総督府を警護する無数のアンドロイド、それらの猛攻をほぼ無傷で
くぐり抜け、ゼグドはゼルディの、"MASTER OF RUIN"の前へと
辿り着いた
「ゼルディ・・・」
「これはこれは・・・久しぶりじゃないか、ゼグド・・・」
嫌味に満ちた声でゼルディは言った。その顔からは、かつての
少年らしさは完全に消え、ただただ悪意と殺意に支配されている。
「ゼルディ・・・お前にもう救いの地は無い・・・たとえダークファルスを
消滅させようとも、残ったお前を司法が、民衆が許さないだろう・・・」
「司法？民衆？フ・・・フハハハハ！そんな物に我が屈するとでも？」
「・・・思っちゃいないさ・・・だから、俺がこの場でお前を殺す！」
「殺す？フン！くだらん戯れ言を！！」
言うやゼルディの手からラバータが発せられる。それは一瞬のうちに
ゼグドの全身を凍り付かせるが、次の瞬間に氷は跡形もなく溶け、
直後に発した弾丸はゼルディの左腕を貫いていた。
「な・・・！セイクリッドガードか！」
ゼグドの左腕に装着された盾を見るやゼルディは言った。しかし、
あらゆる状態異常を無効化するセイクリッドも、通常攻撃への
防御力は並以下である。ゆえにラフォイエとラゾンデを攻撃の主体に
切り換えたゼルディに対し、ゼグドは通常戦闘以上の苦戦を強いられた。
「ちっ・・・何とか・・・何とか糸口を見つけないと・・・」
「フハハハハ！逃げろ逃げろ！！せいぜい逃げ回ってあがけ！！」
狂気の笑いを浮かべながらゼルディは言った。無論ゼグドもただ
逃げ回っているのではない。隙を見て反撃もしてはいるのだが、
相手の持つ驚異的な回復力の前に殆ど役に立ってないのである。
「く・・・くそぉおおおおぉっ！！！」
ゼルディの猛攻の前に風前の灯火となったゼグド、やがて彼は決意を
固めると最後の突撃を相手に仕掛けた。両腕を前に組み、防御を固め
てのタックル、その突撃で一気にゼルディを押し倒すと、ゼグドは
ハンドガンをゼルディの額に押し当てた。
「あばよ、ゼルデ・・・！？！？！？」
言いかけた瞬間、ゼグドは己の身体が急に金縛りにあい、全く身動きが
とれなくなるのを感じた。ゼグドは、最初それがゼルディの手による物
だと思った。が、そんなゼグドを見て反撃のための魔力を溜めはじめた
ゼルディの身体もまた、指一本さえ動かせなくなっていたのである。
「な・・・何が・・・！！！ば、バカな・・・そんな・・・」
ゼグドは目を見張った。彼の前にセレナが、自分が経営した孤児院の子供達が
立っていたのである。いや、立っていたというのは語弊があるかもしれない。
ゼグドの前方、少し頭上で、真っ白な身体の彼らは浮かんでいたのだった。
ゼグドは、自分の目の前の者達に、語りかけた。
「せ、セレナ・・・それに、お前達・・・」
「ゼグド・・・ダークファルスは負の想念の集合体・・・それを滅するには、
正の想念の集合体を融合させ、中和し、消滅させるほかありません・・」
「なんだって・・・？」
「そして今から私達は、ダークファルスと融合し、中和させます・・・さよなら、
ゼグド・・・私の、愛した子・・・」
「待て！待ってくれ！！」
セレナの言葉にゼグドは叫んだ。叫ばずにはいられなかった。ダークファルスと
中和させる、それがセレナ達の魂の消滅を意味するのだと、即座に感じたから
である。
「なんでお前達がそこまでする！俺が・・・この世界がお前達に何をしてやった！
お前達に地獄の苦しみを味あわせただけじゃないか！！」
「ゼグド・・・もうおよしなさい、自分を貶めるのは・・・ここにいる人は全て、
たとえ束の間であってもあなたの存在に安らぎを覚えた者なのよ・・・
あなたの、その純粋でひたむきな魂に・・・」
「だ・・・だがしかし！」
「・・・さようなら、ゼグド・・・」
それが、ゼグドが聞いた、セレナの最後の言葉だった。次の瞬間、あたりは
眩いばかりの光に包まれ、ゼグドは気を失った。
「う・・・うう・・・」
それからどれくらい経ったのだろう？ゼグドの意識が戻った時、周囲を支配
していた邪気は跡形もなく消え失せ、自分の隣にはゼルディが横たわっていた
「ゼルディ？おい・・・ゼルディ！！」
ゼグドはゼルディの名を呼びかけながら彼の頬を数回叩く。するとゼルディは、
少しうめき声を上げた後、ゆっくりとその目を開いた。
「あれ？ゼグド・・・さん？」
「ゼルディ！！」
瞳を開け、自分の名を呼ぶゼルディを、ゼグドは思い切り殴りつけた。殴られた
ゼルディの方は何が起きたのかまだ掴めていない。そして彼の困惑は、直後の
ゼグドの力強い抱擁によってより深い物となった
「バカ野郎が・・・いや、すまねぇ・・・ゼルディ・・・」
こうして、ラグオルを恐怖に陥れたダークファルスは、"MASTER OF RUIN"は
消滅した。
そして間もなく裁判が始まったのだが、ゼルディは、今回の功労者、ゼグドと
ラーディスの尽力により、また未成年である事も幸いし辛うじて死刑は免れ、
懲役生活を送る事となった。
そして数年後・・・
「本当に行くのか？」
旅支度を調えたゼルディとエレンディラにゼグドとラーディスが尋ねた。
そんな二人の問いかけに、兄妹は力強く頷く。
「これ以上、二人に迷惑はかけられませんし、それに、ラグオルの牢屋に
いるより、まがりなりにもシャバにいられた方がよっぽど良いですから。」
「そーそー、私も、これでお兄ちゃんと一緒にいられるし！」
「そうか・・・」
二人の返事に、ゼグド達もまた力強く頷いた。
ラグオルから離れる事約一光年の地に、また一つ人間が居住できそうな星が
発見されたのは今から半年前に遡る。もっとも「居住可能」とは言っても
ラグオルとは違い日中の気温は４０度を超し、夜間温度は氷点下に達する
砂漠の星である。そこへの調査員第一号として、二人は名乗りをあげたのだった。
「じゃあ、達者でな！今度会うのは一年後か？」
「はい！二人ともお元気で・・・」
「バカ野郎！そりゃこっちのセリフなんだよ！！ま、死なない程度に頑張りな！」
「ええ、私とお兄ちゃんと、他の調査員の人達で作ってみせます！
明るい未来に満ち溢れた、本当のファンタシースターを・・・」
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