スペースクルーザー ランディール
第32話 未来を求める奏者たちのオーケストラ
マウントディスプレイを装着しシートに腰掛けるアレク達、ディスプレイから流れる幾何
学的な映像は彼等の意識を即座にレム睡眠へと誘っていく。そしてアレク達がレム睡
眠に移行したその時、コンバーターを通して彼等の意識はデジタルな波長に変換され、
電子的仮想空間”ネットスペース”へと転送された。
ネットスペースにおいてプログラムやデータは形として視覚化される。宇宙空間にも似
た使われていない状態を示す空虚で真っ黒な空間の中各ネットの入り口であるポート
が整然と都市の明りの様に輝いて見える。そして各ネットを結ぶノード（経路）がまるで
高速道路のように複雑な光の文様を構成していた。衛星群にコマンドを送るノードは幾
重にも分岐する迷宮としてアレク達に知覚されていく。
意識だけの存在となった子供達は電子の宇宙を鳥の様に飛びながらこのマトリクス（入
力導線と出力導線の回路網）の中枢へと飛翔する。シンシアは目の前に広がる現実世
界とは異なる電子的世界にただ感嘆するばかりであった。
シンシア「うわああ・・・・・・何だか不思議なところだよぅ、まるで夢の世界みたい、ここって」
アレク「いっぱい道みたいなのが見えるぜ！！賢者の島より大きいダンジョンかもな！」
一方のアレクは好奇心一杯に周囲を見渡し、歓声をあげていた。ここに来た目的はどこ
へやらはしゃぐ二人をグラントは嗜める。
グラント「シンシア、アレク、二人とも浮かれている場合じゃないと思いますよ・・・・ここは
僕達の意識とネットを繋ぐバーチャルな空間・・・膨大なデータの海の中で迷って
帰れなくなったらどうするんですか・・・・・はあ」
アレク「大丈夫だって！！いざとなればミラーのおっちゃんがなんとかしてくれるさ！！」
アレクの根拠のない自信に呆れ嘆息と共に肩を落とすグラント。抗議しても無駄だと分
かっていたグラントはどっと疲労感を感じつつ無駄に陽気なアレクに問い返す。
グラント「はあ・・・・・僕には君の能天気ぶりが羨ましいですよ・・・でも・・・僕達がここに
来た一番の目的忘れていませんよね？」
するとそれまで明るく振舞っていたアレクの顔が厳しい表情に変わりシンシアとグラント
に向き直ると、真剣なまなざしで力強く答える。
アレク「・・・・・・ああ、今オハリオ父ちゃんやアイナお母ちゃんそして仲間達が命を掛け
てみんなを護ろうとしているんだ！！俺達にはほんの少ししか手助けする事しか
出来ない・・・・だからこそ俺達はすべき事をやらなくちゃいけない！！そうだろう！！」
アレクの真摯な眼差しにしかしシンシアとグラントは戸惑い返答に困った。生まれて間も
なく引き離され、顔も知らぬ本当の両親に会う事に子供達は喜びと同時に漠然とした不
安が沸きあがっていた。ましてアルカディアに人体実験を強制され脳だけとなった想像を
絶する苦痛に精神がまともであるかどうか・・・そう考えると恐怖すら覚える。シンシアと
グラントは心の中に渦巻く不安と恐怖を吐露するようにか細く呟いた。
シンシア「・・・・だけどぉ、それは・・・・私達の本当のお父様とお母様に逢うって事だよ・・・
私、どう話せばいいのか・・・分からないよ。正直・・・・怖い」
グラント「・・・・ぼ、僕だって・・・・父上と母上の記憶はないし・・・」
アレク「・・・・・まあ、逢えば絶対に何とかなるって！！アイナ母ちゃんがいつも言ってた
じゃないか！！俺達の父ちゃん達は立派で強くてそして・・・・優しかったってさ！！」
そんな見知らぬ親と会う事に不安を感じていた二人にとりアレクの飾らない明るさが心
の支えとなった。アレクの元気一杯の言葉にシンシアとグラントの表情にも自然と笑み
がこぼれる。
シンシア「・・・・うん、そうだね・・・」
グラント「ええ・・・・アレクの言う通りですね・・・・恐れずに進みましょう！！僕達の父上
達はこの先にある防壁やレベルゲートの向こうです。」
アレク「・・・・ミラーのおっちゃん頼んだぜ！！」
不安が消えたわけではない。それでも決意を固めた子供達の前に巨大な炎の壁＝に
見えるセキュリティシステム、ファイアウォールが遥か彼方に見えてきた。
現実空間から子供達のをモニターするミラー博士は医療機器に示される三人の身体
の各データや脳波の流れを見て思わず苦笑を浮かべた。
ミラー「三人の脳波には若干の揺らぎがあるものの安定した数値を保っている。意識
がデジタル変換されても異常なしか・・・やれやれ・・・あの子達は元気の塊だな
・・・・まったく誰に似たのやら」
肩をすくめ苦笑いをしながら作業をするミラー博士にコーヒーを持ってきたライラが優
