スペースクルーザー ランディール
第34話 泥濘の間奏曲
ダークファルスとタイラー達が決戦を迎えようとした丁度その頃。
各地で脱出艇が避難民を乗せ宇宙に飛び立つ中、アルカディア総本部ビル周囲
２ｋｍの市街地ではいまだ魔族とレジスタンスとの激戦が続いていた。
だが魔族は強大でレジスタンスはその戦力は徐々に分断されていった。
お互いに連絡すら取れぬ状態で次第に焦燥感がそれぞれの心に重く圧し掛かって
いた。
ビルに取り残された人達の避難経路を確保しながらスタージェーン達は脱出艇へ
と歩を進めていた。
スタージェーン「ちっもう、追いついてきたようね！！」
だがその前に湾曲した刃のような身体を持つ魔族ゴランが複数で立ちふさがったの
だ。 恐慌状態に陥る市民達。
市民「ひ、ひええ化け物がこっちに来る！！」
スタージェーン「もたもたまごついている暇があるんだったら、けつまくって逃げな！！
あんた達を庇うほどこちらも余力がないんでね！！」
そう悪態をつきながらもしっかりと市民達の前に立ち奮闘するスタージェーン。その
間にもゴラン達は彼女の間合いを計るかのように近づくと突如腕の刃を槍のように
長く伸ばしていく。
彼女の間合いを見きったかのように嘲笑を浮かべ、手刃を振りまわし切りかかるゴラ
ン達。だがスタージェーンは慣れた手つきでゴラン達をを鞭で縛りあげた。
束縛は一時成功したかのように見えた。しかし、ゴランは「キエエエ」という奇声を発し
必死に抵抗を試みる。そして刃のような全身をわななかせ体がすっと消えかかる。
”ゴラン”種特有のテレポート能力である。
スタージェーン「やるじゃないか・・・だがあたしの鞭から逃れた獲物は今まで一度も
いないんだよ！！」
だが獲物の突然の逃走にもスタージェーンは慌てる事無く不敵な笑みを見せた。鞭
を引き上げると消えかかっていたゴラン達が悲鳴をあげ再び締め上げられる。そして
鞭に彼女が振動を与えるとゴランはばらばらに引き裂かれた。
呆然とする市民達を手でシッシと払い避難場所へと誘導するスタージェーン
スタージェーン「はいはい、早く逃げな！！脱出艇はもうすぐそこだよ！！」
市民達が脱出艇の待機してある集合場所へと向かう、傍らで集合場所の方からルセ
ロがスタージェーンの方へと走ってきた。
スタージェーン「遅いじゃないか、ルセロのじいさん！！・・・・・」
非難の目を向けるスタージェーンに対し
ルセロ「悪い悪い・・・・弾を補給するのに手間取ってな。」
ルセロは弾頭運搬用リュック の手入れをしながら軽く謝る。が、悪びれもしないル
セロのしれっとした態度にカチンときたスタージェーンは冷たい半眼を送りながら苛
々と喚き散らし始めた。
スタージェーン「あんたが後先考えずばかすか無駄弾を撃ちまくるからだよ！！大
体あんたも最初に撃った時にこいつらがテレポートするのを見たで
しょうが！！」
ルセロ「・・・・し、しかしだなあ乱射すればその内一発は当たると・・・」
カチンときた女性ほど恐ろしいものはない。その事をいやというほど経験している
ルセロは何とか弁解しようとするがスタージェーンはそれを一喝で黙らせた。
スタージェーン「しかしもへったくれもないよ！それが無駄弾って言うんだよ！！
ふう・・・・・・・・それにしても、なんだいなんだい、ここに来てこいつら、
強くなっているじゃないか」
散々ヒステリックに叫んで少しは気が晴れたスタージェーンは気持ちを切り替え、
先程切り裂いたゴランの死骸を静かに見下ろす。そして戦ったときに不審に思っ
ていた疑問点を口にした。ルセロも彼女の横に並び、どろどろに溶け始めたゴラン
の死骸を眺めながら彼女の推考に同意する。
ルセロ「ああ、確かに３０分前から俺のミサイルパッドが当たっても死なない奴が出
て来始めた。仲間達も各地で押され始めているらしい・・・・そうだな、俺は
