スペースクルーザー ランディール
第１６話 滅びに至る病
一面の白い雪原、舞い散る粉雪に紛れ黄金の輝きを
放つ白き翼の生えた獣が歩いていた。
その獣は悲しき瞳で天空を眺めていた。
厚く垂れ込めた雪雲の隙間から1隻の宇宙戦艦がデゾリスの大気圏に
突入するのが見える。
黄金の獣は悲しい鳴き声をあげると決意した表情で
戦艦が向かう山脈の遥か彼方に向け駆け出すのであった。
アレス「ミカ！！おいしっかりしろ！！なぁ、今度買い物に行く
約束していただろう、今度は俺がお前の好きなもんたくさん
買ってやるからよう！荷物持ちだってなんだってしてやるからよう！！
だから頼む！頑張ってくれ！！」
呼吸器を付け苦しそうに息をするミカの手をしっかり握りアレスは
ミカの側に寄り添っていた。
アレス「先生！！こいつの病気を治すことは出来ねえのか！！
先生はお医者さんだろうが！！なんだって治せるんだろう。なあ！？」
だが頼まれたラガンの顔は険しく慎重に言葉を選びながら説明する。
「呼吸困難に、全身の痛み、痙攣等は今まんでの免疫拒絶反応
で説明がつくし対処方もあるずらよ。でんも、これよく見てけれ。」
ラガンはそう言うと、ミカの服の裾を上げた。
アレス「！！」
アレスはその光景に驚愕する。ミカの腕には急速に腫瘍が広がっていた
のだ。でこぼこした腫瘍は時々黒い腐敗液をあたりにばら撒いていた。
ラガン「こげん、症状わしは見たことがねえずら。ウイルス性の
感染症でもこげん進行がはええのはアルゴルの医療データベースでも
報告がないずら。原因を調べるには基地のコンピュータでもつかわねえ
と解析不可能すらよ。」
珍しく弱腰なラガンに舌打ちしたアレスはブリッジにいるタイラーに
連絡を取る。
「タイラー、基地にはまだつかねえのかよ！！！」
ディスプレイ上のアレスの祈るような眼差しにタイラーは真顔で答える。
「今、デゾリスの大気圏を越えた所だ、まもなく基地が見える！！
ドッキング作業終了後急いでミカを緊急医療室に運ぶから、
アレスとラガンは準備していてくれ！！」
アレスとラガンは力強く頷くと担架を運び込み、普段はなんでも
押し切るタイプのアレスがこの時だけはまるで壊れ物を触るかのように
繊細に優しくミカを抱きかかえる。
ミカ「ぜえ、ぜえ・・・ん・アレス？」
両目を少しだけ開けたミカが抱きかかえたアレスを見つめ
何か言いだそうに口をかすかに動かしている。
アレス「どうした？俺はここにいるぞ。ジョディも、お前の大好きな
タイラーお兄ちゃんも今おまえのために頑張っているから。
こんなくそ病気なんかに負けるんじゃねえぞ！！」
アレスの赤い瞳に涙をぼろぼろこぼし、くしゃくしゃした顔にミカ
は呼吸を荒げ全身を痙攣させながらもにこり微笑み．
ミカ「はあはあ・・・あはは・・・アレス・・・なあに・・・・
そのくしゃくしゃした顔・・・・・とっても・・・・おかしいよう。」
その言葉にアレスは一瞬だけ顔を紅潮させるが、自嘲的な笑みを浮かべ
「ははは、そうか。ならもっと面白い顔をみせてやるよ！！こうか！
それともこんなのか！！」
普段は絶対にしない道化のような滑稽な表情を次々と見せるアレス。
ミカはその滑稽な顔にアレスの労わりと愛情を感じ痛む心が安らいでいく。
体の痛みがどんどん激しくなっていく。その身を裂くような激痛
に耐えながら可憐な少女は寂しそうに微笑み
「アレス・・・お兄ちゃん・・・・あたし・・・・・
お兄ちゃんのこと・・・・だい・・・す・・・き・・・」
ようやくもらった「好き」という一言。だがその一言を最後にミカは
血を吐いて咳き込み、そして再び意識を失った。
アレス「・・・ひでえ、ひでえよう！！ミカが一体何をした！！なんにも
悪いことなんてしてねえのによう・・・」
その時ドッキング終了の警報が鳴り響いた。タイラー達と合流したアレス達は
ミカを急いで緊急医療室へと運び込むのであった。
それから１時間後緊急医療室のカプセルの中でミカが生死
の境をさ迷っている横でアベルの胸倉を掴み
アレスが怒声を発していた。
