「苦しい・・・」
「何故、私達がこんな目に・・・」
「もう、この世に希望は無いのか・・・」
多くの人々の、そんな怨嗟の声が渦巻く病院の中、ゼグドとラーディスは神妙な
表情で互いの顔を見合わせていた
「一体どうしたんだ？ゼルディのヤツは・・・」
「・・・ダークファルスに取り付かれた・・・そう考えて間違い無い・・・」
「・・・なんとか、取り除く方法は無いのか？リコの時のように・・・」
「・・・・・・・・・」
ラーディスの言葉に、ゼグドはしばらく何かを考える様子を見せたが、
やがて無言のまま立ち上がるとそのまま一人、病院を後にした。
「おかえりなさい、ゼグドさん」
沈痛な面持ちのまま帰宅した彼を出迎えたのはエレンディラだった。
今や残虐な支配者となったゼルディの妹である彼女は、当然人々から嫌悪される。
結果命を狙われる事も一度では無かった。そしてそんな彼女は、ゼグドの家に保護
されていたのである。
「ゼグドさん・・・」
「何だ・・・？」
「ゼルディは・・・兄は・・・元に戻るのでしょうか・・・？」
すがるような声でエレンはゼグドに尋ねた。彼女の身体は、度重なる
心労で少し小さくなってしまっている。そしてそんなエレナの問いに
ゼグドはしばらく考えた後、静かに口を開いた
「エレナ・・・お前にとっての最悪の事態、覚悟しておく必要があるな・・・」
「？最悪の事態、って・・・まさかゼグドさ・・・」
ゼグドの言葉の意味にしばし頭を悩ませた後、エレンはハッとした表情でゼグドに
掴みかかる。が、彼女の腕が彼の首筋を掴む前に、ゼグドの手刀を首筋に受け、
その意識は急速に遠のいていった。
「エレナ・・・」
ゼグドは気を失ったエレナの顔をしばらく見つめると、彼女の体を自分の部屋の
ベッドに横たえさせた。そしてシーツをかけ、再び家を出た彼は、郊外の森へと
向かった。普段は誰も足を踏み入れない、うっそうとした森の中の一画、そこに
かつてゼグドが購入した、広大な私有地があった。
「少し、無沙汰だったな・・・」
言いながらゼグドはロープの柵を越え足を踏み入れる。そして歩くこと数分、
森林の木々の中に一カ所、木の全くない空いた空間があった。そして、木々の
代わりにそこにあるのは・・・・・・無数の墓石だった
「・・・・・・」
ゼグドは墓石の一つ一つに、深々と頭を下げては手を合わす。それらは全て、
かつて自分の経営していた孤児院にいた者達の墓であった。資金を手に入れた
ゼグドが、そのような施設の経営に乗り出したのは一度や二度ではない。だが、
それらはいつも、暴徒の襲撃や疫病の流行等、何らかの原因により挫折をして
きてしまっていた。そして、そんな日々の連続に、ゼグドは己の運命を呪わず
にはいられなかった・・・
やがて全ての墓に手を合わし終えると、ゼグドは残る最後の、他よりひときわ
大きな墓石の前に膝をついた。
「セレナ・・・」
手を合わせながら、ゼグドは自分のこれまでしてきた事、そしてこれから
やろうとしている事に思いを馳せた。ゼルディともどもダークファルスを
封印する・・・そのためには当然ゼルディは犠牲になる。そしてこれまでの
彼の行動は、全て彼の、そんな計画通りに進んでおり、あとは最後の詰めを
残すのみである。が、その最後の詰めのために自分を兄のように慕ってきた
人間を犠牲にする事に対し、躊躇も感じずにはいられなかったのであった。
そして瞑想し、苦悩する事約一時間、ようやく彼は立ち上がると、墓に背を
向け、歩き出した
「・・・ここまで来て、何を迷う事があるのか・・・」
それが、森を出てから総督府の前に立つまでの間に彼が発した、
唯一の言葉だった。
投稿の広場に戻る
トップページに戻る