スペースクルーザー ランディール
第43話 在りし者の想いを胸に、進め閃光の彼方へ！！
メインスクリーンに映し出される雲霞の如き魔族の大群とレーダーを埋め尽くして
いる数万の光点を見比べオペレーターは緊迫した面持ちで報告を行った。
士官「敵第1波来ます！！」
アベルはこれから出るかもしれない犠牲の多さを想像して一瞬だけ瞑目していた
が、意を決し活目すると、高々に号令を下す。
アベル「全艦、モニターに指定されたフォーメーションを取りつつ戦闘体制に入れ！！」
アベルの号令に呼応しレジスタンス艦隊は敵との間合いを取りつつフォーメーショ
ンを展開する。アベルの通達を受けた各艦隊の指令は砲撃のタイミングを合わせ
反撃の時を待った。
オセロ「こちらは艦の配備を完了した。いつでも行けるぞ！！」
ルオン「うむ、各艦に通達！！対空レールガン展開！！トリガータイミングを同調さ
せ敵前衛に向け主砲掃射！！撃てーーー！！」
ルオンの苛烈な号令に合わせるようにトリガータイミングを同調させた250隻の軍
艦が一斉に主砲を迫りくる敵に向け撃ちはなった！！
トニーG「おらおら！！予算はどうせ向こう持ちだ。今日は派手に撃ちまくれや！！」
幾千、幾万の光の束が、敵陣に向かい直進する。それはそのまま敵の編隊に穴
を開けるかに思えた。だが、敵に届く直前でレーザー砲は見えない障壁に阻まれ、
深遠なる闇はおろか敵前面部隊にもダメージを与えられなかった。
仕官「駄目です！！レーザーは相手の障壁に阻まれダメージを与えられません」
困惑した士官の報告にルオンは魔族アーダイトの展開する障壁の正体を察し苦
虫を噛み潰した表情になる。
ルオン「くっマジックバリアの類か！！」
攻撃を防がれたレジスタンス艦隊の動揺を突きカストルが右手に融合した荷電粒
子砲で狙いを定める。
カストル「キャハ！！どこ狙っているの！！お返しよ」
士官「敵主砲きます！！」
ルオン「総員、耐ショック姿勢!!バリアフィールド展開！！」
愉悦にまみえた表情を浮かべるカストルの砲撃を感知しセンサーが緊急警戒音を
あげる。ルオンは即座にバリアフィールドの展開を命じた。
ドバアアアアアアア！！
間一髪で、バリアフィールドが展開され、何とかカストルの粒子砲を防ぐ事に成功し
たが艦橋はその余波で大きく揺さぶられる。その衝撃の中でも冷静だったアベル
が即座に指示を出した。
アベル「敵前衛に対し、突撃艦を先行させる！！人員の移動、運行プログラムの
リスタートカウントダウンを開始せよ！！」
アベルの指令を受け待機していた無人の突撃艦が自動操縦モードになり艦隊から
先行する。ルオンは事前に示された計画手順を各員に指示を送り終えると、静かに
アベルに尋ねた。
ルオン「アベル殿、こちらの準備態勢はすでに終わった、後は向こうが食らいつくか
どうかだが…」
彼の問いかけにアベルはただ黙して先行する突撃艦数隻を見つめていた…
先行する突撃艦が速度を上げ自分達に体当たりしてくるのを見たカストルは半ば
呆れ気味に船を一瞥する。
カストル「見てよ！！奴らやけになって特攻してくるわ！！」
ポルックス「馬鹿みたい！！そんなに死ぬのがお望みなら切り刻んであげる！！」
しかしその無謀とも思える行為はもう一人の魔族の少女ポルックスの興味を引い
たらしい。無邪気な嗜虐心が沸いたポルックスは右手に接合された大型ブレードで
特攻する突撃艦を切り裂いていく。
ポルックス「あれ…誰もいない？」
しかしポルックスの期待に反して切り裂かれた艦には誰も乗っていない。首をか
しげるカストル達。一連の状況を次元の境界から見下ろしていた闇の3元帥は呆れ
果てたように嘆息する。
グランソーサラー「愚かな…それは罠だ、離れよ」
冷めた目でグランソーサラーが呟いた言葉はカストル達には届かなかった。
カストル、ポルックス「ひぃ、ぐああああああああああ！！お母様あああ」
ドッカァアアアアアアン！！
切り裂かれた艦は急に閃光を発すると艦自体の爆発以上の凄まじい大爆発で
カストル達率いる魔族を巻き込みんでいく。爆発に消える瞬間、カストルとポルッ
クスは助けを請うように深遠なる闇に手を伸ばすと閃光の中に消えていった。
トラハイトアーハ「あらあら無人艦の自爆攻撃に巻き込まれるなんて馬鹿な子ね」
トラハイトアーハは哀れむような目で部下の愚かな失態を冷笑するがグランソーサ
ラーは敵の無謀とも思える敵の特攻に何か悪い詐術にでもかかったような不快感
を感じ、しばし考える。
グランソーサラー「いや、敵の狙いはこれだけではないはず次はどのような手でく
る…」
だが敵がその意図を察する前にアベルはジョディのテレパシーを介し次なる指
示を送っていた。
アベル「タイラー提督、ではテレパシーで伝えた通り切り込みを頼む」
普段以上に的確に戦況を判断し作戦を編み出すアベルに感心しつつ、タイラー
