タイラー達が監獄衛星ガイラと惑星パルマとの衝突に巻き込まれた時より少し前・・・・・
レジスタンスのリーダー、アイナとオハリオは大海の中の孤島にある古代遺跡、アビオン
の塔において真実の書で習得した禁断の秘術を実行に移そうとしていた。
アイナ「ファーラ、エストラ、ゴウラ、パイラ、レイラ、マイラ、ユウラよ過去の盟約に従い・・・」
幾何学模様に星砂で描かれた結界の中で秘術の呪文を唱えるアイナ。星砂はアイナの
歌声のような言霊に従い幻惑的に輝きながら八旁星のより巨大な結界を形作ろうとして
いた。
だがトランス状態に入っているアイナの瞳にはすぐ側で行われている激しい力と力の激突は
映らない。

親衛隊幹部ギ・ル・ザーク
「急げ！！シークの巫女はすでにトランス状態に入っている。無防備になっている今こそあの
娘を撃つ好機なのだ！！封印の秘術を完成させる前に何としてもあの娘を殺せ！！」

緑色の装束に身を纏った闇の親衛隊幹部の号令に従い複数の魔物達がアイナ目掛けて襲
いかかる。その中でも一際巨大な、一つ目黒色の巨獣デルバイツッアが身体に雷を纏わせ
アイナに突撃しようとしていた。山の様な巨体にあわやアイナが踏み潰されようとしたその時
黒髪の青年が手にした黒い長剣を巨獣の目に突立てた！！
オハリオ「僕がいる間はアイナには指一本触れさせるものか！！魔族ども！！」
闇の猛獣は咆哮を挙げ頑強な前足でオハリオを蹴倒そうとするがそれを巧みに交わしながら
彼は巨獣をアイナの側にそれ以上近づけさせない。やがて短い力の均衡が破られ青年は長
剣に力を込め、デルバイツッアの巨体を一刀両断に切り裂いた。その鬼神のようなオハリオの
気迫に一瞬魔族達は怯む。
ザーク「え・・・ええい怯むな！！我等闇の軍勢がたかが人間ごときに敗れるなぞあってはなら
　　　　ぬのだ！殺せ！！殺してしまえ！！」
ザークの再度の号令で魔族達はまた勢いを取り戻した。それに対しオハリオとその周りにいる
エスパーや剣士達も奮闘しているが涌き出る様に現れる魔族に徐々に押されていった。
エスパー「オハリオ様、アイナ様を連れてここをお逃げ下さい。もう我々の力も・・・・もちません！！」
両方の手の鋭い鎌を振り下ろし襲いかかる双頭の怪物ツインアームズを雷の呪文ギタンドレで
貫き消滅させるエスパーの若者。だがその顔色には疲労が色濃く出ていた。オハリオ自身も炎
の人型バルカン達が吐く炎に少し身体を焼かれながらも傷ついたエスパーのフォローも忘れて
いない。ラヒールを唱えエスパー達の体力を回復させる。
オハリオ「せっかく・・・ルツ様の館から来てくださったのにこんな戦いに付き合ってもらい本当に
　　　　　すまない。でもここで逃げたらダークファルスが確実にこの星を滅ぼしてしまう。だから
　　　　　後少し・・・後少し頑張って欲しい！！」
エスパー「オハリオ様・・・すみませんでした。黒の波動を押さえる為今はデゾリスを動けない
　　　　　ルツ様の代りに私達が来たのに・・・オハリオ様我々が援護します。ギフローゼ！！」

氷のマジックが炎の人型を消し去りようやく苦痛から開放されたオハリオはよろよろになりながらも
黒い長剣を手にアイナの前に立った。

ザーク「ふわはははははは！！その様な傷ついた身体で貴様等に何が出来る！！さあ者ども一
　　　　斉にかかるのだ！」

ザークの指令を受けて魔族が群れをなして襲いかかる。だがオハリオの顔に不敵な笑みが浮か
んだ。剣の刃先に指を当て指から流れる血が剣に吸い込まれていった。
オハリオ「さて、それはどうかな・・・・・僕達人間の力をなめないでほしいね・・・・・・・・ 我がシークを
守護せし光神金竜ゴールドドレイクよ、願わくば我が剣に宿り我等が前に立ちふさがりし敵を 打ち
　　　　　払いたまえ！奥義、烈光竜撃剣！！」
オハリオの闘気が剣に宿り、そして振るわれた斬激が金色の龍となって魔族達を次々飲み込んで
行く。その一撃をぎりぎりのところでかわしたギ・ル・ザークの声は恐怖で震えていた。

