スペースクルーザー ランディール
第23話 激動へと進む静寂の序奏曲
暗い・・・・
宇宙の深淵より暗い暗黒の中でタイラーは意識を取り戻した。
あの時”闇”の津波が自分達を飲み込もうとした時、三色の光が助けてくれたような
感覚がしたが、それの方が幻だったのであろうか。
タイラーはいまだ暗闇の海の中を漂流する小枝のように漂っていた。損傷し微細な
放電を放つ機械の腕をただ見上げる事しか出来ない。諦めが彼を支配していた。
タイラー「・・・・俺は死んだのか・・・・・・何も見えない。ただ暗闇が見えるのみ・・・
暗闇？いや、何かが見える・・・・・あれは・・・・・母さん！！」
微細な放電の輝きが周囲の闇を明るく照らした時、闇の果てに何かが見え出した。
闇は徐々に霞みのごとく晴れ渡り、タイラーはその光景の中に入りこんだ。それは
彼の脳裏に深く刻まれた哀しい記憶だったのだ。
幼い少年が、病でベットに伏せっている母の側で泣きながら看病を続けていた。
幼い頃のタイラー「母さん・・・・母さん・・・・ねえ、目を覚ましてよ・・・・」
彼は一昼夜ずっと看病を続けていたのであろうか。目を赤く晴らしながら、母の汗を
ふき取り氷のうを変える姿はあまりにも痛々しかった。だが執事やメイド達がいくら
仕事を代わろうと言っても彼は頑としてそれを拒んだ。
やがて・・・朝が訪れた。小鳥の囀りの中、母は目をうっすらと開ける。
タイラーの母「・・・・タイラー・・・・あなたずっとここにいたの？」
タイラー「うん、母さんが苦しそうだったから、僕がここにいたんだよ・・・・・」
やせ細った母の手を取り、じっと母を見つめる少年には哀しいほど痛々しい笑顔が
あった。
タイラーの母「タイラー、母さんはね、重い病気にかかっているの。おそらく・・
ゴホゴホ！！・・もう助からないでしょうね」
幼い少年の金色の髪をさすりながら、慈愛の情を浮かべる母親。だがその手が急に
痙攣で震えだし、彼女は背を屈めながら大量の血を吐血した。
みるみるベットが赤く染まり、少年はどうしていいかわからず戸惑うばかりだった。
そこに現れた老齢の執事長が慌ててメイド達に指示を下した。
執事「奥様！！こ、これはいかん、ただちに医者をよぶのだ！！」
指示を受けたメイドや執事達がかけまわる足音が木霊する中、少年は目に涙を
溜めながら必死で母に懇願する。
タイラー「母さん！！もう喋っちゃだめだよ！！！」
少年の目の前で母の顔から血の気がどんどん消えていくのがわかった。だが彼女は
最後の命の灯火を燃やして息子の事を気遣う。
タイラーの母「で・・・でもね、あなたはオーレスン家を継ぐ大切な後継者・・・。私の病気
の為にあなたや家族を危険にさらす訳にはいかないのですよ。」
少年は家族の事を言われ今まで溜めていた不満を一気にぶちまけた。一人寂しく遊ぶ
しかない自分・・・病の床に伏せりながらただ寂しげな笑顔を見せる母の痛々しい姿・・・・。
それもこれも仕事の為という名目で家に帰ってこない父親のせいだと少年はずっと思って
いたのだ。
タイラー「オーレスン家なんてどうだっていいよ！！くそ親父は母さんが苦しいのに仕事で
帰ってこないしそれで母さんはいつも寂しそうだったじゃないか！！僕は・・・・僕は
母さんと一緒ならそれでいいんだよ！！！」
怒気をあらわにする少年を母はただ静かに諌めた。
タイラーの母「タイラー・・・・父さんは・・・あの人は、大切な人を護るために戦っているのです。
それは私や・・・そして可愛いあなたを護るためでも・・・あるのですよ。ゴホゴホ」
タイラー「母さん・・・・母さん！！！」
弱々しげに語る母の顔色はもう死人のそれと変わらない土気色をしていた。それでも何か
を伝えようとする姿に少年はただ泣きながら聞く事しか出来ない。
タイラーの母「タイラー・・・・気を・・・強く持ちなさい武門の誉れオーレスン家の血を継ぐ
ものとして・・・・大切な人を護れるように・・・・」
母親が最後の命の灯火で伝えようとする言葉を少年は胸の奥に刻み付けていく。
執事「急いで奥様を緊急治療室に運び出せ！！！」
執事とオーレスン家直属の医師団に担架に乗せられ
集中治療室へと母は運ばれていく。担架に据え付けられた心電図がどんどん弱くなって
いるのが少年の目からも見えた。
タイラー「うん、僕大切な人を母さんを護れるようになるからだから・・・・だから・・・・死な
ないで！！！」
少年は必死になって担架で運ばれる母の姿を追い求めた。
タイラーの母「私は・・・・いつ・・、もあなたの傍に・・・」
母親は痙攣した手で最後の力で追いすがる少年の頭を撫でる。そして・・・・・心電図の脈の
数値がゼロを示した。
タイラー「う、うわぁぁぁぁぁぁん」
その日、少年の嗚咽がオーレスン家に虚しく響いた・・・。
その日の夜になって帰った父に向かい憎悪を剥き出しに掴みかかる少年の姿があった。
タイラー「くそ親父！！なんで今頃になってくるんだよ！！おまえが帰ってこないから・・・・
母さんは、母さんは・・くそ・・僕はおまえを絶対に許さないからな！！」