しく声をかける。
ライラ「子供は元気が一番よ、・・・・アレク君たちは両親のために懸命に戦っている
のよね。」
子供達を優しく見つめるライラ、その横でミラーはコーヒーを飲みながらコンソールパ
ネルに指を走らせる。高速演算処理や出力の調整等フィードバック処理などの前
準備をエージェントプログラムを巧みに使い分け実行しながら思索を深めていく。
ミラー「ああ、ウイルスやファイヤウォールましてやダークファルスが存在しているかも
しれない、極めて危険なネットスペースだ。下手をすればプロのネットダイバー
やエスパーですら脳を焼ききられて廃人同然になる可能性もあるかもしれない
・・・・・しかし彼等は勇気を持って恐れず飛びこんだ。それはある意味無謀とい
える行為だ。だが彼等の勇気と親子の絆こそ僕は人間社会がまだ腐敗しては
いない証拠だと思う。」
ミラー博士は一心不乱にコンソールに指を走らせつつ静かに人間に残された暖かな
一面に思いを馳せ呟く。
・・・・親子の絆・・・・・
ライラは自分には決して持ち得ないその概念にほんの少しの羨望のまなざしを浮か
べていた。
ライラ「親子の絆か・・・・・私はアンドロイドだからその定義までしかわからないけど
・・・聞いているだけで心が温かくなる響きを感じるわ。兄さん・・。」
寂しく呟くライラの様子にミラー博士は手を止めじっと見つめていた。博士はコーヒー
を一気に飲み干しそれをライラに返すとき、彼女に微笑むとそれまで内緒にしていた
思いを語りかける。彼女をびっくりさせる贈り物と共に・・・。
ミラー「・・・・・君は僕の、いやミラー家の家族の一員だよ・・・・・今度これが終わったら
・・・僕・・・そして君の父さん母さんに会いに行こうな。」
ミラーからの唐突な提案にライラは心揺さぶられ上ずった声をあげてしまう。
ライラ「え！？に、兄さん３０年間も実家に帰るのを拒んでいたじゃない！！それに
・・・私はアンドロイドなのに・・・・」
ミラー「・・・・両親に話したら喜んで君を娘として迎えるってさ。僕のような馬鹿息子よ
りはずっとましだって愚痴られたよ。」
不安そうなライラの問いに対しミラーは舌を少し出して悪戯っぽく笑ってみせた。アン
ドロイドである自分を家族として迎えてくれる兄とミラー家の人達の愛情に思わずライ
ラは涙ぐんだ。
ライラ「ふふふ・・・・兄さんったら」
ライラの泣き笑いの笑顔を見てケン・ミラーは彼女の健気さに赤面してしまう。言葉
に詰まったミラー博士はそれを隠すようにまた一心不乱に作業に戻った。
気がつくとモニターには三人がモニターに近づいたことを示す表示が映しだされてい
た。その状況をモニターでリサーチし、指をコンソールパネルに走らせ最終調整を進
めるミラー博士は子供達の思いと自分の過去を重ね合わせ毅然とした表情で自分
の決意を語った。
ミラー「３０年前どうして僕は家を飛び出したんだろうな・・・・声を聞くだけでもやっぱり
いいものだ・・・家族は。・・・・そんな家族の繋がりを引き裂く悪魔に僕達は負け
る訳にはいかないんだ。・・・おっと、ライラ、ゲートに三人が近づいた！！防壁
解除のためのサブルーチンの準備を頼む！！」
サポートする技術士官や神官たちの動きが慌しくなった。いよいよＧＳＣへのハッキン
グをかける時が訪れたのだ。この作戦に脱出船団の全てが掛かっているかと思うと
さしものミラー博士の手も震える。自分の横に座り手の関節のスリットからコードを繋
げるライラにミラー博士は自分のサポートを任せた。
ライラ「分かっています、兄さん！！」
重苦しい緊張感の中、ライラは自分の兄に微笑むと任されたサブルーチンの演算処
理に没入する。
ミラー「ハル君いよいよだよ！！」
目まぐるしく投影されるモニターからのデータを素早く処理しながらミラーはアルカディ
ア総本部地下で中枢端末に直接ハッキングをかけているハルに作戦開始の通信を
送った。
ハル「はい！！では今からコアプログラムへ最終アクセスに入ります！！」
ハルは通信を受け取るとさっそく最終アクセスにとりかかった。
搭乗しているパワードスーツ「グレートダロス」からいくつかの接続端子を兼ねたマニ
ピュレータが飛び出し衛星指令端末に直結する。さらにレーザーケーブルを接続し、
システム全体のモニター及び非常時のバックアップ用の予備回線とする。
グレートダロスの横では盗賊ハッカーのハックが進行状況を見ながら適切にアドバイ
スを与えていた。
ハック「ハル君・・・焦っては駄目だ。こういう時こそ慎重にな。」
ハックのアドバイスを受けグレートダロスは回線を遮断、バイパスを形成後直結した
端子に一斉にエージェントを流し込み、マザーのネットラインから孤立した衛星指令
