「わたくしは、マスターが好きです」 　微かに震えている、小さな声。だが眼差しは強く、まっすぐにフォーレンを見つめていた。 　彼女よりもはるかに高い位置にある自分の目を、必死に覗きこんでくるフレナ。その様子を眺めながら、なにか言わなくてはと思いつつ、ふとこの場とはまるで無関係な考えが浮かぶ。300年以上前、自分は何をモデルに彼女の姿を作ったのだったか。 「…好きです…」 　返事のないフォーレンに焦れたのか、もう一度、今度は囁くような言葉が洩れる。 　本当に、なんと返事をしたらいいのかわからない。結局、ため息と一緒に出てきたのはこんな台詞だった。 「……あなたまでルディに感化されてしまったようですね、フレナ」 　そう言って、そもそもなんでこんなことになったのかも再び思い出す。そう、確かにきっかけはルディだった。 ++++++++++++++++++++ ++++++++++++++++++++ 「なぁ、フレナってフォーレンが作ったんだろ？」 　その晩、ルディたちパーティーメンバーはクルップに宿をとっていた。 　深淵なる闇を倒すべく、アルゴル太陽系の運命をかけた戦いに挑む前夜。ルディがクルップに泊まりたいと言い出したからだ。せめて一晩、ライラの側で過ごしたいと。 　アンドロイドであるフォーレンは睡眠を必要としない。そこで夜中、宿を抜け出し村を散策していると、ライラの墓前にひざまずいているルディに出会ったのだった。 　地面に膝をつき、何ごとか真剣に祈っているらしいルディ。月に照らされ、真新しい墓石とルディの金髪が白く光っていた。 「ルディ、早く眠った方がいいですよ」 「あ、うん…わかってる」 　フォーレンの忠告にさっと立ち上がると、膝についた雑草をはらう。 「じゃな、ライラ」 　小さな声でそう呟いて、照れくさそうに笑いながらフォーレンの方へやって来る。フォーレンには理解できないが、人間はこういう場面を見られるのが恥ずかしいらしい。 　おそらく照れ隠しなのだろう。やけに明るい口調で話しかけてきた。 「なぁ、フレナってフォーレンが作ったんだろ？」 「はい」 　それを聞くと、フォーレンの腕を叩きながら更に質問を重ねてくる。なんだかおかしそうに笑っていた。 「やっぱああいうのが、好みのタイプなわけ？…でもまさか、恋人にするつもりで作ったわけじゃあないよな？！」 「私たちはアンドロイドです。そのような感情を持つことはありません」 　あっさりと答えるフォーレンに、ルディは質問をうまくかわされたと思ったらしい。にやにやしながら、今度は肘で胴を押してきた。 「え〜、本当に？でも、笑ったり悲しんだりできるなら、そういう気持ちにだってなりそうなもんだけどなぁ」 　少年の無邪気な言葉に、フォーレンはゆるく首を振る。 「ルディ、あなたの認識には根本的なエラーがあります。そもそも、アンドロイドはどんな感情も持つことはありません」 「え？」 　ルディの目が大きく見開かれた。そんな返事は予想外だったらしい。 「私の体に詰まっているのは、金属製の電子部品だけです。もちろん、頭の中身も同様です」 「………」 　なにか言いたそうなルディには構わず、フォーレンは言葉を続ける。 「アンドロイドはＡＩチップで思考します。そこには感情というものは発生しません。0と1で構成されたプログラムが、入力される外部情報に応じて、的確な判断と処理を行っているだけです」 「だ、だけど！」 　ルディは声を荒げてフォーレンの台詞をさえぎった。 「だけどさ、フォーレンもフレナも、笑うじゃないか！笑って、がんばろうって言ってくれるだろ？それは感情じゃないのか？」 　懸命に訴えかける少年に、目の前の青年は少し困ったような顔をする。なんと言ったものか思案しているらしく、わずかに首を傾けた。これが、こんな表情と目をしたものが、機械だなんて誰が信じるのだろう？ 「私たちに組み込まれているＡＩチップは、シードやドウターに使われているものとは少し違います。累積された膨大なデータと優れた演算能力で、ほぼ人間と同等のパターン表現が可能なのです」 「パターン表現…？」 「いわゆる『感情』と呼ばれるものを擬似的に表現できるということです。笑うべき場面、悲しむべき場面、怒るべき場面を瞬時に判断し、適切な処理プログラムを実行します」 　まるで明日の天気の話でもしてるみたいに、いつも通りの穏やかなフォーレン。しかし淡々と喋っているその内容は、ルディにはとても信じられなかった。 　アンドロイドであることを忘れていたわけじゃない。でも、わざわざ意識することもなかった。ずっと同じ仲間だと思って過ごしてきたのに。 「でも、だって…そんな…」 　歩みを止めて俯いてしまったルディを、フォーレンは冷静な目で見ている。 　と、不意に傍らから高い声が飛んできた。 「ルディ！」 　