父親の胸倉を必死で叩くしかない少年の姿を父タイロスはただ黙って見つめていた。少年は
その姿に居たたれなくなり捨て台詞を残すと部屋の外へと走り去るしかなかった。後に残さ
れたタイロスは自分の部屋に飾ってある妻の写真を手に取り小声で呟いた。
タイロス「あえて否定はせん・・・・仕事の為とはいえ私はおまえを家族を幸せにする事ができ
なかったのだからな・・・。だから、タイラーの憎しみは全部私が引き受けよう。それ
がおまえにしてやれる唯一の償いなのだから・・・・。」
その償いの言葉を部屋の外で隠れて聞いていた少年の胸中にはどうしようもない父に対する
怒りと悲しみそして哀れさが渦巻き、ただ愚痴をこぼすしか出来なかった。
タイラー「・・・・・・・いまさら言ったてもう遅いんだよ。くそ親父」
少年は手を何回も壁に叩きつけどうしようもない遣るせつなさに身体を振るわせるしかなかったのだ。
それから年月が過ぎ少年は逞しい青年になっていた。彼は毎日剣技の修行をしていた。
そしてその傍らには厳しい父親の視線がいつもあったのだ。必死に剣を振るうタイラーに
タイロスの激が飛ぶ。
タイロス「右脇が甘いぞ！！もっと剣の角度を上に合わせろ！！」
右脇目掛けて模擬刀を突き出しタイラーの構えを崩すタイロス。
タイラー「うるせえ！！くそ親父の言う通りになんてしてやれるかよ！！俺は俺のやり方で
やらさしてもらう。」
右脇を押さえ足元がふら付きながらも再び剣を取るタイラーだったが、怒りにまかせた攻撃は
容易にタイロスに避けられてしまう。
タイロス「ふん、そんながむしゃらな怒りがお前がこれから真に戦うべき敵に通じるかな！！」
タイロスの模擬刀が再びタイラーの身体を激しく打ち付ける音がオーレスン家の庭に鳴り響いた。
草むらに倒れこみ息を荒げるタイラーはふと思った疑問を父親に聞いてみる。
タイラー「はあはあ・・・・・どうしてなんだ。くそ親父、仕事はいいのかよ。お前の仕事は人を
護ることなんだろう・・・・。それがこんなところで俺みたいなくそ餓鬼相手に剣の修行
なんて気楽なもんだな・・・・。」
息子の非難がましい視線に気づきタイロスの顔に苦いものがよぎるが、それを隠すように
哀しい笑みを浮かべ肩をすくめた。
タイロス「気楽か・・・確かに軍最高司令官の肩書きとは聞こえがいいが実際には窓際族と
変わりはしない。軍はアルカディアの手中に完全に掌握されてしまった。もう・・・
私に出来ることは何もない・・・それよりお前はこの私が憎いのじゃないのか？」
逆に父から問われる事になるとは思わなかったタイラーは意固地に怒気を剥き出しにした。
タイラー「ああ、憎いね！！でも俺は約束したんだ！！母さんと、大切な人を護れるようになる
って、だから・・・・くそ親父も負けるなよ。」
そうは刺々しい口調で言うものの内心では父親を許す心も芽生えつつあったのだ。タイロスは
必死になって政府軍に影響力を持とうと暗躍するアルカディアに最後まで抵抗する良識派
だった。だが結局タイロスは巨大なマザーブレインのシステムの前に屈する他なかった。苦悩
する父親の姿をタイラーは見ていられなかった。
タイラー「俺はそんな負け犬みたいな親父の姿を見るのがいやだった・・・・だからこそ俺は戦闘
部隊の最前線で戦う道を選択したのかもしれない。そして・・・俺は親父のシグナルを見
逃してしまったんだ。」
政府軍は巨大な悪意の手でより冷酷な官僚支配体制となりそれにタイラーは迷いを感じていた
そんなある日、彼は簡単な作戦でミスし手を負傷してしまった。治療後が痛々しい右手を黙って
見つめるタイラーに父親が声をかける。
タイロス「どうした、今回のミッションはBランクの危険の少ない作戦。最前線で戦ってきた
エースであるお前なら割りと楽な仕事だったはずだ・・・それともやはり私が推薦
した仕官への道の方が楽だったのではないかな。」
押し黙るタイラーに挑発するようにくどくどと皮肉に満ちた発言をするタイロス、いつもならここで
不て腐れたり怒鳴ったり息子からなんらかの心理的返答が返ってくるのだが、その日に限り彼は
乗ってはこなかった。
タイラー「・・・・くそ親父の皮肉にはいい加減うんざりなんだが正直、仕官の方が良かったのかも
しれないな。」
珍しく父親に食って掛からないタイラーの姿に父親は久しぶりに労わりの言葉をかける。
タイロス「・・・・辛かったら軍などやめて、本当の仲間達の元に出向してもかまわぬのだぞ・・・・。」
タイラーはこの頃いつも前線で戦い続けていたモタビアンゲリラのアレスと共感できる友情を感じ
ていた。そんな彼から反マザーブレイン組織への参加を求められたのが１週間前の出来事だった。
父の軍に対する思いを理解し始めていたタイラーにとって父とアレスとの間で板ばさみになり、
ずっと悩んでいたのだ。その父から出たこの言葉は意外であり同時に腹立たしくもあった。
タイラー「へえ・・・一応政府軍の最高司令官とは思えない言葉だな・・・母さんが聞いたらきっと
