やかな笑顔で
その人影に話し掛けた。
ライラ「ウォーレンさん・・・ハルさんの事が心配なのですか」
鋼の身体を持つウォーレンはただ無表情にそう答える。
ウォーレン「いえ、私には心配という人間的感情をおこすようなプログラムはまだされて
いません。ミス・ライラ」
照れ笑いを浮かべライラは手をもじもじさせる。
ライラ「ミス・ライラだなんて、そんな人間と接するような態度をしなくてもいいのになぁ。
あなたもそのセンサーで見えているんでしょう。私の構造が・・・ね☆」
ウォーレンのアイレンズが彼女の構造をレントゲン写真のように正確に観察していく。
ウォーレン「はい、あなたは軽量セラミックとステンレス合金で作られた骨格とプラスチックと
高度シリコン結晶で構成された神経系を人工皮膚で覆ったアンドロイドです。」
事実を述べながらウォーレンは考えていた。自分と同じ機械の集合体・・・。人を模して造られた
人形・・・。それなのに何故彼女はこうも人間らしいのか・・・。
彼女はそんなウォーレンの思考パターンを理解しているかのように微笑んだ。
ライラ「そう、あなたと同じアンドロイドよ。だからこそ判るの。あなたはマスターの事を
すごく大事に想っている。心の底から・・・。」
ウォーレンのＡＩの中で疑問と同時に微かなノイズがおきる。それでもウォーレンは無表情に
事実を述べる。
ウォーレン「確かに、私の行動原則の中にマスター並びに指示する人間の生命活動の保護も
含まれています。ですがそれはＡＩチップに収められたプログラムに起因する
ものであり、私に心はまだ組み込まれていないはずです。」
ライラ「あなたにそのプログラムをインプットしたのは誰なのですか・・・。」
その問いにはじめてウォーレンに戸惑いの表情が生まれた。
ウォーレン「・・・・私のマスター、ハル様です。」
ウォーレンに初めて生じた迷いを見てライラは自分の胸に手をあて優しげな眼差しでケンを
見つめる。
ライラ「ねえ、私はこう思うんです。プログラムは人が書き込むもの。そこにはいろんな想いが
込められているわ。望み、野心、探求心、そして時に優しさ、そういった人間の心の欠片が
私達には流れているはずよ。私にもケン兄さんの想いが託されているわ。」
ウォーレンは不思議と彼女の言う事が理解できそうな気がした。だがデータにはこのような事に
関するものはいくら検索しても出てこなかった。
ウォーレン「・・・・理解不能です。まだそれに対するデータが私にはありません。」
また無表情に戻るウォーレン、けれど以前として頭に微かに残るノイズは消えなかった。
ライラ「ただ気がついていないだけですよ。私もそれに回答出すのに何年も掛かったから・・・
今は答えは見つからないかもしれないけどメモリの片隅にでもいいから記憶しておいて
あなたはハルさんと同じ優しい心を持っているてね☆じゃあ私はこれから皆さんに紅茶を
持っていきますので」
ライラの言葉にしばし考え込むウォーレン、その間にライラはハル達に紅茶とお菓子を配っている。
ハル達と仲良く会話するライラを見てウォーレンは造られた時から求めていた答え（存在理由）の
手がかりを掴んだような気がした。
ウォーレン「あの・・・ミス・ライラ。私もお手伝いしてよろしいでしょうか。」
ライラ「ええ、よろこんで」
ウォーレンのぎこちないながらも自分で選んだ行動にライラやハルは笑顔で答えた。
タイラー達はここ数日シューソラン城に滞在していた。シューソラン城の近くに賢者の島があり
そこに収められている真実の書を謁見する儀式があるという。だがタイラー達はそこでなんの理由も
知らされること無くルオン副指令から武術の訓練を受ける事になったのだ。
アレス「いくぜ！！タイラー、ズィーピング！！」
アレスが手に持った大型の斧を振り上げ勢いよく横一文字に斬りつける。そこから衝撃波が巻き
起こりルオン目掛けて襲いかかる。
タイラー「そしてアクアンカトラス！！」
さらにその横を全力で駆け抜けるタイラーがガンツ製作の特殊ラコニアソードを振るうと表面の
特殊な電子フィールドが水分子の振動を抑制し水分を纏わせつかせた水の剣と化した！！
激しく迫る衝撃と水の流れをルオンは鋭く見つめると
ルオン「ふん、二つの技の合体技か！！確か着眼点はいい！！だが」
衝撃を紙一重で飛び越え交わしつつスライサーを投擲し、流れくる水をバータで凍らした。その間に
スライサーは放物線状の軌跡を残しタイラーとアレスの腹部を穿つ。その場に倒れこむタイラーと
アレス。
ルオン「まだ！詰めが甘い！！」
