スペースクルーザー ランディール
第42話 遥けき時の交錯、そは滅びへと誘われるのか
紅く暗雲が渦巻くバヤマーレ上空にに映画の様に投影される異世界の光景・・・
蜂の巣状に連なった時空の境界面が天空を覆いつくしていく。それを背景に廃
墟となったビルの屋上で白銀の亡霊が艶やかに舞い踊っていた。
シェイド「悲劇の最終幕、クライマックスへと追い詰められた役者達は絶対の運命
に抗おうため激しく歌い踊る！！その情熱的な叫びはどのようなヴァリ
トンの美声よりも耳に響き・・・我々観客を恍惚へと誘い身もだえさせて
くれる♪」
愉悦を顔に浮かべるシェイドミラージュが見つめる先にはこの事態に対抗する
こともできずにいるレジスタンス艦隊がいた。
同じ方向を見つめる３体の影、タイラー達と戦い器となる実体を失った邪神天王
達もその光景を見上げる。
カオス「ほう・・・この戦局を悲劇に喩えるとはおまえらしいな。闇に抗うもののふ達
よ、その戦意はしかと認めよう」
シェイド「でも・・・・その抵抗も運命の終幕の前に押しつぶされ、ああー哀れにも幕
を閉じる・・・この無常観・・・儚さこそ私をゾクゾクさせてくれるのよーーー
うふふふ♪」
カオス「そう・・・この戦いがいかに無謀なものか。少しでも戦略眼がある者なら理解
できるだろう。これから訪れる究極の絶望の前に絶対的敗北に喫した時の
君たちゴミ虫の顔が私には楽しみでならない！！」
深遠なる闇に逆らった者の末路を想像しカオスとシェイドは暗い歓喜にその心を
昂ぶらせる。
一方のイマジオそしてライダークはそれぞれ別の関心事があるようだ。
イマジオ「うひょひょ・・・じゃが抗する者の大脳から発せられる量子振動が、時空融
合された時空ににどのようなゆらぎをもたらすか楽しみではあるのう・・・」
イマジオメイジは上空に投影された次元の位相をまるで宝物を見つけた子供のよ
うにはしゃぎながら観測していた。ライダークはその様子を見て呆れ果てるようにイ
マジオを嗜める。
ライダー「この世の全てが無にきせばお前の知識も消滅するのだぞ・・・」
ライダークの忠告に対し、イマジオはそれまでの子供じみた顔から老獪な老人の
顔に純粋な狂気を浮かべくどくどと説明を始めた。
イマジオ「ひょひょひょ人間から魔族へと転生したお前にはわからんよ。この時空融
合は壮大なる実験室のフラスコ、その中でどのような量子変換がおきるか
を知ることができれば我が”個”などどうでもいいのじゃあ」
確かに元々人間であったライダークにイマジオやカオス達の異質な感覚はいまだ
理解できないものだった。それでも御方様の大願が成就するためには彼らと付き合
わざるをえない。
そう思うと陰鬱な思いにかられるライダーク。彼の疑問に答えるかのように後ろから
紅い亡霊が現れ講釈を述べる。
ファーグ「我らは生命体の欲望が昇華した存在・・・故に生命が滅びぬ限りわれらも
この下らぬ世界から解き放たれることかなわず・・・・今の私のようにですな」
後から現れた最高幹部に遅れた理由を尋ねるカオス。その顔にはうすら笑いが浮
かんでいた。
カオス「随分と遅かったですな。ラシークはいかがされたのですかな・・・・ファーグ殿」
カオスの揶揄に対し気分を害したのかファーグは憮然とした物言いで答えた。
ファーグ「奴は私を闇に引き戻したことで満足したようです。今後はゼ・ア・スールの
結界をさらに強めねばならぬでしょう。だが・・・かような事など今はどうで
もいい。まもなく三千大世界の彼方よりあの三方が現れる頃合だ・・・・」
だが上空の異世界の位相のうちの幾つかが鈍く輝くとライダークを除く邪神天王達は
襟を但し臣下の礼を取る。深遠なる闇に対してではない。鈍く輝く位相に黄金の鎧状
