スペースクルーザー ランディール
第１２話 心の影に暗き炎が灯るとき
永遠とも思える悪夢は唐突に終わった。
ジョディ「・・・カちゃん、ミカちゃん大丈夫！？」
瞼を開けると、心配そうな表情でジョディが横で
看病をしていた。
アレス「おい、俺は本当に心配したんだぞ！！ジョディが
慌てて駆けつけてきたからよかったものの、・・・・・・
とにかく迷惑かけるなよ。この馬鹿猫！！」
口では悪く言っているが安堵の表情を見せるアレス。
ミカ「・・・そうなんだ。・・・ありがとう
ジョディお姉ちゃ・・・・」
礼を言おうとして悪夢の中のジョディの冷笑が
ミカの脳裏によみがえった。
”ジョディ「あんたは用なしなのよ」”
眉をしかめ複雑な表情を浮かべミカは部屋を飛び出した。
アレス「待て！ジョディに感謝ぐらいいいやがれ！
ち、もう行きやがった。・・・すまねえな。
ミカには後できつく言っておくからよ。」
ジョディ「彼女を怒らないでください。ミカちゃん
にはきっと何か事情があるんですよ。」
アレス「そうか。わかった。」
ジョディにそう言わればつの悪そうに部屋を出るアレス。
一人残ったジョディはミカが目覚めるときに一瞬だけ
見えた銀色の影に得体の知れない不安を感じるので
あった。
その夜も、次の夜もミカは同じ悪夢にうなされた。
一人残された孤独感が目覚める度に彼女を襲い
涙が頬を伝う。
８日後
堪らなくなったミカはタイラーに相談に行くことに
した。
タイラー達はホテルの一室で今まで
獲られた膨大なデータと格闘していた。
タイラー「軍事衛星ヴェルダンディアより発生した
歪みの津波は時間と空間のバランスを乱す事象を
引き起こした。アルカディアは想像もつかない
恐るべき力を手に入れた事になる。
だが奴らはそれを使い何をするつもりだ。」
タイラーの疑問にアベルは言葉を選びながら
慎重にじぶんの意見を述べた。
アベル「単純に考えれば、武器としての転用
が考えられるが、だとしたらなぜ、あの時
敵の幹部が現れ我々に例の事象を説明したのだ？
私にはあれがより大きな計画の
パーツの一つに過ぎないとしか思えないのだよ。
ただ我らの元にある情報はあまりにも少ない。
これだけではどう判断すればよいのか・・・。」
アベルの分析を聞きタイラーはお手上げという感じで
席にもたれかかった。
ふと横を見るとミカが黙ってこっちを見つめていた。
「どうしたんだい。ミカ。こんなに遅く起きて。
もう夜の２時だぜ。レディは規則正しい生活を
しないといけないんだぞ。」
タイラーは優しい言葉でミカに注意を促した。
ミカ「タイラーお兄ちゃん・・・あたし、あたし」
タイラー「ははは、そうか遊んで欲しいんだよな。でも
今はお兄さん達ちょっと忙しいから明日遊ぼうな。
それとも何かあったのかい？」
ミカを見つめるタイラーの表情は父親のように
優しい。だがそれは恋人を見る目ではない
事に今更ながら気づきミカは愕然とした。
ミカ「ううん・・・なんでもない！なんでもないもん！！
おやすみなさい」
そういうとミカは居てもたまらずそこを後にした。
タイラーは彼女の様子に首を傾げるしかなかった。
ハルとウォーレンは明後日の会議に必要な書類を運んでいる。
しばらくとするとミカが暗い顔をして走り去っていくのが
見えた。
ハル「どうしたんだろう。ミカちゃんこんなに遅く？」
ウォーレン「マスター、ミカさんのアドレナリン値が
以上に高い数値を示していたのですが。」
「わーい！見て！あのジェットコースターすっごい面白いよ！！」
翌日ミカは昨日とうって変わって明るく振る舞った。
その姿にタイラー達はほっと胸をなで下ろす。
タイラー「どうやら取りこし苦労だったようだな。昨日は
暗い顔をしていたから何かあったのかと思ったけどな。」
普段と変わらぬ様に見えるミカの笑顔にだが、ジョディは
彼女がどこか無理をしているように思えてならなかった。
そしてあの時、一瞬だけ見えた銀色の影には邪悪な意志が感じられたのだ。
やがて遊園地の全てのネオンが点り、夜の闇が全てを覆い隠そうとしている。
ホテルに戻った後、最後の準備も終わりいよいよ明日は円卓会議当日
というその日、タイラーはバーでグラスを傾け中の琥珀色の液体を
眺めていた。ステージの歌姫が悲しきピアノの音色に合わせて
