スペースクルーザー ランディール
第24話 天裂き、星堕つる刻
黄昏に赤く染まるパルマの摩天楼、数百メートルの高層ビル群が街に長い影を落とす。
やがて街の街灯に次々と灯りがともり行き交う人々を照らしだした。
政府広報端末
「ＰＭ：５時のニュースです。
まず厚生医療局の報告です。昨日づけで死亡したドラスゴー市在住のオルフレッド・
ゲイル氏（８４）のクローニング再生がマザーブレインに認可されました。氏の社会に
対する貢献がマザーに高く評価を受けての事です。なおモタビアで強盗などの暴力
行為に及んでいた反社会性分子に対するあらゆる医療、セルフサービスが停止処分
が発表されました。他は何事もなく平穏な一日を終えようとしています。」
街頭の路地に据え付けられた政府の広報端末が通常通りのニュースを放送する。行き
交う人々はニュースに一旦足を止めるがいつもと変わらぬ内容にすぐに興味をなくし
自分の趣味や友人との他愛のない会話に移った。
市民Ａ「ごきげんいかが、奥様今日も一日おおむね平穏でよかったですわねえ」
市民Ｂ「ええ、でもここ数週間のモタビアなどで続いたテロ事件あれは本当に怖かった
ですわよねえ。」
市民Ａ「そうそうマザーに反抗するテロ組織がモタビアの管理端末に不正にアクセスして
いたって いうあれでしょう？なんかバイオハザード事件も彼等の仕業というじゃ
ない・・・怖いですわねえ。」
市民Ｃ「でも事件の実行犯のユーシス達はセキュリティシステムに捕まったしテロ組織も
政府軍が動きを封じているらしいわ。撲滅ももうすぐですって！！」
市民Ａ「マザーに任せておけば安心ね。いっそ議会なんか廃止してすべて機械にまかせ
ればいいのでしょうに。あ・・それよりアルカディアデザイナーズからでる最新の
ブランドなんですけど・・・」
市民Ｂ「まあバッグにドレスにこれなんか綺麗なネックレスだわあ。あそこはマザーの芸術
部門クラスタを独占できるから綺麗だわよね。人間の職人より腕がいいなんて
マザーブレインってほんとなんでもできるのよね。」
世間話も程ほどに金のネックレスや着飾った衣装を自慢し合う奥様達の井戸端会議を
横目で見つめながら今風の若者は唾を路上にはき愚痴をこぼす。
市民Ｄ「うるせえばばあ達だな・・・マザーの資源（リソース）をあんなばばあ達の道楽に使う
なんてなあ。もったいねえぜ。・・・それより、休暇なんにする。」
市民Ｅ「マザーの占い端末に決めてもらおうぜ・・・ええと・・アルカディアアミューズメント
パークで素敵な彼女と出会えるでしょうってさ！！」
先ほどの女性達の行為を馬鹿にしながら自分達も同じ事をしている事に気づかない人の
愚かさ・・・。五百年以上に及ぶマザーブレイン体制による安定した社会は人々から考える
理性を徐々に失わせ、ただ豪華な生活や欲望を叶えてもらえる心地よさに安寧とする風潮を
作り出した。
そんな機械に管理されることになんの疑問も持たない愚鈍な人々の姿を高層ビルの上から
二人の怪人が冷笑を浮かべ見下ろしていた。吹き付けるビル風に白い髪を棚引かせ舞い踊る
淑女は官能的に歌うように呟く。
シェイド「ああ・・・堕落した衆愚達の腐乱した心理の奏でる不協和音・・・管理されている事に
何の疑問も感じない愚かな心のフォルテシモ・・・たまらないわあ♪
この端役達の腐敗した社会心理がもうすぐ私達が指揮する歌劇により混乱のきわみに
達すると想うと♪うふふ・・・たまらなくエクスタシーを感じるわあ！！」
そして胸に勲章のついた将官の礼服に身を包んだ角のある怪人＝ロウもまた葉巻に火をつけ
口に含むと薄笑いを浮かべ足元でうごめく人間達の社会に対し破滅の宣告を静かに告げるので
あった。
ロウ「ふふふ安寧とした生活で自堕落に肥え太る家畜たちよ、喜ぶがいい。いよいよ収穫の時は
来たのだ・・・。」
超大型移民船アリサ３世の統合司令室では副司令ルオンがクラシックな懐中時計を手に取り時間を
見定めていた。すでにアリサ３世を始めとする脱出船団は不可知領域のはずれ、惑星パルマが月の
ように大きく見える位置まで移動していた。後はマザーブレインのシステムをハッキングすれば
脱出作戦第１段階は終了となる。システムの最終調整も終わりルオンの指示を待つスタッフに静かな
緊張が走る。
ルオン「ＰＭ５：００・・・・いよいよだな・・・・アベル殿・・・ハッキングを開始してくれ。今こそ我々の
反撃の狼煙をあげよう・・・」
ルオンの指示により作戦が実行された。ジェリコを主任とする技術スタッフが慌しく端末からのアクセス
作業を開始する。アベルはその様子をかつて地球上で行われた地上最大の反撃作戦になぞらえて
みせた。
アベル「ふ、反撃の狼煙か・・・地球の歴史にあるノルマンディー上陸作戦にに参戦した士官達の気持ちも
我々と同じだったのかな・・・。」
ルオン「・・・この戦いが終わったら地球の知識も少しは教えて欲しいものだな・・・アベル参謀殿」
以前はアベルを敵視していたルオンであったがアベルの豊富な知識、特に戦術や戦略論には指揮官と
して少なからず感嘆の情を示していた。今も自分の知らぬ地球の歴史だがその中に共感できるニュア
ンスを感じ取り素直にアベルに教えを請おうとする態度にアベルも顔をほころばせ了承する。
アベル「ふ、了解した。ではジェリコ君アルゴルの中央ネット回線にこれからアタックを始めよう。用意して
いた解析コードを順次パケットで送信する。ジェリコ君、君の腕前に我々の努力の全てがかかって
いるから君の責任は重大だぞぅ・・。失敗すればおそらく数分で政府軍が大挙してくるだろうからな」
キーボードを必死に走らせ懸命に作業するジェリコ君の肩を叩きながら耳元で呟くアベル。アベルとしては
ちょっとしたからかいを入れる事でジェリコの闘志に火をつけようとしたのだが（アレスにはこのやり方が
特に上手くいっていた。）緊張に弱く初めて仰せつかった大役に心臓がばくばくいっているジェリコにこれは
こたえた。
ジェリコ「アベル参謀〜。あまりプレッシャーかけないで下さいっすよ〜。とほほこんな役引き受けるんじゃ
なかったっす〜（涙）」
緊張のあまり慌てふためくジェリコにやりすぎたと反省するアベルであった。
一方ユーシス救助のため極秘で監獄衛星ガイラに向かったランディールは戻ってくると約束した五時を過ぎても
ガイラを見つけ出せずにいた。
タイラー「おかしい・・・もうそろそろガイラのある宙域に到着しているはずだ・・・・・確かガイラ周辺には
第二機動艦隊の一個旅団が警護している筈なんだが・・・。」
ここに来て・・・１時間懸命になって探しているが、有効半径を最大に広げてもレーダーには隕石以外なにひとつ
映し出されてはいなかった。
ジュディ「だめです、半径三万ｋｍにガイラはおろか艦影ひとつ補足できません。」
タイラー「ガイラはステルス機能が極めて高い衛星だから見つからないのもわかるが政府軍の艦隊ならせめて
スラスターの残留エネルギーが残っているはずだ・・。」
ジョディからの報告にふとタイラーはなにかいやな予感に襲われた。だがそれを思索する暇もなくアレスが
苛立たしげに声をあげる。
アレス「おいおい大丈夫かよ・・・もう五時だぜ。作戦はとうの昔に始まっているんだぞ・・・後３０分以内に
戻らねえとルオンのヤローにどんな嫌味をいわれるか・・・ああ〜思い出しただけでむかつくぜえ！」
シューソランで良い様にルオンにしてやられた時の記憶を思いだし憤懣やるかたないアレスにタイラーは
肩をすくめる。
タイラー「おまえ本当にくやしかったんだな・・・シュ−ソランでの一件が・・・・しかしこのままだと確かに
やばいことも事実だしなあ」
どうしようもない現状に思い悩むタイラーの背に異様にハイテンションな少年の声が木霊した。
ハル「ふふふ・・・・・ついについに！！この日がきました〜！！」
