スペースクルーザー ランディール
第33話 始めよう、漆黒と悪意のロンド（輪舞曲）を
バヤマーレ時間ＰＭ１１：２９分
アルカディア総本部ビル最上階・・・迎賓室である、黒翼の間の重厚な扉の前にタイラー、
ジョディ、アレス、ミカの四人が集っていた。
アレス「とうとう俺達ここまできたんだな・・・・」
今まで多くの苦悩を振りかえるかのように感慨ぶかげに呟くアレス。だが、タイラーは
にべもなく答える。
タイラー「・・・・・ああ」
無表情なタイラーの姿にどことなく背筋が凍る冷たさを感じたミカが戸惑いながら横に
いるジョディに尋ねた。
ミカ「・・・・ジョディお姉ちゃん、タイラーお兄ちゃんの様子、すこしおかしくない？」
ジョディ「・・・・・何でもないわ、きっとタイラーは決戦を前に少し気分を落ちつかせている
だけだと思う・・・・。」
ジョディも先ほどからのタイラーの心理面の変化に得体の知れぬ不安を感じていたが
あえてそれを表に出さないようにした。
そんな二人の戸惑いを察してようやくタイラーはいつもの飄々とした表情に戻った。だ
が心の中に去来する不安と苛立ちに飄々とした顔の中にも陰がよぎる。
タイラー「・・・・・ジョディにミカ、すまない・・・・心配してくれて、でも俺は大丈夫さ、・・・何
でもない・・・・。で、ジョディ、何か感じる事はあるかい？」
ジョディ「・・・・・駄目ですね、ここにはテレパシーを阻害する結界のような力場が張られ
ています。何も感じ取れなくてごめんなさい。」
タイラーが普段の調子を取り戻した事に安心したジョディは周囲の空間を調査する事
に意識を集中させる。だが辺りを覆っている暗黒の瘴気が結界と化して邪魔をしている
のか、何も感じ取れる事が出来なかった。
タイラー「・・・・そうか・・・・アイナさんとオハリオさんもまだ来ないしな・・・・」
報告を聞いて考え込むタイラー、ここに来てから１０分以上立つが今だアイナとオハリ
オは到着する気配がなかった。幹部である真・邪神天王が驚異的な戦闘力を秘めてい
た以上この部屋に居るアルカディアの大ボスはそれ以上の力を持っている可能性を考
慮しなければならない。出来ることならアイナとオハリオのシーク竜奥義が揃うまで迂闊
な行動は避けたかった。
アレス「おい、タイラー、ここにアルカディアの大ボスがいる事は確かなんだ！！俺達だ
ってロウいやカオスブリンガー達を倒せた！！俺達より強いあいつ達が負ける
はずねえだろう。それにいつまでもここにいたら、敵の増援が来るかもしれねえ
ぜ」
逡巡しているタイラーにいい加減じれったくなったアレスが怒声をかけ一人で黒翼の間
に突入しようとしていた。
タイラー「・・・・・・しょうがない。ここは俺達だけで突入する！！ジョディ、アレス、ミカ行く
ぞ！！」
アレスの短絡的な行動にタイラーは肩をすくめる。だが確かにアレスの言う通り、この
ままここで待ちつづけても埒があかない。タイラーの掛け声に合わせ四人は黒翼の間へ
と突入した。
そこは広さにして縦横５０ｍの大広間だった。
黒大理石が床に敷き詰められた上には真紅のカーペットがひかれ、天井には豪華なシャ
ンデリアが煌煌と広間を照らしている。普段はパーティ会場として使われているであろう
その広間には長いテーブルの上に無数に並べられた豪勢な食事と賓客用の六人の椅子
だけ・・・後は奥の玉座に腰掛けている人物以外誰もいなかった。いささか拍子抜けした
タイラー達に、奥に居た男が優しく出迎える。
イアム「よく来てくれました。レジスタンスの若き英雄達よ。私がアルカディアグループの真
の総帥、イアム・ラフェールと申す者。席につきたまえ、今宵の素晴らしい晩餐の
一時を一緒に楽しもうではないですか。」
青みのある漆黒の黒髪を揺らめかせる影・・・・・白く透き通る肌に、漆黒と紺碧のコント
ラストがデザインされたローブを身に纏った青年は天使のような微笑を浮かべタイラー達
