スペースクルーザー ランディール
第28話 生きる為、戦いの開始曲
バヤマーレ時間 ＰＭ １０：００
ガラス張りの扉をくぐり大理石に敷き詰められた床にタイラー達は足を踏み入れた。
アルカディア総本部ビルそこは宮殿と見間違うかの如き壮麗な大伽藍だった。婉曲に
曲がる階段には金糸の刺繍が施された真紅の絨毯が敷かれ天上からは１０ｍを超え
る巨大なシャンデリアが吹き抜け構造の巨大エントランスホールを落ち着いた色彩で
照らす。つい先日までアルカディアグループの社員や来客の往来で賑わっていたであ
ろう。だが今や無人と化したそこからは音が完全に途絶え異様な静寂に包まれていた。
アレス「・・・・・へ、なんでい。しーんとしやがって。」
アレスが不審気に辺りを見まわす。軽口を叩くが無論周囲に対する警戒は怠っていない。
静寂な空間・・・・だがそこは圧倒的な殺意に満ちていたのだ。
タイラー「・・・・静かだな。敵の本拠地にしては・・・・。」
ジョディ「ええ、でも私達・・・・・見られているみたいです。皆さん警戒を怠らないで下さい！！」
周囲の悪意に負けないよう自然と円陣を組むタイラー達。いつ、どこから敵が襲いかか
ってくるかわからない。だが構えていたタイラー達は肩透かしを食らう事になる。突然威
勢のいいファンファーレが鳴り響いたからだ。
アレス「な・・・何だ！！」
殺意溢れる場に不似合いな陽気なファンファーレと空間に浮かび上がった歓迎と書か
れているホログラフィ映像にアレスを始め一同唖然となった。
タイラー達が唖然とする中ホログラフィ映像には受付穣が映し出されファンファーレが
鳴り止むと同時にエントランス内に女性の声でアナウンス放送が響く。
ナレーション「ようこそ、アルゴルの明日を支える総合企業アルカディアグループへ！！
来訪されたお客様にはこれよりパーティ会場へとご案内します。」
テーマパークのコンパニオンの様に明るい声で案内する画面上の受付穣をじっと見つ
めるオハリオ。だが警戒は解いていないらしい。エントランスホールの三方向にある
エレベーターの階層表を窺い声を潜めてタイラー達に注意を促した。
オハリオ「どうやら敵はこちらに新たなルールを提示するようだ。さしずめ第二楽章と
いうところか・・・。」
険しい表情のオハリオとは対称的に画面上の受付穣は薄っぺら笑顔でタイラー達に次の
行動を指示した。
ナレーション「お客様にはそれぞれ二名ずつに分かれ各エレベーターに御搭乗願います。
当ビル最上階にあるパーティ会場に付くまでの１時間、お客様が退屈しない
様、各エレベーターには当方より素晴らしいイベントが用意しておりますので
どうぞお楽しみにしてください。まもなくエレベーターが到着します。」
案内と用件を伝えると受付穣は一礼をしてホログラフィ映像とともに姿を消していく。がらん
としたエントランスホールにエレベーターが下りてくる音だけがやけに大きく響いていた。
階数を示すパネルが段段とエントランスを示す１へとカウントダウンするまでほんの少しの
時間。タイラーは張り詰めた緊張を少しほぐすためあえて肩をすくめてみせる。
タイラー「・・・・だってさ。どうする？」
飄然としたタイラーの声にそれまで重い緊張に包まれていた仲間達の空気が少しだけ軽く
なった。
ミカ「ねえ、アレスお兄ちゃん！イベントだって。何かな？もしかしたらプレゼントがどっさり
あるかも♪。」
タイラーがその場の空気を和らげてくれたおかげで仲間達にも余裕が出来たらしい。ミカ
が少女らしくはしゃいでみせる。
アレス「んな訳あるか！！罠に決っているだろう！！」
ミカ「もう、そんなに怒鳴ることないじゃない。あたしだって罠だってわかっているもん」