宿屋の方から、小柄な人影が歩みよって来る。月明かりに、淡い草色の髪が揺れているのが見えた。フレナだった。 「こんな時間にどうしましたの？もう遅いですから、早くお休みになった方がよろしいですわよ」 「あ、ああ…うん、わかった」 　フレナのもっともな忠告に、こころなしかホッとした様子でルディが頷く。そのまま宿に向かいかけて、ちらりとフォーレンを振り返る。何か言いたそうに口を開くが、上手く言葉にならないらしかった。 　立ち去りかねているルディに、フォーレンが静かな挨拶を送ってやる。 「おやすみなさい、ルディ」 「…お、おやすみ」 「おやすみなさいませ」 　フォーレンとフレナに見送られ、ルディは宿屋に戻っていった。扉の奥に消えていく姿は、なんとなく肩が下がっている。 　ルディが立ち去るのを待ってから、フレナはくるりとフォーレンに向き直った。 「マスター・フォーレン、あんな言い方をしてはルディがかわいそうですわ」 「聞いていたんですか？」 　かなり離れていたはずだが、アンドロイドの聴覚は人間とは比べ物にならない。こんな静かな夜では、はっきり聞こえていただろう。 　案の定フレナは小さく頷き、肩を竦めてみせる。 「すみません、聞こえてしまいましたの」 　それはともかく、と言葉を続ける。 「あんなことを言う必要はなかったと思いますわ」 「私は真実を述べたまでです」 　確かにルディは傷ついたような顔をしていた。しかし、自分に感情や友情があるように見せかけ彼を騙すのは、結果的にもっとひどい裏切りだろう。フレナにもわかっている筈だ。 「本気で、そんな風に思ってらっしゃいますの？」 　フレナの言葉に、フォーレンも向き直る。 　いつになく真剣な表場で問いかけてくるフレナは、両手を胸元で組み合わせていた。まるで、何かを祈るかのように。 「どういう意味ですか？」 「マスター…」 　フレナは一瞬、両目を閉じた。そうするとますます、神託を授かる巫女のように見える。 　ゆっくりと瞼が開く。 　そして小さな、だがはっきりとした声で告げた。フォーレンの瞳を見つめたまま。 「わたくしは、マスターが好きです」 ++++++++++++++++++++ ++++++++++++++++++++ 　自分の声が震えているのがフレナにはわかった。ぎゅっと組み合わせた両手も、微かに震えている。どんなに力をこめても止められない。 　まるで時間が止まってしまったような錯覚をおぼえたが、実際には何秒もたっていないのだろう。 　フォーレンの顔を見上げていると、微かな明かりに照らされて、彼の黒髪が白く縁取られたように光っているのに気付く。痺れたような頭の隅で、ぼんやりとそれを綺麗だな、と思う。 　そういえば、初めて起動した時に見えたものも同じだった。彼の黒い髪と、碧色の瞳。 「…好きです…」 　無意識に洩れた弱々しい呟き。それを聞いてか、フォーレンは僅かに眉を寄せた。 「……フレナ、あなたまでルディに感化されてしまったようですね」 　ため息と共に吐き出された台詞に胸が冷える。 　まさか、フォーレンが自分の思いを受け入れてくれると楽観はしていなかったが、こんな風に切り捨てられるのは耐えられない。 「感化？いいえ、違いますわ。こんなこと、冗談やいい加減な気持ちでは言えませんもの」 「それが感化されているというんです。アンドロイドは『気持ち』などという単語は使いません」 　にべもない言葉で一蹴される。 　嫌い、と拒否されるよりももっと酷い。とりつくしまもないなんて。いつもと同じフォーレンの涼しい瞳が、今はやけに冷酷に見える。 「…そんな言い方、あんまりですわ！マスター、私だって、傷つくんですのよ」 「傷つく？アンドロイドには、痛みも含め五感はありません」 「これは神経の痛みじゃありません……心の、痛みですわ」 「それこそあり得ませんね。アンドロイドに心は無いんですよ」 　きっぱりとそう言い切ると、これで話は終わりとばかりにフォーレンは背を向けた。そのまま、宿とは反対方向へ歩いて行く。どこかで夜明けを待つつもりなのだろう。 　行ってしまう。 　追いかけようと思っても、フレナの足は動かなかった。324年の間、経験したことがないくらい胸が苦しい。きっと、これが落胆とか絶望とかいうものなのだろう。 　悲しい。でも、それ以上に悔しかった。 　遠ざかる背中に、せめてもの言葉をぶつける。 「心があってもなくても構いませんわ！ただ本当に、この胸が痛むんです！……ただ、それだけですわ…」 　背後から追いかけてくる言葉を、フォーレンは聞こえないふりでやり過ごした。 　だが、いくら歩いても、どんなに遠ざかっても、耳の奥に残ったフレナの台詞は消えなかった。 　痛む？胸が？…馬鹿な。 「アンドロイドに、心なんて無いんですよ」 　もう自分しか聞くものはいないのに、声に出して呟く。 