「ふわ・・・」
予備校の外に出ると、シェリーはもう一回大きく伸びをした。そしてそのまま、左腕の腕時計に
目をやる。
「五時か・・・なんか家に帰るのにも中途半端だなぁ・・・対戦でもしてこ。」
そう決めるとシェリーは自宅とは逆方向にある、行きつけのゲームセンターに向けて歩き出した。
けれど、そんなシェリーの気分は歩いているうちに変わる。
「そう言えばこっちに子供の頃よく行った駄菓子屋兼業のおもちゃ屋さんがあったっけ・・・おばあ
さんが一人で店番してた・・・潰れてるかな、もう。ちょっと行ってみるか。」
そんなことを考えながら、７年以上も前の記憶を辿りながらシェリーは大通りから一本入った道を
歩いていった。意外と子供のころの記憶と変わっていない。微妙に人の気配がしないようにも思
えたが、そんなことシェリーは大して気にもとめなかった。そして・・・
「あった・・・」
自分の記憶と寸分も変わらない、古ぼけてはいるが不潔さは感じさせないたたずまいの店を見
るとシェリーは思わずつぶやいた。シェリーはそのまま玄関の引き戸を開け、中に入る。
「あらいらっしゃい。」
少し猫背で小柄な老婆はシェリーを見ると、シワの多い顔を微笑ませて言った。そしてそのまま、
「ずいぶん久しぶりに来てくれたんだねえ・・・」
と老店主が言葉を続けると、シェリーは少しびっくりする。
「覚えてるんですか？私のこと？」
「ええ・・・たしか、７年くらい前までだったよねえ、よく来てくれたのは・・・あんず飴とチョコレートの
かかったクッキーが好物で・・・」
（当たってる・・・ボケて勘違いしてるんじゃないわこのおばあさん・・・）
自分の好物まで覚えていたことで、シェリーはそれを確信した。そしてそれからシェリーは店の中
を軽く見渡す。と、そこでシェリーは大きな瞳をさらに大きくさせた。
（何ここ・・・すっごいレアの宝庫・・・）
（初期型の怪獣フィギュアにメーカー倒産で速攻絶版になったプラモデル・・・ゲームソフトもエイリ
アンファイターにマガジンズゾーンに・・・・・・うわ・・・音速船まであるよ・・・・・・）
言いながらシェリーはゴクリとつばを飲みこんだ。彼女のマニアの血が融点を通り越して一気に沸
点まで到達しそうになる。
「あ・・・あの、おばちゃん？これ・・・いくら？」
上のほうにあったゲームソフト「マガジンズゾーン」を手に取りシェリーは言った。緊張のため、声
が少し引きつっている。
「ゲームソフトかい？それなら１００メセタでいいよ。買ってくれるだけでもありがたいからね。」
「・・・！！！（これ、オータムとか行ったら下取りが２０００メセタからなんだけど・・・）」
老店主の言葉にシェリーは凍りついた。そんな彼女の反応に、店主は少し慌てる。
「高すぎるかい？なんせここ数年、駄菓子以外はまともに仕入れられてないから・・・」
「う、ううん！そうじゃないの！！ちょっと別のこと考えてただけ！！」
慌てて手を振りながらシェリーは言った。
（信じらんない・・・これ、まとめ買いして転売したら巨万の富よ・・・まとめ買いする資金ないけど）
そしてシェリーは心の中で深いため息をついた。手持ちのお金は数百メセタで貯金はゼロ、金山
の麓まで来ているのに、岩盤を砕くダイナマイトが無い、そんな気分だった。
（ま、でもこんな場所がこれから数日のうちに発掘されるとも思えないし・・・今日のところはゲーム
数本だけでも買っておいて、売っぱらって、それで稼いだ資金を元手に・・・）
そんな悪い考えがシェリーの頭に浮かんだ。そしてその行動の第一弾を起こそうとした時、駄菓子
屋の引き戸が荒々しい音とともに開く。
（・・・・・・・？）
それから中に入ってきた相手に、シェリーは眉をひそめた。中に入ってきたのが街の駄菓子屋に
あまりに場違いな二人組の男だったからである。一人はガラの悪いスーツを着た、四十歳前後の
男で、もう一人はそんな彼に首根っこを掴まれた、全身すり傷だらけで服も土埃と傷まみれな、ボ