ザーク「ば・・・馬鹿な我等魔族の精鋭が・・・・たったの一撃で・・・おのれこうなればせめてアイナだ
　　　　けでも！！」
半狂乱になりながらギ・ル・ザークはオハリオ達の隙をつきアイナ目掛けて飛び掛った。
オハリオ「しまった！！」
ザーク「ふわははははは！！死ねえシークの巫女よ！！」
その鍵爪がアイナの額に迫る！！
アイナ「ムゥト、ディッツ、ポウム！！」
だが鍵爪がシークの姫を切り裂く寸前に古の封印の秘術は完成していた。光輝く八旁の星の光が
塔の天空により巨大な魔方陣を出現させ緑の親衛隊を後から涌き出る魔族共々消し去る！！
ザーク「ぐぎゃあああああああああ」

三色の光に照らされたアイナがすっぅと息を抜くと辺りを照らしていた光は蛍光のように夜空のまど
ろみの中に消えていく。
だが光が消えると同時にアイナは息を荒くしふらっとその場に倒れこんだ。ぎりぎりのところでオハ
リオが手で支えたがアイナの顔には憔悴の色がありありと浮かんでいた。
オハリオ「大丈夫かい！！アイナ・・・・・」
アイナ「ええ・・・・心配しないで・・これぐらい今まで戦ってきたオハリオ達の苦痛と比べたら何てこと
　　　　はないです・・・これで最後の封印の要は強化できたと思いますから・・・後は・・・」
気を一時的に失うほど憔悴しているのに尚も立とうとするアイナを支えながらオハリオは必死に嗚
咽を堪え彼女にそっと囁く。
オハリオ「ああ・・・もういい、もう星の為に君が命を削る必要はないんだ・・・。」
それを見ていた周りの部下達も二人を気遣ってその場から離れる・・・。支え合う二人は数分の間
抱き合い窓から映る夜空を眺めていた。遥か東方に向かう流れ星を見て二人は何を想うのか・・・・・。
だがその流れ星が地平線の彼方に消えた時二人の静寂の一時は破られた！！
地平線が一瞬光り輝いたかと思うと夜空が白い闇の光に覆われていく。アビオンの塔周辺の時間
でもまだ夜明けまでには後二時間かかる。これが自然の光ではないことが二人には瞬時にわかった。
オハリオ「くぅう！！こ、これはまさか！！」
続いて大地がいや、星そのものが揺れているような揺れがアビオンの塔を襲う。二人が驚愕の眼差し
で地平線を見つめていると塔が揺れに軋む音に混じり、邪悪な嘲笑が木霊する。
ザーク「ふわははははははは！！残念だったな、今このパルマに監獄衛星ガイラが衝突した！！だが
　　　　安心するがいい、今はまだこの星は消滅せぬ。これよりあの御方様の降臨祭がとり行われるの
　　　　だからな！！シークの者ならこの意味わかろう！！」
二人の足元にはいつのまにか先ほど倒したギ・ル・ザークの頭部が転がっていたのだ。緑の親衛隊の
嘲笑が二人の心を激しく揺さぶる。
オハリオ「くう・・・」
アイナ「この星の命であるポウムの輝きが・・・弱まっていっている！！それにこの地震は・・・・」
アイナは呪文を唱えるとそれぞれの星を示す三色の光が手の平で輝く。だがパルマを示す赤い輝きは
今にも消え入りそうなぐらい弱弱しく、燐光よりも儚く見えた。
二人は立ち尽くし言葉を失った。悔恨と絶望が二人の胸をギリギリと締め上げる。その姿がザークの嘲
笑をさらにあおった。
ザーク「ふははははは、大いなる光の封印の要ポウムは人の作り上げた技により打ち砕かれた！！
　　　　もはや御方様の御降臨を阻む術は存在しない！！さあ人よ、汝らの罪と業を御方様への贄と
　　　　して差し出すのだ！！！ふわははは、あーははははははは、ぐぎゃあ！！」
壊れた人形のように笑うザークの頭に黒い剣が突き刺さる。オハリオの一撃で今度こそギ・ル・ザークは
完全に消滅した。
静寂が再び支配する空間の中打ちひしがれた二人はそれでも立ちあがるほか無かった。
オハリオ「・・・アイナ今の奴の話は本当なのか・・・。」
アイナ「ええ、残念だけど今の話は本当だと考えて間違いないでしょうね・・・・見て、パルマを表す赤の
　　　　輝きが・・・・今にも消えそうになっている。これが意味することはオハリオにも判っているはずです」
アイナは手の平で震える赤い光をオハリオに見せ真剣な眼差しで問い掛ける。
オハリオ「ああ、わかっているよ、だがこれ以上君に負担をかけられない・・・後は僕達だけで・・・」