嘆くだろうよ・・・・今の親父の腑抜けた姿に」
自分の苦悩も知らず監視を続けていたと思いこんだタイラーの父に対する心情は一気に悪くなり、
言葉の端に軽蔑の念が滲み出ていた。
タイロス「まだ・・・・私が憎いのか？」
父は息子の軽蔑の視線を肌で感じ取っていた。正直タイロス自身も自分の今の立場がかつて
自分の目指した理想と１８０度違うことを自覚していた。少し寂しく笑いながら独り言のように
呟く父の姿はタイラーにとってあまりにも小さく見えた・・・。
タイラー「いや・・・今のあんたは憎むのにも値しないよ。アルカディアの言いなりになり母さんとの
約束を忘れてしまったあんたにはな・・・・・。」
そんな父の姿に怒りを通り越し失望を感じたタイラーは溜め息交じりに母との約束を口にした。
タイロス「・・・・・大切な人を護るか・・・・・・・数年振りに聞く言葉だ・・・・ふ、お前の言う通りだ。
私は何時の間にか臆病になっていたかもな。失う事を恐れて・・・息子に叱られるとは
情けない親だ。・・・・・せめて明日からは、軍の最高司令官として相応しい仕事をせねば
ならぬな！！」
かつて愛した妻との果たせなかった約束・・・それを思い起こす内にタイロスの中である強い決意が
生まれていた。その決意を示すように父の口調は次第に力強く自信に満ち溢れたものになっていた。
それは理想に燃えていたかつての父の姿だった。
タイラー「？・・・・・・へ、それでこそ、こ憎たらしい俺のくそ親父だぜ！！！」
父の急な口調の変化に唖然となりながら、その力強い言葉に生まれて初めて共感を覚えるタイラー。
彼は少し苦笑しつつ父の部屋を出た。だが彼はこの時知る由もなかった。それが父との今生の別れに
なるとも知らずに・・・・。
タイラー”その日親父はロウにより謀殺されてしまったんだ・・・母さんとの約束を破ったのは俺の方だ！！
あの時親父の様子に気がついていたら親父を助けられたのに・・・親父を殺したのは俺だ！！！”
タイラーの中でそれまで記憶の奥に封印していた悲しみと悔恨の思いが堰を切って溢れ出した。自分が
気づいていればという罪の意識の中で肩が小刻みに震え、嗚咽がこみ上げてくる。まるで迷子の子供の
ように小さく震えるタイラーを周囲の闇がじわじわと取りこもうとしていた。だがタイラーは抵抗しない・・・・。
負の意識に支配されたタイラーにそれに抵抗する余力はなかったのだ・・・・。人間の負の意識の塊である
闇がタイラーを完全に取りこもうとしたその刹那・・・・一条の光明と共に慈愛に満ちた少女の声が届いた・・・・。
ジョディ”それは違うよ、タイラー”
一条の光は周囲の闇を切り裂きながらタイラーを暖かく包み込んでいく・・・・。
光の眩しさに目を閉じたタイラーが次に目を開けた時・・・
彼はリーク城の一室の医療ベットの上で寝かされていた。
タイラー「は・・・・俺は一体・・・。」
しばらく茫然と部屋を眺めるタイラー・・・・。その耳元に先程の声・・・・ジョディのほっと安堵した声が
聞こえてきた。タイラーの横で彼女はずっと寝ずに看病を続けていたのだ。
ジョディ「良かった。気がついてくれて・・・。」
タイラー「ジョディ・・・君が救ってくれたのか・・・。」
ようやく我を取り戻したタイラーだったがまだ現状を把握してはいないらしい。”闇”の強大な思念波
に意識毎、穿かれたとあれば無理もない事だろう・・・。
ジョディ「いえ、あの時・・・”闇”に飲み込まれた私を救ってくれたのはあなたなのよ、タイラー」
タイラー「すまないがよく覚えてない・・・あれから一体どうなったんだ。」
まだ後遺症があるのか頭を押さえるタイラーを支えながらジョディはあの後の数日間の事を説明した。
ジョディ「”闇”の襲撃で真実の書を含め賢者の島の聖域は崩壊したわ。ぎりぎりのところをアイナと
オハリオそして賢者様のおかげで私達は救われたの・・・。」
現状の確認を終え、意識もようやく安定したタイラーの胸中に再び深い悔恨の想いが頭をもたげた。
タイラー「そうか・・・・だが俺は・・・俺はあの時死んだ方が良かったのかもしれない・・・俺が親父を殺し・・・。」
そうポツリと呟き肩を振るわせるタイラーにジョディは力強い口調で諭す。心の奥から溢れ出る言葉が
彼女の口から堰を切ったように飛び出した。
ジョディ「それは違う！！絶対に違うよ！！あなたはあなたの両親の想いを受け継いだのよ。あなたの
肩に二人の想いを微かに感じるもの・・・・。」
ジョディの言葉にハッとなったタイラーはようやくジョディの方を呆然と振り向いた。彼の手をジョディが
優しく両手で包み込んでいた。
タイラー「俺の母さんと親父の？」
そう聞き返すタイラーの顔を緑の光が優しく照らす。二人を繋ぐ手が淡く緑色に輝き、身体の不調が
淡雪のように消えて行くのをタイラーは体で実感していた。
ジョディ「ええ・・・父さんの方はその欠片みたいだけど二人ともあなたの事をとても気遣っているのを
感じる・・・・。」
目を閉じタイラーの治療に専念するジョディの心の奥で彼を思う二つの魂の声が優しく木霊していた。
