スペースクルーザー ランディール
第１１話 幻魔の誘惑
アンジェリカコロニー：宇宙航行が禁止になった
アルゴル太陽系において唯一、旅行が認められた歓楽街
であり、テーマパークやカジノなど子供から大人まで
楽しめる総合娯楽コロニーである。
（パルマ政府の高官の多くがここの常連だったため
閉鎖を免れた希有な例である。むろん監視付きであるが）
娯楽施設の陽気な音楽が
宇宙港に接舷したランディールを迎え入れる。
ミカ「！うわあい、遊園地だ！！」
さっきまでふてくされていた態度は何処へやら、ドアが
開くとミカが飛び出していった。
アレス「おい、あんまりはしゃぐな。今日は
遊びで来たんじゃないんだぞ。」
アレスがミカの浮ついた態度を諫めるが、ミカは
ドッグの天井に据え付けられたテレビモニターに映る
カーニバルに夢中で聞こえていないらしい。
アレス「やれやれ、まったく子供だな。
まあ元気もでてきた事だし、とりあえず良しとするか。
ミカ！あんまり遠くに行くんじゃねえ。」
ミカを追いかけるアレスに続いてタイラー達も船を下りる。
それをブロンドの髪の神秘的な女性が笑顔で迎えた。
アイナ「よくいらっしゃいました。長旅ご苦労様です。」
タイラー「なにもアイナさん自ら歓迎してくれなくても
良いのに。第一今の俺にはレジスタンスの輸送船団襲撃の
疑惑がかかっているんだ。こんな所を他の人に見られたら
レジスタンスのメンバーに示しがつかないんじゃないか？」
少し意地悪なタイラーの言い方にアイナは微笑みながら
答えた。
アイナ「タイラーさんの人柄を少しでも知っている人
なら、あれが敵の偽装工作であることにすぐに
気づくはずですよ。」
？？？「そうだぞ。私も君は例の事件には関係してないと
思っていたよ。タイラー君」
二人の会話に入ってきた威厳ある紳士。
彼の名はオコーナー。現モタビア総督その人である。
彼も表向きは政府の高官でありながら
マザーブレインとアルカディアの政治体制に疑問を
持つ一人であった。
タイラー「オコーナー総督も来ていたんですか。
本当にお久しぶりです。」
タイラーは感慨深げに話す。
オコーナー総督とタイラーの父タイロス中将はアカデミーの同期生で
タイラーが幼い頃にはちょくちょく自宅に訪れていたが
最近は総督の仕事とレジスタンスのアドバイザーとして
多忙な日々を送っておりお互い疎遠になっていた。
オコーナー「アルカディアも手の込んだ事を画策したものだ。
それだけ君たちの存在が大きくなってきているという事だな。
本来なら私がバックアップせねばならない所だが、
総督という立場上そう大きく動けないしな。」
すまなそうに答えるオコーナーにタイラーは
笑顔で話し掛ける。
「いいですよ。たとえ敵がどんな汚い手を使ったとしても俺は
へっちゃらだし、第一俺の周りには大切な仲間もいる。
それより俺が心配なのは総督の方です。
最近TVに映る総督の顔は何か思い込んだ表情だったから・・・。
やっぱり例のバイオハザードの件でですか？」
タイラーは小声で総督に話した。
これはバイオ生物であるミカを傷つけないための配慮でもある。
オコーナー「それもあるが・・・・・・・・私が一番悩んでいる
のは別の件だ。私の部下にユーシスという青年がいるのだが、
私は彼に無謀な命令を出してしまったのだ。彼はその任務のために
自分の大切な妹を失い、さらに政府に追われる身になってしまった。
いくらモタビアを守るためとはいえ私は今でもあの指令を出した事を
後悔しているのだよ。」
ミカを見つめ自分を責めるような口調でしんみりと呟くオコーナー。