美しい声音を響かせていた。
隣のテーブルでは、アベルとガンツ、そしてこの前の雪辱戦に燃える
スタージェーンがポーカーに興じていた。
そこにジョディが現れ隣の席に座る。二人はただ押し黙ってグラスの中
の液体をじっと眺めていた。
スタージェーン「くうう、また負けた！！あと少しでロイヤルストレート
フラッシュが完成するところだったのに〜！こうなったらもう一番
勝負だよ！（泣）」
騒ぎ立てるスタージェーンをアベルは人差し指を口に当て黙らせる。
スタージェーン「なんだい、なんだい急に！？」
アベル「あれを見て分からないのかい、ラブロマンスの邪魔は
するもんじゃないよ。」
アベル達はタイラーの方を見て、微笑を浮かべ席を立った。
今宵もミカは悪夢に囚われていた。
嘲りの声がミカの周囲から聞こえてくる。
「ふふふ、もう誰もあなたの事なんて必要としていないのよー。」
だがミカはもうその甘言に惑わされたりはしない。
彼女は勇気を持って嘲りの声の主に反論した。
「もう、だまされたりしないもん！！ミカ大人なんだから！
タイラーお兄ちゃんは私を必要としている！！それだけで
十分だもん！！」
くくく、嘲りがより激しく耳の中に木霊した。
「そう、そこまで信じたいのなら見てごらんなさ〜い。あなたの
信じるタイラーちゃんが何をしているかを」
嘲りの笑みが激しさを増していきミカははっと目を覚ました。
心臓の鼓動が激しく脈打ちミカはふらふらと立ち上がり
ただ黙って歩き出した。
廊下を歩いていると、アベル達がいろいろ話しながら歩いてくるのが
見える。
スタージェーン「しかし、ああ見ていると歯がゆいよね。タイラーちゃんは
もうちょっとこう積極的にアタックとかすればいいのにね。」
アベル「わかってないね。男と女のラブロマンスには古来より
一歩一歩ステップアップしていかないといけないものなのだよ。
ロミオとジュリエットのようなな。」
スタージェーン「なんだい？それ。」
傍らに隠れて聞いているミカに3人とも気づかず、通り過ぎていく。
ガンツ「あめえ、甘いぜ。ああいう場合は一気に土俵際までうっちゃり
で押していかねえといけねえてもんだぜ。ご両人よ！がはははははは。」
ミカは耳を抑えそれを聞こえないようにしていたが胸の鼓動は早鐘のように
高まり、いやな感情が心の奥底より湧き上がってくるのを感じていた。
”確かめなきゃ！”
震える身体を抑えてミカはバーの方に走り出した。
バーの入口で立ち止まりそっと中を覗き込むミカ、
そこで見たものは二人が黙って隣に座っている光景だった。
ミカの顔がみるみる青ざめてゆく。
普通に見ればとりとめもないいつも見られる二人の様子・・・・。
だが今の精神状態が不安定なミカにとってそれはあまりにも
衝撃的だったのだ。
悲しみ・・・・寂しさ・・・嫉妬・・・・そして憎悪が
心に暗い火を灯してゆく。
そこから力なく立ち去るミカ。
ジョディ「ミカちゃんの事なんだけど、近頃彼女の
周りに妙な気配が見え隠れしているような気がするみたいなの。
最初は気のせいかなとも思ったんだけど。
それが現れてからミカちゃん笑わなくなったような気がしませんか？」
ジョディの問いかけにタイラーは黙って頷いている。
タイラー「それは俺もある程度は感じていたんだ。
だから、今日のあいつの笑顔を見たときは正直ほっとしたよ。」
ジョディ「ええ、でも私にはあれが心のどこかに無茶をしている
ような気がして・・・・。」
二人は押し黙りグラスを傾けていた。
ガラスの中の氷がゆっくりと解けてやがて水になる様子を二人は
ただじっと見つめることしか出来なかった。
外でアレスは必死になって斧の振り上げ練習を繰り返していた。
するとミカがふらふらと外を歩いてゆくのが見える。
アレス「おい、馬鹿猫！こんなに夜遅く何をしているんだ！！
早く寝ねえといけないだろうが。」
ミカは気が付いたように無理な笑顔を浮かべ答えた。
「・・・・ちょっとお散歩だよ、終わったらすぐ寝るから・・・。」
いつものようにつっかからないミカに首を傾げるアレスだが、
「ああ、そうか」と答えるとまた斧の素振りの練習を繰り返すのだった。
・・・・・・・・・・・・・翌日・・・・・・・・・・・・・・・・・・
アレス「ミカがいない！？」
