スペースクルーザー ランディール
第40話 死の点鐘は鳴り響かん いざラグナログの舞台へ！！
バヤマーレ時間ＡＭ１：４０分
ランディールはバヤマーレ都心から約２０ｋｍ南トノエ上空に集結しつつあるレジス
タンスの大艦隊へと合流を果たそうとしていた。
ジョディ達がランデブーポイントを探すべく航行する中艦橋に素っ頓狂な声があが
った。
ラガン「ああ、こげん大怪我しおってからに！！」
デゾリアンの医師ラガンが声を荒げるのも無理はない。回復テクニックを施したと
はいえ、タイラー達の身体はいまだぼろぼろに近い状態だったからだ。
口を尖らせるラガンにタイラーは思わず苦笑をうかべた。
タイラー「ははは・・・・面目ないな。ラガン」
ラガン「何があったが知らんちゅうが本来なら医療カプセルで安生しとかなあかん
ずら！！」
苦笑いを浮かべ頭を掻き何とかごまかそうとするタイラーを、ラガンは負傷の具合
を見ながら頭ごなしに叱りつける！！
ラガンの言うことは最もだった。本来ならじっくり治療を受けないといけないこともタ
イラー達にはわかっている。
アレス「仕方ねえだろう！！俺達にはもうのんびり回復を待つ時間なんてねえんだ
からよ！」
しかしそれでもアレスは言い返す。深遠なる闇との戦いの前に一時でも寝てなどい
られないからだ。怒鳴りつけるアレスにラガンは負けじと食って掛かる。彼にも医者
として譲れない領分があるからだ。
ラガン「いんや！！医者としてこれだけは絶対譲れねえズラ。そんだけの傷、治癒
テクニックで表向き治癒したようば見えても根本的に治療せにゃあ後々ど
んな後遺症が残るかもしれねえズラ！」
アレス「うるせえよ！こんな傷、唾つけときゃあ直るさ！！」
ラガン「傷を甘く見ちゃああかんずら！！いくら身体が頑強なモタビアンでも傷から
細菌が入ったら破傷風で命ば落す危険ばってあるかもしれんずら！」
売り喧嘩に買い喧嘩しかし専門的な医学の知識のあるラガンにどうやら分がある
ようだ。ミカがラガンの警告に不安になりアレスの前に駆け出す。
ミカ「ええ！？アレスお兄ちゃんが！！駄目だよう！！アレスお兄ちゃんは今すぐ
医療カプセルに入って！！」
アレス「う・・・・・でもよう！」
さしものアレスもミカにせがまれるように強く言われると、項垂れる他無い。
このままじゃ埒があかないと感じた、タイラーは医者の本分を忠実に守ろうとする
ラガンに低身低頭し願いいるように説得した。
タイラー「ラガン先生・・・・・・・あなたの言うことは俺もアレスも理解しているつもりだ。
でも、今だけはここで治療をする処置をすることはできないかな。先生の
素晴らしい医療技術の腕を俺達は信じている。その先生の腕ならここで
でも治療する技量ぐらい持っていると俺はおもうけどね」
懇願しながらも医者のプライドを巧みにくすぐるタイラーの説得についにラガンも根
負けする。
ラガン「・・・・・・・・やれやれみな頑固ずらねえ。一度決めたことはもう二度と変えねえ
面になっちょる。わかったずら・・・・・ふう・・・・・・」
ラガンは諦観の末、一息つくと神妙な面持ちでデゾリス語で何かを唱え始めた。
ラガン「ダニャペペクイプトニャホホイイクリプト・・・（イクリプスに宿り、アルゴルの炎
の輝き今病める者達に大いなる奇跡を、ミラクル！！）」
ラガンが詠唱を初めてすぐタイラー達の身体が青白い光に包まれる。仄かだが暖か
い光に包まれると闇に傷つけられた痛みや疲労感が少しずつだが取れてきた。
タイラー「・・・・・ラガン先生！？それは・・・テクニック？」
驚いて尋ねるタイラーに答えたのはラガンではなく奥の通路から艦橋に入ってきた
アイナ達だった。
アイナ「その術法はガンビアス宗派の治療法術・・・・ラガンさん・・・・・あなたはコロナ
の地で修行をした事があるようですね」
彼女は鋭い洞察で判断した。
ラガン「・・・・・・恥ずかしいこったで昔見習い僧として修練ばつんどっただども、おらさ
の不注意が原因で昔、病を悪化させっちまったことばあって僧の修行さあき
らめそれより確実な医者を志すことにしたズラ・・・」
アイナの深い知識と洞察力に恐れ入るように目を細めるラガンは過去の自分の失態
を素直に話した。
ジョディ「ラガンさん・・・・」
ラガン「だども艦長さ言うことも最も・・・今ここで出来ることっちゅうたらこれが一番ずら
でまだまだ完全ばなかずらどもおらの法術で傷ば治療するずらからあんま無
茶しちゃいかんずらよ・・・・・・」
タイラー「先生・・・・・感謝します」
本来なら触れられたくないであろう失態を正直に話すラガンの直向さにタイラーは改め
て頭を下げた。その時、ジョディのコンソールに艦隊から通信が届いた。
ジョディ「艦長！！山の騎士団旗艦から通信です。」
タイラー「わかった。繋げてくれ」
通信回線が開かれアベルが話しかけてきた。
アベル「どうやら無事だったようだな、タイラー提督」
別れて数日しか立っていないのに何年ぶりに再会したかのように語り掛けるアベル。
お互いにここ数時間の間にいろいろな事があった。・・・ありすぎた。モニター越しに
再会できただけでも奇跡だ。二人は感慨もひとしおにお互い何故か笑みがこぼれる。
タイラー「アベル・・・・・・こっちは何とかな、それよりそっちはかなり慌しいが」
タイラーはアベルの後ろで慌しく作業する、多くのスタッフを、見て不思議そうに尋ねる。
アベル「ああ、今我々はあの巨大最終兵器・・・いや”闇”との最終決戦に向け作戦準備
