スペースクルーザー ランディール
第１７話 希望の船に集いし勇者
デゾリス上空で待機し総数１５０隻にも
及ぶアルゴル第一機動艦隊は目標である
海賊基地を完膚無きまでに破壊した後も散発的に
砲撃を行っていた。祝砲の光彩が
雪の星とメドューサ艦橋を染め上げる。
その光に彩られ、紅のワインで乾杯する
アルカディア最高幹部の二人には恍惚とした笑みが
浮かんでいた。
ロウ「ふふふ、・・・・絶対的な勝利を祝う美酒とは
また格別なものよ。シェイドよ、そうは思わぬか？」
ワインのボトルを持ちシェイドのグラスにとくとく
と赤いワインを注ぐロウ司令官。
シェイド「うふふふふ、この美酒は彼らから流れ出る”血の赤”
ガーネットのように美しい悲劇の赤よねえ。♪」
手に持ったワイングラスを艦橋の窓に向け
デゾリスから脱出する小さな光点に重ね、
歌うように言葉を紡ぐシェイド。
ロウ「己が巣穴から追い出され怒りの炎を灯しつつ逃げる
主人公、悲劇に相応しいシチュエーションよのお。
だが、それが我らの望むアルカディアの楔になるまでには
もう一手、演出が必要かな。美しきマドモアゼル。」
冷笑を浮かべつつワイングラスを口に当てる
ロウ。その冷酷な瞳が見つめるは、ぼろぼろに傷ついた
か弱き光。艦橋に流れる荘厳で悲壮な組曲が
光への鎮魂歌になってしまうのか・・・・・。
シェイド「例のランディールの子孫とタイラー、どっちが
私達の望む悲劇の”デウス、エクス、マキーナ”になるか。
楽しみねえ♪」
勝者と敗者・・互いの機影がすれ違う。
踊りつつロウの肩に手をやり艦橋の窓に映る
敗者の姿を見下した目つきで見るシェイド。
それに追い打ちをかけるように幾本化の
光芒が後を追う。むろん本気でその機影を
撃墜しようとは思っていない。
ロウ「ふふふ、さあ狩人は休息中だ。
今の内に新たな巣穴に逃げ込みたまえ。そして傷口を舐めながら
憎悪を滾らせるがいい。ふふふ、ふあーはっはっはっは！！」
暗く沈んだランディールの艦橋にアレスの苛立った声が
虚しく響いた。
アレス「ちくしょう、ちくしょー！！・・・・あいつら、
高見の見物と洒落込んでやがる！！ミカをあんな酷い目に
あわせた奴が目の前にいるのに俺達は何もできねえのかよ！！」
壁に拳を叩き付けたアレスは怒りを何処へ向けて良いのか
解らず荒れていた。と、目の前に浮かぶ
敵旗艦の不気味で威圧的な姿に我慢できなくなり
ハルを押しのけ火器制御コンソールに手をかける。
アレス「くっそー！もう我慢できねえ！おい、ハル！
火器コントロールパネルちょっと借りっぞ！！
あのデカイ戦艦の横っ腹にぶち込んでやらねえと気がすまねえ！！」
ギラギラした目つきでパネルに手をかけ無茶苦茶に
操作しようとするアレスを心配性のハルが止めに入った。
ハル「ちょっ、早まらないで下さいよぅ。他にこんなにたくさん敵艦
がいるんですよ。今そんな事したら狙い撃ちもいい所ですよ。
第一、アレスさんは火器制御システム、操作すること出来るんですか？」
背中に飛びつきみっともない泣き顔を浮かべる
ハルを見て、アレスは我に返った。
途端に手にしたコンソールに浮かぶ高度な記号類を見て
頭がパンク寸前になり動きがフリーズした。
アレス「ぐ・・・・う、うるせえ！！」
ぼか！！
結局、まだしがみつくハルにきつい拳骨を食らわせ、自分の
椅子に座りふてくされるしかなかったようだ。
ハル「い、痛いですう・・・・。」
頭を押さえひっくり返るハルには
どことなく哀愁感が漂っているような気がする。
無論、アレスにも今の状況がどうしようもないこと
ぐらい頭では理解していた。が体の方はわき上がる
怒りをどうしても押さえきれないようだ。
アベル「まあ、火器制御などという高度なテクニックは
脳味噌筋肉男には無理だろうな。」
アベルが冷静につっこみを入れる。
完全な悪口なのだが、今のアレスは確かに、火器制御
の技術を持っている訳ではなく、
アレス「ぐ・・・・・・・・・・・」
と押し黙るしかなかった。
それに自分の押さえきれない怒りを彼なりのやり方で
逸らすというアベルの反面的な優しさも理解できた。
（無論、心の中では、いつか泣かす！！と思っているのだが）
ジョディ「アレスさん・・・残念ですけど
今の状況を考えて行動しましょう。
ランディールは見てのとおりボロボロに傷ついているし、
怪我人の介抱を優先しないと・・・」
ジョディの言葉通り艦内には傷つき横たわる者がほとんど
である。医療用システムもダウンし、ジョディを始めとする