昨日の様子がどうにも気になり、アレスは朝1番にミカの寝室にいった。
だがそこにミカの姿はなかったのだ。
ただちにタイラーは全クルーを集めアンジェリカコロニーの捜索を命じる。
そこにデゾリアンの医師ラガンが、カバンを持って慌ててやってきた。
「いかんいかん、わしとした事がすっかり忘れてしまってたずら。
今日はミカちゃんの免疫抑制剤の注射をしないといけないのに。
で、ミカちゃんはどこずら？。」
タイラー「実は・・・・・」
タイラーの話にラガンは腰を抜かしばたばたと慌てふためいた。
ラガン「それはまずいずらー！！、このまま何もしなかったんなら、
ミカちゃんの細胞は組織崩壊を起こして死んですまうずらー！！」
タイラー達に衝撃が走り、特にアレスがラガンの胸倉を抑え怒声を発した。
「そんな不吉なことをいうな！！いくら先生でもいってはいけねえ
事があるだろうが！！」
怒り心頭のアレスをタイラー達は必死になって抑えた。
気分が落ち着いたアレスは今度は悔恨の涙を浮かべどっと床に
崩れおちる。
「ちくしょう！俺があの時気がついていればこんなことには・・・・・・・・
もういやなんだよ！！俺の目の前で大事な人が死んでゆくのはよ！！」
アレスの脳裏に幼いころの恋人の死んでゆく様が浮かび上がる。
炎に包まれるモタビアンの集落、炎を背景に嘲笑を浮かべる政府軍の将軍
そして目の前で命を失ってゆく恋人。
アレスはその姿をミカに重ねていたのだ。
タイラーはアレスの肩に手をあて力強く励ます。
「アレス！！今は泣いている暇はねええぜ！まだ大丈夫だ！
きっとミカは俺たちの事をどこかで待っているはずだ！！
さあ、行こう！！」
タイラーの手に力が込められている。
彼も又自分と同じ気持ちなのだろう。
アレスは立ち上がりタイラーと共にミカを探しに街にくりだした！！
急がなければならない。
同時刻、街の裏路地をさ迷う独りの少女がいた。
ミカである。
呼吸が荒くなり動悸と眩暈が彼女の身体を苦しめていた。
足取りも重くなり、ミカは誰もいない街の片隅でどっと
倒れこんだ。
・・・・身体が痛い・・・・あたしここで死ぬのかな・・・・・
・・・・タイラーお兄ちゃん・・・・助けて・・・・・・・・・
意識が途切れてゆく。どこかで車のブレーキ音が聞こえるが
そんなことはどうでもよくなった。そして瞼が閉じられる。
気が付くと彼女の周りに黒いスーツとサングラスをきこんだ社員たち
が取り囲んでいた。そして奥の高級車から白い服を
身に纏った貴婦人が降りてきたのだ。
？？？「可哀想な娘さん。危ない所だったわね〜。私が通り掛からなかったら
あなた死んでいたわよ〜。」
女の声をどこかで聞いたような感じがしたがそんなことはどうでもいい。
ふと見ると彼女の腕には注射器が刺さってる。でも、ラガンの
注射よりも痛くなく、むしろ心の中が開放されるような昂揚感に
包まれていた。
？？？「これは我が社特性の即効性の免疫制御剤よ〜。もうこれであなた
は注射を打たなくても済むわ〜。」
注射を抜き取り微笑を浮かべる淑女、だがその笑みにはどこか悪意
が込められていた。ミカは気味が悪くなり、足早に礼を言うとそこから
立ち去ろうとした。
？？？「本当に可哀想な子供ね〜。もうどこにも帰る場所なんて
ないのに〜。」
ミカの心にその言葉が鋭く突き刺さる。
「おばさん、何がいいたい訳！！」
たまらず大声で怒鳴るミカ、だが謎の淑女はミカの周りをくるくる
と回りながら踊りだした。
？？？「帰る場所がないのなら〜、自分でつくればいいわあ〜
憎い女がいるのなら〜大事な物を奪えばいいわ〜。」
彼女の幻惑的な声がミカの心を捉え始めていた。
段々と湧き上がる憎悪。それを楽しむかのように謎の淑女はミカの顎
に手をあて優しく撫でた。
ミカの瞳に虹彩がなくなり、憎悪に囚われた少女がゆっくりと立ち上がる。
いつの間にか銀色に輝きだした女はくるくる回りながら
ミカの行く先を指し示し歌うように呟いた。
シェイド「さあ、お行きなさ〜い。嫉妬は悲劇のエッセンスよ。くるくる
舞踊りながらより多くの美しい悲劇をばら撒いておいで〜。うふふふふ。
あははははは。」
第１２話 -終-
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