彼女に言われるまでもなくオハリオにもこの星に最大の危機が訪れようとしている事はわかっている。
だが封印の儀式で生命力を著しく消耗したアイナを連れていくことは出来ない。オハリオは手にした剣
を握り締め彼女の方を振り返る事無く部下の待つ下の階に下りようとした。しかし彼女はその場を後に
しようとするオハリオの手を力強く握りしめると自分の方に押し戻した。
アイナ「・・・・オハリオ、１０年前燃え盛るシーク本家の中で私達は一族と約束したはずですよ・・・・」
オハリオ「・・・・アイナ・・・・」
アイナの瞳には強い決意の輝きがあった。それは十年前ライダークに襲撃されシークの一族がほとんど
連れ去られたとき残された三人の赤子を守ろうと誓い合った時の目そのままに・・・・
アイナ「人々のそしてあの子達のささやかな幸せを護るためなら私達は自らの命を差し出す事も厭わない
　　　　って・・さあ行きましょう・・・私達の最後の戦場に」
オハリオ「ああ・・・・君がそう望むなら仕方がない・・・・共に行こう・・・・僕のお姫様」
互いにその誓いを改めて確認した二人は共に手を携え、下にいる部下達の待つ階へと一歩を踏みしめる。
されど行けば確実に死が待つ最後の戦場へと向かう二人の表情はまるで婚姻を迎える新郎新婦のように
爽やかだった。

ＰＭ７：１５
コックピット薄暗いノイズ交じりのモニターの輝きだけがコックピット内を照らしていた。その中で鳴り響く
エマージェンシー音でようやくタイラーは目を覚ます。
タイラー「う・・・・・俺は生きているのか・・・ハ！みんなはどうした！」
ぼんやりした意識の中で自分のおかれた状況を再確認していく過程の中でタイラーは自分達が監獄衛
星ガイラの暴走に巻きこまれたことを思いだしハッとなった。
タイラー「・・・おーい、みんな無事かあ！！」
もしかすると・・・そんな不安が頭をよぎるがタイラーは頭を振り不安を追い出すと、通信回線を開き大声
で呼びかけた。一瞬の沈黙の後通信回線からノイズに混じってアレスの元気な声が聞こえてきた。
アレス「お、おう、何とかな。あーーまだ目がチカチカするぜ。モニターが眩しいけど一体外はどうなってや
　　　　がるんだ！！」
ほっと息をふきシートに持たれかかるタイラーはアレスのぼやきを聞きながら残る仲間達の安全を確認し
ようと通信回線を調整する。と同時にアレスの言った外の様子が気になりモニターの調整も行うが外部モ
ニターは一向に修復しなかった。
タイラー「ふう、さあな・・センサーがさっきの猛烈な光で一時使用不能になっているから詳しいことはわから
　　　　　ないがとにかく俺達が生きていることは間違いないみたいだぜ・・・・。」
ミカ「お兄ちゃん、アレスお兄ちゃんにタイラーお兄ちゃん！！返事をしてよ」
アレス「ああさっきから馬鹿猫が何度も何度も俺達を呼んでいるしな・・・」
タイラー「ふ、そうだろ・・・・こちらもランディールとの通信回線がたった今復旧したところだ・・・・ジョディ・・・
　　　　　状況報告を頼む」
ミカやジョディ達との通信も回復し艦長としての余裕を取り戻したタイラーはジョディに状況の確認を頼んだ。
だがモニターに映るジョディやハル達はまるで何かに取りつかれたかのように呆然と一点を見つめていた。
タイラー「ジョディ聞こえないのか？・・・それにハルまでどうしたんだ・・・」
タイラーの何度目かの呼びかけでようやく我に返ったジョディが対応に応じる。
ジョディ「ハ！！・・・ご、ごめんなさい・・・今あまりにも非常識な光景が見えているもんだから・・・・」
タイラー「非常識な光景！？詳しく説明してくれ。」
ジョディ「・・・説明するより見ていただく方が早いと思います。画像をそちらに転送しますので・・・・・。」
タイラー「よろしく頼む、アレス機とミカ機にも画像を送ってくれ」