タイラー「だが俺は親父に憎しみを抱いていたんだぞ。それなのに何故親父が・・・・。」
父親に今まで不信と憎しみ、そして行き違いでしか交流がなかったタイラーにとってその父が自分の
事を護っていると急に言われてもただ戸惑うばかりであった。そんな困惑するタイラーの横にジョディは
腰を下ろし優しく語り掛ける。まるで子供に昔話を話すかのように。
ジョディ「タイラー・・・わたしを孤児院で育ててくれたシンクレア先生のおまじないを教えてあげる。
『憎む心は実は寂しん坊、だから憎む心も愛してあげよう。親のように子供のように』
誰だって憎む心はあるわ・・・・・だけどそんな醜い部分も自分の一部なのよ。だから自分の
想いとしかと向き合うしかないの・・・。」
自分よりも身体も小さく力も弱いはずなのに目の前にいる少女はタイラーの目にとても大きくそして
強く映った。
タイラー「おまえは強いな・・・・・。」
思わずタイラーの口から出た言葉にジョディは一瞬キョトンとなる。それでも胸の中で熱いものを感じ
つつジョディは満面の笑顔で答えた。
ジョディ「ええ、私だって荒くれ者の海賊の一員なんだからでも・・・・」
そう言うとジョディは顔を俯かせタイラーに寄りかかる。
タイラー「ジョディ？」
ジョディ「今だけは・・・私の側にいて・・・タイラー」
無理もない。”闇”に心の奥底まで覗かれ悲しい記憶を見せられたジョディには今親身に支えてくれる
存在が必要なのだろう。同じ体験を共有するタイラーにはそれが痛いほどわかった。そしてそれでも
自分を支えてくれるジョディがとても愛しかった・・・・。
タイラー「ああ、俺はここにいるよ・・・・。」
二人は互いに身体を引き寄せいつまでもそうしていた・・・。窓の外・・・青の月と紫の月がそんな二人を
淡く照らしていた。
アレスとミカは部屋の外で二人の会話をただ黙って聞いていた。少し複雑な表情を浮かべるミカに
アレスがじれったそうに声をかける。
アレス「いいのか・・・ミカ・・・タイラーの側に行かなくても・・・・。」
タイラー達に気づかれないよう小声でミカに問い掛けるアレス。そんなアレスの言葉には普段の粗暴さ
からは考えられないが多分に相手を想う優しさが含まれていた。
ミカ「うん・・・だって二人の邪魔をしちゃ悪いんだもん。それぐらいあたしにだってわかるよ・・・。」
ミカはアレスの顔を見上げ、少し寂しげに答えた。そんなミカの様子横目で見ながらついついいつもの
軽口を叩いてしまうアレス。
アレス「へえ、この前まで嫉妬の炎もやしてたのはどこのどいつだったかなあ」
ミカ「もう、アレスお兄ちゃんのばかちん！！・・・ほんっとに、ほんと〜うに女心がわかんないんだから」
ミカは思わず大声を上げそうになり慌てて言葉を濁す。気づかれてない事を確認して小声でいつもの
口喧嘩をするアレスとミカ。
アレス「へん、そんなもん・・・わかりたくもねえよ。俺にはおめえを護れる勇気があれば十分よ！」
正直ミカにはまだタイラーに対する未練が残っていた。そしてジョディに対するほんの少しの嫉妬心も・・・。
だがアレスの「おめえを護る」という言葉がミカのそんな負の意識を完全に弾き飛ばした。心が暖かさで
満たされるのを感じながら、その感覚にまだ慣れていないミカは恥ずかしそうに顔を赤らめつつ
ミカ「・・・・もう、本当にバカなんだから・・・・」
と、小さく呟いた。
アレス「・・・へへへバカ猫にバカといわれても、あまり悔しくねえぜ。」
口では悪く言いつつまんざらでもない表情のアレス。
ミカ「はいはい、じゃあアレスお兄ちゃん行こう・・・・今夜は二人でデートだよ！！」
そんな強がっているアレスにミカからのとどめの一言が見事にクリティカルヒットした。
アレス「デ・デデデ・デート！！！おいちょ、ちょっと待てよ」
途端にアレスの体毛が全て逆立ち顔が蛸のように赤くなった。身体が硬直するアレスの様子を笑いながら
ミカはアレスの手をぐいぐいと強く引っ張って行く。
ミカ「アレスお兄ちゃん何恥ずかしがっているの？まずは古都マイストークの観光巡りだよ」
今やすっかりミカのペースに敷かれているアレス。それでも二人とも今の幸福を満喫しているようである・・・・。
外でそのような恋の空騒ぎがあったなどつゆ知らずタイラーはベットから立ちあがると大きく背伸びした。
タイラー「ジョディ・・・ちょっと外の風に当たってくるけどいいかな・・・・。」
ジョディ「ええ・・・今日は少し暑いものね。でも明日はいよいよ脱出計画の決行の日よ。少しでも体調
整えておこうね。」
ジョディが言うように、いよいよ明日不可知領域は惑星パルマに最も近い軌道を通る。それを機に脱出
船団は総力をあげて脱出計画を発動しようとしていたのだ。ジョディはなるべくならタイラーに静養して
もらいたいのだが、都合上、彼の疲れを取ることと心配そうに声をかける事しか出来ない。タイラーも
それがわかっているのか
タイラー「ああ」
と優しく返事するのであった。
