スペースクルーザー ランディール
第36話 影よりの帰還の四重奏、されど・・・
ゴーン！ゴーン！ゴーン！ゴーン！ゴーン！ゴーン！
漆黒の空間の中、アルカディアグループ総本部ビルの大時計が１２時を指し死の
点鐘が鳴り響く。そして爛々と輝く赤い虹彩の光がアレス達の意識を無限の奈落
へと引き擦り込んでいく。・・・・・ただ１人、そう、ただ１人を除いて・・・・・。
・・・・アレスは闇の中にいた。
実体ではない。表層意識だけが自分の深層意識へと突き落とされた格好だがア
レスには訳が分からず突き落とされたという感覚から体の痛みを感じ、腕で摩っ
ていた。
アレス「畜生・・イテテテ・・一体どうなってまったんだ、それにここはどこだ？は、そ
うだ、みんなは・・・ミカは一体どうしちっまたんだ！！」
大声で呼び掛けても返事はない・・・。ただ暗闇の中で声が虚しく響くのみだった。
アレス「ミカ、ミカーー！！」
それでもアレスは愛する仲間の名前を叫び続ける。何分立っただろうか・・・
？？？「・・・・ミカミカってうるせえな、てめえはそれだけしか見えていねえのかね」
ふいに頭の後ろから呆れたような声が聞こえてきた。慌てて武器を手に振り向く
アレス・・・だが振り向いて声の主を見た瞬間アレスは背筋が凍りつくのを感じた。
・・・闇の中に立っていたのはもう一人の自分だったのだ。
アレス「なんだ・・・貴様は・・・・なんで俺と同じ姿をしていやがる！！」
震える声で自分と同じ姿の影に聞き返すアレス・・・・影は震える鏡面の相手を馬
鹿にするように口の端に侮蔑を刻んだ。それは無知を嘲る笑いだった。
影アレス「へへへ、それはだな、俺はてめえの影、てめえの隠しているもう一つの心
だからさ」
影アレスは人差し指を自分・・・そして相手（つまりアレス）へと突き付けてゆっくり
と語り出した。
アレス「・・・俺の隠している心だと！！てめえふざけるのも大概にしろ！！俺に隠し
事なんてもうねえ！！」
アレスは指し示された言葉に過敏に反応し叫んだ。自身の混乱を押し隠すように
怒声をあげ、影の指摘を否定するアレス。
影アレス「さてそれはどうかなあ・・・てめえの足元よく見ろよ。」
やっきになり怒声をあげるアレスを影アレスは嗜めるようにアレスの足元を指差した。
アレス「足元だと・・・・ひ！！」
その指に釣られて視線を足元に降ろした時、アレスにはさらなる衝撃が待っていた。
闇の汚泥の中からゆっくりと傷ついた手が這い出してくる。幾十、幾百も・・・・やがて
汚泥から完全に這い出した顔をアレスは覚えていた。・・・・忘れる訳がない。記憶の
底に封じていた自分の罪・・・自分が過去に殺してきたパルマ軍の兵士が幽鬼のよう
に恨めしげな視線で自分を見上げていた。
影アレス「忘れるわけねえよなあ！それはてめえが殺してきた、パルマ軍の兵士だ」
自分の罪に直面し顔面が白くなるアレスをゆっくりと尋問するように語り掛け歩いて
くる影。過去に犯した罪が影となってアレスをゆっくりと縛り付けてくる。その罪の大
きさを改めて思い出しアレスは喘ぐように苦悩し先ほど知ったある事実を叫んだ。己
の罪から逃げるように・・・。
アレス「・・・・・・こいつらはもう魂の抜け殻だったんだ、魔族に身体を乗っ取られ意志
などなかった！！」
影アレス「それは後で知った事だろう？てめえはあの時自分の村を焼かれたショック
から復讐心に囚われあの事件に関った軍人を殺した！！その後もてめえ
は仲間を護るためと称しゲリラを討伐しにきた兵士を一体何人殺したやら」
しかし影は苦悩する事さえ赦さない。アレスの犯した罪を責め立てるように事実を
述べていく。まるでアレスの罪状を告訴する検察官のように。ただ影が検察官と違う
事が一つだけあった。罪状を告げるその表情は残忍で冷酷な愉悦が滲んでいたからだ。
自分もあんな顔をするのか、足元の幽鬼達を復讐のためとはいえ彼らを倒した時に
あんな表情を浮かべていたのか・・・・その罪の業に押し潰されそうになったアレスは
怯えるように小声で呟くしかなかった。
アレス「・・・・仕方なかったんだ！！俺はもう二度と自分の仲間を失いたくはなかった。」
影アレス「そうだよなあ・・・てめえはミカルを護れなかった代わりにゲリラやレジスタンス
の仲間を守ろうとした。だが、魔族に意志を乗っ取られる前はこいつらにも家
族があったかもしれねえんだぜ・・・てめえと同じように」
確かに影の言う通りだった。いくら仲間を護るためとはいえ人の命を奪った事に変わ
りはない。とても正当化できるものではない。ましてやそれ以前の復讐に我を忘れて行
ってきた事は後で客観的に省みれば弁解し謝罪しようとする言葉そのものが”大罪”だ
とさえ言える。とても赦されるものではなかった。自分の犯した罪に追い詰められたアレ
スはついにひざをついて呻くしかなかった。
アレス「・・・・・そ、それは・・・・。」
影アレス「ほら足元をよく見てみろ、てめえに殺された亡者達の嘆きをよお」
恐怖に打たれ、嫌悪に駆られ震える事しか出来ないアレスを断罪し影は叫んだ。罪
人に死刑を言い渡す裁判官のように強く！！