を出迎えた。言葉こそ丁寧ではあるがどこか嘲弄とした印象を感じる声音。アレスはその
全てが気に食わなかった。
アレス「・・・・へん、何を余裕ぶっこいていやがる。この陰険キザヤロウが。晩餐なんてくそ
食らえなんだよ！！それにてめえの幹部は俺達が全員ぶっとばしてやったぜ！！」
凄んだアレスだが、イアムはふっと笑みを浮かべると指をパチンと鳴らした。
それを合図に部屋の北面を覆っていたカーテンが開かれる。大きな窓ガラスからは外の
様子が窺い知る事が出来た。タイラー達がアルカディア総本部ビルに入るまでは空を不気
味に染めていた光球は何時の間にか消滅し、その代わりに次々と打ちあがる脱出シャトル
のスラスター光が夜空を照らし出す。その輝きにタイラー達はアベルの、仲間達の作戦が
成功した事を知った。
ジョディ「良かった・・・・アベルの作戦上手くいったんだ。」
ほっと胸を撫で下ろすタイラー達を横目にイアムは手に乗せたワイングラスを揺らしながら
悠然と語りかける。
イアム「・・・・・見なさい、君達の活躍により、我が機動艦隊が壊滅し脱出艇が人々を乗せ
この惑星パルマを離れようとしている・・・。今日の晩餐は残された星への哀惜と旅
立つ者達の幸福を祈って開かれたもの。共に杯を交わし彼等のこれからの旅路が
素晴らしいものになることを願いましょう。」
アレス「かーー、俺は無視かよう！！だいたいな、さっきから聞いているとてめーの言動は
いちいちムカツクんだよう！！このキザ野朗が・・・・・お、おいタイラー何をする？」
今にも飛びかからんとするアレスを手で軽く制し、タイラーは用意された席へと静かに手を
かける。だがその目はイアムの動向を探るように険しいものだった。己の内に沸きあがる焦
燥を押さえ、タイラーは努めて冷静に、自分の胸中にざわめく疑念を口にした。あくまでも冷
静に・・・。
タイラー「お相伴に預かり光栄だね・・・でも同じテーブルについて乾杯する前聞いておきたい
ことがある。ライダークは散り際に俺にいった。俺のくそ親父は生きていると・・・・
それは一体どういう事だ。」
ミカ「え？確かタイラーお兄ちゃんのお父さんって・・・・は、いけないいけない。」
ミカは記憶の中からタイラーの父親に関する事を思いだしたが慌てて口をつぐむ。そう、タ
イラーの父親は十年前に亡くなったはずなのだ。
一瞬の沈黙・・・イアムは口にふくみのある笑みを刻んでいた。
イアム「・・・・・さすがランディールの艦長でありあのタイロス閣下のご子息だ。リーダーらしく
いたって冷静な対応です。いいでしょう。その答えを教えましょう。」
タイラーの冷静な対応に感嘆するようにイアムは立ちあがり微笑を閃かせる。艶やかな黒
髪を揺れ動かし、妖しい笑みを浮かべるイアムはまるで生徒に教え諭すように言葉を紡ぎ
出し東西の壁面を指差した。
ゴゴゴゴゴ・・・
壁面が音を立て床に収まっていく。その時ジョディは壁の向こうから大勢の悲しみと絶望の
意識を感じ取り思わず叫んだ。
ジョディ「・・・え！！！・・・・・だ、だめーーーーー！！そこを開かないでーーー！！！」
だがジョディの叫びは壁の向こうから漏れ出る”悲鳴”の大合唱にかき消された。
壁にはオブジェが飾られていた・・・。ただのオブジェではない。それは人間の上半身が壁
に埋め込まれていた。しかもそのオブジェ達は『生きていた。』苦痛に、悲しみに顔を歪ませ
口々に嘆きを訴えていた。あまりのおぞましい光景にタイラー達の膝が震えていた。
タイラー「あ・・・・ああああ」
アレス「・・・・な、なんだよぅ・・・・これは・・・・」
ミカ「ひどいよぅ・・・・こんなことって」
”痛い痛い”
”くううう・・・・この肉体が陵辱されようと私の心はきさまに屈せぬぞ！！”
”あの子だけは、お願い手をださないで！！”
口々に泣き叫びあるものは苦悶を浮かべる凄惨な光景に仲間達は喉の奥がうめくような
痛みを覚えた。そしてタイラーは・・・・・彫像とされた哀れな犠牲者の中に見てはならない
