注意： 本作品はセガ・エンタープライゼスのロープレ「PhantasyStar」シリーズの２次創作物です。 本件に関し、セガ・エンタープライゼス、関係する個人、企業、団体等へのお問い合わせはしないでください。 本作品は原作の内容、設定等とは著しく異なります。本件に関する作者への抗議などはご遠慮ください。 今回の登場人物を紹介します。 ・ユーシス（主人公） モタビア星に飛ばされた、しがないエージェント。 ・アーミア・アミルスキー モタビア星でイチバンの腕を持つエージェント。 ・ネイ ユーシスがそう呼ぶ謎の少女。 ・ルドガー・シュタイナー モタビア政府軍の少佐。少佐の癖に偉くない（笑） ・モタビア総督 偉そうな人。 ================================================================================ |
| PhantasyStar 〜還らざる時の終わりに〜 |
作：BlueSin |
第二話「夕暮れに沈む心」 １- プシュー。 高速昇降機の密閉されたドアが、圧縮空気を開放する音を立てながら左右に開く。 目の前には左右に通路が展開し、その中央に一つだけ扉がある。 重厚な木製のいかにも高そうな扉。その左右には観葉植物と一般的に言われる鉢が置かれていた。 「この扉の向こうに、総督がお待ちです」 付き添われた女性の言葉に一つだけ頷き、扉に手をかける。 ギイと重々しい音が響く。 部屋は一面のガラス張りだった。 およそ１８０度一面の空。そして町並み。 不要なものは一切無く、本棚やらそういった書籍、書類の類も見当たらない。 ただ二つの長机が左右に配置され、その中央、通称お誕生日席と呼ばれるその位置に、一際立派な机がデンと構えている。 その席に座る初老の男もそれに負けない貫禄を持っていた。 モタビア星総督。オレの義理の父―― アルゴル太陽系モタビア。宇宙の何処かに、そう呼ばれる星があった。 元々我々人類はパルマという星に住んでいた。パルマはアルゴル太陽系の第一惑星で、緑と水にあふれたとてもよい星だ。 しかし増加する人口に頭を悩ませた政府は、千年前から惑星移住計画を遂行した。 そして、この第二惑星であるモタビアに人々は移住し始めたのだ。 かつて砂漠であったこの惑星に人の手が入り、緑豊かな惑星となったのは５００年ほど昔だと言う。 いまでは、主星パルマに並ぶ都市機能を持っている。 そのモタビアの首都パセオ・シティに、オレはエージェントとして派遣された。 理由はまあ、そのなんだ。紆余曲折だ。人には色々聞かれたくないこともある。 そして、今ここにいる。 モタビア星パセオシティ。その中央にあるセントラルタワー。 政治経済等の中枢で、あらゆる行政の取り締まりを行う場所。 そして、我々エージェントのオフィスのある場所。 そのエージェントの長が、他ならぬモタビア星総督なのだ。 目の前の男、モタビア星総督は、「失礼します」と入室した我々をちらりと一瞥し、再び机に目を落とす。その手はひっきりなしに動いていた。 付き添ってくれた女性が、「しばらくお待ちください」と、耳打ちする。 流れるような黄金色の髪、ブルーの瞳が印象的な女性だ。 おそらく、総督の秘書かなんかだろう。 ５分ほどだろうか、実際にはもっと短かったかもしれない間の後、総督はコトリとペンを置いた。 「待たせたね」 両の手を机の上に組み、彼の顔を見つめる。久しぶりの対面である、感慨深いものがあるのだろう。 「久しぶり、だね。ユーシス君。君はあまり変わっていないようだが…」 言われて赤面する彼、ユーシス。そう、それが彼の名前だ。 １０歳のとき、事故で両親を失い、自らも記憶喪失となった。 その後、モタビア総督に養子として引き取られ、パルマ星で不自由なく育てられる。 ゆえにユーシスにとって、総督は父親同然、いや父親なのだ。 「しかしまあ、随分とやってくれたね。 命令違反。独断専行。無断進入。挙句の果てに上官に怪我を負わせて… 本来なら懲戒免職の上に法的手段にのっとって拘留されておかしくないのだよ？」 総督はかなり怒っている。当然だ。ユーシスの保護者は彼なのだから、当然いろいろ言われるだろう。 それでもあえて彼を庇い、自分の所に呼び寄せたのはひとえにユーシスを我が子として可愛く思っているに他ならなかった。 