そんなミカとアレスの掛け合いに苦笑しながら、余裕を取り戻したアイナとオハリオは静
かに推論をを伝えた。
オハリオ「罠か・・・エレベータを使わず階段を使うという手もあるが、おそらく各階毎に魔
族達が配置してあるはずだ。時間が限られている今それは得策ではないだろう。」
アイナ「それに敵が仮にいないとしても１３００ｍのビルの階段を急いで登るだけでも体力を
使うはずです。最強の邪神天王達との戦いがどうせ待っているのならエレベーターに
乗った方がいいでしょうね。」
タイラー「俺もそう思う・・・・やれやれアベルの言葉を借りるとしたら俺達は俎上の魚という
訳だ。どうやらエレベーターに乗るしか手がないか。」
待ちうけている魔族達が見えているかのように上を見上げるアイナとオハリオ。軍隊やいま
までの戦いでの経験上二人の意見は正しいとタイラーの直感も告げていた。互いの意見を
確認し頷きあう三人。その間にどうやらエレベーターが１階に到着したらしい。待ちかねたか
のかアレスが勇み足でエントランスホールの右側に駆け出す。
アレス「そうと決ったらぐずぐずしてんじゃねえ！！俺とミカは右のエレベーターに行くぜ！！」
ミカ「あ、待ってよ！！アレスお兄ちゃん！！」
ミカが慌ててアレスの後を追う。勇み足でズカズカと進むアレスとその後を子猫のように可愛
らしく追うミカ。対照的な姿ではあるが互いを思う気持ちはタイラーやオハリオが見ても感じ取
れた。そしてオハリオにはアイナが、タイラーにはジョディが側にいる。ただそれだけで胸が熱
くなり、不安が消えていく。
オハリオ「僕とアイナは正面に向かう。」
タイラー「だとしたら、俺とジョディは残る左だな・・・・」
ジョディ「アイナさん達やアレス達も気をつけて！！何かあったら私が皆さんにテレパシーで
仲介しますから！！」
アイナ「ジョディさんありがとう！！互いの御武運を祈っています。」
三つの巨大な金色のエレベーターのドアの前に立つ六人・・・・。もしかしたらこれが今生の別
れとなるかもしれないその状況の中それでも六人とも互いに笑顔で仲間を見つめる。
タイラー「みんな、必ず最上階で落ち合おう！！１時間後このメンバーが全員揃っている事を
俺は堅く信じている・・・・・よし行くぞ！！」
全員「おう！！」
地獄へのドアがゆっくりと開く。
それでもタイラー達は胸に湧き上がる熱い思いを勇気に変えて力強く一歩を踏み出した！！
同時刻
外の激戦はいまだ続いていた。
巨大な死神の如き鎌を持つアンドロイドに寄生融合した魔族イル・ギルと片手その物が長剣
と化したデルセイバーがレジスタンスの命を刈り取ろうとジャンプしながら襲いかかる。その
血塗られた刃が既に数名の犠牲者が出ていたことを物語っていた。新たな犠牲者を求め飛
び掛る剣士魔族に対し老齢でありながらも闘士としての気概を忘れない、ルセロのミサイル
パッドから豪快に無数の誘導ミサイルが放たれた！！
デルセイバーは左手の盾でミサイルをかわそうとするがミサイルは複雑な動きを見せながら
敵を攪乱しついに１箇所に追い詰め次々と命中してゆく。豪快な爆裂音と共にデルセイバー
達は粉みじんに吹き飛んだ。
ルセロ「うしゃあー！！爆発と喧嘩は男の花道だぜ！！」
その一方でスタージェーンは亜空間からもぐら叩きのように現れては消える魔獣アウタービー
ストに苦戦していた。
スタージェーン「ああ、もう消えたり現れたりまだるこっしいたらありゃしないね！！」
苦労を知ってか知らずかルセロが背中越しに軽い口調で語り掛けてきた。
ルセロ「よう、天空の猛禽とのあだ名を持つあんたがえれえ苦戦しているじゃねえか？なんなら
俺が手え貸そうか？救助代として５万メセタで・・・」
スタージェーン「大きなお世話だよ！！」