を進めているところだ。そちらに作戦内容の詳細を収めたデータを転送する。」
タイラーの疑問に後ろを振り返り、怜悧な表情に戻って作戦の詳細を収めたデータを
転送するアベル。 ブリーフィング画面が表示され、作戦の詳細が表示される。送られ
たデータを見てタイラー達は驚愕する。
タイラー「こ、これは・・・・・・・アベル、本気なのか」
スクリーンには作戦の各段階がそれぞれシミュレーション映像で映し出される。中でも目
を見張るのは宇宙に浮かぶ各々数百ｍはあろう巨大な残骸を取り囲むように並べられ
た大型の電磁誘導レールだ。
アベル「そう、金属粒子を塗布したコロニーの残骸をレールガンの応用で質量兵器とし
て奴にぶつける。それも３６の方向から一斉にだ。」
シミュレーション映像は切り替わり、闇の機械竜に向け３６のレールガンからミサイルの
ように一斉に撃ち出される質量弾。もし直撃したら都市クラスでも一瞬で消し去るその威
力に思わず声をあげるオハリオ。
オハリオ「しかし数百ｍの残骸を高速度でぶつければ、その威力は下手をすれば核攻
撃の１０数倍だ。その衝撃で下手をすればこのパルマも崩壊させてしまうかも
しれない。それでは何もしない事と同じじゃないか！」
オハリオの抗議は当然といえるものだ。敵を撃てたとしてもその結果、惑星パルマを今
崩壊させては脱出船団がまきぞえを食らう危険性は高い。オハリオの憂慮を聞いた上
でアベルはその対応策を続けてモニターに表示させる。
アベル「その心配は無用だ・・・進入角度の計算、突入スピードの調整をミラー博士をは
じめとするレジスタンスの全ての技術者、科学者、そしてメインフレームが計算
しているところだ。こちらのバリアフィールドを前面に展開し衝撃波を相殺すれば
幅３０ｋｍにその威力を抑えることも可能になる。」
データに映し出される作戦の仔細やアベルの説明を聞いてもいまだ納得しかねるアイナ
は単刀直入に自分の意見を述べた。
アイナ「・・・・危険な賭けですわね。ですが、あの魔法陣さえ対処できれば私達の封印で
も闇を封じこめることができます。あえて危険な手法を取る根拠を説明していた
だけませんか」
表面上は冷静に尋ねるアイナに対し切り返すようにその回答を用意していたアベル。
アベル「封印に関しては聖堂の賢者の方から話は伺っているよ。しかし、君達が封印を
施すのを”闇”が黙ってみているとも思えない。それと君達は疑問に思わないか？
今、奴は攻撃を止めているが、それが何故か。」
唐突に闇の次の行動の予測を尋ねられアイナは少しだけふいをつかれた表情を浮かべ
たが、自分の知識を元に推測をまとめた。
アイナ「・・・・・・”闇”に勝つ手段は今のところ私達の命を掛けた封印しかありません・・・・
それ以外の攻撃では例え、質量兵器でも外郭を剥がすことがせいぜいでしょう。
我々の力を障害にも思っていないはずです。多くの犠牲者の魂を取り込む事に
専念していると見て間違いないでしょう。」
アベル「そう・・・・私も最初は魂を取りこむ事で自らの力を増大するのが敵の目的だと推
測していた。しかしハル君の情報から得られたデータと現状の闇のエネルギー変
動値を見比べた結果どうもそれだけではない事に私達は気が付いてしまったのだ。」
アイナの推測を受け、アベルは新たなデータを転送する。スクリーンには闇のエネルギー
分布状況やグラフが提示された。データを見比べたタイラーが顎に手を当てゆっくりと熟
考する。
タイラー「このエネルギー分布図に敵の意図が隠されているという訳か・・・・・」
アベル「うむ、これとあるシステムが発していたエネルギー周波数を重ね合わせる」
そう言うと操作パネルを弄り、もう一つのエネルギー周波数のグラフと重ねあわせた。微
妙なブレはあるものの両者のグラフはほぼ一致した相似形を示す。
ガンツ「確かにベクトル係数や分布が似ているが・・・・これは一体何のシステムだ？」
タイラーと一緒にデータを見ていたガンツが技術者の立場から提示されたシステムの詳
細を確かめる。それに答えたのはアベルではなく横からひょっこり顔を出したミラー博士
だった。
ミラー「それは僕が説明したほうが早いね。これは「力もりもりん」の技術を応用した悪夢
のシステム・・・・君達にも覚えがあるはずだ」
軽妙な態度から一辺、硬い表情になりその恐るべき正体を答える。
ジョディ「時空衛星ヴェルダンディア・・・・・」
タイラー達はハッとした。時空衛星ヴェルダンディアが巻き起こした時空変動の脅威がま
ざまざと頭によぎる。特に父をその件で失ったジョディは暗い思いに囚われる。
ミラー「・・・・僕もこれを提示された時は新たな恐怖を感じたよ・・・・・もし深遠なる闇クラス
の膨大なエネルギーが時空間操作システムに投入されればどのような事になる
か・・・・・僕でも想像がつかない」
ミラー博士がためらいがちに答える最悪の可能性にランディール号にいる全員が、言葉を
失った。人工衛星ですらあれだけの時空嵐をおこすのだ。深遠なる闇がそれを利用したら
・・・・・そう考えるだけで背筋が寒くなる。一同が押し黙るのを見てアベルが救いの手を差し
伸べる。
アベル「幸いにして今の奴はシステムを形成させる事に全エネルギーを集中させている。
つまり蟲でいうところのさなぎの段階だ・・・・・最も、さなぎと言っても生半可な攻
撃では逆に奴にエネルギーを与えることにもなりかねない・・・・しかし質量兵器
だったら奴が対応するより早くそして確実にこのシステムのサーキット構成を破