「心なんて…あるわけがない…」 　そう、だから錯覚。 　胸が苦しくなったり、ましてや痛んだりなんて、するわけがない。 　これは、錯覚。 ++++++++++++++++++++ ++++++++++++++++++++ 　ルディは見事に、護り人としての使命を果たしてみせた。 　いや、本人は使命だとは思っていなかったのだろう。アルゴルの未来の為、全ての生きとし生けるものの為に。そして、ライラの為に。 「終わった、な…」 　消えてゆく次元の穴と深淵なる闇。 　アルゴル太陽系を襲う災厄の根は、ついに断たれたのだった。 「ルディ、わたくしはマスターのお手伝いにゼランへ行きますわ」 「もうモタビアへ来ることもないでしょう。どうかお元気で」 　フレナとフォーレンの言葉に、ルディはちょっと寂しそうに笑う。 「ああ…本当に、ありがとう」 　フォーレン、フレナ、シェス、ラジャ、そしてファル。 　ルディにハーン、パイク、スレイ。 　モタビアに残る者、デゾリスへ帰る者、お互いに最後の別れを惜しむ。もう、モタビアとデゾリス、ゼランを行き交うことはできない。 　思い思いに語らうメンバーの輪から少し離れ、フォーレンはフレナに訊ねてみた。 「本当にゼランへ来るんですか？」 「ええ！モタビアのシステムは完全に安定しました。もう、ゼランからのコントロールで充分ですわ」 　晴れやかな笑顔のフレナを見て、自分の考え過ぎかと安心する。あの晩の話をまた蒸し返されるかと思ったのだ。 「どうかしまして？マスター」 「なんでもありません」 　こうして、長いようで短かった旅は終わった。 「それでは、出発します」 「…さよなら…！」 　これから後、それぞれが、自分自身の物語を織り上げていくのだろう。一人で、あるいは二人で。でもそれは、また別のお話。 ++++++++++++++++++++ ++++++++++++++++++++ 　もう、あの話題は持ち出されまいと踏んだフォーレンの判断は甘かった。 　無事デゾリスへ、シェスとラジャを送り届けた後。ゼランに到着し、全システムのチェックを完了した途端、フレナはフォーレンにこう切り出したのだから。 「マスター・フォーレン！お話したいことがありますの」 「…なんです？」 　聞くまでもないような気はしたが、メインモニターに注目している振りを装いながら一応尋ねてみる。予想通りの答えが返ってきた。 「マスター。わたくし、マスターのことが好きですわ」 「もうその話は終わったはずです」 「終わっていません！」 　そっけなく言い捨てその場を後にしようとするフォーレンの前に、素早くフレナが立ちはだかった。 　精いっぱいに両腕を伸ばしているその姿を見れば、さすがにフォーレンも無理に押し通る気にはなれない。仕方なく、コントロールルームの中央へ引き返す。 　フォーレンはもう、こういった感情論に付き合う気はなかったし、付き合いたくもなかった。なぜ彼女はわざわざ、こんな話を掘り返そうとするのか。自分は忘れていたいのに。 「私に、何を望んでいるんです？私もあなたが好きだと言わせたいんですか？」 　フォーレンの言葉に、フレナは激しく首を振る。緑色の髪が勢いよく跳ねた。 「そうじゃありませんわ！ただ、わたくしの気持ちをわかって下さればいいんですの。受け入れてくれなくても構いません」 「理解しろと？」 「そうです。わたくしの気持ちを、否定なさらないで」 　食い入るように見上げてくるフレナ。その視線から逃れるように、フォーレンはすっと顔を逸らす。 「どうかしているとしか思えません。あなたの言葉は、まるで…そう、人間みたいですよ」 「ええ、わたくしは人間ですわ。もちろん、あなたも。マスター…いいえ、フォーレン」 　少女の言葉に、青年の目が文字どおり丸くなった。 　一体何を言い出すかと思えば…言うに事欠いて、人間、だと？ 「私たちが人間だと言うんですか？フレナ、自分がなにを言っているかわかっていますか？あなただって、自分の体を開けて追加パーツを組み込んだことがあるでしょう」 「ええ、でもそれは…」 　片手でフレナを制し、フォーレンは一息に言い切った。 「その時なにが見えましたか？脈打つ心臓ですか？赤い血の流れる血管ですか？違うでしょう。生身の人間の胸を開いたりすれば、死んでしまいますからね」 　青年の、穏やかだが有無を言わせぬ口調にしばし少女は俯く。しかしすぐに顔をあげると、真摯な表情で言いつのった。 　これだけはどうしても譲れない。わかって欲しい。 「確かに、わたくしたちの体は機械ですわ」 　手のひらを自分の胸に強く押し当てる。 「でも、心は違う。わたくしたちだって、人と同じ感情を持ってますのよ」 　そう言った瞬間、フレナは見た。フォーレンの顔が歪むのを。まるで、痛みに耐えるかのように。 　フレナはてっきり、彼が泣き出すものと思ったが、もちろんフォーレンは泣かなかった。