女性クルー数人で看護しているが人手が足りない状況である。
アレス「んな事はわかっているよ！・・・でもよぉ、ミカを
おもちゃのように弄んだ奴らに一発でもぶち込んでやらねえ
と腹の虫が収まらねえんだ！！！」
ミカの笑顔と先程の無惨な光景が頭の中で錯綜し
また大声を上げるアレス。
そんな彼の肩をしっかりと掴みタイラーは真摯な
眼差しで見つめ
タイラー「耐えろ、今は耐えるんだ！！
奴らは俺達が何も出来ないとタカをくくっている、今しか
脱出のチャンスはない。」
タイラーの必死な訴えをジョディの言葉が補足する。
ジョディ「さっき少しだけ彼らの意識を調べたのですが、
本気で私達を追うつもりは無いみたい。
あくまで表層的な意識に関してですが。」
ジョディは慎重に敵の慢心な態度に見え隠れする微かな意図に
対する意見を述べた。
タイラー「・・・アレス、悔しいのは俺達も同じだ。
でも今俺達の肩には、240人の乗組員の命がかかっている。
俺達がしっかりしなくちゃいけないんだ。分かるだろ。」
肩を震わせ言葉を噛み締めるように呟くタイラー。
彼も悔しいのだ。
それでも顔を上げ、そのやるせなさを振り払いタイラーは
明るい笑顔でガッツポーズを取った。
タイラー「その悔しさは後に取っておこうぜ！
俺達を逃した事を後悔させるぐらいな！！」
タイラー達の真摯な対応にようやく気分が落ち着いた
アレスは
アレス「ち、分かったよ・・・」
とそっけなく答えた。
アベル「さて漢兵己に地を略し、四方、楚歌の声・・・・・
剣折れ矢も尽きた状態でこれから如何するかだが・・・。」
冒頭の聞き慣れないが不思議と寂寥感を感じさせる詩が
クルーの心に染み渡る。
タイラー「そうだな・・・・本拠地を失った訳だし
こいつを修理しようにも、指名手配中の俺達の依頼を受けてくれる
工廠なんて手近にはない。」
今の状況を冷静に分析するアベルとタイラー。
アレス「おいおい何呑気な事いってんだ！！
修理ぐらいレジスタンスに頼み込めば、いいじゃねえか。」
何も知らない人が見れば確かに呑気と言えなくも
ないが、こういう時こそ指導者と参謀は
冷静に自分の置かれた現状を考察しないといけないのである。
タイラーは苦笑しつつゆっくりと事情を説明する。
タイラー「あのなー、忘れたのか？レジスタンスは
敵に居所を悟られないために常に拠点や通信コードを
変えている。
だから、俺達は、いつもアイナの指定してきた場所で
会っていただろう？」
アベル「なるほど、”兵の情は速やかなるを主とす”
。敵が対処できないような神速でもって行動し、
敵が予想もしない道をとり、敵が守ることのできない箇所を攻める。
そして、それらを敵に悟られないようにすることはもちろんだが、
行動計画自体に関しては味方の兵士に対しても真意を
悟られないようにする。
確かに戦略的に有効な手段ではあるな。」
また聞き慣れない詩を交えつつ、レジスタンスの
戦略を得意げに述べるアベル。
アレス「かー！！！何でも戦略戦略ってこの戦略バカが！！
今は、んっな事喋っている暇はねえだろうが！！」
話についていこうと努力したがやっぱり頭がパンクしたアレスが
頭を抱え騒いだ。
ハル「まあまあ落ち着いて・・・」
ハルが宥めようとするが、逆にアレスにコブラツイストを
かけら情けない悲鳴を上げる。
アベル「そうだぞ、アレス君、落ち着いて考察すれば意外なところに
ヒントは隠されているものさ。例えばこれだ。」
わざわざ君付けをし彼らのドタバタを楽しそうに眺めつつ
手に持ったＣＤケースを指し示した。
ジョディ「それはアイナさんがくれたＣＤ−ＲＯＭですよね。」
ジョディの当然の興味に待ってましたとばかりに
アベル「ああ・・・・私の予想が正しければ、おそらくこれは」
彼はコンソールにＣＤを差し込んだ。
・・・・・・・・・・・・・・・。
しばらくの静寂の時間の後に
突如ディスプレイが輝きだし画面に次々と様々な
データが浮かび上がる。
ウイルスにより破損したシステムが次々と
リアルタイムに修復されていき新たなるシステム
も追加インストールされているようだ。
コンピュータのアナウンスが明瞭に聞こえてきた。
コンピュータ「コード確認、プロテクト解除
・・・・・・・破損システムニアクセス、リカバリー作業開始
・・・・・データ送信中・・・戦艦ランディール指定サレタ
座標軸ニルート設定、コンディションオールグリーン
自動航行開始シマス。」
同時に暗い艦内に次々と照明が灯り、誰も操作していないのに
エンジンがうねりをあげ動き出した。
