スペースクルーザー ランディール
第30話 逆襲の悲壮曲
バヤマーレ時間ＰＭ１０：４１分
パルマ上層宙域におけるアルカディア第２機動艦隊と脱出船団護衛艦隊との戦争は
最大の局面を迎えていた。
主砲のレーザーやミサイル群が数百筋もの光を伴い乱舞する戦場の中をルオンが
指揮する護衛艦隊「湖の騎士団」は劣勢であるにもかかわらずよく持ちこたえていた。
だが敵は圧倒的な物量と猛烈な攻撃で尚も脱出船団を追いたてる。次々と空母から
展開される攻撃ユニットがまるで大型魚に集団で襲いかかる小型肉食魚の様に味方
の艦艇を陵辱していった。
士官「敵艦多数前進してきます！！」
ルオン「・・・・・・」
護衛艦隊が攻撃ユニット掃討に気を取られているうちに戦艦五隻を筆頭とした敵の前
衛が護衛艦隊を分断しようと切りこんでいく。まるで巨大な楔を打ちこむが如く。
それを援護する様に数百の光の筋と攻撃ユニットの増援が送り込まれてきた。敵主砲
の光の筋が艦橋を明るく染める中、ルオンは画面で味方の苦境を見ながら深く考え込
んでいる。前後して両手に爪を生やした最強の格闘攻撃ユニット、ゴルダインがその爪
の狙いを旗艦マリーチャーに向けてきた。
士官「敵、第４波来ます！！」
「左舷前方にゴルダイン３４機接近」
緊迫に包まれたマリーチャー艦橋・・・幽鬼の様に上、下、右、左と四方から迫るゴルダ
インの姿にオペレーター達が押し黙るように低く報告を告げた。
ルオン「回避行動パターンα６５に設定せよ！」
対するルオンは恐れる事無く明快な声で的確な指示を下した。指示に従い艦首を急速
に回頭させさらに近接防御の自動砲で敵を迎撃する。そのレーザーが何機かのゴルダ
インを打ち落とすが残骸を乗り越え尚も執拗に迫ってくる。ついにその内の一機がマリ
ーチャーの速度に追いつき船体装甲板に致命的な傷をつけた。衝撃が艦橋を襲い、オ
ペレーター達が悲鳴のような報告をあげる中指揮席から立ちあがっていたルオンは横
に倒れ掛かった。
士官「駄目です！間に合いません！！マリーチャー右舷装甲板損傷！第三十九区画に
破孔確認！！」
直ちに近くの自動砲が火を噴き残るゴルダインを掃討する。だが傷つけられた装甲から
空気と共に内部の備品が宇宙に放り出されるのを見てルオンはよろよろになって立ちつ
つ部下の安否を確認する。
ルオン「その場にいた乗務員は無事か！！」
士官「第三十九区画にいた乗務員は既に安全区域まで退避しています！！」
情報士官から部下の安否を確認するとそれが当然であるかのごとく平然と次の命令を
下す。部下を信頼しているからこそ彼は心配をする事なく戦況を冷静に俯瞰する事が
できた。
ルオン「よし、それぐらい我が部下なら当然の判断だな！！隣接区画の乗務員も直ちに
連絡艇や戦闘機に乗りこみ作戦コード１０４で退避するよう指示を伝えろ！！以後その区
画を切り離し敵に向け爆破させる」
士官「了解！！」
ルオンの悠然とした指示に従い連絡艇が戦闘機に護衛されながらその区画をたつと傷
跡に群がる様に攻撃ユニット第４陣が殺到する。逃走コースを取る連絡艇群は俊敏に
攻撃ユニットを攪乱しながらまるで魚の大群を撒き餌で網に追い込むように集結させる。
無人となった区画に磁場に遮断され安定した反物質や大量の爆薬が転送されると惜しげ
なくルオンはその区画を切り離した。切り離された区画の方に追いこまれたかに見える連
絡艇群は即座にその場から緊急離脱を開始した。咄嗟の行動に対応できない攻撃ユニッ
トのプログラム。緊急離脱した理由はすぐに明らかとなった。分離した区画が集結した敵ユ
ニット群を巻きこみその場から転送したのだ。転送された場所は前進してくる第二機動艦
隊の前衛部隊。直後に分離された区画が爆破、火球が無数に現れ敵の前衛艦隊が粉砕
されていく。それまで統一されていた第二艦隊の艦列が乱れ始めていた。
士官「敵第４波爆破の影響により混乱がおきています。」
普通ならここで反撃に転じるのが戦術の常道であろう。だがルオンは脱出船団にある方向
に後退を命じた。
ルオン「この機を逃すな！！後方２７０に脱出船団並びに全艦隊を下がらせろ！！」
参謀「しかし・・・・・今なら反撃が可能なのでは？」
意図を図りかねた参謀がルオンに尋ねると、彼は静かに答えた。
ルオン「確かに以前の私ならそう判断しただろうな。しかし敵をだます事こそ味方の最終
的な勝利に繋がるのであれば私はあえてそれを行おう！！防衛線として残された脱出船
の中で完全に損壊した区画の反応炉を暴走状態にして爆雷として使うがよい！！」
命令を聞いた参謀が己の聴覚を疑い再び尋ねる。
参謀「は？・・・・・は、はい」
その命令を不思議に思いながらも参謀たちは直ちに履行した。損傷した区画を切り離した
身軽になった脱出船はその場から急いで撤退する。後を追う第二機動艦隊に切り離された
無人の区画が直径２０ｋｍの爆雷と化し追撃の勢いを削ぐ。
だが敵も馬鹿ではないようだ。艦列を分散もしくは集結させ巨大な魚のように陣形を変え
ながら爆発の影響を最小限に食い止めていた。敵の鮮やかな戦術を見ながらそれでも
ルオンは焦ってはいなかった。少しの誤差はあるもののアベルの読み通りに戦局は動い
ていたのだ。そう、ルオンが指揮した今回の巧みな用法は皆アベルに教えられたものだった。
ルオンは巧妙をきわめるアベルの戦術に内心感嘆しながら、指定された最終ポイントを画
面で確認しつつ次の作戦に向け部下に指示を飛ばした。
ルオン「それとアリサ３世にいるミラー博士に連絡するのだ・・・約束の時間に間に合わせる
ようにとな！！アベル殿、貴様の策、私は信じているぞ！！」
脱出船アリサ３世の南東のドームの海上には巨大な空中都市が浮かんでいた。この空中
都市ラシュートはアルゴルの神を祭る神殿を中心とする祭祀都市として脱出船団の中でも
最も清浄なる雰囲気に包まれた都市であった。
今ケン・ミラー博士はその大聖堂にいた。聖域の中枢に様々な機器を運び込み技術者達と
機器の調整をする一方で神官やわざわざデゾリスが来てくれたエスパー達にこれからの作
戦を打ち合わせするなど彼のスケジュールは多忙を極めていた。ルオンからの連絡を受け
たミラー博士は頭をかいて苦笑する。
ミラー「やれやれ・・・ルオン司令官はせっかちだな。僕はこう見えてもプロフェッショナルなん
だよ・・・・既に準備は出来ているさ・・・・唯、問題なのはエスパー達のテレパスであ
の衛星群に使われている人達の心が開けるかどうかなんだが・・・・・・」
大聖堂に運ばれた機器はエスパーのテレパシー能力を増幅させるものだった。現在パル
マを覆っている時間加速化を伴う恒星クラスのエネルギーフィールドは、６０００機の人工
衛星に内蔵されたゲーベルト・シュターケン・サーキットにより発生した力場だ。その原動
力となっている物は装置に使用された人間の大脳皮質。即ち人間の精神エネルギーだった。
アルカディアの制御システムから彼らを開放させる事ができれば時間加速化という歪で不
安定な事象を停止させなおかつ、惑星パルマが崩壊する前に全員を助け出すことも可能
となる。だがそれは困難を極めた。
制御システムの方はミラー博士達がハッキングをかけ犠牲者の大脳とのリンクを遮断す