端末の再構築を行う。マニピュレーターは０.５秒単位で素早く動きながらそれらの行
動を２分で終わらせてしまった。
ハル「・・・外部ポートとの回線・・・遮断成功・・・仮想パーシャルリンク層形成。エージ
ェントプログラム１〜３００までリスタート、仮想空間外に多重攻性防壁展開後、
独立リンケージネットワーク再構築・・・ハックさんお心遣い感謝します。でも僕、
自分でも考えられないほど今、冷静で思考が冴えている気がしますから安心して
ください。」
ハックは目にも止まらぬ早業で動き回るマニピュレーターとそれを一人で制御していく
ハルを冷静に眺めていたがその技術力の高さに安心して声をかける。
ハック「ふ・・・・・頼りにしているさ、若き天才技術師さん！！」
ハル「バックは任せます！！衛星群との回線再構築・・・・ゲーベルト・シュターケン・サ
ーキット（ＧＳＣ）制御システムシャットダウンシークエンス開始」
ハックの頼りがいあるの声に後押しされハルは事前に用意していたＧＳＣ制御偽証
（ディセプション）システムを起動し、脱出船団のミラー博士の指令の元に動く新たな
るシステム系統を再構築するという大仕事を完了させた。
指令系統の連動を確認したミラー博士は直ちにＧＳＣ制御プログラムの中枢（カーネル）
の書き換えに着手した。
ミラー「よし！向こうも始めたようだ・・・こちらも全力でサポートする。」
ライラ「多重功性防壁展開します。データ洗い出し作業、Ｄ因子トレーサー起動開始」
ライラの打ち込んだコマンドによりＧＳＣ制御プログラムのまわりにはミラー印の強固な
功性防壁が展開され周囲から襲い掛かるウイルスの攻撃を完全に防いでいた。と同時
に最も恐れられる事態「ダークファルス」侵入に対する予防策も用意されていた。モニタ
ーで闇が発する特有のＤ因子の有無を確認するミラー博士。
ミラー「ダークファルスが撒き散らすＤ因子の反応は今のところないな・・・・ウイルスも
ばたんＱにより駆除完了っと！・・・・よーし、ようやく来たようだな。今が絶好の
チャンスだ！これからエージェントプログラムに対ＧＳＣ矯正プログラム「矯正
Ｇ８先生」を送るよ！！いいかい！！ハル君！！」
全ての準備が整ったのを確認したミラー博士は張り切って自らポケットから光記憶素子
を取り出しそれをコンピュータにインストールしていく。
ハル「はい！よろしくお願いします！！」
ミラー博士のコンソールからコマンドと共に矯正プログラムが転送されグレートダロスを
中継装置としてカーネルの枝葉に分散して滞在するエージェントに送りまれていく。そし
てプログラムの指示を受けたエージェントが書き換え作業を各部で始めた。
ミラー「Ｇ８先生データ送信コマンド「人と言う字は人と人が寄り添って」・・・・データ送信、
・・・むう、ＧＳＣ君はさすがにやっかいだねえ。この構造体は複雑だ・・・・でもね、
ここをこうしてこうやってと！！えいこれもおまけだ！！」
モニターに映し出されるカーネルのプログラム構造は複雑怪奇で視覚的に見ても気持ち
悪い形状をしていた。だが問題が複雑であればあるほどその解明に燃えるミラー博士は
矯正プログラムを駆使して複雑にからまった構造をまるで粘土をこねくりまわすがごとく
構築し修正していく。
まるで彫刻家が最後の仕上げを行うごとく大胆でかつ繊細にコンソールを走らせる兄の
姿を見てライラも笑みがこぼれた。
ライラ「兄さん、のりのりね・・・・プログラム書換効率も物凄い勢いで上昇しているわ。」
ミラー「よし後一歩、ここは押しの一手で！！１Ｔバイトの論理攻勢で一気に押しこむ！頑
固な不良にはこれが一番いい方法だ。」
モニター上に映し出されるプログラム書き換え率はミラー博士の手が動くたびに飛躍的に
増えていき、そしてついに１００％書き換えに成功した。モニターにはまるで整然と整えら
れた宝石のように美しいプログラム構造体が映し出されていた。
ライラ「プログラム書換え作業・・・８０・・・・９０・・・１００・・・シークエンス無事に完了です。
良い子になったＧＳＣ君に指令と・・・敵の多重防壁を解除をお願いするわ。」
ライラの送る指令に反応するように宝石は光り輝きアレク達の行く手を遮っていたファイア
ウォールが解除されていく。
ミラー「ＧＳＣ中枢コア沈黙を確認・・・・・やった！！やったぞ！！！大成功だ！！！どうや
ら恐れていたＤＦの更なる潜入はなかったな！！よおしこれで希望が見えてきた！！
イヤッホー！！」
全ての作業が無事に完了したことを確認したミラーは喜びいさんでライラの元に駆け寄り
喜びをわかちあう。それに釣られて周りの技術仕官や神官も歓声をあげた。
