スペースクルーザー ランディール
第１０話 恋の空騒ぎ
閃光が宇宙を走りまた一隻の輸送船が消滅する。
マフィアの輸送船団の通信士がわめく様に、緊急通信を本部にむけ
送信していた。
「こちら、イースタンブル号！現在我が輸送船団は海賊に襲われ、我が艦を残し
船団は壊滅状態に追い詰められた。本部、救助を要請する！！救助を要請
する！！」
マフィア「ガンベルナファミリー」本部通信司令室は通信を傍受し
慌しい緊張に包まれていた。
海賊出没の知らせに指令席にいたガンベルナファミリーのボスは
応答していた通信オペレーターを押しのけ通信回線の受話器を引っ掴んで
一気にまくしたてた。
「なぜだ、わしら、ガンベルナファミリーはこの前アルカディアと
手を切り、レジスタンスと連合を組むことにしたのに、
なぜ、そのレジスタンス配下の海賊どもに襲われねばならん！！
一体どこのどいつだ！！その頭のイカれた野郎は！！！」
イースタンブル通信士「敵は宇宙戦艦ランディール！！繰り返す
敵は宇宙戦艦ランディールだ！！本部、急いでくれ！！もう船が
もたない！！・・・ぐ、ぐわあああああああ！！」
最後のほうは爆音混じりになり緊急通信はこと切れた。
ボスは手に持った受話器を握りつぶし、管制司令室を後にする。
「ランディール、タイラーの若造か！！わしらの船に手をつけた事、
後悔するぐらいじゃすまさねえ！！ヤツとその仲間全員コンクリート漬けに
して海に沈めちゃるわ！！」
ナイトクロウ「じゃあ、おめえらは本当にやってねえんだな？」
情報屋ナイトクロウからマフィア船団の壊滅を聞き一番
驚いたのは当のタイラー本人だった。
タイラー「ああ、俺たちはその時間、この前の時空嵐でやられた箇所の
修復作業中でとても宇宙空間に出られる状態じゃなかったからな。」
ナイトクロウ「ということは・・・・考えられるのは偽者か。
古典的な手法だがおめえらの評価を落とすにはもっとも有効的な手段
かもな。しかしどうする、今度ある円卓会議、こりゃあ荒れるぜ〜。」
タバコをふかし皮肉たっぷりの視線を浮かべるナイトクロウ。
だがタイラーは落ち着いて椅子に深く腰掛けると力強く答える。
「行くしかないだろう。今度の会議ではアイナとオハリオが重要な
発表をするみたいだし、俺たちも先の時空嵐のデータを届けて
詳しく検証してもらいたい。そのためにはマフィア連中の誤解も解かないと
しゃれにならないからな。」
その時通信室にひげ親父こと、ガンツ整備主任が怒鳴り込んできた。
「おい、タイラー、マフィアの船団をやったのは、本当にランディール
だったんだな！！！」
親父の怒鳴り声に通信を聞いていたナイトクロウは耳を抑えた。
一方のタイラーは事態を予期してか悠然と構えている。
タイラー「ああ、そうだ。おっさんの言いたいことはわかるぜ。
あれが例のランディール2番艦かもしれないかってことだろう。」
ガンツ「おお、わかってるんなら話がはええ。9年前政府軍に工場を
襲われた時、おいらはあいつを置いて逃げることしかできなかった。
だがよ、あれはもう少しで宇宙に飛び立てる状態まで仕上がってたんでい。
あの時、おいらが根性出して操縦してりゃあ今頃ランディールと兄弟共に
おいら達の頼もしい仲間としてアルカディアの野郎とドンパチ
暴れまくることもできた筈なんだ。」
ナイトクロウ「ふん、まるで人間みたい言い方だな。たかが戦艦じゃねえか。」
ナイトクロウの人を小馬鹿にしたような口調にガンツは食って掛かる。
「ばかやろ〜！！おいらが手塩にかけて創り上げた戦艦をた・か・がだと！！
あいつ等はおいらにとっては大事な子供みてえなもんだ！それを、
こんちくしょ〜、やい今すぐこっちにきやがれってんだ！！その腐った
性根叩きなおしてやる〜！！」
ガンツはディスプレイに飛び掛ると、顔面を画面に押し付け
散々に怒鳴り散らした。なんとかタイラーが彼を押さえると
ナイトクロウは呆れ果てたような表情でため息をつき
「誰がおまえみたいなむさ苦しい奴の相手なんかしたがるか。
まあ、おまえがかわい子ちゃんなら話がわかるがな。
という訳で俺は疲れた。タイラー後は任せたぜ」
ガンツ「こら〜！！逃げるなってんだ！男なら堂々と勝負しやがれ！！」
ディスプレイ画面が消え後には中指を突きたて画面に殴りかかろうと
するガンツとそれを必死で押さえるタイラーだけが残った。
タイラー「おっさん！そこまでだ。もうナイトはいないよ。」
ガンツ「くそ〜今度あったらただじゃあおかねえからなあ！！
・・・・で、どこまで話したんだっけ。そうそうタイラー、今度から