ればいい。しかし、アルカディアによる人体実験と洗脳による恐怖で心を閉ざしている犠
牲者の意識を目覚めさせる事はスピリチュアル（精神的）な特性に精通したエスパーとい
えど容易にはいかない。まして超能力のない自分には・・・焦りと九時間以上に及ぶ極度
の緊張の連続にさすがのミラー博士も疲労を感じていた。そこに兄を気遣い、心配そうな
表情を浮かべるライラが歩いてきた。
ライラ「兄さん頑張っているわね・・・・その事で兄さんに会いたいって人がいるんだけど・・・・」
彼女はどこか戸惑っているようにも見える。怪訝そうにライラを見るミラー博士。
ミラー「会いたい人？ここは関係者以外立ち入り禁止のはずだが・・・」
その理由はすぐに明らかになった。後ろのドアが開き子供達がミラー博士に駆け寄って
きたのだ。アイナとオハリオが親代わりになっている子供達。ミラー博士は子供達と昔か
ら付き合いがあった。
アレク「ミラーおじさん、俺達にもお父さん達と話してもいいですか！！」
ミラー「アレク公子！？それにグラント公子にシンシア公女様も・・・・」
グラント「あの衛星の中に僕達の父上や母上の・・・・・脳が使われているんですよね・・・
なら僕達がお願いすればきっと上手くいくはずです！！」
残酷な真実を知り泣きはらしたのだろう。子供達の顔は涙でくしゃくしゃになっていた。
ミラー「・・・・・・・確かに・・・・・・だが、いいのかい」
子供達が言うように肉親が話しかけてくれればそれがきっかけとなって意識が目覚める
かもしれない。だがそれは親子の情を利用することになる。ミラー博士にそれはためら
われた。
それでも子供達の決意は変わらないようだ。ラッピーのぬいぐるみを握り締め小刻みに
震えながらも少女は気丈に涙を拭い答える。
シンシア「・・・・真実を知ったときは悲しかったよ、でも私達だってシークの血に連なる者
として頑張らなくちゃ本当のお父様達に怒られるから・・・・・だから！！お願い
します」
子供達の決意を知ったミラー博士はついに観念して子供達をエスパー達が座る席へと
案内した。
ミラー「わかった・・・・ならそこに座ってマウントディスプレイを装着しなさい。」
ライラ「・・・・・みんな強い心を持っているんだね。みんな頑張ろうね！！」
アレク達の勇気ある行動に感極まったライラが彼等を胸に引き寄せ優しく抱いた。・・・
ライラはアンドロイドだがその胸の温もりは子供達にアイナや今は亡き母親を思い起こ
させるものだった。
アレク「・・・・暖かい、まるでお母ちゃんに抱かれているみたいだ・・・・・・・ライラお姉ちゃん、
ありがとう、俺達勇気が出てきたよ！！」
ライラから暖かな優しさを受け取った子供達が技術士官の指示に従いマウントディスプ
レイを装着しながら席に座る。ミラー博士はそれをただ見つめることしかできない。やる
せない思いにかられ独語するミラー博士。
ミラー「・・・・・ライラこういう時僕はつくづく思い知らされるよ・・・・科学とは時になんと残
酷なことをさせるのかという事を・・・・。」
気落ちする彼にライラは声を大きくして諭した。
ライラ「兄さんそれは違うわ！あの子達は間違った科学の使い方に優しく勇気ある心で
立ち向かおうとしているのよ！！心が科学と共にある限り・・・・科学は人に幸福
を運んでくれるはずよ」
例え血は繋がっていなくても兄を諭し懸命に想うライラにミラー博士は胸が熱くなった。最
初は好奇心とほんの少しの寂しさから造った機械の少女。それが今や自分の中でこれほ
ど大きく大切に感じられる。今更ながら実感したミラー博士は再び陽気に腕まくりしながら
作業にとりかかった。
ミラー「そうだな・・・・おまえは科学の娘だという事を私は再認識させられたよ・・・・・よしこ
のミラー、天才的な実力を発揮する時が来た！！ハル君！！そっちはどうだい！！」
アルカディア総本部の地下５５ｍ
薄ぐらい地下通路。ケーブルを中継するハブが壁面に蜘蛛の巣の様に設置されている。
ハルはパワードスーツ「グレートダロス」を装着してその内の一つからマザーの指令分配
中枢にアクセスを試みていた。
ハル「ミラー博士、今地下でマザーブレインの指令分配中枢を発見しアクセスを試みて
いるところです。これより衛星との回線の遮断を試みますのでサポートをお願いし
ます。」
ミラー博士からの通信を受け取ったハルは元気よく返事を返した。
ミラー「よしわかった。情報は全てこのラシュートエリア神殿区域に暗号コードで回してくれ、
全てとはいかないが”闇”に汚染されたデータをここで浄化し君の元に新たなるプロ
グラムと共に再転送する。」
ハル「わかりました。」
ミラー「ところでそちらでの魔族の妨害はあっているのだろうね・・・・」
ここはアルカディア総本部の真下、当然魔族が要所要所に配置されていた。ミラー博士
から指摘されるまでもなく既にグレートダロスには幾筋もの深くえぐれた爪痕が残されて
いた。ハルは少しの間目を伏せる。
ハル「・・・・は、はい、でも今のところウォーレンが全て撃退しています。だから安心して
作業出来るんです」
ミラー「そうか・・・・くれぐれも無茶をしてはいけないよ。君にはまだ教えないといけない知
識が山のようにあるからね。」
ハル「はい！！」
ミラー博士は全てを察して尚、普段と変わらぬ陽気な口調でハルに語りかける。ハルには
その中に込められた博士の優しさがとてもありがたかった。
ミラー博士との通信が終わり再び地下通路は静かな静寂に包まれた。グレートダロスと
ウォーレンの照明以外何も見えぬ暗き底で・・・・
ハル「・・・・・なんて虚勢を張ってみたもの、ここもいつ魔族の増援が来るか分からないし
・・・・でもここでひるんだら駄目だよね。僕の腕に脱出船団の全てがかかっている
んだから」
湧き上がる不安を何とか押さえ込み再びハブへのアクセスに取りかかった。その時ウォ
ーレンが手にしたナパームショットを掲げハルに警告する。
ウォーレン「前方５０ｍに魔族の反応を確認。攻撃モードに移行します。」
ウォーレンの警告の通り通路の奥からねとねととした足取りでトカゲの様に醜悪なイエロ
ードラゴンやヨチヨチとした足取りのＤ因子に侵された鳥、デルラッピーが不気味に迫って
くる。
目の前に迫る恐怖にウォーレンは自らも満身創痍であるにも関わらずナパームショットで
立ち向かっていく。 それを横目で見ながらハルはハブに接続端子を繋ぐと凄い勢いで回
線を切断、システムの再構築などを１人で行っていく。だが己の中から湧き上がる焦りと
恐怖で手がすくむ。震えた自らの手を叱咤激励し、再び書き換え作業に挑むハル。
ハル「ウォーレン、頼んだよ・・・・・よしここからが正念場だ・・・・・・僕の腕・・・・震えないで
くれ、例え造られた手であっても僕はこの腕に誇りをもっているんだから・・・・・・腕の
震えだけじゃない！？これは」
最初は手が震えているだけに見えたハルの視覚がコックピット全体の揺れを感じ戸惑った。
揺れは天井の方から次第に大きく響いてくる。そして天井の壁に亀裂が走ると、次の瞬間
身体を機械化された巨大なモグラ型改造バイオモンスター、ドリルモールがグレートダロス
に覆い被さってきたのだ。土煙の中に消える二つの影を見て、ウォーレンは我を忘れて駆