アレス「アベル！！おめえ、こんな緊急時にふざけてんのか！！」
だが、アベルは冷静な顔で淡々と自分の意見を述べる。
「ミカの体を調べるのはもう少し待ってくれ。これにはどうも
危険な罠の香りがするのだよ。」
アベルの冷静すぎる態度にアレスは食って掛かる。
「罠だと！！この病気と罠にどんな関連性があるっていんだよ！！」
アベル「よく考えてみたらどうだ。
本来なら、私達が見つけるまでにミカの拒絶反応が始まっていても
可笑しくはなかったはずだ。だが、ミカは何事もなく戻ってきた。
精神状態が少し異常だった点を除いてだ。そして示し合わせたかの
ような敵の突入作戦。決定的なのはミカがあのダークランディール
との闘いにおいてブリッジを完璧に制御していた点だ。確かに
シューティングゲームで上げてきた戦闘に関するミカの手腕は素晴らしい
ものだし、時空嵐の時は船を操作することも出来た。」
アベルは眼鏡を抑え深く考え込むようにゆっくりと説明を続ける。
「確かにブリッジを制御できてもおかしくない。だがそう思う
自体に盲点がある。瞞天過海（まんてんかかい）
｢天を瞞（あざむ）いて海を過（わた）る｣と読み、天とは、ここでは、王の
ことを言う。この故事の原意は、王をだまして無事に海を渡らせるという
意味だ。転じて見慣れていると少しも奇妙に思わない錯覚を巧みに利用して
、きわめて公然たるもののなかに秘計を隠している。
策略とは人間の錯覚を利用して
行うものだ。今の事態にしても敵は病気という隠れ蓑を利用し
なにかを行おうとしているのではないか。私にはそう思えて・・・」
ボカ！！！
アベルがその推論を全て言い切る前にアレスが思いっきり彼を
ぶん殴った。
「瞞天過海だの！策略だの！訳わからねえことほざいている場合
じゃねえだろうが！！」
鉄拳を再び振りかざすアレスをタイラーが止める。
タイラー「もういいだろう！！そこら辺にしておけ！！アベル確かに
お前の言うとおりかもしれない。だがこれにはミカの命がかかっているんだ！
罠だろうかなんだろうが関係ない！先生始めてくれ！！」
二人の言い争いに戸惑っていたラガンはトリコーダーでミカの体を
スキャンする作業を開始した。
それから僅か10分で結果が出た。だがその内容は凄まじいものだった。
ディスプレイに映し出される病原体それはウイルスだったが、大きさが
細菌並という通常では考えられないサイズだったのだ。
一瞬だけ画面が乱れたがすぐに元に戻り、ウイルスが増殖する様に
ジョディが気分を悪くした。
ジョディ「・・・まるで意思があるみたい。」
ラガンはマジマジとその突起のある禍々しき形状を眺め
「なんて気色悪い形状ずら・・・・こげんウイルスは初めてずら。
それにこれみてみい。遺伝子の中の塩基の数が通常のウイルスの1000倍
自然界では考えられないサイズでよう。だどもこれで後は遺伝情報を
調べれば対抗するナノプローブが作れるずらよ。」
アレス「そうか。」
先生のその言葉に一同ホッと胸を撫で下ろした。
だが・・・・・・その時
緊急医療室のありとあらゆる電子機器がその瞬間に止まってしまったのだ。
アレス「な、何がおこったんだ！！」
と同時に緊急警報が鳴り響き、基地は騒然とした雰囲気に包まれた。
悪い事が重なる。ハルが息を切らせながら、医療室に駆け込ん来た。
ハル「大変だよう。基地内部の全ての電子機器が異常を来たしているんだ。
おまけに中央制御室もいかれちゃっているんだよう！！」
それを聞いてアベルの顔が青ざめた。
「そうか・・・・これはトロイの木馬だ！！ウイルスの遺伝子情報の中に
コンピューターウイルスの構成要素を塩基の配列の中に忍ばせていたんだ。」
アベルの推論に一同唖然としていたがハルだけが納得したように
その推論を補足する。
「確かに塩基を構成する要素が大まかに2種類の形状をとっているなら
それも可能かもしれないよう。だってプログラムの基礎は1と0の二進数
だもの。うわああどうしよう！どうしよう！！」