いかに高性能のアンドロイドとはいえ、カメラレンズの眼球に涙腺は必要ない。 「フォーレン…？」 　また呆れられこそすれ、まさかそんな表情をされるとは思わなかった。わたくしが、彼を、傷つけた？ 「……あなたは何もわかっていない…」 　そう言いながら、フォーレンはゆっくりと後ろに下がった。そのまま、モニターにぶつかるまで後退する。フレナは注意深く、その表情から心意を読み取ろうとしたが、どうしてもわからなかった。 「フォーレン、何を言っているんですの？」 「…あなたは私が好きだと言いましたね」 　投げかけられる問いには答えず、逆に問いかけてくる。 「ええ。あなたが好きです」 　躊躇なく返された答えを聞いて、黒髪の青年は微笑んだ。 「あなたを作ったのは、他の誰でもない。この私です」 　そう言って、ますます笑みを深くする。口元は微笑をかたどるように曲がっているが、その眼は笑っていなかった。 「私があなたを組み上げて…全てのデータを打ち込んだ。あらゆるプログラムと共に」 　その先の台詞を予想してか、少女の瞳がはっと見開かれる。 「あなたが私を好きだと錯覚するように。最初から、そう仕組んでいた…と、言ったら？」 「嘘です！あなたは嘘をついてますわ！」 　飛び出したフレナの声は悲鳴に近かった。 　フレナの悲痛な叫びを聞いてもフォーレンはまだ笑っていた。泣きそうな瞳のままの、悲しげな笑い。それでも、喋る声音はあくまでも穏やかで淡々としている。 「なぜ嘘だとわかるんです？私はあなたにどんなデータも、どんなプログラムも入力することができましたよ」 「だって…どうして…？そんな、必要ありませんでしょう？」 「理由なら充分だと思います。自分の手足となるコンピューターを思い通りに動かすには、最適じゃありませんか？あなたもドウターのことは知っているでしょう」 　ドウター。フォーレンを管理ＡＩと認めずに暴走した、不完全な環境管理システム。でも、あれは…。 「フレナ」 　思わずびくりと身をすくめる。そんなフレナの様子を見て、フォーレンの笑みはまた深くなった。 「それでもあなたはまだ、私が好きだと言えますか？」 「フォーレン…」 　わからない。彼が何を考えているのか。そんなことがあり得るのか。フレナには何もわからなかった。 　そして思わず、口をついてしまった疑問。 「…本当に、わたくしにそんなプログラムをしたんですの…？」 　決してそう信じたわけではなかったのに。つい聞いてしまった。慌てて両手を口元に持っていったが、もう遅い。言葉を取り戻すことはできないのだ。 　フォーレンの表情は変わらなかった。 　だがフレナには見えた。碧い眼に映る哀しみがさらに深くなるのが。失敗した。自分は彼を大きく傷つけてしまったのだ。そしてまた、彼と同じくらい自分も傷ついた。 　同時にもう一つ、理解してしまう。彼はわざと、彼女にそう言わせたかったのだと。お互いに傷付くことを知っていて、それでもフレナから答えを引き出したのだ。 　フレナを拒絶するために。 「ごめんなさいフォーレン！違いますわ、わたくしは…！」 「いいんです。あなたは悪くありません、フレナ」 　そう言って優しく笑う。穏やかで優しい、フレナの大好きな笑顔。しかしその表情とは裏腹に、紡がれる言葉は冷たく厳しい。 「でも、これでわかりましたね？私たちには、信ずるに足る心などないことが」 「それはっ」 「私はあなたのプログラムに意図的な細工をしたかもしれないし、しなかったかもしれない。あなたにはわからない…そしてあなたはもう、自分の感情に自信が持てなくなった、でしょう？」 「でも！でも…！」 　フレナは泣きたいような気持ちで食い下がった。本当に涙をこぼすことができたら、どんなに良かっただろう。そうすれば、彼の心を少しでも動かせただろうか。 「あなたは傷ついていますわ！それが心を持っている証です！あなたが、心を持っていると……！」 「私は傷ついたりしませんよ、フレナ」 　もう、フォーレンの顔にも瞳にも、感情らしい動きは見えなかった。先程までの悲しみの名残りはどこにもない。 「それがアンドロイドです」 　この上もなく機械らしい、無表情。そして、完全な拒絶。 　フォーレンは彼女を拒んだのだ。必要無い、と。 ++++++++++++++++++++ ++++++++++++++++++++ 　そんなやりとりがあってからも、ゼランでの暮らしは変わらなかった。 　二人で環境管理システムをチェックし、シュミレーションデータに基づいて長期に渡る天候調整スケジュールを組む。時折、小さなバグが発見されることはあっても、おおむねアルゴル太陽系は安全に保たれていた。 　仕事で必要がある時以外、フレナは滅多にフォーレンの側へは来なかった。お互いに仕事は黙々とこなし、それ以外の時間は離れて過ごす。