スペースクルーザー ランディール
第35話 終わらせよう、夢幻のソナタを
バヤマーレ時間ＰＭ１１：４７分
恒星アルゴルの光を暗雲が飲みこむかのように暗黒の瘴気があらゆる希望を覆い
隠していく・・・魔王の玉座と化したアルカディア総本部ビル屋上にタイラーの悲しき
絶叫が響き渡った。
タイラー「おやじ・・・なんでだよ・・・なんでこんな事になったんだ！！」
自分の父親が暗黒の王に蹂躙され融合されていくその姿にタイラーは叫ぶことしか
許されていなかった。
ジョディ「ひどいよ・・・・これがあれだけタイラーが望んでいた親子の再会の時だなん
て・・・しかもその父さんと戦わないといけないなんて・・・ひどすぎるよ。」
ジョディはタイラーの魂の慟哭をただ見つめる事しかできなかった。慰める言葉すら
唇からでることができなかった。自分はタイラーに何もすることができない・・・そんな
無力感にジョディの胸がギリギリと悲しみと怒りで締め上げられる。
ダークファルスは、タイラーの嘆きを・・ジョディ達の苦悶を”闇”の中から見ていた、
そしてそれを楽しむように酷薄で陰湿な嘲りを浮かべ大いに哄（わら）った。
ダークファルス「クワッハハハハ！！人の子よ、やはりお前の魂は脆いよなあ。親子
の情などという幻想に囚われ、戦う意志を失うなど実にくだらぬ。闘争
本能を無くした生物には存在する価値すらない。ただ絶滅の暗黒に
飲み込まれ消え去る運命なのだ！！」
苦悶と悲しみの叫びを嘲る魔王の嘲笑の波動が部屋を震わせる。そして戦う意志を
無くしかけたタイラー達を怯える小動物でも見るように見下ろすと顎門を大きく広げ
口からプラズマを帯びた暗黒の息”シャドウブレス”を吐き出した！！
ゴアアアアアア！！
迫りくる暗黒の衝撃に部屋全体が大地震のように揺さぶられる。散乱したテーブル
や椅子を吸収し撒き砕きながら暗黒の衝撃はより大きくなっていく。
だが、それを前にオハリオとアイナは恐れずタイラー達の前に立ちあがった。
シークの剣聖と巫女は合わせ鏡のように構えを取り剣と弓を上に向ける。そして金
色の髪の巫女は暗黒の衝撃が迫っているにもかかわらず穏やかな声音で聖句が
流れ出る。
アイナ「黄天を守護せしシークの守護神、光神金竜よ、全てを遍く照らす金色の光で
私達をお守り下さい、光の障壁！！」
詠唱に共振するようにアイナの前に金色に輝く光のラインが幾本も現れる。それら
は詠唱と共に舞い踊る踊り子のように螺旋を描き暗黒の衝撃を縛鎖する。そして本
体から離れた暗黒を絡めとり光の中にかき消した。
ジョディ達が呆然と見守る中でアイナとオハリオはそれまで誰にも見せたことがな
かった怒りの表情を露にした。
オハリオ「僕は、ダークファルス・・・死者に辱めを与え生きている人達を嘲弄する
お前の言葉に、お前の存在に怒りを感じる・・・。」
アイナ「生きている命の価値はその命と関りのあるそれぞれの意志の相互の触れ
合いで培っていくもの・・・・憎悪と悪意から生まれたあなたには決して理解
できないでしょうね！！」
二人の怒気を込めた言葉にはこれまで二人に自分の命を託し散っていったレジス
タンス達の怒りや悲しみも含まれていた。無念のうちに散った多くの仲間達のため
にも命の尊さを嘲笑う魔王には屈しない。屈する訳にはいかない！決して憎悪や憤
怒ではない命の尊厳を護る覚悟が二人の義憤にはあった。
二人の覚悟を魔王は静かに褒め称える。
ダークファルス「さすがはシーク家の若き正統後継者だ、言う事は実に素晴らしい。」
しかしその言葉にはぞっとするほど冷たい嘲笑の毒が含まれていた。
オハリオは魔王の囁きの毒牙をはねのけると黒き剣に念を込め魔王に向け素早く
翳した。
オハリオ「シークの南方を守護する火神赤竜よ、汝の燃え上がる紅蓮の火炎を持って
暗黒を焼き払え竜奥義！紅蓮竜撃剣！！」
オハリオの詠唱する聖句に導かれるように剣に紅蓮の炎が巻きつき炎はオハリオの
斬激により解き放たれ赤き巨大な竜へとその姿を変えた。赤き炎竜は渦巻き飛翔しな
がら今、まさに暗黒の魔王を食らわんとしていた。しかし・・・
ダークファルス「だが・・・いかに素晴らしい名言や主張もそれを実行するための力が
伴わねば、あまりにも虚しくそして無意味だ・・・。」
魔王は余裕な顔で炎の竜を片手で掴むとそれを握りつぶした。さらに形を失った炎
を暗黒の瘴気と混ぜ合わせ邪悪な炎の毒蛇へと変えるとそれを炎の源へと偏向させ
る。舞い戻ってきた炎は召還した剣聖を巫女ともども、衝撃で跳ね飛ばしながら激しく
焼いた。
アイナ、オハリオ「うわああああ！！」
吹き飛ばされた二人にジョディはラレスタをかけようと近づくがオハリオ達はそれを拒
否した。
ジョディ「オハリオさん！！アイナさん！！」
アイナ「・・・・ジョディさん、私達の回復は自分でも出来ます！！でもタイラーの心の支
えになってあげられるのは今はあなたしかいないのですよ！！」
戸惑うジョディを力強く諭すアイナ。自らも体に深い火傷を負いながら尚もタイラー達
の身を案ずるアイナの真摯な言葉にジョディは心打たれた。
ジョディ「・・・・はい、わかりました！！」
そして今度は倒れたオハリオが呆然自失とするタイラーに声をかける。
オハリオ「・・・・・・そしてタイラー君、君には酷かもしれないが今は戦うしかない！！自
分を見失っては自分の夢も護れるものもその手から消えてしまうんだ！！
失ってから後悔しても遅いんだ！！」
オハリオは自らの痛みも省みず恐怖で凍てついたタイラーの心に訴えかける！！
タイラー「俺の夢・・・・俺の護るべきもの・・・・」
しかし恐怖に閉ざされた心の氷に微かなひび割れを生じさせたもののそれを砕く事は
出来なかった。
その時、突然ダークファルスの肩に融合されていた父タイロスが意識を取り戻しタイ
ラーに強い罵倒の言葉を浴びせた！！
タイロス「・・・所詮お前はその程度の男だったのか、・・・・この馬鹿息子が！！！」
タイラー「・・・・親父！？」
タイロス「これしきの事でオーレスン家の頭首が己を見失うとは！！リーダーとは時に
非情であらねばならない！！私は何度もお前に教えてきたはずだ！おまえ
がそれを忘れ負け犬のようにみすぼらしく座っているのなら私がお前の大切
な仲間を殺す！！自分を見失ったリーダーの為にその部下がどういう目に
あうのかお前に見せ付けてやる！！」
タイロスの信じられないような罵倒と氷のように冷たい視線が続けざまにタイラーの
体を貫いた。
タイラー「・・・・く、くそ親父・・・」
貫かれたタイラーにタイロスの冷酷な言葉が反響する。その言葉が幼い時のトラウ
マを呼び起こすとふつふつと激しい怒りの炎が沸きあがり恐怖に閉ざされた心の氷を
内側から溶かしていく。
ジョディ「タイロスさん・・・・・・・・・・・・・」
タイロスがはきかける冷酷な言葉の意味をアレスとミカがとらえきれず困惑する中、
ジョディとアイナ達だけがその意図を掴んだかのように押し黙っている。
お互いに憎悪の視線を向ける親子の姿に暗黒の魔王はたまらない愉悦を感じ、面
白がるように肩のタイロスを見ると目を細めやさしく言った。
ダークファルス「面白い・・・実に人間とは面白いものだ・・・。主義主張の違いから血を
分けた親子ですら時に骨肉の争いを演じる。その迸る憎悪こそが我に
更なる力をもたらしてくれるのだ。ふむ・・・だが憎悪の力を発揮するた
めにはここはいささか狭いな・・・・なれば少し舞台を広くしてやろうか。
タイロス殿、先ほどの言葉ぜひとも実行していただこう」
そしてダークファルスは全身に力を込めると、肩に接着する過去の勇士達にその暗
黒の力を送りこんでいく。勇士達はまるで我慢するかのように口を閉ざしていたが内