あの黒雲が怪しいと思っている」
そう言うとルセロはおもむろに夜空を見上げた。射出される脱出艇のスラスター
光が立ち込める雲を散らし夜空を明るく照らす中、ルセロの見上げる方角・・・アル
カディア総本部の周囲だけが禍禍しき紫紺の色の暗雲に覆われ、雷が轟いていた。
それを見るルセロの顔から軽薄な表情が消え一点を見つめる目つきが鋭くなる。
ルセロの鋭い表情の変化にスタージェーンも多少の不安を感じ一緒にアルカディア
総本部の方向を眺めた。
スタージェーン「アルカディア総本部周辺のかい、・・・・確かにさっきより雷が激しく
なっているような。心なしか色合いも不気味だねえ」
ルセロ「正直、悪い予感がするな・・・・あの紫色に鈍く蠢く暗雲、俺がデゾリスの鉱
山で三年前に見たやつといやなほど似ていやがる。」
ルセロは既視感と恐ろしいまでの不安を感じながら暗雲を見つめていた。生まれ
故郷を出ていかなければならなくなったあの時、彼は確かに見たのだ。スクレの地
下坑道から天空に向け湧き上がる巨大な紫色の暗雲を・・・。
スタージェーン「三年前っていうとパルマ人がほとんど避難しなくちゃいけなかった毒
ガス事故のことかい？」
暗雲を見て呟いたルセロの言葉を聞き、スタージェーンがＡＷ１２８１年にデゾリス
全体を覆った遺伝子変異をもたらす毒ガス流出事件を思いだし尋ねる。ルセロは
一瞥すると独り言のように言葉を続けた。その手にはビジフォンが握られている。
ルセロ「ああ、もしかするとあの時と同じ、いやそれ以上の災いがおこるかもしれね
え・・・俺達が戦うのもそろそろ潮時かもな、とりあえず散らばった仲間達と
何とか連絡が取れればいいんだが・・・。」
連絡が途絶え途絶えになっているビジフォンを握り締めルセロは胸中に湧き上が
る漠然とした不安と焦燥感で鋭い面立ちに慙愧にたえぬ苦痛を浮かべ自嘲的に呟
いた。それを見ていたスタージェーンは肩をすくめてあっけらかんと言った。
スタージェーン「ここでうだうだ待ってってもしょうがないさね・・・走り回っていたらその
うち合流できるだろうさ・・・・」
と気ままに走りながら言うスタージェーンに
ルセロ「おまえは長生きするよ・・・ま、しょうがねえな！！」
ルセロは半ば呆れながら重量級のミサイルパッドと弾頭運搬用リュックをいくつも抱
えスタージェーンの後をついて駆け出した。
一方、アルカディア総本部地下でハッキング作業を行っていたハル達。彼らはマザ
ーブレインとパルマ諸施設の端末の回線を遮断する作業が終わった後もセキュリテ
ィホールにいろいろなトラップやダミーを仕掛けていた。おそらく地球人の機動要塞
ノアもこの異常事態を感知し収拾に乗り出している頃合だ。パルマ全域の避難が完
了するまでは収拾作業を妨害しなければならない。そのための時間稼ぎである。
それらの作業も先ほど一区切りがつきハルは額の汗を拭うとダロスと端末の接続を
解除しようやく一息ついた。
ハル「ふう、マザーブレインからの再接続行動を予防するための攻性防壁も展開した
からこれで後２時間は持つかな。」
大仕事を終えたハルに通信していたミラー博士は労いの言葉がかけた。
ミラー「ご苦労様、ハル君おかげで作戦は無事にコンプリートしたよ。後は、敵の増
援がこない内にそこから退避した方が・・・・・・」
尊敬しているミラー博士からの労いに思わず蕩けそうな表情で嬉しがるハル君。
ザーー
しかし、ミラー博士の画像は突如、激しいノイズが走り通信が途絶えてしまった。
ハル達に緊張が走る。
ハル「博士・・・・どうしたんです！博士」
不安にかられ聞いてみたところで返答は返ってこない。その横でハックは今起こって
いる事を頭の中で整理しながら推測を述べる。
ハック「ジャミングか？だがアルカディアの主力艦隊は消滅した今奴等に何のメリット
がある？」
ハル「・・・・た、確かにそうですよね。脱出船団の全てを破壊できる力はアルカディア