彼はミカにユーシスの妹の姿をだぶらせ心を痛めた。
タイラーは黙って彼の話に耳を傾けていたが総督の方に顔を向け真顔で答えた。
「それは総督の責任じゃないですよ。悪いのはバイオ生物を
狂わせたマザーブレインとアルカディアグループだ！！
俺はそんな悲劇を止めるためにこれからも奴等と戦っていくつもりです。
総督もしユーシスに何か危険な事があったら俺に連絡してください。
俺でよかったらいつでも力になりますよ。」
アイナも手を叩き優しく微笑みかける。
「そうですわ。私たちに出来る事ならなんでもしますよ。
だってユーシスもタイラーもそして私たちもこの星に住む命を
守りたいという願いでは同じなのですから。」
タイラーとアイナの熱い気持ちが今のオコーナーには
ありがたかった。そして一言
「ユーシスの事をよろしく頼みます。」
と深々と頭を下げるのであった。
そんな朗らかな雰囲気は遠くより聞こえる怒声にかき消された。
「タイラーの若造に会わせやがれ！！」
タイラーに自分の船団を撃沈させられたと逆恨みした
ガンベルナファミリーのボス、トニーGが部下をつれ港に殴りこんできたのだ。
アイナの副官ルオン＝ケイ＝エシルがボスの前に立ち
「アイナ様の御前でそのような立ち振る舞い無礼であろう！
ただちに立ち去れい！！」
と彼を止めようとするが、強引に押し切られトニーＧはタイラー達の
いる所までズカズカ踏み込んでいった。
アイナ「何事ですか。トニーさん会議は10日先だと、いった筈ですが？」
アイナは先程までと違い丁寧な言葉の中に冷たさを忍ばせている。
だがトニーＧはそれを気にする事もなくタイラーに怖い顔で凄んできた。
「おい！！タイラー！マフィアをなめるんじゃねえぞ！
わしらに楯突こうとはええ度胸しとるやんけ！我！」
勘違いも甚だしいその内容にタイラーは半ばうんざりした表情で
答える。
「おいおい、俺はあの時船の改装中でとてもあんたの船を襲う事
なんて出来ないぜ。」
トニー「じゃかーしい！！そんな法螺話信じられるか！！
沈められるか埋められるかだけは選ばせてやるから覚悟しいや！！」
トニーＧの怒声にミカがびっくと体を振るわせるそれを見たアレスは
「大の大人が力振りかざして、横暴に振舞うんじゃねえ！！
ミカが怯えちまったじゃねえか！！」
殴りかかろうとしたアレスをアイナが止め、いつの間にか手に持った
黒い弓で彼の顎に素早くに狙いを向ける。
そしてぞっとするような冷酷な口調で
「さがりなさい、これ以上客人に無礼を働けばレジスタンス全てを
敵に回すことになりますよ。」
冷笑を浮かべるアイナに押されトニーＧは気落ちし、唾を床に吐き捨て
すごすごと引き下がった。
トニー「覚えとけよ！！」
彼らが去った後アイナはふうとため息を付きまた優しげな微笑みを浮かべた。
「ではタイラーさんにオコーナー総督、先程も言ったとおり会議は10日後
ですので、それまで私たちの用意したホテルでゆっくりバカンスを
楽しんでください。」
タイラー「ああそうさせてもらうよ。それと例のデータは前日までには
纏め上げるからな。じゃあそういうことで。」
タイラー達はアイナやオコーナーと別れネオン輝く歓楽街に向かう。
ミカ「うわ〜。すごっくでかいゲームセンターだ。ねえアレスあの
トランプゲーム面白そうだよ。」
アレス「馬鹿！！ここは大人の遊び場だ！！子供には危なすぎるぞ！」
ミカ「あーまた言った！！ミカ子供じゃないもん！！！」
赤や緑や青のミラーボールが暗いカジノを色取り取りに染め上げる
