この物語はフィクションです。実際の人物・場所等は全く関係ありません。
ファンタシースターオンライン アリスちゃん奮戦記
プロローグ
増えすぎた人類が歴史の中で行い続けたものがある。
戦争という名の、人減らし。
しかし、近未来に於いて、その言葉は激減していった。
戦争というものが、最終的には自身もまた滅ぼしてしまうほどの力を着けてしまっていたから。
人は戦争を離れ、新たな人減らしの方法を探さなければならなかった。
「プロジェクト・パイオニア」は、そんな時に生まれた。
「プロジェクト・パイオニア」・・・
それは、人類の生息できそうな地球型惑星を捜索・移民するという、宇宙開発計画が初めて行われてからの最大の夢とも云って良かった。
しかし、天体望遠鏡の進化、数理工学の進歩による確率計算によっても地球型惑星の発見は・・・難しかった。
そこで「プロジェクト・パイオニア」は一つの賭に出る。
惑星を捜索・発見を主な任務とする「パイオニア１」船団。
民間人・行政府を輸送する「パイオニア２」船団。
・・・遙かな未来において、人は結局変わることが出来なかったのかも知れない。
この作戦は、地球型惑星を探しながら移民するという、非人道的な作業を行うものであった。
「プロジェクト・パイオニア」が発動されてからすでに百年近くが経過していた。
その時、奇跡が起こる。
パイオニア１より地球型惑星を発見・着陸したという報告が入る。
パイオニア２はただちに人材を派遣、地球型惑星の開発・調査を行わせた。
・・・地球型惑星は、発見した探査衛星の名を取って「ラグオル」と命名された。
それから７年後。
パイオニア２が惑星ラグオルに到着したとき。
・・・・・・・・・・・・・・・・
惑星ラグオル上において爆発事故発生。
繰り返す。パイオニア１は全滅した。直ちに非常用マニュアルに従い行動せよ。
繰り返す。惑星ラグオル上において・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・
パイオニア１よりの最後の通信。
パイオニア２は非常事態宣言を行う。
「早急に惑星ラグオルでの爆発事件の調査を行い、原因を究明せよ！」
・・・そして、これが全ての始まりだった。
エピソード１「ひとりで出来るもん！」
第１話 「どうして・・・？」
空から、黒い雨が降り注ぐ。昼間のはずなのに、空は真っ暗だった。
ガキッ！キィン！！
遠くで、戦っている音がする。二人の仲間のうちどっちかは気になったけど、今のあたしにそっちをみる余裕はなかった。
「はぁっ・・・」
吐く息が白い。雨のせいで、体温が下がってきていた。
あたし、アリスは自分の身の丈より大きい剣を携えていた。フォトンソード・・・そう呼ばれる武器は、現在のアーム・テクノロジー（武器開発技術）の申し子とも言える存在で、光子エネルギーをレーザーに変換し武器として運用するシステムだ。長い宇宙の旅の中で造られたそれは、軽量かつ十分な破壊力を有する。
あたしは、それを腰だめに構え、目の前の敵に集中する。
身の丈は３メートルに届こうか。腕はあたしの肩周りよりも太そうだった。
ヒルデベア・・・。目の前に映る巨大な猿のような敵は、網膜のナノマシンに表示されたエネミーカウンターにそう表示されていた。ここラグオルの「森」では何度も目撃されている、珍しくもないモンスターだ。で、正直言ってあたしは勝つ自信があった。
「でやぁぁぁぁ！」
雄叫びをあげつつ、あたしはヒルデベアに突進する！
ブォン！！
フォトン独特の振動音を響かせ、ソードはヒルデベアに突き刺さる！
グォォォォォォ・・・・・！
ヒルデベアは断末魔を漏らすと、巨体を大地に埋めた。
「やったぁ・・・！」
つい、あたしは喜んでしまった。
本当は、喜んでる暇なんか無かったのに。
「アリスちゃん、後ろ！」
「馬鹿野郎！後ろだ！」
だから、その声が仲間から飛んできたときは、もう遅かった。
「え？」
あたしは後ろを振り向く。あたしの後ろからは巨大な炎が襲ってきていた。
それが、「森」エリア最強のエネミー、ドラゴンの放つブレスだと気が付いたのは、ずっと後のことだった。
パイオニア２、メディカルセンター。
現在、惑星ラグオルの衛生軌道上を周回している星間輸送船団旗艦「パイオニア２」。その中にある、蘇生機構も完備の最新メディカルセンターである。
「・・・何考えてるの、あんたは！」
・・・あたしの蘇生が終了してＩＣＵ（集中治療室）から出てくると、真っ先にそんな怒声が静かな病院内に響き渡った。
蘇生といっても、ホントに死んだワケじゃない。ドラゴンのブレスを受けて、身体欠損率が４５％以上になったあたしは、強制的にここに転送されたのだ。この時代になっても、「死」は厳然として存在する。一瞬の迷いが即死に繋がる職業であれば、この方式はむしろ必要最低限のことだ。
でも・・・やっぱやだよ。ここに来るの。
そりゃまあ、死んじゃったのはあたしの所為なんだけど・・・
「聞いてるの！？アリス！！」
もう一度怒鳴られて、あたしは慌ててそっちの方に気を戻した。
あたしは、目の前の怒鳴りつけた二人の仲間のうち１人をそろっと見つめ、
] 「だってぇ・・・」
何とか言い訳しようとした。
「だって、何！？」
・・・何も言えません。敵を目の前にして、油断したあたしが悪いんだから。
あたしの目の前にいる仲間は「ハヤキ」。あたしの先輩で、現在Ｓランク・ハンターだ。
エメラルドグリーンの長い髪とブルーのスパッツに似た服が好対照の美人。
・・・で、今あたしを怒鳴りつけた人でもある。（これ、重要）
しばし、ハヤキはあたしを睨み付けていた。
「ごめんなさい・・・。」
やっと、あたしは絞り出すように言うことが出来た。
「・・・最初から素直に、そう言えばいいのよ。まったく・・・！」
ハヤキはまだ何か言いたそうだったが、そこに絶妙のタイミングで滑り込んだ者がいた。
「ま、その辺で許してやれや。なあ、アリス？」
こっちの男はレイモンド。容貌・性格共に説明不要の背の高い男だ。
何でかというと、金ラメの服を胸をはだけ、指という指に指輪をはめて、分厚いサングラスなんかかけて、あげくにアフロヘアー・・・もはや性格なんか聞かなくったってわかる。どんな容貌・性格だか予想が付きそうなモンであろう。ハヤキとはもう長い付き合いらしく、こちらもＳランク・ハンターだ。
「けど、レイ・・・！」
まだ、ハヤキは矛先を納めるつもりはなかったようだが、
「・・・美容に悪いぜ？」
という、レイモンドの一言で黙りこくった。