兵士「生きたかった！！なのに何故俺達の命を奪った！！」
「何故貴様だけがぬくぬくと生きていられるんだ！！」
死者は一斉にアレスを罵り始める。そして裁判官に復讐を赦された死者達が恨みを
晴らすべくアレスに纏わり付き覆い隠していく。死者達が爪を立てアレスの体を引き
裂いていく。しかしアレスにそれを抵抗する権限はない。ただ許されざる罪を悔い謝
るしかできなかった。
アレス「・・・・う・うう本当に仕方がなかった。・・・・すまねえ・・・本当にすまねえ・・・・」
謝罪するしかできない自分の表人格を、影は軽蔑し静かに見下ろしていた。そして
つまらなそうに軽蔑の眼差しで睨みつけると怒声をアレスに吐きかけるのだ。
影アレス「てめえにミカと幸せに暮らす資格はねえ、そのまま自分の罪に押し潰され
消えろ！！それとも俺に身体を明渡すか、お前の復讐心である俺なら
ダークファルスを倒すことが出来るかもしれねえぜ？」
・・・・ミカは闇の中にいた。
闇の中ただ1人でいる事は昔の孤独だった自分のことをいやが応にも思い出させる。
ミカ「何これ？暗い・・・暗くて何も見えないよ。アレスお兄ちゃんやみんなはどこにい
るの？」
孤独による不安に耐えかねミカは仲間の名前を声を出して仲間を呼んだ。
ミカ「タイラーお兄ちゃーん、ジョディお姉ちゃーん、アイナさん、オハリオさん、アレス
お兄ちゃーん！！」
不安が増すにつれて仲間を呼ぶ声が大きくなる。しかし誰からも返事は返ってこな
い。何も聞えてこない闇だけが支配する無音の世界・・・。逃れられない孤独にとうとう
ミカの不安は限界に達しミカはなりふり構わず叫んだ。
ミカ「さっきから呼びかけているのに誰も返事しない・・・いやだよぅ・・・お願い！誰でも
いいから返事してー！！」
その時、ミカの猫耳に微かに誰かの嗚咽が聞こえてきた。
？？？「うええええん」
ミカ「誰かが泣いている・・・・・助けなくちゃ！！」
嗚咽とはいえそこに誰かが居ることに安心したミカは急いで声が聞こえる方向へと
駆け出した。
やがて薄暗闇の中、ミカの視界に少女が蹲って泣いているのが見えた。ミカは泣い
ている少女の元に駆け寄り優しくなだめようと声をかける。
ミカ「大丈夫？どこか痛いの？もう大丈夫だよ！！あたしがいるから！！」
その声に反応し少女は泣きながら顔を上げた。そして少女の顔を見たときミカは動
揺と恐怖で心臓が止まりそうになった。
影ミカ「うえええええん」
・・・なぜなら少女の顔はミカそのものだったからだ。
ミカ「そんな、もう１人の・・・あたし？」
ミカは茫然自失となって泣きじゃくるもう１人のミカを見つめていた。影は涙を拭き
ながらミカに涙声で語り掛けてくる。
影ミカ「ひっく・・・ひっく・・・そうだよ、ここにはあなたとあたし・・・いいや、あたしはあ
なたの心の片割れだから本当はあたし１人しかいないんだ。そう・・・・ずっ
とこのまま・・・永遠に」
一人しか居ない・・・永遠の孤独・・・・突き付けられる言葉にミカの胸中に堪らない
不安がこみ上げてくる。ミカはムキになってその不安を払拭しようと声をあげた。
ミカ「そんなことないもん！！あたしはタイラーお兄ちゃんやジョディお姉ちゃん・・・・
それにアレスお兄ちゃんがいるんだもん！！１人じゃないよ！！」
だが影はさら泣き続ける。まるで自分達の孤独を嘆くかのように・・・そして影はす
すり泣き嗚咽混じりの声でミカに逃れられようのない二つの未来を予言した。
影ミカ「うえええ・・・だけどあたし達はお兄ちゃんと同じ時は歩めないんだよ。ジャコ
ウ猫になったら生き方は二つ・・・１０数年しか生きられないか・・・もしくは数
千年生きるか・・・けれどお兄ちゃん達は両方の時も一緒にいることはでき
ないよ・・・あたしが１人寂しく消えるか・・・みんながあたしの前から消えるか
しかないんだよ・・・あなたにそれが耐える事ができるの？」
嗚咽と共に滂沱の涙を流し影は不吉な予言を口ずさむ。その提示された未来に
ミカは言葉を失った。口の中がからからに乾き目から涙が溢れそうになるのを感じ
ながらミカはうわ言のように呟くほかなかった。
ミカ「そんな・・・・そんなあたしは・・・あたしは」
・・・・オハリオとアイナは闇の中にいた。だがアイナとオハリオは闇を恐れてなど
いなかった。
オハリオ「僕としたことが迂闊だった・・・・・。」
アイナ「私達はダークファルスの邪眼により自分の暗黒面の中に閉じ込められた
ようですね。」
オハリオとアイナは闇の中で挫ける事無く冷静に自分達の敗因と現状把握に努
めようとしていた。
オハリオ「タイラー君や仲間達は大丈夫だろうか・・・・。」
アイナ「わからない・・・でもたぶん彼等も自分の心の中に引きずりこまれたと考える
べきでしょう。」
しかし平静に考えようとすればするほど内心の不安は募っていくばかりだ。そして
その不安に招かれるように闇の向こうから二人の男女が歩いてくる。その姿はア
イナとオハリオの鏡面に映る影の映し身だった。
影アイナ「ふふふ・・・・こんな状況下でも関らず冷静に事態を見つめられるなんて
さすが私の表人格といったところでしょうか？」