先程までミカとアレスがいた場所を通り、城内を散策するタイラー。夜風は火照った身体にとても涼しく
感じられた。
タイラー「ふう夜風が気持ち良いぜ。機械の身体になって何年振りだろうな。こんなに気分が良いのは」
リーク城の探索を終え、城の中庭から客室に戻ろうとしたその時どこかから子供の泣き声が聞こえてきた・・・。
シンシア「ふえぇぇぇ、怖いよ、紅い紅い三つ目のお化けがお化けが・・・・・。」
泣きじゃくる少女をバルコニーにいたアイナが優しく声をかける。
アイナ「・・・・落ち着いて。それは夢なのよ・・・そう、悪い夢」
シンシアに続いてアレクやグラントも半泣きになりながらアイナの側に駆け寄った。三人ともどうやら
似たような悪夢を見ていた。実は紅い三つ目・・・”闇”はある一定以上の”力”を持つ者に思念波を
送り込んでいた。それは悪夢という形で現れる。シークの遠い親戚に当たる以上彼等にも”力”があると
いう事なのだろう。
グラント「でもぅ・・・でもぅお化け達がアイナお母様とオハリオお父様を・・・・。」
グラントはふだんの冷静な顔をぐちゃぐちゃにしながらオハリオにすがり付き大声で泣き始める。
アレク「ば、馬鹿やろう・・・泣くな！！男だろう。」
そう言うガキ大将のアレクも涙を堪えてはいるが足ががくがく震えていた。オハリオとアイナは今はただ
彼等を宥めることしかできなかった。
オハリオ「大丈夫だ。どんな怖いお化けが出ても父さん達がきっとお前達を護ってやるからな。」
心の中で”闇”に対する不安に襲われながらもオハリオは父親のように凛々しい顔をつくり泣きじゃくる
子供達の頭を撫でた。
シンシア「ほんと・・・ほんとに約束だよ・・・・。」
ようやく泣き止んだ子供達を少し悲しそうな瞳で見つめつつ穏やかな微笑を浮かべるアイナ。その慈愛に
満ちた姿はアルゴルの教会にかつて祭られていた千年前の伝説の聖女を思わせた。
アイナ「私達がいない間・・・もう悪い夢に襲われないよう悪いお化けをやっつける呪文を教えてあげるわ。
・・・”光ありて 影を成し、対ありて 対無く、不在の在。かかる姿の 転生の、宴 無限なる律、ここに
印 結びなさん。ムゥト ディッツ ポウム・・・”」
彼女の口から紡ぎ出されるのは、言葉であって言葉ではない。はるか太古の律を顕わすもの。その抑揚の
ない朗々とした言葉が醸し出す神妙なる空気に先程まで泣いていた子供達も真剣にその言葉を聞いていた。
やがてアイナの腕の周りに
烈火のような赤い輝きの光・・・・ポウム
神妙なる蒼い輝きの光・・・・・・ムゥト
穏やかな緑の輝きの光・・・・・・ディッツが
小さな光として現れ妖精のように彼女や子供達の周りをほのかに照らし出すと子供達から歓声があがった。
シンシア「うわああ・・・きれい。」
グラント「・・・・す、すごいです。」
さっそくアレクが真似をしてみるが口がからまり中々上手くは言えないようだ。
アレク「…光あり・・て・・・ム、ムト、むずかっしくて上手く喋れないよ。」
拙いが真剣に太古の律を覚えようと練習する子供達の姿にオハリオとアイナはかつての自分達の姿を
重ね合わせていた。嬉しさと同時に彼等に自分達と同じシークの重い宿命をも課そうとする自分達の
不甲斐なさがくやしかった。そんな複雑な感情を押し殺しオハリオはただ優しげな表情で子供達に語る・・・・。
オハリオ「いいかい、その言葉をいつでも唱えられるよう練習するんだよ。将来父さん達の代わりに
みんなを護るのは君達なんだから・・・。」
アレク達「うん、わかった！！」
子供達は元気な返事をして外へと飛び出していく。アイナとオハリオは瞳を潤ませながらその姿を見送ると
子供達とは反対の方向に向き直り強い決意を秘めた表情になった。例え自らの命を掛けてでもあの子達を
護るという強く悲しい決意を秘めて・・・。
だが、木蔭から見ていた、タイラーにはそれが死んだ父親の姿と重なって見えた。そしてその事がタイラー
にはどうしても納得がいかなかった。彼等の前に立ちふさがり冷めた視線を送るタイラー。
タイラー「あんた達死ぬ気だろう・・・。」
いつものような飄々とした口調だが明らかに怒りが込められていた。それを聞いたアイナ達の表情が硬化
した。
アイナ「・・・・・どうしてそれがわかるのです。」
タイラー「あんた達のような悲しみに満ちた力強い決意の目を俺は見た事がある・・・。」
三人の間に緊迫する空気が流れた。
アイナ「それであなたはどうするのですか・・・・。」
アイナとオハリオの目にぞっとするような鋭い眼光が宿りタイラーを見つめている。だが、タイラーも
負けてはいない。
タイラー「さあな・・・正直俺は降りようと思っている。あの子供達を泣かせるような指導者に星を救う事なんて
出来ないからな！！」
大きく溜め息をし、静かに怒気と軽蔑の眼差しを浮かべ一気に言葉を捲くし立てる。
アイナ「・・・・その言葉は本気なんですか・・・・。あなたの父タイロス中将は我々が苦しい時、多くの助言を
下さった。彼は我等に希望を託していた。とても真剣に・・・・あなたはそのタイロス中将の意思を受け