「助かったぁ・・・。」
誰にも聞こえないように呟いたつもりだったけど。
あたしがほっとしたのをみると、レイモンドはあたしにこう言った。
「だけどな、アリスちゃん。俺は紳士だからキツく言うつもりはないが・・・今のまんまじゃこの仕事出来ねえぞ。」
「え・・・？」
あたしは背中に冷水を浴びせられたような気分になった。
「ちょっと、レイ！」
ハヤキは察したのかもしれない。レイモンドが何を言おうとしているのかを。でも、遅かった。
「・・・今のうちにハッキリ言っておこう。足手まといだ。」
そう、レイモンドは最後通告のようにあたしに言ってくれた。
その後、ハヤキとレイモンドは二人で何か言い争いをしていたが、あたしは・・・何も聞こえていなかった。
第２話 「それなら・・・!」
「足手まとい、かぁ・・・」
そんなの、分かり切ってたことだ。あの二人はもうＳランクなのに、あたしはまだＤランク・・・比べる方がどうかしてる。
あたしは、パイオニア２のハンター居住区に割り当てられた宿舎のベッドで、１人落ち込んでいた。
あたしたちハンターズは、戦闘経験・戦歴などにより１００のレベル分けが成されている。レベル１〜２０までがＤランク。その次２０レベルごとにＣ・Ｂ・Ａランクに分けられており、最後の８０〜１００レベルの者がＳランクといわれている。こうしたレベル分けはあたしたちの体内に内蔵されたナノマシンが自動的に診断、パイオニア２のハンターギルドのメインコンピュータに登録される。（更に、ハンター・レンジャー・フォースといった業種分けや、１２種類のカラーパターンによる色分けなども行われているが、これは単純に分かり易くしているだけ。）
これに限らず、あたしたちハンターは体内に各種ナノマシンの定期注入が義務づけられている。それは、レーダー・転送装置の受信機・民間人への武器使用時の制約効果（民間人・味方等がロックオンできない）等に関わっているのだ。
ハンターギルドの歴史は、以外と長い。あたしたちの星間連絡船「パイオニア２」が出航する遙か前、とされている。昔も警察・国家の腐敗があって、民間人による自治防衛組織の必要が求められた時があった。そういったときに産まれた、と言うのが定説だけど、昔すぎて誰も覚えていない。
でも、そういうバックボーンがあったおかげか、あたしたちハンターズは警察のような仕事が多い。犯罪をしようとしても体内のナノマシンによる妨害が起こるせいで出来ない。このおかげであたしたちハンターズは民間の絶大な支援を持って現在まで存続しているのである。
で、現在は星間移動調査船「パイオニア１」が惑星ラグオル上で原因不明の失踪を遂げたことにより、ハンターズ全員を挙げて調査にラグオルに向かっているのである。
そんな、立派なおしごとしてるはずなのに・・・。
「はぁ〜ぁ・・・しばらく、立ち直れそうにないな、あたし・・・。」
むなしく独り言をいうと、あたしは毛布を頭からかぶった。
で、翌朝。
あたしは普段着の「レザースーツを無理矢理ナイフで切り裂いて動きやすくした服」を着て、外出した。
・・・普段着だってば。お願い信じて。
何でか知らないけど、あたし達ハンターの間じゃこんな服が流行ってるんだから。
あたしの宿舎から、歩いて数分。
西洋の神殿のような、時代がかった建物。
ハンターズの中では、フォースと呼ばれる職業の連中はまとめてここに住んでいる。
あたしは迷わずここに入っていった。
フォースとは、ハンターズの中ではもっともテクニックを使用するのに制約のない連中の俗称だ。あたし達ハンターズは体内のナノマシンにより、ある程度行動は制限されているが、それには理由がある。
ナノテクノロジー・バイオテクノロジーの発展により今まで未知の領域とされた脳神経系もまた、解明されつつあった。ナノマシンを脳の内部に注入することで、あたし達は特に訓練することなく戦闘行動・銃器など武器の取り扱いが出来るようになっている。そうすることにより、従来の訓練カリキュラムなんか組まなくたって「戦闘のプロ」が出来上がるようになっているんだ。
・・・たまーにあたしみたいなやつもいるけど。
まあ、そういうわけであたし達はよけいな勉強せずにすんでいるんだけど・・・実はこの方法、ある限界があった。それは、「脳が一時的に処理できる情報量には限りがある」ということなんだ。
ホントはハンターズ当局は「全ての武器が使えて、全てのテクニックを使えるオールラウンダー」を
造りたかったらしいけど、それをするには・・・脳細胞から作り直さなきゃならない。今の時代でも脳死はイコール死になっているから、それは人間の尊厳に挑戦することになってしまう。
それならば、可能な限りで分業を行えば良い、という話になって・・・
だから、あたし達ハンターズはハンター・レンジャー・フォースといった職業にわかれているんだ。
あたしは、宿舎内の女子部、目的の部屋まで来ると、ノックもせずドアを開ける。
「時雨（しぐれ）、いる？」
「・・・ノックぐらいしなさい、アリス。」
あたしが聞くと、すぐに不機嫌そうな声がした。
礼儀知らずだという無かれ。あたしは、自慢じゃないけどこいつとハンター研修中ずっとルームメイトだったんだから。
あたしが時雨と呼んだやつは・・・なんというか、緑だった。
ごめん、言い直す。今着ているゆったりしたドレスも緑色なら、髪の毛も緑なのだ。んで、口紅とか爪の色とか瞳の色も緑なもんだから・・・。
緑の人。そーゆー形容がぴったりくるヤツだ。・・・げ。あたしと同期なのに、こいつはもうＢランクでやんの。
「あんた、もうＢランク？すごいね」
あたしが控えめにいうと、
「・・・筆記試験だけでＣランクまではいけるでしょ？っていうか・・・あんた、なにしてんの？」
「う・・・」
・・・言えない。死にすぎでランク落ちしてるなんて・・・絶対に。
で、こいつにはもう一つ変なとこがあって・・・。
「ごめん、時雨。ちょっと相談があるんだけど。」
「にょ？」
・・・この、口癖だ。
時雨はこの「にょ」という言葉をこよなく愛用している。下手をすると、「にょ」だけで話せるくらいに。（まあ、相手方に理解があればだけど・・・）
こいつも、黙ってれば美人なんだけどなぁ・・・（・・・人のこと、言えないけどさ）。
「それで、どしたん？私で良けりゃ、相談ぐらいは乗ってやるけど？」
時雨ってヤツは、口うるさくて、緑が好きで、「にょ」だけど・・・でも、いいやつなんだよね〜。
だからあたしは、まっすぐここに来たのだ。一番の親友の所に。