壊することは可能だ。」
オハリオ「だが質量兵器をぶつけるとしても実弾が大気圏に突入した瞬間、奴も気付くは
ずだ。闇のシャドウブレスがぶつかればいくら数百ｍの残骸でも一瞬で蒸発して
しまうだろう。極めて無謀な策としかいえないが・・・・」
オハリオの反論はもっともだった。現にシャドウブレスの攻撃でパルマ南半球は壊滅的な
被害を被っているのだ。アベルもそれは承知している。
アベル「むろんそれを考慮にいれた上でさらに対策を考えているさ・・・・ハル君説明を頼む」
解決策の説明役として呼ばれたハルがしっかりとした足取りで資料を持って歩いてきた。
ハル「はい！！」
凛々しく声を大きくして答えるその姿勢に、かつてのようなどこかおどおどした弱気な少年
の姿はなかった。
タイラー「ハル・・・・ほんの僅か離れていただけなのに見違えてみえるぜ・・・・成長したな」
ハルの成長を素直に喜ぶタイラー、艦長に誉められたハルもまんざらではないらしい。
ハル「・・・・・艦長に誉められるなんて何だか嬉しいです。」
誉められ照れ臭そうに笑みを零すハルに容赦の無いガンツの怒号が飛ぶ。
ガンツ「馬鹿やろうが！！艦長に誉められたぐらいで何舞い上がっていやがる。ランディ
ールの技術者なら自分の職分を果たしてからにしやがれ！」
大声でガンツから怒鳴られ、ハルはたまらずしりもちをついた。
ハル「ガンツさん！！は、はいい、・・・・・・」
涙目になりびくびくするハルにさっきの威勢のよさは感じられない。
ミカ「・・・・・やっぱりいつものハルだ（汗）」
アレス「・・・・・だな（汗）」
二人の半ば呆れるような視線がハルには微妙に痛かったりする・・・。
・・・・とにかくハルは気分を取りなおしてモニターを操作し説明を続ける事にした。
ハル「・・・・え、ええっと、それでは説明します。闇の機体を構成しているのは金属装甲と
特殊なナノアセンブラーの集合体です。」
モニターに図解で、示されるナノマシンの分子構成と専門用語についていけず今度はア
レスが頭を抱える。
アレス「ナ、ナノアセンブラー？何じゃそりゃあ」
ミカ「はいミカ知っているもん！！建築物や身体の怪我を治すためのものすごーーくちっ
さい機械の事だよね？」
それに対しミカは子供の教養番組で見たのか少しは知識があるようで、得意げに答えて
見せる。ミカの回答を受けたハルが暗黒の機械龍を構成するナノマシンの詳細とその対
策を語り始めた。
ハル「そう、分子サイズで構成された機械、しかし機械である以上ナノマシンもプログラム
で動いています。僕とミラー博士は入手したデータからプログラムを解析して、ナノ
マシンに自ら壊れる自滅プログラムを制作しました。後は自滅プログラムを打ち込
めば、いくら深遠なる闇でもあの巨体を維持できなくなると思います・・・」
ハルの分析結果の報告を待っていたアベルが、分析データを基にした作戦を提案する。
アベル「自滅プログラムを載せる方法をいろいろ考察した上で質量兵器との二面作戦を
実行することにした。即ち、上から来る質量兵器に対処しようとすれば下から
撃ちこまれる自滅プログラム入りミサイルに対処できなくなる。逆もまたしかりだ。
・・・・故人曰く進みて御ぐ可からざるは、其の虚を衝けばなり・・・・進軍して敵が防
御できないのは、敵の備えのない所を攻めるからだ。だがミサイルは至近距離か
ら撃たねば迎撃される恐れがある、そうならないためにタイラー艦長どうすればい
いか・・・・・・君ならわかるだろう。」
しかしアベルの提案する作戦は口で言うほど簡単なものではない。戦闘部隊の動き如何に
よってこの作戦の成否は掛かっている、と言っても過言ではない。会議に参加している全員
に緊張が走る。だがアベルの視線の先にいるタイラーだけは普段どおりの飄々とした態度
で笑いながら答えた。
タイラー「やれやれうちの参謀さんはあいかわらず無茶を言ってくれるなあ・・・・最速のスピ
ードを誇るランディールで急速接近、ミサイルを射出後反転し、質量兵器が奴に
ぶつかる前に安全圏である３０ｋｍまで後退しろってことだろう」
不敵な笑みを浮かべ了承するタイラーにアベルは意外そうな顔を浮かべるがやがて納得し
たように頷き、座席の横のコンソールを操作し次なるプランを指し示す。
アベル「・・・ふ、よくわかっているじゃないか、退きて追う可からざるは、速やかにして及ぶ
可からざればなり。これはアルゴルで最速の巡航速度を持つランディールだから
こそ出来る作戦だ。無論私が乗るダークランディールも援護にまわるよ、そして念
のために・・・」
聞いているうちにどんどん無謀とも思える作戦内容をなっていくのを見たスタージェーンは
慌てて二人に抗議した。
スタージェーン「ちょ、アベル！そんな話聞いていないよ！！あ、あたしはごめんだね！！
あんなのに近づいたら命がいくつあっても足りないよ！！」
しかしスタージェーンのささやかながら当然の抗議は後ろに響く威厳ある声の前にすぐに
消沈する。
オセロ「・・・・・わしの愛娘がそんな様でどうする！！いいか極道には引いてはならない戦
いがある。それは堅気の者の命がかかった戦いだ！お前はオセロファミリーにい
ながらそれを破りファミリーの名誉を傷つけるというのか」
スタージェーン「げ！！ボス・・・・・・ええっと・・・・ええっと・・・はいわかりました・・・・・トホホ（涙）」
消沈する自分の部下を横目にオセロは苦渋の表情を浮かべ、アベルに話しかける。