から送りこまれる莫大なエネルギーに耐えきれず涙を浮かべながら徐々に口を大きく
開けていった。噴き上がるエネルギーの余波に部屋全体が揺れ動く。
アレスはこの光景についさっきまで戦っていた悪魔達の特技を思いだし慌てて声を
上げた！
アレス「この揺れは、それにあの波動・・・・・・・間違いない、これはブリンガーライフル
と同じだ・・・・・まずいぞ、おい！！よけるんだ！！！」
ジョディ「でもタイラーが、まだ！！」
オハリオ「みんな射線上から離れるんだ！！！！」
オハリオ達もすぐに危険性を察知し注意を促すと自らもワーラを展開し身を低く屈め
る。だがタイラーだけが父親の顔を睨みつけ立ち尽くしていた。
そしてまるで戦艦の反応炉から砲塔に送りこまれるエネルギーのように、暗黒の力
が勇士達の口を無理やり押し広げると、蓄積されたエネルギーが無数のビームとして
３６０度全方向に解き放たれた！！
ゴゴゴゴアアアアアアア！！！
縦横無尽に駆け巡る無数のビームが部屋を砕きながら、周囲の高層ビル群を次々
と穿ち崩壊させていく。それは遠く離れた所で仲間を探していたスタージェーン達の目
にも飛びこんだ。
スタージェーン「な・・・・なんだいなんだい！今の光は？！」
粉塵とともに崩壊する高層ビル群を見て唖然とするスタージェーンの横でルセロが顔
をしかめビームと思われる謎の光の威力を類推する。
ルセロ「・・・・戦艦クラスの主砲並みの威力いやそれ以上か・・・ありゃあ、ただのレー
ザー光じゃあねえな。」
スタージェーン「冗談じゃないよ！！周囲のビルが跡形もなく崩れちゃったじゃない！！
・・・・・これはまじでやばいわ！！ああ、早くあいつ等拾わないと。」
肝っ玉が据わったスタージェーンもさすがに今見た異常な光景に血の気が引いた。
血相を変えてすぐさま仲間を探し始めるスタージェーンをやれやれと思いながらルセ
ロも駆け出していく。だがルセロには不審に思う事があった。無人となった街でレジス
タンスと魔族が戦ったと思われる痕跡がいたるところに点在しているのだが、魔族が
溶解する時に流れれる紫色の血がいまだに乾いていなかったのだ。
ルセロ「そうだな・・・・（それにしてもこの血、今だ乾いていねえのか・・・・気になるな）」
訝しみながらも取り合えず仲間と合流する事を最優先に考えるルセロ達。・・・だが
この時もう少し魔族の血に注意を払った方が良かったのかもしれない。紫色に濁る
血は少しずつどろどろと流れだしゆっくりと小さな川の流れを形成していく。それはま
るで意志があるように流れを複雑に変えひとつの巨大な文様を描き出そうとしていた・・・・。
ダークファルスが全方位に放った無数のビームにより部屋は倒壊した柱や壁の破
片が莫大な量の粉塵へと変わり巻き上げられた。粉塵により視界は数メートルにまで
悪化しアレス達は仲間を求めて慎重に探していた。
アレス「くほくほ・・・・何て威力だ！！カオスブリンガーのあれを見ていなけりゃ避けられ
なかった・・・・ミカ、無事か・・・。」
ミカ「あたしはへちゃっらだよ・・・で、でもタイラーお兄ちゃん達は！？」
ミカと合流したアレスはほっと胸を撫で下ろすがミカが指摘した通り粉塵に遮られて
いる今、不安は尽きない。特に敵がビームを放つ直前までタイロスを睨み続けたタイ
ラーが無事かどうか・・・。
やがて粉塵が晴れると部屋の様子は一変していた。周囲の壁は完全に崩壊し、暗雲
に覆われた天空が間近に見えてくる。雷光に照らされた床が所々陥没し、高さ１３００ｍ
の奈落が口を大きく開いていた。アレス達はその縁にかろうじて立っていたのだ。
アレス「な・・・何だよ・・・・これは」
周囲の高層ビル群がまるで廃墟のように倒壊した光景、そしてそれを引き起こしたダ
ークファルスの攻撃の凄まじさにアレス達は戦慄を覚えた。
だが希望の灯火は消えてはいなかった。廃墟のような光景を背にゆっくりと立ちあがる
大きく頼りがいのある人影、その両腕にはジョディが優しく抱きかかえられていた。
ジョディ「え・・・・・あ、タイラー！？」
それまで気絶していたジョディは、自分がタイラーに抱きかかえられている事に気がつ
くと恥ずかしさのあまり顔がみるみる紅潮し俯いて話すことも出来ずにいた。ただ胸にし
みるような暖かな力が手の平から伝わっていくのを感じタイラーの心境に微かな変化を
感じ取った。
タイラー「ジョディ、大丈夫かい？」
優しげな微笑をジョディに向けるタイラー。しかしタイラーは顔をタイロスの方へ向きな
おすと厳しい表情に戻る。
ジョディ「あ・・・あのうタイラー、あなたのお父さんは・・・」
ジョディは先ほど感じ取った父の本当の想いを伝えなくてはいけないと声をあげた。こ
のまま二人が誤解で対立するなんて悲しすぎるから・・・だがどうやらその必要はなかっ
たようだ。
タイラー「ジョディ、もういい、俺は・・・・・今猛烈に頭にきているんだ！！くそ親父あんた
にじゃない・・・あんたの事を一瞬でも疑い理解できなかった俺自身にだ！！
だがくそ親父、俺は非情なリーダーには今更なろうとは思わない。俺は俺の
やり方で全員を助けて見せる！！・・・無論親父もな。」
タイロスは自分を撃たせることでタイラー達をダークファルスの脅威から護ろうとして
いた。父の強き瞳の輝きからその想いを悟ったタイラーは自分の矮小さを恥じた。そし
て父の本当の想いに感謝しつつ、自分のやリ方でこの困難な状況に立ち向かおうと強
く決意したのだ。タイラーの決意をテレパシーで感じたジョディが思わず涙を浮かべる。
ジョディ「タイラー・・・判っていたんですね・・・・お父さんの本当の気持ちを・・・」
タイロスもジョディからの中継でタイラーの強い意志を聞き一瞬だが感嘆と嬉しさの
混じった表情を浮かべた。それは息子の成長を喜ぶ父の顔だった・・・。
タイロス”ふ、気づいておったか、お前も大人になったのだな・・・ならばその考え、お前
自身で証明してみせてみよ！！”
タイロスは感嘆の情をすぐに冷厳な表情に戻すとあえて挑発するような突き放した思
念をタイラーに送り返した。
ジョディ”今のはタイロスさんの心の声です・・・彼は身体を支配されながらも戦っています、
あのダークファルスと・・・・そして私達にアドバイスしたいと言っています。”
タイロスの意志をタイラーを始めとする仲間全員に送るジョディ。父の挑発を受けタイ
ラーも皮肉気に微笑を返した。
タイラー”・・・・いかにもあのこ憎たらしいくそ親父のやり方だな。だが元上官殿のせっ
かくの好意。無駄にはしないさ、ジョディ！”
タイラーの強い意志をタイロスに送り返すジョディに向け今度は仲間達がそれぞれの
想いを伝えてくる。彼女はこの日、それぞれの想いを共有し伝達できる自分の能力に
深く感謝した。
ジョディ”はい、みんなにもテレパシーで私が仲介しますから”
アレス”ＯＫ、頼んだぜジョディ！！”
アイナ”タイロス様に伝えてください、あなたのご好意感謝致しますと”
ジョディ”はい、ちゃんと伝えておきます”
それぞれの想いを共有したタイラー達の想いが今ひとつに纏まる。
タイラー「・・・今日こそアルカディアと本当の決着をつける！！みんな行くぞ！！」
仲間全員「おお！！」
そしてタイラーの号令に合わせて仲間達が奥で蠢く強大な暗黒の方へと向き直ると
それぞれ構えをとり戦闘態勢にはいった。
以上のテレパシーによる交信は僅か５秒の間に行われたことだ。ジョディのテレパ
シー能力はダークファルスにも捉えきれないほどレベルアップしていた。ダークファル
スは怪訝そうにタイラー達の様子を眺めていたが向き直る彼らの勇姿をあざけるかの
ように目を細め陰湿な笑いを含んだ声で言い放った。