あたしの話を聞くと、時雨は納得したようだ。
「・・・なるほど。それで、泣き寝入りね。」
あたしの要領の得ない話を要領よく聞いたらしい。時雨はあたしのその後の行動まで推理していた。（・・・推理ってほどじゃないけどね）
「んーと、ちょっと違う。」
それでも、あたしは恥ずかしかったのでちょっと反論。
「にょ？」
「まあ、悔しくて悔しくて・・・」
「よく眠れなかった？」
「ぐーぐー寝た。」
「逆でしょ、ねえ！」
・・・まあ、あたしと時雨は結構フィーリングが合うらしい。
しばし二人して笑った後、時雨が言った。
「・・・で、どーすんの？」
「うん・・・。」
しばし考えた後、あたしは言った。
「１人で、ドラゴン退治に行って来ようと思う。」
第３話 「それから・・・」
次の日はすごく晴れた青い空。ラグオルは今日も快晴だった。
「・・・で？」
そんな晴れた気持ちの良い日に、時雨は滅茶苦茶不満そうだ。
「ん？どしたの、時雨♪」
あたしは空が綺麗なので、鼻歌なんか吹きながら先頭を歩いていた。
現在、あたしと時雨はラグオルにやって来ていた。うん、太陽が気持ちいい♪
「・・・アリス。」
重々しく、時雨が言う。
「だから、な〜に？ 」
あたしは楽しそうに返す。
「・・・私の記憶が正しければ」
「うん」
「あんた、１人でドラゴン退治に行くとか言ってなかった？」
「うん、そーだよ？」
「・・・なのに」
「うん」
「なんで、私が同行しなきゃなんないの！？」
とうとう、たまりかねた様に時雨が叫んだ。
「なんでって」
あたしは、不思議そうにいう。
「時雨、ヒマそうだったから。」
「理由になってない！」
ぜーはーぜーはー。すーはーすーはー。
時雨は息を整え、改めてあたしに向き直った。
「・・・いい？アリス。あんたは自分が弱いから、強くなりたくてドラゴン退治に行くんでしょ？なのに、私に頼ってどうするの？」
時雨は、幼い子をあやすような口調であたしに言う。
「そりゃ〜、時雨。手伝って？」
・・・かわいく言えたつもりだったんだけどなぁ。なんで時雨怒って先に行っちゃったんだろ？
ラグオルには、あたし達ハンターズは転送装置で直接座標を選んで降りることが出来る。ハンターズでは、早い所ラグオルで起きた爆発事故の調査をしなければならないため、ある程度降りれる地域が限定されている。あたし達のハンターギルドの割り当てである「森」エリアは、それほど凶悪なエネミーは存在しない。むしろ、ラッピータイプとか、ほとんど無害なエネミーしか存在しないエリアでもある。それ以外のエネミーも野生動物に行動パターンが近いためか、近づいたり、お腹が空いてたりしなければどうということはない・・・はず。
そんな、簡単そうなエリアとはいえ、エネミーはエネミー。苦戦することだってある。
「・・・苦戦しすぎよ、アリス！」
「そんなこと言われても〜。」
・・・何度目かの回復系テクニック「リバーサー」をかけてもらって、あたしはちょと・・・にゃはは。（笑ってごまかしてる）
「リバーサー」っていうのは、回復系テクニックでも特殊なもので、脳震盪など気絶した場合に使われる。つまりぃ、
「何度倒れてりゃ、気が済むワケ・・・？」
・・・痛烈な突っ込み、ありがとう、時雨。
・・・ま、そう時雨がキレるのも無理もない。なんせあたしときたら「攻撃は食らう」「そのくせ逃げない」「あげくに仲間と離れる」・・・。
時雨がバンバン言ってくるのでようやくあたしにも解ってきた。
「そうか。あたしって戦い方がなってないんだ！」
「・・・お願いだから今更気がつかないでぇ・・・。」
なんだか時雨は心なしかやつれたように見えた。
「うん、時雨。今度はあたしが先頭に立つからね？」
「・・・全然解ってない、こいつ・・・。」
・・・確かに今まであたしが突っ込んでいってもエネミーはあたしを迂回して時雨の方に行くことがあり、結果としてそこが前線になることがあった。
「そういうこともあるんだよね、うん。」
あたしが万感の思いを込めて１人頷いてると、
「・・・何を納得してるんだか知らないけど、お願いだからこっちの言うことも少しは聞いて・・・。」
・・・心底うんざりした様子で時雨は言った。
時雨の疲労が激しかったので、休憩することにした。
「・・・誰のせい！？」
ま、時雨はカリカリしてたけど。ま、あたしとつき合ってると、時雨いつもカリカリしてるし。いつものことだ。（←自覚無し・・・）
今日のお昼はハンバーグサンド。あたしお手製である。
時雨は何も言わず、一つ取ると口に放り込んだ。あたしも一つ取って、ちぎって食べる。
遠くで鳥の声が聞こえる。サワサワと音を立てて草が揺れ、風があたしの髪と木々をなびかせた。
「・・・なんで？」
ややあって、時雨が言った。
「・・・まずかった？サンドイッチ。」
「そーじゃなくて。なんだってあんたみたいなやつがこんな物騒な仕事をしてるの？」
「ん？」
「・・・私はもっとテクニックの修行がしたかったから選んだだけだけど、あんたならもっと適職があったはずでしょ？・・・なんでかな、って思ってね。」
テクニックの修行。それはほとんどのフォースが第２の目標にしているものだ。テクニックとはこれまた旧世代から存在する、いわゆる超能力とか魔法とか呼ばれているものだ。どういった原理でとか、どうしてそうなるとか存在についての謎は全く解明されてないが（まあ、それは万物が存在する理由と同じことだから解明不能だとは思うけど）、それでも何百・何千年も使われてきただけあって、システムを利用した解析とかは進み、更に使いやすくなってきている。ハンターズの中でもっともフォースが得意とする戦術だ。
時雨は確かにもっとテクニックの修行がしたかったから、この業界を選んだんだろう。 でも、あたしは・・・。
あたしが黙り込んだのを見て取ったのか。
「・・・言いたくないなら、言わなくていい。」
時雨は優しく言う。あたしは黙って首を振った。
「・・・馬鹿みたいな理由。”赤い輪のリコ”。・・・知ってる？」
「知ってるも何も、有名人じゃないか！」
”赤い輪のリコ”。その名を知らぬものは居ないとされる、全ハンターズ併せても並ぶものの居ない、最高のハンター。
「・・・あたしね、あの人と会ったことあるんだ。」
「にょ！？」
「・・・その時ね、少しだけお話ししたんだよ。なんで、１人で怖いことが出来るのかって。そしたら、なんて答えたと思う？」
「にょ」
あたしは、いつだって心の中に有る言葉を言った。