データがリアルタイムに転送されモニターに徐々に映し出されていく・・・・そのあまりの非日常的な光景に
タイラー達は息を呑んだ。
アレス「・・・・・・お、おいこりゃあ何だってんだ！！」
ミカ「地上でお日様が輝いているよ！！・・・でもあれ何だか怖い。」

・・・・それは核爆発の光と非常によく似ていた。まるで太陽のような猛烈な光を放つ巨大な光球・・・・首都
バヤマーレの北東部分四分の一を飲み込みながらだがそれは不思議なことに爆心地から一定の距離を
おいて膨張や拡散が止まって見えた。そう時間がそこで停止したかのように
ハル「光化学解像度を最低限にしてこれだよ・・・まだ詳しくは分析していないから推論になるけどγ線やπ
　　　中間子が計測されているからおそらくあれは対消滅反応だと思う」
ランディールから送られてくる光球の解析図に表示されるデータを見る一同に驚愕の表情が浮かぶ直径、
内部温度、総エネルギー量それらは全てこのパルマが壊滅してまだおつりがくる位の数値を示していた。
だがそれが拡散もせず太陽のように形をなしたままその場に存在している。そしてその光球には周囲の
施設から巨大なパイプラインが伸びエネルギーを取りこもうとしていたのだ。ハルが説明した対消滅反応
ならタイラー達もその理論を理解している。理解しているからこそこの現象の恐るべき異質さを感じざる
おえなかった。
タイラー「対消滅反応だって！！馬鹿な、これがそれなら今頃俺達は塵も残さず消滅しているはずだ。
　　　　　・・・・・・これが・・・これが奴らの次の策だというのか！！！よし、俺達はすぐにランディールに
　　　　　戻る！！対策はそれからだ」