継いだのではないのですか！！・・・人を護る事ををあの人から託されたのではないのですか！！・・」
アイナから氷のように冷たい怒りの視線が向けられる。一触即発の緊迫した沈黙がその場を支配していた・・・。
だが、タイラーはフッと息を抜くと再びいつもの飄然とした態度に戻った。タイラーのあまりの態度の豹変に
毒気を抜かれる二人。
タイラー「・・・・はははっ冗談だよ冗談、ただ、お前達の気持ちを確かめたかっただけさ。すまなかったな、
お前達はあの子供達を泣かす事はないと俺は信じているぜ・・・。俺の親父もそう望んでいるはずだ・・・。」
タイラーの言葉に先程の非礼に対する詫びとアイナ達に対する深い信頼が込められていた。そして踵を返すと
タイラーは
「自分達でなんでもしょういこむなよ、俺達仲間だろう。」
と静かに呟やきジョディの待つ部屋に戻っていった。その温かみのある言葉を胸で痛いほど感じながらアイナと
オハリオは寂しく
オハリオ「アイナ、僕達の負けだね・・・・」
アイナ「・・・・・ええ、そうですね・・・でも・・・」
と呟く他なかった・・・。様々な想いが交錯する中夜は静かにふけていった。
翌日午後、ついにアルゴルの命運を決める長い長い戦いが始まろうとしていた。
PM：３・００
巨大宇宙船アリサ三世のパイロッタにある作戦統合司令室には無数のディスプレイが壁面に映し出され各地の
状況やマザーブレインシステムの動きなど多くの情報が高速に飛び交っていた。司令官専用の移動席には本来
そこに座るはずのアイナとオハリオの姿はなく副司令のルオンが座り的確な指示を送っていた。その左右には
ケン・ミラー博士とアベルを始めとする参謀達が座り状況を細かく分析している。統合司令室には他に情報部
将校やオペレーターなど百人を超えるスタッフがいてメインフレームの点検や専用回線の接続などの作業に従事
していた。
ルオンはある程度作業の指示を終えると席から立ちあがる。統合司令室のスタッフやディスプレイに映し出さ
れる各地のメンバーが固唾を飲んで見守る中ルオンは一呼吸終えると、威厳に満ちた声を張り上げた。
ルオン「では脱出計画の最終確認を行う。これより我が脱出船団は不可知領域の外れ電磁波が最小限届く範囲に
移動を開始する。この段階で・・・・アベル氏とケン博士の手で宇宙船ノアとパルマ地表を結ぶマザーブレイン
システム最大のネット回線にアクセスし一気にこれを手中に収める。・・・・これでよろしいかな」
ルオンの一瞥にアベルが肩をすくめて不敵な笑みを浮かべ、
アベル「ふ、”人をみわけてつかへば、其はか行て、手際よきもの也”これは五輪書という兵法書の中で説かれる
もので適材適所と同義の言葉だが言われるまでもない。私に任せてもらえるかね。」
ケン「ふふふふふふ・・・まあ、泥船に乗った気で僕に任せるんだね！！」
反対側に座るミラー博士が微妙に違う熟語を口にしながら楽しげにコンソールとそれに接続する奇妙奇天烈な
機械をを弄っている。そのあまりに異様なオーラを発するミラー博士の様子にルオンはどっと不安にかられつつ
ルオン「（汗）・・・・・しかる後、転送システムを最大限に活用、同時にパルマ各地に隠してあったシャトルを一斉に
稼動させ難民を避難誘導させる。この件に関してはマフィアグループの影響力に掛かっているが。」
席をディスプレイ群に向きなおし指示を続ける。二つのディスプレイが拡大表示され厳つい顔の男達が映し出される。
裏社会の大物オセロとトニーGだ。
オセロ「裏の社会をなめないでいただこうか・・・・。」
トニーG「おい一人救助につき１００メセタの報奨金の契約、後でたがえるんじゃねえぞ！！こら！！」
トニーGの蛸のような頭がさらにアップになりドスの効いた声が統合司令室に大きく響いた。ルオンは頭の中で
金額の計算をしながら思わずその莫大な金額に大きく溜め息をつく。
一人100メセタとして×１０億人＝千億メセタ・・・・。あまりの金額に冷や汗をかきながら、大きく頭を振りルオンは
タイラーの映し出される方角へと席を移動させた。
ルオン「・・・・まあその事については後でゆっくり話し合うとしだな・・・・、尚、この段階においてパルマ軌道上の
攻撃衛星及びアルカディア貴下の政府第一、第二機動艦隊の妨害が予想される。故に脱出船団を援
護するためタイラー率いる遊撃艦隊がこれを封じる。宜しいか」
タイラー「ああ、俺達にどーんと任せな！！」
いろいろ緊迫した状況の中、タイラーのはきはきとした頼もしげな声に初めてルオンが微笑んだ表情を見せる。
そして再び席から立ちあがると表情を正し全てのディスプレイに映し出されるレジスタンスの全メンバーを見渡し、
堂々とした一際大きな声で最後の指示を命令した。
ルオン「これまで我等は大きな犠牲を払いここまで来た！！彼等の意思を無駄にしないためにも我等は生き
残らなければならない！！そして１人でも多く救助できたその時こそ我等は地球人とアルカディアに