の身体に全身に血管のような発光器官をつけた異形が現れる。
カオス「おお！！偉大なる力を持つ、暗黒大元帥、豪烈なるダークブリンガー様！！」
その異形の横に全身がエメラルドのような緑の半透明のローブを纏いシャープな白い
仮面をつけた異形も姿を現す。
イマジオ「うひょ！御子ダークファルス様と同様の比類なき英知を持つ最高の魔道士！！
魔道総参謀長、智慧なるグランソーサラー様」
別の位相からはゆったりとした浅黄色の神官服とマントを羽織った紫色の髪を棚引か
せる妖麗なる美女も姿を現す。
シェイド「人の身でありながら我らより美しく陰影なる闇の美を持つ闇の直属隊総司令、
麗しのトラハイトアーハ様♪」
３体の異形が現れた瞬間、雷鳴は一層激しく鳴り響き闇の瘴気が一層濃さを増した。
ファーグ達はそれらを歓喜の表情でお迎えする。
ファーグ「時空の彼方よりのご来訪お待ちしもうしておりました！！」
ライダー「・・・・・・・闇の３元帥・・・・ダークファルスと同等の力を有する魔族の
本当の最高幹部・・・・。それぞれの時間軸の魔を統括するものか」
ただ一人ライダークだけは現れた３体の異形を訝しそうに見つめていた。
位相に投影された３元帥はそれぞれこの世界の崩壊する様を確認し計画が順調に
推移しているかどうかを評する。
トラハイトアーハ「うふふふ・・・そう時間も空間も離れた我らがこの地に集結したのも
全ての時が消えるが故の事象でしょうね、」
グランソーサラー「だが・・・あの者どもの因果果たしてこれで終わるかどうか・・・・まだ
油断は許されぬのではないかな・・・」
ダークブリンガー「深遠なる闇の御方がいかに力を解放されつつあるとはいえいまだ
封印の力はこの地に働き闇を抑えるものなり。この時空融合の陣は
そのような微かな誤差さえ失態につながる恐れあり・・・故に危急の事
態に備え、我らここに馳せ参ずる者なり」
三人の慇懃な会話の中に御方様を暗に侮蔑する響きを感じ取りライダークは身を乗
り出し語気を荒げた。いかに闇の最高幹部とはいえ無礼が過ぎる。
ライダー「・・・・危急の事態だと！？御方様の御技が失敗するとでもいうのか！！！無
礼だぞ！！！」
尚も怒りを隠さず剣を抜こうとするライダークを深遠なる闇が下がらせる。
深遠なる闇「ダークライダー、よい今は控えよ・・・」
ライダー「ですが！！・・・・・・は・・・失礼しました・・・・」
ライダークはいまだ憤懣やるかたないという感じだが深遠なる闇の命に大人しく頭を
たれた。闇の３元帥はそれを待っていたかのように恭しく臣下の礼を取る。
暗黒の三元帥「我ら3名、御方の宿願が達せられることを心のそこより祝い御方様の
御技の補助となるべく時空の彼方よりこの惑星の精霊ポウムを滅する
力を送る所存・・・」
だが”闇”に祝いの言葉を述べる彼らの表情は白々しくとても忠誠心があるとはライ
ダークには思えなった。
一方の深遠なる闇はすべてを見透かしているような冷ややかな目で三人を見渡すと
乾いた笑い声をあげた。
深遠なる闇「ふ、心にもないことを・・・だがよくぞこの時に集った。パルマにいまだ残る
彼奴の光の力滅殺するため、汝らの力借りるとしよう・・・」
そして三元帥に勅命を下した。
暗黒の三元帥「ふ、御意・・・」
三人は勅命に恭しく応じると手を深遠なる闇の周囲の魔法陣に向ける。三人の手か
ら紫紺色の禍禍しき輝きが魔法陣に向け放たれ魔法陣はより一層邪悪な光を発した。
鈍く光る暗黒の輝きに照らされ満足げな笑みを浮かべる深遠なる闇は空に向け手を翳
す。
深遠なる闇「さあ始めよう！！全ての因果の終局を！！！」
そして深遠なる闇はついに己が大願を成就させるべく行動をおこした。顔を上に上げ、