影オハリオ「それにしても心の暗黒面でも僕達が一緒ということはよほど僕達・・・
いや君達の心の結びつきは強いらしい・・・互いに依存しあわねば生き
ていけぬほどに」
影の二人は冷笑を浮かべ静かに尋ねてくる。友人と語らうように静かに・・・・。だが
アイナとオハリオは自分の影を見ても驚く事無く、むしろ冷静沈着に相手を見据え
切り返した。
アイナ「そう、すぐに出てくると思ったけどあなた達が私達の心の影なのですね。」
表人格の強い自制心に半ば呆れつつ影はくすりと含み笑いを漏らした。
影アイナ「あらあら自分の影相手に敬語を使わなくてもよろしくてよ・・・・それとも・・
・・あなたは自分の気持ちも偽ろうと言うのでしょうか？」
影アイナの冷たい囁き、しかしそれを聞いてもオハリオは決して動じなかった。凛
とした声で自らの決断を語る。
オハリオ「例え君達が僕等の心の影であろうと関係ない！！僕達はここを抜け出
し早くダークファルスを封印しなければならない！！」
影オハリオ「そして・・・死ぬんだね。」
影のオハリオは侮蔑の篭った視線で自分の半身に問い掛ける。オハリオは運
命を受け入れるかのようにそれに自らの意思で答えた。
オハリオ「・・・・否定はしない。だがこれは・・・・全てを滅ぼす”闇”に対する、僕達
自身が選んだただ一つの道なんだ！！」
アイナ「仲間達のために、パルマに住む人々のために・・・そして愛するアレク達の
ために出来るただ一つの道・・・私達シークの末裔だから出来ることなの
です。」
オハリオとアイナは自分達に課せられた宿命に殉じる覚悟を対峙する影に静か
に語り掛ける。そして黒き剣と弓を構えそこから駆け出した！
オハリオ「・・・・その為にもここは力づくで通させてもらう！！」
だが影も鏡面に投影されるように同じタイミングで剣を構えると黒き剣に暗黒の炎
を纏わせ邪悪な禍歌を唱えた。
影オハリオ「そうはいかない、暗黒の盟主レイバートの名の元、聖なる炎を全てを
焼き尽くす暗黒の炎へと変えよ、邪神天王の刻印を受け入れしフレイ
ムドラゴンよ奥義、暗黒紅蓮竜神剣！！」
影の邪悪な呪言に合わせるかのように剣に纏わりつく炎は巨大な邪竜へと変化
していく。それは影の斬撃により解き放たれアイナとオハリオに襲いかかってきた。
アイナ、オハリオ「うわああ！！」
自分達の奥義が属性を転換され暗黒の力として襲いかかることに一瞬の戸惑い
が二人に生まれた。ダークファルスばかりではなく自分の影にもそれができるとは
・・・・二人は改めてダークファルスや二人の影に力を与え封印から解放されて行く
”闇”の強大さを思い知る。そして灼熱の獄炎が二人を焼いた。満身創痍に倒れる
オハリオとアイナを嫌悪感を露に影は見下ろしていた。
影オハリオ「ふん、馬鹿だよ・・・君達は」
問い掛けというより独り言のような口調で影は囁く。
影オハリオ「・・・・僕・・・そして君達も本心では生きたいはずさ！！それに本当は
君達も疑問に思っているはずだ。果たして今のパルマ人に救う価値が
あるのか・・・。」
影アイナ「そう、マザーブレインの登場で己の欲望に歯止めが効かなくなった人類、
浪費し、星の資源を食いつぶし、命を弄ぶ。そんな人類のために・・・」
やがて二人の影は自らの主張に激昂し声のトーンが次第に狂気の熱を帯びてくる。
影オハリオ「彼等は魔王ラ・シークの子孫というだけでシーク家のスキャンダルを
勝手に書き上げ冷ややかな視線を向けてきた。シーク宗家がアルカ
ディアに急襲された時も誰も助けてくれなかった！！それなのに彼等
は自分達が危なくなると・・・すぐに僕達に頼ろうとする。随分虫の良い
話だよ。こんな腐敗した世界なのに僕達は命すら投げ出そうとしている。」
肩をすくめ悪意を込めて人間世界に対する皮肉を口にする影にオハリオ達は言葉
がでなかった。 なぜなら彼らは自分達が心の暗闇で感じ封じこめていた怒りそのも
のだったからだ。
影アイナ「タイラーさんの言葉は正しいですわ。私達を雁字搦めに縛りつけるしがらみ
なんて振りほどいてアレク達とともに自由で希望に満ちた新天地へと向かい
ましょう。」
影アイナは自由と言う言葉に陶酔した面持ちでアイナへ優しく手を差し伸べてくる。
アイナとオハリオはそれを痛切な思いでじっと見据えていた・・・・。
闇が一段とその色合いを深めていく。夜の帳のように
ダークファルスの赤い虹彩が光った時、タイラーは何がおこったか分からずに居た。
気がつけば自分以外の全員の意識が消えていたのだ。生きているにも関らずまるで
生気を失ったかのように憔悴し眠り続ける仲間達・・・。
タイラー「みんな・・・・一体どうしたんだ・・・・・」
動揺が脳内を駆け巡り呆然と気絶した仲間達を見るしかないタイラー。その耳に闇
の奥から低く甘いささやきが木霊する。
ダークファルス「くくく・・・この光景が不思議でしょうがないという顔をしているな・・・教
えてやろう。彼等は私の邪眼の力で自分の影に飲みこまれてしまった
のだ。」
すぐ側に、まるで一緒に悲劇を観覧する隣人であるかのようにダークファルスの巨
体があった。反射的にその場から飛びのいたタイラーが急いで光剣を構える。