者を見てしまったのだ。
他と違い憔悴に沈んだその顔はタイラーの父親・・・タイロスその人だった。
タイラー「・・・・お、親父・・・・そ、そんな・・・ははは、嘘だ・・・嘘だろおお！！」
タイロス”・・・その声はタイラーか・・・我が子にこのような醜態さらす事となろうとは・・・・
すまぬ”
父の諦観した哀れもない姿を見て、タイラーは全身が凍てつきそして爆発する何かを感
じた。衝撃と胸に湧き上がる衝動”憤怒”と”慟哭”がないまぜになった激情がタイラーの身
体を突きあげる。
？？？”イカレ・・・ニクメ”
もし部屋を支配する闇の瘴気がなければジョディは察知したであろう。タイラーから沸き
あがる、緑と真紅の闇の波動を・・・。
イアム「そう、確かに君の父君は生きておられる。数百年もの間アルカディアに挑んできた
多くの英雄達と共に今でも、こうして仮初の命を与えられてねえ。アルゴル中の芸
術館でもおそらくこれほど美しい彫像はないでしょう。まさにアルゴル最高の至宝
とすら言ってもいい。」
イアムはその様子を、満足げに眺めると、嫣然と笑いながらまるで自分のコレクションを
自慢するかのようにそれぞれの哀れな犠牲者に手を取り愛らしげに摩った。ゆっくりと歩き
ながら自分の芸術を自慢していく、イアムにアレス達は言葉も出ない。その歩みがピタリと
止まった。
”頼みます、イアム様、私を殺してくださいぃ。へへへへへ”
目の前には涎をたらし、白濁した瞳に狂気の曇りを宿した哀れな犠牲者がいた。もう何百
年そこにいたことだろう。命の尊厳を極限まで踏み捩られ、男の精神は粉々に壊れていた
のだ。その様子を悲しげな瞳で見つめるイアム。
イアム「ですが、その至宝も幾百年たつと残念ながら壊れてしまうものなのです。悲しき世の
無常とでも申しましょうか・・・。しかし壊れていくのもまた芸術・・・・宇宙が開闢してか
らの百億年の間で僅か数秒だけ存在できる美しき芸術なのです。」
悲しみを湛えていたイアムの紅の瞳が刹那に、酷薄な輝きを放った。そして哀れな犠牲者の
顔面にゆっくりと手をかけると力を込め始める。
ミシ・・・ミシ・・・グジョ・・・
厭な音が部屋に木霊する。
自らの運命を知った犠牲者が歓喜の声をあげる。
”ひ、ひひようやく死ね・・・いやだ・・・やはり死ぬのはいやだああああああ”
だがそれは死を目前にして悲痛な叫びへと変わった。それでもイアムはそれを楽しむかの
ように天使のような微笑をうかべさらに力を込めた。
その光景を目の当たりにしてタイラーの中で押さえ込んでいた何かがプツリと切れた。
タイラー「やめろよ・・・・イアム！！もうこんな事はやめろーーーーーーーー！！！！」
血走った瞳、鬼気とした恐ろしい形相でタイラーは手に剣を取り憤怒に任せてその剣をイ
アムの頭に切りかかった。 アレス達も凄まじきまでのタイラーの変容に動けなくなった。
だがイアムは手にした犠牲者の頭をクシャリと潰すと返り血を浴びた手を掲げ二本の指で
猛進するタイラーの剣を挟み平然と受け止めた。
イアム「無駄です・・・君に私は殺せない。だがその闘志に敬意を表し漆黒のロンドと共に
戦いの舞踏を始めてさしあげよう。」
そう言い終わるとイアムは手を軽く動かし指で剣を掴んだタイラーごと薙ぎ払った。その
動きに合わせるかのように大きく白く輝く衝撃波が発生し立て続けにアレス達に襲いかか
る。床のタイルを砕きながら進む衝撃波を辛うじて交わすアレス達。通りすぎた後には深く
大きな溝が穿っていた。イアムが繰り出す衝撃波の凄まじさにアレスの声も震えた。
「信じられねえ・・・・手を軽く動かしただけなのに衝撃波の威力はあのカオスブリンガー以
上じゃねえか・・・。」
衝撃波を受け柱に倒れこんだタイラーにジョディが近寄り、傷ついたタイラーの身体に手
をあて回復テクニック「ラレスタ」を唱える。機械の身体の修復機能も合わさって動けるま