顎門を大きく広げた。周囲から赤黒い瘴気が紫電と共に絡み合いながら巨大な闇の渦
を作りあげていく。
シュグァアアアアアアアア！
暗黒の吐息シャドウブレスが上空に投影される巨大ブラックホールが見える次元の境
界に向け放ち空間を大きく揺るがす。さらに手から放出される時空歪曲波ディストーショ
ンが黒い稲妻のように走りながらその周囲の障壁を歪曲させ次元境界の影響でいまに
も崩壊しようとしているバヤマーレ上空全体にさらなる負荷をかけようとしていた。触手で
繋がった魔族たちはそれを見上げながら歓喜の咆哮をあげる。
「うおおおおおおおおおおおおお！！」
怖気が走る魔族の咆哮はレジスタンス艦隊にも木霊していた。耳を塞いでも聞こえて
くる狂笑と叫び・・・・。そうそれは亡者達の歎きでもある。闇に取りこまれ、魔族に姿を
変えられた人間たちの悲しき絶叫・・・・。
ルセロ「おい・・・・・これはどういう事だアベル司令代行」
クルー達が呆然と立ち尽くすしかない状況でルセロはアベルに近づきその胸倉を掴み
かかった。だがアベルは動じずまっすぐルセロを見つめる。
アベル「・・・・・すまない、騙すつもりはなかった。だが、こうなった以上何を言い繕っても
言い訳にしかならないようだな。・・・・君達が今見てもらった通り、魔族の正体は
人間が闇の波動を受け変容したものだ」
そう言うアベルの表情には並々ならぬ思いが感じられた。目の前で人間が魔族に変わ
ってしまう現象を目撃された以上、アベルは隠蔽していた責を自分が負う覚悟を決めて
いたのだ。アベルの堅い決意は真摯な眼差しを通してルセロにも伝わった。
「アベル・・・・おめえ」
アベルの決意に押される形でルセロは、胸倉を掴んだ手の力を抜く。
一方アベルの説明を聞いたレジスタンスの間に動揺が広がった。無理もない・・・今ま
で戦った魔族が元は人間だと知れば誰であろうと心穏やかではいられない。
士官「そんな・・・・じゃあ俺達が今まで倒したのは」
「・・・・・聞いてないぞ」
何故教えてくれなかった・・・無言の非難の視線がアベルに集中する。そこにモニター
の向こうにいるオセロが割って入った。
オセロ「みんな、アベル司令を責めないでくれるか・・・・・わしもその光景を見てきたが、
いまだにそれを否定したかった。アベル司令も推測で士気を下げる事をよしと
は思わなかったのだろう、だがこうやって見せ付けられた以上認めるしかある
まい」
魔族の正体を隠していたのは自分も同罪。それでもレジスタンスのパニックを抑える
ためにオセロは臆することなく仔細を説明する。
ルセロ「・・・・・・だがよぉ！どうしても納得ができねえだろう」
ルセロを始め、レジスタンスクルーはいまだ承服しかねる様子だった。このまま膠着
状態が続けば今後の危機に対応できなくなる。アベルが再び口を開こうとしたその時、
もう一方のモニターにミラー博士が軽快な調子で割り込んできた。
ミラー「お取り込み中の所悪いが話は聞かせてもらったよ。確かにみんなに隠匿してい
たのはちょっと僕もどうかなとは思う。」
様子を伺っていたミラーはまずアベルの判断が本当に正しかったのか疑問を投げか
ける。アベルはそれを黙って聞いていた。
ルセロ「ミラー、そうだろう！！納得いかねえよな！！」
同調するルセロが再びアベルを責める声を大きくするがミラーは振り向きざま、ルセロ
にも問いかけた。
ミラー「でもルセロ、・・・・君が彼の立場だったらどうしていた？」
ルセロ「それは・・・・・・・うぐぅ」
ミラーから逆に問いかけられ返答に窮するルセロ。
自分がもしその事実を事前に知っていたらありのままに話すかもしれない。