タイラー「自分の心の影に飲みこまれた・・・そんなこと、あってたまるか！！例えそう
だとしても・・・俺はみんなを信じる。あいつらは自分の影に負けない強さを
持って居るはずだ！！！」
だが自分に向けられる光刃に照らされるダークファルスの表情は落ちついた物だった。
ダークファルス「どんな高貴なる魂にも必ず醜い一面心の”闇”は存在するものだ。人
間はそれを隠そうとして理性の仮面を被る・・・・だがそれは所詮無駄な
努力。 影は己を偽れば濃さを増しふとした兆で己を飲みこむ。正義や
理念を振り翳し己を偽る者は特になあ・・・。」
ダークァルスは皮肉な形に口を歪めながら肩をすくめてみせた。どす黒い声が嘲笑
を帯び、木霊となって遠くから近くからタイラーの鼓膜を冷ややかに響かせる。圧倒的
な力でその空間を支配する暗黒の魔王に対するタイラーの武器は手に握られた剣と
心の中に宿る純粋な願いだけだ。その思いが彼を今、ぎりぎり立ちあがらせていた。
タイラー「俺達は別に正義を翳した覚えはない！！俺達はただ・・・みんなの命を護り
たい！！俺達が願うのはただそれだけだ！！」
しかし、その願いですらダークファルスの嘲笑のネタを与えたにすぎなかった。ダー
クファルスは雷鳴轟く暗雲を虚しく見上げると願いの儚さを憐れんだ。嘲弄の毒と共
に・・・。
ダークファルス「願いか・・・そのなんと虚しきことか・・・虚言では己は騙し通すことは
できない。そして現実という巨大な力に押し潰された時、人は気付くの
だ。己がいかに無力であったかを！！無力を感じた魂は理念という
仮面を投げ捨て容易に力を追い求め闇へと走る・・・・果たして次に彼
等が目覚めた時、それは光か闇か・・・・どちらであろうか？」
憐れみに含まれた嘲弄の毒素がタイラーの心をかき乱す。もしかするとという・・・疑念。
しかしタイラーは倒れている仲間を見渡すと再び振りかえり、疑念を振り払うかの如く
力強く叫んだ！！
タイラー「・・・・・俺は貴様の虚言など信じない！！あいつらは帰ってくる。俺はあいつ
らの強さを知っているんだ！」
しかしその葛藤をダークファルスは見抜くと目を細め、ゆっくりとタイラーの迷いを指
摘していく。
ダークファルス「くくく・・・口ではそういいつつもお前の心に迷いを感じるぞ・・・怖いので
あろう、闇に飲みこまれた仲間を見るのが、ならば私が殺してやろうか。
そうすればお前は苦悩せずに済む。」
そう言いながらダークファルスは腕から無数の触手を伸ばしアレス達を絡めとろうと
していた。
ダークファルスの刺すような指摘がタイラーの怒りの着火点となった。怒りの炎が凍
てついたタイラーの体をフルスロットルを蒸かしたエンジンの如く滾らせていく。
タイラー「そんな事させてたまるか！！俺はあいつらを護る！！くそ親父や母さんとそ
う約束したんだ！！」
膨れあがる怒りの炎により立ちあがったタイラーを見てダークファルスは邪悪な歓喜
を浮かべていた。
ダークファルス「ほう、まだ戦う気力が残されているとは・・・面白い！」
一方、溶け落ちた腕を押さえ肩で息をしていた父タイロスは怒りにかられても尚あの
時の約束を忘れないでいる息子の姿を見て胸が詰まる思いだった。
タイロス「タイラー・・・・お前はあの時の約束をまだ・・・」
タイラー「・・・・親父、あんたとの約束だけじゃない！！俺はもう誰も悲しませたくないん
だ・・・・もう誰も俺みたいに苦しんでほしくないんだ！！」
タイラーの心は今やいろんな感情がぶつかり合い自己コントロールができなくなっていた。
父親との約束
仲間達との絆
今も戦っている多くの人達
その事を考えると今こそ冷静に事態を考えなければならないのに・・・だが内から湧き上
がる憎悪の波涛はもはや自分では止められようがなかったのだ。彼の怒り嘆き自体が
”闇”の力となり彼を内と外から蝕んでいく。激情にまかせてダークファルスに向かい駆け
出したタイラーは何度も何度も何度も力のあらん限り剣を振り下ろした！！
だがダークファルスは巨体に似合わぬ俊敏でトリッキーな動きでそれをことごとくかわ
してく。
ダークファルス「どうした？先ほどまでとまるで動きが違うではないか。」
魔王の嘲笑がタイラーの焦燥感を加速させていく。いかなる角度から剣を叩き付けよ
うとダークファルスはそれをさらりとかわしていった。もはや戦いのペースは完全に暗黒
の王が支配していたのだ。
タイラー「くそ・・・・間合いが掴めない！！どうしたんだ！！俺の目は！！！」
空回りする焦燥感に追い討ちをかけるように視界がどす黒く変色を始めていた。もは
や目まで異常をきたして来たことにタイラーはなんとか敵の動きの急所を見極めようと
懸命に探した。そしてダークファルスの動きの要たるポイント、動きの重心を見つけそれ
に全力を集中し切りかかった！その時、ダークファルスが何故かニヤリと笑った。駆け
出した重心の前に触手が纏わりついた何かが飛びこんできた。飛びこんできた影・・・そ
れはダークファルスの触手に絡み取られたジョディだったのだ！！
ダークファルス「力任せに剣を振りまわしているだけでは我は倒せぬ。自分の偽りに迷