け寄った。
ウォーレン「マ、マスター！！」
その時だった。幾筋かの小さな影が小刻みに動き巨大な影と戦っている様子がウォーレン
の視覚素子に映し出された。マスターが戦っている？そんな疑問が頭に浮かぶが、影のス
ピードはマスターの運動能力を遥かに超える俊敏さがあった。やがて巨大な影は断末魔の
怒号と共に倒れそのまま動かなくなった。土煙がようやく晴れるとウォーレンの視覚にはマ
スター以外の数人のフードをかぶった人達の姿を確認された。マスターの危機を感じ武器
を手に表情を険しくするウォーレン。
？？？「落ち着いてくれ、君のご主人は無事だ」
だがフードの男達のリーダーと思われる男の飄然とした声とマスターの無事を確認すると
ようやくウォーレンは警戒体制を解いた。
ハル「助けてくれてありがとうございます。・・・・でもあなたは？」
ハルは唐突に現れたフードの男達に戸惑いながらも感謝した。
ハック「オレの名はハック・・・・あんたの仲間のアレスと昔縁のあった者だ。」
ハルの戸惑いを察してか飄々とした声で自己紹介をするハックは自らのフードを取った。
見たところ普通のパルマ人の青年だが身に纏っていたフードはモタビアン独特の衣装。
それが証拠に彼の脇を固めているのはアレスと同じモタビアンだ。そして何よりもハルを
驚かせたのは彼がアレスと昔、面識があったという事だった。
ハル「は、はあ・・・・でもあなたはどう見てもパルマ人ですよね」
モタビアンとパルマ人は昔ほどではないが今でも誤解と軋轢が歴然として存在していた。
リベラルなレジスタンス内でもモタビアンやデゾリアンの民族衣装を普段から着るパルマ
人はおそらくいないであろう。（それはモタビアン達も同様だ。）ハルが抱く疑問にハック
は少し寂しそうな笑顔で自分の過去を語った。
ハック「ああ、この格好か・・・・まあ、アレスの仲間である君ならいいか。オレは事故で両
親を失って、それ以来モタビアンとして育てられたんだ。アレスとはその頃会ったん
だが始めて見たときあいつは復讐の鬼となっていた。当時のあいつは怖かったさ
・・・・。オレも最初の頃は睨まれていたっけ」
ハル「なんだか今のアレスさんからは想像もできないけど・・・・」
ハックからアレスの過去を聞き感慨にふけるハル。そんな中ハックは別のケーブルを切り
裂き手にした携帯端末から電脳攻撃を始める。
ハック「あいつが変わったのはあんた達と出会ってからさ・・・・だからオレはあんた達に感
謝している。モタビアンは一度受けた恩は決して忘れないぜ。さあ、オレも手伝うさ」
ハル「あ、あのう感謝はしているんですけど・・・技術者としての腕は大丈夫なんでしょうか？
・・・・あ、疑っているわけじゃないです。す、すいません」
嫌味に取られかねない（無論ハルに悪気などないのだが）質問に対しハックは怒りもせず
余裕を見せる。
ハック「ははは、オレは盗賊団としていろんなところにハッキングしてきた腕前があるから心
配しなくてもいい。少なくとも君のサポートぐらいはできるから。それにミラー博士から
君の事を頼まれている。」
ハル「・・・・・とほほ、やっぱり僕だけじゃあ不安だったのかなあ」
自分が頼りにされていない思い込みがっくりと肩を落とすハル。そんな彼にハックは優しく
声をかけた。
ハック「そんな事はないさ・・・ミラー博士は君のことを息子のように愛しているとオレは感じ
たね・・・・だから君とウォーレンはシステムの遮断に専念してくれ、魔族の方はオレ
達ビーロックの戦士が意地でも通さないからな！！」
ハル「は、はい！！」
飄々とした中に優しさを感じるハックの言葉はどことなくタイラーと似ていた。ハックの仲間
が守りを固める中、ハルは彼らを信じて自分の仕事に専念する事に決めた。
ＰＭ１０：５３分
間もなくレジスタンスの最大の反撃作戦が始まろうとしていた。
同時刻
アレスとミカが乗るエレベーター内では死闘が繰り広げられていた。カオスブリンガーの右
手に握った巨大な戦斧が泡立ちながら粒子と化すと右腕と同化し異形の形態に変えていく。
そして腕が二股に裂け膨大なエネルギーが集結すると、超極太の光線がアレス達目掛けて
放たれたのだ。
カオス「偉大なる最強を見たまえ。私の力を・・・・・さあ食らうがいい！！我が最強にして至
高のブリンガーライフルを！！！」
哄笑と共に放たれた光線に咄嗟に危険を感じたアレスがミカをかばい避けようとする。その
上を轟音と共に灼熱の光線が通りすぎる。光線はエレベーターの外装を破壊しながら隣の
超高層ビルに向かい・・・・ぶち当たる振動と共に大爆発がおこりビルが二つに折れ、轟音と
破片を伴って下に落ちていく。
アレスとミカはその様子をただ呆然と見ることしかできなかった。
アレス「・・・・・な、なんて威力だ！！冗談じゃねえぞ！！」
ミカ「・・・・ビルが折れちゃった・・・・」
呆然自失となった二人を嘲笑うカオスブリンガー。
カオス「ふふふ・・・・いかんいかん、つい力を出しすぎてしまったようだ。いくらこの総本部に
再生機能があるとはいえあまり壊すことはできぬか・・・・・。では今度は出力を少し落
とすとしよう・・・・・」
外装に穴が開いたため高層のビル風が乱気流となってエレベーター内に吹き荒れる中アレ
スとミカはようやく立ち上がった。穴はカオスブリンガーの説明した通り修復機能が働いて
傷口が塞がるように小さくなっていく。ようやく風が収まりアレスが斧を手に取り身構えるが、
その刹那にカオスブリンガーは右腕の異形の砲腕を戦斧に変え圧倒的な重量で切り潰しに
かかる。
アレス「野郎・・・・・」
ミカ「お兄ちゃん！！上だよ！！」
圧縮された空間の槌をぎりぎりの間合いで交わすアレス。ゴンドラの硬化テクタイトの床が
その衝撃で崩れ落ちる。もしミカの助言がなければ今頃自分は肉隗と化し５００ｍ下まで落
ちていたことだろう。
カオス「・・・・ふはははは！！いつまで逃げていられるかな。逃げ場はすぐになくなるぞ！！
ほら・・・・・・・」
間髪いれずカオスは戦斧を砲腕に変貌させると立て続けに光弾を放つ。アレスとミカは二手
に分かれて光弾をかわし相手の隙を窺うがその幾先予想したかのように光弾の筋が壁とし
て立ちはだかる。アレスの一瞬の躊躇の間に超重量の鎧を身に纏っているはずのカオスが
まるで猛牛の如く跳躍し巨大戦斧で切りこんでくる！！
カオス「どうした後がないぞ！！アレス君！！」
斬檄を後ろに下がって避けようとするが戦斧が通過する度に巻き起こる指向性の衝撃波が
アレスを壁際まで弾き飛ばし押しつぶそうとした。
ベキ！！
まだ体の中で骨が折れる音がした。
アレス「ち、畜生！！負けて堪るかよ！！ミカの為にも俺はもう負けられねえんだ！！うおお
おおおお！！！」
口から血を吐きそれでも立ち上がったアレスはいちかばちかの反撃に打って出た。手にした
ラコニアの斧に全身の力を込めカモシカのように跳躍するとカオスの頭上目掛けて二撃、三
撃と強烈な斬撃を繰り出していく。カオスは微動だにせずそれを盾で防ごうとする。アレスの
技量は並大抵のものではない。盾ごと奴の左腕を砕く自信はあった。だがカオスはそれら全
てを飲みこんでいくかのように平然と受け止めたのだ。