鼻息を荒くし妙にテンションの高いハルに他のみんなは思わず３歩ほど後ずさる。
ミカ「ハル・・・少し様子が変だよぅ（汗）」
ミカがハルのあまりに異様なオーラを感じ怯えてアレスの背に隠れてしまい、庇うアレスも少し戸惑うほど
目を輝かせ鼻息を荒くするハル君は異様だった。
彼に声をかけるタイラーも当惑しながら努めて平静に対応する。だがどうもぎこちなく聞こえるのはアレス達
から見れば仕方がないようにも思える。
タイラー「ど、どうしたんだ。ハル君いきなり張り切っているようだが・・・・。」
ハル「今すぐ兵器格納庫に来てもらいますか。きっと皆さん驚かれると思いますよ。」
ハル君の異様なテンションに圧倒されながら兵器格納庫に来たタイラー達はそこでとんでもない物を見ること
になる。
タイラー「なんだこのパワードスーツは・・・。」
そこには全高７ｍの丸みを帯びた流線型の人型パワードスーツが五台用意されていた。
ハル「これぞ僕とミラー博士が寝る間をを惜しんで設計し、整備班の持てる全ての技術を結集して作り上げた
最高傑作！！！名づけて「ツヨインダーＺ（by命名ミラー博士）」です！！！」
ハルが目を輝かせながら製作時の艱難辛苦を語りつつ最高傑作の名称を力強く叫んだ。・・・・・のだが
ツヨインダーＺ・・・
ツヨインダーＺ・・・
ツヨインダーＺ・・・
ハルの声が虚しく兵器格納庫に響く・・・。
あまりの名称のだささに目を輝かせているハルと頭を恥ずかしそうにかいているガンツ以外全員目が点と
なったのだ。
ミカ「なんか、ださださって感じ〜・・・。」
子供は時として残酷に真実をいいのける。ミカのその一言に自信満万だったハルの表情が固まった。
ガンツ「やっぱりそうだあな・・・。おいらもその名前はちょっとどうかと感じてはいたんだがよ・・・。」
ハル「ガ〜ン！！・・・・・・・・・いいんだ、いいんだどうせ僕達が考える名称なんて世間に受け入れられ
ないんだもん・・・・ヒクヒク。」
信じていたガンツ主任にまでださいと言われ指で床にののじを書きいじけるハル君・・・その後姿はとても
哀れである。
ガンツ「しかしこのまま名無しってわけにもいくめえ。てめえ達で勝手に名前をつけてくんな。」
ガンツ主任は後ろでたそがれているハルから微妙に目を逸らすとまだ名称の決らない機体に手をかけ暗に
みんなの意見を求めた。
ミカ「ミカねこの機体フランソワーズがいいと思いまーす！！」
アレス「力強いマックストルネードなんてどうでい！！」
それぞれが銘々に思いついた名前を口にする中、タイラーは昔病床の母親から聞かされたアリサの冒険の
中にでてくる
アンドロイドの名前を思い出し呟いた。
タイラー「俺はそうだなあ・・・ダロスなんてどうかなと思う・・・。」
アルゴル太陽系に伝わる伝承の中でルベノ博士に作られたとも伝説の星からランディール王家に従いやって
きたとも伝えられるアンドロイドにハルも真偽のほどはともかく興味をひかれていた。
ハル「ダロス・・・かつてアリサと共に旅立ったロボットの名前だよね・・・うん僕もそれでいいよ
ダロス二号で・・・。」
ようやく機体の名称が決ったところでタイラーはこの機体の性能に興味が移った。
タイラー「で、この機体にはどういう機能が搭載されている訳だい。うちの若き天才技術士君。」
天才技術士と言われふたたび自信を取り戻したハルは機体の状態をモニタリングしながら詳細に説明を
始める。パワードスーツが起動音とともにうねりをあげ腹部のハッチが開く。
ハル「うん、この機体には２６の秘密があるんだ。その中の一つどんなステルス装備でも見破る特殊探査
センサー「見破る君」の性能ならアルゴル太陽系の半分をカバーできるよ・・・。」
タイラー「じゃあさっそくそれを試してみるとしますか・・・・ええっと」
腹部にあるコックピットに乗り込みモニターでマニュアルプログラムを探すタイラーにハルがヘッドギアを
渡す。
ハル「はいこのヘッドギアを着けて、これはこの機体のあらゆるデータを脳細胞に一瞬で記憶させる
装置なんだ。」
さっそくヘッドギアをつけるタイラー。するとバイザーからものすごい量の情報データが網膜を通じて
焼きこまれた。あまりのバイザーの点滅に少し癲癇を起こしそうになりながらタイラーは今覚えた機体の
コントロールパネルの操作を行う。
タイラー「なんか憶えたかどうかいまいち不安だが使って見るとしかないよな、よし・・・・センサーは
これか・・・と。お、この表示がガイラだな・・・・・こ、これは！！」
急に驚きの声を上げるタイラーにアレスがタラップに登り声をかける。
アレス「おい、どうしたタイラー！！」
タイラー「ガイラが・・・動いているんだ！！」
顔面蒼白なタイラーの言う通りスキャンに映し出されるガイラを示す小さな光点は確実に惑星パルマへと
動き始めていた・・・・。
統合司令室に浮かぶモニターにマザーブレインの中央回線に潜入した幽霊ワームから情報が抜け道を
通り送られてくる。高密度に圧縮されたデータからわかった内容それは以前にもましてファイアウォール
や様様なセキュリティが回線の外に何重にも覆われているという事だった。だがアベルは紅茶を飲みな
がら落ち着いて対応を指示する。むしろセキュリティが次にどんな手で攻めてくるかを楽しんでいる余裕
さえ窺えた。
アベル「卵が先か、鶏が先か・・・ずいぶん古典的なロジック（論理障壁）だな・・・残念だが、私の幽霊
ワームはそれで考え込むような繊細な神経は持っていないのでね、どこかの力馬鹿のように
勝手に通らせてもらうよ。」
ケン「ふむ、古典的という事はそれは地球での哲学的問題かな・・・卵が先か鶏が先か・・・ふむ実に興味
深い・・・・。」
電脳に存在するプログラムはこの様な答えのない問題に弱い。答えを無理に求めようとし禅問答の
ようにループしながら暴走してしまうためだ。だがアベルはアレスからこっそり人格サンプルを
とり時として無頓着な行動をとるウイルスを開発したのだ。
士官「パルマ各地のメンバーによるアタックも確認！！マザーのセキュリティＡクラスタグループ、
アンプから送られてきた大量のパケットによりハングアップしている模様です。」
「Ａクラスタがハングアップしたセキュリティホールを通り偽装幽霊ワームＧ５３から５８まで
最深部まで到達を確認セキュリティＢグループ撒き餌に食らいつきました！！」
ジェリコ「よし！！各界層に展開中のファイアウォールや論理障壁をアクセスコードを搭載した本命の
幽霊ワームが突破しました！！やったー！！ネット回線の中枢まで残り一層っす！！」
ジェリコの歓声が統合司令室の暗く緊張感に覆われた雰囲気を明るくした。ＬＡＮＤ＝ＡＴＴＡＣＫやフラグル
攻撃、総当り攻撃など多角的なＤＯＳ攻撃が鉄壁のマザー中央回線のセキュリティを混乱させ本命を援護
している。
その鮮やかなアベルのハッキング計画の手順をルオンは皮肉交じりに称えた。
ルオン「さすが我等のネット防衛網を破った幽霊ワームだ。敵にすると恐ろしいが味方になればこれほど
頼もしく見えるとはな・・・・。」
ルオンの意地悪い賞賛にアベルは紳士的に皮肉で返して見せる。
アベル「それはまあ誉め言葉と取っておきましょう。」
だが互いに怒らず不敵な笑みを浮かべるほどアベルとレジスタンスの結束は強固なものとなっていた。
その横でミラー博士が怪しげな注射状のツールの調整をようやく終えアベルに小声で耳打ちする。
ケン「アベル参謀、僕の予想ではそろそろ例のトラップが張られていると思うのだが例のツールを作動
してもいかな？」
アベル「ああ、私もそれは予想している。いいだろう、よろしく頼む。」
ディスプレイでセキュリティの動きを確認したアベルもミラー博士の意見に同意する。提案の了承を受けた
ミラー博士がただちに目にも止まらぬ早業でコンソールに指を走らせた。注射状のツールが微かな起動音を
上げ始めていた。