ロ雑巾のような二十代後半の男だった。ちなみにスーツの男はどこをどう見てもカタギの人間には
見えない。
「おい、ここなんで間違いないんだろうなぁ！」
「は、はいい・・・」
ドスの効いた声でスーツの男が言うと、ズタボロな男は情け無い声で言った。そんな彼の声と顔に
駄菓子屋の店主の老婆は改めて驚きの声をあげる。
「び、ビリーちゃんかい、あんた？」
「う、うん！そ、そうなんだよお婆ちゃん！！」
老婆にビリーと呼ばれたその青年は、地面に這いつくばりながら、老婆の顔を見上げながらそう
言った。そして二人のそんなやり取りを見て、スーツの男はニヤリと笑う。
「ほう・・・じゃあガセネタじゃなかったってことかい・・・ああ、私はゲドーと言いましてねえ・・・まあ、
平たく言えば金貸しですわ。」
「金貸し・・・」
「ええ、そんでコイツが賭博場で私に１０万メセタ借りましてねえ・・・それに利息がついて１５万メ
セタ・・・返してくんないんですよ。」
「じゅ、１５万メセタ・・・」
老婆と、その陰でシェリーは同時にゴクリとつばを飲んだ。
「んで、コイツの親の行方は掴めない、ならば次なる身内としてアンタのトコに、代わりに払っても
らおうかと思って来た次第でして・・・」
「え、ええ・・・？け、けど、そんなこと急に言われてもここにはそんな大金・・・」
「うるせえババア！」
怒声の一喝とともにゲドーは背後の引き戸を裏拳で殴りつけた。店舗が揺れ、ガラスが割れる。
「こちとらガキの使いでもなけりゃ慈善事業やってんでもねえんだよ！金が無えって言うんなら、
こんなボロ屋売り払っちまえ！さもなきゃこのガキの、内蔵切り売りしちまうかだ！！」
「ひっ・・・」
ゲドーの脅しに老婆も、ビリーも顔面蒼白になった。そして彼らがもう何も言えなくなったのを確認
すると、彼は手にしたカバンから土地の売買誓約書を持ち出す。
「さあ、早いとこコイツにサインしてもらおうか！」
紙を突き出すと、ゲドーはもう一回すごんだ。だが、その直後にシェリーが二人の間に割って入る。
「まあまあオジサン、そう事を急ぎなさんなって。道は、他にもあるんだから。」
「ほほう・・・」
ゲドーにしてみればシェリーの言葉は間違いなく予想外の事態だった。けれど彼はそれに対して
怯んだ様子は全く見せず、ニヤリとした笑いを浮かべながら彼女のことをまじまじと見る。
「他の道ねえ・・・そう言うアンタは何者だ？」
「ただの客よ、超久々にここに来たね。」
「ふ〜ん、それで、アンタが代わりに払うってのかい？」
「まさか！そんなお金があったら、今頃小遣いでピーピーしちゃいないわよ。」
「じゃあ、体で払うとか？」
言いながらゲドーは、イヤらしい笑いとともにシェリーに向かい手を伸ばした。だがシェリーの左
手が彼の手首を掴むと、ゲドーは全く身動きが取れなくなる。
「事を急ぐなって言ってんでしょ。」
シェリーはそう言うと中指でゲドーの肘にデコピンをした。ゲドーの肘に電流が流れる。それから
シェリーはポケットから携帯電話を取り出した。
「あ、ジェイクさん？私、シェリーよシェリー、ちょっと今から速攻で私のいる所に来てほしいんだ
けど・・・なに？営業中だから閉店後？冗談じゃないわよ！来て！すぐに！ミニバンで！！え？
今どこにいるかって？ケータイのＧＰＳ情報送っとくわ。んじゃ１時間以内にね。」
相手の都合を全て無視するような口調で一方的にそう言うと、シェリーは携帯電話を切った。
「これでよし、と。」
「何が『これでよし』だこのアマ！！」
一人で勝手に話を進めるシェリーに、ゲドーは怒声とともに殴りかかった。けど、次の瞬間彼は
彼女の掌打をカウンターでみぞおちに喰らいその場で両膝をつく。
「知り合いの古物屋に連絡しただけよ、大人しく待ってなさい、これ以上、痛い思いをしたくなけ
ればね。」
シェリーの言葉に、ゲドーはギリと歯ぎしりを立てたが、ここではそれ以上は何も言わなかった。
（なんだか分からねえが、素手で簡単に行く相手じゃねえ・・・なら、今は待っといてやる・・・俺
の仕返しは、お前の言うところの一時間後だ・・・）