「”いつだって自分は弱いけど、だからといって弱さに甘えたくは無い。きっとそれは自分が一番辛いことだから。”」
「にょ・・・」
時雨は、分かったのか分からないような顔をしていた。
あたしは、何となく笑っていた。
「そんな理由だよ、あたしがこの仕事やってる動機は。」
ザアッ・・・
風が吹き抜け、木々が揺らめいた。
そこからちょっと離れた所。
「・・・のどかだねぇ。」
木に寄りかかって、大柄なアフロの男が呟く。
「うふふ・・・そうね。あの子たち、ここがどこだか本当に解ってるのかしら？」
木の枝に腰を掛けて、エメラルドグリーンの髪をなびかせた女が答える。
そういう二人の声も、平穏そのものだ。
だが、この二人の場合はちょっと違う。なにせ、このあたりのエネミーは全て掃討してしまったのだから。
完全に安全を確保した上で休息を取る。歴戦の凄味を何気なく感じさせる。
レイモンドとハヤキはアリス達のレーダーに映らない地点から、アリス達を見ていた。
「でも、何とかやってるみたいね。多少危なっかしいけど。・・・私達と居るときより、生き生きしているみたい。」
「・・・そりゃそうだろうさ。」
「え？」
なぜか、確信に満ちた声でレイモンド。ハヤキはその意味がわからず、思わず聞き返す。
「・・・ハンターって人種はな、どうしようもなく冒険が好きなんだよ。俺も、つい最近そのことがわかった。」
「・・・。」
「最初は栄光や金のため、家族のためとかいろいろ思ってたが・・・違うんだよ。ある日、何不自由なく幸せになったときに気付く。自分の居場所が、何処だったのか。」
「・・・。」
「・・・アリスも、そうなのかも知れねぇ。その証拠に、あいつは危険になるほど生き生きととしてきやがる。」
「そういえば・・・」
アリスが死んだあの時。あの時は乱戦になって、二人ともアリスを守ることが出来なくなっていた。その時アリスは、それまで怖がっていたヒルデベアに、１人で突っ込んでいった。しかも、正確に急所を狙って。
正直、それまでのアリスを見ていた二人には信じられない光景だった。
「・・・だとすれば、アリスが強くなるために俺たちは邪魔だ。あいつは、おそらく追い詰められない限り強くなれねぇ。・・・だから」
「・・・アリスにキツい事言って追い出したのね・・・。」
「ああ・・・」
そういうレイモンドの顔は、辛そうだった。だが、次の瞬間、
「ま、あいつがこれで潰れるようなら始めっからこの仕事に向いてねーよ。そいつは確かなことさ！」
と、努めて明るく言うレイモンドにやっとハヤキはクスッと笑い、
「がんばれ、アリスちゃん。」
そう言った。
第４話 「それからそれから♪」
「森」エリアは外周が「パイオニア１」の植林技術によって生み出された森林地帯で構成されている。森林地帯といっても、うっそうとしているとかそういうことはなく、むしろ自然公園のような様相だ。しかし、「森」エリア中心部にある「セントラルドーム」に近づくと、その様相は一変する。正体不明の爆発事故により、生命反応が消失したセントラルドーム。そこは、文字通り廃墟だった。
「いつ来ても、ひどいもんね・・・。」
「にょ・・・。」
アリスと時雨は、セントラルドームの外周にたどり着いていた。
昼なお暗い空は、爆発事故の影響か。未だにセントラルドームから流出する化学薬品により、付近には黒い雨が降り続く。その様は廃墟と相まって見るものに地獄を思い起こさせた。
アリスにとっては、昨日も見た光景。そして、昨日自分が「死」んだ場所。
ぶるっと鳥肌が立つ。
その様子を見て取ったのか。
「・・・アリス、落ち着いていこ？。なぁに、ここまでくればドラゴンはすぐそこよ。」
「ん」
時雨が努めて明るく言ってくれたのが嬉しかった。
でさあ、問題のドラゴンなんだけど。
実のところ、全然倒す方法なんて考えて無かったんだよね〜。
どうしようか？
・・・そう言ったら時雨に殴られました。ひんひん。
「・・・作戦を説明するわよ。」
時雨は、ライトペンとマップを出し、あたしに説明しだした。
「ん！」
あたしは、本人にしては気合いを入れた（つもり）の返事をする。
それは無視して続ける時雨。
「まずは、ドラゴンの現在位置。マップを見てみると・・・ここね。」
時雨の指した場所は、セントラルドームの北側。大きな谷のある所だった。
「ここに、ドラゴンが多数存在している。ここから奴らは翼で飛んでくる。行動範囲はおおよそ１００キロ近くまで。・・・まあセントラルドーム近くは間違いなく奴らの狩り場ね。」
言いながらセントラルドームの周りを丸く描くようにライトペンを走らせる時雨。
「・・・この辺りだと、いつ攻撃が来るかも分からないって事だよね。」
あたしは背中に走る悪寒を必死に隠し、時雨に答える。
「そうね。・・・でも、私は何時来るかも分からない攻撃を待ってるなんて非経済的なことはやる気はないわよ。」
あたしの恐怖は何処吹く風。時雨は落ち着き払っていた。
「じゃあ”谷”まで行って戦うの・・・？」
それだけはやだなーとあたし。
ちっちっと時雨は指を立てて「違う」のサインを出す。
「少し落ち着きなさい。・・・それは歴戦の勇者の戦い方よ。」
「？・・・じゃあ、どーすんの？」
さすがに時雨の言いたいことがわからない。あたしは、時雨をちらっと見つめた。
「アリス。あんたの死んだときの状況を覚えている？」
「そりゃあ・・・」
やな事聞くなぁ、時雨。しかし時雨は構わず、
「あんたの死んだ状況は、ハンターギルドで確かめてきた。それによるとキャンプの最中エネミー「ヒルデベア」と「ブーマ」に襲われたそうね。違う？」
「・・・そーだよ。」
あたしは不機嫌に言い放った。
「ヒルデベア」はあたしと戦った大きな猿のような化け物。「ブーマ」は、モグラ型の動物が進化したものか、２足歩行型のエネミーで普段は地中に潜っている。手の鈎爪で殴りかかってくるのが主な攻撃方法だ。性格はどちらも温厚な筈なんだけど・・・
ま、それはともかく。
「もうちょっと我慢して、ここからが本題なんだから。・・・キャンプの際、あんたはある失敗をしたそうね？」
「え？」
失敗？何のことだろ・・・
時雨は全てわかっているかのように言う。
「・・・ほら、敵と遭遇するまで、ハヤキにさんざん叱られたんでしょ？」
「ああ〜〜〜！？」
思い出した！確かにあの時ハヤキに叱られ・・・ってそうじゃなくて！
「トリメイトを火の中に入れちゃったんだ！」
「にょおおおおおおおお〜〜〜〜〜！（当たりぃぃぃ〜〜〜〜〜！）」
時雨は嬉しそうに叫んだ。・・・そーいう意味なんだって。時雨曰く。