ルセロに金を請求され無愛想に応じるスタージェーン。ただでさえ借金で頭と懐が痛いのに
これ以上額が増やされては堪らない。一方のルセロはスタージェーンの台所事情など知る由
もなく腹立たしげに答える彼女に肩をすくめた。もちろんこんな他愛もない会話が行われてい
る間にも魔族はひっきりなしに襲いかかってくる。
ルセロ「け、心配して損したな。それよりマフィアの野郎どもどこへ行きやがった。まさかぶるっ
て逃げ出したんじゃねえだろうな・・・。」
先程より魔族の攻勢がこちらに多く向かっている頃になってようやく荒くれ者のマフィア達が戦
場に居ない事に気がつき眉をひそめ毒気づく。そんなルセロにスタージェーンは小さく嘆息すると
スタージェーン「はん、意外と肝っ玉の小さいトニーGならともかく！あたしの親分が敵を目の前
に逃げるなんてありえないねえ！！それともなにかい？うちの親分の助けがないと
ぶるってなにも出来ないのかい。」
ルセロににじり寄り皮肉を込めた言葉をマシンガンのように立て続けに言い放った後、ふっと吐
息し小ばかにした表情を浮かべた。ころころと態度を変えつつそれでもしっかり襲いかかる敵を
鞭で打ち払うスタージェーンに呆れていいんだか感心していいんだか・・・・・。ルセロはぼやきな
がら競うようにミサイルパッドの標準を迫り来る魔族の部隊に向けた。
ルセロ「け、まさか、俺達だけでもここにいる化け物を後１時間で掃討してやるから見とけよ！」
スタージェーン「そうさせてもらうよ！！・・・・・後ろ！！」
その時、鞭がうねりを上げルセロの顔の横を通りすぎた。
バシィ！！
ハッとなって後ろを振り向くとそこにアウタービーストが空間転移して重力攻撃ギグラフトをルセロ
に向け放とうとしていたのだ。もしスタージェーンが鞭で敵を打ち付けなければルセロは押し潰さ
れていた事だろう。ほっと息をつくルセロにスタージェーンがにこにこと笑顔で手を差し出す。
スタージェーン「二ヒヒ、はい、救助手当てとして後であたしの口座に７万メセタ、OK？」
さっきのし返しとばかりに救助手当てを請求する（しかも額が２万メセタ上乗せ）スタージェーンに
やれやれっと首を振り思いっきり嫌そうにルセロは言った。
ルセロ「あ〜あこれだからがめつい女は嫌いだぜ！損害分は化け物どもの命で穴埋めすると
すっか！！」
お互いのあつかましさに辟易してわめきながら魔族との戦いに再び繰り出すルセロとスタージェーン。
だがわめきながらも二人の息の合った連携攻撃やその他大勢の奮闘により雲霞のごとくいた魔族
の軍勢もようやく限りが見えてきたようだ。戦いが始まり既に二時間・・・・。徐々にではあるが勝敗の
流れが魔族から人間の側に移りつつあった。
同じ頃、マフィア達はどこへ行ったのか？ルセロの言う通り逃げ出したのか？いや、彼らは別の戦
場にいた。人と人が互いに責任や怒りをなすりつけ傷つけあう戦場に・・・・。
トニーＧ「てめえら、やめねえか！！」
トニーＧが顔を蛸のように真っ赤にしながらどすの利いた声で無益な争いを静止しようとするがメデ
ィアコントロールにより冷静な判断力を無くしていた群集には効果がなかった。
マフィア「ボ、ボス駄目ですぜ、ここにいる奴ら堅気もんのくせに俺達より殺気づいていやがりますぜ。」
トニーG「馬鹿が、てめえらなめられてんじゃねえ！！いいかここにいる奴らは1人に付き１００メセタ
の鴨だと思えや！！将来の金蔓を1人足りともあの世に逃がしてたまるもんかよ」
苛立ちと不安が頂点に達した群衆をいかにして止めるか。無論トニーGにとってそれは義侠心から
ではなくただ金蔓を減らしたくないという魂胆からくるものではあるが普段は金儲け以外使わない頭
をひねりながら模索する。その時暴徒が相手方に投げつけようとして外れたのだろうか・・・・拳ほど