トレースし確実に目的地に向かっているようだ。
ジョディ「信じられません！！破損システムが完全に回復しました。
現在設定されたルートに向けて最大巡航速度で進行中。
まさに奇跡です。」
この奇跡に思わず喜びの声を挙げるジョディ。
艦内に絶えて久しかった明るさが戻り、クルー全員にに活気と
希望が沸き上がった。
タイラー「アイナが俺達に残してくれた奇跡か・・・・・
一体この先には何が待っているんだろうか。」
星海を進むランディールの新たなる雄姿を見たタイラーの
感慨にも疑問にも取れる呟きにアベルは挑発的に尋ねる。
アベル「艦長、君には分かっているはずだろう。
おそらくそこで待っているのものは希望だよ。」
タイラー「すごいなー・・・・・・これが脱出用のコロニー
なのか・・・。」
目的地に着いたタイラー達が見た光景
それは想像以上の物だった。
かつて惑星の公転軸が入れ替わるという
銀河系内でも珍しい現象「合」その重力干渉を
回避するためにアルゴルの全力を注いで創り上げた
巨大な”希望の船”
７個のドームからなる巨大な構造体はそれぞれ
地殻を模した地表パネルを載せており、温暖な気候、
砂漠、雪原など様々な気候が気象センターのコントロール
により再現できる。重力発生装置により人間に最適な
１Ｇの重力が発生しており、また汚染物質は
ナノマシンにより完全に再生可能な資源に還元される。
人間に快適な暮らしを保証してくれる
それぞれのドームは幅１qの橋梁で結ばれよほどの衝撃がないかぎり
崩れはしない。しかもユニットを組み替えることにより
さらに拡張することも可能である。
そんな巨大な構造物が眼下に５００隻も並びさらに
それを取り囲むように無数の小型艦舶が往来する姿に
タイラー達はただただ、感嘆の声を挙げる他なかった。
アベル「ああ、直径20キロメートルのドーム型の宇宙船を
ユニット状に組み合わせた構造体。
環境工学により、アルゴル内の様様な自然環境を再現した
自己完結した空間”バイオスフィア”
我々の失った活力・・・・・これがアルゴル人の逞しさか・・・・
まったく頭が下がるよ。」
自嘲気味に呟くアベル。
ハル「？・・・・ってアベルさんもアルゴルで生まれたんですよね。」
ぎく！！
時々妙に鋭いハルにどきどきしながら、アベルは他に
話を逸らそうとする。
アベル「・・・・・・あ、ああ、まあこれだけ充実した
環境なら宇宙空間を何万年航行しても耐えられるはずだ。」
ハルの興味を環境部分に逸らしほっと溜息をつくアベルだった。
タイラー「・・・・しかし、出来ることならこれは使わなくて
済むようにしたいな。」
これを使われることそれは・・・・惑星パルマの崩壊を意味する。
最悪の事態が頭を掠め、それを振り払うように
決意に満ちた表情でタイラーは遠くの蒼き星を見つめた。
アベル「確かにそうだ。」
アベルの脳裏に滅び行く故郷とちりぢりに分かれた
民の姿が浮かび、珍しく彼に悲しい表情を滲ませた。
その時ランディールに聖母の如く優しく暖かい声が木霊した。
アイナ「皆さん、お待ちしておりました。そしてようこそ、
我々の希望の船へ。」
と同時に目の前の巨大な船”アリサ３世”のゲートがゆっくりと
開いてゆく。
それまで窓から外を眺めていたジョディが慌ててオペレータ席に戻り
通常の業務を再開する。
ジョディ「あ、いけっない。つい見とれてしまって。
ではドッキングコントロールお願いします・・・。」
オペレーター席のディスプレイから聞き覚えのある声が聞こえてきた。
ジェリコ「了解しました。直ちに誘導ビーコンに従ってください。
俺がサポートします。」
画像は艦長席にも送られタイラーが驚きに満ちた声を上げた。
タイラー「その声は！！ジェリコなのか！？」
ジェリコ・・・・かつてのタイラーの後輩で、
アルカディアに利用されるもタイラー達に救われた。
その彼が今、立派になってタイラーの目の前に映っている。
ジェリコ「はい、先輩のおかげで俺もここでオペレーター見習と
して頑張っています。・・・・先輩、無事でなによりです。」
目頭を押さえるタイラー。周りには多くの仲間達が温かい目
彼を見つめていた。
タイラー「そうか・・・・・ここが俺達の新しい基地。
そして護るべき仲間達がいる場所なんだ・・・・・・。」
管制塔からの指令によりアリサ３世から誘導ビーコンが打ち上げられ、
それがランディールの新たなる道筋を指し示していた。
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