フレナが何をしているのかは知らなかったが、フォーレンは特に聞かなかったし彼女も話さなかった。 　そして二人共、もうあの話題を口に登らせることはなかった。 　ときどき、フレナがぼんやりと考え込んでいたり、フォーレンの方を物言いたげに見つめていることはあった。だがフォーレンはあえて目に入らないふりを通したし、フレナもそれ以上何か言うつもりはないらしかった。 　こうして、静かな、不自然なほど静かな時間が流れていく。 　そんなある日。 　フォーレンが外壁の補修作業を終えて戻ってくると、コントロールルームのディスプレイに、フレナからのメッセージが表示されていた。 「…？」 　フレナがゼランにやって来て以来、こんなことをするのは初めてだ。それに、なにか伝えたいことがあるなら直接話した方がよっぽど早い。 　狐につままれたような思いで、フォーレンはディスプレイに映る文字列を目で追い始めた。

親愛なるフォーレンへ 素敵な書き出しだと思いませんこと？パルマ人の手紙の書き方を勉強したんですのよ。 さて、わたくし、あれから色々と考えてみました。 あなたの言ったことも、わたくし自身のことも。それでも結局、答えは同じでしたの。 わたくしはやっぱり、あなたのことが好きですわ。 これは仕組まれた感情なのかもしれません。確かに、それを確かめる術はありませんわ。 ですけれど、今ここにいる『フレナ』は、あなたが好きだと思っています。 これはもう誰にも、あなたにだって変えられないことですわ。 わたくしは自分を信じます。わたくしの感じる、自分の心を信じます。 でも、あなたが信じてくれないのでしたら、仕方がありませんわね？ だから…わたくし、証明してみせますわ。 フォーレン。わたくしが壊れたら、また『フレナ』を作って下さい。 なにも特別なプログラムなんて入れないで。ただのアンドロイドとして作って下さいませね。 もちろん新しい『フレナ』は、わたくしとは全くの別人になってしまいますわ。 でもきっと、その子も、あなたが好きになります。わたくしと同じに。 だってあなたは素敵な方ですもの、フォーレン。 あなたはもっと、ご自分に自信を持ってもいいと思いますわよ。 新しい『フレナ』もきっと、あなたに恋をします。 何百年、何千年かかっても。必ずまた、あなたを好きになります。 そうしたら…その時が来たら、わたくしの言葉も信じてもらえますわね？ そして思い出してください。あなたを好きだと言った、最初の『フレナ』のことを。 これからわたくしはメモリーを消去して、全システムを初期化、体内の機能を停止します。 残ったわたくしのボディーパーツは、有効に再利用して下さい…と言うべきかもしれませんけど、 できれば、人間みたいに埋葬して欲しいんですの。 こんなことを書くと、きっとまたあなたは呆れてしまいますわね。 でも、わたくしの最後のわがままくらい、聞いて下さってもよろしいと思いますわ。 しつっこいようですけれど、本当に、本当に、わたくしはあなたが好きでしたのよ。 どうかそれだけは忘れないで下さいね。そして必ず、思い出して下さい。 それでは、お元気で…。 フレナより、愛を込めて

「フレナ！！」 　メッセージを読み終えるやいなや、フォーレンは全速でコントロールルームを飛び出した。 ++++++++++++++++++++ ++++++++++++++++++++ 　フレナがいつも私室と称して使っている部屋。 　そのさほど広くない部屋の真ん中に、見慣れた姿が横たわっていた。 「…フレナ！」 「フレナ…なんてことを……」 　傍らに膝をつく。金属の触れあう耳障りな音が、無機質な部屋に響き渡った。 　手を差しのべ、力の抜けた少女の体を丁寧に抱き起こす。驚くほど細く、軽い。 　伏せられたまぶたをこじ開けて反応を確かめる。アイカメラの反射運動がないことを確認し、今度は胸部ユニットを開く。強制再起動をかけようとして、非常用のバックアップメモリーや回路がごっそりと欠けているのに気が付いた。フレナがあらかじめ外しておいたのだろう。 「こんな…馬鹿、な…こと……」 　乾いた音を立てて、胸部のカバーが閉じる。 　あの手紙を読んで焦ったことは事実だけれど、なんとなくここにくれば、フレナがにっこり笑って『冗談ですわ』と言ってくれるような気がしていた。が、今初めて、フレナの決意が本気だったとわかり、全身の力が抜けた。 　そっと、小さな体を再び床に横たえる。 　鮮やかな緑色の髪が、綺麗な弧を描いて広がった。その真ん中で、白くあどけない顔が無邪気に微笑んでいる。そう、彼女の顔は笑っていた。まるで、『ほらね？やりましたでしょ』と得意がっているみたいだった。 「本当に、私があなたを、もう一度作り直すと思ったんですか…？」 　そんなこと、できるわけがない。 　