オセロ「それとアベル司令こいつはよくない報告だが・・・・」
アベル「わかっている・・・・シャドウブレスが到達した斜線域から観測出来るだけで数千万
体以上の無数の魔族が沸きあがり、こちらに向かっている事は衛星宙域からも
確認済みだ・・・」
アベルはその報告に耳を傾けながらあえて大声で衛星から確認された状況のみを説明した。
これまで上層部以外に隠されていた新事実に騒然となるダークランディール艦橋
「数千万って・・・」
「おいおいバヤマーレ市で戦った奴等でもあんなに強かったのにそんなにこられたら・・・」
オセロが唐突なアベルのこの対応に憮然とし小声でアベルに真相を告げようとする。
オセロ「・・・・アベル司令、それだけじゃない。奴らは・・・」
しかしアベルはそっとオセロに耳打ちした。
アベル「・・・・オセロあなたが言おうとしている事は私も予想している、しかし今は黙して
語らぬことも必要だ。これは士気に関わる」
アベルの真意を悟ったオセロは渋々頷いた。
タイラー「・・・・・・・。」
騒然とする艦橋の中であの時、敵の真相を知ったタイラー達だけはやむを得ない事情
に黙するほかなかった。
話を変えようとアレスがタイラーにさっきから思っていた疑問を口にした。
アレス「ところでよぅ、数千万・・・・・・てどれぐらいの数だ？」
タイラー「俺達が戦った一万の数千倍、ようはモンスターフライの大群が空を何千キロ
にも渡って覆い尽くすみたいなもんだ」
タイラーは例え話を持ちかけながらアレスにもわかりやすいよう説明する。
アレス「ああ、それなら俺にもわかる・・・って！！どうするんだよそんな大軍！！」
かつて砂漠だったモタビアでは緑化が成功した今でも時々原住生物のモンスターフライ
が発生し緑を食い荒らす事例があった。むろんマザーブレインの提示する駆除体制で
すぐに駆除されるがその雲霞のごとき数を思い出し思わず身震いするアレス。
ルオン「現存する戦力では万に一つも勝ち目はないだろうな・・・」
モニターに投影される上空から観測された黒いリングとも雲ともいえる魔の大群を見上
げ緊迫した表情をアベルに向けるルオンに、同意するようにアベルは敵の到達時間を
モニターに提示した。
アベル「・・・・おそらくこのまま進むと敵先発部隊が到達するのは今から６時間後・・・・
それまでにこの作戦を追行しなければ我等は無数の魔族と深遠なる闇に囲ま
れ間違いなく全滅する。」
六時間というタイムリミットに息を呑む一同、それを受けルオンは恭しくモニターの向こ
うにいるアイナに頭を下げた。
ルオン「つまりその６時間以内にこの作戦を追行し、深遠なる闇を再び恒星結界に封じ
なければなりません。・・・・・・アイナ様」
ルオンからの奏上にアイナは決意の表情で静かに答えた。
アイナ「ええ、既に覚悟はできています・・・・・」
氷のように怜悧な眼差しと死を覚悟したアイナとオハリオの雰囲気に先ほどまで騒然と
していた空気が沈静し重苦しい空気が流れる。
その空気を破ったのは別のモニターに投影された白衣の老人達の一行だった。
賢者「やれやれ・・・・あいかわらず頭がかたいのうお主達は」
気さくな口調で親しげに語る老人のリーダーにさしものアイナ達も意外そうに見つめる。
オハリオ、アイナ「聖堂の賢者様！！」
賢者達は先ほどからアイナとオハリオの悲壮な決意を目を細め穏やかな表情で聞いて
いたのだ。
賢者「じゃがお主達が不安にかられる気持ちもわからぬではないぞ・・・そこでわしらも、
おぬし達の結界を強化すべく用意したものがある。」
そして賢者達は後ろの大平原を見せる。巨大コロニーアリサ３世のラシュート地区に広
がる平原と湖。それは人工的に作られたコロニーの環境である事を除けばどこにでも
見られる光景だった・・・・・普通の人間にとっては。霊力やエスパーの力を持つ者が見た
光景はそれとは違っていた。力がある者には見える巨大な光り輝く円陣と八紡星、規則
正しくそれを取り囲む無数の古代アルゴル文字が様々に組み合わされ複雑な文様を形
作っていた。その規模の壮大さにアイナ達も驚きを隠せない。
オハリオ「こ、これは複合結界！！しかもいくつものコロニーに跨り万の法陣と万の霊具
さらに数百人の術者達、いつの間にこれほどの布陣を展開していたのですか！？」
オハリオはこれを構成するエスパーの集団や霊具の位置をその結界の規模から推測し
驚きの声をあげる。
賢者「うむ、脱出船団のコロニーの一部にはラシュートと同じく暗黒に対するための複数
の術式と法陣が展開された神聖な区画が存在する。」
賢者「おそらく我等の先達もある程度このような事態を予測していたのであろうよ」
賢者「わし等はそれに一部改良を加えあの闇に対する封印を強化する魔法陣を展開さ
せることができたのじゃ」
オハリオの問いに対し賢者達は自分たちの先人の知恵と確かな予測を称えた。彼ら先
人の予測がなければここまで早くこんな壮麗な結界を展開させることは不可能だったは
ずだ。そしてこの展開の速さにはもう一つ理由があった。
ミラー「それにちょっとした新技術を応用してみたんだ。」
タイラー「新技術？それは何だい？」
ミラーからの問いかけにタイラー達も興味津々だ。
ミラー「君達は疑問に思わないかい？僅か１時間の間に超大型の電磁誘導レール装置
をいくつも作れたか」
ガンツ「確かにいくらおいら達技術者が頑張ったところで１時間じゃあそんなに大それた
事をするのは無理ってもんだ」
ミラーの挑発的な例えにタイラー達はいろいろ考えるが答えは出ない。そこでアベルが