だがその事実を打ち明けたら魔族や深遠なる闇と戦えていただろうか・・・。現に今で
も動揺が広がり、戦うどころではなくなってきているというのに・・・。
重すぎる問いにルセロも簡単には答えられず押し黙るほかなかった。押し黙るルセロ
にアベルは静かに言った。
アベル「別に庇ってくれなくてもいい。隠匿した結果、さらに士気を混乱させた責任は全
て私にある。」
その覚悟の言葉にぶれはなかった。彼の言葉をミラーとルセロは押し黙って聞いてい
る。ルセロはまだ深く考え込んでいるがミラーはアベルの決意を見守るかのような笑み
を浮かべた。そしてミラーは数秒だけ考え込むとそれまでモニターに映さぬよう隠してい
たメモリーカードを手にした。
アベルはその数秒間の間に浮かんだミラーの苦悩の表情を見逃さなかった。
アベル「それより、君が連絡をしに来たのはおそらくこの空間に広がる異常事態の事だ
ろう」
アベルからずばり指摘されたミラーが観念したかのように手近にあるコンソールにメモ
リーカードをセットすると膨大なデータがダークランディールに転送される。
ミラー「ああ、事は急を要するからね。とりあえずこれを見てくれ」
モニターには惑星パルマを取り囲む宙域が全天が真紅のたゆたう鈍い光に覆われて
いく光景が映し出される。それは見ている者全てに不安を喚起せざるおえない映像だっ
た。
スタージェーン「なんだいこの赤いもやみたいなものは？」
一呼吸おいてスタージェーンが映像の解説を求める。ミラー博士はコホンと咳払いして
求めに応じ映像の解説を始めた。
ミラー「これは光のドップラー効果により起こされる赤色変異、物体が高速に遠ざかる時、
光の波長は短くなり赤く変異する。その現象が今パルマ全天を覆いつくしている
という事は・・・・」
アベル「つまりこの惑星パルマが宇宙のどこよりも離れつつあることを意味する。それは
・・・時空の地平線ブラックホールの特異点でしかおきない現象ではないか！！」
ミラー「そうこれは本来なら空間が無限大に引き伸ばされる特異点付近でしかおきない
事象なんだ。しかし今パルマは深遠なる闇がDCSシステムの中枢となっておこし
ている時空間の干渉により別宇宙へと繋がるゲートを形成してしまった」
ルオン「それがこの空全体を覆い尽くす異界の光景なのか・・・」
異なる時間軸を強引に繋ぎ合わせ湾曲させた世界がいかに不安定か・・・ほんの少しの
衝撃ですら時空の歪みを増大させる。次々と提示される絶望的なデータにアベルとルオン
は絶句した。
一方のスタージェーンとルセロは難解な説明についていけず顔を見合わせコソコソ耳打
ちする。
スタージェーン「・・・・何をいっているか、わかる？」
スタージェーンの問いかけにルセロはさっぱりと首を振る。
ルセロ「わかる訳ないだろう、こんな理数系の話は」
3人の間で交わされる難解な専門用語が並ぶ会話に二人はピンと来ない様子で見つめる
他なかった。
次元融合の危険性をいまだ認識できず押し黙る二人にミラー博士はその証拠となる映
像を披露する。
ミラー「・・・・おそらく司令の言うようにそれぞれが別宇宙の光景、その証拠にこれをよく見
てごらん」
モニターは深遠なる闇の上に広がる次元の境界面を映し出されていく。
銀河の中枢部に存在されていると言われる超巨大ブラックホール。あらゆる物を飲み込
み決して逃さない暗黒の奈落・・・・。その落ち込む物体の中にアベルはあるものを見つけ
驚愕のあまり目を見開いた。
アベル「・・・・！？」
アベルの異変にルオンは訝しく思ったが視線の先の物体が徐々にズームアップされていく
に連れルオンも同様の衝撃を受けた。
ズームアップされていく７個のドームからなる巨大な構造体・・・。それは紛れもなくアリサ