心の中でゲドーは思った。
「こんにちは〜」
それからぴったり一時間後、駄菓子屋の正面に止まったミニバンから降りてきた男は能天気な
までに明るい声で言った。年齢は三十代半ばで背は低め、短い無精ひげを生やし、小太りで眼
鏡をかけた彼は、しかし店内に入ると驚きの声を上げた。
「うひょおぉぉお〜！シェ、シェリーちゃん、ここ、君が見つけたの？」
「ま、たまたまね。」
「ほぉ〜う、あ、お婆ちゃんが店主さんですか？私、マンダーケ商会仕入れ担当の者でして・・・」
「は、はあ・・・」
ワケも分からぬまま、老婆はそう言って頷いた。と、横からシェリーが解説を入れる。
「彼は古い玩具とか扱う専門店の店員さんなの。事情を話したら、喜んで来てくれたわ。」
「え・・・いやシェリーちゃん、僕、全然事情話してもらってないんだけど・・・それにあの時点では
『喜んで』じゃ・・・」
「グダグダ言わない！」
「は、はい・・・」
シェリーがそう言うと、彼は電卓を片手に機敏に計算をしはじめた。
「えっと音速船が８０００メセタにエイリアンファイターが２０００メセタ・・・こっちの初期型パッケ
ージのヘルメスのプラモが５０００メセタに・・・おっ、マガジンズゾーンもあるじゃんか。」
（っ・・・！それは私が１００メセタで買う予定だった・・・）
代金を払う前に横に置きっ放しにしたことをシェリーは後悔したがもう間に合わない。ジェイク
がそのゲームソフトに２０００メセタという金額をつけてしまった時点で、それはすでに彼女の手
の届く相手ではなくなってしまっていた。
「んで、このソフビ人形が１０００メセタでこいつが・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
彼が電卓を叩きながらブツブツと言うその言葉に、シェリー以外の３人はみな硬直した。ここに
ある商品がそんな値打ち物だったなんて彼らは誰も思っていなかった。そして三十分後、計算
は終了した。
「そんなワケで買い取り総額、しめて２１万３千５００メセタになるんですがよろしいでしょうか？」
「え、ええ・・・」
自分の店で埃をかぶっていた商品について買い取り価格に、老婆は頷くことしかできなかった。
「でしたら、こことここにお名前と住所、連絡先とハンコを・・・はい、ありがとうございます！」
そう言って契約をまとめると、彼は代金を即金で渡し、シートを倒したミニバンの後部座席いっ
ぱいに品物を詰め込むと、口笛を吹きながら車を運転し走り去って行ってしまった。
「・・・よこせ！」
一分前、老婆が受け取った金をゲドーは横からふんだくった。そして無言のまま１５万メセタを
取り、残りを老婆につき返すとムシャクシャまじりの顔で去って行ってしまった。
「なぁ〜に怒ってるのかしらね？」
去っていったゲドーの後姿を見て、怪訝そうな顔をしながらシェリーは言った。そして「けど・・・」
と言いながらほとんど空っぽになった店内の棚を見て、シェリーは深いため息をつく。
「ビッグなお小遣いが飛んで行ったか・・・それもこれも、アンタのせいなんだからね！」
言いながらシェリーは、老婆に泣きつくビリーの後頭部を平手で思いっきり引っぱたいた。
「痛い！」
急に頭を引っぱたかれたビリーは情けない声をあげてそう言った。そんな彼の首筋を、シェリー
はグイと掴み上げる。
「いい年してギャンブルなんかにドはまりするんじゃないわよ！」
「へ・・・え・・・す、スミマセン・・・」
「ゴメンで済んだら警察も法律も要らないわよ！ギャンブルは胴元だけが勝つ！プレイヤーは常
にカモ！世の中そうなってるモンなの！」
「は、はあ・・・」
「それくらいのこと、私は１５で気づいたわよ！！」
「え゛・・・」
シェリーの一言でビリーの額に冷や汗が走った。
「あの、１５で賭博はそれこそ法律違反じゃ・・・」
「細かいこと言わない！」
ビリーの正論な反論を、シェリーは一発で押し潰した。そして呆気に取られっぱなしだった二人
をおいて、彼女は帰路についた。