わかりやすくヒントを与える。
アベル「そこで我々は今このパルマを覆っている特異な現象を利用することにした・・・今、
実際のアルゴル太陽系の時間ではまだガイラ衝突から２．３秒しか立っていない」
タイラー「・・・・・・そうか！ゲーベルト・シュターケン・サーキットによる時間加速化現象か！」
アベル「そう僅か２．３秒だがこちらの体感する時間ではもう７時間以上経過している。こ
れを利用しない手はないだろう？残念ながら今そのコントロールは全て深遠なる
闇の手中にある。しかし、その発生力場の極一部ならミラー博士のちからもりも
りんで操作できるのではないかと考えた」
ミラー「で実際試していたらできちゃったんだなこれが・・・・」
事情はわかったが、要点をはぐらかす問いかけや失敗による危険性など何も考えてなさそ
うな、ミラー博士の態度にさしものタイラーも軽い脱力感を覚えた。
タイラー「できちゃったって・・・・・・」
ミラー「無論操作システムは即興で作り上げた物だからその効果範囲は極めて限定的で
レンソル城や結界を構成する祭壇一帯を覆うのがやっとだったけどね。この中で、
１時間で１ヶ月の時間を稼ぐことができたんだ」
実験の成果を得々と説明するミラー博士の横で、ふと見るとルオンのこめかみが何故か
プルプル震えていた。
ルオン「・・・・・ただし賢者様の数人と弟子のエスパー達１００人がライジングを掛け続けた
ため過労状態で病室で治療を受けておられるがな」
うろんな表情で睨むルオンの言葉にはあからさまな嫌味が出ている。ただしミラー博士は
その怒声に近い嫌味を受けても肩をすくめるのみだ。
ミラー「だから言っただろう？これは敵の技術と今の危険な状況を逆に応用したものでど
のような副作用があるかはわからないって。」
あんまり反省した様子の見えないミラー博士の対応にとうとう、ルオンの堪忍袋の緒が切
れたらしい。耳をつんざく怒声がディスプレイ越しでも大音量で響き渡った。
ルオン「・・・・・だからといってだと！程度というものがあろうが！！！いい加減にしろ！！！」
賢者「ほほほ・・・まあよいではないか」
二人を宥める賢者の表情も少々困り顔だ。
アイナ「私達に対するお心使い感謝致します、聖堂の賢者様」
ミラー博士の天然ぶりに呆気に囚われていたアイナは賢者の声を聞き、表情を真摯に戻
すとディスプレイの向こうにいる賢者に向け素直に礼を述べる。
賢者「なんのなんのこれしき、今は人類の存亡をかけた火急の事態、わしらが全力を注が
ねば乗りきれぬでな」
静かに頭を下げるアイナとオハリオに賢者達は孫でも見るかのような慈愛と心配する眼差
しで語りかける。そして目配せしてジョディにテレパシーで問いかけた。
賢者（これでいいのじゃな、ジョディ殿）
ジョディ（ええ、タイラー提督の意見に賛同くださりありがとうございます、賢者様）
ルオン（・・・・いいや礼を言わねばならぬはこちらの方だ。おかげでアイナ様は救われる）
どうやら賢者達とルオン、そしてジョディの間で既に、テレパシーを通じて何か約束事が成
されていたようだ。ルオンの思念からは感謝の思いがあふれていた。目配せした一瞬それ
ぞれの表情を怪訝そうに見つめるアイナ。
アイナ「・・・・・・・・ルオン、何か隠してはいませんか？」
アイナの鋭すぎる勘に内心でドキドキしながら鋼鉄の意思でそれを表に出さすいたって平
然と答えるルオン。
ルオン「いいえ私は決してそのような二心はございません！」
アイナ「・・・・・まあいいでしょう・・・それでは賢者の皆様方よろしくお頼み申し上げます」
腑に落ちないという表情でジョディやルオンに目を渡らせるが窺い知るのが無駄だと悟っ
たのか静かに目を閉じると改めて賢者に協力を依頼した。
賢者「あいわかった・・・それではまた後ほどなアイナ殿」
賢者達はそれを快く了承しモニターを切った。作戦内容の伝達はほぼ終わりアベルは作
戦の仔細、人員配備やスケジュールタイム表を各艦の端末へと転送する。
アベル「人員配置に関しては各担当に我々の司令を通達してある。先にも述べた通りこれ
は各チームがそれぞれ連携をとりあい進めなければならない。この一戦に我等人
類の存亡がかかっている事をそれぞれの肝に命じておくように・・・・ではルオン副
司令、お願いする。」
そしてアベルからの意を受け取ったルオンが作戦会議の終了を宣言した。
ルオン「ふ、それでは各員！作戦開始は今から３時間後のバヤマーレ時間４時３０分それ
まで各員は準備と休憩を取り万全な体勢で臨むように、以上！解散！！」
ダークランディールからの通信が切断しディスプレイも閉じられると艦橋は静かになった。
転送されたデータを確認するジョディとガンツ以外ほっと安堵のため息をつく一同。
そこにラガンが張り切って腕まくりをし傷を負っているアレスを無理やり医務室へと引きず
っていく。
ラガン「今の聞いたでな、アレスはたっぷり休養取る時間があるズラ！さあ医療室にいくズ
ラよ！」
アレス「う・・・・・うおおお、俺は元気だっていうの！！」
そういって無理やり空元気に振舞うアレスはまるで注射を怖がり駄々をこねる子供のようだ。
ミカ「アレスお兄ちゃん！！」
だがミカに叱られてはアレスも従わざるおえない。
アレス「・・・・・・わかったよ！！いきゃあいいんだろ！！いきゃあ！」
とうとう観念しアレスはミカと一緒に医務室へと向かう。
そしてオハリオもアイナがギ・ル・ファーグやダークファルスとの死闘で負った傷跡をゆっ