3世型巨大移民コロニーだったからだ。
ルオン「これは・・・・アリサ3世・・・・」
アリサ３世型移民コロニーは今バヤマーレ宙域に係留されているので全てのはず・・・他に
旅たった船など一隻もないはずだ・・・訝しげにその光景を目の当たりにするルオンの疑問
にミラーが推論を答える。
ミラー「そうアリサ３世型宇宙移民船は今現在この上空に待機しているはずなのにこの移
民船は・・・この大きさからすると銀河中枢にある巨大ブラックホールに飲み込ま
れつつある。これはつまり我らの未来かたどるかもしれない可能性並行世界、パ
ラレルワールドの光景なんだよ。」
ルオン「途方もない仮説だな・・・にわかには信じられん」
ルオンはミラー博士から詳しい説明を受けてもいまだ信じられずにいた。平行世界。概念
的には知っているがそれが上空に映し出される光景に頭がついてこないのだ。ましてや
仮説が正しいとするなら移民船団の内一隻がブラックホールに飲み込まれてしまうことに
なる。
そんな恐ろしい未来を否定したい気分をアベルの陰鬱とした言葉が否定する。
アベル「いや・・・彼が言っていることはおそらく事実だ・・・・実はかつての地球に巨大宇宙
船が降り立ったことがあった。宇宙船は解体され移民も行方不明、ノアの一握り
しかその真実を知らないがそれはブラックホールを通り1万年の時を超えて地球
に来訪したという。ノアの地球人がアルゴルを知ったのもそのデータバンクにアル
ゴルの情報があったからだ」
アベルから伝えられた地球の情報に今度はミラー博士が目を丸くして驚く番だった。
ミラー「！？・・・それは初耳だよ・・・・ん？という事はこれらは1万年の間にもしかしたら何
度も繰り返しその度に飲み込まれた宇宙船が新たなる可能性を見つけ平行世界
を作り出したことになる・・・・・・・という事は・・・」
アベルからもたらされた新たなる情報と今、バヤマーレでおきている今おきている異変を
見比べ、いくつものディスプレイや計器を同時にチェックしながら脳内で考察していく。ディ
スプレイに映し出される次元の境界にシャドウブレスを放つ深遠なる闇・・・それをふと見た
とき、彼の思考が一定方向にまとまりある仮説が導きだされた。だがその仮説に彼自身が
恐ろしくなり顔面が蒼白になった。
ミラー「大変だ！！深遠なる闇はあのブラックホールがある時空を今、強大な魔力で捻じ曲
げようとしている、それはつまり・・・・」
今このバヤマーレは過去現在未来様々な時空が交錯しあう特異な状況だ。空間のバラン
スは極めて不安定で飽和点を超えた時、まるで両手で曲げようとした木がポキリと折れるよ
うに次元が崩壊してしまう。
バリバリバリバリィイイイイイイ！！！
ミラーの仮説に答えを与えるがごとく、空に悲鳴のような轟音が轟きブラックホール周囲の
次元の境界が崩れだした。そしてブラックホールのある時空と繋がった別世界の惑星がその
空間もろとも暗黒の奈落に飲み込まれていく・・・そのあまりに凄まじい光景に全員が慄然と
した。
深遠なる闇が今次元の境界にシャドウブレスを放つことがいかに危険か・・・。自分で考えた
仮説に恐怖し言うか言うまいか迷っていたところにランディールから通信が入った。タイラーと
アイナがモニターに映し出される。
ミラー博士が仮説を途中まで話すとアイナはまるで最初からその事を知っていたかのように、
落ち着いた表情で真実を語り始めた。
アイナ「アルゴルから旅立った全ての因果の崩壊、アルゴル人が認識した宇宙の滅亡を意味
します」
ルオン「アイナ様、それは誠ですか！！」
オハリオ「僕たちは真実の書でこの事実を知った。真実の書はラ・シークが深遠なる闇と接