の石がトニーにガツンと直撃した。幸いにして瘤ができたぐらいで済んだがトニーGは怒髪が天を突
き鬼のような形相で近くにいた暴徒の胸倉をつかんだ。
トニーG「てめえらいい加減にしねえとぶっ殺すぞこらあ！！」
だがトニーがいくら1人1人に凄んだところでこの争いが終わるわけもなくどうにも手の打ち様が見つ
からずにいた時トニーGの横から眼帯をつけた片目の初老の男が声をかけてきた。
ドン・オセロ「・・・ようかなり、苦労しているようだな。トニーGの」
トニーG「オセロ・・・てめえみたいな老いぼれは引っ込んでおくんだな。」
普段からオセロの事が何かと癪に障るトニーGは低い声で毒づいた。だがそんなトニーGの悪態など
さらりと無視してみせるオセロ。
ドン・オセロ「ふ、まあここはこのオセロのじじいに任しちゃあくれねえかい？悪い様にはしないさ」
トニーG「け、じゃあお手並みでも拝見しようかあ、ええ！！」
オセロの悠然とした貫禄にさしものトニーGも不承不承見守ることした。暴徒達の争いで殺気立つ
その場に悠然と近づくオセロ。彼はトレンチコートから銃を取り出すと、上に銃口を向けた。
一発の銃声が轟いた。空に光の軌跡を引いたその弾丸は30m行った所で猛烈な閃光となって周
囲を照らす。
市民「ま、眩しい」
「な、何なんだよ、この光は！！」
あまりにも猛烈な光にその場にいた全ての人間が目を覆い手にした武器を放した。数秒後、光が薄
らぐと暴動であれだけ殺気づいていた現場は奇妙な静寂に包まれた。その静寂をゆっくりと散策する
ように群集に向かい歩いていくオセロ。
オセロ「ふう、見苦しいじゃないかね、君達・・・・少しは足元でも見て落ち着いたらどうだな・・・。」
その静かなる表情にはそれでいてどこか人を威圧する気を漂わしている。群集はその気に一度は
飲まれるがそれでも何人かがオセロに食って掛かる。
市民「ま・・・マフィアが何の用だ！！」
「そ・・・・そうだ！この星がもうすぐ消えちまうかもしれないって時によお」
「そもそも情報端末が流すニュースじゃあ、こんな事をおこした反マザーブレイン組織とグルだ
っていうじゃない！！」
「何そうなのか！！こいつらも！！おい、ぶっ殺そうぜ！！」
数人が先だって糾弾すると、それに合わせて群集も声を荒げ始めた。オセロは数多の罵声を耳に
して静かに告げた。
オセロ「・・・・ほう、この私を殺そうというのかね・・・。いいだろう。かかってくるがいい。」
トニーG「お、おい金蔓を殺す気か！！」
トニーGが何をするか気づき慌てて止めようとするが・・・・・
パンパンパン！！
数発の銃声が鳴り響き一瞬その場が混乱に陥る。
市民「う、うわあ」
と混乱に陥った群集が全て鋭い視線を感じ視線の先を呆然と見つめた。眼帯の反対にある瞳
には鋭い眼光が湛えられていた。それは様様な修羅場を潜り抜けた者だけが持つ冷たい輝き
だった。
オセロ「どうした。私はたった1人だ。攻撃したらどうかね・・・・但し、君達が私を殺す前に・・・・
私は百人を殺しているだろうが・・・そして私が死ねば私の組の者が確実にここにいる君
達を皆殺しにするだろうさ。」
この男は本気だ・・・・瞬時にそれを悟り萎縮する市民達。
市民「う・・・うう・・・・」
震えあがりそれまでの狂騒とした雰囲気は冷水を浴びせられたように静まった。おどおどと自分
を見つめる群集にゆっくりと重い足取りで近づいてくるオセロ。タバコに火をつけて悠然と口に
はさみ市民達を眺めながら歩いた。
オセロ「まあ、そう構えてみることもないだろう。ところで君達はどのようにして戦い始めたのかね
・・・。」
オセロの静かなそれでいて冷たい口調に市民の何人かが言訳をする。