ミラー達の尽力により炎の壁を構成していたデータは光の粒子と化して消滅していった。
グラント「防壁が消えていく・・・・。」
今、子供達の前にはGSCシステムへと通じるポートが出現していた。渦巻くデータが全てを
飲みこむかの如く不気味に揺らめいて目前に広がる光景にグラントとシンシアは不安に躊
躇ってしまう。
アレク「おっちゃん達うまくやったようだな！！行くぞ！！」
シンシア「で、でも心の準備が・・・」
アレク「もうここまで来たら腹をくくっていくしかないだろう！！おめえら！！」
グラント、シンシア「ちょ・・・ちょっと！！」
アレク「おりゃああ！！突入だあああ！！」
だがアレクはそんな二人の手を取り強引に引き込むと勇気を出して渦巻くデータの流れの
中に飛び込んだ！！
空虚な光の空間から声が聞こえる。
？？？”アレク・・・・グラント・・・・シンシア”
自分達を呼ぶ声・・・どこか懐かしい響きのあるその声にに三人の意識はゆるやかに覚醒
していく。
アレク「あいたたた・・・・誰かの声が聞こえる？」
グラント「う・・・・うーーん・・・・・！？」
ゆっくりと頭を振りながら立ちあがる三人・・・頭がズキズキと痛んだ。
？？？”アレク・・・・グラント・・・・シンシア”
グラント「・・・・この声まさか・・・・」
アレク「・・・・俺の父ちゃん母ちゃんなのか！？」
無限に近い繰り返しの中三人はようやくそれが自分を呼ぶ声である事に気がついた。どこ
か暖かな雰囲気に三人は概視感を覚えた。まだ幼かった頃この世界に生まれたばかりの
頃三人を包んでくれた大きな存在・・・。
ハッとして周囲見渡すが周囲には光が溢れるだけの空虚な世界。戸惑う三人にどこか哀
しげな切ない声が聞こえてくる。
グラントの母”グラント・・・危険を顧みずここに来るなんて・・・私達はあなた達が危険を冒す
ことを望んではいなかったのです”
自分達が来た事を素直には喜んではいないその声に三人の胸中は戸惑いと悲しみに揺り
動かされた。
グラント「・・・・・そんな！！母上」
光はその悲しみを感じとると子供達の前に六人の姿として形を成し始めた。半透明の六人
の表情はどの顔も喜びと哀惜が交じり合った複雑な感情を現していた。そして悲しみに戸
惑う子供達に大きく暖かな手を差し伸べたのだ。
シンシアの母”でも・・・だからこそあなたに逢えて母さんは嬉しいわ”
シンシアの母からの優しい言葉にそれまでじっと我慢をしていたアレク達の思慕の情が涙
となって溢れ子供達はそれぞれの親の暖かな光の中に泣きながら飛びこんだ。
シンシア「・・・・マ・・・・ママ！！パパ！！」
グラント「父上！！母上！！う・・・うわあああああああん！！」
アレク「父ちゃん！！母ちゃん！！・・・俺、俺・・・会いたかったよおおおお」
シンシアやグラント、そしてアレクも泣きじゃくりながら光に包まれていく。そう彼等の親たち
には抱きとめるべき実体がもうないのだ。
アレクの父”大きくなったな・・・・アレク・・・・・だがお前を抱えてあげられる体は今はもうない。
出きる事なら今すぐにでもお前を抱きしめたいのに・・・すまん、アレク”
感慨に声を震わせる半透明の父の顔は自分の子供を抱きしめられない悲しみで涙に滲ん
でいた。アレクにはその姿を見るのが耐えきれなかった。アレクは手で涙をゴシゴシと拭うと、
精一杯の笑顔を作り親父に悪態をつく。
アレク「うええ、父ちゃん、そんな事で・・・ぐす、アゴエの頭首があやまるなよ。」
喉の奥で嗚咽を押さえながらそれでも懸命に笑顔を作るアレクを見てアレクの父も涙を消し、
アゴエ家の頭首らしい威厳に満ちた顔に変わると息子の肩に手をあて胸の奥に響くような
朗々とした熱い声で語り掛ける。
アレクの父”・・・・さすがアゴエ家のいやシークの血を受け継ぐ者だ・・・お前達には本当に
感謝している・・・おかげで私達は悪魔のシステムから開放された！！だが今
は再会を喜んでいるときではないな。
私達に無理やり与えられた力だが今度はお前達の未来を護るために使う事が
これで・・・出きる。誇り高き血を受け継ぐ者として私は覚悟を決めている、出き
る事ならお前達の勇気を借りたい”
そうアレクに、シンシアやグラントその両親にそして光の中で眠っているであろう全ての魂に
訴える父の姿にアレクは目の奥が熱く感じられた。
アレク「う、うん・・・そうだね！！俺達の力も貸すよ・・・さあみんな始めようぜ！！」
そして父の思いに呼応するように熱く叫ぶとグラントやシンシアそして自分達の両親と手を
取り合い、目を閉じ思念を周囲に向けて送る。
悪しき鎖を断ち切るために・・・・
思念は光の波動となって周囲を淡く照らし出していた・・・。