カオス「残念だったな。そのようなちんけな攻撃では私の盾に傷をつける事さえ出来ぬなあ！！
誠に持って笑止！！！」
信じられない形相のアレスに盾から灼熱の炎が噴出しアレスを弾き飛ばす。弾きとばされた
アレスにミカが回復テクニックをかけようと近づくが二人に向け巨大戦斧が山崩れのように
衝撃を伴って覆い被さってくる！！
アレス「ミカ！！どけ！！」
ミカ「お兄ちゃん！！！」
アレスはミカを衝撃の範囲外に押しのけるとまともにその衝撃を受けてしまったのだ。
アレス「が！？ぐああああああああああ！！」
全身の骨が軋み、耐えられない痛みが神経を駆け巡った。もう微動だに出来ないアレスの
頭を踏みつけ勝ちほこるカオスブリンガー。
カオス「身を呈して愛するものを庇うなど・・・・笑わせてくれる！！・・・・それに気に食わぬな
あ・・・・下賎な輩の分際でその目は、蟻なら蟻らしく地面にひれ伏せたまえ！！」
アレス「ぐふぅ！！」
アレスの絶叫にミカはいてもたっても居られずにアレスに駆け寄ろうとした。
ミカ「アレスお兄ちゃん！！」
だがその前にそれまで傍観を決め込んでいたシェイドミラージュが愉悦に満ちた冷笑を浮
かべ舞い踊りながらミカの行く手を遮ったのだ。
シェイド「うふふ♪残念ねえ〜♪あなたは愛する王子様の元にたどり着くにはイベントをこな
さなくてならなくてよ〜♪さあ踊りましょう〜♪」
優雅にステップを踏みミカの回りをくるくる舞い踊るシェイド。彼女の耳障りな哄笑にミカは
内に秘めた猛獣の如き怒りを隠そうともせず現した。
ミカ「そこをどいてよ！！あたしはアレスお兄ちゃんを助けないといけないんだから！！どう
してもどかないんだったら、ディスプラクト！！」
素早く動きながら残像を残し幾人にも分身したかに見えるミカ。それぞれが手にしたシルバ
ータスクが白銀の光刃と化しシェイドに襲いかかる。しかし、シェイドはその悉くを優雅な舞い
でかわし変幻自在に踊りながらミカの実体に肉薄する。
シェイド「残念〜♪はずれ〜♪動きはいいけど♪華麗さが足りないわね〜♪」
ミカ「え、そんな！！攻撃が当たらないなんて」
そしてその冷たい手がミカの身体を捕らえ顔面を這いずる軟体動物の如き気色悪い感触
がミカの動きを止めた。熱い息がミカの体に吹き付けられる。軟体動物の感触はシェイド
の舌だった。
シェイド「今度は私の番ね。悲劇のヒロインに相応しく光り輝きながら・・・・さあ、命の散り際
の美しさを見せておくれ、闇夜に瞬く星の様に、スターダスト♪♪」
ミカは気持ち悪さに一瞬動きを止めたがすぐにクローで引き裂いた。だがそれをシェイドは
宙返りしながら華麗に遊弋し、空中でタップを踏むと、妖艶な手つきで腕を上に翳す。翳した
手から銀色の光が空に伸びその後数百の白銀の流星と化して空からミカに向かい落ちて
きたのだ。幾本かの光はかわすが数百もの光速で迫る銀光をかわせる訳がなかった。残
った全ての銀光がミカの身体を次々と穿っていく。
ミカ「うわああああああ！！！」
幸いにしてその直前にムワーラを展開していた為に致命傷にならず済んだがすでにミカの
身体には何十もの裂傷が刻み付けられていた。
シェイド「あらあらせっかく私が死に際を演出してあげたのに〜 醜く耐えるなんてやっぱり
演技が全然駄目だわあ・・・悲劇のヒロインならもっとブリッランテ（華やかで）で
アマービレ（愛らしく）に死なないと美しくないわ〜♪」
ミカのぼろぼろな姿に肩をすくめ死の美学に酔うシェイド。しかし彼女の歪な死の美学をミカ
は必死に否定する。
ミカ「死ぬのが美しいなんて・・・絶対に間違っているよ！！たとえ醜くてもつらくても、生きて
いる事の方が何倍も美しいんだ！！だから・・・ミカは死なないよ！！ううん死んじゃあ
駄目なんだ！！」
己の美学を否定され少しムッとするシェイド。
シェイド「そう・・・・・でもこれならどうかしら？シャドウバインド♪」
だがすぐに余裕を取り戻し、妖艶に微笑むと、ミカの影をさらりと触れていく。すると、ミカの
影から別の異形の影が無数に現れミカの身体に張りついてくるではないか。
ミカ「・・・・何、影が手足に纏わりついてくる！！」
発光する影が完全にミカを覆ったのを確認するとまるで指揮者のように指を振りミカの動き
を操っていく。
シェイド「ほら、デスインバーターの指導する通りに踊るのよ・・・・うふふふ・・・さあ、アン・ドゥ・
トロワ♪アン・ドゥ・トロワ♪」
あまりの非道に己の痛みも忘れ叫ぶアレス。
アレス「やめろ！！ミカを弄ぶな！！！、」
カオス「ふふふ・・・見ているがいい！！どんなに君が購おうと巨大な運命の力には逆らえぬ
のだよ！！」
だがカオスの脚に動きを押さえられミカを助けに行くことが出来ない。ミカを玩具の様に踊
らせ歪んだ欲望を満悦したシェイドが最後の仕上げとばかりに手を上に上げる。影に支配
されたミカの右腕がミカの首筋に爪を立てる。その最後の様に恍惚の絶頂に酔うシェイド。
シェイド「さあ〜運命に押しつぶされた哀れな姫君は自ら命を落とすのが悲劇の常道よ〜♪
この悲劇、華麗に幕を落としましょう〜♪哀れな人形さん〜♪・・・・・ん？」
だがミカはシェイドの望む通りには動かなかった。
ミカ「・・・・・・ミカは・・・・負け・・ないよ」
シェイド「・・・・・・何！？何故・・・・・動けるのかしら・・・・・」
それどころか彼女を縛り付けていた影が悲鳴を上げて消滅していく。まるでミカの命の光の
輝きに照らされるように。
ミカ「・・・・ミカはお人形じゃないよ。だってあたしは生きているんだもん！！確かにあたしの
身体は造られたものかもしれない・・・・・・でも・・・・今まで出会った人達があたしに生き
る力をくれたんだ！！タイラーお兄ちゃんの背中からいつも感じていた生きるための勇
気・・・ジョディお姉ちゃんの暖かな胸の鼓動・・・ネイお姉ちゃん達がみせた生きる事の
悲しみそして・・・そしてアレスお兄ちゃんが生きる事の喜びを教えてくれたんだよ！！
・・・・本当ならこの喜びはミカルちゃんが受けるものだった・・・・・・それをあなた達が奪
ったんだよ！！ミカルちゃんやネイお姉ちゃんの為にも・・・・・あたしは負けないよ！！」
ミカは叫んだ。命の大切さを彼女は、死の淵から、人々との繋がりから学び取っていたのだ。
命のあらん限りに叫ぶミカに勇気を与えられアレスの身体にも信じられないパワーが漲ってくる。
アレス「・・・・・ミカ・・・・・おめえ強くなったな、ならおれも負けてはいられねえじゃないか！！」
溢れる力がカオスブリンガーの足を押しのける。
二人の命の輝きに初めて二体の悪魔の顔に恐怖の汗が浮かぶ。
カオス「な、何だ。この私が力で押されているだと！？」
ミカ「ダブルアタック！！」
アレス「ブレイクアックス！！！」
そして互いの武器を手に取った二人は命の輝きを刃に込め悪魔達に切りかかった。
顔に初めてつけられた傷に苦悶の絶叫をあげるシェイド。
シェイド「ぎえええええええ！！私の！！私の美しい顔にぃ！！！」
カオスもその黄金の鎧に深い斬痕が穿たれ、アレス達を忌々しげに見つめつつシェイドを
嗜める。
カオス「うぐゥ・・・・・ほう、下等な分際にしては少しはやるようだな・・・・・シェイドよ、顔を傷