市民「な・・・そりゃあ携帯端末でトノアの奴等が暴動を起こしているって」
「はあ？暴動を起こしているのはナルアてめえ達の方じゃねえのか？ふざけんな！！。」
「やるか！！」
まだ完全にメディアコントロールが解けていないのか。再び殺気立つ数名の足元の近くにパン
パン！！と再び銃を撃ちこむオセロ。
オセロ「・・・ふう、とどのつまり、てめえ達はマザーの言うがままに未確認情報に躍らされていた
訳だな・・・・全く情けないな。」
市民「で、でも、マザーブレインがそう言っているんだから・・・・・それが正しいのよ」
オセロ「自分で判断できる良心もなくしちまったのかな。君達は・・・そんな偽りの情報で人を殺し
てその血で汚された手でてめえの子供を触れるのかい・・・・・。私は君達の胸の奥にある
ものが私を含めたマフィアより汚れちまっているとは思いたくないがね・・・・・。」
市民達「・・・・・。」
オセロに痛いところを尽かれようやく市民達はメディアコントロールから解かれたらしい。手にした
携帯端末や武器を自ら捨てる市民達の姿を見てようやく笑顔をみせたオセロは銃をしまい指を鳴
らした。
オセロ「・・・・さあそんなしけた面はこっちも見たくないのでな、これでも食うがいいさ。」
それを合図に輸送車が数台止まると共にハッチが開き、中からおいしい匂いが漂ってきた。暴徒と
化していた親の姿を建物の中で泣きながら見つめていた子供達がそのおいしい匂いに我慢できず
歓声をあげて車の前に飛び出した。
子供達「うわああいご飯だ！！」
市民「ぼ、坊や達の事・・・・すっかり忘れていたわ。」
「そういやあもう五時間も何も食っていないよな。」
「でも脱出シャトルはどうするだ？星が消えちまうかも知れないのにいまさらご飯もなにも」
遠巻きにみつめている市民達も子供達が嬉しそうにご飯をほお張る姿を見てようやく平静を取り戻
すが空では未だにレジスタンスと政府第一機動艦隊との艦隊戦が続いている中正直ご飯が喉を通
る状況ではなかった。そこにトニーGが腹黒い笑みを浮かべて歩いてきた。
トニーG「それならここにちゃんと用意してあるぜ・・・・へへへ」
そう言ってトニーGが手にした端末のボタンを押すと街の各地に隠されていた小型のシャトルや転送
装置が急にその姿を顕わした。これはミラー博士の発明であるステルスホログラフィック装置「消え
ちゃう君」で装置が放つステルス波動とホログラフィックにより完全に周囲の風景となじませ敵に発見
されるのを今まで防いでいたのだ。驚愕の眼差しで見つめる市民達に何時の間にかコックの姿に扮
したオセロが美味しいそうな料理と共に明るい掛け声をかけた。
オセロ「さあ、まだまだ時間はたっぷりある！！脱出計画は私達が命を賭けてやるから、まずは飯
でも食べて気分を落ち着けようじゃないか。」
オセロの落ち着いた朗々とした声に人々はようやく安心した様だ。オセロ組の若衆が市民達にを班
分けしそれぞれ分担した仕事を与える。先ほどまで傷つけあっていた者が互いに手を取り負傷者を
治療し、転送装置に老人や子供達を順序良く並べ、送り出す。人々の間に五百年間忘れていた生
きることへの希望が沸き始めていた。
それらを支えるのは暖かいご飯の香りだった。極度のストレスは食べることにより緩和されることが
ある事をオセロは知っていたのだ。自ら腕を奮い料理を作るそんなオセロに、脂ぎった怖い顔でドカ
ドカと歩いてくるトニーG。
トニーG「おい、ところでてめえ、この食材の出所はまさか！！」
オセロ「なにカリカリしている・・・・君も飯を食うかね。ほらハルテポ風スパゲッティだ。これでも若い
頃はコックとして腕を鳴らしたもんさ・・・・。」
ドスの利いた声で執拗に聞いてくるトニーに唐突に出来たてほやほやのスパゲテッィを差し出すオセロ。