う者に我は負けはせぬよ・・・・」
ジョディを前にタイラーの剣が鈍る。そして頭上から巨大な腕が衝撃波を伴ってタイラー
の全身を打ちつけた！！
タイラー「ジョディ！！ぐは！！」
ダークファルス「そら・・・仲間をこうして翳すだけでお前の剣は鈍る」
タイラー「・・・・・」
その衝撃は巨大な質量と化してタイラー機械の右腕を押し潰し破砕した！！声も上げ
られないほどの激痛が神経を駆け巡りタイラーはその場に倒れ伏した。受身が取れず、
背中をしたたかに打ちつけタイラーは息ができなかった。もはや完全に戦う力を失った
タイラーを見下ろしダークファルスが残酷な哄笑を響かせる。
ダークファルス「怒りのままに仲間ごと我を切れば良いものを・・・・見ているが良い・・・
お前の仲間の命が散り行くさまを・・・・そうだな・・・・まずはこの少女が
いい・・・。」
そして良いことを思いついた子供のようにダークファルスは虹彩を輝かせるとタイラー
の目の前に吊るされたジョディの腕を数本の触手を絡ませ少しずつ力を込め引っ張り
始めたのだ。まるで無邪気な子供が掴まえた甲虫を玩具のように扱うがごとく。
タイラー「・・・・やめろ、ジョディを離せ・・・・」
ダークファルス「力を持たぬものに運命は変えられぬよ。そこで己の無力さを呪うがい
い！！ふははははは！！」
ダークファルスのおぞましき哄笑が冷たい風音となってタイラーの耳を吹き抜ける引
っ張られるジョディの腕が次第に充血を始め少しずつミシミシと異音が微かに聞こえて
きた。タイラーは痛みも忘れてジョディの元に駆け寄ろうとした。だが手足が思うように
動かない。自分のあまりの無力さにタイラーは思わず叫んだ！！
タイラー「畜生・・・俺は・・・俺はどうすればいいんだ・・・」
その時タイラーの心の奥底からあの異質な声が響き渡った。
？？？”・・・・心惑いし哀れな童よ、彼等を助ける方法が一つだけある”
それはタイラーの心のビジョンに醜い灰色の胎児の姿で語り掛けてきた。しかも成熟
した女性の声で・・・・どこかで聞いたかのような異質な概視感・・・そして何故かその胎
児は外にいる暗黒の魔王よりもさらに暗くまるでブラックホールを連想されるような巨大
な威圧感を放っていた。だがその声を聞くとタイラーのもやもやが少しずつ晴れていくの
が感じられる。よく見ると胎児に流れこむかのようにドス黒いエネルギー流が渦を巻い
ていた。タイラーはそれが彼の心的エネルギーを暗黒の胎児が食らっているのだと直感
した。
タイラー「おまえは・・・・・さっきから語り掛けるおまえは一体誰だ！！」
思わず誰かと問い掛けるタイラーに胎児は少しの沈黙の後、ゆっくりと語りかける。母
が子供に教え諭すように甘美なる響きの中に氷のような冷たい推論を乗せて・・。
？？？”童よ、今は我のことを気にする時であろうか・・・・そなたが迷えば仲間は殺され
るかもしれぬのに・・・”
胎児の指摘にハッとしたタイラーはまどろみの中で一時冷静になり、最初に胎児が語
りかけたジョディを助け出す方法を聞き出そうとした。時間がもうないのだ。
タイラー「・・・・・・わかった・・・俺は何をすればジョディ達を助けられる！？」
気がつけば胎児は何時の間にか緑の髪の幼女へと成長していた。だが今のタイラー
にはどうでもいいことだ。。幼女はタイラーにほほえみを浮かべ穏やかに諭した。だが
その口の端には嘲りの歪みがあった。
？？？”簡単なことだ・・・・今汝の心の奥底にある思いを解放すればいい・・・汝なら思い
が言葉となって自然と出てくるはずだ・・・・”
幼女の言葉にタイラーは意表を突かれた。タイラーが言われた通り心の奥に目をやる
とその奥底にまるで噴火寸前のマグマのような莫大なエネルギーがある言葉とともに渦
巻いていた。
・・・メ・・・・ギ・・・・・・・・
だがその言葉を知ろうとした瞬間タイラーの心に背筋に絶対零度の氷が触れるような
怖気が走り抜けた。果たしてこの言葉を知ってもいいのだろうか・・・心の中で本能が警
戒を発していた。
タイラー「・・・・・・その言葉で本当にジョディ達を助けられるのか！？」
その言葉を手に入れることに躊躇いが生まれたタイラーに幼女から少女になった”それ”
は妖艶な微笑を浮かべ囁き続ける。
？？？”出来なくば・・・彼等は確実に死ぬであろうな。汝は永久に彼らを失う事になる。
彼らを救えるのは今は汝をおいて他にはいない。それとも怯えて神にでも縋る
か・・・・さあどうする？”
タイラー「うう・・・・。」
追い詰められたタイラーの精神は暗黒に引き裂かれようとするジョディを見あげ焦燥と
錯乱に押し潰されそうになっていた。
ジョディは闇の中にいた。
ジョディは一度ここに来たことがあった。崩壊した孤児院・・・空を覆う暗雲、
ジョディ「そうか・・・そう言う事だったのね・・・」
あの時はタイラーに助けてもらったが今にして思えばあの時タイラーに”闇”が感染した
のだ。今度は自分の意志だけでここから抜け出さなくてはならない。目も前には机の上に
自分と同じ姿をした影が座って待っていた。
影ジョディ「ふふふまた会ったわね？表の私・・・どう暗黒と絶望に閉ざされたこの世界は？」