ルオンは倒れた二人に対し容赦ない罵倒を浴びせた。
ルオン「これではアルカディアとの決戦はおろか明日の賢者の島における聖典閲覧の儀にも
貴様らは耐え得るかどうか・・・・アイナ様もこんな奴らのどこが気に入られたのか」
ルオンの罵倒にアレスがついにキレタ。
アレス「何だと、黙って聞いてりゃいい気になりやがって！！」
ルオン「ほう、文句をいう元気はまだあるようだな！！よし、おまえの最大の一撃で掛かって来い！！」
アレス「いったな〜！！この野郎！！おいタイラーこの喧嘩止めるなよ！！」
売り言葉に買い言葉で一発触発状態のアレスとルオンだがタイラーはいつものようにアレスを
押さえることはしなかった。
タイラー「ああ、俺は見ているよ。ただ忠告だがルオンの動き、隅から隅までしかと見ておくんだぜ」
タイラーの忠告を聞いているのかいないのかアレスは勢いよく駆け出した。
アレス「へん、わかってるよ！！油断はしねえぜ！！最初から全力投球だあ！！」
アレスはさっきの技の数倍の力でルオン目掛けて斧を一刀両断に振り下ろした。周囲の地面が触れ
動くほど”剛の一撃”だがルオンは独特の足さばきで紙一重でかわす！
ルオン「なかなかの威力だ。だがこのように左斜めに足をずらし刃をかわしながら相手の右手を払い
そして・・・押し倒す！！」
ルオンの言う通りにアレスは地面に押し倒された。
ルオン「心を平静にし相手の力の流れを掴む！！アレスおまえにはまだそれが足りないようだな！！
明日までタイラーと練習をしておけ。でないと明日はとても持たないぞ！！」
しばらく何が起こったのかわからず茫然としていたアレスだがルオンが去った後大声を上げ
アレス「だー！！ちくしょう！！あの野郎いいたい放題いいやがって！！やってられるかよ」
地面に倒れこみそのまま拗ねてしまった。
タイラー「でも、おまえも心のどこかで納得しているんだろう戦闘のプロとして・・・。」
アレス「ち、ああその通りだ！！悔しいがあいつの動きには無駄が一切なかった。言っていることも
正しいだろうさ！！だーそれがむかつくんだよ！！」
身体では正しいと判るのに頭では認めたくないアレスはタイラーに愚痴をこぼす。
タイラー「そのむかむか俺との練習で発散したらどうだい。」
もう何年も付き合っているタイラーはこういう時の対処法をよく心得ていた。
アレスの癇癪を運動で発散させようというのだ。
アレス「・・・・言っとくが今の俺は手加減できねえぞ！！」
半ばタイラーのいつもの手に乗せられる事は気に食わないが少なくともここで不て腐れている
よりはましだった。両手に斧を取り戻したアレスがタイラーとの模擬戦闘に突入した。
お互いの刃がぶつかり合う音は夕暮れまで鳴りつづいた。
夜の帳が下りた中庭でタイラー寝転んでいた。
タイラー「はあ、はあ、さすがモタビアンマニアだぜ。あれだけ動いてまだ練習を続ける気か。
よっぽどさっきのルオンの言葉が悔しかったらしいなあ」
一方のアレスはまだまだ元気が有り余っているようで一心不乱に恒例の斧の振り下ろし練習を
続けていた。
アレス「１４５７・・・ふん、お前達パルマ人とは体の造りが違うんだよ！！・・・１４５８お前は部屋に
帰って寝てな。明日は早いんだしよ」
その時だった。アレスの耳元に微かに声が聞こえた。
謎の声”ふふふ、アレスお兄ちゃんも無理しちゃ駄目だよ”
アレスは咄嗟に声のする方に向き直ったがそこにはタイラー以外誰もいなかった。
アレス「！？おい・・・タイラー今なにか言ったか？」
タイラー「ああ？・・・どうしたんだ？」
と、タイラーが尋ねたその時アレスは柱の影に気配を感じ急いで飛び込んだ。
アレス「誰だ！！そこにいるのは！！っていないし・・・。」
大声でその気配に向かって叫んだアレスだったが柱の影には誰一人いなかった。
タイラー「おいおいしっかりしてくれよ。お前も疲れているんだ。さあ練習は終わり
もう寝ようぜ・・・。」
タイラーは半ば呆れながら寝室へと向かった。
アレス「あ・・・ああ・・・でも変だなあ。さっきの声、アレスお兄ちゃんって・・・・
ははは、まさかな・・・やっぱ疲れているらしいや。寝るしかねえな。」
アレスもぽりぽりと頭を掻きながらタイラーと一緒の寝室に向かう。
謎の声”お兄ちゃん達、明日必ず会おうね。”
青き月に照らされて、小さな可愛らしい影が浮かび上がる。その影は二人が寝室に着くまで
暖かく見守るとその場から姿を消した・・・。
第２０話 -終-
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