「じゃあ、ランバードのヤツの家までご案内します。こちらです」
ラングは言葉使いも丁寧になって、彼女の先に立って歩き出した。
ひときわ強い一陣の風がメインストリートを吹き抜けていき、辺りには砂ぼこりが立つ。
「・・・強い風ね。思ったよりも寒いし」
彼女がつぶやいた。栗色の髪が風になびく。
「そ、そうですね。こ、ここしばらくこのあたりの気象もおかしいですし・・・」
「あんたにそんなこと聞いてないわよ。くだらないことに返事するくらいなら、さっさと歩きなさい。」
彼女はラングの言葉を冷たくさえぎった。
「・・・わかったわ。モンスターは１０匹ね。じゃあ１匹につき５００メセタいただくわ。１０匹で
５千メセタね」
「ちょ、ちょっと待ってくれ。それはいくらなんでも高すぎやしないか？」
ランバードの家で彼女は仕事・・・バイオモンスター退治について打ち合わせをしていた。二人の
間でもめたのは、その報酬金額についてだった。
「まああんたが有名で、凄腕の持ち主だから、要求される報酬が高いだろうというのは俺達は覚悟
しておいたつもりだよ。仕事に間違いが無く、絶対確実にモンスターを全滅させてくれるだろう、
って期待してな。だが、あんたの言う金額は相場の１０倍、いやそれ以上じゃないのか？いくら
なんでも・・・」
「じゃあ交渉は決裂、ってわけね。あたしは別にかまわないの。ほかにも仕事はあるんだから」
彼女はそう言うと、たった一つ持っていたバック・・・スライサーなどが入れて、常に携帯している
バックを手にして立ち上がった。
このあまりにも早すぎる彼女の行動に、ランバードはさすがにあわてた。そして、
「ま、待ってくれ。わかった、すぐには無理だが、金はそちらの言い分だけを必ず用意する。」
と、少しの反論もできぬうちに彼女の要求を聞き入れれてしまった。
「ここにある金はおれたちがあらかじめ用意していた分だ。まあこのくらいで引き受けてもらえる
だろう、と思って準備していた分だ。もちろん、これじゃあさっきあんたの言った要求額には全然
足りんから、とりあえずこれは前金と言うことにしてくれ。残りの分は後から必ず払わせてもらう。
だから・・・・」
「始めからそうすればいいのよ。お金も用意していてくれればもっといいんだけれどね」
彼女はにこりともせずに再び椅子に座り、前金というお金を無造作にバックにしまい込んだ。
そして今現在のバイオモンスターの状況についての説明を聞き始めた。
次の日の朝、彼女はモンスターの住むという森へと向かった。
すぐに１匹のモスキートを見つけた彼女は、さっそくそれの退治を始めた。が、１度、２度と
スライサーを放ってモンスターを傷つけてもなかなか倒れない。はじめに足を傷つけて動きを封じて
おいて、攻撃をしやすくしたにも関わらずだ。そしてその一匹を倒したときにはかなりの疲労を
感じていた。
「なによ。ただのモスキートじゃなくてギガモスキートじゃない」
彼女は倒したモスキートを調べて舌打ちした。森のなかだったため色違いのモスキートとギガ
モスキートが区別しにくかったのだ。しかもギガモスキートはモスキートの上位モンスターにあたる。
当然体力・攻撃力・すばやさなどはモスキートを上回ると考えなくてはならない。
「ギガモスキートだとやっかいね・・・・」
彼女はつぶやいた。
しばらくして２匹目のギガモスキートが現れた。彼女はこれを倒そうと戦ったが、先ほどの戦闘での
疲労が取れきっていなかったこともあって、モンスターの攻撃を受けてダメージを負ってしまった。
そのため戦闘中に一度、モンスターをようやく倒してからもう一度、彼女は薬で傷の手入れをする
ほどだった。
「薬を持ってきてたから良かったけれど・・・」
彼女はため息を一つついた。今使った分でもう手持ちの薬は無い。
「簡単な相手と思ったからやってきたのに・・・薬の手持ちも切れちゃったんじゃ、これ以上やって
られないわね」
そう言うと彼女はモンスターらに襲われないよう木の上に登り、休憩をとった。そしてそのまま夕刻