つけられたぐらいでそう怒るな・・・・せっかくのおまえの美貌が台無しだぞ・・・・」
己の美学を侮辱されたシェイドは愉悦の仮面を外し怨嗟の念を歌声に乗せる様に呟いた。
シェイド「・・・・・・うふふふ・・・・そうねえ、でも役者が演出家に逆らうなんてこんな屈辱初め
てよ・・・彼らには最も惨めで己の運命を呪いたくなるような茶番を演出してあげる
わ！！！出てきなさい！！私のレムレス！！！」
彼女の怨嗟の念に呼び寄せられる様に赤、緑、紫の炎が噴きあがり、アレスとミカをその
炎で飲みこんでいく。
ミカ、アレス「うわあ！！」
炎の熱と硝煙で互いの姿を見失ったアレスとミカ。
アレス「くそ！！周りが炎に包まれやがった、ミカ、待って居ろよ、今助け出すからな！！」
ミカ「アレスお兄ちゃんを見失っちゃった、お兄ちゃん、お兄ちゃんはどこ・・・・。」
二人は互いの姿を追い求め炎の中をさ迷い歩く。
その時、アレスはシェイドミラージュに殺されそうになるミカを、ミカはカオスブリンガーに
切り付けられようとするアレスを目撃する。
アレス「ミカーーーー！！！てめえミカに何をしやがる！！！」
ミカ「お兄ちゃんを離せ！！！」
愛する者の危機に冷静さを失い二人は共に悪魔に向けて切りかかっていく。だがそれは幻
だった。それぞれの敵が眼前で愛する者に変わる。だが勢いはもう止められようがなかった。
炎の外で二人が死ぬ刹那を悪魔は愉悦を交えて眺めていたのだ。
カオス「ふわははははは！！！こいつは最高の茶番だ！！！いいぞ！！愛する者同志、
互いに殺し合うがいい！！！」
シェイド「うふふふ、舞台が燃え上がり愚かな役者達は互いの真実に気がつかぬまま愛する
者を手にかけ炎の中で一握の灰となるの♪さあ私のレムレム達、悲劇のフィナーレ
をその美しき炎で彩るのよ〜♪」
シェイドの乱舞に合わせて炎が次第に狭まり二人の影は交差するように消えていく・・・・・。
同時刻、
迫り来る竜巻と雷撃に対しアイナとオハリオは共に同じ構えを取り、合わせ鏡の如く、異なる
呪言を共鳴させるように詠唱する。
アイナ「シークの北方を守護せし雷神黒竜・・・・」
オハリオ「シークの東方を守護せし風神青竜・・・・」
二人の唇から流れ出る聖句が蒼と黒の波紋となって周囲を荒れ狂う風雷を飲みこむと激
しく共鳴をおこし二対の竜へ変じた。
「共に来りて防壁と刃二面の力、合わせ我が敵を穿つ青と黒の嵐とならん！！複合奥義、
蒼風と黒雷の舞い！！」
二人の詠唱に従うが如く二対の竜は舞い上がり絡み付きながらギ・ル・ファーグの元に向
かう。二対の竜の放つ強烈なエネルギーの交差に床の幾何学文様結界が闇蒼色と暗紫
色とに激しく明滅し、一瞬その輝きが鈍く滞る。だがギ・ル・ファーグに届く前に再び結界が
光り、二対の竜をかき消してしまった。少し間をおいてギ・ル・ファーグは指で韻を結びさら
に巨大な竜巻を召還する。そして無駄な行為と化した二人の策をせせら笑った。
フォーグ「・・・・・ふわははははは、愚かな、奥義が効かぬから二つの奥義を重ねるなど悲
しきかな、所詮は下賎な人間の浅知恵・・・・・我が複合結界にいくら力を重ねよう
と無策無駄無為なる行い。これが高貴なる血族の末裔とは・・・・・・あまりにも度し
難いですなあ。誇りを失った不潔の輩がこれ以上闇の聖地を汚す前に燃やし尽く
してやるのがせめてもの慈悲というもの・・・・・・・・フレエリで焼け死ぬといい！！」
そして笑いを止めさらに韻を結び、竜巻の牢獄の中に数十の火球を出現させると火球は
ファーグの指の動きに従い、複雑な軌道を見せながら二人に向かい襲いかかってきた。
しかし二人は結界とファーグの様子を見て何かを悟ったようだ。オハリオが火球に対する
奥儀の詠唱を唱えるまでの一瞬、アイナはオハリオに耳打ちする。
アイナ「オハリオ・・・この結界」
アイナの推測に頷くと再びオハリオは詠唱を再開する。アイナと手を繋ぎ指で何かの印を
結びながら・・・・・。
オハリオ「やはりそうか・・・・・西方を守護せしシークの守護神氷神白竜よ、極寒の凍気
にて氷柱、氷楯を我が剣に宿らせ我が前に立ちふさがる災いを払い穿つ凍気
の刃と化せ、奥義、氷刃竜撃剣！！」
オハリオの詠唱に従い剣の回りに白い靄が立ち込めそれらがまるで白竜の鱗の様に輝
く氷の飛礫と化すと四方から迫る火球に対するように動き、互いに打ち消し合った。
だがまた結界が闇白色に光り氷刃を打ち消す。残った火球を何とか跳躍して避ける二人
にファーグの嘲笑が上から木霊した。
フォーグ「ふふふ・・・・まだ抵抗するというのか？自分の力量をわきまえずただ奥義を繰
り出すだけの戦略性の欠如・・・・・愚かを通り越して白痴よなあ・・・・・これ以上
の醜態をさらす前に自ら死を選ぶ覚悟を見せたらどうですかなあ、アイナ・ル・
シール様、オハリオ・サ・リーク様・・・・・ふふふふ」
宥めるようなそれでいて愚弄するようなファーグの声音。縦横無尽に動き回る火球に少し
ずつその身を焼かれながらアイナとオハリオはそれを黙して聞いていた。そして、静かに
口を開く。
アイナ「・・・・私は人々の為ならいかなる時でも命を投げ出す覚悟があります。でも・・・そ
れは未来に生きる命の火を灯すためでなければただ自分という存在と責務から
逃げる臆病者でしかありません。この命・・・卑劣な策でしか人を見下す事しか出来
ないあなた達にあげる事などシークの先人が決して許さないでしょう！！」
アイナは柔らかな中にも凛とした強さを秘めて毅然と答える。彼女の澄んだ声に迷いなど
一切なかった。オハリオは彼女の決意を受け止め支えるように声に力を込めて叫んだ。
オハリオ「ああ、そうだ。僕達は例えどんなに汚されようと命を賭して人々とあの子達の明
日を紡ぐためにやりとげないといけない事がある！！闇の運命を乗り越える命の
輝き、お前達には消すことはできない！！アイナ、力を貸してくれ！！」
アイナ「ええ！！」
互いに手を取る二人の勢いに飲まれそれまで愚弄と嘲笑を滲ませていたファーグの声が
はたと止まる。狂える風塵の壁を境に無言のままにらみ合う両者。やがて冷徹と嘲弄とい
う鎧を打ち砕かれたファーグはついに本性を現そうとしていた。ファーグが指で空中に印を
描くとその身が三体に分かれる。
ファーグＡ「・・・・・・・よく言った・・・・」
ファーグＢ「本当に残念でなりませぬなあ、このような形でお別れしないといけないとは・・・・
いやはや」
ファーグＣ「あはははははははは！！所詮は人間だ、誇りなどという愚かな感情でしか己
を語ることが出来ぬとはまるで何処かの馬鹿な騎士のようだ！！」
ファーグA「愚か・・・・・誠に愚かよ。なればお前達の全て砕き常世にさえ塵一つ残さぬよう
にしてくれよう！！」
それぞれの台詞回しこそ違うが己の肥大した自尊心を傷つけた者に対する深い憎悪が共
通して存在していた。やがてそれそれの指が共に複雑な印を描くとタンディラの数倍の激し
い光芒を伴った赤い稲妻が三体のファーグを繋ぎ、そしてその手から放たれる。雷が複雑
な文様となって螺旋を描きながら竜巻内を駆け巡り周囲に漂う全てを極微の単位まで分解
する。その輝きをアイナとオハリオは手を繋いだまま恐れることなく見つめていた。