まあ、それはともかく説明しちゃおう。メイト系のアイテムはカプセルサイズの錠剤だ。風邪薬とか栄養剤とかを想像してもらえば分かり易いだろう。で、メイト系のアイテムは、ナノテクノロジーとバイオテクノロジーの集合体だ。それ一粒補給するだけでタンパク質・ビタミン・鉄分などの各種栄養素、更に身陳代謝の強化・・・そうしたことをすべてやってのける、この時代の大当たり商品なんだ。軍隊はもとより、ハンターズや医者・民間人に至るまでこの薬に頼らない人は居ない。・・・服用しすぎると太るけどね。
ところが、ハンターズが地上に降りるようになってとんでもないことがわかった。なんと、メイト系アイテムを燃やすと、二酸化炭素・水素と化学反応を起こし強烈なニオイを発生することがわかったんだ。そのニオイの強さは、モノメイト・ディメイト・トリメイトと上がっていく度に強くなっていく。最強のトリメイトに至っては２ＫＭ先までニオイが届いたという、悲しい伝説まで存在するんだ。
・・・いや、今こんな事こぶし握って力説してるあたし達の方がよっぽど悲しい存在だけど・・・。一応あたし達、女の子なのに。
「・・・で、それがなんなの？」
興奮が冷めてくると、あたしは唐突に恥ずかしくなったので、つっけんどんに時雨に言う。
しかし、時雨の興奮は止まらない。
「しかし、私はここに一つの仮説を見いだした！それは、メイト系アイテムの燃えたときに出すニオイが、ドラゴンの好物ではないかと！」
「・・・はぁ？？」
「つまり！この場でトリメイトを焼けば、ドラゴンをおびき出すことが可能なのよ！」
「・・・はぁ・・・。」
・・・ついていけないノリだなぁ・・・さすが、知識の全般をテクニック系に費やしてるだけのことはある。突っ走りまくり。
「そしてぇ！」
「ん〜」
もーなんか、適当な返事してるし。あたし。
「この場所にトラップを仕掛けておけば、ドラゴンをノーダメージで倒すことすら可能なはずよ！！」
・・・ほんとかなぁ・・・
でも、本気だとしたら・・・うーん、邪悪だ。
なんかあたしも、最初の目的なんか忘れてるし。・・・えっへっへ〜。（←笑ってごまかしている）
あれ？
ふと、あたしは重要なことに気が付いた。
「・・・でも、時雨。」
「あーはっはっは！燃えてきたぁ！！」
・・・聞いちゃいないし。
「しぐれしぐれ」
それでも、言わなきゃわかんないだろーしなぁ・・・。
「なに！？いま私は世紀の実験に立ち会おうとしているのよ！」
うわ、無茶苦茶燃えてる。
「いや、邪魔する気なんか無いけど・・・」
「・・・にょ？」
ようやく時雨はバックに背負った爆発だのカミナリだのを脇に置いて、あたしに向き直った。
「・・・トラップ、誰が仕掛けるの？」
ことわっとくけど、あたしも時雨もトラップなんて専門外。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・しーん。
・・・時雨、あんた間違いなくあたしの親友だ・・・。
その日の夜。
「おばんでやすぅ〜。」
うーん、携帯メールって便利、便利。
・・・結局あたし達は相談の末、ハンターギルドに増援を依頼した。で、やって来たのは・・・
「おおおおおお！おなごじゃあ！良かったわぁ、最近むっさいオヤジ共の仕事っきゃ受けとらんかったからな〜。神様、感謝じゃ！」
・・・うるさい事この上ない。
ハンターズって・・・実は変人の集まりなんじゃぁ・・・。
ようやく感涙（？）にむせび泣く（アンドロイドなのに・・・）増援をなだめ、依頼の話をしたあたりで彼はプロの顔になった。
彼は、レンジャーのハクリ。Ａランクレンジャーだ。プロの傭兵にして、爆発物の専門家（なのに、何で履歴書の職業欄に家事手伝い・・・？）。彼は、戦争で体を失い、以来アンドロイドとしての生活を余儀なくされた。・・・話だけ聞くとヘビーなんだけど・・・
「アリスちゅわ〜ん♪」
「あああああああああああああああああああああああ！」
・・・ギャップがぁ！しまいにゃ頭かきむしるぞ、あたしは！
ちなみに、時雨はあたしの方を見ようともせず、お茶なんか飲んでたりする。
「くぉら！現実逃避すんなぁ！」
「にょ〜（あ〜、お茶がうまい）」
「よぉし！今夜は飲むでぇぇ！！」
「ちがうぅぅぅぅ！！」
「にょおおおおおおお〜〜〜〜〜（意味不明）」
・・・結局、飲み会やりました。とほほ・・・。
ちなみに、そこからちょっと離れた場所。
「おい・・・飲み会やっとるぞ・・・？」
「・・・頭痛いから話しかけないで・・・。」
・・・保護者二人は大変心配したそーな。
「で・・・作戦を説明するわ。」
「ん」
「よっしゃ」
狂乱の一夜が明けて。時雨がマップを取り出し、説明を始めると・・・やはりハクリはプロの顔になって一心に説明を聞いていた。
二人の話は、トラップとかの話になると、
「爆発効果を考えると・・・」
「いんや、ここに置いた方が・・・」
「そこだとバックドラフトが・・・」
「いんや、粉塵爆発を起こすにはここの方が・・・」
・・・ついていけませーん。
終始、あたしは置いてけぼりだったけど。
それでも、みんなで何かをするって楽しい♪
お昼過ぎには全てが決まって、後は決戦だけになった。
では、改めて作戦の説明。
まず、廃墟のビル街にドラゴンをおびき出す。（これはトリメイトで行う。）
次に、ビル街に仕込んだトラップにより、挟み込む形で爆発トラップを使用。トラップはファイアドラゴン用に氷系の「フリーズマイン」を使用する。これは、名前こそマインだが空間設置型のトラップで、爆風も炎系の「ファイアマイン」に勝るとも劣らない。
更にこの時、フリーズマインの余波でビルを倒壊、ドラゴンを押しつぶす。
この辺り一帯のビルにトラップは仕掛けておくので、ドラゴンが何処に来ても問題はない。むしろ、歩き回ってくれればすぐに片が付く。
これが、「ドラゴン退治作戦」の全容。
・・・なんだかなぁ。
全ての仕掛けを終えて、あたしと時雨の元にハクリが戻ってきたのはちょうどお昼過ぎだった。
「どうだった？」
そう時雨が聞くと、
「もち。ばっちりや♪」
嬉しそうにハクリは答えた。
「あとは、ホントにトリメイトで寄ってくるかだよね・・・。」
あたしは、まだ半信半疑だった。
「にょ」
時雨もそうらしい。が、彼女は胸を張って前を見ていた。
「そろそろトリメイトに引火するでぇ・・・」
ハクリの網膜に表示されているストップウォッチがゼロに近づく。
「・・・３・・・２・・・１・・・０！」
ボォン。