まで降りてくることはなかった。
日も暮れようとしている頃、彼女は再び街へとやってきた。
ランバードの家に入って仕事の終了を告げる。
「終わったわよ。まったくギガモスキートだなんて聞いてなかったから・・・・」
だが出迎えたランバードらの眼は怒りに燃えていた。
「おい、アーミアさんよぉ。あんた全然モンスター退治をしないで、サボってばかりしていたそうじゃ
ないか。いったいどういうつもりだい、相場以上の金を要求しておきながらよぉ」
「な、何を言うのよ。あたしは・・・」
「何を言うだぁ？？それはこちらのセリフだぜ。俺はあんたの仕事の具合を見たいと思って後を
つけて行ってたんだ。そうしたら・・・」
と話し出したのは、昨日彼女をランバードの家まで送ってきたラングだ。
仕事の具合を見たいというのは彼の建前で、実は昨日の受けた屈辱から、彼女が仕事を失敗でも
しないかとひそかに期待しながら後をつけていっただけだったのだ。が、それが思わぬ彼女の
仕事ぶり≠見てしまうことになったわけだ。
「でかい口きいてくれていたわりには、途中で放り出すとは情けねぇ。あんたそれでもハンターかよ」
「う、うっさいわね。こちらにも都合ってものがあるのよ」
ラングという目撃者がいたことで、彼女もさすがに言い訳ができない。それをみたランバードが
ゆっくりと彼女に近づいた。
「この依頼は無かった事にしよう。その金も返してくれ」
彼がそう言って彼女のバックに手をかけたようとしたときだった。
「それ以上寄ってこないでよ」
彼女はヒステリックに叫ぶと、すばやくスライサーを取り出し、ナイフ代わりにしてランバード達に
向けた。
「このお金は倒したモンスターの報酬分としてもらって行くわ。それくらいあたりまえよね」
「仕事を途中で放り投げてもか？ハンターの風上にもおけねぇ！」
「ふん、くやしかったら自分達でモンスターを倒してみる事ね。あたしは少なくとも２匹は倒して
あげたんだからね」
突き出したスライサーをちらつかせて、彼女はゆっくりと後ずさりをしながら部屋を出ようとした。
その時だった。
ピシッ、と音がしたかと思うと彼女が持っていたスライサーが床に叩き落とされた。背後から鞭が
彼女のスライサーを襲ったのだった。
「くっ、誰よ、あたしに向かってこんなことするのは！」
彼女が振り向くと、出口に一人の女性が立っていた。その背後に一人の少年を従えている。
「やっとお目にかかれたわね。アーミアさん」
その女性が金色の髪をかきあげながら部屋に入ってきた。手にはスライサーを落とすのに使った
鞭を持っている。
「話を聞かせてもらってたけど、アーミアも情けないわね。あの程度のモンスターは退治できないし、
お金を持ち逃げしようとするし、背後から近づくあたしに気がつかないし・・・」
「ふん、あなたに関係ないでしょ。これはこちらの問題よ」
「そうもいかなくてね、アーミアさん。だってあなたのバッグに入っているそのお金、あたしが頂こうと
思っているのよ」
金髪の女性は不敵にも彼女の報酬を要求しはじめた。ランバート達も、彼女を恐れもせず発言を
する、新たな女性の出現にとまどっている。
「な、なによ。あんた突然割り込んできて何を言い出すの。このお金はあたしがモンスターを退治
した報酬・・・」
「でも全然退治できなかったんでしょ？しかもその仕事を放り出して逃げようとしているんじゃ
なくて？あたしはね、そのモンスターをさっき森で全部退治してきてあげたわ。だから、それを
いただく権利はあたしにあるのよ」
「そ、そんなの信じられないわ。あんたが退治した、っていう証拠はあるの？」
すると金髪の彼女の後ろにいた少年が声をあげた。
「ぼく見てたよ。このお姉さんがお父さんに会いたいっていうから案内してきたんだけれど、その
途中で森の中のモンスターをみんなやっつけちゃったんだ」
「なにぃ？このひとがモンスターをやっつけただとぉ？ほんとか、カイン」