・・・そしてその頃・・・
「くそっ・・・」
タバコをくわえ、つかないライターを何度もカチカチと鳴らしながらゲドーは呟いた。
「結局儲けはこんだけか・・・本来なら、あのガキをイカサマに嵌めて借金漬けにして、婆さんの
土地を騙して安く買い上る。そしてそいつを地上げ屋に転売することで、百万単位のカネが楽
に手に入る筈だったのに、あの小娘のせいで全てがパアだ！」
「・・・こうなったらせめてもの腹いせだ・・・今回の儲けを使って、あのガキを・・・」
そんな事を言いながら、彼は暗闇の中へと消えて行った。
そして数日後・・・
「ふぅわぁぁぁぁぁ...」
講義終了のベルが鳴ると同時に、シェリーは大きく伸びをして大欠伸をした。額と腕のあたりが
かなり赤い。
「終わったのね・・・んで、なんの講義だったっけ・・・あ、そうそう古代史だった古代史。」
科目は変われどする事は同じ、そんな感じでそう言うとシェリーは参考書とノート、それにペン入
れを鞄にしまい教室を出た。今日の講義は午後の七時近くまであったので、もう外は暗くなって
いる。
「んじゃ、今日は近道通ってさっさと帰るとしますか。」
言いながらシェリーは帰路についた。予備校を出て繁華街を抜ける。そしてやや薄暗い路地に
入ると、シェリーの声をかけてくる人がいた。
「すいませ〜ん。」
「・・・？」
声の主は車の中からだった。黒くて高そうな車に乗った若くハンサムな男性である。手には道
路地図を持っていた。
「道に迷ってこんな路地に入り込んじゃったんですけど、このあたりの地理は分かりますか？」
「ん？ええ、そりゃ地元の人間だから分かるけど・・・」
「よかったあ・・・じゃあ、教えていただけませんか？」
「構わないわよ、それくらい。」
言いながらシェリーは車に近づいて行った。
「んで、どこに行きたいの？」
ドアの外から、運転席を覗き込むようにしてシェリーは言った。
「えっと、このへんなんですけど・・・」
地図の一角を指差しながら男は言う。
「そんな奥の方で指差したって分からないわよ！ここ暗いんだし、もっと手前に持ってきてよ。」
「あ、すみません・・・それじゃあ・・・」
言いながら男は少しだけ身体をドアの方に持っていった。そしてそれにつられるようにシェリー
も身体を奥に入れようとする。だが次の瞬間、男はシェリーの首を掴もうとし、シェリーはそれよ
りもはるかに速く後方に飛び退いていた。
「遅すぎるわね、動きが。」
悔しそうな顔の男に、ニヤリとした笑みを浮かべながらシェリーは言った。
「ちっ・・・気づいていやがったか・・・」
「あんな胡散臭いオーラを全身から出してれば、どんなバカでも気づくわよ。」
「んだとぉ！」
男はそう言うとハンドルのクラクションをドンと叩いた。それを合図に、周囲から彼の手下と思
しき、ガラが悪くてシェリーと同年代と思しき少年達が６人ほど姿を見せる。そして車の中にい
た男も車を降りた。
「直接恨みは無いが、前金もらっての依頼なんでね・・・やっちまえ！」
男が叫ぶと、彼の手下の不良達は目を血走らせ、顔を笑わせながら一斉に襲いかかった。彼
らの得物はナイフを持つのがニ人にスタンガンが一人、携帯式のロッドが一人であとの二人は
素手だった。そんな連中を前にシェリーはまず、近くのポリバケツの方へ跳んだ。そして素早く
その青い蓋に手を伸ばす。
「パス行くわよ！」
そう言ってシェリーはポリバケツの蓋を彼らに向かい、フリスビーのように投げつけた。
「うおっ！」
急に投げつけられたフタを、不良達は不必要なまでに大げさな動きでかわした。その結果散開
した彼らを、シェリーは見逃さない。
「隙あり！」
スタンガンを持つ相手の腹部に、シェリーの中段蹴りが食い込んだ。そしてシェリーはそのまま
蹴り足を下ろさず、途中まで引いた状態から今度は相手の右手を蹴り飛ばし、握力の緩んだ
腕からスタンガンを奪い取る。そしてシェリーはそれを背後に迫った相手の腹部に叩きつけた。
「・・・・・・」
数万ボルトの電圧を喰らった少年は声も無くその場に倒れこんだ。