ＰＭ７：３０
脱出船団は未曾有の危機に直面していた。
惑星周囲を目に見えぬ時空の壁が覆い逃げ場が失われる事態に追い討ちを掛ける様に脱出船団を護
衛する艦隊の旗艦、空母マリーチャーのモニターには百隻以上にも及ぶ敵大艦隊が映し出されていた。
敵の第一陣が紡錘形の布陣でコロニーの周囲を護る艦隊へと割って入る。敵の巡洋艦隊の膨大なハイ
パワーのビームが飛び交い、高機動のミサイル群が前方に展開する艦隊に迫る。回避しようとするが小
回りの効かない戦艦が爆炎に包まれまわりの護衛艦隊に陣形の乱れが生じる。そこを敵ゴルゴン級旗艦
「ステンノー」のポジトロンボルトの巨大なエネルギー波が貫き護衛艦隊ともども二隻のコロニーを灰燼に
帰した。味方が押されてゆく戦況に空母マリーチャーのブリッジはオペレーターの行き交う怒号に艦に時々
響く振動が混乱に拍車をかけていた。
士官「第二機動艦隊の攻撃により移民船「ハシム」「ネオテパ」撃沈しました！！現在攻撃を受けている移
　　　民船は４８隻を超え各船団よりＳＯＳが発信されています」
　　「護衛艦隊の損耗も28％を超えました！！」
だがルオンは冷徹に戦局を見守りながら味方の爆光で不安に陥るオペレーター達に的確な指示を送る。
ルオン「第7突撃艦隊「森の騎士団」弾幕を張りつつ第3防衛ラインまで後退、他の艦隊と連携しつつ敵を
　　　　おびき寄せる！！前方バリアーフィールド展開を忘れるな！！」
士官「しかし、それでは今攻撃を受けている移民船が陥落する恐れがありますが・・・」
ルオン「かまわん！！責任は私が取る！！攻撃を受けているものを含め、１００隻の移民船の乗員を退避
　　　　させろ！！無人となった移民船を前面に出し最終防衛線として使う！！直ちに行動に移せ！！」
普段は倣岸なルオンの姿勢がこと戦局になると部下には頼もしく見えるようだ。落ち着きを取り戻したオペ
レーター達が各艦に指示を伝達しそれを受けた艦隊はバリアフィールドを展開し後退しながら無人と化した
巨大コロニー群を盾とし敵艦隊のそれ以上の進撃を阻止する。
　　　　
目まぐるしく変わる戦局の中でも冷静な姿勢で矢継ぎ早に指示を出すルオンにアベルは思わず感嘆した。
アベル「ふ、ルオン司令の戦術はなかなかのものだ・・・引き際を心得ている。おかげで私の仕事は半ば取
　　　　り上げられたようなものだな・・・。」
そういって少し落胆してみせるアベルにディスプレイに映るミラー博士から優しく声が掛かる。
ケン「アベル君裏方に徹するのも立派な参謀の仕事だよ。」
アベルとミラー博士の視線はすぐ近くで行われている激しい戦局ではなくパルマのバヤマーレ上空の静止
画像に向けられていた。
アベル「そう・・・表で動いている戦局の裏で情報戦や謀略戦が繰り広げられる。それが戦争の本当の姿だ
　　　　・・・・敵の本当の目的は船団の壊滅ではない。この船団はダークファルスのキャリア（運び屋）として
　　　　利用価値があるからな。今、バヤマーレ地区でおこっているこの対消滅反応こそ敵の戦略の主眼！！！」
アベルが見つめる先には光球が不気味に揺らめいていた。その画面にX線や赤外線など様々なフィルタを
かけ解析してゆくミラー博士はコンソールに指を走らせつつ現在パルマ星内部でおこっている内部の異常
を的確に見ぬいていた。
ケン「君の狙いはどうやら当たっていたようだぞ・・・・現在パルマ各地で震度３から４の地震が連続して発生
　　　しつつある・・・震源はパルマ星のコアだ・・・・。地表部の時間が急速に加速しているためまだそれほど
　　　大きな地震は発生していないがこのままでは星の死は避けられないか・・・・。」
アベル「アルカディアは地熱発電所に偽装して地中深くにエネルギーを送り込むシステムを各地に建造して
　　　　いた。そのほとんどはタイラー達が潰したはずだが・・・どうやらそれもおとりだったようだな。」
データの解析を続けながらミラー博士は心の中で湧き上がる二つの矛盾した感情に思わず含み笑いを浮か
べる。
ケン「時間の加速化に星のコアの崩壊・・・ふふふ、不思議だよ、人間としての私は恐怖に震えているのに科
　　　学者としての私は、ふふふ、これまでにない事象のデータ収集に興奮しているのだよ・・・・全く科学者と
　　　いうのは因果な職業だ・・・・。」
そう言って自嘲するミラー博士にアベルが言った。
アベル「それは参謀という職業も同じだ・・・、敵がどんな冷酷で残虐な作戦をとろうとそれが戦局に有利に働
　　　　くのであれば研究し、時には使わねばならないのだから・・・・ふ、お喋りがすぎたようだ。解析を続けよ
　　　　う・・・・・。」
ルオン、アベル、ミラー博士、そして多くの名もなきレジスタンス達が己の持てる全ての力を持ってまだ明日の
見えない戦いに挑もうとしていた。