一方モニターから幽霊ワームが追撃するセキュリティを撒き、最終防衛ライン前に到達したと報告があがり
ジェリコはほっと安堵の溜め息を付く。だが事態はその間にも確実に動いていた。モニターには大量の未知の
データが浮遊している様子が仮想ＣＧに映し出される。それは見様によっては海上を漂う機雷のようにも思える。
ジェリコ「最終論理障壁を突破、・・・おや、大量のデータを感知・・・しましたが・・・・どうします？」
対応に困ったジェリコがアベルに指示を求めるがアベルはモニターに投影されるデータの動きをただ見つめる
ばかりであった。
アベル「ふ、やはりそう来たか・・・・常套手段だな。ジェリコ君、幽霊ワームの具合しっかり見ていて
おきたまえ。」
ジェリコ 「え、は、はい。ええっと・・・・・あれデータがワームと同化を開始している！！こ、これは・・・・」
アベルからの指示もなく慌てふためく主任の姿に下にいる情報士官やスタッフは少し不安を感じてしまう。だが
謎のデータが突如として本性を顕わすと不安を感じる場合ではなくなった。警報アラームが鳴り響き幽霊ワーム
の状態を示すモニターが異常を示す赤い表示へと次々に変わっていったのだ。
士官「ジェリコ主任、幽霊ワーム１から３８まで命令を受け付けません！！うち２３から２７のワームの形成因子
破壊されていってます！！」
「主任、迅速な対応を、このままでは・・・・。」
下にいる情報士官達からの対応を求める声に普段は温和なジェリコもついつい語気を荒げてしまう。
ジェリコ 「ああ、わかっているよ！！ちょっと黙って欲しいっす。解析パターン・・・・これはウイルス！！しかも
最悪のジョゴスウィルスッす！！ああ、データパケットが次々乗っ取られていきます。これってもしか
しなくてもやばいっすか〜！！」
ジョゴスウイルス、生物としてのウイルスと電脳世界におけるコンピュータウイルス二つの姿を医療端末などを
通して自由自在に変えられる事の出来る最悪のウイルス・・・かつてミカの死の淵まで追い詰め、タイラーの
基地を壊滅に追い込んだ脅威の存在を知識として知っていた統合司令室のメンバーに戦慄が走る。このままでは
脱出計画がめちゃくちゃになると誰もが思ったその時、
ケン「ふふふ、そんな時の為に用意したものがこの対ウィルス撃退用ワクチンツール名づけてウイルスばたんＱだ！！
ではポチっとな」
ミラー博士が不敵な笑みを浮かべ立ちあがると注射状のツールのドライブボタンを力強く押した。微細な機械音と
共に注射状のツールがミラー博士のコンソールに向け勢い良く突き刺さる。ばたんＱという脱力もののださい名称
だが効果はたちどころに現れ始めた。赤く病んだ色を発光し行動不能状態になっていた幽霊ワームの状態が急速に
回復（ウイルスが回復という表記も変であるが）したのだ。
士官「ジョゴスウイルスが消去されていきます！！」
スタッフ達の歓声と共にモニターの幽霊ワームの状態ゲージも正常を示すグリーンの発光に戻り統合司令室は再び
脱出計画の第１段階を再開させた。遅れを取り戻すべくせわしなく動く技術スタッフ達を手伝いながらミラー博士は
ウイルスばたんＱの説明をし始めた。
ケン 「ふふふこれは相手の特性に合わせてシミュレーションしながら有機的に進化するワクチン。いわばジョゴス
ウィルスの天敵という訳さ！それがどんなにすごいことかというとだね・・・・」
一度発明品の自慢を仕出すとなかなか止まらないケン博士の長話にばたんＱの名称のだささも合間ってルオンは
うんざりしながらも携帯で各地のスタッフへの指示を続けていた。
ルオン「まあ・・・その名称はともかくだ・・・・さすがはアルゴル一の天才ケン・ミラー博士だ。予想されていた
最悪の罠もこれで突破出来たようだな。後はいよいよ作戦の第１段階に進むだけか・・・。」
ジェリコもシステムアドミニストレータとしての本領を取り戻し最後に残るファイアウォールを打ち破るクラッキング
コードを打ち込む準備に余念がない。これが終わればもう惑星パルマが破壊される事もなくノアの地球人やアル
カディアの陰謀を打ち砕く事が出来る・・・。
ジェリコ「後はこのクラッキングコードを向こうに送り込むだけですね。う〜緊張するっす！！」
全てが上手くいっている・・・・・・。
だがアベルはそこに言い知れぬ不安を感じ始めていた。
アベル（確かに予想された通り敵は様々な罠を張り巡らしていた。我等はそれを順調に突破している・・・だが・・・
なんだこの胸からわきおこる漠然とした不安感は・・・）
ケン「どうかしたのかい、アベル参謀うかない顔をして・・・」
もう誰も聞いていない自慢話を５分以上も続けていたミラー博士もアベルの不安に思い詰めた表情を見て心配
そうに話し掛ける。アベルの中で言い様のない不安感は増大していった。あまりにも作戦が上手く行きすぎて
いる。まるで敵がこちらを導いているようにさえ思えた。
その漠然とした不安が確かな確信に変わった時、アベルは柄になく大声で叫んでいた。
アベル「だめだ！！接続してはいけない！！！」
ルオン「何！！」
だがもう遅かった・・・・賽は投げられたのだ。
警戒アラームが一斉に鳴り始め統合司令室が警戒灯で暗く赤く染まる。スタッフの間に細波のように動揺が広がって
ゆく。
士官「ルオン副司令！！緊急事態です！！パルマの中央回線の方からここのメインフレームにアクセスを確認！！
大量のデータがこちらに逆流入を開始しました！！！」
慌しいスタッフ間のやり取りが交差する中次々と統合司令室のシステムがダウンし始めていた。モニターにはDARK
DARKDARKDARKDARKDARKDARKと意味不明な文字の羅列に覆われていった。
ルオン「ジョゴスウイルス、それともさらに進化したコンピュータウイルスか！！」
ルオンの問いにアベルや普段はマイペースなミラー博士も危機迫る表情となりばたんＱを始め様々なツールを使い
対応しようとするがそれらは全て打ち破られて行く！！
ケン「いや、敵はウイルスなどという可愛いものじゃないらしい！！それが証拠に僕のツールがまったく反応をしめ
さないんだ！！１０ギガ・・・１００ギガ・・・１テラ・・・駄目だ！！あまりの大量の情報量にメインフレームの
処理速度が追いつかない！！一体なにがやってくるというんだ！！」
ルオン「回線をシャットダウンできないのか！！」
アベル「今やっている！！・・・・・・駄目だ、破られる・・・。」
やがて全ての画面がDARKという言葉に覆われた時、地獄の奥底から全てを呪う悪意に満ちた幼女の声がスピーカー
から不気味に響いてきた。
？？？”滅ぼせ・・・・
人を滅ぼせ・・・
生命を滅ぼせ・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・
動く物全てを滅ぼし尽くせーーー！！！！”
最後のどんな獣や魔物よりも恐ろしい暗黒の咆哮にその場にいた全ての者が深遠なる恐怖に動けなくなった。
やがてDARKに覆われたモニターが徐々に別の形へと変化していく。それは次第に醜悪な蒼い人の髑髏へと形を
変えて行った。蒼い髑髏は画面上で増殖を始めた。
一・・・・
十・・・・
百・・・・
無数
そして信じられないことに画面を埋め尽くす髑髏達がうねりをあげ、まるで画面という膜を付きぬけようと立体的に
盛り上がり始めたのだ。その場にいた全ての人々があまりの恐怖の声にならない叫びをあげる中、蒼い髑髏達の
眼窩に次々鈍く紅く輝く凶光が灯ると次の瞬間膜が破られたのように画面から蒼い髑髏達が飛び出してきた！！！
ジェリコ「な・・・・ななな」
あまりの恐ろしい光景にジェリコが腰を抜かす。
ケン「これは人工知性・・・それとも生命体なのか！？」
ミラー博士も科学では説明できない事象に戸惑いと恐怖を隠しきれずにいた。その時、作戦統合司令室を暴れまくる