おいらも一緒に連れてってくれねえか。もし２番艦との戦闘になった時
あいつを助けてやりてえしよう、それにもし駄目だった場合はおいらの手で」
悲壮な表情のガンツにタイラーは真正面に向かい合い励ました。
タイラー「おっさん、今はまだ２番艦を取り戻せるチャンスがあるんだ！
諦めちゃいけないぜ。おっさんの大事な息子はこのタイラーが海賊
らしくいただいてくるからさ。だから元気をだしてくれ。」
タイラーの力強い励ましの言葉にガンツは少し寂しげな微笑を浮かべ
「・・・へへ、すまねえ。そうさな、いつまでもうじうじしている
訳にもいくめえ。よっしゃ！おいらはランディールの最終点検に取り掛かる
とすっかあ！！・・・・タイラー全ての判断はお前に一任すっからよ！！
頼んだぜ！！」そう言うと自分の頬をバシバシと叩き片手をぐるぐる
回しながらガンツは元気よく部屋を飛び出した。
全ての計器がオールグリーンになり、発信準備が完了する。
整備員は全員ドッグから退避し、天井のハッチがゆっくりと轟音を立てながら開いた。
ジョディ「コンディションオールグリーン！第1.第2エンジン圧力上昇」
エンジンの音が艦内に木霊する。
ウォーレン「対慣性中和システム作動」
タイラー「目標、円卓会議の行われるアンジェリカコロニー！宇宙戦艦
ランディール発進せよ！！」
モニターに派手派手なネオンを灯したゴージャスなコロニーが見えてきた。
ジョディ「まもなく、アンジェリカコロニー第10番ゲートに着艦します。
誘導ビーコン確認しました。」
コロニーのゲートから牽引用のレーザーが伸びランディ―ルを
安全な航路へと誘導していく。
他にも海賊の戦艦や各界の著名人を乗せた豪華客船、果ては政府の
高官までも極秘にこのコロニーに集まってきているため到着にかなり
時間がかかることになる。その間ジョディが引き立ての熱いコーヒーを
クルーのみんなに配っていった。
アベル「たまには、紅茶ではなくこういう渋めのコーヒーも
乙なものだな。」
アベルがデータ―整理を行いながら片手間に熱いコーヒーの香りを
楽しんでいる。
他のクルーもしばしの休息にとそれぞれ彼女の持ってきたドリンク類を
嗜んでいる。一人の例外を除いて。
ジョディ「ミカちゃんはいつものオレンジジュースを持ってきたけど
飲む？」
ミカ「・・・・・いらない」
いつもなら喜んで飲む大好物のオレンジジュースに手も付けずに
ぶすっとした表情を浮かべるミカ。
ミカ「ちょっと退屈だから、部屋に戻ってもいい？」
タイラー「ああ、別に戦闘があるわけじゃないしな。今は
ゆっくりと休息をとるといいさ。」
ミカ「うん、わかった。」
そう言われるとミカは席を立ちあがりブリッジを出て行った。
アレスがミカの様子に少し不安を覚え横の席にいるアベルに
尋ねる。
アレス「おい、今日のミカの様子なんだか変だとは思わないか？」
アベルはその疑問にコーヒーカップの中の金色のスプーンを
かちゃかちゃ回しながら達観したように答える。
「べつに可笑しくはないと思うが。彼女も難しい年頃なんだろう。」
アレス「？」
頭を抱えるアレスを横にアベルはぼそりと小声で呟いた。
「あれを見れば誰でも気づくと思うのだがね。」
ジュディがタイラーにコーヒーを持ってきたが他のクルーと違い
お互いどこか動きがぎこちない。
と、ジョディは思わずコーヒーを盆ごと零してしまった。
ジョディ「あ、ご、ごめんなさい艦長。私うっかりしててつい。」
タイラー「いや、いいんだよ。これぐらい何てこと無いから。」
互いに顔を少し赤らめその後すぐに平静を装う様はあからさまに
滑稽な喜劇である。
それを暖かい眼差しで見つめるアベル。
アベル「男と女の不思議な関係は古典やシェイクピアで
何度も語られてきたテーマだ。
できる事なら恋の空騒ぎのように喜劇で終わって欲しいものだが」
牽引ビームに誘導され10番ゲートに入るランディール
まもなくドッキング作業が始まる。
他のドッグには豪華客船や戦艦が引っ切り無しに入港してくる。
そして、大勢の人が様々な思いで船を降りこの歓楽街
アンジェリカコロニーに乗り込むのだ。
だが彼らはまだ知らない。
同時刻黒い迷彩服に暗視ゴーグルをつけた一団が
忍び込んでいる事など。
そしてその中に鷹のように整った鋭い眼差しを持つ銀色の髪の
男がいることを。
ライダーク「ふ、果たしてこの中に何人私に立ち向かう勇気のあるものが
いることか・・・・・・私を失望させてくれるなよ。」
第１０話 -終-
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