だがそれを冷笑を浮かべ眺める者たちがいる。第二機動艦隊旗艦「ステンノー」のモニターに灼熱の炎に包ま
れるレジスタンスの軍艦が映るたび、提督ベアラード（デスベアラー）を始めとするブリッジのクルー達には人間
とは思えぬ冷たい笑みが現れていた。ベアラードはアルカディア総本部に通信回線を開くとそこに軍司令ロウの
姿があった。ベアラード現在の戦況を報告するとロウは笑いながら葉巻に火をつけた。
ベアラード「カオスブリンガー将軍閣下、脱出船団の封じこめ、任務完了いたしました。今後どの様にいたしま
　　　　　　しょうか。」
ロウ「我等が王ダークファルス様のおられる船に当てなければ良い。こちらもマザーによる情報操作、各空港の
　　　封鎖が終わったところだ。それより・・・ベアラード、ワクワクしてこないかね。」
ベアラード「はい、千年ぶりの人間どもの恐怖は実に美味ですなあ。特に今戦っているレジスタンスの戦艦が破
　　　　　　壊される時の人間の燃え盛る様を見るだけで笑いが止まりません。」
ロウ「ふふふ・・・・くれぐれも熱中しすぎてダークファルス様達のおられる船にあててはならぬぞ。私はこれより
　　　御方様を迎える準備に取りかかる。我等のチェス盤の上でどの駒が我等の黒のキングにたどり着けるか・・・
　　　見物よ。さあまずは白のポーンどもに踊ってもらおう！！」
モニターにまた爆炎に包まれる移民船が映るとロウはさもおかしそうに笑いベアラードもまた口の端を歪めて笑っ
ていた。

パルマ各地の地下シェルターには多くの市民がマザーの指示に従い避難していた。だがそれ以降携帯端末が
通じなくなりさらに先ほどから立て続けにおこる地震は人々の恐怖心をおおいにあおった。孤立した地下空間に
長時間押しこまれると人の精神は冷静さを失う。ここバヤマーレ地区トルヤ第３シェルターでも人々は互いに肩を
ひそめながら事の成り行きを見守っていたた。だが一段と大きな揺れに悲鳴があがり人々の不安と恐怖は耐え
られる限界に達していたのだ。
市民「い、今の揺れは大きかったなあ・・・・」
　　「ね、ねえ本当にここにいて大丈夫なの・・・・・。」
　　「そこの姉ちゃんうるせえぞ！！畜生、せめてマザーからの指示があればなあ・・」
　　「ん！！お、おい通信端末が繋がったぞ！！何だ、緊急ニュースが流れているみたいだが」
シャルター内で小競り合いがおきそうになったちょうどその時誰かの通信端末にノイズ交じりながらニュースが聞
こえてきたのだ。人々はまるで神にすがるかのように自分の携帯端末に耳をあてつけた。
通信端末「・・・・ゲ・・・現在・・・ナウラ地区の市民が暴動を起こしており政府が準備していたシャトルを破壊してい
　　　　　るとの情報が情報管理局に入りました。軍やセキュリティシステムもサイバーテロを受けて関係ない一般
　　　　　市民に危害を加えており機能が復旧しておりません。マザーはこの事態に対し市民の皆様の勇気ある対
　　　　　応を求めています。ご協力お願いします。・・・・繰り返します。現在ナウラ地区の市民が」
携帯端末から流れるニュースはある意味、荒唐無稽な内容であったが人々は極度に高まった不安と恐怖に冷静
さを失ったこの時だれかが悪い・・・・そう決め付ける事で心の安定を図ろうとしていたのだ。
市民「畜生・・・あの泥くさいナウラの下級市民ども・・・やっぱり思っていたとおりレジスタンスと組んでいたんだ！！」
　　「許せない！！マザーの言う通りにしておけば平和に暮らしていられたのにあいつら皆殺しだ！！外へ出るぞ！！」
普段から心の奥で鬱積していた悪意が溢れだし猜疑心の虜となった人々は手にバットや石などの凶器を握り外へ
と掛けあがってく。