蒼い髑髏の内一体がルオン達の方に向け襲いかかってきた！顎を大きく広げ食らいつこうとする髑髏の中は完全な
闇・・もはや助からないと誰もが思った。ただ一人を除いて・・・
ルオンが手を翳し巨大な光の防壁を創りだし蒼い髑髏がそれ以上進むのを防いでいたのだ！！ルオンが力強く叫び
防壁の中のアベル達に渇を入れる。
ルオン「これこそが”闇”の力、ダークファルスだ！！皆下がれ！！アルゴルを護る守護の力よ、壁となりて我等を
護り給え、はあ！！！」
ケン「これが・・噂に聞いていたエシル家頭首の力か・・・。ダークファルスの力と拮抗する障壁を作りだすとは
さすがだ」
ミラー博士は巨大な防壁を張るエシル家党首の力の大きさに素直に感心する。だがその力は無限ではなかった・・・。
ダークファルスが次々と防壁にぶつかるたびルオンは口から血を吐き腕が鈍い音を発し防壁が小さくなっていくのだ。
ルオン「だが・・・この部屋全部をおおうのは・・・・・・不可能だ・・・・。いかん、押し戻される！！」
ルオンの体力が限界に近づく中、無数のダークファルスが光の防壁に押し寄せ光が消えようとしていた。
ジェリコ「もうだめっす、破られっるすよ〜！！」
ジェリコが恐怖のあまり目をつぶる。
そしてしばらくの沈黙の後ジェリコは恐る恐る目を開く・・・・。そこには赤い血を拭うルオン、アベル、ミラー博士
だけが立っていた。あれだけいたダークファルスは何時の間にか消えうせていたのだ・・・・。
アベル「消えた・・・ダークファルスが・・・・、まさか、ジェリコ君今すぐここのメインサーバーを調べてくれ！」
静寂が支配する統合司令室を見てアベルはある恐ろしい予想が脳裏を掠めるのを感じた。直ちにジェリコに
指示を下す。脱出船団の全てのシステムにセンシングをかけるジェリコその調査結果が出たとき、そこに
投影された事象はアベルの予想と完全に一致していた。
ジェリコ「は、はい・・・。え！！作戦統合司令室のメインサーバーを通じ正体不明のデータ群各移民船に
強制転送を確認！！」
ルオン「止められないのか！！！」
ジェリコ「駄目っす！！物理シャットアウトが効きません！！」
アベル「こっちもお手上げだ・・・完全に見失ってしまった。ダークファルス群は移民船団の何かと同化し
潜伏したんだ。始めからこれが奴らの狙いだったのか・・・・。くそ！！私がもっと早く気が
ついていれば」
ダークファルスが脱出船団に潜伏した。それはもう安住の場所がなくなった事を意味していた。無力感に
苛まれるアベルが悔しさのあまりコンソールに力強く何度も手を叩きつける。普段の冷静さからは考え
られぬアベルの姿はあまりにも痛々しかった。その時ルオンが声を挙げ注意を促す。
ルオン「泣き言は後からいえ！！それより下を見ろ！！」
静寂が不気味な笑い声に破られる。金切り声のように甲高く常軌を逸した笑い声が一つ・・・二つとはもり
ながら狂気の笑い声が統合司令室を覆っていく。そしてアベル達が統合司令室の下層部を見たとき・・・
そこは常軌を逸した狂人と化した情報士官やスタッフたちが笑いながらメインフレームを壊したり互いを
銃で打ち合う凄惨な光景が繰り広げられていた。
士官「キャハハハ！！死ね！死ね！死ね！！」
ついさっきまで一緒に働いていた士官が笑い狂う姿にジェリコが肩を落とす。
ジェリコ「これは・・・ひどいっす。」
ルオンは落ち着いて携帯を取りだし、他のセクションにいる警備班を呼び寄せた。
ルオン「この近くにいる警備班の者はただちに作戦統合司令室に急行し錯乱している情報士官達を取り
押さえろ！！」
やがて到着した警備班により狂人と化した情報士官達は取り押さえられ拘束具で拘束された後緊急医療室に
運ばれて行く。それを見下ろしながらミラー博士は静かに呟いた。
ケン「無理もない・・・正体不明のエネルギーを大量に浴びたんだ。遺伝子汚染の可能性もあるが今の
ところは錯乱ですんだのがましというものかもしれない・・・・。」
だが胸の中にやるさなさがあるのか博士の肩は静かに震えていた。ルオンも湧き上がる無力感と怒りを表に
出さぬよう抑制しながら次の指令を入れ替わりに入ってきた新スタッフに伝える。
ルオン「回線を直ちに途絶しすみやかに第二段階にプロセスを移行させる・・・・！！」
だが次の瞬間彼の内心を逆撫でするような下劣な声と共に見知った顔がモニターに映し出された。それは
１０日前通信を行って以来音信不通となっていた情報屋ナイトクロウだった。
ナイトクロウ「いや〜さすがは副司令だ。自分の部下を冷酷に切り捨てるとはおお怖いぜ。へ、へへ」
ルオン「ナイトクロウ、貴様・・・裏切ったのか！！！」
ルオンがそれまで押さえ込んでいた怒りを一気にナイトクロウにぶつける。だがナイトクロウはその怒りの
声が聞こえないかのようによだれを垂らし意味不明な言葉を呟くばかりであった。
ナイトクロウ「裏切る？へへ、へへへへ。裏切るもなにもどうせみんな死ぬんだよお前達もそして俺も
えへうぎゃはえあ！」
ルオン「貴様！！！」
ナイトクロウの嘲笑に怒りに我を忘れそうになるルオンをアベルが押さえた。
アベル「よすんだ・・・彼はもうＤフォトンに操られるゾンビ、操り人形に過ぎない」
アベルは首を振りながらナイトクロウの身体の異常を指し示す。アベルの指差す先には身体に死斑が浮かび
そしてなによりも常軌を逸した表情は先ほどの士官と同じものだった。
ルオン「く！！」
ナイトクロウ「それより、惑星パルマは大丈夫かい？空から落ちる星に気をつけるんだぜ・・・・じゃあ地獄で
待っているぜうへはっはははぎゃあ！」
そう言い残すとナイトクロウは自らのこめかみに銃を当て引き金を躊躇いもなく引いた。頭が卵のように破裂
し血が画面に飛び散る。あまりの凄惨さに気の弱いジェリコが耐えられなくなりモニターから顔をそらす。
アベルも表面的には冷静だが手は怒りに静かに震えていた
ナイトクロウが最後に残した言葉をゆっくりと反芻するアベル。
アベル「空から落ちる星・・・考えられるとすればあれしかない・・・・ジェリコ君ただちに長距離用レーダーで
アルゴル太陽系全域を調べてくれたまえ！！」
アベルの指示のもと新スタッフ総動員で長距離用レーダーで調べられたアルゴル太陽系全域の現状が
メインフレームを通じモニターに投影される。それを最初に見たジェリコの表情が蒼白になるのが見て
とれた。震える声でジェリコが報告するその内容は
ジェリコ「はい・・・・・・・・・これは・・・そ、そんな！！！」
ルオン「いったいどうした！！」
ジェリコ「ほ、報告します・・・・アルゴル中の人工衛星の内の６０００個が惑星パルマに向け一斉に移動を
開始しました・・・・。」
６０００個もの人工衛星が一斉に周回軌道を離れ同じ場所に向かうなど常識的にはありえなかった。だがアベル
にはその様子が以前見た何かに似ていることを直感で感じ取った。ルオンは内心の動揺を押さえ副司令として
今出来る最善の策に計画を修正することにし各地に強い調子で激を飛ばした。
ルオン「何だと！！くそ、各地の遊撃艦隊に打電、第二段階を早急に開始し尚かつ、惑星パルマに墜落しようと
する人工衛星を全て撃墜せよ・・・私も空母マリーチャーで出る！！！」
そういうとルオンは矢も立ってもいられず統合司令室を急いで後にした。ここがすでに敵に知られた以上第１、
第２機動艦隊が脱出船団に襲いかかるのは明白だったからだ。任務に失敗したルオンはせめてこの脱出船団
だけは護ると覚悟を固めていた。
後に残されたアベル、ジェリコ、ミラー博士は己の無力さに押し黙る。特にアベルは敵の作戦を見ぬいていると
慢心をおこしていた自分が許せなかった。
アベル「ち、敵は我々の予想を遥かに越える計画を進めていたのか！！しかも計画には我々の行動も組み込ま
れていたんだ。それに・・・それに気がつかない私はなんと愚かだ・・・・。」