触した際、狂気に犯されながら書き残した深遠なる闇の記憶の断片、深遠なる闇
は未来から訪れるダークファルスにより並列世界を認識していたんだ」
アイナ「深遠なる闇はそれら平行世界の全ての人たちの幸せを妬み、全認識世界を滅ぼそ
うとしている、あれは全ての平行宇宙と繋がる特異点・・・それが暴走すれば」
アイナからもたらされた恐るべき真実に慄然し言葉を失うアベル達。
アベル「間違いなく我等の未来は終わる・・・・」
それでもタイラーとその仲間達だけは、今、上空で引き起こされている破滅の光景に恐れ
ず立ち向かおうとする心意気を見せる。・・・・その勇気がアベルには眩しく感じ取られた。
タイラー「だが、そんな事はさせやしない！！そうだろうアベル司令！！」
タイラーの力強い表情を見ると何故かアベル達の胸にも熱く滾る思いが湧き上がる。そし
て言葉をかみ締める様に語った。
アベル「・・・・タイラー艦長・・・・ああ、そうだ、これは何としても防がなければならない事態、
私たちにかかる責任はより大きなものとなった・・・」
今まで慎重だったアベルの覚悟を決めた言葉にルオン達が頷いた。各自決意を固めるメ
ンバーをモニターで見つめオセロの表情も自然と綻ぶ。
オセロ「ふ・・・みんな良い面構えになったな」
だがオセロは闇の周囲に控える雲霞の如き魔族の大軍を眺めると表情を真顔に変え、慎
重な意見を述べる。故郷を失いシャドウブレスの脅威をその目で見てきたオセロの意見に
全員が耳を傾けていた。
オセロ「だが・・・止めるといってもどうする、周りには数千体の魔軍、それに深遠なる闇が
あのシャドウブレスをわしらに向ければそれでTHE・エンドだ。」
群がる魔族の危険性は・・・戦艦エクストリアがバヤマーレに帰還した際の損傷状態を見
てもよくわかる。
だが魔族の危険性を重々承知した上でアベルは戦いが始まった当初から考察していた
闇の行動に対する違和感を再び口にした。
アベル「いやその可能性は低くなった・・・闇がシャドウブレスで我等を全滅させる機会はこ
れまで幾度もあった。そして今もだ。其れなのに奴はわざわざ自分の部下を招聘
し、防衛に当たらせている。さらに我等にこの異常事態を見せ付け絶望を煽って
いる」
ルオン「闇は今我々に何も出来ないと高をくくっている事ではないのか」
ルオンの問いにアベルは半ば同意するように頷く。
しかしもう一度コンソールを操作しスクリーンに闇のエネルギー分布状況やグラフそして
次元の歪曲状況を投影させると、呟くように考察を語り始める。その顔色には苦渋と決断
の感情が浮かんでいた。
アベル「私も先ほどまでそう思い込んでいた、だが今の話とこれまでの闇の言動そして今、
闇が行っている時空の消滅、これらから類推するに闇は今、時空に歪みを起こす
ことに集中し、そのエネルギー源として我等の絶望を利用している。ゆえに我等に
手出しが出来ないのではないか」
鋭いアベルの考察にルオンがポンっと手を打った。
ルオン「なるほど・・だから、魔族を召還し防衛に当たらさせているという訳か！！」
敵の状況がアベルの指摘により明確化された今、これからレジスタンス艦隊が”闇”に打
ち勝つための道が指し示されつつある・・・・そんな希望の光を会議に参加している全員が
今確かに感じ取っていた。
結論を待っていたタイラーが声を大にしてみんなモニターに映し出されるレジスタンス全員
に強く訴った。
タイラー「なら話が早いだろう、深遠なる闇が俺たちを攻撃できない今こそDCSシステム中
枢部を完全に消滅させる絶好の機会じゃないか！！」
タイラーの力の篭った言葉を噛み締め、アイナも強く頷く。
アイナ「そして復元できなくなった機械部分を脱ぎ捨てた闇を私たちが封印します。」