向こうの方で軽い音がする。狼煙のような煙と共に、すごいニオイが襲ってきた。
「目にしみる〜！」
・・・一応、鼻と口だけでもマスクしといて良かった。
それと共に、エネミー達の叫び声がが風に乗って飛来する。
あたしは、手にした大剣を握りなおした。
まず、ウルフ達がやって来た。
あいつらは複数で常に行動していて、「森」エリアでも動きは速い部類に入る。
かって、あたし達の住んでいた地球型惑星に生息していたといわれるサーベルタイガー。それの形状に非常に良く似ている。でも呼び名はウルフだけど。
あたし達は、ウルフ達に向かって突進した。下手にビル街に行かれては、トラップが無駄になってしまう。あたし達の今の役目は、ドラゴンが来るまでトラップを死守する事なのだ。
最初に来たウルフ達は、４体。
「ＧＯ！、アリス！」
「ん！」
時雨が待ちに待った合図をくれた。あたしは一気に物陰から躍り出、ウルフ達に突撃する。
あたしが走り出すと、後ろから不思議な波動が来た。軽い浮游感。
時雨が、強化系のテクニックを使ってくれたのだ。
「ありがとー♪」
あたしは時雨に一言お礼を言うと、後も見ずにウルフに肉薄した！
「でぇりゃぁぁぁぁ！」
手にした大剣を横薙ぎに一閃！
ギョワァァァ！
一降りで２体のウルフの首が吹き飛んだ！
・・・みんな、あたしのことを弱いと思っていると思うけど、必ずしもそうではない。
ニューマンという言葉がある。それは、長い宇宙生活に適応するために産まれた、バイオテクノロジーによる強化を受けた人種だ。先天性に虚弱だった人が主に強化されたために、新たな人種差別も産まれたりしたが、今ではだいたいのところでニューマンは受け入れられている。
そして、あたしはニューマンなのだ。ニューマンの女性ハンターは、コミックなどで有名になった女性の英雄の名前「ハニュエール」と呼ばれることが多い。だから、
「走っているウルフに追いつくことだって！」
・・・できちゃうんだなー、これが。
基本身体能力があたし達ハニュエールはすごく高い。こんな事くらい、朝飯前！
そのまま２回、振り回す。
一匹は胴体、もう一匹は正面から叩き斬る！
「アリスはん、新手や！」
ほかの場所を警戒しているハクリから、注意が飛ぶ。
ハクリとの契約はトラップを仕掛けてもらうだけだったんだけど。
「いんや、最後まで見ていきまっせ。」
そう言って残ってくれた。後で時雨に聞くと、プロってそういうものらしい。自分の仕掛けたトラップの成果を見るまでは落ち着かないんだそーで。
でも、今回はハクリが居てくれるおかげで、時雨のそばを離れる事が出来る。
次に来たのはブーマ。これまた多数で動くやっかいなエネミーだ。
しかし！
ハクリのショットガンが、時雨の氷系テクニック「バータ」が火を噴く！
たちまちのうちに陣形が乱れた。そこにあたしが突っ込む！
・・・あたしの動きが止まったとき、動いているものはもうそこに居なかった。
見たか。あたしだって調子に乗れば結構強いのだ。
・・・そして、奴がやってきた。
第５話 「それからどうした？」
「・・・来た・・・！」
あたしは叫んでいた。
「ドラゴン！」
最後のエネミーを倒してから３０秒？いや、もっとだろうか。
とにかく、すぐにやつは現れた。
「来やがったでぇ！」
「にょ！」
「ん！」
体が震えるのがわかる。怖いんじゃない、武者震いだ。
ドラゴンは、あの時会った巨体で滑るように空を飛び、トリメイトの狼煙の方に向かっていった。ドラゴンの放つソニックブームで土砂が巻き上げられる。
「このぉ・・・！」
あたしは風に煽られ、慌てて物陰に隠れた。
すると、時雨からメールが来てた。
「？」
何かあったのかと、あわてて網膜のディスプレイ上のメールを開く。
「よぉし！学説発見！！」
がく。
気合いが抜けた・・・。そんなことやってる場合じゃないと思うんですけど・・・。
ドラゴンはその巨体を器用に動かし、ビル街の間をすり抜けていく。他のものに全く気にせずまっすぐにトリメイトに向かっていくさまは、時雨大喜びしてるんだろーなー。
ドラゴンが着地したと思えたときか。
ズドォォォォォン！
その時、ドラゴンの両脇にあるビルから爆発音がした！
ギャオオオオオオオオ！
ドラゴンが咆哮を上げる！！
「やったでぇ！」
ハクリが、快哉を挙げた。
ドラゴンは首を左右に振って瓦礫をどかそうとするが、ビルそのものが倒れてきてしまってはどうしようもない。
トラップは順調に作動し、ドラゴンはあっという間にビル壁に埋まっていった。
これでは、いかにドラゴンでもたまったものではないだろう。
「すごい・・・！」
こんなにうまく決まるものなのか。あたしは、ハクリが歴戦の傭兵だということを改めて思い知らされた。
「にょおおおおおお〜〜〜〜〜〜（喜んでいるらしい・・・）」
向こうで時雨の鳴き声（！？）が聞こえる。二人とも結果を見ようと、物陰から出てきたようだ。
「やったぁ・・・」
あたしも、出ていこうとした。その瞬間！
ズドオオオオオオオ！
ドラゴンの埋まった瓦礫がものすごい勢いで・・・へこんだ？
「え？」
あたし達は忘れていたのだ。ドラゴンが地中に潜る習性があるということを。
ものすごい大音響を上げてドラゴンが地中を進む。
「うそ・・・！」
こんなの詐欺だー！
あたしの方にはこなかったが・・・
ドラゴンは、まっすぐ時雨とハクリに向かっていく！
まさか・・・さっきの瓦礫の中からあたし達のことが・・・見えていた！？
「時雨！ハクリ！」
あたしは叫んでビル陰から飛び出したが・・・
、ドラゴンは時雨とハクリのいたあたりの大地を突き破って現れた！
視界を、土砂が埋め尽くす。
土砂は、しばらくするとある形を取った。
ドラゴン。それが今、あたしの目の前にいる。
「う・・・わ・・・」
改めてみるドラゴンは巨大。その一言だった。
かちかちと、音がする。自分の歯が恐怖で打ち合わされる音だと気が付いたのは後のことだ。
ぎろりと、ドラゴンが・・・あたしを見た。
ギャオオオオオオ！
ドラゴンが叫び、あたしの方に向かって来た。
ようやくあたしは、自分が攻撃目標にされたと思い当たる。
「・・・・・・・・！」
真の恐怖に、声なんかでない。あたしは、恐怖で縛り付けられた足を引きずって逃げ出した。
後ろから、ズシンズシンと音を立てて、ドラゴンが追ってくる！
あたしは、恐怖に駆られ、必死で走っていた。
はあ、はあと息を吐きながら走る。ハンター研修でやったランニング法なんて、今のあたしの頭には無かった。
・・・早くここから逃げ出したい！
ただ、それだけを願って。