ルオンやタイラーのように戦う力のない自分にとって知略こそが彼等を助けることが出来る手段なのにそれを
逆手に取られた事にアベルは自信を喪失し涙をこぼすしか出来なかった。その姿にジェリコは声をかけられず
にいた。彼の無念がよく理解できたからだ。だがミラー博士は違った。彼は優しげな笑顔でアベルに問い掛ける。
ケン「アベル参謀、つらいのはわかるが今は発想を転換した方がいい。君の頭脳を有意義に使う時を見逃さない
方がいいと思うぞ・・・。」
自分も無力感に襲われているだろうにそれでも尚、笑顔をつくることの出来るミラー博士の心の強さにアベルは
己を恥じた。
アベル「ミラー博士。・・・・ふ、そうだな。歳寒松柏 、逆境の中でこそ人の真価が問われる。あなたのいう通りだ！！」
アベルはふっと息を抜くと己の迷いを断ち切り席から立ちあがった。そこには参謀にふさわしく知的で冷徹だが
以前と違いどこか優しさを感じる笑みを浮かべる。
ケン「いってきたまえ、ここは僕らがなんとかしよう。」
ミラー博士とジェリコも互いににやりと笑い、アベルに向かいガッツポーズを取って見せる。後は任せろと、
お前にはお前の戦場があるといわんばかりにアベルにとってその優しさが有難かった。
アベル「ふ、わかった。後の事はよろしくお願いしよう。どうやら私もマリーチャーに乗りこまねばならないようだ。
今までの事態はまだ第１段階にすぎない・・・敵の計略にはまだ続きがあるはず、少なくとも私が敵なら
そうする・・・。」
アベルは振り向きざまガッツポーズを取りにこり笑うと冷徹な顔に戻りルオンの待つ空母マリーチャーに急いだ。
頭の中で敵の次の手をシミュレートしながら。
だが敵は早くも次の手を打とうとしていた。脱出船団を嘲笑を浮かべ眺める白衣の醜悪な老人が老獪であり尚且つ
子供じみた態度でアベルの推論に答える。
イマージュ「ご名答じゃよ・・・じゃが、出来の悪い生徒に次の問題はとけるかのう、うひゃはははは」
イマージュの背後にはそれまでステルス機能に隠された巨大な船影が宇宙に輝く無数の流れ星に彩られいくつも
浮かび上がり脱出船団の反撃をいまや遅しと待ち構えていたのである。
宇宙に輝く無数の流れ星・・・・・それは暴走を続ける人工衛星とそれを追う各遊撃艦隊の互いのレーザーにより
形成されるものだった。
軍事衛星からのミサイルランチャーや大型レーザー砲によりダークランディールの艦体が大きくゆれる。艦橋では
スタージェ−ンの部下達が各遊撃艦隊との通信の対応に追われていた。
部下「エネルギー生産衛星「アブホース」を追っていた巡洋艦カバンダ応答がありません！！！」
「軍事衛星「ラン＝デゴス」を追撃中の艦隊ラン＝デゴスと交戦中第５、６番艦中破！！こちらの損耗率５％」
「軍事衛星「クアトゥグア」より高出力エネルギー反応を感知！！こちらに標準がロックされています！！」
次々と送られてくる味方の損耗や全滅の報告にスタージェ−ンは味方の死を悲しむ暇さえ与えられなかった。小型
モニターに映し出されるアルゴルでも最大の火力を持つ巨大戦略衛星「クアトゥグア」がパルマに向かいながら
猛烈な勢いで雨のような大量のミサイルを降らせる。それをダークダンディールが回避し弾切れを狙うと、今度は
超大型レーザーで連続して黒き龍を始めとする遊撃艦隊に狙いを定めてきたのだ。艦橋の特殊フィルタに映る超大型
レーザーの光をスタージェ−ンはきっと見つめ、悪態をつきながらも的確な指示を下す。
スタージェ−ン「右に回頭し、レーザーをよけるんだよ！！まったく一体全体どうしったっていうんだい！！
こんなに一斉に動き出すなんてあたしは聞いてないよ！！」
それでも味方の被害は少なからず出た。ダークランディールと同じように右に回頭する艦隊だが一隻だけ遅れて
しまい巨大レーザーの餌食となってしまったのだ。
部下「五十三番艦被弾！！ どうするんです！！姐さん！！」
灼熱のプラズマ光に飲み込まれ消滅する味方艦を悲しげな瞳で見つめるスタージェ−ン、肩に止まる紅の猛禽スカイ
ティアーラが心配そうに彼女を見守る。大ダルの酒を一気に飲み干し仲間を失った悲しみを麻痺させ女海賊は苛烈な
怒りを持って反撃の決断を下した。
スタージェ−ン「決っているさ！！反撃だよ！！手傷の薄い艦はあたしについておいで！！フォーメーションを再編し
敵の自動迎撃システムの盲点をつく！！この天空の猛禽のあだ名を持つスタージェ−ンをなめるん
じゃないよ！！」
女海賊の苛烈な怒りが黒き龍に乗り移りその最大の攻撃黒きグンニグルの槍がクアトゥグアを貫いたのはそれから１０
分後の事であった。
ＰＭ：６：００
戦艦ランディールは全速力で暴走を続けている監獄衛星を追跡していた。
ジョディ「監獄衛星ガイラものすごい速度で惑星パルマに向け進行中、ランディール最大航行速度でも追いつけません！
このまま行くと間違いなく衝突コースです！！」
ジョディが監獄衛星ガイラの速度を計測し出した結果に困惑の表情を浮かべる。さらに各地から送られてくる脱出船団や
遊撃艦隊の悲痛な現状に艦内に重苦しい空気が流れた。
タイラー「敵さんは用意周到に網をかけ待っていたんだ・・・俺達はまんまとその罠にひっかかっちまったというのか。」
唇を歯で噛みながらタイラーはプラズマ光に飲み込まれる艦の映像を見つめていた。それが自分の責任であるとタイラー
は深く後悔していたのだ。
ジョディ「そんな・・・じゃあ私達が今までしてきた苦労は全て無駄だったというの・・・そんなのひどいですよ！！」
アレス「アルカディアの野郎、絶対に許せねえぜ、おい、タイラーこのまま黙って指を加えて見ているだけなのかよ！！！」
脱出船団全体を覆う無力感がランディールの艦橋をも暗い影を落とす。ジョディは目に涙を浮かべつつ悲しみに暮れ
アレスはやるせない怒りをアベルがやったように壁に激しく拳を叩きつけていた。
タイラー「・・・・ジョディ、現在ガイラとの距離はどのくらい離されているんだ。」
そんな中タイラーは冷静にガイラとの相互距離の報告をジョディに求める。
ジョディ「はい距離８６００にまで拡大、このままでは追いつけません！！」
ジョディから仔細な報告を受けたタイラーはしばらく黙り込んで深く考えていた。いつもならアレスほどではないが物事に
すぐに突っ込むタイラーが深く考え込む姿にアレスは違和感を憶えた。
アレス「・・・おい、タイラー何を考えているんだ。」
アレスからの指摘にタイラーは顔を俯かせ静かに呟いた。
タイラー「いや、こういう時・・・・親父やアベルだったら全体を救うため一部を犠牲にするやり方を提案するんだろうなと
なと思っていたんだ・・・・。例えばランディールの限界航行速度による体当たりとか」
もしここにアベルや親父がいたらそしてその忠告に従っていれば現時点の悲惨な現状が回避出来たのではないか。
先ほどのプラズマ光に飲み込まれる味方の戦艦を見て思い悩んでいたのだ。上に立つ者の責任がタイラーに重く
圧し掛かっていた。
ミカ「そんなの駄目だよ！！中にいるユーシスっていう人達も助からないよ。」
だがミカの一途な想いがタイラーに再び考える機会を与える。確かに戦略論的には一部の犠牲で全体を救うことを
是とするかもしれない。だが今まで見てきたアベルの変化や夢の中で見た父親の後ろ姿を思いだしやはり否だと
タイラーは思う。彼等は人間性を否定してまで掴む勝利を喜ばないはずだ。タイラーはそう信じたかった。
タイラー「ああ、俺はそんなやり方はごめんだ！！ぎりぎり最後まで全員を救う方法を掴んで見せるぜ。」
迷いを振り払うかの如く力強く叫ぶタイラー。彼の心の葛藤をテレパシー能力で感じていたジョディはそれでも諦めない
タイラーを暖かく見つめていた。
ジョディ「・・・艦長」
タイラー「と言う訳だ・・・・期待しているぜ。」