勝利した事になるのだ！！ではこれより、作戦コードネーム”自由への翼”を開始する。最後に諸君
らの健闘を期待する！！」
ルオンの熱い演説が終わるとレジスタンスメンバー全員がおう、という大きな声で一斉に復唱した。その声が怒涛
となってそれそれの心のうちの戦意を高揚させる。来るべき最終決戦に向けてレジスタンスの全員が己に与えられた
行動を開始する。その顔には皆気力が満ち溢れていた。
ランディールでも高まる高揚感に艦内は活気に満ち溢れていた。ジョディが回線の切り替えに追われながらも
感動に胸を熱くする。
ジョディ「いよいよ始まるんですね。」
タイラーが胸の中で高まる熱い戦意を感じつつわざと軽妙な軽口を叩いた。
タイラー「ああ、しかしこの俺が遊撃艦隊の提督になるとはね・・・・俺の最もなりたくなかったくそ親父と同じ職業だ。
結局オーレスンの血に縛られるんだな・・・・。」
口では悪くいいつつまんざらでもない表情のタイラー。そこにスタージェ−ンから通信が入る。スタージェ−ンは
旗艦レッドバイパーではなくなぜか修復されたダークダンディールに艦長として搭乗していた。
スタージェーン「オーレスンの血だがなんだか知らないがね。提督閣下が不安がってどうするんだい？あんたの
指揮にあたしたちの命がかかっているんだからね！！」
タイラー「ああ、わかっている・・・・わかっているさ。それよりスタージェーン、どうしたんだ！？そのやつれようは・・・。」
途端にスタージェ−ンは涙目になる。タイラーが言うように画面に映し出されるスタージェ−ンの美貌は頬がやせこけ、
目に隈ができておりいかにも貧乏な雰囲気を漂わしていた。
スタージェーン「・・・・よくと聞いてくれたよ・・・。実はうちの親分オセロが何をおもったかトニーGに数十億メセタの
借金してしまってね、組の財政は火の車、おまけにトニーからは毎日借金督促のメールやいやがら
せが・・・。ここ数日一睡もできなくてね・・・ははは」
よく見るとスタージェ−ン配下の赤い艦隊には抵当権や買収済みなどの文字がスプレーされていた・・・。
タイラー「そ、そうか・・・借金早く返せるといいなあ（汗）じゃあ作戦が本格的に動き出したらまた連絡する。」
あまりにも洒落にならないスタージェ−ンの様子にタイラーはうすら笑いを浮かべるとこれ以上係わり合いを持つ前に
通信を切った。
通信内容を窺っていたミカが横に座っているハルに小声で口を寄せる。
ミカ「人間ああはなりたくないよね・・・・。」
ハル「うん、僕もそう思う。」
さすがのハルも引き攣った笑いを浮かべるしかなかった。
そんな少し白けた艦橋の雰囲気を感じ取りタイラーはコホンとセキをして場を引き締める。
タイラー「さあ、お喋りはここまでだ、もうミッション開始まで一時間を切った。俺達の最後の戦いがもうすぐ
そこまで迫ってきているんだ。・・・・・だが緊張せず気楽に行こうぜ。気楽にな。」
腕時計を眺め時間を確認しながらメンバーへの気配りを忘れないタイラー。皆口では言えないこれからの戦い
への不安を感じながらもタイラーの飄々としてそれでいて頼り甲斐のある姿に安心感を感じていた。その時
ジョディがモタビアからの通信を受け取った。
ジョディ「提督！！モタビアからAクラスの極秘通信が届きましたが・・・・。」
彼女の報告にタイラーは表情を引き締める。
タイラー「回線をつないでくれ・・・。」
ジョディが複雑な暗号コードを打ち込み通信回線を繋げるとディスプレイに懐かしい顔が映し出される。
タイラー「オコーナー総督！！」
威風堂々とした総督の姿。だがその表情はなぜか暗い。
オコーナー「自由の翼作戦で忙しいのはわかっているが聞いて欲しい。ここ数日行方不明だったユーシス君の
居場所が判明した。監獄衛星ガイラ・・・君達も聞いたことがあるだろう。」
ガイラという名称を聞きタイラーは思わず汗ばんだ。監獄衛星ガイラの恐ろしさは海賊仲間の間では有名な話だった。
タイラー「あの一度収容されると二度と生きては出られない最終監獄・・・そこにユーシス達が収容されたと
いうのか！！」
オコーナーは黙って頷くと申し訳なさそうに静かに呟く。無茶は承知だった。
オコーナー「正直君の今の立場からいえば無理な相談だ。私は強制できる立場にない。だが・・・・出来ることなら。」
と言いかけて口をつぐもうとするオコーナーだったがタイラーはそんな彼の頼みを快く引き受ける。
タイラー「おいおい、俺を誰だと思っているだい。俺は提督である前に宇宙海賊なんだ。それに指揮能力なら
俺よりも艦隊を率いていたスタージェ−ンの方が上だろう。俺は元よりただの黒子に徹する気で
いたからな。いいさ。俺達が救助の依頼引き受けた。」
よもやタイラーの方から受けてくれるとは思わなかったオコーナーが逆にタイラーの身を案じ問い直した。
オコーナー「だがそんな事をすれば君には任務背任により重大な処罰がまっているんだぞ！！」
タイラー「ああ、たぶんそうだろうな・・・、だが俺はあんたに恩があるんだ。それにこのランディールなら作戦