そして彼女とオハリオは再び封印の術式の構成に専念すべく瞑想に入った。
レジスタンス主要メンバーはこうして決意を新たにし、次なる行動の準備に取り掛かる。
だがその会議を黙って見ていたレジスタンスの他のクルーは心に微かな希望が見出しな
がらも、未だ先ほど見た、魔族誕生の恐怖から抜け出せずにいた。
仕官「・・・・・だがよぉあの魔族は元人間なんだろう・・・」
「あいつらがなったとすると俺たちもいずれ・・・・」
そう不安げに隣のメンバーとひそひそ話をするオペレーター達を見てルセロは刹那、考え
込んだ後、意を決したように歩き出す。
ルセロ「・・・・・」
スタージェーン「ルセロ、どうしたんだい？」
スタージェーンの問いには答えずアベルの前まで来たルセロは拳を握り締め・・・
ルセロ「おいアベル司令・・・・歯あ食いしばれよ！！」
どぐぼおおおおおおおおおおおおおおおおおおお！！
と思いっきりアベルの頬を殴りつけた！！そのままの勢いで艦長席に殴り飛ばされるア
ベル。
ルオン「アベル司令！！ルセロ！！貴様！！」
ルセロの突然の暴行をルオンが非難するがアベルがそれを制した。
アベル「いや、これでいい・・・」
ルオン「・・・・」
アベルは口から出た血を腕で拭くと殴りつけたルセロを黙って見つめていた。その表情
は殴られた事に対する怒りではなくむしろ感謝の念が浮かんでいた。アベルのその顔を
見てルセロは何かふっきれたような表情を浮かべると振り向き、突然の暴行騒ぎに唖然
としているクルーを見渡し、大きな声で怒鳴りつけた！！
ルセロ「魔族が元人間だと俺たちは今知った・・・・・だがそれがどうしたーーーー！！！
あいつらはもう人間とは違う悪魔になってしまったんだ！！かつてあった感情な
んてもうねえ事はあいつらの顔をよく見ればわかるだろう！！！」
ルセロの思いのたけの篭った怒声に驚きつつクルーはもう一度外部モニターに投影さ
れた悪魔達の表情を伺う。確かにルセロの言うとおり悪魔達の顔にはもう人間性は欠片
も伺えなかった。その事を改めて指摘されうな垂れるクルー達にルセロは今度は叱咤激
励するように強く訴えた。
ルセロ「俺たちが苦しむのをあざ笑うあの顔はもう俺たち人間が持っていた感情まで闇に
奪われちまったもんだ！！だが俺たちはまだ人間だ！！感情を奪われたあいつ
らの分まで俺たちが生き残らなければ本当のあいつ等も浮かばれねえよ・・・」
理不尽な悪意に対する怒声が最後、魔族に命の尊厳を奪われた死者達を悼む悲しみ
に変わったのを聞き、クルー達は胸に襲っていた不安を跳ね飛ばすように立ち上がり奮
起した。
士官「・・・そうだな」
「俺達がせめて弔ってやろう」
お互いに奮起を促したクルー達が所定の位置につきコンソールを立ち上げ作戦準備に
とりかかった。
各々が勇気を取り戻しほっと安堵したルセロはもう一度アベルの方を振り向いた。バツ
が悪そうな表情で頭を掻くとアベルにむすっとした物言いで語りかけるルセロ。
ルセロ「おい・・・アベル俺たちにその事を黙っていたことは今の一撃でけじめとしてやる！！
だから必ず奴に勝ちここに生きている俺ら全員を脱出させる作戦を頼むぜ！！！」
ぶっきらぼうな物言いだがアベルを応援する気持ちが感じられる言葉にアベルも思わず
笑みをこぼす。
アベル「ああ・・・このきつい一撃に負けない作戦を用意してあるさ」
殴られた頬を摩りながら、皮肉めいた不敵な笑顔を返すアベルを見てルセロはむすっ
とした表情で背を向けた。
二人の話を苦笑しながら見ていたタイラーがモニターの向こうから労わりの言葉をかける。
タイラー「うまく纏まったな・・・憎まれ役ご苦労さん・・・」
タイラーは苦笑しつつモニターに映るレジスタンス艦隊の各員の状況を見渡した。実際、