でに回復したタイラーがすまなそうにジョディに声をかけた。
タイラー「俺は・・・どうもさっきから血の気があがるのが多いな。ジョディ・・・俺のミスで君が
危険を侵すことはない。危ないと判断したらすぐに逃げてくれ。」
ジョディ「艦長・・・それでも私はあなたについていくわ。だから今は少し黙って私の回復テク
ニックを受け取ってください。」
タイラー「・・・・わかった。よろしく頼むよ。」
支え合い命を共有するタイラーとジョディをイアムはしたり顔で眺め、冷笑をうかべる。
イアム「人は進化する中で種を保存するために愛情という感情を獲得した。なるほど・・・確
かにお互いに支え合えば生き残る可能性は高まるでしょう。ですが・・・状況が予想
される範囲よりも悪化した場合、それは命を削る枷にしかならないのですよ。例えば
このようにね！！」
静かに言うとイアムはまるで教会の大天使のように大きく浮かび上がりながら腕を伸ばし
手を広げるとまるで羽ばたくかのごとく手を幾重にも振りかざした。そこから巻き起こる無数
の衝撃波は床を大きく抉り取りジョディ達の方へと迫っていく。
アレス「ち、あのばか・・・間に合うか！？」
ミカ「お姉ちゃんに届いて私のデバンド！！」
アレスが走り、ミカが懸命に手を翳し二人の前に防御フィールドを張ろうとするが浮遊する
イアムの動きは早く、間断なく衝撃波を放つため至近距離に近づくことさえ難しい。防御テク
ニックも衝撃波がおこす位相のずれにかき消され十分な効果をあげることができずにいた。
ミカ「そんなデバンドの効果が打ち消されるなんて、アレスお兄ちゃん、急いでーーー！！」
アレス「わかっている！！こん畜生があーーー！！」
衝撃波の餌食になろうとする二人、だがその時、扉を開きアイナとオハリオが駆けつけた。
オハリオが剣戟で障壁を作りだしアイナがワーラでそれを補強する。嶂気の壁にぶちあた
った衝撃波は進路を遮られシャンデリアを壊しながら天井に大きな穴を穿った。
オハリオ「まったく、君達は世話をかけさせてくれるよ。」
かろうじてイアムの攻撃を防いだオハリオが半ば呆れた声でそう呟く。
タイラー「あんた達なら俺達の危機にかけつけてくれるだろうと思っていたよ。なんせあんた
達は弱きを護るシーク家のご頭首様だろう。ノーブルズ・オブリッジ（貴族の義務）
っていうんだっけ、こういうのを。」
アイナ「そうですわね、貴族とは特権と引き換えに己の命を賭して領民を護らなければなら
ない・・・そう私達はおじい様から教わりました。旧い考えとは思うのですけどね・・・・。」
アイナはそう朗らかに微笑むと二人の回りの防壁をさらに強化した。
アイナ達が来てようやく元気を取り戻したタイラー達、その光景を上から眺めていたイアム
がアイナ達に対し慇懃に深深と頭を下げる。
イアム「これはこれはシークの姫君とそれを護るナイトのご到着。ふふ、これで招待した来賓
はすべて揃いましたか。では絢爛に彩られた血の祝宴さらなる余興と参りましょう。」
そう高らかに宣言するとイアムは高速移動で迫ってきた。
アイナ「タイラーさん、それに他の方々も真実の書で得た感覚を思い出してください。真・邪神
天王を撃破したあなた達ならダークファルスの間合いをつかめるはずです。」
タイラー「あれがダークファルスだっていうのかい！！」
アイナ「ええ、信じられぬことですが・・・あのイアムはダークファルスの擬態した姿です。」
イアム「ひどい言い様ですね・・・私はこの姿をたいそう気に入っているのですが。真・邪神天
王と違いこの姿は私の身体を変化させたもの・・・いわば精神と物質の中間的な存在
といえるものです。あなた達人間のような身体も心も脆い一時の夢幻と違って」
イアムは不敵に微笑を返すと、手を剣状の物体へと変化させ鋭い剣檄を穿った。ライダーク
と同等の鋭い剣の一撃を背で逸らすタイラー。
タイラー「くっ・・・なんて鋭い太刀筋だ！！」
アイナ「どうやら私達に語らせる時間さえ与えてくれないのですね。」