ランバードは金髪の女性の後ろにいたカイン・・・彼の息子にたずねた。カインは黙ってうなずく。
「こっちのネエちゃんの方がよっぽど腕がいいじゃないか」
ラング達が騒ぎ立てる中、金髪の女性は笑みを浮かべながら彼女に近づいてきた。
「あんな程度のモンスターにてこずるようじゃ、アーミアの名が泣くわ。偽者を名乗るなら、腕も
それなりの腕をもっていてほしいわね」
「えっ・・・・」
「まだ気づかないの？あたしがホ・ン・ト・のアーミアよ、にせものさん」
偽者と言われた彼女は真っ青になった。その彼女をホントのアーミアが、その緑の眼で睨み付ける。
「依頼された仕事が、その依頼主のところにあたしが行く前に解決・・といえば聞こえはいいけど、
横取りされることが最近続いてね。そいつ、ご丁寧にもあたしの名前を名乗ってるっていうのよ。
まあキチンと仕事をしてくれてるなら見逃してやってもいいんだけど、いくつかは中途半端なままで、
お金だけを持ち逃げされてるっていうし。そういうわけだから、今回はちょっと急いで来てみたわけ
なの。どうやら今回はタイミングもバッチリだったようだし」
「で、でもアーミアはスライサー使いよ。鞭をつかうなんて・・・」
「馬鹿ねぇ。あたしは鞭も扱えるの！だいいち、こんな部屋の中でスライサーを飛ばしたらどうなる
か、あなたにだってわかると思うけど・・・ね、ソフィア！！」
偽者の彼女はソフィアと呼びかけられると、へなへなと部屋の真ん中にへたり込んでしまった。
「ど、どうしてあたしの名前を・・・」
「当たり前じゃない。あたしを騙（かた）ってくれるヤツだもの。あらかじめどんなヤツかは知って
おかないと・・・・でもあんなレベルのモンスターも退治できないようじゃあ、調べておく必要も
なかったようだけど」
そういうとアーミアは明るく笑った。
一方のソフィアはお金を取り返され、両腕を捕まれて外へと連れ出されていった。
「じゃあこのお金は報酬としてあたしがもらっていくわ。かまわないわよね」
アーミアはランバードに声を掛けた。
「あ、あぁ。もちろんですとも。で、残金はどちらへお支払い・・・」
ソフィアの言い分だった５千メセタをアーミアにも支払わなくてはいけない、と考えていたランバード
は残りの金について聞こうと声をかけた。
「いいわよ。これだけ貰えば」
「はぁ、いや、しかし・・・」
「だってこれくらいが相場≠ｾからね」
アーミアは微笑むとドアを開け、外へ出ようとした。その背中にカインがあわてて声をかける。
「ねぇ、もう行っちゃうの？」
その声にアーミアは振り向くとにっこり笑って返事をした。
「そうねぇ、夜道はあたしみたいな、か弱い女性が一人で歩くには危険よね？あの追加のお金の
代わりに今晩の食事と寝る場所をお世話して頂けないかしら？って、パパに言ってくれない？」
「うん、ちょっと待っててね」
カインは急いで家の中に入って行った。
「ぜひどうぞ、だって。すぐに食事にするからはやく入ってよ」
カインが走り出てきて、アーミアの服の袖をひっぱっりながら誘った。
ふと振り返ると、外は既に日もとっぷりと暮れ、星が美しく瞬いていた。
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キャラクターの設定等についてはゲーム本編の他に
「ファンタシースターの世界〜ファンタシースターを作った人たち」徳間書店
「ファンタシースター公式設定集」ソフトバンク
を参考にいたしました。
なお「ファンタシースターの世界」において、アーミアは初期設定で『銀色の髪』ということになって
いましたが、ゲーム中のグラフィックスならびに取扱説明書内でのイラスト等が金髪であることから、
本文中の記述の様にさせていただきました。
また筆者はテキストアドベンチャー（メガＣＤ等）をプレイしていませんので、それらと矛盾する記述
がある場合、それは全て筆者の寡聞から来るもので、その責任は筆者にあります。