バヤマーレ時間pm１０：５５
遥か下方に惑星パルマの大気がぼんやりと輝いて見える以外無窮の暗黒間に包まれた
パルマ上層宙域におけるアルカディア第２機動艦隊と脱出船団護衛艦隊との戦争は最終
局面を迎え戦闘は熾烈を極めていた。
無人と化した脱出船を分割させ巨大な地雷として第２機動艦隊を脚止めする策は一時功
を奏したかにみえた。
仕官「防御線効果ありません！！廃棄された脱出船、敵旗艦のポジトロンボルトにより撃破
されていきます。」
「残った脱出船も内部から破壊工作により大破を確認、第二機動艦隊に突破されます！！」
だが敵もさるもの攻撃ユニットを先行させ宇宙船ともども自爆させ、または旗艦「ステンノー」
のポジトロンボルトを始めとする戦艦群の放つ猛烈なエネルギーの怒涛に次々と巨大な地
雷防衛線は打ち崩されていく。しかも爆発の檄光に隠れていた数十の艦影が素早く疾走し
ながら脱出船団の行く手を阻む様に左右に現れたのだ。
士官「敵陣、高速駆逐艦隊、本隊より二手に分かれての別働行動を確認、高速機動状態で
脱出船団の左右に展開、このままでは２分後には包囲されてしまいます！！」
報告するオペレーターの声も緊迫のあまり上ずっていた。
士官「右舷、左舷、両艦隊からレーザー攻撃来ます！！」
ルオン「遠距離砲撃と対艦ミサイルで反撃するんだ！！」
レーダーのレンジ内に映し出される高速機動駆逐艦隊からはまるでハイエナが傷ついた象を
遠巻きに噛み付いてくるかのように幾筋もの光の束が放たれ、それにより脱出船団の護衛艦
隊に少なからぬ損害を与えていた。炸裂する光芒の中、ルオンは指揮席から命令を下す。
ルオン「駆逐艦しかいない今ならまだ間に合う！！全軍、中央突破で包囲陣を押しきれ！！」
ルオンの命令により前面に攻撃力の高い艦が前進し苛烈な勢いで主砲を一斉掃射を開始。
その鋭い艦隊の槍は包囲陣の壁に一瞬穴を開けることに成功する。
だが敵は高速駆逐艦隊の後方に第二陣の駆逐艦の艦列を潜行させていたのだ。壁はすぐ
に埋まり、なおかつ動きの遅い巨大脱出船を護衛し続けなければならなかった。もともと艦
隊運営に不利のあるこの状況の中で包囲陣を脱出する事はその場にいる誰もが不可能だ
と思いこんでいた。
士官「駄目です！！脱出船団、完全に包囲されました！！」
ルオン「く、予定地点まで後少しだというのに！！だが・・・脱出船を置いては味方への最大
の裏切となるであろうから致し方のないことではあるがな」
士官からの悲鳴にも似た報告を受けながらルオンは心の焦りを部下には見せまいとパネル
に映る敵艦隊をじっと見据える。
ルオン「こういう時・・・・アベルだったらどういう風に行動するだろうな。」
ふとそんな考えが頭を過った。
その間にも包囲陣を固めた第二機動艦隊は囲った脱出船団をいたぶりじわじわと嬲り殺す
ように敵に砲火を浴びせ包囲陣形を狭めつつあった。恐怖は徐々に追い詰めて行くからこそ
より多く絞りとることが出来る。ステンノー艦橋で指示を下す艦隊司令ベアラードは下卑た嘲
笑を浮かべ呟く。
ベアラード「くくく、何を策していたかわかりませぬが、この包囲陣形からは逃れる術を持たぬ
貴君等にはもはや無意味なことだな。果たしてどう出る、レジスタンス共」
迫り来る敵の主砲の幾重にも重なるエネルギー流に近くの護衛艦がまた一隻、轟沈する。デ
ィスプレイには炎に包まれる中最後まで立ち上がり敬礼する初老の艦長の姿があった。
艦長「ルオン様最後まで、あなたのお役に立つことができず申し訳ない。出来ることなら救助
艇で脱出した部下達の、面倒をお願いしたい。最後に・・・武人としての健闘を祈ります。」
ルオン「待て！！勝手に死ぬな！！」
だがルオンの懇願が届く前に目の前の護衛艦が爆発の中に消えた。
オペレーター「護衛艦バーナ・・・反応ロストしました・・・」
ルオン「・・・わかった、脱出艇の回収急がせてくれ」
衝撃に揺さぶられる旗艦マリーチャもすでに艦体に軽微ならざる損傷を受けていた。衝撃に揺
れ動くマリーチャ艦橋において司令を下しながらルオンの頭の中で思索は続けていた。僅かな
アベルとの触れ合いの中で彼は戦闘において重要なのは敵の心理の裏をかくこと、そして自分
の中にある固定概念を時には捨てることも大事だと、ルオンは教わったことを思い出した。
ルオン「自分の中の固定概念を捨てる・・・そうか！！その手があったか！」
ルオンは席から立ちあがると会心の笑みを浮かべた。そして地上で戦っているであろうアベル
に心から感謝した。
同時刻、地上でじわじわと対消滅光球と第１機動艦隊に挟撃され追い詰められつつある遊撃