この少女の代わりなんてどこにもいない。 　自分にだって作れない。もう二度と。 「フレナ…」 　情けないほど震えている自分の手。一体のアンドロイドが機能を停止しただけだというのに。なのにどうして、こんなにも胸が痛む？ 　そう、胸が痛い。これは確かに痛みだった。 　自分は、悲しんでいる。 「…あなたは一つだけ、間違えましたよ」 　私は薄々気付いていた。自分にも感情があると。 　でも、認めたくなかったのだ。フレナの言葉を認めるわけにはいかなかった。 「私が信じられなかったのはあなたじゃありません…」 　震える手で、額に触れる。 　髪をかきあげる。 「自分が、信じられなかったんです……」 　柔らかい髪は、主人の体と同じように力なく、さらさらと流れた。 　もう謝罪も懺悔も間に合わない。今からでは遅すぎる。 　私が一体、彼女に何をしてやれるだろう？ 「…ここには花はありませんが、あなたの墓に供えるためにプラントを作成しましょうか」 　彼女の最後の望み。 『人間みたいに埋葬して欲しい』 　もういなくなってしまった少女にとって、それがどれだけの意味を持っているのかはわからない。けれど、それが彼女の望みなら、叶えてやりたかった。 　とりあえずコントロールルームへ行く必要があると判断し、フォーレンは軽々とフレナの体を抱き上げた。別にこのままここへ残していっても構わないのだが、なんとなく、目の届く所に置いておきたかった。 　小柄な体をすっぽりと腕におさめ、通路へ向かう……。 　が、急に、ぴたりと足が止まった 「？！」 　気のせいではない。フレナが…動いている！ 　ぴくりと瞼が震えたかと思うと、ゆっくりと持ち上がり、髪と同じ鮮やかなグリーンの瞳があらわれた。パチパチとまばたきをくり返し、眩しそうに目を細めている。 「ん……う〜ん」 「フ、フレナ？！」 「あら、マスター…ではなくて、フォーレン！また間違えてしまいましたわ」 　長年の習慣ってなかなか抜けないものですわね…そんなことを呟きながら、もぞもぞと体を動かし始めた。慌てて床に降ろしてやると、しっかりと自分の足で立ち上がり、のんきに腕を伸ばしたりしている。 「…一体、どうして……てっきり、本当に、機能停止したと…」 　やっとのことで切れ切れの言葉を吐き出すと、フォーレンはぐったり床に座り込んでしまった。そんなフォーレンとは対照的に、フレナは妙に嬉しそうに跳ね回っている。 「まぁ！フォーレンの目も欺けるなんて、わたくしの演技もなかなか大したものじゃありませんこと？」 「演技？あれが演技だったんですか？馬鹿な！確かに機能は停止していたし、胸部中枢ユニットだって大きく欠損していた！」 「そう、大変だったんですのよ！あれには苦労しましたわ。フォーレンに一目で見破られないよう、改造しましたの」 　そう言いながら、ぱかりと自らの胸部を開いてみせる。 「通常活動に必要な機能だけ残して、他は全部外してしまいましたの。ほら、ここの辺とか、ここも」 「………」 「それで、動力中枢なんかは、一見どうでもいい回路やパーツに見えるようにいちいち改造しましたのよ！すごいでしょう？ほらほら」 　自慢げに改造箇所を指し示しているフレナを横目に、フォーレンは頭を抱え込んでしまった。それを見て、フレナもさすがに調子に乗りすぎたと思ったのか、しっかりとユニットをロックすると青年の横に腰を降ろした。そして頭を抱えたままのフォーレンの肩に手をかけ、そっと揺する。 「あの…ごめんなさい、フォーレン？怒ってますの？」 「……なぜ」 「え？」 　ほとんどうめき声に近い質問が、フォーレンの口から洩れた。 「なぜ、機能が回復したんです…？」 「あ、あれには仕掛けがあったんですのよ」 　どうやら怒っているわけではないとわかったのか、再びちょっと得意げな響きで解説を始める。 「わたくしの作った、特殊プログラムと回路を組み込んでおきましたの。全機能を停止しても、その回路だけはこっそり生きていたんですわ。それで、わたくしのボディーが50cm以上の高さを移動したら、自動的に再起動するようプログラムされていたんですの」 「50cm…？」 「フォーレンはきっと、わたくしを抱き上げて運んで下さると思ってましたわ」 　にっこりと、それは満足げに微笑んでいるフレナの顔を見て、またもやフォーレンは頭を抱えてしまった。 　その傍らで、フレナはなにやらごそごそと小さなパーツを体内から取り出した。状態をチェックし、異常なしと見ると、すっと立ち上がり部屋の出口へ向かう。 「…フレナ？どこへ行くんですか？」 「コントロールルームでこれを再生してまいりますから。ちょっと、お待ちになっててくださいね」 「再生…って、なにをです」 　通路と部屋の境目で振り返ったフレナは、小さな、手のひらにすっぽり収まってしまうような部品をひらひらと振ってみせた。 