くりと手で覆い隠し、アイナの顔を愛しげに見つめる。
オハリオ「アイナ、僕達も医療カプセルで傷をいやそうか・・・・」
アイナも肩を寄せ合い、二人はゆっくりとした足取りで医務室へ向かおうとする。艦橋を
出る直前アイナはタイラーの方へ顔を向きなおし、先ほどの目配せについて釘をさした。
アイナ「ええ・・・・・・・・それとタイラー提督、あなたも何か隠しているのですね・・・・・。」
アイナの念押しに対しタイラーは飄然と切り返す。
タイラー「さあ、それはどうだろうね」
言い返されたアイナは一瞬厳しい表情になったがふうっと、ため息ひとつ漏らすと苦笑と
共に年頃の女らしく穏やかな表情で告げる。
アイナ「犠牲は我々だけでいいのです。・・・・・あなたはあまり無茶をしないで下さいね」
タイラー「ふ、ご忠告感謝するよ・・・・」
その言葉にアイナの慈愛を感じたタイラーは今度は茶化さず頷きながら答えた。
アイナとオハリオも医務室に向かいガンツも最終調整を兼ね整備のためエンジンルーム
に向かった。艦橋にはただタイラーとジョディだけが残された。
ジョディ「艦長・・・・これでいいのですね。」
アイナとオハリオにこれからタイラー達が行おうとする作戦を隠したまま騙すようなことに
なってしまいジョディは二人に対する後ろめたさを感じていた。タイラーは思い悩むジョデ
ィを元気付けるために先ほどの目配せの中ジョディを介して交わされた約束とアイナ達を
思う気持ちを再確認するように口にした。
タイラー「ああ、アベルやミカ、ハル、アベル、ラガン、ウォーレンガンツ、ルオン、ミラー
博士そして多くの人達に苦労を背負わせることになるがこれが俺に今出来る
唯一の解決策だ・・。二人を犠牲にさせないためにある意味多くの人達に苦労
を強いる、それしか俺の頭では思い浮かばないなんてな・・・・」
言葉の端からジョディやみんなに対する謝罪の気持ちが感じられた。タイラーもみんなに
重い責務を負わせる事に対する後ろめたさが言葉と心の声から聞こえ、ジョディはそれ
だけで勇気付けられた。艦長も自分と同じように悩みながらも明日へ繋ぐ絆を守ろうと懸
命なんだという事が理解できたから・・・・。
ジョディ「大丈夫です、艦長、みんなの心の声を聞いたでしょう。」
元気を取り戻したジョディは自分の胸に手をあて穏やかな笑顔をタイラーに向ける。先ほ
どのテレパシーに答え自分達の考えに賛同してくれたみんなに精一杯の感謝の気持ちを
伝えたかった。そしてタイラーとこの気持ちを分かち合う事ができたことに・・・。その気持
ちはタイラーも同じだ。タイラーも鋼鉄の腕を自分の体に押し当てる。冷たいサイボーグの
体に何故か火照るような暖かい感情が湧き上がる。
タイラー「ああ、みんなの気持ちが痛いほど伝わってきたよ、アイナとオハリオにも、この
みんなの思いを今すぐにでも伝えたいが・・・・」
ジョディ「それは全てが終わりみんなで明日を迎えることが出来た時、みんなで彼等に伝
えましょう・・・・」
この気持ちをアイナ達にも伝えたい・・・。そのためには遥か彼方で嘲笑を浮かべる深遠
なる闇に勝たなければならないのだ。
タイラー「そうだな・・・・・そのために何としてでもこの戦い生き残ろうぜ！！」
ジョディ「了解！！」
二人は改めてその決意を確認した。
バヤマーレ時間ＡＭ５：３０
本来なら東の水平線に恒星アルゴルの陽光がうっすらと照らし始める時間だ。しかし、時
間加速化現象が進むこのパルマと違い外はまだ３秒しかたっていない。そして空は赤黒く
渦巻く暗雲に覆い隠されたまま深い絶望の色に塗り固められていた。
ダークランディール艦橋では各スタッフがレールガンとの通信システムなどの各種機器の
最終調整に追われていた。
「作戦開始20分前、各員所定の持ち場に付け」
タイムリミットが迫る中、モニターにルオンが映し出されアベルに話しかける。
ルオン「いよいよだな、アベル司令殿」
アベル「ああ、この作戦に失敗は許されない、私もフォローに回るための切り札を何枚か
用意してはいるが出きることならこれは使いたくないものだ・・・。」
そう言ってアベルは艦長席の横に置かれた黒いボックスを見つめる。すると横からスター
ジェーンが首を傾げながら近づいてきた。
スタージェーン「その切り札って奴がこれかい？中身はなんだろうね？」
スタージェーンは箱を指でコンコンと突付きながら興味深げに眺めている。
ハル「これは僕達が対マザーブレイン用に用意していた特殊な・・・・」
説明を求められハルが答えようとしたその時アベルのこれまでにないほど強い叱責の声が
響き渡る。
アベル「ハル君！！」
ハル「は、ご、ごめんなさい！！」
スタージェーン「ふーん、」
アベルに叱責され涙目になりながらひたすら謝るハルを横目で見ながらスタージェーン先
ほどこづいた先をどこか鬱陶しげに見つめていた。
その指でこづいた先に人目には見えないマイクロマシンが点滅しながらある人物に情報を
送っていた。
オセロ（なるほど、そういう事か・・・・・・スタージェーンいざという時は頼むぞ、後はお前の
腕前と度胸にかかっているのだからな）
オセロが通信端末を片手に送られてくる情報を何食わぬ顔で見つめている。そこに別の
通信コールがなりオセロは通信端末を操作し切り替える。通信端末モニターに写ったのは
アリサ3世の中にあるドック港そこにはオセロの戦艦がドッキングされている
オセロ「ミラー博士、例の物は搭載したのかね」