タイラーの両手がハルの肩に乗り熱い視線がハルに送られていた。
ハル「へ？期待って、何？、この僕に・・・・？」
だがハルは急にそんな事をいわれ目をキョトンとさせていると再びタイラーから熱い期待の言葉がかけられた。
タイラー「ああ、おまえの作ったこのパワードスーツなら俺は上手く行く気がするぜ！！」
その言葉にハルは胸が熱くなるのを感じながら胸をどんと強く叩いた。
ハル「うう！！・・・わかったよ！このグレートダロスにど〜んと泥舟に乗った気でまかせて！！」
いつのまにか頭にグレートとつけられたダロスの整備に嬉々として向かうハルの姿にアレスはいやな悪寒を感じ、
なぜか不安にかられるのであった。
アレス「おいおい大丈夫か・・・？」
アレス「・・・・で、なんで俺だけがこいつに搭乗しているんだ？」
その予感は的中していた。何時の間にか成り行きでグレートダロスに載ることになったアレス。ミカは少し不安そうに
見つめるのがそれでも
「アレスお兄ちゃんなら大丈夫だよ、ガイラまでの道を作ってくれるよね！！」
と期待を込めて応援する。実はアレスはミカに止めてもらいたかったのだがそのミカに応援されるともう後には
引けなかった。
ハル「アレスいくよ！グレートダロス空間圧縮加速モード起動！！」
ハルが遠隔操作でドライブキーを押すとグレートダロスの周囲にレール状に延びた空間が光を伴い現れる。そしてその
レール状の五通りの空間が互いに紫電を発しそれらが高まると次の瞬間強烈な圧力と共にアレスの乗ったダロスが勢い
良くガイラに向け射出された。
アレス「お、おいちょっと待て・・・うおおおお、な、なんなんだこのＧは！！」
本来なら慣性中和で加速による圧力は皆無になるはずだがどうも
ハル「いい忘れてたけどこのモードは空間圧縮による反発力を利用した一種のレールカタパルトで一時的にランディールの
５倍の加速度が出せるんだ・・ただまだ未完成で慣性中和が上手くいかなくて。ごめんね。てへ」
ハルが言うと通り慣性中和は上手く機能していないようでアレスにはまともな加速による圧力が掛かっていたのである。
アレス「それ〜を先にいえ〜〜〜！！！」
アレスの絶叫が次第に小さくなっていくを見てハル以外の全員が不安と若干の罪悪感を感じていた。
アレス「し、し・・しし、死ぬかと思ったぜ」
アレスが死にそうになりながら到達したガイラとランディールの間には空間が圧縮湾曲された通路が形成されていた。
タイラー「よしアレス機を橋頭堡として圧縮空間による通路が出来た。これより、ガイラ内に突入する！！ジョディ、
アシスト頼む！！」
タイラーとミカがグレートダロスに搭乗しガイラに向かうこととなった。残されたハル達はランディールでタイラー
達をサポートする。
ジョディ「了解！！」
ジョディが快く答えたその時彼女はどこからともなく聞こえる微かな声を聞いた。
？？？”助けて”
ジョディ「え？」
彼女は周囲を見渡したが誰もいなかった。彼女の心ここにあらずという様子を心配するタイラー。
タイラー「どうした、ジョディ？」
タイラーの声にハッとしてそれから笑顔を浮かべるジョディ・・・。 今までの経験からさっきの声は空耳ではなく
自分のテレパシー能力に感知した思念という事はジョディにはわかっていた。だが今はそれどころではない。
ジョディは後ろ髪を引かれる思いにかられながらうそをつくしかなかった。
ジョディ「ううん、なんでもない。それより急ぎましょうもう惑星パルマ衝突まで後五十分を切ったわ。」
タイラー「ああ、時間がないのは分かっている！よし！ガイラ内に突入だ！！」
先ほど見せた彼女の何かを隠している表情が気になりながらタイラーはグレートダロスのコンソールを操作し監獄衛星
ガイラ通じる圧縮空間の通路に突入した。
その頃惑星パルマの地方ＴＶ局カミニートＴＶではスタッフとＴＶ局長との間で激しい議論のやり取りが行われていた。
ＴＶ局局長「どうする、この事態を発表するのか？」
スタッフ「今のタイミングでこれを発表すればパニックになるのは目に見えています。」
局長「だが我々にはもう時間がないのだ！！このままでは脱出計画は水泡の泡と消えてしまうぞ・・・どうすればいい
んだ！！」
そう彼等はすべて脱出船団の地上メンバーなのだ。計画ではマザーのシステムをスプーフィング（乗っ取り）した後で
彼等が市民に真実を暴露し脱出船団行きのシャトルまで誘導する手筈だった。だが計画の第１段階が頓挫し人工衛星が
惑星パルマに墜落する恐れが現実のものとなった今、市民にこの緊急事態をどの段階で発表するのか・・・局長は思い
悩んでいたのだ。
だが思案に暮れる一同に部屋の外から息を切らして駆けつけた仲間からの知らせに一同は唖然となった。
スタッフ「局長大変です！！マザーが広報端末で衛星暴走の速報を流しています！！」
局長「何だと！！」
すぐにＴＶ局はまるで蜂の巣をつついたように大騒ぎになった。敵の作戦目的はわかっている。この衛星暴走を脱出
船団の仕業に見せかけるメディアコントロール・・・・。一刻も早く真相を流さなくてはならない。彼等は手当たり
次第に電波ジャックを開始した。今ならまだ間に合うという淡い期待を信じて。、だが彼等は敵の真の意図にまだ
誰一人として気がついてはいなかったのだ。
広報端末「繰り返します、反マザーブレイン組織のテロにより軍事衛星などが暴走を開始しました。衝突コースに
向かう衛星もあり政府軍が対応していますが・・市民の皆さんは最寄のシェルターまで避難してください。」
街の緊急端末や人々の携帯端末が臨時ニュースを伝えると人々はこれまで五百年も忘れていた恐怖という感情に
襲われた。たちどころに市民はパニック状態に追いこまれる。
市民「テロリストの奴らなんて事を！！」
「あいつらテロだけじゃあき足らず、ついにこの星を壊す気だ。畜生！！」
「衛星が落ちてきて本当に大丈夫なの！！！」
「マザーが指示しているんだ！！ とにかくシェルターに入るしかないだろう！！」
中にはどこへ逃げていのかわからずさ迷うもの、暴徒と化す者、火事場泥棒を決め込む者もいたがほとんどの人々は
マザーブレインの言われるまま偽りの情報に踊らされまるで鼠の大群の如く恐怖と混乱から逃れるようにシェルターの
ある地下深くへと避難した。・・・・それが悪魔の策略だとも気がつかずに。
その様子をカミニートＴＶ局上空に浮かぶ赤い装束に身に纏った異形の紳士が嬉しそうに眺めていた。街を覆う恐怖と
混乱に暗い愉悦を感じて頬をゆるませている。
ファーグ「ふふふふ例えそれが偽りだとして愚民どもは情報を求めるものです。真相を知った愚かな大衆がどのような
行動を取るか。それはもう恐怖に怯えるか暴動しかないでしょうな・・・大いなる恐怖がこの星を覆い、
あの御方の御降臨の環境がすべて整うまで後少し・・・。」
愉快に口上を述べると異形の紳士は夜の帳に沈む混沌の街にうやうやしく一礼をしてその場から姿を消した。
ＰＭ６：３０
監獄衛星ガイラ内に突入したタイラー達はさっそくセキュリティシステムの激しい迎撃に遭遇した。金色の人型ポリス
ロボ、ポリツッアイＳＳの機銃掃射や同じく金色の小型哨戒ロボトレーサーのレーザー攻撃がタイラー達を襲う。
だがハル自慢のグレートダロスの装甲には傷ひとつつかなかった。そして２６の秘密機能の一つパイロットの脳波を
マニュピュレータと連動させそのパイロットが最も使いやすい武器を具現化させる格闘システムがタイラー達の手助け
となった。
アレスの乗るグレートダロスの拳が力強くポリツッアイＳＳの頭上に叩き落されポリツッアイＳＳがまるで空き缶が
踏み潰されるように潰れた後爆発四散した。
アレス「中に入ったらさっそくお出迎えかよ！！」
タイラー「ああ、そうらしい・・・エアスラッシュ！！」
そう言うタイラーの搭乗機には右腕が剣状に変化し横一線の薙ぎに多くの迎撃システムが切り裂かれ鉄くずと化す。