タイラー「慌てていてもなにも始まらないだろう。今はそれぞれが出来る
範囲でこの難局を乗り切るしかないんだ！！ハルとアベルとジョディは
システムの修復と記憶領域に忍び込んだウイルスの駆除を！！
ラガンはミカの治療に全力を上げてくれ！！白兵戦団はもしもの時
のために俺とともに来い！！武装を忘れずにな！！」
タイラーの指令でそれまで慌てふためいていた基地の全員がそれぞれの
立場で責任を持って行動を開始する。
何も命令を受けなかったアレスは怪訝そうにタイラーに尋ねる。
アレス「おおい、俺は何をすればいいんだ！！」
タイラー「お前の役目はミカが寂しくないよう側にいることだ！
ようやくミカに大好きっていってもらえたんだ。お前はミカのナイト
として側で守ってやる。それが男の役目ってもんだろう！」
タイラーはアレスに向かい二コリと微笑むと部下を連れ混乱する基地
へと向かっていく。
後に残されたアレスが複雑な表情で
「馬鹿野郎が！！おめえに言われねえでもやってやらあ」
と自身を奮い立たせるように答えた。
その頃宇宙の遥か彼方より政府軍の大艦隊がデゾリス上空に近づいて
きていた。
仕官「まもなく、デゾリスに到着します。」
旗艦ゴルゴン級戦艦「メデューサ」のブリッジでは
ロウとシャルルゴーニュが祝いの宴を開いていた。
豪華な食事に舌鼓を打ちながら
ロウ「ふふふ、シェイドお前の計画は完璧に成功したようだぞ。
おかげでわがパルマ第1機動艦隊は海賊どもに気づかれることなく
ここまで侵入することが出来たのだからな。」
シェイドはデゾリス上空を眺めながら歌うように呟いた。
「うふふ、あたしの会社の開発したジョゴスウイルスはシステム
領域に侵入した後自己進化を繰り返し悲劇の悪役となって
舞い踊るのよ〜。それもこれも、あの可愛いプリマドンナが
いてくれたお・か・げよ〜。さあ宴の火柱がもうすぐ
うち上がるわ〜。」
ロウは葉巻を取り出し口に含むとタイラー達の阿鼻叫喚の様を
思い浮かべ嘲笑を浮かべた。
「ふふふ、この基地は我らの攻撃を何度も跳ね返してくれた。
まったく憎たらしい程にな。だがそれも今日までだ。
さて、帰る場所をこれから失う君がどれほどの憎悪に
染まっていくかが楽しみだよ。くくく。
総員に告ぐ！！手負いの獣はねぐらに追い詰められた。
さあ我々の狩を楽しもうではないか！
全艦攻撃開始せよ！！」
150隻以上の軍艦から無数の光の矢が極寒の惑星に放たれた。
同時刻、基地の工場では自動殺人兵器である、合体ロボライフデリーター
や重機動兵器ドーミネーターが
ウイルスの指令により続々量産され、通路上では海賊兵との白兵戦
に突入していた。
マイクロミサイルとレーザーの光弾が飛び交う中
タイラー「敵さんもやってくれるよ！こりゃこの基地を放棄することも
視野におかないとな。ハルそっちはどうだ。」
連絡を受けたハルは必死になってコンピュータ上でウイルス相手に
格闘を繰り広げていた。
「ウイルスの増殖が早すぎて基地全体をカバーなんて出来ないよう！
でも、弱音をはいたらだめなんだよね。僕ががんばらなくちゃあ
みんなの命がかかっているんだから・・・うわああやっぱり
責任重大だよう。」
頭を抱えるハルにウォーレンが心配そうに（そう見える）声を掛けた。
「マスター、私も手伝いをしましょうか？」
するとハルがそれまでになく厳しい口調でウォーレンの行動を止める。
ハル「だめだ！そんなことしたら君にまでウイルスが移ってしまう
じゃないか。」
ウォーレン「ですが、私の演算能力を使えば少しはお役に立てるはずです！」
心のないはずのウォーレンがマスターの顔を真剣に思う様に心の底で
感動を覚えながらもハルは再びきつく叱り付けた。
ハル「僕は君を失いたくないんだよう。ウイルスで君の
パーソナルが失われてしまったら君はウイルスの命じるままに僕を
攻撃してしまう。僕はそれでもいいけど、そしたら君の
存在意義であるマスターを守るという点に違反してしまう。
それはいやでしょう。」
マスターにロジックの問題を持ち出され、ウォーレンは黙るしかなかった。