開始までにユーシスを助け戻ってこれる自信もあるしな・・・。」
自信に満ちたタイラーの表情にオコーナーは何も言えなかった。そんな二人の会話に何時の間にか盗み聞き
していたスタージェ−ンが加わる。
スタージェーン「へえ大きく出たねえ・・・その件あたしも一杯からまぜてもらおうかい？まあ、偽装工作はあたしに
まかせな！ルオンの馬鹿には決して気づかれないよう一芝居打つからさ・・・。」
スタージェ−ンは意地悪っぽく笑うとタイラーに上目遣いの視線を送る。思わず背筋に寒気が走るタイラー。
タイラー「なにか裏があるんだろう？」
なんとなく言いたい事はわかるがあえて問いただしてみる。返ってきた答えはやっぱりな内容だった。
スタージェーン「ああ、当然さ。借金の一部肩代わりでどうだい！？それに今借りているダークランディールの使用料を
チャラにしてもらえるとありがたいんだが」
スタージェ−ンは悪びれる様子もなく借金の肩代わりを頼みこむ。彼女の狡猾さに舌をまきながらも逆にその
どんな逆境にも負けないしぶとさがタイラーは好ましいと思った。
タイラー「おまえ、本当チャッカリしてんな・・・。まあ、いいさ偽装工作はおまえに頼んだ！！」
スタージェ−ン「ありがとうね☆じゃあタイラーちゃん後で借用書持ってくるからねー」
スタージェ−ンは先程のやつれ振りが嘘のように満足気味な笑顔を浮かべ通信を切った。後に残されたオコーナーが
本当に申し訳なさそうに深々と頭を下げた。五十代の男の肩は微かに震えている。総督と部下という立場だけではなく
本当にオコーナーはユーシスを大切に思っている事が画面から伝わってくる。
オコーナー「本当にすまない・・・タイラー君、ユーシスの事くれぐれも頼む！！」
恥も外聞もかなぐり捨て海賊ごときに頭を下げ頼む総督の姿にタイラーは父の姿を重ねていた。彼は重ねて了承の
意思を示した。
タイラー「ああ、わかったぜ。ユーシス達は必ず俺達がどんな事をしても連れ戻してやるからな。」
ディスプレイから安堵したオコーナーの姿が消えると艦橋に一瞬の静寂が訪れる。
その静寂を破りアレスがわざとらしく手を頭の後ろに組みながら呆れ顔でぼやいて見せる。
アレス「あ〜あ・・・俺達借金持ちになっちまったな？」
アレスの言葉を聞いてタイラーはかつて時空衛星に突っ込む時にしたように皆の意思を確認してみる・・・。
タイラー「いやなら今すぐこの船を降りてもいいんだ。お前達にまで迷惑を賭ける訳にはいかないしな。」
だがもう結果は聞かずともわかっていた。アレスは同じ事を聞くなとばかりに強くそして仲間として信頼の
篭った返答を返した。
アレス「馬鹿いうな・・・俺達はどんな事があっても一心同体だ。どんな苦難にもつきあう覚悟は出来ているぜ！！」
アレスに遅れをとるなとばかりに艦内の他のクルーも次々と力強い返答を返してきた。
ミカ「あたしも、ねえあたしも一緒だよ！！」
ハル「僕だって勇敢な海賊の一員さ！！・・・ちょっと怖いけどね。」
ウォーレン「マスター達の生命活動は私が護ります！！」
ガンツ「おいらが乗ってなくちゃだれがランディールの修理をするってんだ！！」
ラガン「どんな重症でもおらが責任ばもって治療するずらよ！」
各クルーからの力強い返答にそれぞれの心意気を知りタイラーは胸が熱くなるばかりである。彼の瞳からうっすらと
涙が浮かぶのを見てジョディが苦笑しながら
ジョディ「ふふふ・・・艦長の負けですよ。私達はどこまでもあなたに付いていきます。」
涙をふき取った。手で自らの顔を叩きつつ満面の笑顔を浮かべ
タイラー「みんな・・・しょうがないほど・・バカだな。よし！！行く先は決まった！！目標監獄衛星ガイラに向け全力で
突入するランディール発進せよ！！」
艦長のタイラーは決意に満ちた表情で力強く命令する！！
全員「了解！！」
今、漆黒の宇宙を白銀の龍が人々の想いを乗せ疾走して行く。そして人々の生きようとする思いはランディールを
含め脱出船団全員の中に熱く燃えたぎっていた！！
だがそんな人々の努力をあざ笑う者達が黄昏に染まる不気味な天空を見上げていた。アルカディア総本部ビル
屋上に最高幹部が立ち並び冷笑を浮かべていたのだ。
シェイド「舞台の壇上に役者が全員上がったわあ・・・いよいよねえ♪地獄の最終章が始まるのは♪さあ〜踊りな
さ〜い♪。我等の脚本の通りに」
銀色に輝きながら華麗に舞い踊るシェイドは楽しげに呟いた。ロウもふかした葉巻を足元に落とし踏み潰しながら
冷笑する。
ロウ「ふふふ開幕のベルはレジスタンスの諸君、君達が押すのだ・・・・。」
そしてイアムが両手を広げると狂ったような半月形の笑いを浮かべ黄昏に染まる天空に向かい破滅の刻の到来を
宣言した。
イアム「そして全ての黄昏が終わりを告げた時こそ我等の理想郷がこの宇宙全体に広がるのです！！」
”闇”全員「ふふふふふふふあーはっははははははははははは！！」
第２３話 -終-
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