一方ミカの乗る機体はその鈍重そうな外見に似合わず猫のような敏捷な動きでトレーサー達の索敵レンズに混乱を
与えていた。目にも止まらぬ風のような激しい動きに次々とトレーサーは外装から切り裂かれ爆発する。
最後まで残ったトレーサーが索敵に処理が追いつかずフリーズする。その索敵レンズが最後に見たのは鋭い金属性の
爪を装着したグレートダロスの強烈な引き裂き攻撃だった。
ミカ「ダブルクロス！！ねえここは空気があるんだよね、このスーツで戦うよりあたしは外で戦う方がいいなあ。
脱いだらだめ？」
ミカはまるで激しく運動したかのように汗が噴出していた。脳に直接運動情報を送るシステムは例え本人が動いていて
なくても身体に運動をしたのと同じ負担をかける。狭いコックピットの中は汗と冷却しきれない放出熱で真夏のような
蒸し暑さだった。ミカがあまりの暑さにグレートダロスから出ようとするのもタイラー達には判らないわけではなかった。
だがハルが強い調子でそれを止める。
ハル「駄目だよ！！今外には予測した通りジョゴスウイルスが蔓延しているんだ！ウイルスバタンＱを搭載したこの
スーツじゃないと即感染してしまうよ。」
ミカ「ひ！ジョゴスウイルス！！・・・う、うんわかった。ミカ我慢する。」
死の淵まで追いやられた恐怖が頭の中に蘇り、ミカは手にしたハッチを開くキーから慌てて手を離した。
タイラー「そんな中でユーシス達は無事なのか！！」
いまだに見つからないユーシス達の行方、さらにジョゴスウイルスが蔓延していると聞き焦燥感を募らせるタイラー。
ハル「わからない・・・でもこのままもたもたしていたらやばいことは確かだよ！」
タイラー「時間との勝負という訳だな！！次はどこへ向かえばいい。」
ハル「その通路を曲がって右に行けばメインコントロールルームだよ。」
ハルからの指示に従い通路をひた走るタイラー達。だがそれを防ぐべく行く手には敵の増援が次々とやってくる。
アレス「ああ、次から次にわらわらと全部壊してやる！！」
ポリツッアイＳＳを数体斧で纏めて弾き飛ばしながらアレスが叫ぶ！！
タイラー「雑魚に構うな！！多分ユーシス達も異変に気づきそこに向かったはず、俺達もそこに急行するぞ！！」
タイラー達は敵の固まっていない場所を巧みにつきながらメインコントロールルームへと歩を急がせた。
だがメインコントロールルームのドアの前まで来てタイラー達は最悪のセキュリティシステムに行く手を阻まれた。
赤銅色の丸い装甲を持つ２０ｍを超える巨大な機動兵器セキュリティシステムの切り札アーミーアイが飛行しながら
眼前にその巨体を顕わしたのだ。
アーミーアイ「テロリスト、サンニン確認コレヨリ攻撃モード二移行シマス。」
アーミーアイの合成音声が冷酷に攻撃態勢に移行すると告げてきた。
アレス「ちくしょう・・・メイン端末室まで後少しなのにセキュリティシステムの切り札アーミーアイかよ！！
邪魔だ。叩き潰してやるクラッシュ！！」
そう悪態をつきながら斧を持つグレートダロスの手は震えていた。アーミーアイからは逃れられない。レジスタンスの
間では常識となっているその恐怖にアレスは囚われながらそれを無理に振りきり手にした斧で激しく切りつける。
タイラー「よせ！！無駄なことは判っているはずだ！！」
だが全身全霊で切りつけた一撃はその装甲を一部へこませただけで後はまったくの無傷だった。アレスが虚をつかれ
動けずにいるとアーミーアイは内蔵の強烈なレーザー砲でアレスの動きを封じる。そして再び無感情な合成音声が
冷徹に次の行動を告げた
アーミーアイ「ターゲットノ敵対行動ヲ確認プラズマリングデ捕縛シマス」
アーミーアイがその巨体で猛烈な勢いで体当たりを敢行するとさしものグレートダロスも車と衝突した人のように
弾き飛ばされた。タイラーとミカがアレスを助け出そうと飛び出すがその前にアレス機の廻りにプラズマの電光が
輝き出した。プラズマはやがてリング状になり完全にアレス機をその縄に捕らえた。
ミカ「アレスお兄ちゃん！！」
アレス「こら、この離しやがれ！！ぐ、ぐおわあああ！！」
ミカとタイラーが引き剥がそうとするが物理的にプラズマリングを外すのは不可能だった。逆にタイラーがプラズマ
の反発作用で弾き飛ばされる。アレスがミカの機体が傷つくのを見ていられず叫んだ。
アレス「俺の事はいいからお前達は先にいけーーー！！」
だがミカは身体を護る機体が損傷しようとアレスに怒鳴られようと決してアレスの側を離れなかった。
ミカ「そんなのいやだよー！！アレスお兄ちゃん約束したじゃない！！あたしをもうひとりぼっちにしないって！
お兄ちゃんが残るならあたしも残るもん！！」
アレス「馬鹿猫！！今はそんなこと言っている場合か！！よせ、おまえまで巻き込みたくねえんだ！！」
互いに泣きながら庇い合うミカとアレスに対しアーミーアイは正確にプラズマリングの出力を最大に上げた。
プラズマリングは周囲にイオン臭を放ちながら雷撃のように二人を飲み込んでいく。いくらグレートダロスと
いえどこれでは五分も持たず内部機能が焼ききれてしまう。それよりも先に対ＮＢＣ装備がいかれ二人の
身体の水分が爆発し二人は死を迎えることとなる！！
アーミーアイ「敵ヲ消去スル・・・プラズマリング、レベルＭＡＸ」
アレス、ミカ「ぐわあああああああああああああ」
タイラー「くそ！！俺はどうすればいいんだ！！」
ようやく機能が回復し立ちあがったタイラー機だが目の前で二人が絶叫をあげるのをただ見つめることしか
できないもどかしさにタイラーは拳を強く握り締め叫ぶことしかできなかった。その時ハルから緊急の通信が
入る。
ハル「空間透過機能だよ！！艦長それでアーミーアイの外装に穴を開けられる、そうしたら内部構造に荷電
粒子砲を叩きこんで！！」
モニターに映るハルの表情は暗く険しかった。無理もない。アーミーアイは設計した自分にとって子供の
ようなものだ。そのやりきれなさを押してまでアドバイスするハルの思いがタイラーには切々と伝わった。
タイラー「そうか！！空間透過機能だな、サンキューな！ハル、ありがたく使わせてもらうぜ！！
いくぞーーーーー！！うおりゃあああああ！！」
グレートダロスの腕が強烈な電離現象で光り輝き拳の振動に周囲の空間が波のように揺れる。その圧倒的な
力を拳に一点に集中させタイラーは思いっきり拳をアーミーアイの外装に叩きこんだ。
電磁波の膨大な奔流が空間を湾曲させ無敵といわれるアーミーアイの装甲に捩れを生じさせる。それはやがて
小さな穴を穿つ。その穴から内部にこぶしを付きぬけ腕に装着した荷電粒子砲でアーミーアイの内側に向け
強烈な一撃を放った！！
アーミーアイ「内部機能荷電粒子ニヨリ異常発生・機能・・・損傷ダイ・・・キケン
キケン・・・キ・・・ケ・・・・・・ン」
合成音声が悲鳴とも断血魔ともつかぬ高い高音を発し内側に溢れる強大な荷電流が内部機械を蹂躙してゆく。
やがて内側から小規模な爆発がおこりそれが大爆発を誘発しついにアーミーアイは完全にスクラップと化した。
ハル「・・・・アーミーアイ、君達もアルカディアに利用されるよりこの方がいいよね・・・・ごめんね」
モニターに映る爆炎に包まれるアーミーアイの残骸を見つめるハルの目からゆっくりと涙が零れ落ちる。
ウォーレン「・・・・・マスター」
ジョディ「・・・・ハル君・・・。」
そしてただその残骸に詫びるハルにウォーレンとジョディはかける言葉が見つからず悲しく見つめる事しか
できなかった。
ガンツ「ハル・・・・最後に作ったお前から暖けえ言葉もらってよぉ、あいつも幸せだったんじゃねえか」
ただガンツだけが詫び続けるハルの肩を掴み一緒に燃え盛る残骸を見続けていた・・・・。
残骸の炎から拙い足取りで出てくるアレスとミカの乗ったグレートダロス。アレスの機体は足の関節部が一部
やられているのかミカ機に支えられていた。