振りかえりざまに迫るイアムの剣激をヌーンで違う場所に転送するアイナ。その隙にミカが
跳躍しラコニアクローを手に幾体にも分身し、イアムに攻撃を加える。
だが後一歩で届くその間合いからイアムはさらに高く跳躍すると下を見下ろし
イアム「さあ、地獄の底にいまし、哀れなる魂よ我が傀儡と化し舞踏のように踊るがいい」
イアムの声に呼ばれる様に床から無数の刺状の物体『ダーバント』が現れた。無数に集い
浮遊を始めたダーバントは、回転しながらミカの身体を切り刻もうと高速で迫ってきた。
ミカ「もう、しつこいよーー！！来ないで」
分身が引き裂かれ尚も迫ってくるダーバント、もはやミカはイアムを攻撃する余裕をなくし
ダーバントをかわすだけで精一杯になっていた。その前に顎に手をあて微笑みかけるイア
ムが立ちふさがった。
イアム「ミカ嬢、あなたは覚えているでしょうか・・・・人は群れで行動する生き物だという事を、
人は異質な物が入ってくればそれを徹底的に排除しようとするものです。」
ミカとイアムの回りを回転するダーバントは揺らめきながら人の歪んだ笑顔を投影する。
ダーバントの声”醜イ、バイオモンスターメ殺シテヤルゼ”
”化ケ物ニハ生キル権利ナンテナインダヨ”
それは１年前までミカを迫害していた人間の残虐な一面そのままに。ミカの脳裏に悪夢
のような光景が蘇り、身体が恐怖に動けなくなってしまった。
ミカ「ひ・・・い。いやだよぅ、こないで、もうあたしを虐めないで！！」
恐怖に囚われ落ちていくミカを追い、ダーバントがその周りに回転しながら展開し華奢な
身体を切り刻もうとしていた。その時アレスがミカと彼女を切り刻もうとするダーバントの間
に割って入った。
アレス「まったく危なかっしくてみてられないぜ！！」
ミカ「ほえ？」
地上でもダーバントと戦っていたのであろう。身体には幾本もの切り傷ができていた。傷
ついているにも関らずアレスはミカをかばうためあえて自分の身体を盾にした。
ミカ「あ・・・アレスお兄ちゃん！！」
ダーバントに激しく切り刻まれ、血を噴出しながらそれでもミカを庇うアレスの姿にミカの
心は熱くなる。
アレス「ミカ、てめえは過去に囚われすぎなんだよ。あの時ネイ達から教えてもらったはず
だぜ。俺達は生きるべき未来を自ら切り開くってなあ！！」
アレスの力強い言葉はいつもミカに未来への希望を見せてくれる。ミカはジャコウネコの
姿を取りアレスを背にのせると、高く舞い上がった。
ミカ「うん、そうだよね。未来への希望決してあたしはなくさないよ。ねえお兄ちゃん、あたし
前から合体技をためしてみたかったんだ！！今やろうよ！」
すっかり明るさを取り戻したミカにアレスも苦笑しながら了承する。
アレス「へん、まったく困ったバカ猫だ！！だがその提案乗った！！じゃあ行くか！！」
ミカ「もうミカはバカ猫じゃないもん！！じゃあ、ディスプラクト！！」
迫りくるダーバント軍団にアレスを乗せたままミカは幾重に分身しそして上に乗ったアレス
が斧を振りかざす。
「そしてスィーピング！！」
アレスとミカ「合体奥義、サウザンドアックスシューター！！」
アレス達から放たれた、数百にも及ぶ斧の斬撃が部屋を駆け巡りダーバントの群れを粉砕
していった。
タイラー「相手に隙を与えるな、メイルシュトロームブレイザー！！」
オハリオ「分かっている！！シークの東方を守護せし風神青竜よ汝の猛々しき風の流れを
我が剣に宿らせ敵を吹き払え奥義、颶嵐竜撃剣！！」
タイラーの剣から出される水流の流れとオハリオの風が生み出す流れが合わさり、ダーバ
ントを押し流す。床面でもタイラーとオハリオが剣技でイアムとダーバントに攻撃を加え
アイナ「ジョディさん、生半可な攻撃でダークファルスにダメージを与える事は不可能です。私
達の役割わかっていますね。ロー！！」
ジョディ「はい、タイラー達が全力を出して闘えるよう私達が援護する・・・ですよね、シフタ！！」