ダークファルス「かかってくるがよい・・・そして己がいかに無力な存在であるかを胸に
刻み付け闇に常しえに堕ちるのだ！」
戦闘態勢を取るタイラー達を見下ろすダークファルスは嘲笑を浮かべると、噴き上
げる暗黒の瘴気を右腕に圧縮させ、それを一気に衝撃波として放った。
ドドドドドカーーン！！
進行する衝撃に続き連続して幾重にも爆発が起こり、爆炎と衝撃が相互に干渉して
威力を倍化させていく。互いに増幅し合う炎と衝撃波はまわりの粉塵を纏い巨大な灰
色の山津波と化した。
アレス「何だ！！あの爆炎はよぉ！？まるで砂嵐みたいに向こう側が見えねえぞ！！」
オハリオ「あれは火砕流だ・・・・ダークファルスはあれを自在におこせるまでに進化し
たというのか・・・」
灼熱と暗黒の瘴気を伴った衝撃が巨大な火砕流となって今にもタイラー達を飲み込
まんとするのを目の当たりにしてタイラー達も逃げるしか手がなかった。だが先ほどの
ビームでエレベーターや階段へと通じる通路は崩壊し退路はすでに絶たれた状態では
すぐに彼らは奈落の縁にまで追い込まれてしまう。そんな中タイラーは必死にこの状況
を打開する方法を考えていた。
ズズズズズズズズズ！！
ミカ「煙が、こっちに走ってくるよ！！」
アレス「畜生、逃げ道が塞がれた！！どうするタイラー！！」
ミカが驚くのも無理はない。火山活動がないに等しいモタビアで育ったミカやアレス
にとって火砕流は始めて見る異様な光景だったのだ。
その時、オハリオ達の心の中にタイラーの声が響いた。
タイラー”みんな、いまから俺が指示を送る！！今こそみんなの力が必要なんだ”
瞬時に伝わるタイラーからの指示。アレス達から恐怖の表情が消えていく。
アイナ「タイラーさん、あなたは時々私達ですら思いつかない事を考えますね。でも今
の状況においてそれが一番いい方法かもしれません！！」
迫る火砕流にタイラー達はもう怯まなかった。しかし勇敢に振り向いたタイラー達を
無情にも灼熱の火砕流が飲みこんでいく。灼熱の地獄に飲み込まれ焼け尽くされる
彼等を想像しをダークファルスはあざ笑った。
ダークファルス「クックック、その中は８００度もの熱風と暗黒の瘴気が渦巻く地獄その
もの。いくら防御結界を張ろうと防ぎきれるものではない。自分の蛮勇
で自滅するなどなんと無謀なことか！！」
その刹那。火砕流の中で渦巻く爆炎の動きが乱れると急にその流れを変えダークファ
ルスに向かっていく。
ダークファルス「むう！！」
ダークファルスが手を払い巻き起こる衝撃で火砕流を防ぐ。・・・その時だった。火砕
流の粉塵の中から白き氷結の竜、青き烈風の竜とともに焼死したと思われたアレス
が飛び出してきたのだ。
アレス「食らえ、俺の渾身の一撃ブレイクアックス！！」
そして手にした戦斧で渾身の一打を浴びせ巨大なダークファルスの腕を切り落とし
たのだ！！ダークファルスは腕を再生させながらタイラー達の行動を推測して見せる。
ダークファルス「ほう・・・・考えたな・・・・氷と風を司る竜の力で火砕流の粒子の流れを
変えさらに自分達を護る防御結界とするとは・・・それは仲間達と共に
助け合う力とでもお前達はいうのだな？」
小馬鹿にしたかのようにタイラー達を一瞥するダークファルス。それに負けじとタイ
ラー達は嘲笑に対し不敵な笑みで返した。
アレス「それだけじゃないぜ！！」
ジョディ「あなたが爆炎に気を取られているおかげで私たちは補助テクニックを施す
時間を稼げたわ！！」
ミカ「シフタ、シェネラ、ライジング、ナイトその他いっぱいいーっぱい掛けまくったから
あたし達は随分強くなったもんね！！もうやられっぱなしにはならないよーだ！！」
タイラー「お互いに弱い部分を自分の得意とする分野でサポートする！それがチーム
ワークというものだ！！」
そして嘲笑するダークファルスに負けじと勇気を燃やし相手を睨み返しながら声を
張り上げた。その気迫にダークファルスの顔から嘲笑が消えた。
ダークファルス「チームワーク・・・・友情・・・・そのようなまやかしの言葉で心弱きもの
は自分達が強くなったと錯覚する・・・・・だが錯覚で勝てるほど我は甘
くはない。」
そう言うとダークファルスは巨腕を天空に翳し、黒いオーラを天を覆う暗雲に向け放
った。オーラはさらに天幕のように屋上と化した黒翼の間を覆っていった。
タイラー「みんな来るぞ！！」
ミカ「お兄ちゃん、空を見て！！」
ミカが何かを察知し上へと注意を促した。すると暗雲の中からダークファルスの腕が
幾重にも現れ、それらがタイラー達のいる床面に向け一気に叩きこまれる！！
ドゴ！ドゴ！ドゴ！
衝撃と共に杭打ち機が地面に杭を打ちつけるような大音量が響き思わずジョディが
耳を押さえる。
ジョディ「み、耳が痛い」
タイラー「これはソニックブームか！みんな地面から離れるんだ！！」
次々と打ちこまれる巨大な拳を跳躍し辛うじて交わすタイラー達。その間にもダーク
ファルスの腕に叩きこまれた床が、巻き起こる粉塵と共に崩壊し、衝撃波が大きな津
波となって周囲の残骸を弾き飛ばす！さらに恐ろしい事に衝撃に弾き飛ばされた石柱
や壁面の残骸が別の衝撃に弾かれ複雑な軌道を見せ始めていた。
ダークファルス「ふふふ、まだかわせる気力が残っていたか、だが、いつまでその気力
が続くかな？」
ダークファルスが嘲笑を再び浮かべ懸命にかわすタイラー達を眺めている。しかも
屋上を覆った暗黒のオーラにより偏向された残骸がタイラー達の方へと複雑でランダ
ムな動きで無数のアステロイドと化し襲いかかった。
アレス「ち、衝撃で岩を弾き飛ばして弾丸とするなんてむちゃくちゃやりやがる！！」
一瞬にしてアステロイドベルト帯と化した空間にタイラー達は残骸をよけるので精一
杯となった。アレスは焦りのあまり舌打ちする。
タイラー「それもただ衝撃で弾き飛ばすだけではなく、軌道をランダムにしてこちらの
対応を岩隗だけで手一杯にする算段か・・・。分散してかわすにしても数が
多すぎる。」
迫るアステロイドに視線を走らせ冷静に状況を分析するタイラー。だが内心の不安で、
額には汗が浮かび顔は焦りの色を濃くしていた。その時再び、タイラーの胸中に父の
思念が響いた。
タイロス”タイラー、今こそお前の指揮官としての才能が試される時だ。今までの経験
を元に瞬時に判断するのだ。お前には頼れる部下がいる。その潜在能力を
見抜き、引き出す。それがお前に課せられた責任だ”
タイラー”俺を試すテストですか、上官殿・・・でも感謝するぜ、親父、思い返してみれば
あんたの教えは・・・いつも的確だった。あんたが叩きこんだ教えがあったか
ら俺達は今日ここにこれる事ができたんだ。”
父親の挑発的な励ましにタイラーはハッとして何かを思いつきニヤリと微笑んで返した。
その笑みに父も満足げに優しい眼差しを向ける。
タイロス”・・・・・そうだな、なら今日が最終テストだ。無事に生き残って見せよ”
タイラー”ああ、仲間や親父とともにな・・・・ミカ、岩隗の動き全部把握できるか？”
そしてタイラーは顔に決意を漲らせると、ミカに思念を送る。
ミカ「うん・・・大体はね、でもあたしもかわすので精一杯だから教える事なんて・・・でき
ないよ」
タイラーから打診される案にミカは圧しかかる責任に不安を感じ動揺していた。それ
でもタイラーやジョディが優しく語り掛けてくる。
タイラー「心配しなくてもいい。今俺達の心は一つに繋がっているはずだ、心の中で空
間座標図を描いてくれ、それが俺達を導く羅針盤になるはずだ！！」
ジョディ「私がテレパシーでみんなにそのイメージを送るから、任せてミカちゃん！！」
心の内で交わされる仲間達の励ましがミカの不安を取り除いてくれた。ミカは心の中
で仲間達と通じている安心感を感じると岩石の動きの流れを掴もうと集中力を高めた。