総督とて、彼がただ無鉄砲に命令違反や独断専行に走ったのではないと知っている。 彼のおかげで数多くの命が救われた。これは事実なのだ。 だが、たとえ彼がどんなに功績を上げようと、はみ出した事をすれば叩かれる。 それが社会のルールなのだ。 だから総督は彼を呼んだ。このまま潰してしまうには余りにも惜しい逸材。 そういう総督の気持ちを知ってか、ユーシスは「はぁ」と気の無い返事をする。 総督もいささか困った様子でこめかみを抑えた。 「まあ、以後君は私の管轄で動いてもらう事にする。 もうパルマに戻れるとは思わん方がいいだろうな」 ユーシスとてそんな気はさらさら無かった。 元々ユーシスはモタビア勤務を望んでいたのだ。 ７年前、果たせなかった約束を果たす為に… 「今後、君はそこにいる彼女と行動をともにしてもらう。 彼女は優秀なエージェントだ。君も見習う所が多いだろう。 彼女の元で、しっかりと勉強するように。いいかね？」 総督の言葉に、やっぱり「はぁ」と気の無い返事で返す。 彼女が秘書ではなくエージェントであるとは、多少驚いたが、まあどうでもいい事だ。 「アーミア・アミルスキーです。よろしく、ユーシス君」 と、差し伸べられた手に、軽く握って返すが、気持ちそこにあらずであった。 ２- 「――というのが、今のモタビアの現状よ。 何か質問は？」 総督と別れ、セントラル・タワーにあるライブラリーで、アーミア・アミルスキーによる現在のモタビアの情勢というものの講釈を、 ３時間の長きに渡って受ける。 ユーシスは半分以上聞き流していた。元来マジメでないのだ。 大体、そんなもの説明を受けなくても大体は把握している。 現在の政治情勢、バイオモンスターと呼ばれる異常生物の発生と被害。悪質ハンターの増加。 そんなものを要らぬ補足や説明などでデコレーションして、３時間も聞きつづければ、流石の聖人君子でも嫌気が指すだろう。 そんなものは必要ないと、ユーシスは最初彼女に申し出たのだが、「これも仕事のうちです」と、あっさり却下された。 質問は？との問いに、彼は待ってましたとばかりに手を上げる。 「アーミアちゃん。しつも〜ん」 ユーシスの言葉に、アーミアはこめかみをピクピクさせる。 あ、マヂでおこった。だが、ユーシスはお構いなしだ。 「ユーシス君。私はあなたの先輩なのですから、アミルスキー先輩と呼んでくださると嬉しいですわね。 それから、今は職務中です。そういうふざけた態度は慎んでください」 冷たく、静に、憤怒をこめて言い放たれる。 からかいがいのある。ユーシスは心の中でだけ微笑を浮かべる。 「で、アーミア。 質問なんだけどさ」 「アミルスキー先輩！」 即効で訂正されるが無視。 「バイオモンスターが現れたのは、６〜７年前って言ってたよな？」 さっきとは打って変ってマジメな顔で質問され、アーミアは豆鉄砲を食らったような顔して驚くも、 「え、ええ。そうです。初めて事象が確認されたのはバイオプロント近くの地価水路でした」と答える。 「で、よ。そのモンスターの中に、人間の容姿をしたヤツはいるのか？ 人の言葉を話すようなヤツはよ」 ユーシスの質問に、アーミアは怪訝な顔をする。 なぜそんな質問をするのか理解できない。そういった面持ちだ。 「そ、そのようなバイオモンスターの例はいままで発見されていませんね。 人型というならそれに近いものはいるかもしれませんが、人間の容姿となると皆無です。 まして、人の言葉を話すだなんて…」 ユーシスは考え込む。 アレはバイオモンスターではない？ いや、単に発見されていないだけなのだろうか…。 いずれにしても、彼女が知らないというのなら、そう簡単に情報を追えるとは思えない。 慎重に調べる必要がある。 「ユーシス君。何を…考えているんですか？」 アーミアの問いに、しかしユーシスは答えなかった。 一通りの庶務を終え、アーミアに新しいユーシスの家まで案内してもらったとき、すでに夜も更け、街にあるものみな寝静まっていた。 「わるいな。こんな時間に」 玄関を開け、明かりをつけ、扉のところで立ち止まっているアーミアに労いの言葉をかける。 「いいえ、これも仕事ですから」とだけ彼女は答える。 送ろうかと申し出たが、ユーシスもこの辺りに詳しいわけでなく、また近くだからと断られた。 彼女を見送り、服を脱いで長椅子にドカと座り込む。 「――必ず、探し出してやる」 待ってろよ、ネイ。 思い浮かべる少女の顔は、あの時からずっと泣いたままだった。 ３- 「あとどれくらいで着くんだ〜？」 前方から後方へ、流れ行く景色は一向に変化がない。もうかれこれ１時間もこの道を進んでいる。どれくらいスピードが出ているのか 知らないが、いったいどれくらいの距離があるのか？ 「そうね、あと１時間くらいってところかしら」 げえ、と内心舌をだしながら、今回の仕事の内容を確認する。さっきから何度も確認しているが、他にする事が無いのだから仕方ない。 こんな時、アーミアと気の利いた会話でも交わせればよいのだが、いかんともこの女は固い。これまで何度か外に出る仕事を請負ったのだが、 何度話し掛けても冷たくあしらわれる。まるで彼女が壁でも作って、それ以上寄せ付けないような、そんな疎外感を受ける。そんなこんなも あって、最近では流石に積極的に話し掛けるということも無くなった。無駄な労力。これ以上無理に話し掛けても、彼女の心は離れていくだけと判断 したからだ。まあもっとも、彼女自身に興味があるというわけでもないのだが。 仕事の内容は単純とは言い難い。何せ軍がらみと来た。まあ、情報収集だけということで、それほど厄介な仕事でもないだろう。 内容を簡単に説明するとこうだ。 アリマーヤという街で、テロが発生した。 ハンター数人が爆発物をもって、街の至る所を破壊しているというのだ。 本来ならばこんな事件、エージェントの出る幕ではない。警察や、軍の仕事だ。任せておけばいい。実際軍が出動し、沈静の方向で動いているという。 ところが、それだけの事件に関わらず、中央政府にその情報が入ってこなかった。しかも動いている軍がモタビア軍ではなく、アルゴル政府軍だという。 なんとも奇妙な話しだった。たかがテロリスト如きに政府軍が介入するなど、しかもそれをモタビア政府に情報をながさないなどありえない話しだ。 この話し自体も、民間経由でモタビア政府に持ち込まれたものだ。 アルゴル政府が介入しているのでは、モタビア政府としては簡単には動く事が出来ない。 そこで、現地でいったい何が起こっているのが、情報を収集するべく二人が派遣されることになった。 「どう思う――これ？」 足を前面に投げ出し、次々とFAXで送られてくるどうでもいいような報告書を指ではさみ上げながら、黙々と運転に集中している彼女に話し掛ける。 ユーシスは暇つぶしがてら、報告書に目を通していたが、彼女に関しては最初の指令書いがい、一切目に触れていない。 読むまでも無い。そういうことだ。実際ユーシスが目を通していて、役に立つ情報など皆無だった。 「わからない。ただ――」 アーミアに聞いて解るわけは無いのだが、一応意見を聞く。 案の定、なにか思い当たるフシがあるようだ。 この指令を受けて以来、どうも彼女の顔が曇りがちなのが気にはなっていた。 「ただ？」 「昔、そう、７年位前に同じような事があったと記録にあるわ。 詳しい事は私も知らないのだけれど、その時も同じようにモタビア政府軍がでてきて、いくつかの街が破壊された。人知れずにね。 しかも丁度総督も不在だったらしいから、モタビア政府も早急な手を打つことができずに指をくわえてみてるしか出来なかったみたい」 ７年前か――丁度、ユーシスがモタビア星を離れ、パルマに移住した頃だ。 確かに当時、総督はモタビアにいなかった。 なにせ、ユーシスと共にパルマに居たのだから間違いはない。 その合間に、モタビアでそんな事件が起きていたとは… 「やれやれ、だな」 ユーシスはそれきり閉口する。 ７年前の事件、そして今回。 何か関連するものがあるのだろうか。 ７年前―― ん？ ７年前？ ユーシスはある一つの疑問を抱いた。 「おい、アーミア！」 「アミルスキー先輩と呼べといっているでしょ！！」 毎度あきずに即効で訂正される。だが、そんな事に構っている場合ではない。 重大な疑問がそこにはあったからだ。 「アーミア、お前いくつだ？」 「…はぁ？」 一瞬の沈黙の後、アーミアはこれでもかって言うほどの疑問符を顔に浮かべる。 「いくつって失礼ね。あなたと同じ歳。１９よ」 ぐは！同じ歳だったのか。年下だと思っていたユーシスはちょっとショックを受ける。 「じゃあ、なんで７年前の事情にくわしいんだよ？ 計算あわねーじゃん」 ただそれだけの疑問だった。 ひょっとしてこいつ、年下に見えて実は二十ウン歳。いや、３０過ぎという事もありうるのだ。 