ファーグＡＢＣ「・・・・・闇の雷よ！！我が手に集え！！そして見るのだ！！奇跡など起こり
えようもない究極の絶望を・・・・・これが私の最上級の複合魔法・・・ロイヤル
サンダーブラストだあ！！」
ファーグの唱える呪詛と共に雷の網目が二人を飲みこみそして陽炎の様にかき消していっ
た・・・・。
無数の妖剣が空中に鎮座し結界を張るバトルフィールドで二人の戦士の戦いは今だ続いて
いた。剣と剣のぶつかり合う音がやけに大きく響く。鳥の羽ばたくが如くダークライダーの体
が跳躍すると刃唸りを生じた妖剣がタイラーの頭上に迫る。それをタイラーは辛くも手にした
ソードで跳ね除けるがその間にライダーは身体をヒラリと旋回させてタイラーの視界の外へと
飛んだ。軽やかに妖剣の峯に両足を着けるライダーは反動の力を使い一気にタイラーの間
合いに攻め寄る。そして右袈裟切りから横薙ぎそして突きへと至る三段の動作を一瞬で行っ
た。間一髪の間合いでこれを交わすタイラーだが最後の突きがタイラーの体の装甲に細筋
だが深い裂傷を刻んでいた。機動性に富んだダークライダーの動きに思わず冷や汗を垂ら
すタイラー。
タイラー「・・・・俺もいい加減楽天的な性格をしているが・・・・さすがに今度ばかりはすこしや
ばいかな・・・・・」
防戦一方のタイラーの姿をライダーは不遜な態度で言い放った。
ライダー「力の差とは無慈悲なものだな・・・・それではこの星を救うなど夢のまた夢だ・・・・
もし貴様が生きて己が目的を果たしたいというのなら全力を持って私を倒してみ
ろ！！」
言うが早く、ライダーは無数の光の槍を四方に飛ばすと自らはタイラーに直線状に急降下
で切りかかった。
タイラー「参ったな・・・・何もかもお見通しというわけか・・・・・だが確かにいう通り・・・俺の技
量の全てをぶつけるしかあんたには勝てない・・・・・行くぜ！！」
己を遥かに超える剣の技量を持つ相手に、心の中に恐れと共に奇妙な快感を感じるタイラ
ーは口元に笑みを浮かべると自らも跳躍し迫り来る相手に立ち向かう。距離を急速に詰め
る二人、その間に先ほどダークライダーが放った光の槍がブーメランの様に旋回しながらタ
イラーの身体を貫こうとしていた。タイラーは、それを即座に感じ取ると、身体を急回転させ、
旋回する剣の剣風で光の槍を相克、霧散させる。そして返りざまに迫り来るライダーの強烈
な突きを両手でソードを盾にして防いだ。瞬間睨み合う二人、ライダーは諦めを知らないタイ
ラーの瞳の奥の炎に昔、去った友の面影を見出し、心から面白がっているように微笑を浮か
べた。
ライダー「諦めぬ闘志を秘めたその瞳・・・・やはりよく似ている・・・ようやく本気になったよう
だな・・・・ならば私もそれに全霊を持って答えねばなるまい！！」
両者はお互いにぶつけた刃の力の反動を使い後ろに飛びのくと空かさず構えを取り、再び
睨み合う。睨み合う時間は僅か３秒、だがタイラーにはそれが１時間にも長く感じられた。
ライダーが行動に移る。最初はゆっくりと、それから急に脚を動かし強靭な脚力で初速から
いきなり最高の速さに達した。神速をさらに超える超神速、もはや目に映らぬどころか気配
さえ微かにしか捉えることが出来ない。またも妖剣のいくつかが砕かれる。妖剣が砕かれる
度にタイラーが立てる足場はなくなっていくのだ。
タイラー「動きがさらに速くなった・・・もう残影すら見ることはできないが・・・・相手が素早い
動きで来るとしてもこの空間自体にいるのは確かだ。なら決して逃げられない様
この空間を切る！！エアブラスト３連撃！！そして・・・」
風の動きだけが頼りだ。超神速により生み出される微かな空気の乱れから相手のいると思
われる視野を計算しタイラーは横薙ぎのエアブラストを三角形を作るように斬り放った。放た
れた斬撃の三角形は次第に幅を狭めながら、ダークライダーを三角錐の頂点へと追い詰め
る。その為、ダークライダーの姿が残像と化し、タイラーの目に捕らえることが出来た。その
一点に全神経を集中させ相手の間合いに攻め寄った。
ライダー「空間に斬撃をかける事で私の動きをある方向に誘導しようというのか・・・・驚異的
な技量の上昇だ・・・・・。だが惜しいな・・・静動の差がはっきりと分かれるお前の
剣術ではこの緩急自在の動きは捉えられない。」
動きを捉える事はできたが奴の言う通り緩急自在の変幻的なライダーの足運びにタイラーの
剣の切っ先は僅かに届かない。
タイラー「く・・・・やはり今の奴の動きは剣で炙り出しただけでは駄目か！！ なら、相手の殺
気と切っ先だけに集中して・・・・！？」
思考を切り替え、後ろに飛びのくタイラー、機を窺おうとしたその時、タイラーは眼に微かな痛
みを感じた。痛みはすぐに収まったが、その直後視界が目の前の光景からアルカディア総本部
ビルを外から俯瞰する視点に切り替わった。タイラーは各場所で戦っている仲間達の姿を見た。
再び視界がぼやけ、目の前のダークライダーに視界が戻っていた。視界の乱れに今、何がおこ
ったかわからず動転するタイラー。
ライダー「・・・・・・・どうした？今の間は？心ここにあらずという感じだな」
急に動きを止めたタイラーを不審そうに見つめるライダー。直後ビルを揺らす微かな揺れを見
て、タイラーがこの揺れに気を取られ竦んでいると思い、彼に失望すると冷ややかに一瞥した。
ライダー「なるほど・・・貴様が慌てているのはこの揺れが原因か・・・これはカオスブリンガーの
一撃・・・・残念ながら貴様の仲間はおそらく生きてはいまい・・・・・。」
揺れの動きからカオスブリンガーの必殺のブリンガーライフルが放たれたと見たライダーは相
手の不運を思い憐憫の情を顔に浮かばせた。だがそれをタイラーは強く否定する。
タイラー「アレスやミカは生きているぜ！！なぜだかわからないが・・・・今の俺にはみんなの姿
が見えているんだ」
それを聞いて初めて驚愕の眼差しを浮かべるダークライダー。そして彼はタイラーの眼に映る
微かな淀みから全てを悟っすると急に気が狂った様に笑い始めた。
ライダー「！？・・・・・・ふ、そうか！・・・・・あははははは！道理で前と少し違う印象を受けていた
訳だ・・・・だが・・・・これで分かった。やはり・・・・タイラー、私とお前はよく似ている。」
唐突に笑い出したダークライダーに今度はタイラーが不審がる。そして笑いを収めたダークライ
ダーから言われた「私とよく似ている」という言葉がタイラーの胸に深く突き刺さった。
タイラー「それはどういう事だ！！」
思いもかけないダークライダーの呟きにタイラーは声をうわずらせた。タイラーの驚きの声に対し、
ダークライダーは淡々とした口調で語る。
ライダー「・・・・貴様もそして私もかつて尊敬しそして超えるべき相手を失っている・・・・。」
その淡々とした声に指摘されるまで己の胸の奥、深層心理の中でたゆたっていたある複雑な
思いがひきずりだされたのだ。
タイラー「・・・・・・・・・」
沈黙の意志を持ってその思いを再び深層心理の奥底に封じようとするタイラー。それを見てライ
ダークは責めたり愚弄したりせずむしろ哀れむような目で自分のかつての姿と同じ青年をみつめ
呟いた。
ライダー「ふ、途端に黙り込んだか・・・・しかし、貴様の気持ち私にはよく分かる・・・・憧れ・・・・い