ミカ「わかったよ、やってみる・・・・危ない！ジョディお姉ちゃん！！後ろ！！」
ヅガッ！！
ミカが頭で描いた空間座標図をジョディが受け取り、それを配信しようとした刹那、
比較的小さな飛礫がジョディのわき腹に直撃した。
ジョディ「うぐぅ！！」
事前に張り巡らしていたデバンドにより威力は半減していたがそれでも内臓を突き上
げるような衝撃にジョディは顔をしかめた。だが、わき腹を押さえている間に正面から
巨大な岩隗が迫ってきたのだ！！
ジョディ「・・・・、デバンドガン装填！シュート！！」
痛みには耐久性がついたとはいえ内臓の負担が無くなる訳ではない。眩暈をこらえ、
ジョディがテクニック弾を装填し、次々と連射する。発射されたテクニック弾は時間差
がありそれぞれが違う位置で何重にもデバンドを展開する。幾重にも張り巡らされた
デバンドに勢いを削がれた岩はようやく動きを止めた。その間にタイラーがジョディに
駆け寄った。痛みで顔をしかめながらもタイラーに心配をかけまいと笑顔を作るジョディ。
タイラー「ジョディ、ごめん、俺の援護が遅れてしまったせいで」
ジョディ「艦長、今の私ならこれぐらいの痛み平気です。それよりミカちゃんからのイ
メージのお陰で岩隗とダークファルスの動きが特定できそうです。」
そう言って微笑むジョディの瞳には確信に満ちた輝きがあった。
一方で尚も迫る岩隗群を前にアレスは手に戦斧を構え吼える。
アレス「く、岩の動きが複雑過ぎて目で追えねえ！！どうにも勝手が違いすぎる」
ミカ「アレスお兄ちゃん、眼で追うんじゃ駄目だよ！あたしが捉えている岩隗の動き
がお兄ちゃんにもテレパシーで伝わっているはずだよ！」
ミカがテレパシーを通じて岩隗の動きを伝えサポートするが岩塊の動きに慣れな
いアレスの思考はついていかず思わず歯噛みして叫ぶ。
アレス「すまねえ、ミカ、お前の早さにおれの頭が追いつけねえんだ！！畜生・・・
めんどうだ！！こうなりゃズィーピングで一気に弾き飛ばしてやるぜ！！」
癇癪をおこしたアレスが迫り来る残骸に向け斧による斬激を放とうとしたその時、
アレスの胸中にタイロスの声が木霊した！！
タイロス”ただ闇雲に衝撃に衝撃で対抗しようとしても、それは岩の動きをさらに乱
し加速化させてしまう！！対抗しようとするのではなく衝撃の流れを感じ
とるのだ”
アレス「衝撃の流れを感じとるか・・・・口で言うのは容易いが果たして俺に出来る
のか！？」
タイロス”なあに君なら大丈夫だ。君は敵との駆け引きでそれをすでに身体で覚え
ているはずだ。今見えるのは岩隗ではなく敵だと思ってみればいい、そ
れに今の君にはミカちゃんの視線が伝わっているはずだ”
さすがのアレスも緊張と不安が胸中にわきあがり、斧を持つ手も震える。それでも
ミカの名前が出たことで彼から迷いが消えた。
アレス「う、うるせい！言ってくれるじゃないか！！わかった、敵としてみるんだな」
アレスは余計な雑念を捨て、ただ流れを掴む事に専念した。そして衝撃の流れ
の緩やかな部分が確かな光明として目に映った。
アレス「見えた！！見えたぜ！！なんだ簡単じゃないか！！」
意識が収束し戸惑いから確信へと変わったアレスは八双飛びに岩隗を避けなが
らダークファルスとの距離を徐々に縮めていく。
強引ながらも先ほどとは打って変って躍動して戦うアレスの勇姿にミカも嬉しげに
声をあげる。
ミカ「お兄ちゃん、凄い凄い！！さっきと違って動きが格段に速くなっているよ！！」
アレス「おら、お返しだあ！！ダークファルスさんよぉ！！」
そしてついにアレスの斧が暗黒のオーラに力を与えるダークファルスに強烈な一
打を浴びせた。 同時に暗黒の結界は霧散し岩塊はそれぞれの速度を保ったまま、
遥かビルの下層へと墜落していく。
それまでタイラー達の戦い方の変化を訝しげに見つめていたダークファルスは、
肩のタイロスがタイラーを見て微笑んでいるのを見るとニヤっと醜く顔を嘲笑で
歪めた。アレスに受けたかすり傷を再生しながら暗黒の王はタイラー達の方へ向
き直り優しく囁きかけた。
ダークファァルス「うむ？・・・ほう、なるほどそう言う事か、我が身体に虜まれなが
らも、未来ある者達を導くとは強い信念をお持ちだ・・・・ふふふ面
白い。いいだろう、お前達を滅殺するのは容易いがそれでは興を
そがれる故に・・・・そこでゲームをしよう。」
ダークファルスは目を細めゆっくりと穏やかな声でゲームを持ちかける。無論、タ
イラーがそれに答える義理はなかった。
タイラー「余裕のつもりかい・・・・でもあいにく俺達はあんたの遊びに付き合う気は
さらさらないんだ。メトロシュトロームシュート！！」
タイラーは手にした剣に大量の水流が集め抜刀の構えを取る。そして跳躍すると
自らの最大の剣技をダークファルスに向け放とうとした。しかし・・・
ダークファルス「・・・・・まあ待ち給え、君の父君が君達に助言する事は認めてあげ
よう・・・だがその代わり・・・・・。」
影は自分に迫り来る水の刃に関心がないかのように落ちついた声で語り掛けると
肩に融合していたタイロスに目を向けた。
ダークファルスの光彩が紅く輝いた。するとタイロスの爪からまるで火に炙られた飴
細工の様にどろどろと溶け始めたのだ。タイロスは思わず絶叫をあげた。そして父
の絶叫を聞いたタイラーの水の波涛がダークファルスに届く目前で震え力を失った。
タイロス「ぐ・・・・・・ぐああああああああああああああ！！」
ダークファルス「君の父君はこれまで誰も体験したことがない苦痛、責め苦に苛ま
れる事になるが・・・・いいのかね？」
タイラー「親父！！くぅ・・・・・・・」
身を溶解させる苦痛に顔を歪めるタイロスに一瞬動揺するタイラー。その隙を狙
いダークファルスの巨大な腕が音速を超えるスピードでタイラーを床に叩きつける。
ドゴオオ！！
ソニックブームを伴った巨碗の攻撃に床が振動と共にひび割れていく。一瞬叩き
潰されたかと思われたがその打撃痕の中心にタイラーの姿はない。ダークファルス
の打撃を身をひねり辛うじて直撃をかわしたのだ。、それでも圧倒的な力の前に
ダメージは大きく鋼鉄の身体は少し拉げ関節からギギギといやな音が響く。
タイラー「・・・・・ハア、ハア、今のは関節が軋む音か・・・ダメージが大きすぎるぜ・・
直撃は何とか避けたが今度同じのを食らったらどうなるかわからないな
・・・・。」
すぐに賭けつけたアレス達は咄嗟に満身創痍のタイラーを護る陣形を作った。
アレス「てめえはさっきから動揺しすぎなんだよ！！針の穴ほどの隙でもあいつは
そこをついてくる！てめえの・・・・気持ちはわかるがしっかりしてくれ！！」
ジョディ「アレスの言う通りです。それにお父さんの覚悟も分かってあげて！今、彼
に出来る事は生きている私達の背中を押して未来へと進ませていく・・・・
それぐらいしかできないのだから！！」
そして焦りで空回りするタイラーを二人は諌める。アレスとジョディの仲間を思いや
る真摯な気持ちがタイラーには痛いほど伝わってきた。
タイラー「アレス・・・・ジョディ・・・・分かっている・・・・分かっているんだ、くそ親父の
覚悟は・・・・自分を犠牲にしても誰かの未来を創りたい・・・俺達は過去を
代価として自分の進むべき未来を勝ち取るしかない！！あんたが言いた
いのはそういう事なんだろう！親父！！！」
タイラーは落ちついた心で再び父を見上げた。父の片腕はすでに崩れ落ちていた。
憔悴しきった父の顔。それでもタイロスは強い眼差しでタイラーに向け静かに微笑ん
だのだ。
タイロス”うぐ・・・・・・そ、そうだ、私の価値がいくらになるか分からんが少なくともお
前たちの未来を創るだけの代価にはなるはずだ・・・・”