「回路閉鎖中の音声だけは録音しておきましたの。フォーレンがどんな反応をしてくださるか、どうしても知りたかったんですわ…ごめんなさいね」 　そうして、これっぽっちも悪怯れたところのない顔でにっこり微笑むと、くるりと身をひるがえし通路を駆けて行く。一人呆然と取り残されたフォーレンが我に返る頃には、もう軽い足音はほとんど聞こえないところまで遠ざかっていた。 「……録音？！ちょ、ちょっと待って下さい、フレナ！ちょ、待って……！」 ++++++++++++++++++++ ++++++++++++++++++++ 　で、当然。 　フォーレンがなんと言おうと、止められるようなフレナではなかった。 『…フレナ…！』 『フレナ…なんてことを……』 『こんな…馬鹿、な…こと……』 『本当に、私があなたを、もう一度作り直すと思ったんですか…？』 『フレナ…』 『…あなたは一つだけ、間違えましたよ』 『私が信じられなかったのはあなたじゃありません…』 『自分が、信じられなかったんです……』 『…ここには花はありませんが、あなたの墓に供えるためにプラントを作成しましょうか』 　勝ち誇ったようなフレナの笑顔。 「マスター・フォーレン？これは、どういう意味ですの？」 「…参った、参りましたよ、あなたには…完敗です」 ++++++++++++++++++++ ++++++++++++++++++++ 「私はあなたを作った時…多分、寂しかったのでしょう」 　コントロールルームのメインモニターの真下に、二人並んで座り込んでいた。 　壁に背中を預け、とつとつと語るフォーレンの傍らに、フレナがぴたりと寄り添っている。自分よりかなり高い位置にある横顔をじっと見つめ、一言も漏らすまいと耳を傾ける。 「そう…寂しかった。でも、私にはそんな感情を認めることができませんでした。自分はアンドロイドなのだと、何度も何度も、言い聞かせてきました」 　そう言うと、短く嘆息し、こつりと頭を壁にもたせかけた。 「おそらく私は怖かったんです。アンドロイドにも感情があると認めることが」 「怖い？」 「もう、千年以上にもなります。私が稼動し始めてから。そして、ここゼランで、システム管理を始めてからは…」 「………」 　聞かなくてもわかる気がした。 　独りきりで過ごす何百年という時間は、一体どれだけの孤独なのだろう。ひたすらに続く、終わりのみえない永遠。一度、寂しさを認めてしまえば、その怪物はどんどん大きくなる。心は押し潰され、喰われてしまうだろう。 　思わず、青年の腕に手を伸ばす。 「わたくしもファルも、幸せですわね。目覚めた時から、ファルにはシードが。わたくしには、マスターが…フォーレンがいて下さったんですもの」 　腕に添えられた少女の手に、フォーレンも自らの手を重ねる。気遣わしげなフレナに、大丈夫と頷いて話を続けた。 「あなたを組み上げている間、もちろんそんなことは考えていませんでした。ただ、ナルバスの管理の為…それだけを考えていたつもりでした」 「………」 「だから、あなたにも必要以上の性格プログラムは与えなかった。個性も作らなかった…筈、なのに……」 　深い碧色の瞳が瞼の奥に隠れ、ぎゅっと眉根が寄せられた。しかしまたたく間に苦悩の表情は消え、いつもの穏やかな顔が戻ってくる。こういった切り替えの早さも、孤独に耐えるために鍛えられた自制心からきているのだろう。 　不意に首を傾け、フォーレンはフレナに一つの問いを投げかけた。 「起動して真っ先に、あなたがなんと言ったか憶えていますか？」 「え？ええ…憶えてますわ」 　アンドロイドの記憶は劣化も破損もしない。即座に、フレナは必要なデータをメモリーから呼び出した。 「『おはようございます、マスター！わたくしのことはフレナと呼んで下さいます？』…でしたわね」 「ええ、そうでした」 　長く息を吐き、しばし過去を思い出すかのように遠くを見つめる。 「目覚めたあなたが、そう言って微笑んだのを見て、私は自分が怖くなりました。無意識に、自分に都合のいいプログラムを挿入してしまったと思ったんです。自分に、都合のいい人形を作ろうとしたんだと…」 「でも、そうしなかったのでしょう？」 　フレナの言葉に、黒髪の頭がゆっくりと振られる。 「…わからない……わかりません。でも、あなたを作りながら、私はずっと望んでいたのかもしれない。自分と同じ時を生きる誰かが欲しいと」 「フォーレン…」 「フレナ、私には本当にわからないのです。私はあなたの感情をコントロールしたつもりはありません。しかし、あなたをこんなにも個性に富んだアンドロイドにしたつもりもなかった。だから…」 　辛そうに目を伏せる青年の顔を覗き込み、フレナはくすりと笑った。 　この人は、なんて…なんて正直で、不器用で、融通がきかないんだろう。