いやはや、最近の整形技術や化粧品技術というのは恐ろしい。 …さっき１９いったじゃん。そんなツッコミはさて置いといて、一人恐ろしい想像に浸っていた。 「…あのねぇ。あなたの顔見て何を想像しているか大体理解できるけど、私は正真正銘１９歳ですからね。 ７年前の事にしたって、ライブラリーで類似事項を確認したら出てきたからしってるだけで、詳細は知らないといったでしょう？」 「あ、なんだ」 ちょっと残念。モタビアＮｏ１の美少女エージェントにして、その実年齢は○×なんて、ゴシップのネタとしては最適かとおもったのだが。 「しっかし、よくそんな時間あったなぁ。 オレなんかより先に集合して、そんな暇無かったように見えたけど」 「…あなたと違って、私は優秀ですからね。 事前に下調べして、それから集合場所へ行ったんです。 それよりも遅いあなたがどうかしてるんですよ」 「面目ねぇ…」 そこまで言われたら、黙るしかなかった。 ４- アリマーヤの街は喧騒に包まれていた――かと思いきや、実は意外と静かだった。 報告のあった爆発の跡もそれほどなく、町並みはそれほど騒ぎがあった様には見えない。 二人して、疑問符を浮かべた顔を交わしてみるも、答えなんかわかるはずが無いので、とりあえず街の奥へと車を進める。 ほどなく、街の中央付近でそれらしきものを見つけた。 街の中央に位置する、通称コントロールタワー。 それはアルゴル太陽系全ての管理を行うメインコンピュータ「マザーブレイン」の指令を受け、それにあわせて行政統治を 行う為の巨大コンピュータ。パセオのセントラルタワーの縮小版みたいなものだ。 最も中にはそれ以外の施設もあるのだが、一般には立ち入り禁止だ。 我々エージェントも、特に許可が無い限り入る事は出来ない。 そのコントロールタワーの周囲に、軍隊らしき人影と車両が並んでいた。 車両といっても軍隊である。普通の車ではなくて装甲車やら、中には小さな砲台の着いた戦車もある。 どうやら、ここが現場のようだ。 車を降りようとするユーシスに「待って」とアーミアが呼びかける。 彼女が指差す先には、軍隊の所属を示すマークがあった。 「あのマーク。モタビア政府軍のマークよ。 情報ではアルゴル政府軍が来てるって話しだったけど…」 どういう事だと頭を悩ませてるうちに、一人の兵士が近寄ってきた。 「こら！何をしている！ 現在、戒厳令が出ているのを知らないとは言わさんぞ！！」 どなり近寄る若い兵士に、アーミアは車を降りると、身分を証明するエージェントの手帳を提示する。 「私たちはモタビア政府のエージェントです。 アリマーヤでテロが発生したときき、調査の為にここに着ました。 ここの責任者に会わせてください」と言い放った。 ユーシスもそれに習い、エージェントの身分証を提示する。 若い兵士は、それを見るやバっと敬礼すると、「失礼しました！ご案内します！」と高らかに声を上げ進みだした。 なかなか礼儀がいいじゃないか。モタビア政府軍ってのは。 そうアーミアに耳打するが無視。彼女は余計な事には一切口を利いてくれなかった。 まあ、それも予想のうちと、ユーシスは内心含み笑いで兵士の後を追う。 これがアルゴル政府軍であったなら、こんなすんなりは行かない。 ユーシスはパルマでイヤというほどアルゴル政府軍とイザコザを起こしていた。 奴らはどうもエリート意識が強く、政府のエージェントなんか目にもくれないので、ユーシスとしては面白くなかったのだ。 彼がモタビアに飛ばされる要因のとしてそんな理由があった。 そういえばあの頃、彼とパートナーであったオハリオと、日夜無茶をやっていた。 二人とも人一倍正義感があったのだから無理はない。 かねてより二人はアルゴル政府と政府軍は何かおかしいと、調査を重ねていた。 調査の為にいくつもの無理をやった。いくらかの成果もあげ、政府が裏で手を貸していたいくつかの組織をつぶした。しかし 肝心の黒幕には一向にたどり着く事が出来なかった。 そのうち、政府は二人に難癖をつけて更迭した。 オハリオはエージェントを離職。ユーシスはモタビア政府のエージェントとして飛ばされた。 オハリオ、どうしてるかなぁ？ そんな事を思いながら、二人は責任者の下へと連れてこられた。 「私がここの責任者――とは名ばかりだが、一応名乗っておく。 ルドガー・シュタイナー少佐だ。よろしく」 「私はモタビア政府所属のエージェント。