ダークファルス「くくく、どうだ面白い趣向だろう・・・・この賭け・・・果たして君の父の魂
だけで埋め合わせすることができるかな？」
ダークファルスが向かい合う親子のかくも悲しい心の会話を嘲笑い面白がる様に
囃し立てる。 でもその嘲笑がタイラーの心を動かすことはもうなくなった。決意の意
志をかためたタイラーが、そして仲間達が再び武器を取り立ち上がる。勇気を賭して・・・
タイラー「終わらせてやるさ！！ただし俺は決して諦めたりはしない、親父の代価を支
払う前にこの戦いを終わらせてやるんだ！！」
アレス「その意気だぜ！！艦長！！」
タイラー「こんな情けない俺でもまだ艦長と呼んでくれるんだな。よし、アレスとミカはダ
ークファルスの動きの攪乱を頼むぜ！！」
勇気を取り戻したタイラーの指示に合わせてアレスとミカが先陣を切ってダークファ
ルスに向け駆け出していく。
アレス「了解！！艦長！！ミカ頑張れるよな」
ミカ「アレスお兄ちゃん、うん、タイラーお兄ちゃんがあたし達を信頼して任してくれたん
だもん！！だからあたしまだまだ頑張れるよ！！」
二人の顔には先ほどまでの悲痛さが消えうせ、普段のペースを取り戻しつつあった。
臆する事無く立ち向かってくるアレスとミカに向けダークファルスの強烈な一撃が放
たれる。それを一寸の動きで二人は跳躍して交わすとミカが高速残像で分身しながら
暗黒の巨体に切りかかる！！
ミカ「イリュージョン！！」
残像はそれぞれ高速に動きながらダークファルスを攪乱しようといろいろな角度から
攻めたてる。しかしダークファルスはそれを余裕の表情で見下ろしながら手で軽く小蝿
でも払うかのように薙ぎ払った。
ダークファルス「素早い動きで我を牽制するつもりか・・・・だが敏捷な動きだけでは我
の攻撃を避けること適わぬものと思え！！」
巻き起こる衝撃波にミカの残像が次々と消滅し本体も危うく叩き落されるところだった。
ミカ「くっ！！」
アレス「ミカ！！」
ミカの危機に思わずアレスが声をあげ助けようと駆け出したときタイロスの思念がア
レスに伝わってきた。
タイロス”アレス君、ミカちゃんなら大丈夫だ！彼女は自分の戦い方を理解している！！”
タイロスの指摘通りミカはダークファルスの攻撃をすんでのところ受け流すと再び跳
躍しアクロバットのように空中で回転し始める。
タイロス”回転しながら自分の動きを制御し相手の攻撃を最小の動きで避け”
迎え撃つダークファルスの強烈な拳の連打を猫のようにくるっ回転しながら軽やか
に避けていくミカ。
タイロス”敵の身体そのものを盾とし”
そして巧みに敵の連打を交わしながら誘うように俊敏に動く姿はまるでロンドを踊る
踊り子のようであった。
ダークファルス「ほう、それでどうするのかな？」
興味深げに一笑に付すダークファルス。しかし心なしかその声音には余裕が無くな
ってきているかのようにアレスには思われた。そしてその推論は的を射ていたのだ。
ダークファルスはミカを攻撃するために徐々に体勢を大きく動かしていた。そして誘
われるかのように攻撃を連打で繰り出したダークファルスに一瞬の硬直時間が生まれ
たのだ。
ミカ「そして最短距離からへ敵の各弱点への効果的な連続攻撃だよね！！行くよ、トリ
ニティアタック！！」
ミカはその硬直時間を見逃さなかった。ネイとネイファーストの幻影が現れミカと共に
一気に敵の懐へ飛び込みすれ違いによって生じた力を円運動によって自分の力と同化
させ相手の攻撃の力を利用しながらダークファルスの体勢を大きく打ち崩したのだ。
ダークファルス「何？う・・・・うぐああ！！」
体勢が崩れたダークファルスがミカの小さな手に圧されるかのように大きく前のめりに
倒れる。
ドゴオオオオ！！
そして皮肉なことに片腕が先刻自分がレーザーで穿った穴に挟まり動かなくなったのだ。
アイナ「上手いわ、それぞれの残像が敵の攻撃を交わすだけでなくダークファルスの力
の流れをそらすことで始めて体勢を崩すことができた！！」
オハリオ「今なら出来るぞ！！アイナ僕達二人の呼吸を合わせるんだ！！」
アイナ「ええ！！」
ミカによってもたらされた一瞬の勝機にオハリオとアイナは賭けた。アイナは懐に忍ば
せていたクリスタルを大事そうに手に取る。不思議な輝きを放つクリスタルをアイナは静
かに握り天に掲げるとオハリオもその手にそっと自分の手を重ねた。そして二人は心を
重ねて歌うように聖句を紡いでいく。
オハリオとアイナ「シークを守護せし光神金竜ゴールドドレイクの真の力をダモアクリスタ
ルの導きの元、光の陣へと導き暗黒を分断する牢と成さん、シーク竜奥
義！烈光の封陣！！」
二人の聖なるハーモニーに合わせてクリスタルは輝きを増し、それが極光となった時、
クリスタルの輝きが無数の光のラインと貸し、天空を光竜のように駆け巡る。暗雲を霧
消させた光のラインは束へと収束変化しダークファルスの上に幾重にも張り巡らされた
星の結界として覆い被さっていく。 虹色の光に包まれたダークファルスが苦しげに喘ぎ
ながら叫んだ。
ダークファルス「ぐおああ！！この結界は何だ！貴様等！！」
オハリオ「今、お前と暗雲の繋がりを断った！！これでお前の能力は半減するはずだ！！」
オハリオは光の中でもがくダークファルスを鋭い眼差しで見据え断じた！！
聖句を成就させた二人はその直後、よろけそうになった。どうやらこの烈光の封陣と
いう奥義は二人の精神と体力をかなり消耗させるらしい。二人の様子を気遣いタイラー
達が二人の前に立った。そしてタイラーが優しく声をかける。
タイラー「オハリオさん、アイナさん、サンキュー！」
タイラーからの労わるような感謝の声に二人も安心してスターフォースで回復に専念する
ことにした。そうしている間にもダークファルスはもがきながら片腕で光を引き剥がそうと力
を込める。タイロスがダークファルスの動きをタイラー達に思念で警告を送った。
タイロス”アレス君・・・ダークファルスが光に囚われているうちに・・・”
アレス「タイロスさんよ、何も言わなくてもいいぜ、俺のやるべき事はわかっているからよ！！」
だがタイロスが警告を送るまでもなかった。すでにアレスは手に戦斧をかまえ駆け出して
いたのだ。
アレス「俺のすべき事は敵が体勢を立て直す時間を与えねえ事だ！！うおおおブレイクアッ
クス乱れ撃ちだ！！」
アレスは豪腕に力を込めて斧を振り翳すとジャンプしてダークファルスの腕を切りつける。
それも一撃だけではない。体全体を捻りながら回転させ振り向き一撃、二撃、三撃、と弧を
描きながら合計十連撃もの激しい強撃を叩きつけたのだ。そのためダークファルスの腕は
見る間にぼろぼろに損壊し押し寄せる光に抵抗できなくなった。
ダークファルス「くぅお！この私が光に押し潰されるだと！！馬鹿な！腕が動かせぬ！」
光に押し潰されていくダークファルスを見てもタイラーは油断せず、疲れが少し見えるミカ
に指示をおくった。
タイラー「よしこれでダークファルスの両碗を封じた！その間にミカは後ろに下がりアイナ
さんの回復テクニックを受けるんだ」
ミカ「あたし、まだ元気なんだけどな・・・でもタイラーお兄ちゃんが言うなら」
まだまだ元気とばかりに腕を大きく振りまわし少しだけ不貞腐れて呟くミカ。それでもタイ
ラーの気遣う眼差しを見てミカは素直にそれに従った。アイナの元に向かうミカを確認する
と、タイラーは意を決してジョディに指示を伝えひときわ剣を握り締め駆け出した。
タイラー「ジョディは俺と一緒に来てくれ！！両碗を封じる間に俺が奴の鼻っ面を叩くから
援護を頼む！！」
ジョディ「はい！！」
後を追うジョディもテクニックでフォローをすべく走りながら念を集中させていく。そして同