つか追い越そうとした相手が目の前から忽然と消えた時の喪失感・・・・・自らに誇りを
持つ者として・・・これほど辛いことはない・・・・・・・だが私は幸運だ！！そんな私にあの
御方は新たなる生きがいと誇りを与えてくれた！！」
タイラーにも何故か彼の悔恨に満ちた思いが理解できるような気がした。だがだからといって今
外で行われている残虐非道な行いが許されるわけがない。
タイラー「そうかな・・・俺にはそれが詭弁に思えるぜ！！あんたが誇りと思っているものは人々の
嘆きや悲しみの上に造られた紛い物の誇りだ！！そんな偽りの誇りではあんたはいつま
でも尊敬する相手を超えることは出来ないさ！！」
己の中で湧き上がる複雑な思いを忘れようと剣を手に構えライダークを睨みつけるように責め立
てるタイラーに、だが、ライダークは胸を押さえ自嘲するように寂しく笑った。
ライダー「・・・・・・・分かっている・・・分かっているさ、心が痛むほどにな・・・・・・だが何と言われよう
と私はあの御方様の願いを叶えるために戦いつづける。あの御方の願い・・・それは人々
の為でもあるのだ！！」
そしてダークライダーも再び剣を手に取ると己の誇りとあの御方への忠義を賭して自分の良心の鏡
像ともいえるタイラーを打ち砕かんと斬りこんできたのだ。応戦するタイラーは己の迷いを打ち払うが
如くソードに力を込めライダーの斬撃を跳ね返した。
タイラー「言っていることが矛盾だらけだな！！その願いとやらのせいで人々が苦しんで子供達が
泣いているのがお前にわかっているはずだ！！」
幾度かの剣のぶつかり合いで互いの譲れぬ思いを語り合う二人。闇のまどろみが宿っているとは
いえまっすぐな瞳を持つタイラーにライダークは彼のかつての友人ウェイズともう1人の男の事を思
い出さずにはいられなかった。
ライダー「・・・・タイラー、お前と話しているとあの二人の事をを思い起こさせる・・・・ウェイズ・・・・・
そして貴様の父親に・・・・・」
今日は何度驚かされたことだろう。だが今ライダーが呟いた言葉が一番タイラーを愕然とさせた。
タイラー「！？待て・・・・・あんたは俺の親父にあったことがあるのか！？」
父に対する複雑な思いが一気に噴きあがってくる。剣を下ろし息苦しさを感じながらタイラーはダー
クライダーに激しく詰め寄った。
ライダー「・・・・・・それに答える義理はない・・・・・もし知りたければ私を超えて見せることだ・・・」
タイラー「どうやらもうそれしかないらしいな・・・・・・悲しいぜ、こうして互いの主張を死闘でしか語る
ことが出来ないなんてな・・・」
しかし、冷ややかに一瞥するダークライダーに煙に巻かれタイラーはついに決断する。冷酷で残虐
非道なアルカディアグループの者の中でこいつだけはどこか違うと感じていた。それは今行われた
会話の中でよりはっきりと認識できた。だが今目の前にいる奴に勝たなければ、父に関する謎の答
えも俺達の未来への希望も閉ざされてしまう。
ライダー「・・・・全ては”時”という事象が悪いのだ・・・・・・・・あの御方の願いが叶えばおまえにも分
かる・・・・・どちらが正しいのかな」
光と影、もし違う時代に二人が共に生きれ居れば互いに良きライバル、そして親友として関われた
のかもしれない・・・・。だが二人の世界はあまりにも違いすぎた。時の破滅を望む者と人の明日を
守りたい者、お互いの譲れない思いを剣に込めて二人は最後の決闘に望んだ。
タイラー「人の苦しみの上にしか成り立たない邪悪な願いなど死んでもお断りだ！！・・・・・行くぜ！！
メイルストロームブレイザー！！」
手にした剣に大量の水流が集めタイラーは抜刀の構えを取る。
ライダー「それでいい・・・戦いの中で相手の真意を見極めることこそ戦士として生き様に相応しい、
受けてみよ我が願い、秘剣！！シャリオデュランダル！！」
ライダーも不敵な笑みを浮かべ再び超神速で駆け出した。それを見てタイラーも己の渾身の一撃
を放った。押し寄せる洪水の如き水流を伴った斬撃と超神速による光の軌跡で描かれる大いなる
１２芒星が両者の命を切り刻むように激しくぶつかった。
ジョディ「タンドレ弾にフレエリ弾装填！！このテクニック弾はハル君が精魂込めて造ったものだも
の、決して外さないわ！！ディザスターショット！！」
ジョディはコラボレーションガンのシリンダーにテクニック弾を込めるとトリガーを引く。銃の内部
でテクニック同士が共鳴しあい炎とプラズマが混合した灼熱の火線が放たれる。
イマジオ「うひょひょひょ、ほう人間の潜在的能力を物質に閉じ込める・・・・ある時間軸において
実用化されていたクリスタルシステムと同義のものかのう・・・・じゃがわしには通じぬ
ぞな。ほい、ムワーラ、さらにラバータじゃよ、」
イマジオメイジは勢いよく迫る火線を軽く紫紺の防壁であしらうと続けざまに氷結のテクニックを
放った。氷の飛礫がジョディに襲うのを眺めながらイマジオメイジは目を細め愉快そうに顎に手
を当て銃の性能を品定めする。その虹彩にはどす黒い好奇心が滲んでいた。
ジョディ「通じないのはお互い様よ！！ムワーラ！！」
彼女は迫り来る飛礫を紫紺の防壁で霧消させる。以前はただ見守ることしか出来ず泣いていた
自分・・・だが、今、ジョディには愛する者の為に戦う力と心の強さが存在していた。卑劣で恐るべ
き敵を目の前にして恐れる事無く上を見上げるジョディ。その視線の先にあるのはジョディの上
に集結した複数のクリスタルだった
イマジオ「お前さんはその銃でしかテクニックを増幅することしかできんがわしにはこの空間に漂う
ビーエルとビーアルの数だけいくらでも同時にテクニックを使うことが出来るのじゃよ、
じゃからこのようなことも出来る。ギバータ、フレエリ、の多層掛けじゃ！！」
一際大きいクリスタルの上に飛び乗ったイマジオメイジの印に従い複数のクリスタルから凝縮さ
れたエネルギーが炎や氷の弾雨となって襲いかかる。それがジョディを穿こうとした直前、彼女は
巧みにテクニックの有効範囲の外に跳躍し攻撃をを交わしていく。彼女の能力であるテレパシー
がイマジオメイジの思考を読み取りテクニックがどこを狙うのか教えてくれたのだ。
ジョディ「・・・・・・・・・・・あなたの手はもう私には通じないわ！！あなたがどこをどの順で狙うか私
にはわかるんだから！シュート！！」
全方位から迫るテクニックを全て交わしてゆくジョディ。だがイマジオメイジは攻撃が無効化されて
いるにも関らず鋼鉄の仮面が嘲笑に歪んでるように見えた。嘲り笑うイマジオメイジの視線に負け
じと再びジョディの銃が二発、三発、四発と放たれる。それはテクニックではなく、普通の弾丸のよ
うに見えた。片手までデバンドを展開し、実弾を弾きとばすイマジオメイジは呆れたような声を出し
て眼下のジョディを見下ろしていた。
イマジオ「そんな実弾なぞデバンドでほれ・・・・うひょひょひょ、どうしたのかね？なぜテクニック弾
を使わんのかのう？」
イマジオメイジの嘲笑に、しかしジョディはその裏に隠された卑劣な罠を見破っていた。
ジョディ「あなたの真の狙いはテレパスで見きりました！！攻撃テクニックで私の注意をそらして