オセロのどすの利いた声で尋ねられ、ミラー博士は頭をかきながら使用マニュアルのデー
タを端末に転送する。しかしその表情は浮かない様子だ。
ミラー「ああ、君の依頼に合わせて作ってはみたが、どうするんだい。こんな代物」
オセロ「まあいろいろとな・・・・」
ミラー博士に尋ねられ使用目的をごまかしながらマニュアルを受け取るオセロをミラー博士
はあまり感心しない様子で見つめていた。何故ならオセロの目のギラギラしながら澄んでい
る瞳をミラー博士は既に二人ほど見ているからだ。
ミラー「あまり無茶はしないでくれよ・・・・今もいろいろハッキングしているようだけどあまり無
謀なまねはしない方が身のためだと僕は思うけどね」
オセロ「わかっている・・・・では切るぞ」
ミラー博士はオセロに忠告しようとするが通信端末の電源は唐突に切られた。オセロは通
信端末をトレンチコートの中ポケットに収めていた時、通路の奥からトニーＧが借用書の束
を持って駆け込んできた。オセロの部下が彼を止めようと前に出るがオセロは手で合図し
下がらせる。そして顔を真っ赤にしたトニーＧがオセロの襟を掴み掛かる。
トニーＧ「おい、てめえ何を考えていやがる。」
オセロ「おや、何の用かね、トニーＧ」
すっとぼけるオセロにトニーGは権利書を指差し凄みをきかせる。
トニーＧ「てめえがいつまでも借金返さないからだろうが！！さっさとこの権利書にサインを
押しやがれ！！」
オセロ「わかったわかったほら」
因縁をつけられたオセロはうんざりした表情で権利書にあっさりとサインをしたのだ。オセロ
の鉱山はトニーＧの借金全て返してもおつりがくるほどの代物だった。しかしオセロGは権利
書にペンで書き込みし再びオセロの鼻頭に突きつける！！
トニーＧ「・・・・・・・てめえ、死に場所求めているだろう？てめえがこんなにあっさりとサインを
押すなんておかしすぎる。いいか、てめえが何しようとは勝手だが、借金には利息
ってもんがつくんだよ！！これじゃあ後5000メセタ足りねえぞ！！でっけえ喧嘩す
るんなら全ての借金を返してからにしやがれよ！！でないと俺は地獄の底までて
めえの借金の催促に来るからな！！」
あからさまに違法な取立てだが、オセロは怒らず葉巻に火をつけ思いっきり吸うと肩をすくめた。
オセロ「・・・やれやれ地獄まで貴様のたこ頭を見るなんてまっぴらごめんだな」
トニーＧ「じゃあさっさと借金を返すこったな・・・・だから死ぬなよ」
しかしトニーＧのぶっきらぼうな顔の中に浮き出るオセロを心配する心情が見え隠れして思
わずオセロは微笑むのだった。
オセロ「・・・・・・ああわかっているさ」
バヤマーレ時間ＡＭ５：５０
アルゴル史上かつてないほどの大艦隊が空を進軍していた。戦艦、巡洋艦、空母、それらを
護衛する戦闘艇が今トノエ地区に集結している艦隊の乗組員が放送を見守る中司令代行を
務めることとなったアベルは艦長席から立ち上がり力強い声で演説を始めた。
アベル「私は山の騎士団司令代行のアベルだ！まもなく我々の最後の戦いが始まる。」
アベルの演説は通信回線を通じてランディール艦橋にも届いておりタイラーは演説を見守っ
ている。
タイラー「いよいよか・・・・」
同じく座席で斧を磨きながら、放送を見ていたアレスがいてもたまらず立ち上がり大声で叫んだ。
アレス「くうう武者ぶるいがするぜ！！」
ミカ「アレスお兄ちゃん！あまりはしゃがない！作戦開始まで後僅かなんだからね！！アベル
の言う事を聞こうよ」
アレス「ちぇ・・・・」
そんな勇み足のアレスをミカが嗜める。渋々ながら従っているアレスを見てタイラーは（こりゃ
あ将来ミカに頭があがらないだろうな）とそんな事を思っていたりする。
アベル「そこに待ちうけているのは絶望そのものだ・・・・だがレジスタンス全員の心に絶望に
負けない希望の光があると私は固く信じている・・・。」
アベルの演説はダークランディールの格納庫でも流れていた。静かだがだからこそ真摯なア
ベルのスピーチに普段は皮肉屋のハックも感慨深げに聞き入る。
ハック「希望の光か・・・・確かに私達の最大の武器はそれを信じる心だよな・・・」
ルセロ「違いねえ・・・」
ルセロもうんうんと頷く中、ハックはかつてモタビアで盗賊として荒らしていた頃、自分を捕え
ようとしながら突然の危機に助け合い一夜を共にしたハンターのことを思い出していた。
ハック「アーミア・・・・君も今心の中にある希望を信じてどこかで戦っているんだよな・・・・」
グレートダロスの最終整備中だったハルは ハックがふと呟いた名前にどこかで聞いたよう
な出会ったような既視感を感じた。
ハル「アーミア？あれ、どこかで聞き覚えがあるような」
ハック「それは・・・・マザーブレインを壊した犯人として指名手配されているから君も聞き覚え
があるはずさ」
ハル「そうですね・・・・でも、うーーーん」
名前と記憶を思い出そうとし整備がおなざりになるのを見てハックはハルを嗜めた。整備の
不備は最終作戦の根幹にも関ることだしパイロットの生命にも関る重大な事故を招くからだ。
何よりハックはハルに危険な任務につくことに対しては反対だった。
ハック「そんなことより大丈夫かい？君が無茶をするのは私は反対なんだが・・・」
そう心配するハックに対しハルは感謝の思いを込めて朗らかな笑顔を返した。
ハル「心配してくれてありがとうございます。でもこれは僕がやらなくちゃいけないんです！」
アベル「我々が負ければ”絶望”は全ての未来の可能性を食らい虚無へと帰する！！それを