「さ、次は誰が来るの？」
心底意地の悪そうな笑みを浮かべながら、手にしたスタンガンをバチバチと鳴らしながらシェ
リーは言った。するとロッドを持った少年が、逆上して襲いかかる。
「う・・・うぉおおおおおっ！！！」
叫びながら少年はロッドを力任せにブンブンと振り回した。シェリーはそれを、余裕でかわす。
「あ〜あ、遅くて見ちゃいらんないわね。こっちよこっち！」
「う、うるせえ！うぉおおおっ！！」
シェリーの挑発で、彼はさらに逆上した。当たれば骨も砕けそうな振りを立て続けに繰り出す。
しかしシェリーにはかすりもしない。だが、バックステップを繰り返すシェリーは、ふと足を滑ら
せて尻餅をついてしまった。
「！しまった！」
「もらったぁぁぁあああ！！！」
満面の笑みを浮かべながら、少年はシェリー目がけロッドを振り下ろした。その直後、周囲に
鈍い破壊音が響き渡る。
「やったか！」
その様子を見ていた彼の仲間は言った。だがロッドの少年は何も言わない。そのかわりに直
後に彼らの耳に入ってきたのは
「ふう〜危なかったぁ・・・」
というシェリーの一言だった。彼のロッドが砕いていたのはシェリーではなく、彼らのリーダー
格の男の車のドアだったのである。
「あ〜らら、こりゃ弁償かなりかかっちゃうわね〜、ドアの全交換っていくらなのかしら？」
「・・・・・・」
シェリーの言葉に、少年は顔を青ざめ言葉もなかった。無論彼の仲間も、そして車の持ち主
も言葉が出ない。それでも数瞬の後、真っ先に声をあげたのは車の持ち主だった。
「てめえらぁっ！！」
「ひ、ひぃぃぃぃぃっっっっ！！」
「図に乗って俺の愛車を壊しやがってぇっ！！まだローンたっぷり残ってんだぞ！」
「お、お助けぇっ！」
「弁償します！弁償しますから！！」
「当然だ！けどその前に、愛車のカタキだ一発殴らせろ！！」
怒り狂った男と手下の少年達、彼らは追いかけっこをしながらシェリーの視界から消えてい
った。
「・・・作戦成功っと。所詮、お金のつながりだけの連中だもんね。あ〜やだやだ。」
笑いをこらえながらシェリーは言った。そして誰もいなくなった中、彼女は物陰に向かいダッ
シュする。そしてそこに隠れて様子を伺っていたゲドーを見つけた。
「あ〜ら数日ぶり。」
「な、なんだ・・・私は貴様なんぞ覚えちゃおらんぞ・・・」
「あら、そもそも全く知らない人に『覚える』なんて単語使わないわよねえ？ひょっとしてオジ
サン、私より国語力ない？」
「ぐ・・・う、うるさい！」
「ま、アンタが私の何に恨みを持ってこんなことしたかなんて、知ったこっちゃないけど。」
「だ、黙れ！貴様一度ならずと二度までもこの俺に恥をかかせやがって・・・覚えておけよ！」
「あら、悪いけど、『覚えてろ』はこっちのセリフだわ。」
ニヤリと笑ってそう言うと、シェリーは素早くゲドーの腕をとった。
「な、何しやがる！」
「別に大したことじゃないわよ。ただ、私にちょっかい出したらどうなるか、覚えておいてもら
おうと思ってね！」
言いながらシェリーはゲドーの腕を関節の曲がらない方向にひねった。ゲドーの肩の関節
からゴキ、という鈍い音がし、ゲドーは大きな叫び声をあげる。
「ぐ、ぐぎゃぁぁぁあああ！！」
「・・・そんなに騒ぎなさんなって、ちょっと肩の関節外しただけなんだから。」
「ち・・・ちょっとって貴様・・・あ・・・痛・・・いたたたた・・・」
「アンタが私にしようとしたことに比べりゃ、軽いモンでしょ？あ、整骨院は真っ直ぐ行って
３つ目の角を左、外来は７時半までだから、急いだ方がいいわよ。」
「く・・・ぐぅぅぅぅぅ・・・」
半泣きの声でそう言うと、ゲドーはシェリーの行った方へと走り去って行ってしまった。
「やれやれ・・・ま、あんだけ脅しときゃもう会わないでしょ。んじゃ帰ろっかな。お腹もすい
たことだし。」
そういい残すとシェリーは再び帰路に着いた。
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