でも、それがフォーレンのいい所だとちゃんと知っている。 　指を伸ばし、俯いているフォーレンの頬に触れる。 「思い悩むお顔もハンサムですけど、ちょっと深刻すぎますわよ」 「フレナ？」 「わたくし、どうして自分が感情を持って生まれたのか、わかる気がしますの」 　そう言って、悪戯っぽい瞳をくるくると輝かせた。 「本当ですか？それは一体…」 「それはね…」 　フレナはさらに身を乗り出して、まつげの触れそうなほど近々と顔を寄せる。 「愛の奇跡ですわ！」 ++++++++++++++++++++ ++++++++++++++++++++ 「…なんだか近頃、ルディの気持ちがわかったような気がします」 「え？何か言いまして？フォーレン」 　こっそりと呟いた独白を、少し離れた場所で作業していたフレナは耳ざとく聞きつけたらしく、ぱっと顔を振り向けてきた。アンドロイドの聴覚は優れているし、おまけにここには二人っきりで、雑音に邪魔されることもない。通路には微かに空調の音が流れているだけだ。 　とっさに笑顔を浮かべ、何気ない風で答える。 「いいえ、なんでもありませんよ」 　しかし、やっぱり聞こえていたようだ。 「ルディはまたちょっと、違うような気もしますけど。でも本当に、女性を甘く見てはいけませんわよ」 「聞こえていたんじゃないですか…」 「聞こえなくたって、なんとなくフォーレンの言いそうなことくらい分かりますわ」 　そう言いながら、作業道具をかき集めてこちらへ戻ってくる。 「あら、こちらはまだですの？お手伝いしましょうか？」 「ありがとう。でも、これくらい大丈夫です」 　フォーレンの答えに、ちょっと首をかしげるフレナ。結局、隣にしゃがみ込んで自分も手を動かし始めた。 「せっかく二人でいるんですもの。二人でやれることなら、一緒にやった方が楽しいでしょう？」 　そう言って、にこりと微笑む。一瞬、眩しそうに目を細めたフォーレンも、つられるように柔らかく表情を崩した。 「そうですね…」 　しばらくの間、二人して黙々と手を動かし続ける。 　と、不意にフレナが呟くように話しかけてきた。 「…まだ、ご自分の心は信じられませんの？」 　数日前のフレナの狂言騒ぎから、毎日くり返されている質問だった。 　一瞬、フォーレンの手が止まる。瞳を瞬き、質問の答えを探そうとするかのように虚空を見つめた。 　しばしの躊躇いの後、返ってきた返事は答えになっていない。 「……いえ、今は…でも…」 「フォーレンは真面目すぎるんですわ！深刻に考え過ぎです！」 　いまいち煮え切らない青年の声に、少し苛立ったように声を高くするフレナ。しかし、声とは裏腹にその表情は楽しげだった。 「アンドロイドのわたくし達だって、不老不死というわけにはまいりませんのよ。ボディーが壊れたり、機能が停止する可能性はありますわ。ですから、限られた人生、自分の心には素直に生きるべきだと思いますの！」 　ずいぶん長い人生ですね、と言いかけ、あわてて言葉を飲み込む。 「生きる…ですか」 　フォーレンには、正直、まだ彼女が言うような『アンドロイドの生命』が実感できない。自分の胸に宿るこの得体のしれないものを、愛情と呼んでいいのかどうかも分からない。 　だが、彼女が何度も自分に囁きかける言葉を聞いているうち、不思議と以前のような不安や罪悪感は薄れはじめていた。これも一種のマインドコントロールなのだろうか？しかし、精神を、それも自我を発生させるマインドコントロールなんて聞いたことがない。 　そこまで考えて、思わず自分の思考に笑いを誘われたが、真剣に話しているフレナの手前とっさに真剣な顔を取り繕った。それには気付かず、フレナは熱っぽく話し続けている。 「そうですわ。あ、でもフォーレン、わたくしよりも先に機能停止なんてしないで下さいね？そんなの絶対、許しませんから」 「私が機能を停止しても、すぐにあなたが直してくれるんでしょう？」 「もちろんですわ！フォーレンも、わたくしが止まってしまったら、ちゃんと修理してくださるでしょ？」 　そう言って無邪気に笑う少女を見ながら、それもいいかな、とちらりと思う。 　この少女と永遠に生き続ける。アルゴル太陽系の片隅で。そしていつか、モタビアの民は再び宇宙に飛び出し、ここまでやって来るのかもしれない。あの少年達の、遠い遠い子孫が。 　その日をずっと待ち続けるのも、面白いかもしれない。 　もう、独りではない。 　フレナと一緒ならば。 「フォーレン？」 　突然黙りこんでしまった青年を、小さな顔が心配そうに覗き込む。自分を気遣う瞳を見返し、フォーレンは優しく微笑んだ。 「…なんでもありませんよ」 　そう言ってフレナの肩に腕を回すと、ぎゅっと抱き寄せたのだった。 おしまい 追記：その後のフォーレンとフレナは… お墓に供える必要はなくなったけど、バイオプラントは本当に作ったみたいですよ。