ギャオオオオオオ！
ドラゴンがまた叫ぶ！
「今度は何！？」
あたしの声はもう、涙声だ。
気が付くと、あたしは泣いていた。
もっとも、ドラゴンが構ってくれるなんて事はない。
ドラゴンは、鎌首を持ち上げ・・・まさか！？
「ブレス！？」
その、まさかだった。
「ちょっとだけ待って、お願い！ね？」
・・・待ってくれるわけはない。
あたしは必死で左右を見回す。ビルの間に隙間がある！
あたしはそこに飛び込んだ。
・・・爆風のような衝撃があたしの背中を打つ。
ゴオオオオォォォォォ！
すぐ後ろはブリザードだった。ドラゴンのブレスは、圧倒的なその破壊力でビルをなぎ倒していく。
ハクリのトラップが発動していたが、それはドラゴンが直接食らっても影響がないように見えた。
「なんで・・・？」
その余波で吹っ飛ばされていたあたしは、ようやく起きあがることが出来た。
その時、あたしはやっと気が付いた。
あのドラゴンは青い。
「シルドラゴン・・・！」
シルドラゴン。ファイアドラゴンに比べて圧倒的に生息数は少ないが、その強さはファイアドラゴンを凌ぐ、凶悪なエネミーだ。
昔、ハヤキに教えてもらったことがある。厳しい自然環境の中で生まれる、そういう突然変異型エネミーは圧倒的に強い、と。
「何だって、あんなのが来ちゃったのよ！？」
突然変異型エネミーは何処にでも存在する可能性がある。会えるのは相当不幸な人だと、ハヤキは笑いながら教えてくれた。
「そんな事言ったって・・・！」
そんな不幸、ほしくなかったよぉ・・・。
ふと、あたしははっと気が付いた。
「時雨、ハクリ無事！？」
あたしは耳に内蔵されている通信機に叫ぶ。
通信機に、返事はない。
「時雨！ハクリ！お願いだから、返事をしてよ！」
レーダーには時雨とハクリの位置が表示されている。その位置は、ドラゴンと重なっていた。
「しぐれぇ、ハクリ・・・」
向こうからの返事はない。
「もう、いやぁ・・・」
・・・なんだか、嫌になった。さっきまでみんなで喜んでいたのに・・・。
「なんでこうなっちゃうのよ・・・」
そういえば、いつもこんな目に会っていた。あたしは一生懸命やっていても、それが報われるのは全然無いのに。
いつの間にかあたしは・・・しゃがみこんでいた。
止め処なく涙が溢れる。あたしは・・・レイモンドに言われたとおり、ハンター失格だった。
あたしは、自分が嫌だった。人に頼りっきりの自分が嫌だった。でも、誰かに頼るのは・・・好きだった。安心出来るから。
ドシン、ドシンと音を立ててドラゴンが歩き回る。
・・・あたしを捜しているんだ・・・。
そう思えたけれど、不思議と力が出ない。
この空の下で、今あたしはひとりぼっちだった。
第６話 「だから・・・！」
・・・１人は嫌。寂しい。どうして、あたしを１人にするの？
こういうのが走馬燈というのか。
あたしは、昔のことを思い出していた。
あたしがまだ小さい子供だった頃、パイオニア２で爆発事故が起こった。
パイオニア１が新天地「ラグオル」を発見してすぐ起こったこの事故は、当時ジャーナリスト達がこぞってテロリストの可能性を示唆していたが、あたしにとってはどうでもいいことだった。
あの時、パイオニア２では爆発に際し、防災コンピュータが故障、各地域の全ての隔壁が閉鎖されると言うことが起こった。
目の前で閉まった隔壁、そして隔壁の向こうで起こった爆発。隔壁の向こうにいた両親の生死は・・・。
考えるだけで・・・嫌になる。
あの後、隔壁に閉じこめられたあたしは・・・１人でしゃがみ込んでいた。たまに体をひっかいて、自分が生きていることを確認すること以外、することがなかった。
「・・・誰か・・・助けて・・・。」
泣きながら、何度も繰り返す。
何度も、何度も。
それは、痛切な願いだった。
・・・そんな時だ。”赤い輪のリコ”に出会ったのは。
リコは、被災者の救助を他のハンター達と手伝っていたらしい。
一方の隔壁をセイバーで切り落とし、あたしのところに来てくれた。
「・・・大丈夫？立てる？」
・・・最初にそう言われたときに、あたしはそれが現実のこととは思えなかった。
「・・・かみさま？」
そう、確かあたしは言ったと思う。
「んー、ちょっと違うかな？」
そう言われて、リコは確かに微笑んでいた。
「・・・じゃあ、てんしさま？」
リコはくすくす笑って、
「違うよ。天使は白い輪を持っているでしょ？あたしは、赤い輪しか持ってないのよ。天使様じゃないの。」
「・・・じゃあ、なにしにきたの？あたしは、パパやママにあいたいの・・・。」
・・・今思えば、あたしは精神崩壊一歩手前だったんだと思う。
でも、リコは・・・優しく微笑んでくれた。
「そうね・・・私も、会いたいわ。」
リコは、あたしの隣に座る。
「でもね・・・」
リコは、謎めいた言葉をくれた。
その時の言葉は・・・忘れることが出来ない。
”いつだって自分は弱いけど、だからといって弱さに甘えたくは無い。きっとそれは自分が一番辛いことだから。”
ふと、浮かぶ言葉。
”いつだって自分は弱い”
弱い。あたしは。誰かに頼って、１人になりたくなくて。でも、リコは・・・。
何度も何度もリフレインする言葉。
”だからといって弱さに甘えたくは無い。”
・・・どうして？
甘えれば、楽が出来るのに。そうすれば、楽しかったのに。
ハヤキがいて、レイモンドがいて、時雨がいて、ハクリもいて・・・楽しいことばかりのはずなのに。
どうして、甘えちゃいけないの？
”きっとそれは、自分が一番辛いことだから。”
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・辛い？
「辛い・・・？」
あたしは、確かにそういっていた。現実と夢の区別が付かなくなっていたのか。
手は、力無く大剣を掴んでいた。
ドラゴンは、刻一刻と迫ってきている。
「辛いよ・・・確かに。」
なぜだろう。
ふと、あたしの中で何かが変わりつつあった。
それが何かはわからないけれど、ただそれはとても強く。
あたしは、誰かに聞かせるように呟く。
「このまま、死ぬのは・・・辛いよ。」
あたしは、ゆらりと立ち上がった。何か、体の奥の確かな力を感じて。
「・・・このまま、死ぬのは・・・」
手に、力がこもる。
あの時、リコの服を掴んだ時のように。
「・・・あの時の隔壁の中に戻ることと同じ事なんだから・・・！」
眼に、光が灯る。
涙に濡れながらも、強く、激しく。
「負けるもんか・・・」
ドラゴンが、大きく息を吸い込む。・・・ブレス！