通信端末「繰り返します。現在トノア地区の市民が暴動をおこしており」
一方ナウラ地区ではトノアとは逆の内容のニュースが流れていた。
市民「トノアのえらぶッた金持ちどもが聞いて呆れるぜ。あいつらマザーに脱税疑惑とかで何人か捕まったのを未だ
　　　に根にっていやがるんだ。」
　　「自分だけ船で安全な宇宙に逃げようとしているのよ！！あたし達をおいて」
　　「占い端末も今日こそ憎い奴を殺せと言っている。これはマザーが俺達を支持しているんだー！！」
　　「よおし、今こそマザーに俺達の方が役立つことを証明してやる！！武器をとれ、殴り込みだあ！！」
　　「おおー！！」
５００年もの間、人々はマザーブレインという揺りかごの中で徐々に自分で考える能力が退化していったのだろうか
・・・・・。悪意と憎悪に心を支配された人々はマザーの言われるがままに各地で殺し合いを始めたのである。

ＰＭ８：４５
宇宙での戦いは熾烈を極めていた。凄まじい十字砲火が交錯しあい多くの火球が現れては消える。敵の空母が小
型の攻撃ユニットを展開する。バンリーダー、アイレティーア、ジュラファデュエル、ゴルダインなど圧倒的な物量で
迫ってくる。
士官「敵攻撃ユニット展開１時の方向より来ます！！」
ルオン「対空射撃用意！！撃てーーー！！」
四方八方から雲霞の如く襲いかかる機動ユニットを対空砲火で落としている内に空母マリーチャーでは地上に向か
うシャトルの発進準備が行われていた。ルオンはその様子をブジッジで眺めつつ同時に艦隊の指揮を行っていた。
すでに戦闘は一時間を越えている。敵の艦隊は一向にその攻勢を衰えさせない。自身も心の内の不安を抱えなが
らもそれを表情に出さずルオンは声のあらん限りの号令を発した！！
ルオン「マリーチャー艦載機発進前に敵をかく乱させるため攻撃を敵旗艦「ステンノー」に集中させる！！！右舷砲門
　　　　一斉掃射うてぇい！！」
ルオンの号令のもと、マリーチャーを含む主力艦隊の主砲が一斉に火を噴く。モニターに無数の火球が広がり拡散
した。ここが転機とばかりに敵の反撃の余力与えることなく第二射、第三射と連続で斉射する。あまりの連続掃射に
砲身の一部に一時使用不能のマーカーが現れるがこの機を逃せばもうチャンスはないと考えるルオンは号令を続
けて発した。それが功を奏したのか敵の攻勢が一時的に衰える。敵の艦隊に初めてダメージを与えたのだ。
士官「旗艦周囲の護衛艦壊滅を確認、しかし「ステンノー」にダメージは見られません！！」
ルオン「ち、やはりゴルゴン級戦艦の防御力は伊達ではないという事か、だがこれで敵の攻撃に隙が出来たはずだ。
　　　　その間に急速潜行艇部隊をパルマに全機突入させる！！各機の最終チェックを急がせろ！！」
管制官からの報告に舌打ちするルオン。だがすぐに頭を切り替え即座に別の判断を下す。アベルは改めて指揮官
としてルオンの手腕を見なおした。
アベル「ルオン副司令はさすがに戦闘のプロだな。敵の攻撃の緩急を見極めるのが上手と見える。おかげで私は敵
　　　　の最終計画の全貌をほぼ掴むことが出来たよ。」
ルオン「しかし・・・・・本当なのかその推論は・・・」
先ほどその予測を聞いたルオンの疑問にアベルは確信を持って答える。
アベル「うむ・・・これは私とミラー博士の観測と論議の末予測したものだがパルマ星表面の時間流速の急激な加速
　　　　化はバヤマーレで現在おこっている対消滅反応の力場を固定化させ・・・そしてそのエネルギーの一部が現在
　　　　パルマ中心核に送られている。星を内側から徐々に・・・そう徐々に崩壊に導いている・・・・この星の破壊だけ
　　　　なら質量の１００億倍のエネルギーを発する反物質がこぶし大だけあればすぐにでも足りる。なのに何故敵は
　　　　こんな回りくどいやり方をしていると思う？」
ルオン「・・・・・千年前の奴等のやり方は独裁政治による恐怖の蔓延だったが今度もそうなのか？」
アベル「そうとしか考えられないな・・・地球の研究では奴等を構成するＤ因子は生物の恐怖や憎悪に激しく反応し増