艦隊、山の騎士団。だが参謀でありいまや提督でもあるアベルはただじっと夜空を不気味な
茜色へと染める「光球」を眺めていた。
微弱ながら敵のパルスレーザーの掃射により戦線離脱艦が増える中それでもじっと機を窺う
アベル・・・・先ほどまで不満を言っていた航宙士も研ぎ澄まされ尋常ではないほど集中してい
るアベルにこの男ならやってくれるだろうという期待を持つようになっていた。
航宙士「もう俺達は覚悟を決めやした。アベル提督、あんたに命預けるす！！」
そして・・・・光球の周囲から天高く龍の咆哮にも似た強烈な紫電が放たれたときついにアベル
は立ちあがり各艦に屹然と指令を発した。
アベル「山の騎士団の艦乗組員全員にここまで耐えてきたことを感謝する。だが”動かざるこ
とは山のごとく”は今を持って終了としよう。これから諸君には”動くことは雷の震うが
ごとく、”稲妻のように激しく動いてもらいたい！！」
アベルの韻を整えた地球の兵法の一節を交えた演説は、そのどこか神秘的な韻の響きによ
り艦隊全員の心に深く印象づけられた。
そしてアベルが読み上げた孫子の一節は各艦のコンピュータに入力されていた極秘計画書
のテキストを開くキーワードとなっていたのだ。テキストに詳細に記された秘策にそれぞれの
艦長は度肝を抜かれたが苦笑を浮かべ、または詳細に計画を頭で検討しながらそれぞれが
賛同の意だけをアベルに伝えた。
艦長「なるほどこれはよく練られた作戦だ！！実行する価値はあるな。」
「新提督に打電してくれ、貴殿の案、我了承せりっと」
アベルの計画を要約すると、それは光球という不利な地形を逆に利用する古代中国の戦い
に通じる戦法だった。山の騎士団が追い詰められるふりをして光球に第１機動艦隊を引き
寄せる。その間に極秘に別働隊に光球を迂回させるコースを取らせ、敵の目を主艦隊に引
き寄せる間に、光球周囲に超磁力フィールド発生装置を設置し、反物質のエネルギーの流
れをある方向へと導かせるよう仕向けるものだったのだ。要となるのは光球より発せられる
莫大な電磁波でありこれが敵から別働隊の動きを隠す林の役目を担っていたのだ。
アベル「これぞその除（しず）かなることは林のごとく、」
そしてそれらの工作作業が全て終わった今アベルは再度号令を発した。
アベル「其の疾（はや）きことは風のごとく、疾風の如き速さで敵の後方に突き攻撃を始め
てくれ。」
その指令に導かれる様に別働隊は光球の裏側から第１機動艦隊の後方に素早く滑空しな
がら展開していく。まるで風の如く。第１機動艦隊は突如レーダーに現れた別働隊に戸惑い
浮き足立ち始めた。反転して別働隊に攻撃しかける艦もあったがその隙に山の騎士団から
攻撃を受け瞬く間に撃沈していく。
アベル「今だ！！地を廓（ひろ）むるには利を分ち、権をかけて動く、敵艦隊の右舷を抜け、
全速力で艦隊をＪ型にスライドさせるんだ！！」
混乱の中第１機動艦隊の包囲陣は内と外から切り崩され逆にその間隙を縫って半包囲陣
形を形成した山の騎士団は後方の別働隊と歩調を合わせて敵をついに光球へと追い詰め
ようとしていた。
無論、敵も反撃を試みるが１８０度周囲を囲まれ、尚且つ主力艦隊が追いやられ密集陣形
へと艦隊の陣形を変えられては迂闊にレーザーやポジトロンボルトを撃つことすら難しくなる。
何故ならそれは同士討ちを招くことになり、加えて、対消滅光球の間近で高エネルギー兵器
使えばそれが光球の安定を破り一気に対消滅に撒きこまれることになってしまうからだ。敵
がパルスレーザーしか撃てなかったのはこのためである。そして反撃の機会をアベルは決
して見逃さなかった。
アベル「これで戦闘している艦は実質的にこちらの方が多くなった。地の利を生かせば大多
数の敵を打ち破ることも可能になる。侵掠（しんりゃく）することは火のごとく、遠慮は
しなくていい。この機を逃さず徹底攻勢をかける！！」
各艦長「全砲門一斉掃射、撃てーーーーー！！！」
それぞれの艦長が一斉に号令をかける。これまでの忍耐と苦痛の日々を追い払うかのように。
迂闊に動けなくなった第１機動艦隊に対し周囲を取り囲む山の騎士団は徹底的に烈火の如く
レーザーの槍を敵艦隊に向け放った。
それらは一番外側に遊弋していた戦艦を穿ち爆砕した
チュドドドーン！！！
炎が周囲の戦艦に次々と引火していく。まるで雪崩の如く激しく動き回る炎とプラズマが駆逐艦
や巡洋艦を撒きこみながらついには旗艦「メデューサ」の巨体にぶち当たり光球へとそのまま
傾れ込んだ。
航宙士「いいぞ！！潰れろ！後もう少し！！」
メデューサは超高温の熱隗に押し潰され大爆発をおこした。その余波により安定を打ち破られ
た莫大なエネルギーの奔流は哀れな第１機動艦隊を巻き込みながら超磁力フィールドと反発し