ルセロが思いっきりアベルをぶん殴ったことでレジスタンス各員が情報を隠蔽していたア
ベルに感じていた不信感が、闇に対する恐怖と一緒に吹き飛んだことは事実である。アベ
ルはその事を認めつつ揶揄したタイラーにこれからの作戦の要である重要な役目を託す
のだった。
アベル「まったくよく言う・・・タイラー艦長、その憎まれついでに君に重要な役を頼みたいの
だが・・・」
襟を正し改めて依頼するアベル。この最終作戦においておそらくもっとも危険な役を彼ら
に任せること・・・
これまでアルカディアいや闇との激烈なる戦いを共に戦ってきた・・・そしてアルゴルを乗っ
取ろうとした地球人の一員である自分を自分達の仲間として暖かく迎えてくれたタイラー達
にこのような事を押し付ける事しかできない自分の無力さにアベルは、思わず苦渋の表情
になる。だがタイラーはその危険な依頼を快く引き受けるのだった。
タイラー「・・・・ああ、わかったぜ」
タイラーの熱き誓いに答えるべく、アベルも気持ちを切り替え冷静沈着な参謀の顔に戻る
と各艦に指令を下すのだった！
アベル「よし、ここが最後の正念場だ、だがここを乗り越えれば活路は見出せる！！全艦
隊、これから送る作戦指示メールに従ってほしい。全軍行動開始！！」
その号令にもう迷いはなかった。アベルの決心がレジスタンス全員に伝わったのか緊張
に包まれた艦橋内でオペレーター達はコンソールに振り向き直り、数秒の決戦へ向けて士
気を高めていく。その士気に呼応するが如く空母3、戦艦20、護衛艦・駆逐艦・巡洋艦等合
わせて140を超える数の艦隊がスラスターを光らせ進軍を開始した。
アベル「それと観測班に命じてくれ、あのシャドウブレスの波動をよく調べるようにね」
士官「ですが今？・・・・は、はい・・わかりました」
アベル「さて後は向こうがうまく乗ってくれるといいのだが」
そう言って艦長席に腰を落ち着かせるとアベルは今度こそ動じることなく遥か遠くに見
える魔族の大軍と深遠なる闇を冷徹な眼差しで見据えていた！
深遠なる闇「ほう・・・ここに来てもいまだ絶望せぬのか、諦めの悪いことよ・・・」
絶望の大地に鎮座し崩壊する時空にシャドウブレスを浴びせ続けていた深遠なる闇は、
レジスタンス艦隊を覆っていた絶望が薄らいでいくの感じ興味を抱いたように赤い眼を、
動き出したレジスタンス艦隊に向けた。
闇の御方の視線の先に魔族達も同じように注意を向ける。だがその中で無邪気そうな
声であざ笑う声が響いた。
カストル「ねえねえお母様、あの艦隊ぶっ壊してもいい？」
そう笑いながら闇に問いかける魔族・・・一見少女のような姿をしているが青い装甲を身
に纏い片腕がレーザー砲と癒着したカストルが闇に対しねだるように言った。
ポルックス「キャハハハ、みんな切り刻んじゃおう！！」
同意するように全身を赤黒い皮膜に覆われた右腕が巨大なブレードと化した魔族の少
女ポルックスも子供じみた笑いを浮かべ飛翔する。
気に入った玩具を見つけねだる子供達のようにはしゃぐカストル達を見て深遠なる闇
は母のような慈愛の表情を浮かべる。
深遠なる闇「いいだろう、我が愛しき娘達よ、いまだ絶望の愛を受け入れぬ愚かな童た
ちに滅びの愛の素晴らしさを教えてやるがよい。」
彼女達の先行を闇が許すとカストルとポルックスは待っていたとばかりに飛び出していく。
先行する二人の魔少女に率いられ魔族の軍隊も動き始めた。
バヤマーレ時間ＡＭ7：40
暗雲と次元の境界面が交錯するバヤマーレ上空で今、人間と闇の最大の決戦が幕を
開けようとしていた・・・。
第４２話 −終−
第４３話を読む
投稿の広場に戻る
トップページに戻る