時に跳躍した。
ダークファルスは”闇”より出でて初めてたかが”人間如き”に威圧され始めていた。その
流れそのものが暗黒の王にとっては屈辱的なものだった。
ダークファルス「ぐうおおおお！！腕を封じたからとていい気になるな！！貴様等如き子虫
など我が暗黒の力を持ってすれば燃やし尽くすことなど造作もない！！」
ダークファルスは内より込み上げる憎悪そのままに顎を大きく広げ暗黒のブレスをタイラ
ー達に向け発した！！
ゴアアアアアア！！
タイラー達に向け一直線に迫る暗黒のプラズマ流、さらに肩に融合させた勇士達に力を
送り炎のフォイエや氷撃のバータ、雷撃のゾンデを艦砲射撃のように放たされる。しかし
それらのテクニックは烈光の封陣により威力が半減し、ジョディが展開するワーラでたや
すく相殺する事ができた。
ジョディ「ええ、あなたにはまだ強力なブレス攻撃やテクニックが残っていたよね。でも私は！！
もう昔みたいにただ力に怯えたりはしないわ！！例え盾をいくら砕かれようと私の
命が続く限り防御結界を張りつづける！！」
ジョディはワーラを展開しながら相手に負けじと懸命に言い返した。だがテクニックと暗
黒プラズマの連続するコンボにさすがのジョディも額から汗が滲み手が震えてきた。それ
でも尚もワーラを展開するジョディにふいにタイラーから助言が飛んだ。
タイラー「ジョディ！！ただ防御フィールドを展開するのではなく相手の動きを意識して展開
するんだ。そうすれば君の負担も軽くなる！！」
仲間を護りたいとある意味、無理をしていたジョディはタイラーからのアドバイスで心が軽く
なるのを感じた。そして笑顔で答える。
ジョディ「はい！了解です！！」
タイラーはそれを確認して一瞬だけ微笑むとすぐに表情を戻しテクニックの連撃を右に左
に降下しながらかわしていく。タイラーはその勢いのまま目前に迫ったダークファルスの醜い
顔目掛けて激しく十字に切りつけた！！
タイラー「そして・・・顔ががら空きだぜ！！ソードクロス！！」
ジョディ「清らかで蒼き閃光、お願い、タイラーに光を！！」
タイラーとジョディ「グランドクロス！！」
タイラーの剣檄に合わせてジョディの祈りの蒼き光が重なっていく。それはまるで二人の絆
の強さを表しているかのようだ。二人の絆が宿った蒼き清浄の剣戟は暗黒の王の顔を十字
に切り裂いていく！
ダークファルス「ぐああああああ・・小癪なまねを！！」
絶叫を上げダークファルスは切り裂かれた顔から漆黒の血をどくどくと流し悪鬼のような形
相をさらに歪ませ、視線で相手を睨み殺さんばかりにねめつけた。
タイラー「さきほどまで俺達のチームワークを馬鹿にしていた余裕はどうしたんだい？俺達
は互いに支え合うことでどんな困難も乗り越えてきたんだ！！他人を嘲笑するこ
としかできないあんたには理解できないだろうがな」
しかしタイラーは飄々とした態度で、封縛された暗黒の王を見上げるとニヤリと笑みで返し
てみせた。
ミカはアイナの治療を受けつつもタイラー達の活躍をわくわくしながら見続けていた。
ミカ「アイナお姉ちゃんスターフォースありがとう、あたしもいかなくっちゃ！！」
アイナ「これぐらいお安いご用ですわ。」
そして治療が終わるとミカはアイナに一礼し元気良く走っていく。
アイナとオハリオは駆け出していくミカの後姿を見送るとタイラー達とダークファルスの激
闘の様子を見て感嘆と少しばかりの寂寥感が混じった表情を浮かべていた。
オハリオ「すごい・・・あのダークファルスが自由に動けないなんて・・・・」
アイナ「ええ、ミカさんの残像による攪乱ととアレスさんとタイラーさんの攻撃、そしてジョディ
さんの補助テクニックが上手く連動している。」
二人は今、必死に戦っているタイラー達を冷静に観察しそう声を漏らした。四人の心の成
長をアイナとオハリオは自分の家族の事のように嬉しく感じていた。彼らの絆の強さを見て
いると思わず彼らの戦いにエールを送りたくなる。しかし、アイナとオハリオにはいやな予感
が拭いきれなかった。今回のダークファルスの特異性を鑑みるとどうしても払拭できない漠
然とした不安感が・・・・。
オハリオ「今四人は心で会話しているんだな、正確に伝達、時に足りないところを補足しあっ
て・・・・だがそれだけでは奴は倒せない」
アイナ「・・・・そうね、でも彼等が奴を封じるための大切な時間を創ってくれるでしょう。私達も
今出来る事をやりましょう。オハリオ！！」
そう、だからこそ彼らは準備していたのだ。１年の刻をかけて今回の千年紀の災いを完全
に封じこめるために自分達が出来ることを・・・。二人の瞳にはまもなく訪れるであろう”その
時”を受け止める殉教者のような澄んだ輝きが滲んでいた。
アイナ「皆さん！！少しの間だけ時間を稼いでください！！その間に私達が「真実の書」で
手に入れた最大の秘儀で奴を倒します！！」
オハリオ「だがそのためには僕達二人が精神を集中させなければならない！その間だけ僕
達はどうしても無防備になってしまう」
タイラー「わかった、俺達が時間を稼いで奴の注意をひきつければいいんだな！！期待して
いるぜ！！最大の秘儀を。」
アイナとオハリオからの声を受け、タイラーはその秘儀が暗黒の王に勝てる切り札と思い、
期待を込めて二人に返事を返した。
・・・あともう少しでアルゴルは救われる。親父を助け出すことが出来る。 そう思うとタイラー
はさらに自分のテンションを上げ再びダークファルスとの戦いに集中した。一方のジョディは
アイナ達の心から何も感じられなくなったことに、ふいにいやな予感に駆られた。このまま行
くと大事な何かが消えてしまう。そんな漠然とした不安に・・・。
ジョディ「・・・・・・」
タイラー「ジョディ行くぞ！！」
ジョディ「は、はい！！」
しかし、ジョディの不安は、タイラーからの声で心の奥に押しやられる。ダークファルスに
勝てればこの不安も解消する・・・そう自分に言い聞かせジョディはタイラー達を援護する
ためにテクニックに集中することにした。
アイナとオハリオが最大の秘儀のため精神の全てをそれに傾けていた時、唐突に、タイロス
の思念が響いてきた。
タイロス”アイナ殿、オハリオ殿それではあれをやるというのか・・・・・。”
二人は驚く。ジョディはダークファルスとの戦いに集中しとても思念の中継など出来る筈が
ないのだ。
アイナ”タイロス様！？あなたもテレパシー能力を持っておられたのですか！？”
タイロス”いや、おそらくこれはダークファルスを構成するＤ因子の力、ダークファルス本体が
今、タイラー達との攻防に気を取られているから、侵食されている私の思念にも
Ｄ因子が反応したのだろう。”
タイロスの推測にオハリオは納得した。事実、自分達が精神を集中し無防備でいるにも関ら
ず、ダークファルスからの攻撃が一切なかった。暗黒の王は実際タイラー達の猛攻にかなり
圧されてきているのだ。
オハリオ”そうですか・・・タイロス様が語る事が出来るということはダークファルスもかなり押さ
れている証拠・・・・ならば出来るはずです！”
アイナ”極限まで増大している”闇”の力を封印するには今この時をおいて他にはないでしょう。
タイロス様、タイラーさん達にはこの事黙っていてくださいね・・・・”
アイナとオハリオは秘儀の成功を確信した。そしてその後で訪れる・・・運命を受け入れる覚
悟も出来たのだ。タイロスは二人の言葉からその思いの強さを感じとるとやれやれとばかり
に苦笑しつつ了承の思念を送った。
タイロス”わかった、ジョディお嬢ちゃんに気づかれぬようわたしがタイラーに語り掛ける。愚
息は今心が揺らいでおる、もしアイナ殿がやられる秘儀の真相を知られると唯一