アイナとジョディが距離をとってテクニックでサポートする布陣をとっていた。緩急すばやく立
て続けに衝撃波を放つ、イアムとダーバントの連携攻撃は恐ろしいほど隙がなかった。その
猛攻に対するにはこちらも連携を取り相手に隙を与えず連続攻撃をしかけるしかなかった。そ
れでも攻守のタイミングがずれるとイアムはダーバントを撒き散らしながら衝撃波を同心円状
に放ってくる。
アイナ「ワーラ！！」
ジョディ「デバンド！！」
迫り繰るダーバントと衝撃波の混成攻撃に二人はそれぞれ違う原理の防御結界を展開し
それをすんでの間合いで何とか防いだ。 だがその防壁をイアムは右手をより大きな大剣
へと変化させ蜂のように鋭く突き刺すと防壁は粉々に打ち砕かれた。
アイナとジョディ「くっ！！」
イアム「人とは悲しいものです。人は理解できぬ者に対し心に見えない壁を作り出す。そして
その壁は時に他人の心をズタズタに引き裂くのですから。ある意味魔族よりも冷酷
なのかも知れませぬ。」
防壁が粉砕された隙から再び衝撃波が巨大な瓦礫と共に放たれアイナ達がまたそれを防
壁結界で防ぐ。こんな相手に無防備で挑むわけにはいかなかった。一進一退の激しい攻防。
そこに上のダーバント軍団を片付けたアレスとミカが急降下しながらイアムに必殺の一撃を
加えようしていた。
アレス「頭ががら空きなんだよ！！食らえ俺の渾身の一撃ブレイクアックス！！」
闘気を身に纏い渾身の力を込めて、斧を振るう、アレス。イアムはそれを高速で飛翔して
かわそうする。だがアレスの渾身の一撃はイアムの左手を切り落とした！！
アレス「やったぜ！！これで衝撃波は放てないぜ！！」
アレスはガッツポーズを取り勝利を確信する！
だがきょとんとして切り落とされた腕を眺めていたイアムは、不敵な笑みを浮かべた。すると
周囲の瘴気が集まり左手が瞬時に復元してしまったのだ！！
アレス「お・・・・おい嘘だろぅ」
タイラー「奴は不死身なのか！！」
さしものタイラー達も驚愕のあまり声を失った。
その僅かな隙にイアムはアレスの前に高速で移動して来た。口元に嘲りの半月を作りイア
ムは天使のように神々しくアレスに囁きかける。
イアム「アレス君、あなたは覚えていますでしょうか・・・人は闘いになればいかに残虐で非道
になれるかを・・・。それは山を燃やし尽くす烈火の炎に例えられるでしょう。草木や
小動物が炎の前から逃れざれず死んでいくように戦争では弱い者から消えていく。
奪い侵し、そして殺す・・・。まさしく地獄の業火ではありませぬか」
アレス「・・・・・う、うるせえ！！地獄の業火なんて俺はいくらでも体験しているんだよ！！」
イアム「では見せてあげましょう・・・本当の地獄の業火を」
イアムは静かにそう言うと手を大きく振るった。
すると、衝撃波とともな猛烈な業火が噴き出してきた。いやそれはただの業火ではない。中
になにかが蠢いていた。それは・・・炎の中で焼け爛れ、どろどろになりながら、狂えるほどの
怒りに支配され手に武器を取った人間の姿だったのだ。
亡者たちの声”殺シテヤル・・・生キテイル者ハ皆殺シダ！！”
”ウバイツクセ、金品、命、価値ノアルモノ全テ！！”
業火と共に襲いかかる亡者達がアレスとミカを食らおうと襲いかかる。炎は先ほど飲みこま
れたレムレス達よりもさらに熱く感じられ、迫りくる亡者達にアレスは抵抗したが効果がなく、
そのまま炎に引きずり込まれそうになる。
「お兄ちゃん諦めないで」
だがミカは必死にアレスを励ましアレスを取られていた亡者達をクローで引き裂くと即座にム
ワーラを展開した。
オハリオ「西方を守護せしシークの守護神氷神白竜よ、極寒の凍気にて氷柱、氷楯を我が剣
に宿らせ我が前に立ちふさがる災いを払い穿つ凍気の刃と化せ、奥義、氷刃竜撃
剣！！」
そしてオハリオの詠唱に従い白銀の鱗の散布されたダイヤモンドダストが白竜の姿を取り紅
蓮の業火を亡者ごと飲みこんだ。