ラガンは額に汗をかきながらマニピュレータでナノ単位の作業をこなしていた。
「あとすこしすら、あと少しで、ナノプローブが完成するずらよ。」
細心の注意を払いながら、あと数ナノｍで原子を組み立てればという
ところで大きな揺れが基地を襲う。
ついに政府軍の攻撃が開始されたのだ。
ナノプローブを入れた容器が振動で倒れ粉々に砕け散った。
と同時にカプセルの容器にもひびが入りやがてこれもばらばらに粉砕した。
アレスがミカを辛うじて受けとめるが、それまでカプセルの中の
液体により辛うじて増殖を食い止められていたウイルスが
再び猛威を振るいだした。
肉体が次々と腐敗を始め、ミカの体が黒くなり命の鼓動が小さくなる。
アレスは泣いた。壁に手を何度も叩き付けながら
「ちくしょう、ちくしょう、ちくしょう！！俺はまた
守れねえのかよ！！大切な人を！！大好きな奴を
俺は神はしんじねえがいたら答えてくれ！！
どうか俺からミカを奪わないでくれー！！」
その時だった。暗く沈んだ医療室を黄金色の光が照らし出し
黄金の光に包まれた白き翼を持つ獣が彼らの前にその神々しい
姿を現したのだ。
「私はミャウ。その少女の叫びに導かれココまでやってきた。」
アレス「ね、猫がしゃべりやがった・・・・。」
神秘的な輝きにただ圧倒されるアレス。
だがエメラルドを思わせる緑の瞳には全てを包み込む優しさに
あふれていた。
アレスはその朗らかな瞳を見て、息絶えようとしている
ミカをこの獣に預けることにした。
この不思議な獣ならミカの命を救えるかもしれない。そう
確信したからだ。
黄金の獣はミカをその白き翼で覆い隠してゆく。
そして暖かな光がより一層輝きを強めていく。
銃撃戦はより激しさを増し、滞空装備も麻痺している今
空からはレーザー砲の嵐が、地上を次々と抉り取る。
タイラーは決断を迫られていた。
「どうやらこれ以上の抵抗は無意味のようだな。
ジョディ、負傷者は何名いる！！」
ジョディ「はい、幸いにしてまだ死者はでていませんが
銃撃により98名が負傷、内3人が内臓破損の重症です。」
もはやバリケードの中には腕や足をやられた負傷者で
溢れ返っており、まだ負傷していない者もさすがに
疲れを感じているようであった。
タイラー「みんな疲れているか。ここにいても被害が増えるだけだ！
よし基地にいる総員に勧告！！今からこの基地を放棄する各員は
それぞれの判断で脱出してほしい！！
最後に・・・、みんな生きてまた会おうぜ！！」
携帯で伝わるその指令に従い基地にいる248人が直ちに脱出行動
を開始した。
岩盤が崩れ落ち爆音が轟く中をある者は負傷した仲間の肩を抱え
ある者は襲い掛かる機械兵から仲間を庇いながら、ランディールに
乗り込んでいく。
後に残ったタイラー達はミカ達を救うべく、崩壊する通路を
ひた走る。
タイラー達が緊急医療室に着いた時彼らは光に包まれる獣を
目撃し驚愕した。
アベル「ジャコウネコの成体！！私は始めてお目に掛かったが
なんと美しいのだ。まるで心洗われるかのようだ。」
タイラー「あの獣は・・・・・何故かわからないがとても
懐かしい気がする。遥か昔何処かであったようなそんな気が」
目に涙を浮かべ呆然と呟くタイラーにミャウが親しげに声を掛けた。
ミャウ「少女の叫びに導かれここにきたが、そこで
タイロンの子孫に出会うとはこれもアリサが導きし縁かもしれんな。」
タイラー「俺の先祖を知っているということはあんた、まさか・・・」
タイラーの疑問にミャウは黙って頷きそれまでの老人のような
語り口調を一変させ
ミャウ「そうミャウ！私とタイロンは千年前にアリサと共に
冒険した仲間ミャウ。私たちは千年前に闇と戦い打ち勝ったミャウ。
でも今や残ったの私とルツだけ・・・・・。その間に闇は
この子に取りついたウイルスみたいにアルゴルを蝕み始めたミャウ！！
私もその闇に力奪われ今出来るのはこれだけミャウ・・・」
ミャウは白い翼をゆっくりと広げるとそこに少女の姿はなく