微笑みながら歓迎する影に、ジョディは恐れることなく意を決して必死に問い掛けた。
ジョディ「あなたは・・・・・”闇”なのね。みんなは・・・タイラーはどうしたの！！」
ジョディの問いに対し影は軽く肩をすくめるとジョディの反応を面白がるように悠然と答える。
影ジョディ「そう確かに私は深遠なる”闇”でありダークファルスでもあるわ。だけどあなた自
身に確固として存在する影そのものでもあるのよ。」
影の優越に満ちた指摘をジョディは黙って聞いていた。そして影の言葉を噛み締めるかの
ようにうつむいたまま寂しげな表情を浮かべると静かにこう言った。
ジョディ「あなたが私自身の中にいることは否定はしないわ・・・でもその影がタイラー達を苦
しめるのを私は見過ごすわけにはいかないの！！」
静かな中にもしっかりとした強い決意が読み取れるジョディの眼差し・・・。影はそれを見て
小ばかにするようにふっと呟いた。
影ジョディ「・・・・偽善ね」
ジョディ「・・・・・」
痛くはない
それは嘘
辛くはない
それはごまかし
ジョディと影の間で交わされる無限の問い掛け影は無限とも思える思念の迷宮の中から
ジョディの自己満足と心の脆さを探し出し指弾する。
影ジョディ「あなたは他人を心配するふりをして自分を安心させたいだけなのよ。１人じゃな
にもできないくせに他人の心を聞くテレパシー能力があるから他人をわかった
つもりでいる。」
ジョディ「かもしれない。でも私は父さんから受け継いだこの能力で人の悲しみや苦悩をたく
さん感じてきた・・・だから彼等の苦悩を和らげる手助けをしたいと願っている」
影を前にそう言うのは綺麗事かもしれない。それでもジョディは心の内にある願いをあえて
口にした。
影ジョディ「それは自分を偽る嘘！本当のあなたは・・・自分に流れこんでくる恐怖や不安
から耳を塞ぎたいと何度思ったのかしら・・・いっそこの苦痛に満ちた世界が崩
壊すれば聞かなくてすむのに・・・。」
しかし影はジョディの言葉を脆弱な根拠として強く否定した。影のその強い怒りの眼差しに
貫かれジョディは言葉を詰まらせる。
ジョディ「・・・・・。」
ジョディが言葉を失ったのを見て影は嘲笑の仮面を取り戻し愉悦を交えてジョディに現実
世界の危うさを示し嗜めるように言った。
影ジョディ「ふふふ本当の自分は誤魔化せないわね。それに自分の否定は”私”やダーク
ファルス即ち”闇”の力になるわ・・・・どちらにしても苦しみに満ちた世界は滅び
闇による平穏が永遠に訪れるのよ・・・。」
影の言葉に突き崩されるように孤児院のあった世界が崩壊し”闇”に全てが飲みこまれる。
そして訪れた無限に続く静寂の世界を影は高らかに誇示した。
影の言葉はジョディの心の内から叫び・・・人々の嘲笑や憎悪をまともに受けテレパシー
能力で苦悩していたジョディが全ての消滅を心の暗黒面で望んでいた事は一度や二度で
はない。しかし今のジョディは暗黒面の理想郷を寂しく見渡すと静かにつぶやいた。
ジョディ「・・・・・でもそれはとても寂しい世界だね・・・・」
影ジョディ「・・・・寂しい？どうして、あなたのいた世界が存在してもあなたの心が傷つくだけ
なのに」
影はジョディの言葉を聞いて怪訝そうな表情を浮かべていた。再び自分の優位に話を進
めようと甘く囁くがその視線は不安げに揺れていた。ジョディはそれを静かに聞いていた。
今までのいろんな思い出が走馬灯のように駆け巡る。
ジョディ「私は今まで多くの声を聞いてきたわ・・・確かに耳を塞ぎたくなることは何度も何度
もあったよ・・・・でもそれはその人が生きている証でもあるのよ！！互いのすれ
違いや不信から羨ましかったり、妬んだりするのは誰にもある。でもそれは相手
のいやな一面しか知らないから・・・他の面を見ようとする努力をしないで諦めたり
決め付けたりしたら何も変わらないし、とても寂しいよ。」
その大半は悲しい記憶・・・けれどもうジョディはその過去をただ嘆くのではなくさりとて忘れ
るのでもなく共生しようする選択を選んだ。ジョディの顔にもう恐れはなかった。なぜならジョ
ディにはもう心を通わせた多くの仲間達・・・そしてタイラーがいるのだから。ジョディのきっぱ
りとした言葉に影は平静を装う、しかしその顔には汗が浮かんでいた。
影ジョディ「・・・・例え辛い事しかない世界でもあなたは別の面を探し続けるの？」
影は改めて問う。それはとても辛い茨の道だ。決意しただけで出来るものではない。それは
ジョディにも判っている。それでもジョディは瞳に真摯な輝きを浮かべて強い意思で答えた。
ジョディ「探し続けるわ・・・・だって、大切なのは他人を大事に思う自分の気持ちだもの・・・・
その努力は私だけじゃなくアレスやミカちゃんそしてタイラーもううん私達だけじゃ
なく全ての人が努力していると感じるから。・・・・そして一つでも会えて良かったと
感じられる面を見つけられたら・・・・・・・希望を見出すことが出来るのよ。」
静かながら強い意思の篭った言葉に今度は影が押し黙った。
影ジョディ「・・・・・・。」
ジョディ「私は父さんがくれたこの能力に感謝している・・・だってその人の中にある無限の思