アレス「ごめんよ・・・その俺が無茶したばっかりによ・・・。」
アレスは済まなそうに頬を指でかきながら言葉を詰まらせる。だがモニターの向こうのミカは泣きじゃくり、
自分の機体でアレス機の胸部を叩きまくった。
ミカ「そうだよ！！アレスお兄ちゃんの馬鹿馬鹿馬鹿！！もうこんな無茶しないでね・・・・。」
叩かれる振動でコックピットが少し揺れさらにモニターに映るミカの泣きじゃくる顔・・・・。気まずい雰囲気に
アレスはすっかり余裕をなくし、戸惑い悪態をつくが顔は赤面し完全にノックアウト状態である事は誰の目から
見ても明らかだった。
アレス「こ、こらやめろ！！後で突っ込んだてめえに言われたくはねえよ！！・・・本当に」
タイラー「ははは、減らず口が叩けるならまだ大丈夫な証拠だ・・・それよりジョディ後何分だ・・・・。」
もうすっかり元気ないつもの二人の様子に安堵し、グレートダロスの端末をドアの端末に繋げ解除作業を行う
タイラーはジョディに残り時間を確認する。
ジョディ「残り１５分を切りました！！」
タイラー「よしドアロックを解除した。これより内部に突入する。」
ドアのセーフティロックの解除作業が終了し大きなドアが轟音を立てて開いていく。その隙間から微かな光が
差し込むのがタイラー達には見えた。
微かな光は眠る青い髪の青年を中心として仲間と思われる人達を護るように淡く輝いていた。４人とも軽度の
ジョゴスウイルス感染の症状が出ていたが淡い光がその進行を食い止めていたようだ。
アレス「なんだ、あの光は・・・。」
ミカ「綺麗な光・・・懐かしくそれでいて少し寂しく感じるはなんでだろう。」
アレスが呆然と光を見つめミカがその暖かな光に懐かしさを感じ涙した時、タイラーはその光から聖母のように
優しく暖かい少女の声を聞いた。
優しげな女性の声”お願い、タイロンの意思を受け継いだタイラー、ユーシスと共にアルゴルを護って”
それは真実の書で得た記憶かはたまた遺伝子に刻まれたタイロンの意思なのかタイラーにはそれが千年前
自分の先祖であるタイロンと共に闇の魔王と戦った勇者アリサだとわかった。光はアレス達がユーシス達を
助けると安心したように静かに消えていった・・・。
ミカ「あ、消えた・・・一体なんだったんだろうね。」
タイラー「俺にはなんとなくわかる・・・・あの光はたぶんアリサだ・・・・。」
ミカ「あ、アリサって千年前の勇者だよね！？まさか幽霊なの！？」
少し怯えるミカの疑問にタイラーは窓に映る宇宙を見つめ確信を持って答える。
タイラー「さあな・・・だが俺は死んでないと思うんだ。あの光には生命の躍動感に満ち溢れていたから・・・
たぶんどこかで俺達やここにいるユーシスそして、アルゴル太陽系を見守っているんだと思う・・・。」
グレートダロスに内蔵される転送装置でユーシス達をランディールの医療室に送り、タイラー達はガイラ制御
端末の前に立つ。
アレス「よしあいつらは医療室に転送しておいたぜ。・・・それより今からどうする？」
タイラー「当然こいつを止める・・・ジョディ、ハル、アシストを頼む」
ハル「わかったよ。直ちにガイラの航行プログラムを書き換える。ウォーレンそっちはどう。」
タイラーがガイラの制御端末のコンソールにグレートダロスのコード端末を指しこみ、アレスとミカがハルの
指示に従い表面のカバーを外しメインコンピュータにコネクトする回線の結節点の経路をグレートダロスの
修復ツールを使い変えていく。
ウォーレン「仮想上位形成相にエミューショナルモードで大域点検フローを起動。メインシステムを回復
させています。」
そこにハルがウォーレンとジョディのサポートの元驚異的な速度と的確さでガイラの運行プログラムを変更
していく。それが中枢部分にさしかかった時、ジョディはその作業中、運行プログラムの指令があるモジュ
ールから出ている事に気づいた。
ジョディ「ガイラ中枢に設置されている未確認モジュールを調査。衝突コースの指令はここから出ています。
これより解析を開始します。」
しかし、そこにジョディがアクセスしようとした時だった。彼女は再びあの声を聞いた。
？？？”助けて、助けて！！！恐怖が！！！”
ジョディはこの思念の感応の仕方に確かに覚えがあった。忘却の彼方にあった時空衛星の暴走、あの時と
非常に似ているのだ。彼女は意を決してその思念を読み取ろうとした。そこでジョディは知ってしまったのだ
・・・アルカディアの最終計画の次の段階の内容を。
ジョディ「え？あ・・・・ああ！？」
タイラー「どうした！ジョディ！！」
ジョディ「そこから逃げて−ーーーー！！！」
ジョディは今知った恐怖の真相を明らかにしようとした。だがその前に、ガイラの端末が急に超新星の如く
猛烈に光り始めたのだ。
タイラー「制御端末が・・・爆発する！？」
圧倒的の光と共に空間が歪み始め、タイラー達のグレートダロスが空間の歪みに飲み込まれて行く。
タイラー達「う、うわあああああああああ」
そして空間の歪みはガイラと戦艦ランディールを飲み込みつつ惑星パルマに吸い込まれるように落ちていった。
同時刻、統合司令室では惑星パルマが大スクリーンに映し出されそれに急激にスピードを上げ刻一刻と接近
する監獄衛星ガイラにスタッフが恐慌状態に陥っていた。ジェリコが何度もランディールに通信を送るが
一切反応がない。ジェリコは悲鳴のような声で報告をミラー博士に伝える。
ジェリコ「タイラー提督より報告のあった監獄衛星ガイラのスピードが急速に上昇しました！！追跡していた
ランディール・・・音信不通っす。」
スタッフが恐慌状態に陥ったのはそれだけではなかった。もう一つのスクリーンにはこれまで衝突コースに
あった衛星が惑星パルマと脱出船団を包囲するように球形状に並び目には見えないが強烈なエネルギーを
周囲に向け発しはじめていたのだ。
士官「衝突コースにあった衛星群、惑星パルマ圏を取り囲んで恒星クラスの強力なエネルギーフィールドを
形成しつつあります！！脱出船団もエネルギーフィールドに囚われました！！！」
ミラー博士の元に様々なデータが送られそれを解析してゆくなかである事象が彼を心の底から驚愕させた。
ケン「な、なんだ・・・惑星パルマの観測座標が周囲の光の放射との間にものすごいズレが生じている・・・これは
ドップラーシフト・・・まさか時空層に急激な歪みが生じているという事か！。時間流速測定！！
惑星パルマを中心に時間が急速に早く変化している。これはまさか・・・力もりもりんなのか？」
予測される最悪の事象に顔から血の気が引くミラー博士。もしこのまま時間が加速し続ければ・・・・・。
そして統合司令室の大スクリーンでも惑星パルマに吸い込まれてゆくガイラが映し出された。
ジェリコ「も、もう駄目だ・・・ガイラが衝突するっす！！」
ジェリコは愕然となりそう叫ぶしかなかった・・・・。
ＰＭ７：００
バヤマーレの副都心高層ビルのアンテナ上に黒いライトサーベルを持った男が立っていた。彼は天空を見上げ
鷹のような鋭い目で落ちてくる流星を見つめる。その流星は落ちてくるにつれてしだいに速度を落としているよう
に見えた。流星の輝きが街を白く照らす中、鷹の目の男は静かに呟く・・・・。
ライダーク「ゲーヴェルト・シュターケン・サーキット・・・人々の恐怖があの御方を護る御簾を作り出す・・・
だがタイラーよ、そんなところで死ぬなよ・・・・。お前と戦うのはこの俺なのだから。そして・・・」
鷹の目の男ライダークが最後まで言い終わる前に轟音が他の全ての音を奪い男がその場から姿を消すと同時に・・・
全てが光と爆炎に包まれた・・・・。
果たして惑星パルマの、ランディールの、そしてタイラー達の運命は！？
第２４話 -終-
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