ピンク色のジャコウネコが安らかな寝息を立てていた。
タイラー「この子が・・・・ミカだな。」
タイラーの問いにミャウが慙愧に耐えぬという表情で答えた。
「私が来た時にはもうこの子の人間部分の細胞は修復不可能に
なっていたミャウ。でも、彼女の中に私と同じジャコウネコ
の血が流れていた。だから生き返らせることが出来たミャウ。
ごめん。私にもっと力があれば・・・・」
落ち込むミャウを励ましたのは意外にもアレスだった。
アレスは安らかに寝ているミャウをそっと抱え込むと、
アレス「へん、これでこいつは正真正銘の馬鹿猫ってわけだ。
けど・・・俺は感謝しているぜ。こんな成りでもミカはミカだ。
生きていてくれるだけでもうれしいのさ。」
そういいながら、止め処もなく溢れる涙を手で拭うとミカ
をミャウに預け頭を下げた。
アレス「お願いだ！！俺がもっと逞しくなるまでこいつを
守ってやってほしい！もうこいつが２度とアルカディアに
悪用されねえようによう。」
アレスのたっての頼みにミャウは快く頷いた。
「任せるミャウ。この子の事は私に任せて
君達はもういくミャウ。何だかタイロンに会えたみたいで
とても嬉しかったミャウ！さあ急いで！！」
千年を越えた不思議な縁に、その場にいる
全員に熱いものが胸の中にこみ上げてくる。
タイラー「さあ、しんみりした別れはこれまでだ。
ミカとはすぐにでも会えるさ！だがその時までに
アルカディアをぶっ潰そうぜ！！」
艦の最終調整に入る整備班、エネルギーや物資が積み込まれ、ランディール
の計器はつぎつぎオールグリーンの緑のランプを灯す。
いつも見られた光景。
だがそれももうすぐ見納めになると思うと
クルー全員に寂しいものが去来した。
全ての計器がオールグリーンになり、発進準備が完了したかのように
見えた。
だがハッチが開かない！！
ガンツ「くそ！ウイルスの仕業かってんだ！！こうなったら
手作業でやるぞ！！おめえら準備はいいなぁ！！」
ひげおやじの号令に整備員一同が力強くこたえる。
ハル「主任！！僕もいきます！！」
しかしガンツはハルの頭に痛い拳骨を食らわすと
ガンツ「ハル、おめえはここに残って、こいつをランディールを
しっかり整備するんだ！！それがおいらからおめえへの最後の
命令だ！！」
息を詰まらせ、悲しみをかみ締めた顔のハルを本当の親父のように
だまって見つめるガンツ
ハル「はい！！・・・親父さんの息子は僕がかならず守ります！！」
ガンツ「お、言い切ったなあ！だがもし少しでも傷つけたら
地獄のそこからてめえを叱りにくるから覚悟しとけ！！じゃあ、あばよ！」
泣きじゃくりながら力強く答えるハルを見て、ガンツ達は
爆風渦巻く、ドッグに降り立った。
作業員全員で手作業でレバーを引っ張り、すこしずつ開いてゆくハッチ。
デゾリスの雪嵐がドッグまで吹き荒れるなか、
親父達がロープを引っ張りながら空に向けカタパルトが延ばす。
ジョディ「コンディションオールグリーン！第1.第2エンジン圧力上昇」
ハル「トリムチェック終了したよ！」
泣きながら報告を行うハル
エンジンの音が艦内に木霊する。
ウォーレン「対慣性中和システム作動」
タイラー「宇宙戦艦ランディール発進せよ！！」
雪嵐を貫き宇宙戦艦ランディールはデゾリスの空を駆け上る。漆黒の
宇宙に向けて！
同時に基地は宇宙艦隊の攻撃を受け大爆発と共に
その姿を吹きすさぶ雪嵐の中に消していった。
暗く沈みこむブリッジ、まるで死人のように押し黙り外を見つめる
ハル。
だがその顔が明るく微笑みに変わった。
彼が見た姿。
白き雪原に、ミャウとミカそしてガンツ達一同が全員手を振り
ランディールの船出を祝っていた。
ブリッジの窓に顔を貼り付け仲間たちの無事を確認するクルー達！
アレスは泣きそうになるのを堪え目覚めたばかりのミカを見つめる。
天空を黙って見つめるミカは
「みゃーーーーんん！！」
と悲しげ鳴き声をいつまでも上げていた。
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