防ぐためにも今ここで我等は断固として戦わなければならない。」
アベルはディスプレイに映る暗黒の機械龍や刻一刻と迫り来る魔の軍勢の観測モニターを見
つめつつそれらの脅威に負けないよう普段の冷静な彼からは考えられないほどの熱い声を張
り上げる。この演説でレジスタンス全員の士気が昂揚し生き残る確率が高まるのならばとアベ
ルは願いを込めて強く強く訴えかけた。
ルオン「うむ彼の言う通りだ。湖の騎士団、森の騎士団それぞれの艦隊もすでに所定の配置
は整っている。虚無より生まれし絶望は虚無へと返してやろうぞ！！ 」
アベルの信念に答えるようにルオンも各艦隊に激を飛ばす。
アベル「諸君達にも愛する人がいるはずだ！！・・・・後少しの勇気が必要になったらその人の
名を呼ぶといい」
アベルのその言葉に甲板で闇を凝視していたアイナとオハリオもコロニーに残してきた愛すべき
子供達の事を思いおこしていた。
アイナ「アレス、グラント、シンシア・・・・・パパとママは行くけど・・・・あなた達の未来は創って見
せるわ」
オハリオ「僕達が行く事を許してくれとは言わない・・・・だけど僕達の心はいつまでも君達と共
にある」
これから行う封印結界を行えば自分達の命は消える。残されたアレス達の悲しみはいかばか
りであろうか。その事を考えると今まで覚悟していた決意が鈍る。しかしアイナとオハリオは子
供達に心の底から詫びた。そして吹っ切るように向き直し暗黒を再び睨み返すと、静かでいて
熱い闘志を滾らせるのであった。
アベル「我々の戦いは残念ながら記憶には残らない、それでも我々は全ての命と未来を賭して
戦いを挑もう！！みんな誇りを胸に最善を尽くせば必ず明日への道は開ける！！」
演説の最後にアベルはレジスタンス全員の生きたいという思いを、希望を応援するようにその
最後の言葉に万感の思いをこめる。彼の最後の訴えがレジスタンス全員の心に響き渡った。
レジスタンス全員に昂揚する闘志と明日への生きる希望が広がっていくのがジョディにはテレ
パシーを通じてまざまざと感じられた。ジョディの胸中は感動と喜びで一杯になる。そしてジョ
ディは全員がその言葉の通り無事にこの地獄のような世界から抜け出し明日へとその思いを
繋げていけることを願わずにはいられなかった。
ジョディ（どうか神様こんな素晴らしい人達が誰一人欠ける事がありませんように・・・・）
だがそう願うジョディの心の奥底から彼らを羨む軋むような暗黒の声が響いてきた。
深遠なる闇”ふ・・・・・・未来か、それは閉ざされし輪廻の劫苦を知らぬから言える事ぞ”
闇の嘲笑の声の端にその羨望の意志を感じたジョディは思わずハッとする。
ジョディ「は！！」
闇の隠された真意の一端を垣間見たジョディは驚きのあまり絶句した。彼女の豹変を小声
から察したタイラーがジョディに声をかける。
タイラー「ジョディ、どうした？ひょっとしてまたテレパシーで何らかの意思を感じ取ったのか？」
彼女がこのような動揺した顔つきになるのはかならず何らかの意志をそれも災いや後悔を
もたらす意志を感じた時だ。そんな今までの経緯からタイラーは深い眼差しでジョディに問い
かける。
ジョディ「・・・やっぱり艦長の目は誤魔化せませんね・・・・・今、深遠なる闇の思念を感じました。」
隠しきれないと感じたジョディは正直に今感じた思念の正体を語った。
タイラー「そうか・・・だがそうするともしかして作戦が漏れていたのか！」
半ば予想していたとはいえその思念の正体にタイラーは驚きを隠せない。もし闇に計画が
漏れていたとすればこれまでのレジスタンスの努力が無に帰することとなってしまう。
一瞬、最も最悪の結果が脳裏をよぎる。 しかしジョディはそれを否定した。
ジョディ「いえ艦長、作戦自体は私やエスパーの皆さんが心理的防壁をはりめぐらしている
から大丈夫だと思います。しかし、今の深遠なる闇の思念、私は気になるんです！」
作戦が闇にばれてないと聞き安堵したタイラーだが、ジョディが闇の思念を調べようとするの
ではと気付き慌ててそれを強く静止した！ジョディに自分のような深い後悔や心の傷を負って
ほしくはなかった。
タイラー「・・・・君は深遠なる闇にアクセスしようと思うっているようだが・・・・許可できない！
君もあの時に奴の心理に触れて理解しているはずだ・・・あれは憎悪と悪意の塊、
俺達の未来を食らい他者の悲しみを糧として喜びを覚える本当の意味での化け
物だ。俺達の思いが通じるはとても思えない・・・それは半ば乗っ取られた俺がよ
く理解しているさ」
タイラーの言うことはもっともだ。自分もタイラーも深遠なる闇のためにかけがえのないものを
失ったばかりだ。いくらその真意がかいま見えたとはいえ全ての命に死と絶望をもたらす絶対
の悪に耳を傾けてはならない。彼女は自分の心にそう言い聞かせる。
ジョディ「艦長・・・・・そうですね、今は作戦が闇に漏れぬよう心理的防壁を張りつづけます！」
心のどこかにひっかかりを感じながら彼女はその心の防壁を強化する。
タイラー「よろしく頼む！！後残り僅か・・・これからの行動で俺達の未来が決るんだ」
タイラーは深く息を吸うと落ちつきを取り戻し座席に深く越しかけ時を待った。
ようやく見えた希望の光を曇らせる微かな不安を感じつつ作戦開始のカウントダウンは刻一
刻と近づいていた・・・。
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