アーミア・アミルスキーです」 「ユーシスっす」 ただ一人、まったくやる気の無い声で名乗るも、軍人として出来ているのか、ルドガーは相手をしない。 「シュタイナー少佐。我々はこの街がテロリストに占拠され、アルゴル政府軍が鎮圧に乗り出していると情報を得、やってきたのですが」 聞くルドガーは、話しの要点は得てると、彼女の言葉を手で制した。 「まず、我々は見ての通りモタビア政府軍だ。しかし、今はモタビア政府ではなく、アルゴル政府軍の要請により動いる。 テロリストが占拠しているという話しも本当だ。テロリストグループは、街にいくつかの爆薬を放った後、このコントロールタワーを占拠した。 我々はテロリストグループをこのコントロールタワーから出さないようにここで見張っている」 「テロリストの鎮圧は行わないのですか？」 アーミアが問う。そりゃそうだ。テロ鎮圧の為に借り出されたんだろうから、何もしないでここで見張っているっていうのなら、それはただの阿呆だ。 「我々が受けている任務は、コントロールタワーから何者も外に出さない事。それのみだ。 我々も変に思ってはいるのだが、受けている命令はそれだけなのだ。 許可無くコントロールタワーに進入するわけにも行かんしな」 その後、この話しがモタビア政府の耳に入っておらず、民間経由で情報が伝わってきたという話しをすると、ルドガーは今回の作戦は閉口令が出ている。 何者にも情報を流してはならないと指示が出ていたとの事。しかし余りにおかしな指令に、ルドガーは独断で彼らに情報を提供したのだ。 「モタビア政府のエージェントならば、総督の一声でコントロールタワーに入る事も可能だろう。我々も何時までもこんな所で待ちぼうけも性に合わないのでな」 ルドガーの判断にアーミアは礼を言うと、ルドガーはそういって笑った。 アーミアは急いで車に戻ると、直通回線で総督に状況を告げ、コントロールタワーに入る許可を得た。 ５- コントロールタワーの内部は静かだった。 実際、初めて内部を見るわけだが、もっと整備された建物だと思っていた。 だが中に入ってみると、剥き出しの配管やケーブルなどがそこら中引き回っていた。 何の為にそこにあるのか解らない機械が、音も無く光を明滅させている。 それ以外の光は皆無だった。ほとんど光の無い、道らしき道も無い中を手繰り進む。 そのうち、昇降機らしきものをみつけたが、動作しなかった。 仕方なく他の道を探るべく進み、階段を見つけ上にあがる。 そんな事を何度か繰り返すうちに、まったく異質な光景に巡り合った。 壁、天井、床。全てが赤く染まっていた。 ペンキなどで塗りつぶしたわけではない。生き物叩きつけられ、つぶれ、血潮を撒き散らした。そんな感じの赤が、天井からは血が滴り、壁に伝い、 床には肉が散乱し、血溜となっていた。 「こりゃあヒデエな…」 その光景に思わず息を飲む二人。ユーシスはこういう光景を以前にも目にした事が合ったが、果たしてこのお嬢さんに絶えられるか。そう思ったが 意外にも彼女は鼻を手で抑えるだけで、勤めて冷静に観察し状況を分析しているようだった。 なかなか…ユーシスは、彼女に対する判断を改めなければならないと思った。 ユーシスはハッキリいって彼女のことを舐めていた。 自分と同じ、それ以下の年齢に見える彼女が、自分以上の修羅場を潜っているとは思えなかった。 だから、彼は彼女がこの場で冷静でいる事に評価した。彼女は彼女でいくつもの修羅場を潜ってきたのだろう。 「とても人間技とは思えないわね。何かの爆発で飛び散ったにしては、それらしき痕跡も無い」 確かに。彼女の判断は正しかった。 この死体ともいえない肉の跡は、確かに人間のものだ。ユーシスは血の匂いでそうと判断できる。 そしてこの異常な光景を作り出した要因となると、想像だに出来なかった。 まさしく異常。そうとしか理解できない状態だった。 「ま、これがテロリストの一人として、何が起きたのかは先に進んでみないとわからねぇって事だな」 「…そうね。気は進まないけど」 珍しく弱気な発言をするアーミア。無理も無い。一歩間違えれば、自分たちがこういう情景になる可能性があるのだ。 血溜に一歩々々足を進める。 通路自体はそれまでと同じく、配管やらケーブルが引きずりまわっており、一部が欠損してスパークしていたりした。 時折、先ほどのような光景が広がっている。だが彼らは無言で先に進んだ。 