　　　　殖する事がわかっていた。敵は・・・魔族は今回の事態によっておきるであろう混乱により生み出される莫大な
　　　　恐怖や憎悪を収穫する事が最大の狙いだろう。・・・・・つまり惑星パルマは恐怖の生産牧場と化してしまったの
　　　　だよ。」
ケン「さらに詳しく説明すると時間がこのまま加速化しつづけるとこのパルマ宙域のエントロピーが極限に高まり物質
　　　は事象的にその姿を保てなくなる・・・・それと等価交換して高まった虚数エネルギーは時空の暴走をさらに加速
　　　させブラックホールを超える時空嵐となり現在張られている結界を壊しアルゴル太陽系・・・いや下手をしたら銀
　　　河系をも飲み込むかもしれない・・・恐るべき未来だ。」
ミラー博士が予測した恐るべき未来にクルー一同は言葉も出なかった。だがルオンは毅然とした表情で力強く答える。
ルオン「・・・・何としても阻止しなければならぬ事態だな、それは」
アベルもルオンの決意に首肯する。
アベル「ああ、もはやアルゴル人と地球人だけの問題じゃない。私達銀河に生きるものが命を賭して阻止しなければ
　　　　ならない。そのためには例え敵が用意した罠でも利用しなければならないだろう・・。」
敵の罠を利用する。言葉で言うのは容易いが失敗すれば確実に脱出船団の敗北が待っている。より完璧にするため
には自分が直接指揮をとるべきだが参謀という立場上それが出来ないもどかしさにアベルは顔を顰め静かに呟くほか
なかった。そんな彼の表情をルオンは黙って見つめていた。アベルの視線がさっきから地上の光球に向いていること
に気づいていたルオンは彼の作戦が対消滅反応を利用した作戦だと悟る。
ルオン「貴殿が何を策しているかはわからない・・・・だが今はどうしても地上にいかねばならぬであろう？」
あえて気がつかぬふりをして助け舟を出すルオン。
アベル「ああ・・・・・しかし今、船団は危機的状態にあるのだ！！参謀である私がこの場を外す訳には」
アベルが慌ててそれを否定するが、ルオンは急に態度を豹変させアベルに罵声をあびせた。
ルオン「いや、今貴様がここですることは何もないとわかったはずだ！！役立たずはここには必要ない！！・・・貴殿は
　　　　とっとと地上に行くがよい！！」
ルオンの態度の急変に一瞬アベルはとまどった。だがその隠された意図を察知するとアベルは慙愧に耐えぬ表情で
頭を下げシャトルのあるドッグへと急いで向かう。
アベル「・・・・・すまない、ではその役立たずは去るとしよう。」
アベルがドアに手をかけようとしたその時、ルオンが強く呼び止める。
ルオン「待て！！役立たず唯１人に行かせて死なれたのでは後で夢見が悪い。この者達を連れていくがいい・・・・・。
　　　　死ぬなよアベル殿」
ドアが向こうから開くとアベルの前には何人かの人影があった。ルオンがアベルの為に用意した頼もしき援軍にアベル
の胸は熱くなる。
アベル「これは！！！・・・・・・ありがとう、礼をいう。ルオン副司令あなたとは今後とも管鮑の交わりの如くつきあいたい
　　　　ものだ。」
そう言い残しアベルは今度こそシャトルへと向かった。後に残ったルオンに対しモニターの向こうのミラー博士は肩を
竦めて苦笑する。
ケン「素直じゃないねえ、君も・・・・」
ミラー博士にからかわれ憮然とした表情になるルオン。
ルオン「からかわないでいただこうか！！・・・・コホン！」
だがすぐに前に向き直ると司令官の表情に戻り未だ苦戦中の前線の艦隊に向け激を飛ばす。
ルオン「同志諸君、今希望の矢は解き放たれた。あとは消滅の運命にあるパルマから一人でも多くの人民を救うため、
　　　　ここを何としても死守するのだ！！全軍攻撃を開始せよ！！」
メインモニターには攻撃ユニットの第二波が映し出されていた。先ほどの二倍もの大軍勢・・・・それでもルオンは気落ち
する事なく指令を下した！！
シャトルに乗り黒い戦艦へと向かうアベルは背後で光る無数の火球を見てルオンの無事を祈らずにはいられなかった。

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