出口を求め上へと遥か天上へと昇っていく。
ゴアアアアアーーーーーーーーーー！！
士官達「やったぜ、やりましたぜ！！」
「俺はアベル提督のことを信じていましたぜ、なんせ姐さんが推薦した男だ」
「何言ってんだ、最初はてめえ文句たらたらだったくせに！ははは」
光に照らされ勝利の歓喜に湧き上がるダークランディール乗組員の中アベルは上を向いて紅
茶を啜りながら静かに呟いた。
アベル「光陰の矢は天界に向け放たれた。後はこれを活かせるかどうかだが・・・ふっ、ルオン
殿ならきっと大丈夫だろう。」
それより時間は少し遡りマリーチャ艦橋ではルオンと参謀達との間で口論が発生していた。
参謀「なんと、ルオン司令閣下は脱出船にいる１億の人民の命を見捨てる御積もりか！！」
激しく詰め寄る参謀達に対しルオンは恐れる事無く毅然として答えた。
ルオン「そうは申していない。脱出船団には最大級のバリアフィールドを発生させ敵の追撃に
備えさせる。」
参謀「しかし閣下の作戦では戦闘艦を先に結界空間外に脱出させるようにも見えますがこれ
はいかにも民を見捨てて逃れたとしか思えませぬ。わたくしどもにはルオン司令がア
ベル氏の机上の空論にのみ固執しているように思われるのですが・・・」
そうしつこく責め立てる参謀に、ルオンは決然とした強い瞳の輝きで直視し参謀達を黙らせた。
ルオン「今は詳細を説明する時間がないが安心するがいい。これはある意味賭けともいえる
ものだが私を信じてついてこい！！私は必ずアイナ様と民の命を護って見せる！！」
参謀「そこまで言うのでしたらわたくしどもは何も言うべきことはありません」
こうして作戦が始まった。
護衛艦隊が特異な動きを見せ始めたのを気がついたベアラード提督はディスプレイに映る
敵の動きに冷笑を浮かべた。
ベアラード「ほう、私の艦隊の猛攻に耐えかねついに愚民どもを見捨てて上に逃げ出すか・・・
だが、この惑星にはＧＳＣにより恒星級のエネルギーフィールドが発生している
のを忘れたわけではありますまいに・・・」
ベアラードが言うように動きが遅い脱出船を幾ばくかの護衛艦と最大級のバリアフィールドで
守備を固める一方、マリーチャを始めとする艦隊は斜め上へと進行を開始していた。その先
に広がる無窮の暗黒空間には目には見えないが時空間の捩れに伴うエネルギーの嵐が吹
き荒れていた。このままいけば護衛艦隊は自滅する。
だが用心深いベアラードは罠の可能性も考慮し追撃を止めさせた。
ベアラード「ふ、私を罠にかけようというのかな・・見え見えだな・・・・全艦追撃は不要だ、敵を
上へと一斉射撃で追い詰める。」
包囲陣をさらに狭め、脱出船団に近づく第２機動艦隊。猛烈なビームの集中砲火にさらされ
脱出船団の防御フィールドは徐々に剥がされていく。
ベアラードは哄笑を浮かべ敵の主力艦隊の最後を見届けようとしていた。
士官「後５０ｋｍでＧＳＣフィールドに達します。」
ベアラード「ふははは・・・どうやら罠ではなく本気で逃げ出したらしい。いいぞ・・・ＧＳＣフィー
ルドに触れ消滅してしまうがいい！！」
士官「ＧＳＣフィールドまで後３０・・・２０・・・１０・・・・ん！、そ、そんな！？」
ベアラード「む、どうした？」
士官の慌て振りに気づきディスプレイを見上げるベアラード。そこには彼の予想を裏切る展
開がおこりつつあった。艦隊がＧＳＣフィールドを越えて外へ出ようとしていたのだ。
ベアラード「ば、馬鹿なこんな事ありえない・・・ＧＳＣ制御システムがたかが人間如きに打ち
破られるなど在ろう筈がない！！」
愕然とするベアラードにさらに追い討ちをかけるようにディスプレイ上の脱出船団の表示まで
もがＧＳＣフィールドの抜け道に向け動き始めたのだ。これを見てベアラードは完全に冷静さ
を失った。
ベアラード「闇の御方の復活に必要な贄を逃してなるものか！！全艦、直ちに追撃をかけろ
ーー！！！」
「ステンノー」以下第２機動艦隊はすぐに追撃体制にかかった。
猛スピードで脱出船団の行く手を遮ろうとする第２機動艦隊。傘のように脱出船団の行く手を
覆い上へと行こうとする護衛艦隊を孤立させてしまった。慄然として慌てる参謀達を横目にル
オンは時計をじっと眺めていた。そして、時間が１１時１４分を指した時ルオンは指揮席より立
ちあがり苛烈な怒声で命令を発した。
ルオン「全艦、急速反転！！この宙域より離脱せよ！！」
ルオンの急な変心に戸惑う参謀達、
参謀「し・・・しかし敵艦隊が目の前まで迫っていますが・・・・」
ルオン「かまわぬ！！敵に突撃して生き残るか、それともここで座して死を待つか！！私は民
と共に生き残る方を選ぶ！！」