分かれ道のある通路を進み、彼らは奥まった部屋らしき所へ侵入していた。 そこには、まったく別の死体があった。 明らかに人間だと解るそれは、全身に獣が引っかいたような傷跡が合った。 首の頚動脈を切断されており、すでに命は絶えていたが、それが何かと格闘したと痕跡が証言していた。 「何がいやがるんだ…ここは」 死体を一通り調べ終わると、言葉にアーミアは首を横にふる。 異常。異常。異常。それ以外なんともいえない。 アルゴル政府は何を考えてここにテロリストを閉じ込めたのか？ また、ここにあるのはなんなのだ？ アルゴル政府はそれをしっている。それだけは間違いは無い。 「出た方がいいのかもしれないわね… いえ、出るべきよ。こんな得体の知れない相手に、私たちだけでは不足だわ。 総督に連絡して、正式にモタビア政府軍に動いてもらいましょう」 ユーシスはしばし考えたが、やがてアーミアと同じ結論に達した。 どう考えても状況がやば過ぎる。ここは撤退するしかない。 しかし―― 「アーミア。お前は先に戻って総督に連絡してくれ」 言葉に、一間を置いてため息。 「ユーシス… 一応聞くけど、あなたはどうするつもりなの？」 「先に進んで、ターゲットの正体を確認する」 「そんなこと、許可できるわけないでしょう！」 アーミアは、髪を掻き揚げ苛立ちをあらわにし吐いた。 「まあ聞け。 このまま軍に任せても、相手の正体がわからない以上、状況は大して変わらん。 こんな場所じゃ、たいした人数を送り込めない。今の俺たちとさして変わらん。 なら、多少危険を冒しても、相手の正体を突き止める必要がある。 正体さえ解れば、必要な人員と装備を導入できる」 「その役目を私たちがする必要は無いといっているのよ！ いい？ 私たちの目的はあくまで情報収集。 シュタイナー少尉の好意に、テロリスト程度であれば私たちで何とか逮捕できると潜入したけれど、これ以上は職務ではないわ！ ここでは異常な自体が起きている。それがわかっただけでも十分よ。 あとは軍に任せて、私たちはさっさと引き上げる。それしかないのよ」 言い放つアーミア。ユーシスはその言葉に何もいえない。 彼女の言うことのほうが正論であるからだ。 ユーシスはただ、この先にアルゴル政府が隠している何かがある。それが知りたかった。 だがそれで彼女を巻き込むわけには行かない。 「…わかった。一旦引き上げよう」 ユーシスの言葉を聞き、ようやくアーミアは笑顔を見せた。 ガキ！ 物音はそのやり取りの直後に発生した。 ユーシスとアーミアは反射的に臨戦体制をとる。 ユーシスはレーザー出力のソードを。アーミアは投げタイプの小刀と、やはりレーザー出力のナイフを手にした。 「血潮の匂いで気付かなかった…生き物よ！気をつけて！」 アーミアの言葉が、静かに強く響く。 物音のした地点からは何の気配もしない。すばやく移動したようだ。 ユーシスとアーミアは、言葉も言わず互いの背中を庇う。 敵は確実に存在するのに、どこに居るのか解らない。 神経が張り詰める。耳が、目が、至る所をサーチし、あらゆる状況に備える。 緊迫した空気が１分、２分と続いた。 もう、どれだけその時間が続いたか解らなくなった頃、不意に目の前の空間が揺らいだ。 ザザザと、音と揺らぎだけが前面に迫っていた。 「ク！」 対応する事ができず、ユーシスは即座に体をひねってそれを避ける。 ズシャ！ 服の切り裂かれる音を確認。激痛が走る。 なんとかかわしたものの左腕をやられたようだ。 「シ！」 咄嗟に反応したアーミアが、揺らぎに向かって小刀を放つ。 忍者でいう、手裏剣とかクナイとかいうヤツだ。 音も無く飛ぶそれは、しかし揺らぎに命中しなかったものの、それの動きを止める。 アーミアは即座にそれに対応し、構えたレーザーナイフを突き刺そうとして、止まる。 「待て！アーミア！！」 後ろで声がしたのはその直後だった。 アーミアの目に写ったソレ。 どう見ても人間の女の子だった。 ６- 「な！？」 アーミアは驚愕した。 アーミアの訓練した目でも捕らえきれない動きをしたそれは、どうヒイキ目にみても１０歳そこそこの、しかも全裸の少女だった。 その辺に隠れていたのだろう、所々機械油などで汚れているが、綺麗な肌をしている。 右手にはクローと呼ばれるカギ爪状の武器を装備していた。 先ほどの動き、そして武器。やはりそこに倒れている死体は、彼女がやったのだろうか？ だが、アーミアはソレが人間でない事に気付き、さらに驚愕した。 少女は異様に長い耳を持っていた。長く尖った耳。それは頭のてっぺんほどもの長さがある。 人間じゃない！ その一瞬の判断が彼女を動かした。 右手にナイフを構え、左手でソレを支え、全体重をかけた突き。 しかしソレは少女をとらえず、目標を見失ったアーミアはたたら踏む。 とらえた、そう思った瞬間少女は左に飛んだ。 たたら踏みながら、アーミアは袖口に忍ばせた小刀を投げた。 カカカと、心地よい音をたて壁に突き刺さる。少女はそれを紙一重でかわしたのだ。 しかし、その先にあるのは壁。 アーミアはナイフをそのまま捨てるとたたら踏む足から一回転。その間に腰から銃を抜き取り構える。 とらえた！ 構えると同時に照準の直線状にいた少女に向かって引き金を絞る！ 「まてって！！」 その直線状に割り込むものがいた。 ユーシスだ。 「く！」 とっさに反応し、僅かに標準をずらす。それが精一杯。 バン！と乾いた音が響き、弾丸は少女の肩を貫いた。 「ギャン！」 子犬のような悲鳴が、ユーシスの後ろで鳴いた。 弾丸の衝撃で、後ろに吹き飛ぶ少女。そこにあるのはやはり壁。 ドガっと壁にぶつかり、そのまま尻餅つく形で沈む。 右肩からは血があふれるように流れ出ていた。 「くそったれ！」 ユーシスは跳ねるように少女に近づくと、自らの袖を引きちぎり少女の肩に押し当てる。 弾は貫通していた。少女がうめいたが、構わず傷口を縛り上げる。 「どきなさい！ユーシス！ それは人間じゃないのよ！！」 後ろでわめく何かを放っておいて、ユーシスは剣の柄から鎮痛剤を取り出すと、少女にうった。 苦しげな少女の顔が、次第に安らかなものになっていく。 しかし苦痛がなくなると、今度はユーシスに対し犬歯を剥き出しにして威嚇した。 「ユーシス！！」 後ろで声がするが無視。 ユーシスは少女の髪をそっとなでてやる。 そして、「ネイ」と呼びかけた。 少女の目が大きく見開いた。 ユーシスが「ネイ」と呼びかけ、確かに少女は反応した。 ユーシスは言葉を続ける。 「大丈夫だよ、ネイ。 もう大丈夫だ。 今は、ゆっくりお休み。ネイ」 ユーシスは今までの自分からは信じられないくらい優しい声で語りかけた。 少女は確かに言葉を理解している。ユーシスはそれを当然だと思った。 彼女はネイなのだから。 ネイと呼ばれた少女は、ユーシスに何かを告げるようにアウアウと口を開く。 しかしそれが言葉にならないうちに少女の瞳は閉じられた。 安らかな吐息だけが、少女が休息に入った事を告げていた。 「説明してもらえるかしら？」 少女、ネイの体を医療用の大きいタオルでくるみ、抱え上げてやる。 振り向くと怖い顔して睨んでいるアーミアの姿があった。 「後でいいかな？」 勤めて笑顔で言ってみたのだが、ダメの一言で終わってしまった。 仕方なく、ユーシスは一通り簡潔に説明した。 ７年前に出会った少女のこと。そして別れ。 そしてこの少女と７年前の少女が非常に「酷似」している事。 全てを聞いたアーミアは、それでも理解できない面持ちで少女を見つめた。 その安らかな寝顔はまさしく歳相応な少女の顔で、さきほどの鬼神のような面相の面影も無い。 そのうち、アーミアはため息を一つ吐いた。 「ふう。ま、その子が何者であったとしても、調査が必要なのは確かね。 あなたがその子の面倒をちゃんと見て、問題を起こさないというのなら、総督には私からなんとか手をうってみるわ」 アーミアの言葉はユーシスには信じられなかった。 あのアーミアの事だ。絶対に反対してこの子の命を狙った挙句、研究所に引き渡すといいはるとおもっていた。 そうなった時、彼女を敵に回してでもネイを守る。ユーシスはそれくらいの覚悟でいたのだ。 アーミアとしても、それを見抜いていたのだろう。 そのため最大限の譲歩をした。 ユーシスはただ「ありがとう」とだけ言った。 その一言には、最大の感謝の意と、言葉に出せないくらいのお礼が込められていたが、アーミアはただ「バカね」と笑った。 ７- 事はそこでドラマチックに終わらせてはくれなかった。 ギシャアアアアアアアアアア！ かなきり声とも叫び声とも判断つかない轟音が鳴り響いた。 続いて地響き。何かが這いずり回るような轟音。 「な、なに！？」 一瞬混乱するアーミアとユーシスだが、そこはプロ。 次の瞬間には的確な判断を下す。 逃げの一手。 