の勝機が失われることにもなりかねん。まったく困ったことだ。”
自身もダークファルスに取りこまているにも関らずアイナとオハリオに心配をかけまいと苦
笑して見せるタイロスの暖かな人柄と懐の大きさに二人は心の中で一礼した。
アイナ「ご足労おかけいたします」
ぐおおおおお！
ダークファルスとタイラー達の力の拮抗は次第にタイラー達の方へと傾きつつあった。アレ
スが足を踏み出す。ミカのシュネラにより彼の筋繊維と神経は超人的に活性化し、目にも止
まらぬ速度でダークファルスの死角を突くべく背中に一撃をかました。
アレスの豪撃をダークファルスは必死に体全体を片側に回し背中に裂傷を刻み付けられ
るの何とか防いだ。だが回しながらよろけた先にはタイラーがすでにそこにいた。タイラーの
光刃が唸りを上げ逆袈裟がけに切り上げた。ダークファルスがそれを左腕ではじくが、はじ
かれた剣を返し、タイラーは再び振り落とす。二撃、三撃と連続に。じりじりと圧され後退した
ダークファルスが反撃とばかりに左肩の勇士達にギフォイエを使わせる。しかしその炎の衝
撃波はジョディが連射したムワーラ弾により防壁が築かれたちまちその効力を失った。
そうしてダークファルスがタイラーに気を取られている間にアレスとミカが同時に床を蹴り
ダークファルスに挑んだ。 気配を察し振り向いたダークファルスが右腕で衝撃波を巻き起
こしながら殴りつけようとする。しかしそれを二人は宙返りをして交わすとミカが先陣を切って
ダークファルスにクローで切りかかる。
ダークファルス「賢しき羽虫どもがあああ！！」
ダークファルスの巨腕が手首を捻りミカの方に強烈な一打を叩きこむ。圧倒的な力による
強烈な叩きこみで巻きあがる粉塵と共に床が音を立てて崩れ二階層ほど突きぬける巨大な
穴を穿った。
どごごごごごごご！！！
ミカは潰されるかに見えた。しかしそれは、イリュージョンで分身した影だったのだ。
ミカ「あっかんべーだ！！あんたの攻撃なんて当たらないよー！！」
完全なフェイントだった。ミカを叩き潰そうとした手をダークファルスが引き戻そうとした隙に
アレスが駆けだし斧を高く掲げると全身全霊の力を込めてそれを振り下ろした。
アレス「引き抜くのがおせえぜ！！ダークファルスさんよ！！くらいな！！ブレイクアックス！！」
ラコニウムより固かったダークファルスの腕がまるでショートケーキのようにすっと切り裂かれ
ていく。
ぐおおおおおお！！
絶叫を上げるダークファルスはその腕を再生させようとするが泡立つだけでもう二度と元に
戻ることはなかった。そうして気を取られた刹那すでにミカ、アレス、タイラーが跳躍しそれぞれ
の渾身の技をダークファルスに切り当てようとしていた。
タイラー「アクアンカトラスレベル４！！」
アレス「ブレイクアックス最大級だあああ」
ミカ「ディスラプトだよ！！」
それを見てダークファルスの顔が強張った。三人の強烈な一撃がダークファルスの全身を、
右袈裟、左袈裟、そして真中に深深と回復できない断罪の裂傷を与えていく！！
ぐああああああああああああああああああああ！！
ダークファルスが再び絶叫を上げうずくまるのを見てタイラーは勝利を確信した
タイラー「よし、奴の再生する速度も落ちている。」
ミカ「あ、本当だ、お兄ちゃん、後少しだよ！！」
アレス「アイナ達が最大の秘儀を出すまでもなかったな、俺達だけで勝てるぜ！！艦長！！」
勝機を見出しアレスとミカが歓声をあげた。それを見て苦笑しつつ次の攻撃体勢に移行し
ようとするタイラーに父、タイロスの思念が響いてきた。
タイロス”油断してはだめだ”
タイラー「親父か・・・ああ油断はしないさ、一歩ずつ確実に相手の手を詰めていく。それが
勝利の秘訣だったよな。」
注意を促す父親にタイラーが返した一つの教え・・・その教えはタイラーがかつて父に反発
しながらも共感を覚えた教訓の一つだった。
息子から返された”かつて自分が教えた教訓”にハッとするタイロス・・・お互い、すれ違い
と確執しかなかったこの２０年間・・・・自分はタイラーの父として正しく育てることができたの
か・・・タイラーの母親である妻を、ある意味タイラーから奪ってしまったタイロスにとってそれ
だけが唯一、心残りだった。
だが、タイロスの教えは確実にタイラーの中に受け継がれていたのだ。タイロスは感極まっ
て思わず涙を零しそうになった。
タイロス”タイラー、覚えていてくれたのか・・・そう、一歩ずつ・・・それは何も戦いだけの秘訣
ではない。生きるために。その一歩はとても小さく巨大な世界の力の前に時に押し
潰されることもある。だが、それでも諦めず生きて努力すれば人は己の進むべき
道を見出す事が出来る・・・・そう思わぬか”
年甲斐もなく嬉し涙をこらえるタイロスを見て息子も胸が熱くなるのを感じた。
タイラー「親父・・・・・ああ、俺もそう思うぜ！！レイブレード！！」
そしてタイラーは手に燦然と輝く刃を握り締めダークファルスを倒すべく最後の一撃を繰り出
すため踏みこみそして今までより高く跳躍した。父と子の思いが今、一つとなり光刀をより輝
かせていく。その光の結晶が”闇”を砕く・・・・・・・・・・・・・はずだった。
ドクン！！
タイラーに残された生きている証の一つである心臓が突如大きく拍動を始めたのだ。動悸
が激しくなりタイラーは急に胸を押さえ墜落するほかなかった。彼の中で得体の知れない
”何か”が蠢きだした。それは心臓や目から溢れだし体全身を這いずりながら脊髄を通り頭の
中にたどり着くと恐ろしいささやきを始めたのだ。
？？？”ハタシテ、ソレハドウカナ・・・”
タイラー「！？誰だ、！！」
頭の中からささやく声の主にタイラーが問いかける。
？？？”時トハ無情ナリ・・・明日ヲ創リダス為二常二生贄ヲ欲スル”
声の主はしかしタイラーの問いをはぐらかすかのように再度静かに語りかけた。黒い恐怖と
激しい憎悪の紅炎をともなって。”それ”が心の奥で孵化していくと同時に恐怖がタイラーの心
を黒く塗りつぶしていく。紅の炎が激しい憎悪となって彼の心を燃やし尽くしていく。
アレス「タイラーどうしたんだ！！急に」
アレス達がタイラーの元に駆け寄った。ジョディを除いて・・・
ジョディ「これは・・・・う・・・・」
ミカ「ジョディお姉ちゃん大丈夫！！ど、どうしたの！？」
ミカの心配する声に必至に笑顔で答えようとするジョディ。しかしジョディは彼の頭の中で羽
化を始めた”何か”を感じとり恐怖で動けなくなったのだ。タイラーは蹲りながら息を荒くしぶる
ぶると震えはじめていた。アレスは震えるタイラーの様子を見て只事ではない事に気がつき
慎重に尋ねた。
タイラー「わからない・・・俺の心の中に知らない誰かが語りかけてくるんだ！！明日を創り出す
為に常に生贄を欲する・・・それは親父のことか！？」
アレスの問いにタイラーは顔が蒼白になりながらうめくように叫び始めた。
タイラーが震え出すのと同時に空が先程よりさらに不気味な暗雲に包まれていく。まるでタイ
ラーの中で胎動し成長する”何か”に呼応するかのように・・・
ダークファルスは暗雲とタイラーの様子に目を走らせるとそれらが当初からの予定通りの
ように余裕を取り戻しくぐもった嘲笑を浮かべた。
ダークファルス「！！・・・・ふふふふそうか・・・・教えてやろう諸君、明日を創り出す為には闇を、
我を封印しなければならない。」
アレスは震えるタイラーの体を支えていたがダークファルスの悪意と嘲笑のささやきを聞き
怒気を込めて食い下がった。
アレス「封印だと・・・・そんなまどろっこしい事する必要はねえ、後、
少しで俺達はてめえを倒すことが出来るんだ！！」
ダークファルス「それはどうかな？」
