病院の屋上から双眼鏡で総督の部屋を見ている二人のレイマーがいた。冷や汗を流した
ラーディス、深い悲しみに顔を染めるゼクド。
「一体どうなってやがんだ？」
「復讐鬼となったゼルディにダークファルスが追い詰められ、その負の感情に取り付いたの
だろう・・・・・皮肉な話だ・・・・・」
ゼクドとラーディスははそのままエレンディラの病室に向かった。エレンディラはダーク
ファルスに斬り裂かれた傷は余りにも深く、医学も魔法も何一つその効果を表さなかった。
生きていること自体が不思議でしょうがない、そんな状態だった。
「優秀なフォースを集めて、レスタ・リバーサー・アンティ、幾度となく唱えさせたが全くの
効果無しだった・・・・」
ラーディスは不甲斐なさに顔を歪め、握られた拳から血が滲むほど悔しがっていた。
「そうか・・・心配するな、まだ最後の手が残っている」
ゼクドはエレンディラの傷口に右手を置き、不思議な呪文を唱え始めた。ゼクドの右手が
光輝き、一瞬の煌きとともに光はエレンディラの傷口に吸い込まれ、エレンディラの斬り
裂かれた体は元に戻った。
「ふう・・・・・・・」
「お、お前その腕は・・・・！」
ゼクドの右手は干からびたミイラのように萎れていた。
「古代呪文だ。己の体の一部を犠牲にすることで通常とは桁が違い過ぎるほどの回復
魔法が使える」
ゼクドは干からびた右手を引きちぎり、肩口から溢れ出る血にレスタを唱えた。傷口は
一瞬にして埋まったが右手は再生しなかった。
「聞かせてくれないか、なぜお前はそれほどまでにこの兄妹にこだわるのか・・・」
「・・・・そうだな、お前には話してもいいな・・・」
ゼクドはゆっくりと自分の過去を話始めた。ラーディス自身ゼクドの過去を聞いたことは
あったが、聞かされた話はそれよりも遥かに苦しい話だった。
「俺が奴隷だったころの話はしていたな、そしてセレナに救われ、今に至る・・・。だが
俺はわずかに記憶の無い部分があった、セレナ達の仇を討った後、時間にしてわずかな
間だったのかも知れないが確かに俺の記憶は失われていた・・・、いや、封じられていたと
言うべきかな。自分の罪の意識から逃れるために・・・・
俺が奴隷だったころ、俺を買った人間が暗殺を命じ、俺はターゲットを殺した。その時に
子供に見つかり、口封じのために子供も殺した・・・。報 告に戻った時、主はそのことを
嬉しそうに笑った、俺はそのことが許せず主を殺し、教育者も殺し、そして愛玩用に買わ
れた二人の少女を口封じに殺した・・・・。主を失った俺はあてもなくさまよい、そして
セレナに拾われた。しばらくして俺はセレナやそこにいた子供達に危害が及ぶのを避ける
ために施設を出た。だがその結果、セレナ達を巻き添えで殺してしまったのだがな・・・・。
そしてその後だ、俺は復讐を誓い俺が奴隷だったころの組織を壊滅させた。だがその直後の
記憶が消えていた・・・、そしてこの兄妹を見ていて思い出したよ、俺が何を忘れていたの
かを・・・・。
俺が組織を壊滅させた後、その組織にあった人身売買の記録を見たのさ、そこに俺の買った
人間の名前があった、そしてソイツが買った奴隷は、一 人の少年、マイト＝スアル。双子の
姉妹、レジーナ＝スアルとテスラ＝スアル・・・・」
ラーディスの表情が驚愕の表情へと変わった。
「ちょっとまて、ま、まさか・・・・」
「それだけじゃない、俺が殺したターゲットも奴隷の少年を買っていた。名前はエミリオ＝スアル・・・。
そう、俺は自らが助かるために自分の血のつな がった兄弟を皆殺しにしていたんだ・・・・・」
「し、知らなかったんだろ？。だ、だったら・・・」
「知らなかったよ・・・だが俺がこの手で殺したことに変わりはない・・・・・俺が便宜上につけた
この＜ゼクド＞の名は古の言葉で＜大罪者＞という意味なのさ・・・・」
「・・・・・・・・・」
ラーディスは言葉を失った。予想さえも遥かに上回る事実に震えることしかできなかった。
「そう、俺は自分のために兄弟を皆殺しにした大罪者だ！。決して償われることはない、
償われてたまるものか、俺の罪を許せるものなどいない、ありえない、この重圧から逃れる
ことなど・・・俺自身が許しはしない・・・」
ゼクドの顔は笑みを浮かべていた。時折見せる、わずかな笑みを・・・・。
「なぜだ、なぜお前は笑っている」
ラーディスはゼクドに掴みかかった。
「そうか、そんな風に見えるか、それもいいな、めそめそと不景気な顔をふりまくよりマシだ。
だがもうわからないんだ・・・どんな表情をすればいいのか・・・・」
その言葉を聞いた瞬間、ラーディスは理解した。あらゆる感情が深く沈澱する灰色の表情、時折
見せるその笑顔は自分を見せないための無理矢理上塗った表情であることを・・・・
不意にゼクドは歩き始めた。狂気に染まった二人目の弟のもとへ。
「さぁ、行かなきゃ、こんな程度で罪が薄れはしないが弟も救わなきゃ・・・・」
ラーディスはゼクドの肩を掴んで引き留めた。人間の手に負える相手ではない、待ちうけている
のは確実なる死なのだから・・・
「死んでしまったら償いはできないぞ！」
しかしゼクドはなおも笑っていた。
「死にはしないさ、俺に許された空間は生き地獄だけなのだから・・・。死なんて簡単なものに
なれはしないさ・・・」
「クッ！」
ラーディスはゼクドの後頭部を殴り気絶させた。そして病室のベッドの上に寝かせた。
「もういい、もう苦しみを求めるな。俺はもうお前の苦しむ姿を見ていられない、お前の罪は
俺も背負ってやる。お前一人、苦しめられない・・・」
ラーディスは軍の管理する宝物庫へ向かった。もはや軍隊は全滅しているが宝物庫には昔から
保存されている武器がある。己の腕に寄生させることによって光の矢を放つ呪われた聖なる
武器、ホーリーレイ。ラーディスはソレをためらうこと無く腕に寄生させた。
「アイツも片腕になっちまったんだ、これでちょうどいいのさ・・・」
そして MASTER OF RUIN の元へ歩いていった。ゼルディを救うために、そしてこれ以上親友を
傷つけないために・・・・・・
投稿の広場に戻る
トップページに戻る