「ぜーったい、負けてやらないんだから！」
あたしは、持てる限りの強さで叫んだ！
ブレスが、発射される！
その時、一陣の風が吹いた。
目の前が、氷だけになる。
「・・・あれ？」
・・・目を開けると、あたしはまだ・・・生きていた。
？・・・はて？
「ＨＡＨＡＨＡ！」
・・・とーとつに明るいアメリカンで笑い声が聞こえる。この声は・・・？
「・・・レイモンド！」
「Ｙｅｓ！」
目の前にいたのは・・・背の高いアフロ、レイモンドだった！
そうか・・・レイモンドが盾になって、ブレスから守ってくれたんだ！
「いょ〜し！よく立ち上がった、アリス！」
「レイだぁ！！」
あたしはまだ、目の前のことが信じられなかった。
「よく頑張ったわね、アリスちゃん。」
ハヤキもいる！・・・でも、どこに？
目にみえるところにハヤキは居ない。声は通信なのはわかるけど・・・。
「よいしょっ、と・・・。アリスちゃん？時雨とハクリ、二人とも生きてるわよ！」
「ええっ！？」
もー、あたしは驚きっぱなし。
「気絶してただけよ。命に別状はないわ。」
「よし！でかした！」
レイモンドは、ドラゴンに向き直った。
「・・・よく、見てろよアリス。天才のお手本だ。」
そう言うが早いか。
レイモンドはドラゴンに向かった！
速い！
「そして・・・こいつはアリス達の一撃だ！」
レイモンドの武器は、ハルベルト系。それが、まるで吸い込まれるようにドラゴンの首にめり込み、たやすく切断した。
「いたたたた・・・。」
もーぼろぼろ。
あたし達（アリス・時雨・ハクリ・レイモンド）はそろってハヤキに回復してもらっていた。
「我慢なさいな。・・・すぐ終わるから。」
その言葉通り、あたし達の傷はすぐにふさがっていった。
やっぱすごいなー。ハヤキの回復テクニック。
みるみる全快だもんね。
あたし達は、そろってパイオニア２のメディカルセンターに戻ってきていた。それならとっとと医者に行けと言う人がいるかも知れないが。
「・・・ハクリの治療、後１時間はかかるって。」
そう、ハヤキが教えてくれた。なんでも、崩れてきた瓦礫から時雨をかばったせいで大破していたらしい。応急処置くらいなら出来たのだが、何せ相手はメカである。
「ま、アンドロイドなんて何が原因でぶっこわれるか知れたもんじゃねーからな！」
レイモンドは、この場にハクリがいたらやばそーな事を平気で言っている。・・・知らないぞ、あたしは。
「・・・でも、今回は二人ともよく頑張ったわね。」
ハヤキが、あたしと時雨にそう言ってくれた。
「でも、結局助けてもらったし・・・」
不満そうなのは時雨だ。なにせ、助けてもらいっぱなし。
「まあまあ。まずは、ハンターランキング確認してみなさい？」
「？」
あたしと時雨は顔を見合わせ、ハンターギルドにモニタを繋いだ。で、確認してみると・・・
「あ〜！上がってる〜！」
「にょおおおおおおおおお〜！」
もう一度、顔を見合わせると今度は抱き合って喜んだ。
「でも、どうして？」
ふと、我に返りハヤキに聞く。
「あのね・・・ハンターランキングは単に敵を倒す以外のことでも上がるのよ。あなた達は、到底かなわないはずのドラゴン相手に五分の勝負まで持ち込んだ。・・・それが正しく評価されたのよ。」
どこか引っかかるものはあったものの。
「おめでとう。Ｃランクにようこそ。」
・・・そう言われちゃえば、ねえ。
エピローグ
「・・・ねえ、ハヤキ」
「ん？」
あのあと、ささやかではあったがドラゴン退治祝勝会があった。
みんな、酔っぱらっちゃって大変だったけど・・・
どうにかハヤキがまとめて、そこは終わりになった。
酔っぱらって千鳥足になったあたしは、ハヤキに宿舎まで連れてきてもらっていた。
「どうしたの、アリスちゃん？」
あたしはハヤキに寝かせてもらって、ご機嫌だったけど。
「・・・あたし、ハンターやっていけると思う？」
それは、今回の件でずっと思っていたことだ。
「・・・ん」
ハヤキは、ちょっと考えていたが、
「・・・ねえ、アリスちゃん。ハンターに一番必要なものってなんだと思う？」
「ん〜」
難しい質問だけど・・・
「・・・レイや、ハヤキみたいに強いこと？」
しばらく考えてから言ってみた。
「・・・ちがうわ」
ハヤキは、あたしに布団を掛けてくれた。
「本当に必要なのは、強さじゃない。・・・何かに、立ち向かおうとする意志・・・」
どこか、ハヤキは悲しそうだった。
「どんなに強くたって、それがない人は・・・ハンターには成れない。私は、そう教わって来た。」
「ん・・・」
「・・・アリスちゃんは、今はドラゴンには絶対にかなわない。でも・・・決してあきらめなかった。・・・それが、ハンターにとって必要なもの。アリスちゃんは、それをちゃんと持っている。・・・自信を持っていきなさい。あなたはきっと、強くなれるから。」
「・・・ん」
たぶん、これだったんだ。あたしの欲しかったものは。
あたしは、なぜだか笑っていた。
「おやすみ、アリスちゃん」
「うん♪」
あたしは布団に潜り込んだ。
今夜は良いは夢が見れそうだった。
(アリスちゃん奮戦記 エピソード１ 了）
作者あとがき
・・・終わった。
コーヒーショップで毎日３時間、毎日の仕事が終わった後、小説を書く。更にその後ＰＳＯバージョン２をやる・・・
体力の限界に挑戦してるな。なんつーか。
それでも何とか書き終わった。まだ書きたいこととか、修正したいところは山ほどある。しかし、いくら何でもキリ無いから・・・。
「アリスちゃん奮戦記」を書くに当たって、まず言いたいことがある。
それは、
「ぷれじゃあす」のみなさん、ごめんなさい！！
・・・ということ。
あっはっは、なんせ許可無く小説に載っけちゃったキャラクターも居るしなぁ・・・。
他にも、コンセプトをだいぶ変更してしまったキャラクターも居るし、そういう人たちには謝るっきゃありません。
つくづく、ごめんなさい。
・・・ま、それはともかく。
「ぷれじゃあす」は、ＨＰでも活躍中です。みんな良い人たちばっかりなので、（小説版と違って・・・）安心して一緒に冒険してください。
あと、一応次回予告。
次回の冒険の舞台は「洞窟」エリアです。
未知の食材”ショートケーキ”を巡って、アリス達と麻薬組織が大激突！
果たしてアリスは悪魔の食べ物”ショートケーキ”を手に入れることが出来るのか？
はたまたハヤキ達が悪魔の麻薬”ショートケーキ”を粉砕できるのか？
もー、何書いてあるんだか本人もよくわかってないけど、次回は「ぷれじゃあす」全員参加！
お楽しみに！