にはもう残っていないですし。」
ハックの冷静な態度と推論にハルも落着きを取り戻した。だが落ちついて考えて
みたところで、敵の意図を掴む事は困難に思えた。判断材料があまりに少なすぎる
からだ。釈然とせず考え込む二人に仲間のモタビアンが声をかける。その手には太
い配線が握られていた。
モタビアン「おいハック、この配線さっき切断したはずだよな・・・？」
ハック「ん・・・ああ、確かに言われてみればそうだな。・・・おい、誰か繋いだのか？」
仲間のモタビアンが言う通り、その配線はハッキングをするために切断したものの
一つだった。だがそれは最初から切断などされていないように元の状態に戻っていた。
ハックは配線を手に取り不審そうにそれを眺めると誰ともなしに仲間達に訊きかえす。
しかしハックの仲間達は首を横に振るばかり。埒があかないという感じでハックが頭を
かいているとハルの乗ったスーパーダロスがアーム部を可変させながらハックの横に
来た。
ハル「・・・・・・ハックさんちょっとその配線を走査してみます。グレートダロス２６の機
能の一つ走査センサー「教えて君」モード起動！」
そう言うとスーパーダロスはハックから問題の配線を受け取りアーム部の各種セン
サーを起動させるとセンサーの先端部を配線に刺入させた。
ハック「教えて君ねえ（汗）・・・・」
センサーに一々けったいな名前をつけなくてもと思う・・・・ハックだが頑張っている
ハルを見ていると口にするのはさすがに憚られた。その間にもセンサーで収拾され
た構成物質の情報が解析されモニター上にデータの羅列やグラフなどで表示されて
いく。それを逐一注視しながらハルが自分なりの結論を語った。
ハル「ふんふん・・・・数ナノｍの分子複合体・・・というより機械かな・・・・やっぱりこれ
ナノアセンブラーです。」
ハック「ナノアセンブラーっていうと数ナノｍの分子機械で修復機能を専門とするタイ
プだよなあ？」
ハル「ええ・・・・でもこれ、配線だけじゃなく、このビル全体を形成する構造体にも含
まれているみたいですよ。」
ハック「なるほど設備管理にナノマシンねえ・・・確かに１３００ｍの超高層建築なら自
動で修復するナノマシンの方が経済的ではあるはなあ」
正直、ナノマシン関係にはあまり関心がなかったハックだが説明を続けるハルの
言葉に軽く納得し相づちをうった。だがハルはデータを解析していくうちに奇妙な違
和感を感じ取っていた。
ハル「・・・・・果たしてそれだけでしょうか？このナノアセンブラー今まで開発されて
きたものと比べると遥かに複雑で・・・・まるで細胞といってもいいぐらい。さっ
きのジャミングも気に掛かりますし、ちょっとプロトコルを調べてみてもいいで
しょうか。」
ハルは小骨が喉に引っかかるような何かを配線が繋がっていると聞いた時から直
感的に感じていた。そしてそれはデータを解析する中、次第に胸中で大きくなって
いった。杞憂に終わればいいがと思いながら彼はハックに調査する許可を求める。
ハック「探求心旺盛だねえ・・・だがなるべく早く終わらせてくれよ。」
とハックは緊張感のない声で返答する。けれどもその瞳には懸命に調査するハル
に対する労わりがこもっていた。
この時彼等は後１時間ほどで起きる未曾有の災厄の予兆を掴んでいた。そしてその
災厄の源はある人物の中で不気味な胎動を続けていた。
−まもなく・・・・・
まもなくだ・・・・・ まもなく我は完全に復活する。
その時こそ、我は我以外の全ての存在を消去し
融合する。その時こそ・・・我の愛の成就するとき
−人を滅ぼせ−
−生き物を滅ぼせ−
−動く者全てを滅ぼし尽くせ・・・・・・・・−
第３４話 −終−
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