ミカとオハリオの援護で辛うじて救われたアレスにジョディがラレスタをかけ回復させていく。
アレスは闘いに向かうオハリオに声をかけた。
アレス「オハリオ、あんたには礼を言わなくちゃな、あんたのおこす極寒の冷たさが俺の滾りす
ぎる頭を冷まさしてくれた。おかげで目、さめたわ！！」
オハリオ「すまない、今は礼を聞くひまはないんだ。この闘いが終わったら・・・・いくらでも聞い
てあげる事にするよ。」
アレス「へん、よく言うぜ！！」
そういうとアレスも立ちあがり、ミカと共に攻撃に加わる。六人がかりで連打してイアムに立ち向
かうタイラー達。
タイラー「１人では無理だとしても！！アクアンカトラス！！」
オハリオ「そうだ！別方向から同時に攻めれば隙が生まれるはず！！連打するんだ！！」
タイラーとオハリオが先制して攻撃を加える。連打して左右から挟撃する剣戟。ミカやアレス
も後を追い、一撃を加えようとする。だが
イアム「１人より大勢の方が強い・・・確かに、ですが残念ながら私には通じませぬ。」
イアムは涼しい顔でオハリオの剣を左手の衝撃波で受け流し、タイラーの剣を右手の剣で
切り結ぶ。
タイラー、オハリオ「く！？」
イアム「ね、言ったでしょう、大勢でかかっても私の衣にすら触れられない。代わりにいいもの
をあげましょう。右手に憎悪の炎を・・・左手に拒絶の衝撃を・・・これこそあなた達人
間が長きに渡りおこなってきた戦いの本質！」
イアムは右手の炎と左手の衝撃を合わせ交差させて一気に解き放った。
亡者”クラワセロ！！腸、腕、脚、頭、クラワセロ！！”
衝撃に乗って炎に包まれた亡者の顔が防御結界を食い破りながら再度攻撃を仕掛けようと
した男性陣に襲いかかる。 ジョディ達が新たなる防御結界を展開するが、それでも、タイラー
やオハリオは亡者の顔に食い破られ脚や手に深い傷を負ってしまった。
アレス「素早え！！隙が見えねえ！でもやるしかねえぞ！！」
ミカ「お姉ちゃんあたし達が攻撃を加えている間にタイラーお兄ちゃんたちにヒールをかけて！！」
アレスとミカが攻撃を加えイアムの連続コンボを防いでいる間にジョディ達が回復テクニック
で癒したおかげで事無きを得たがこのまま防御テクニックと回復テクニックを使いつづければ
ＴＰが底をついてしまう。
それにしても・・・・
闘っているみんなが思った。
先ほどから何度もダメージを与えているはずなのに、イアムはまったく疲労の色を見せない
・・・それどころか、次々と新たなる攻撃手段を繰り出してくるイアムの底知れぬ力にタイラー
達は苛立ちと焦りを感じ始めていた。
そして今も回復テクニックで仲間にラサレスタをかけるジョディの前にイアムが飛翔しながら、
ジョディの周囲を浮遊し、静かに囁いた。
イアム「ジョディ嬢・・・あなたはこう感じた事はありませんか？人はいかに冷酷かと言う事を。
テレパシストであるあなたなら理解できるはずだ。自分より上のものを妬み利用し引
きずり下ろす。自分より下の者を見下し嘲笑する。まさしく絶対零度よりも凍てつく
人間の愚かな一面を・・・」
そう言いながらイアムは闇の瘴気と極寒の冷気を纏わせ手を大きく薙ぎ払うと氷結の氷と
白い冷気が凍てついた嗜虐的な人間の顔を纏わせジョディに覆いかぶさってきた。
”メザワリナンダヨ、アイツハ”
”私ダケナンデ苦シイ思イヲ、同ジ苦痛ヲアジアワセテヤル”
”アノミスボラシイ姿ハ見ル二耐エラレナンナ社会ノ屑ナド排除シテシマエバイイ”
目の前に迫る冷気の衝撃波に浮かぶ人間の顔・・・人の冷酷な一面をジョディは今までの
人生の中で感じ取りその度に傷ついてきた。それでもジョディは立ちあがる。
ジョディ「確かに人間にはそういう冷たい一面があるのは事実だわ、でも、人間にはそれに
対する友情や愛といった暖かな感情もあるのよ！！私は人間に暖かな感情があ
るかぎり決して絶望したりしないわ。」
ジョディが力強く言うと、コラボレーションガンにフレエリ弾を込める。