決して眠らない街には欲望と金が乱れ飛ぶ。
その街最大のカジノにはルーレットの回転台の回る音やスロットマシーン
の電子音が微妙なハーモニーのようにも聞こえる。
アベル「仮痴不癲（かちふてん）馬鹿を装い敵を騙す。
それと同じようにこんな馬鹿騒ぎのカジノの地下が
よもや、円卓会議の会場になるとは敵も気づかないだろうな。」
タイラー「ああ、だが油断は禁物だぜ。」
そんな会話をこそこそ話していると急にどよめきが起きた。
？？？「あははは！ラッキーだわ！ま〜た、あたしの勝ちよ
これで1億よ1億！！」
どこかで聞き覚えのある声に二人は顔を見合わせどよめきの
中心に向かう。
そこには樽1杯の酒を丸呑みしながら勝ち進む見慣れた顔が・・・
中世の海賊服に身を包んだスタージェーンがポーカーで
ぼろ儲けしている場面だった。
互いに一瞬目が会い、お互いに目が点になるタイラー達とスタージェーン
スタージェーン「・・・・・疫病神が来た。（泣）」
にっこり笑みを浮かべるアベルを見かけ頭を抱え込むスタージェーン
アベル「久しぶりに賭けでもしないか。勝ったらこの前の件は
チャラにしてあげようと思うのだが。」
悪魔的な声で囁くアベルにスタージェーンはやけくそになりながら
「その言葉本当だね。よーし、今日のあたしには幸運の神様が
ついているんだ！！ぎったんぎったんにしてやるからね。」
・・・・・・・・・・1時間後・・・・・・・・・・・・・・
アベル「はい、ハートとクラブのワンペアとスペードのスリーカードで
フルハウスの完成っと。いやー悪いね。」
スタージェーン「・・・・・ストレートなんて。鬼、悪魔！・・・・・・
こうなったらもう一勝負だよ（泣）」
部下「姉御これ以上負けたら俺達無一文になっちまう。もうやめましょうよ」
部下達の必死のひき止めにも関わらずまだ勝負を続けようとする
スタージェーン。いい鴨である。
タイラーは呆れ顔でゲームの行方を見守っていたが、いつの間にか
周りの観客が、いつのまにか強面のマフィアに囲まれていることに
気づき身構える。
「さっき、言っただろう。俺は無関係だって！！」
マフィア「関係ない。ガンベルナファミリーを敵に回した時点で
おめえに安息はねええんだよ。」
観客が引きお互いに身構える。正に一触即発の事態だ。
？？？「よさねえか。ここはオセロファミリーの縄張りと知ってやっている
のかい？」
戦いに水をさしたのはこのカジノのオーナーにしてアルゴル
最大のマフィア、オセロファミリーのボス、ドンオセロである。
全身傷だらけに眼帯のその姿は正に歴戦の勇士そのものだ。
オセロ「どうだい、ここはこのオセロの顔に免じて引き上げては
貰えないかなあ。その方が利口だと思うのだが。」
口調は静かだが全身から放たれる殺気にガンベルナの刺客は
一目散に逃げ出した。
オセロはタイラーの方を振り向きにっこりと笑い
「あいつらも馬鹿だよな、ちと考えればお前さんが俺達のような
やくざモンを襲ったって一文の徳にもなりゃしねえって気づきそう
なのにな。」
タイラー「すまない。助けてもらって。」
オセロは煙草に火をつけ煙を吹かしながら
「なーに、いいってことよ。これからは気をつけることだ。
おい、スタージェーン行くぞ！！」
彼はスタージェーンの最大のスポンサーでもあるのだ。
スター「ふう、助かった。じゃあねタイラーちゃん、アデュー」
ようやく1勝してなんとか面目を保ったスタージェーンが後を追う。
オセロ「おい、この前の不正蓄財の件、垂れ込みがあった。
あとでおしおきだからな。（怒）」