いを見ることが出来るから・・・・おかげで私はあなたが私の中にいることも受け入
れることができる。だからあなた達もタイラー達を苦しめるのはやめて！！」
押し黙る影を拒絶するでも、見返すでもなく、ただあるがままに自分の願いを伝えるジョディ。
影ジョディ「とんだ御人好しね・・・・確かにあなたは私という”闇”を受け入れる心の強さがある
かもしれない・・・・でも他の人達が自分の影を受け入れられるか・・・それは別の問
題よ・・・どんな結果がでてもあなたに受け入れることができるか・・・私はあなたを
見続け嘲笑してあげるわ。」
その姿を見て影はしばらく考えていたがやがて肩をすくめて降参とばかりに苦笑を浮かべる。
そして闇に同化しその姿が消えていった。ジョディは耳に響く影の言葉を受け止め強く答える。
ジョディ「ええ、私の中で見続けていて・・・・私はどんな結果がでても決して諦めないから！！」
そんなジョディの前に闇の彼方から一条の光が溢れてきた。光の先に幸福があるとは限らない、
それでもジョディは臆せず前へと一歩を踏み出す。そして歩きながらジョディは今だ闇の中で
もがいている仲間達に向け願いと前へと踏み出す勇気をテレパシーに乗せてみんなの心に
送りだした。
ジョディ「みんな、心の闇に負けないで、でもそれを否定してはいけないよ。例えどんな嫌な面
でもそれはかけがえのない自分自身だから・・・」
無数の死者達に責められ闇の中に罪悪感とともに引きずれこまれようとしていたアレス。自
責のあまり絶望に閉ざされたその心に微かだがジョディの声が聞こえてきた。いくら逃げよう
と詭弁をつかおうが自分からは逃れられない。
心の闇に負けないで、でもそれを否定してはいけないよ
ジョディの祈りにも似た言葉がアレスの自責に閉ざされた心の檻を開放していく。心の檻の
隙間から指し届くジョディの祈りを聞き、アレスは自分の罪に絶望するだけでは、結局何も変
わらない事にようやく気がついたのだ。
アレス「・・・・・・・そうか・・・・・俺はやっぱり馬鹿だ・・・」
認識の変化が彼に自分の罪と向き合う勇気を与えてくれた。アレスは低い声で自嘲的に呟く。
アレス「・・・・・そうだな・・・・・・確かにおめえに身体を渡しちまえば楽かもしれねえ・・・」
罪から死という形で逃れられると思った自分の甘い考えに口の端に苦い笑いがよぎる。影は
諦観したように呟くアレスを軽蔑の眼差しで見下ろし嘲笑おうとした。
影アレス「わかっているんならさっさと明渡せよ・・・・ん？」
しかしアレスの言葉の端に微かな変化を感じとりその表情が警戒に曇った。訝しげに見下ろ
す影を前にアレスの顔が徐々に生気を取り戻していく。そして同時に彼の瞳には今までになか
った強い光が宿り始めていた。己の罪からもう目を背けない”責任”という名の強き光が！
アレス「・・・・・だがよお、俺が罪から逃げれば行き場を失った彼等の怒りをどこに向ければいい。
俺が逃げればだれが彼等を虚しさから助けてくれる！！！！だから・・・・」
己の迷いを吹っ切ったアレスは自分を覆い尽くしている死者に手を伸ばした。そして彼ら全て
を背中に背負うと、罪の重さを、兵士達の嘆きを、その身一つで抱え込むようにゆっくりと立ち
あがっていく。死者達は己の憎しみを黙って受けとめるアレスの姿に戸惑い攻撃をやめた。影
はその姿に宿る強い意志に引き寄せられ初めて狼狽を見せた。
影アレス「・・・・お、おい何をする気だ？」
アレス「・・・・俺は罪を背負って生きる。もう自分の罪から背をそむけねえ！お前達の命を奪っ
たのは俺だ！！だからお前達が護りたかったもの、俺が必ず護る！！その代わりお
前達の怒りや無念は俺だけに向けろ。それが俺に出来る唯一の贖罪だ！！」
叫びと共についにアレスは己の罪を受け止める覚悟を示し立ちあがった。その覚悟の強さに
導かれるように一条の光が闇の中に指しこんだ。影は光に照らされると皮肉に顔を歪めて消
えていく。
影アレス「・・・・・しらけたねえ、心の弱いおめえが重い罪を背負って生きていられるか？まあ、
見てやるよ・・・さっさと行きな。」
苦笑と共に消えていく影の言葉を背に受けながらアレスは背中に罪を抱え込み光に向かって
一歩を踏み出した。
アレス「てめえに言われるまでもねえ！俺はこの重さを抱えたままこれから生きていくんだ！」
永遠の孤独に動揺し寂しさに影と共に震えていたミカ。その猫耳に微かな流れが聞こえてきた。
ミカ「・・・・・」
ミカは微かに聞こえてきたジョディの声に顔を上げ回り見渡して探す。しかしながら当然ジョ
ディの姿は目に映らない。影はミカの行動を泣きながら眺めていた。
影ミカ「ひっく・・・・ほらやっぱりあたし達は１人ぼっちなんだよ・・・だから闇に一緒に消えようよ。
１人でいる悲しみもなくなるから・・・・」
泣きじゃくる影は嗚咽混じりにポツリと独り言のように呟いた。ミカは涙の混じった影の囁き
を黙って聞いていた。そしてゆっくりと首を横に振る。
ミカ「ううん・・・・あたしは生き続けるよ！！」
影ミカ「なんで・・・結局は１人ぼっちになるのに！！」