ミカ「ジョディお姉ちゃんだけじゃないよ、あたしやアレスお兄ちゃんそしてタイラーお兄ちゃん
だって人間の暖かい心を信じて闘っているんだもん。」
アイナ「ええ、私やオハリオもあなたと同じ気持ちです。いや私達だけではない、今懸命に明
日を生きようとする多くの人間が同じ思いを持っているはずです。」
何時の間にかジョディの横にはミカとアイナが立ってコラボレーションガンに力を送っていた。
二人の思いに励まされ今ジョディはその引きがねをひく！！三人の思いが込められた銃弾が
魔力を展開しそれが灼熱の炎と化して冷気の津波をぶち破りそして、悠然とかまえていたイア
ムにぶち当たった。
イアム「ぐおおおおお！！・・・・ふ、ふふ人の暖かな心ですか・・・所詮幻に過ぎぬと言うのに・・・
ふふふ」
三人の思いのこもったテクニック弾を受け始めてイアムが苦悶の表情を浮かべた。そしてその
隙をタイラー達は見逃さなかった。
オハリオ「この好機を無駄にするな。一勢に最大級の攻撃をかけるんだ！！烈光竜撃剣！！」
タイラー「言われなくてもそうするよ！！レイブレード！！」
タイラーの剣技が、アレスの渾身の一撃が、ミカのクロー攻撃がジョディのコラボレーション
ガンが、アイナとオハリオの竜奥義が連続してイアムに直撃する。イアムも衝撃波や地獄の
業火、氷結の波涛を繰り出すが先ほどまで勢いはなかった。
損傷と再生を繰り返すイアム、しかしタイラー達の攻撃の勢いの方が強い。
アイナとオハリオ「至高にして地を海を天を巡りし五色の龍神よポウムの力今こそ束ね我に
刃を向けし者に八旁の裁き与えられん！！シーク究極奥儀！！五式龍神
閃光乱撃！！！」
オハリオとアイナに召還された五色の竜がイアムを飲みこみ砕き、すり潰す。ローブが傷つき
黒い血を流しふらつくイアムにタイラーは光の刃でその胸元を切り裂いた。
「これで終わりだ！！クロスソード！！」
胸を十字に引き裂かれたイアムから黒き鮮血が止め処もなく溢れ周囲を黒く塗りつぶす。
だがイアムはふらつきながらも微笑をたやすことはなかった・・・・。
イアム「ふふふふ・・・・見事です。私をここまで追い詰めるとはどうやら私も本気をださないと
皆様に失礼というもの。さあ絢爛たる祝宴本日のメインディシュと参りましょう。ふふふ
ふふ・・・あははははははははは！！」
そう言うと憔悴したイアムは両手を大きく広げ目を見開いた。そして口を大きく広げると・・・・。
中から黒い瘴気と共に内臓が木の枝のように飛び出し、それらが壁面に飾られていた哀れな
英雄達を取りこんでいく。部屋の床が人の苦悶とした顔に覆われ、闇の瘴気が部屋を包む中、
そこには恐ろしいほど大きく禍禍しき異形が具現化していた。
ダークファルス「ウグワアハッハッハ、私の名はダークファルス！！滅びのためにもたらされた
もの！！」
蒼い髑髏のような禍禍しい形相に肩からは取りこんだ多くの英雄達が苦悶に満ちた叫びを上
げていた。千年に一度蘇る邪神・・・。
周囲に満ちるあまりの邪気に言葉を失うタイラー達。
アレス「これが・・・・・ダークファルスなのかよ。」
オハリオ「ああ、しかも今まで現れたどの姿より禍禍しく悪趣味だ。」
迫りくる暗黒のプレッシャーにアレスも思わず汗ばむ。
ミカ「重苦しいよぉ・・・この気配。」
周辺を覆う瘴気にミカの身体が震える。震えるミカの手をジョディは母親のようにしっかりと握
った。
ジョディ「大丈夫・・・闇を恐れては駄目よ、私が必ず護るわ」
暗黒を纏い威圧的に構える魔王を前にそれぞれが決断を迫られるなか、
タイラー「おやじ・・・なんでだよ・・・なんでこんな事になっったんだよ！！」
父タイロスをダークファルスに取り込まれたタイラーは悲痛な思いで
叫ぶほかなかった。
激動の１日が終わるまで後１３分・・・。そして・・・。
ー第３３話 終ー
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