即座にきた道を戻る形で走り出す。 ガシャガシャと、パイプやらケーブルなどが崩れ落ちるが気にせず走る。 そしてソレが姿を現した。 ヤツは後方に姿を現した。 天井を食い破るかのようにその巨体を現したソレは、巨大なヘビ。 いや、顔のところが口しかないそれはヘビともいえない異様な姿だった。 まるで、何もかも飲み込む為に生まれたような、そんなフォルム。 「走って！！！」 アーミアが叫ぶ。ユーシスを先頭に二人は走った。 ソレは巨体を滑らすようにして二人に迫る。 バンバンバンバン！ 立ち止まりもせずにアーミアの３５口径の４連射。 しかし、あの巨体には必殺の威力をもつ拳銃もまったく豆鉄砲でしかなかった。 階段に滑り込む。ややあって、ドシャアアアアア！という轟音が響く。 振り向くと、怪物が自分の体躯よりも狭い階段を無理に進もうとうねっている。 迫り来るスピードは格段に落ちたが、それでも確実にヤツは迫ってくる。 走るしかなかった。だがしかし、もしヤツがさっきみたいに天井を食い破ってきたら。 テロリストもヤツにやられたのか？ その判断さえもはやつけている余裕は無い。２つ階段を下りたところで目の前の天井が崩れた。 巨体が目の前に現れた。 ただ在るものを喰らい尽くす。そうプログラムされたかのように、ソレは的確に追ってきた。 ヤラレル―― 目の前にソレが現れた瞬間、そう判断し体がすくんだ。 ソイツの顔がニヤリとゆがんだような気がした。 逃げ場は無い。 ソイツが飛び掛ろうとした瞬間、バダラララララララという轟音が響いた。 ギュアアアアア！と、予想外の攻撃に身をよじる怪物。 暴れ、壁を破壊し、空が見える。 「大丈夫か！？ エージェント！！」 向こうで声がした。この声は、まちがいなくルドガー・シュタイナー少佐のものだ。 モタビア軍が突入したのか？ なぜ？ だが考えてる間は無い。 撃てー！の合図とともに、再び重々しい銃撃音。 怪物の注意は完全にルドガー達にむかったらしく、方向転換しルドガー達を狙う。 ルドガー達は後退しながらも怪物に執拗な攻撃を加えた。 「ユーシス今よ！！ あそこの亀裂から！」 アーミアは先ほど怪物が崩した壁から、空が見える大きな亀裂を指差した。 …マヂか。いくら他に逃げ場が無いとはいえ、ここは高層ビル何階建て分もある高さだ。 落ちたらひとたまりも無い。 「他に逃げ場は無いわ！ 躊躇する余裕なんて無い！急いで！！」 言うや、ユーシスを引っ張って亀裂に飛び込む。 「マヂか！？」 言ってる時には、ユーシスとアーミア、そしてネイの体は空を舞っていた。 ８- 「いやぁ、流石に携帯パラで三人分の体重支えるのはキツかったわねぇ」 珍しく上機嫌で笑いながら、アーミアはハンドルを握っていた。 隣には着地のさいアーミアやネイの下敷きとなって足を骨折したユーシスの姿。 ネイは後部座席で眠っている。 「お前なぁ。いっつもこんな無茶をやらかしてるのか？ 人の事いえんぞ。実際」 「装備は必要最小限。しかしあらゆる状況に対処できるように備えておくものよ」 アーミアの背中にしょっていた小型バック。あれがまさか小型のパラシュートとは気付かなかった。 しかし小型であるため、３人分の体重を支えきるワケなく、ほとんどスピードを制御できずに落下した。 ユーシスのケガだけですんだのは、ほとんど奇跡である。 「ちくしょう。エージェントのほかのヤツが、お前と組む事になってみんな気の毒そうな顔をしてたのはこういう事かよ。 人の事を無鉄砲だなんだいいやがって。お前が一番無鉄砲じゃないか！」 「人聞きが悪いわねぇ。私は貴方みたいに好き好んで危険な場所に入り込んだりしないわ。 あらゆる状況に機転を利かし、対処し、そして生き延びた。ただそれだけじゃない」 「くそう。パセオにもどったら、パートナーの変更願いだしてやる！絶対出してやる！」 「どうぞご勝手に。ま、受理されないでしょうケド」 ぐああムカツク。この女ムカツク。 そんなユーシスを一瞥し、アーミアは意地悪くクスリと笑う。 「ま、私は貴方の事、すこしは気に入ったわ。 これからヨロシクね。ユーシス君」 赤く染まる夕日に、しかし青春はなく、心は果てしなく沈んでいた。 - 第２話 終わり - 『あとがき』 思う所があって、一晩で書き上げました。 つかれたよ。 |
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