ミカの言葉に影が泣きながら非難の声を挙げた。それでもミカは影を優しい眼差しで見つめ
宥めるように言葉を続ける。
ミカ「１人じゃないよ・・・確かに身体は死んで消えてしまうかもしれない・・・でもお兄ちゃん達が
あたしにくれた暖かな思いそして魂は、あたしが忘れない限り心の中で永遠に生きてい
くんだよ・・・だからあたしは１人じゃない。そしてあなたも。」
影ミカ「あたしはあなたの一人ぼっちは悲しいという思いなんだよ・・・」
静かに語りかけてくるミカの暖かい言葉に影は泣くのをやめた。影はしゃくり上げおどおどと
問い掛ける。ミカは影の手を取り自分の胸に当て穏やかな顔でその問いに答えた。不安げに
見つめる影を子供を宥めるように優しく・・・。
ミカ「・・・・大丈夫怖くないよ・・・あたしもあなたを受け入れるからあなたもあたしを受け入れて
・・・。」
ミカの優しさに触れ自分の鏡面であるにも関らず影の瞳が潤んだ。
影ミカ「・・・・本当に・・・・いいの？」
捨て猫が差し伸べられた手におどおどと近づくみたいに不安げに尋ねる影にミカは両手を
広げて満面の笑みで迎え入れる。
ミカ「もちろんだよ・・・ここにあたしの心に帰ってきて」
影ミカ「うん！！」
影は感極まってミカの胸に飛び込んだ。そしてわだかまりを吐き出すように号泣した。ミカは
影を優しく肩に手をかけると悲しみを受け止める静かに抱きしめた。 そんな二人を祝福する
ように一条の光が指しこみ二人を照らした。そして影は光とミカに溶け込むように笑顔で消えて
いった。後に残されたミカは胸に微かに残る暖かさを感じながら静かに呟く。
ミカ「おかえり・・・・１人ぼっちだったあたし・・・もう決して悲しい思いはさせないから！！」
そしてミカは立ちあがる。光に照らされたミカは急いで光の出でる方角へと走り始めた。
ジョディの祈りはオハリオとアイナにも届いていた。
オハリオ、アイナ「・・・・・確かにそうかもしれない」
ジョディの祈りを聞き二人は困ったような笑顔を浮かべた。それを了承の意味と捉えた影が
ニヤリと嘲笑を浮かべつつ手を差し出す。
影「ふふふ・・・頑固な君達もようやく認める気になったんだね、さあしがらみを今こそ脱ぎ捨て
新天地に・・・」
しかし、次の瞬間オハリオは影の手を払いのけアイナと共に武器を手に取りそれを自分の
鏡面に向け構えた。
オハリオ「・・・・でも僕はそれをしがらみとは思わない！！」
アイナ「例え私達が彼等を捨て新天地へ赴こうとと人が人である以上しがらみは必ず付いて
回るものです。時にそれが煩わしく思うこともあります。でもそれは私達を束縛する枷
であると同時に他者と自分とを繋ぐ大切な絆でもあるのです。人は１人では生きてい
けない。例え傷つけることがあっても人は求め合い深い繋がりを築いていく。タイラー
さん、ルオン、多くの仲間達そして・・・・アレク達がその証明です！！」
そして二人は自分達と世界の繋がりを証明すべく語気を強めて相対する影に対峙した。アイナ
とオハリオの気迫に圧倒され影の声が動揺にうわずった。
影アイナ「・・・・彼等も私達を縛る束縛にすぎないわ！！生きている事それ事態がしがらみを
生み出すのであれば！！あなた達も本当はそのしがらみから逃げようとして命を
捨てようとしているのではないの！！」
目を見開き怒りに激昂して吐き捨てる影、その行為事態が影の動揺を如実に物語っていた。
アイナとオハリオは狼狽する自分達の影を、いや自分の心の弱さを・・・・冷静に見つめていた。
オハリオは静かに目を閉じ竜奥義を繰り出すための構えを取りながら敵の主張の不備を指摘
した。
オハリオ「語るにおちたな！！僕達はしがらみから逃げるために命を投げ出すのではない。人
がなによりも大事な己の命を運命に奉げるのは大切な絆を護る、それをおいて他に
ない。影よ去れ！！僕達はあの子達の明日を護るために往かなくてはならないんだ！！」
冷酷なまでの冷静さを完全に失った影達はは悪鬼の形相で先ほどと同じ剣戟を放とうとしていた。
影オハリオ「今更遅い・・・もうまもなく”闇”は復活する！！アルゴルという束縛を壊し僕達を自由
にするために！！」
だが内に秘めた弱さを曝け出した影にオハリオとアイナは負ける気がしなかった。二人は深呼
吸するとせまり来る巨大な憎悪と炎の竜を迎え撃つため詠唱を、心を、重ね合わせる。
アイナ、オハリオ「”闇”の思惑通りには決してさせない！！我がシークを守護せし光神金竜ゴー
ルドドレイクよ、願わくば我が剣に宿り我等が前に立ちふさがりし敵を打ち払い
たまえ！奥義、烈光竜撃剣！！」
そしてオハリオの闘気が剣に宿り、振るわれた斬激が金色の龍となって影ともども炎の竜と闇
の空間を引き裂き打ち破った！！
彼らはそれぞれの思いで見事自分の闇を乗り越えることができた。しかし・・・もはや何もかもが
遅かったのだ。
為すは死の点鐘
為すは紫紺の灯火
千年毎に繰り返される悪夢・・・
そして今アルゴルに封じられていた巨大な存在が動き始める。
第３６話 −終−
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