声を大にして必死に訴えるルオンの怒声についに参謀達も折れた。そしてルオンの指揮の
もと強行して第２機動艦隊へと猪突する護衛艦隊、すでに脱出船団はその場から離れつつ
あった。高速で迫り来るマリーチャに完全に冷静さを失ったベアラードは砲撃命令を繰り返
した。
ベアラード「撃て！！撃て！！みんな撃ち殺してしまえ！！！」
ステンノーや回りの戦艦から数百の光の筋が放たれる。幾筋かがマリーチャを霞めその度
にマリーチャ艦橋の赤ランプの表示が増えていき、コンソールが放電し始めた。
士官「マリーチャ左舷装甲板大破！！エンジン出力低下！！敵艦隊なおも接近中」
参謀「こ、このままではバリアフィールドも持ちません！！」
流星雨のような激しい砲撃にさらされ、幾度もマリーチャは揺さぶられた。あらゆる方向から
の衝撃に揺さぶられ何度も倒れ掛かるルオン。頭から血を流しながら、それでもルオンは号
令をかけ味方を鼓舞した。
ルオン「恐れるな！！命を賭してでもこの壁を突き抜けろ！！」
互いに損傷を受けつつ交差する両艦隊。そして最後まで残った旗艦マリーチャが敵の攻撃
艦を突き破り包囲網から脱出に成功したのだ。砲撃を受けながらもかろうじて脱出に成功し
た護衛艦隊。反転して追撃をかけようとする第２機動艦隊。その直後だった。
士官「地上より高エネルギー反応検出！！当方に向け接近中、避けきれません！！」
ベアラード「何だと！！し、信じられぬ・・・私の艦隊が・・・私の第２機動艦隊がああああああ
あああああああーーーーーー！！！」
チュドドドドーン！！！
遥か地上より打ち出されたエネルギー：対消滅エネルギーにより取り残された第２機動艦隊
はステンノーもろとも飲みこまれ爆散消滅した。これによりアルカディアが誇る機動艦隊はそ
の全てが壊滅した。奔流に飲みこまれ消滅する敵をただ呆然と見つめる参謀達や士官。だ
がルオンはなにかを達成した充足感で満たされていた。
ルオン「アベル殿・・・・本当に感謝している。貴公の作戦なくば我々は全滅していた・・・・あり
がとう。」
ルオン達によりアルカディア機動艦隊消滅とＧＳＣフィールド一部消滅を確認したレジスタンス
達は直ちに大規模な脱出作戦を各都市で始めた。
ドラスゴー市：
幾重にも並んだ脱出艇の搭乗口には多くの市民が並んでいた。星が崩壊するかもしれない
状況の中それでも落ちついて市民達が行動したのはオセロファミリーの組織力とボスである
オセロの類まれなる指導力によるところが大きい。
オセロ「皆の衆慌てるな、搭乗者は女子供が優先だ。心配するな脱出艇はまだたくさんある！！」
テレポートサービス嬢「皆さん、落ちついて転送装置にお乗り下さい。」
脱出艇以外にも各地のテレポートサービスセンターから脱出船団へと多くの人員が転送され
ていった。テレポートサービス中枢センター長はオペレータや各都市のテレポートサービス嬢
に檄を飛ばす。
「転送率限界まで人々を送り出せ、いつこの星が崩壊するか分からんのだからな！」
アビオン市：
一方のトニーファミリーは大型の輸送艦を多く引きつれ、大量に避難民を押しこめ輸送する
作戦をとっていた。５０００人を押しこめた輸送船団がひっきりなしに飛び立つ中トニーＧは
避難民を前に証書を取りだし説明を始める。
トニーＧ「いいか後で１人１００メセタきっちり払うってこの約束手形に書けや！！そうすれば
向こうで面倒みてやるがな！がはがは」
二つのマフィアグループやレジスタンスの尽力により次々と人々を乗せた脱出艇が空へと打
ち上げられていく。多くの不安と少しばかりの希望を抱えて・・。
だがそれを遥か１３００ｍのビルの高みから冷ややかに見つめる闇があった。彼がいる部屋
からは亡者の喚きのような耳を塞ぎたくなる”声”が満ちていた。彼はその声をシンフォニーと
して心地よく聞きながら静かに微笑を浮かべていた。遥か空へと次々と打ちあがる脱出艇を
見上げながら彼はワイングラスにワインをなみなみと注ぐとそれを窓の外に掲げた。
イアム「ふふふ護り人達の戦いにより人々の心を覆っていた不安は晴れ希望が微かだが感じ
られるようになりましたか・・・・それはとても素晴らしいことです。何故なら希望は容易
に絶望へと姿を変える事が出来るのですから・・・希望という熟成段階を経て闇の絶望
の美酒が生まれる・・・どのような味わいになるか・・・・・・・全ての絶望にブロージット
（乾杯）」
彼は近づいてくる足音を聞きながらゆっくりとその美酒を飲み干した・・・。
激動の一日が終わるまで後２８分
ー第３２話 終ー
第３３話を読む
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