スター「げ！！ア・べ・ルあんた垂れ込んだねー！！やっぱり
あんたは疫病神だー（泣）」
オセロに引っ張られるスタージェーン。哀れである。
ホテルに着いたタイラー達は旅の疲れもあってそのままベットで眠りむ
者がほとんどであった。
だが人工の夜の静寂の中ホテルに狙いを定める一団がいたのだ。
ガンベルナファミリーである。
マフィア「へへへ、奴等は寝込んでいやがる、いいなそれはフルオート
機構が排除されている。扱いには十分注意しろ！！」
部下「へい！！」
銃をもった覆面のマフィアがホテルに飛び込もうとしたその時、
目の前にライトサーベルを持った銀髪の男が現れた。
ライダーク「人の寝込みを襲うとは騎士道の風上にも置けぬ
卑怯な奴等よ。」
マフィア「何ものだ！？てめえ」
凄むマフィアだが一向に表情を変えぬ青年に痺れを切らし
マフィア「構わねえ！！やっちまえ！！」
銃を向けるマフィア達。だがその引き金を引くことは出来なかった。
1閃
2閃
3閃
一瞬の煌きが走った後彼らはバラバラになった。
「ひ！ひえええええええええ！？」
生き残ったマフィアが逃げ出そうとしたが
その時周囲の暗闇から迷彩服を着た者が現れ彼の喉をナイフで掻き切った。
ライダーク「後始末は頼んだぞ。」
特殊部隊「は！！」
ライダーク「ふ、主役に欠場されては困るからな。しかし奴は私と戦うに
相応しい資格を持っている、私はそう睨んだのが、やはり駄目か。
どうやら今度の仕事もつまらぬものになりそうだ。」
そういうと彼は闇の中に消えていった。
さて、一方のタイラー達はこの騒動も露知らずぐーすか
眠りについていた。一人を除いて。
ミカは悪夢にうなされていたのだ。
ミカ「・・・・あれここはどこ？」
ミカの周りには薄い靄が立ちこめ周囲は何も見えない。
急に不安に駆られたミカはみんなの名前を呼んだ。
「アレス！・・・ハル・・・・ジョディお姉ちゃん」
しーん、だれも返事は返ってこない。不安が大きくなり
ついにミカは泣き出した。
「ふえ・・・・ふえええ。・・・・タイラーお兄ちゃーん！！」
と目の前にタイラーが現れた。ミカは喜んでタイラーの胸に
飛びついた。だがタイラーの目は冷たく輝いていた。
タイラー「。・・・・・どけよ」
ミカ「ほえ？」
タイラー「どけっていってるだろうがこの薄汚いバイオ生物が！！」
衝撃がミカを貫いた。あの優しいお兄ちゃんがこんな事を言うなんて。
ミカ「うそだよね・・・・お兄ちゃんそんなひどい事言わないもんね。」
ジョディ「うそじゃないわ。タイラーはあんたを捨ててこの私を
選んだのよ。馬鹿な子ね。タイラーがあんたみたいなくずを好きに
なるわけ無いじゃない。もうタイラーは私の物なの。」
冷たく言い放ち、タイラーに絡みつくジョディ。
二人はミカを置いて、薄い靄の中へと消えていった。
一人置いていかれたミカは呆然としながら次第に涙が目から溢れてきた。
ミカ「うそよ・・・・こんなのうそにきまっているもん。・・・・・
えぐ・・・・えぐ・・・置いていかないで、一人はいやだよう。
うえええええええええん」
ミカの泣き声を嘲るような声が聞こえる。
「ふふふ・・・・可哀想な子猫ちゃーん。もうあなたを可愛がって
くれる人は誰もいないわー。さあこちらへ来なさーい。」
白い靄の中薄く銀色に光る発光体をどこかでみたような気がするが
そんなことはもうどうでもいい。ただあそこに行けば
幸せになれる。ミカはそんな幻惑に囚われつつあった。
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