しかしダークファルスはアレスの悪態など取るに足らぬとばかりに蔑んだ目で見下ろすと先
ほど切り落とされた手をすっと上げた。腕は烈光に包まれていたにも関らずドス黒い瘴気が
切り落とされた手から噴出し腕を再生させていく。いや腕ばかりではない。タイラー達の攻撃で
与えた全ての傷が瞬く間に再生されたのだ。あまりの出来事に呆然となるタイラー達。
ミカ「そ、そんな、あれほどダメージを与えたのにみるみる回復していくなんて」
アレス「畜生、光のなんとか陣で能力を半減させたんじゃなかったのか！？」
アイナ「そのはずです・・・・・」
さすがのアイナも烈光の封陣が効いていないことに戸惑いを隠しきれずにいた。アレスの問い
に虚ろに答えることしかできない。
ダークファルス「なるほど、確かに烈光の封陣は強力だ。我と暗雲の経路を絶つほどに。だが
星を覆う恐怖は今この時も産みだされ続けているのだ・・・・そしてそれは確実
に溜り我にさらなる力を与えてくれる。もはやこのような陣など我が一撃で粉砕
できるのだよ！！」
ダークファルスは呆然とするアイナ達を見透かすような透徹した目をもって優しく語り掛けると
手に纏わりつく光のラインにそっと触れた。光の結界は最初の時と違い暗黒の王に触れられる
とたちどころに消滅した。もはや光の結界は何も意味を為さなくなった。そして暗黒の王は再び
暗黒の力を全身に送る。
オハリオ「烈光の封陣が・・・破られる！」
アレス「またくるぞ！！！」
アレスが叫ぶより早くダークファルスが暗黒の力を再び無数のビームに変えて全方位に放った。
以前よりも指向性の強いビームがアレス達を飲みこんでいく。
全員「きゃああああ！！」
周囲のビルがさらに倒壊し粉塵が消えた時、黒翼の間にはそれぞれ満身創痍で倒れ伏す
タイラー達の姿があった。
ミカ「・・・い、痛いよう」
アレス「畜生・・・う、動けねえぜ」
ミカが打ち付けられた痛みでうめくがアレスも同じぐらいのダメージを受けもはや動くことも
ままならない。ジョディ、タイラー、アイナ、オハリオもミカ達ほどではないが重傷を負っていた。
ダークファルスは床に倒れ付すタイラー達を見下ろし勝利の愉悦に耳障りな笑い声を響かせた。
ダークファルス「くくく、もはやこの星を覆う恐怖は極限まで増大している。いくらレジスタンスが
救出作戦を行おうと恐怖が完全に払拭される事はない。そして我は”闇”は星を
覆う恐怖から無限に力を取り出す事が可能だ。我を倒すための手段はもはや
一つしか残されてはいない、そうだろう、アイナ殿」
淡々と事実を述べるダークファルスは押し黙るアイナの方を向くと陰湿な笑みを浮かべてから
かうように問いかけた。
タイラー「・・・・その方法が封印か。だがアイナさん、明日を投げ出す為の生贄という事はまさか
・・・・」
タイラーはダークファルスの問いかけと沈黙を護るアイナ達の姿からある答えが頭の中に浮
かび上がってきた。タイラーが最も認めたくない答えが・・・・。
オハリオ「・・・・・・もう隠してはいられないようだな。そう極限まで増大進化した ”闇”を封印する
最大の秘儀・・・・そのためには僕とアイナ、二人の命を奉げるしかない・・・・。」
もはや隠せないと悟ったオハリオが静かに二人に訪れる運命を語った。その抑揚のない表
情を見てタイラーの中にふつふつと激しい怒りが湧き上がった。そしてどうやって動いたか自分
でもわからぬうちに彼は立っていった。
タイラー「アイナ、オハリオ・・・・あんた達は残された家族の事を考えたことはあるのか！？」
親が自分のことを省みず自分より大事な世界のために命を投げ出す・・・・タイラーを内面から
傷つけていた過去のトラウマが彼の怒りに火をつけた。そして頭の中に潜む”何か”が笑いなが
らタイラーの怒りを増幅させていたのだ。
タイラー「あんた達が行う秘儀で確かに多くの人達の命は救われるかもしれない・・・・だが同時
に三人の子供達が両親を二度も失うことになるんだ！！」
タイラーは唇をめくり歯を剥き出しにして内面の怒りを吐き棄てた。普段の彼から想像もつか
ない激しい怒りに尋常でない何かを感じ取り、アイナが差し迫った声で説明した。アイナ達にも
今まで自分達に運命を託し死んでいった仲間達のためにも譲れない一線があったのだ。
アイナ「・・・・それでも、私達はやらなければならないのです！！そうでないと今まで亡くなってい
った多くの仲間達の願いも、あの子達の生きるべき未来も消えてしまうのだから。」
しかしアイナの必死の訴えにもうタイラーは聞く耳を持たなかった。
タイラー「あんた達はそれを言い訳にする気かい・・・・・だがいくら自分達の未来のためだとし
ても、残された子供達が納得するのにどれほどの涙を流し悔恨の思いに傷つくか
・・・・・あんた達はわかっているのか！！」
タイラーはアイナ達に剣の切っ先を向けていた。もしアイナ達がこのまま引き下がらなければ
彼らを傷つけてでも子供達の元に連れて帰ろうとして・・・・。助けるために相手を傷つける・・・
そんな矛盾にすら気がつかない程今のタイラーは内なる憎悪に支配されていた。そして心の奥
に潜む憎悪を生み出す最も深遠で暗き”闇”に・・・・。
タイラー「俺はそんな事は断じて認めない！！あんたたちと戦ってでも止めてやる！！」
オハリオ「君はもういつもの君じゃないんだな・・・もしアイナを傷つけようとするなら僕が相手に
なる！！」
オハリオもタイラーの殺気を感じ、ふらふらになりながら立ちあがりアイナを庇うように黒き剣
を翳した。睨み合う二人の剣士を見下ろしダークファルスはさも面白そうに囃し立てる。
ダークファルス「そうだ・・・お前が止めねば二人は我を封じるために簡単にその命を差し出す
のだ、光にとって個人の命など塵芥にすぎない。なんと虚しきことか？」
多くの人達を救うという同じ目的を持つ二人が今、剣を突き合わせなければならない。その
悲劇を前にジョディは恐怖という呪縛からようやく抜け出し瞳に涙を浮かべ二人を止めようと
叫んだ。
ジョディ「やめて、艦長！！ダークファルスの言いなりにならないで」
だが、ダークファルスは目の前で繰り広げられる悲劇を代弁する詩人のように芝居じみた
口調で口上を述べると
ダークファルス「アンビヴァレンツな感情・・・・個と公の間で揺れ動き引き裂かれる心・・・・
苦しいであろう、己を偽れば影はその深さを増し、波間に飲みこまれる砂粒
のように暗黒面へと引きずりこまれる。だが迷う事はない。己の恐怖と憎悪を
開放し闇と同化すれば苦しみなど消えうせるのだ。さあ剋目して見よ、我が邪
眼を！！！そして受け入れるのだ、己の暗黒を！！」
醜悪な悪鬼の顔を笑みで歪ませ、赤い虹彩を大きく広げ不気味な視線を放ったのだ！！
同時に屋上全体に無数のダークファルスの顔が現れては消えていく。
オハリオ「いけない！！みんな目を閉じるんだ！！奴の眼をみてはいけない！！」
オハリオが目を閉じみんなに注意を促すが、もはや遅かった。暗黒の王の視線が体を貫く
とその場にいたアレス達の意識が闇の奥へと引きずり込まれていく。ただ１人を除いて・・・・。
ダークファルス「ふはははは！いかに眼を閉じようと無駄だ。我が邪眼は暗黒の力を得て最
大の呪縛でお前達を闇へと誘う・・・さあ闇よ、己の光を食らうが良いふっはは
ははははは！！」
ダークファルスの暗黒の哄笑が空気を震わせ全てを飲み込むかのように轟き渡った。
ゴーン！ゴーン！ゴーン！
そしてアルカディアグループ総本部の大時計が１２時を指した。鐘と暗黒の哄笑と共に激動の
一日が終わりを告げる。そして・・・・・
第３５話 −終−
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