いる間にこのコラボレーションガンの中で小規模なフォイエとバータを連続で起こし、熱
疲労で銃を封じること・・・・・」
イマジオ「うひょひょ・・・・さすがは研究素体と見こんだテレパシスト、わしの思念を一瞬で読み取
るとはのう・・・・・・ますます脳内の量子構造を解剖してむちゃくちゃに弄くりたくなるで
はないか。」
予想以上のテレパシー能力を秘めたジョディを見てイマジオメイジの歪んだ探求心がさらに燃え
上がる。仮面の中から窺い知れぬその顔はきっと残虐さと狂気で醜悪に染まっていることだろう。
底知れぬイマジオメイジの歪んだ思念にジョディは虚しさを覚え静かに呟いた。
ジョディ「本当は・・・・こんな能力の使い方なんてしたくはないの・・・・・でもあなた達をこのまま見
過ごしていたらアルゴルに生きる全ての人達の心が悲しみに閉ざされてしまう。それの
方がもっといやだから・・・・・・私は自分の能力と正面に向き合うって決めたんです！」
自らの内にある力の異質さに対する冷たい視線と理不尽な迫害に彼女は何度その力を捨てる
ことを願ったかわからない。だが今ジョディはその能力に心から感謝していた。今この能力があ
ったからこそアルゴルに襲いかかる”闇”の理不尽さに立ち向かうことが出来るのだ。
一方、イマジオメイジにとってそんな彼女の苦悩など愚かしい限りであった。力を
有効に使わぬ彼女の無能さに呆れるしかないといわんばかりに肩をすくめる。
イマジオ「やれやれ自分に素晴らしい能力があるというのにそれを恐れて使えな
かったとは、無能もいいところじゃな。まあ、よかろう。わしが後でじっくり開発してやる
でなあ。うひゃははは」
ジョディ「・・・・・・・」
イマジオ「さて、お主は攻撃手段を失ったと自ら認めた以上、逃げ回るしか手がない訳じゃが・・・
もっとも貴重な研究サンプル逃がすつもりはないがのう・・・ギザンじゃ！！」
ジョディの動きを封じるが如くクリスタルがジョディの行く手を阻む。静かに遊弋しながら下劣な笑
みを浮かべて近づいてくるイマジオメイジの左手に狂える風の刃が現れた。逃げ場を無くしたジョ
ディにイマジオメイジは容赦無く風のマジック、ヒューンを放った。
ジョディ「私だってただ逃げ回っていた訳じゃないわ！！トルネード！！」
その時だった。イマジオメイジのヒューンと反応するかのように床に散らばった弾丸が激しく光ると
ヒューンを飲みこみ大きな竜巻と化して逆にイマジオメイジに向かった。
イマジオ「な？その弾はテクニック弾だったのか？」
思いも寄らぬ事態にイマジオメイジの声が驚愕と焦りに震える。ジョディはこの隙を見逃さなかった。
彼女は全霊の力を込めて周囲に魔力を放つと床に散らばった他の弾丸も次々と発光を始める。
ジョディ「その通り、そしてそれらは私の”動のテレパス”で発動するようにしてくれていたのよ・・・
ハル君感謝しているわ。あなたの想い無駄にしない！！スノースライサー！！、、ラスター
バニッシュ！！」
フローゼとキュアラの共鳴によって巻き起こる氷のブーメランとヒールとフローゼの共鳴による無属
性の強力なエネルギーが遊弋して逃げ惑うイマジオメイジを追い詰めそして粉々に引き裂いた。
イマジオ「ぎやあああああああ・・・」
ジョディ「・・・・・・手応えはあった、でもまだ倒してはいない・・・・」
倒したかに見えるイマジオメイジ。だが粘りつくような邪悪な思念はいまだ消えてなかった。先ほど
から立ちこめる水蒸気がやけに重く感じられた。
イマジオ「・・・さすがはテレパシスト、いくら思念を隠しても偽装は困難かのう・・・・・じゃが」
ゆっくりと全神経を集中させ敵の位置の把握を試みるジョディ。その背後に鋼鉄の手が絡みつくよう
に迫る。
ジョディ「そこです！ラフローゼ！！」
粘りつく思念の根源を感知したジョディは振り向くと氷の最上級マジックでイマジオメイジの動きを止
めようとした。だがイマジオメイジに向かったラフローゼは彼の身体を通りすぎていった。と同時に
イマジオメイジの姿がまるで霞みのごとく消えていく。
イマジオ「お主が罠を張っていた以上、わしも罠を張っているのがわかりそうなものじゃがのう・・・・
最もわしのはわし自身ですらいつ発動するかわからぬ物理的法則によるものじゃからな」
ジョディ「・・・・・・・あ！？」
ようやくイマジオメイジの真意を捉えたジョディ。だが気づいた時にはジョディはイマジオメイジが周
到に展開していた罠に完全に囚われていたのだ。そう、まるで蜘蛛の巣に引っかかった蝶のように。
イマジオ「そう、おぬしとわしが仕掛けたテクニックによる熱量の変化により光が屈折しやすい状況
になっておるのじゃ。いわば蜃気楼じゃよ。さらにわしが放ったタンドレはここらに充満し
ている水蒸気を水素と酸素に分解させる・・・・そしてそれらは一定の比率に達すると結び
つこうとして化学反応を起こし・・・大爆発を起こす。」
イマジオメイジはこれからおこるであろう事象を科学的に説明しはじめた。水蒸気がどんどん拡散
していきある飽和点に達したとき、水素と酸素が結びつき大爆発によりジョディの身体は紙のよう
に巻き上げられた。
ジョディ「きゃあああ！！」
イマジオ「さらにビーエルをコの字に配置し、ムワーラを展開する。その為逃げ場を失った火炎は
ギザンにより発生していた空気の乱れを飲みこみ竜巻となる。まあ・・・・火災旋風の原
理の応用じゃな。」
クリスタルがイマジオメイジの指のままにコの字型の陣形を構成すると大爆発の爆炎は風とともに
旋回しついには炎の竜巻となって可憐な少女の姿を飲みこんだ。だがイマジオメイジは最後のとど
めとばかりにエレベータ内の全クリスタルの魔力を暴走させると無属性の完全破壊呪文レジュオン
となって火災旋風毎、その破壊の光に押しこまれていく。
イマジオ「そして最後にここの全ビーアル、ビーエルの魔力を暴走させ無属性の大爆発レジュオン
で完了じゃ。これらの事象が都合よく連続しておこるのも君の父親を始めとする多くの素
体達のデータがあったればこそ・・・・・・・感謝しておるよ。ひひひ、さあ、この爆発に耐え
られる研究素体であっておくれ。もっともここで死んでしまってもお主の血からいくらでも
クローンとして研究材料を作り出すことは可能じゃがな・・・・うひゃははははははははは
はははは！！」
手が、足が、次第に光に飲まれ見えなくなる中、外にいるイマジオメイジの狂気に満ちた哄笑だけ
がやけに大きく響いていた。そして彼の肥大化した欲望が溢れ出したからなのだろうか、ジョディは
恐るべき凄惨な体験をする事になる。彼女に流出した恐るべき記憶・・・・・それはイマジオメイジの
人体実験により脳や内臓を弄られ切り裂かれ捨てられていく犠牲者の痛みだったのだ。犠牲者の
極限の痛みが彼女の神経を蝕んで行く。そしてその中に彼女は自分の父親の姿を見てしまったのだ。
ジョディ「この記憶は・・・・お父さんの！？あ、あああ！！」
目の前に迫る光と極限の痛みに彼女は叫びをあげついに気を失ってしまった・・・。
真・邪神天王の暗黒の力の前に成す術もなくやられていくタイラー達、果たして勝機はあるので
あろうか？
運命の一日が終わるまで後１時間！！
第３０話 -終-
第３１話を読む
投稿の広場に戻る
トップページに戻る