トニーG「おう・・・・こりゃあうめえな・・・・じゃなく！！てめえ俺から借りた借金５６億メセタ・・・・・！！。」
極上の香りと旨みに思わず口にしてしまうトニーGだがはっと我に返りオセロを睨み付け借用書を手
に問い詰めた。
オセロ「ああ・・・・食材にほとんど消えたが。ここ数ヶ月１０億のパルマ人を養うためにはこれでも足
りないぐらいだ。」
凄みのある顔で迫るトニーGにオセロはにべもなく答える。
トニーG「てめえは今返せ！！すぐ返せ！！雁首そろえて返しやがれ！！」
あまりにあっけらかんとしたオセロの回答に血管がブチブチと切れるような音がしてトニーGが怒りの
あまりまじで蛸に見えるほど真っ赤になりながら迫ってきた。
オセロ「わーった。わかった。私が所有する・・・隠し金山にレアメタルの鉱床教えてやろう。」
あまりの剣幕にさすがに汗を掻くオセロは口約束で何とかトニーGの機嫌を静めた。
トニーG「後で確実に教えてもらうからな！！・・・・・・・・・それよりなんでそんな物があるのに俺から
借金したんだ。」
オセロから口約束を貰い己の体面を保てたトニーGではあったがふと疑問に思った。いままでもこの
様な交渉はざらにあり、オセロにはその度にはぐらかされたり鋭い眼光で居抜かれこちらが萎縮して
しまったりと散々な目にあってきたからだ。それが今回の様に素直に負けを認めるとそっちのほうが
余計気持ち悪かった。
オセロ「さあ・・・・自分を追い詰めるためだろうか・・・・・・・ふ、こんな馬鹿な組長なら可愛い部下達も
俺に愛想つかして逃げていくだろうさ・・・・なあメルヴィル・・・」
オセロはそう言って寂しく微笑むとコートの中から写真を一枚取り出した。写真には1人のマフィアの
若頭が映っていた。どこかで見覚えのある写真と名前にトニーは記憶からその人物を手繰り寄せ思
い出した。
メルヴィル・・・・・・オセロファミリーのモタビアでの権益を取り仕切る若頭の筆頭でオセロからリューム
市の顔役を任されていた。オセロが自分の跡目を継がせたいと思っていた人物だった。だがその彼は
三年前にマザーの施設に侵入しその時のセキュリティシステムとの戦闘が元で命を落としたのだ。メル
ヴィルの葬儀の時のオセロの消沈した姿を思い出し、さしものトニーGもばつがわるそうに追求をやめる。
トニーG「それは三年前に死んだてめえの一番頭か・・・なるほど敵討ちって奴かい・・・・・・。」
オセロ「ああ・・・・あいつには期待をかけていたんだ。だがセキュリティシステムに無残に殺されちまった
んだ。もうすぐ結婚式を控えていたっていうのに・・・・この馬鹿が」
口では悪く言うもののそこには自分の全てを受け継いでくれる男を失った老人の哀愁が漂っていた。
見るに見かねてトニーGがそれとなく励ました。
トニーG「・・・・・・・まあ敵討ちもいいが。その前に借金必ず返せよ！死んで踏み倒そうなんて考えるん
じゃねえからな！！じゃあ俺は他の場所に行ってくるかな」
そう言うとトニーGは転送装置で次の暴動が起こっている場所に向かった。どう聞いても悪態にしか聞
こえない拙い励ましだがオセロにはそれで十分だったようだ。
オセロ「わかった・・・・さあみんな、飯を食った奴から先にシャトルに乗ろう。但し落ち着いて順番通り
行動してもらおう。時間とシャトルはまだまだ余裕があるぞ！！」
オセロはメルヴィルの写真を胸にしまうと組の若衆に次の指示を下すため再び立ちあがった。
それぞれが生き残るために戦いを始めていた。
激動の一日が終わるまで残り一時間五十分・・・・。
第２８話 -終-
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