は自分達に任された作戦の重要性をひしひしと感じていた。それでもあえてタイラ
ーは余裕の表情で笑みを浮かべる。
タイラー「ああ、これは俺たちにしかできない任務だろう」
この作戦がいかに危険なものか、タイラー自身がわかっているはずなのに、それ
を顔に出さない心の強さにアベルは改めて心打たれた。
アベル「君達にばかり危険な任務を押し付けるのは慙愧に耐えない…だが君たち
の活躍に我らの命運がかかっている。よろしく頼む…」
危険な任務を命令するしかないアベルは沈痛な面持ちでタイラーを見続けること
ができなかった。それに対しタイラーはいつものような飄然とした口調でこう答える
のだ。
タイラー「よせよ、善く兵を用いるは…だったか、それはアベルが俺達とこのランデ
ィールを信用してくれた何よりの証さ。あんたが気に病むことはない…じ
ゃあ行ってくるさ！！」
そうわざと問いかけ自分の緊張を解きほぐそうとするタイラーの思いやりがアベル
にはとても眩しく感じられ胸が熱くなるのを感じていた。思い起こせば、彼の飄然と
していながら仲間を大切に思う気持ちにアベルは心惹かれていたのかもしれない。
アベル「善く兵を用うる者は、能く敵人をして前後相及ぱず、衆寡相恃(たの)まず。
名将は戦いに辺り、まず敵の組織破壊に勤める…敵の陣形を分断するこ
とこそ勝利の鍵となる…タイラー、君ならできるはずだ…」
アベルは余裕を取り戻しタイラーの質問に答えると、数秒、モニターに移る苦楽を
共にした仲間達を見渡した。まるで絆を再確認するように。
そして艦長であるタイラーに敬礼した。これから死地へ赴くであろうタイラー達に
信頼と敬意をこめて。
通信が切れランディール艦橋は一瞬静寂が流れた。だがそれはランディール号
のクルーが覚悟を決めるための時間…各々の表情が真摯な眼差しで艦長を見つ
める。
それを待っていたようにタイラーは振り返ると艦橋にいるジョディ、ミカ達そしてモ
ニターに映し出される各部署で待機中のクルー全員に命令を伝える。
タイラー「さあ、これから俺達の実力が試される。まずアレスチーム、船に侵入する
魔族の対処を任せる」
アレスは艦橋の前通路で仁王立ちしながら待ってましたとばかりに強く答えた。周り
にいる彼をリーダーとする戦闘服に身を包み武装した隊員もアレスの呼応に応じる
ように強く頷いた。
アレス「おう、本来なら侵入なんてあってはならねえが来るなら俺達が纏めて倒して
やるぜ！！」
そう強気に答えるアレスにミカが心配そうに声をかける。モニター越しのミカの目
は不安に震えていた。
ミカ「アレスお兄ちゃん、分かっていると思うけど無茶はしないで…約束だよ」
不安気に念押しをするミカを安心させるためアレスはさらに勢いのある大声で約
束した。
アレス「そうだな！お前のお姉ちゃん達やミカルとも約束したしな、大丈夫、俺達は
必ず全員で生き残るんだ！！」
ミカ「うん！！」
一方のジョディも二つの気がかりな事が胸中にあった。ジョディは思い切ってその
思いをタイラーにぶつける。
ジョディ「気になるのはガンツさんです…アベルさんの作戦に本気で怒ってエンジン
ルームに行ってしまいましたけど…」
ジョディが言うようにガンツはこの作戦に反対で仔細を聞くや怒りだし艦橋を飛び
出すとエンジンルームに引き篭もってしまった。
無理もないかもしれない…何故ならこの作戦を成功させるにはランディールかダー
クランディールが…
ガンツの胸中に渦巻く悲痛な気持ちはタイラーには痛いほどわかる。しかし…タイラ
ーは唯一モニターに映らないエンジンルームを凝視した。
タイラー「…ガンツの親父もわかっているはずさ…この作戦の重要性を…エンジン
ルームに行ったのは自分の職務だけは果たす覚悟があるからだろう…」
そう言うタイラーの瞳はガンツのいざという時の底力を信じる強い信頼の思いが
あった。
ジョディはタイラーの他人に寄せる信頼の絆の強さにひとまず安堵した。しかしそ
れでも尚彼女は心の奥底に燻るもうひとつの不安…そしてそれによりおこるかもし
れない予感に恐怖し尋ねるほかなかった…
“汝らは我を時の忘却の彼方に消し去り置いて行く…”
その不安は深遠なる闇の思念を受けた時に微かに感じた違和感…そしてジョディの
心の奥に秘められた悲しみと共通する何か…
ジョディ「それに私やっぱり気になるんです。アベルさんは闇の傲慢さに注視していま
すけど私が感じたのはもっとどろどろとして寂し…」
タイラーはジョディの”闇”に対する哀れみにも似た思いをその表情から感じとって
はいたが今はあえてその言葉を遮る。
タイラー「ジョディ…この戦いは敵の心情を利用しなければ俺達に明日はない…今は
敵に情けをかけるべき時じゃない事だけはわかってくれ…」
タイラーはジョディの肩を強くつかみ落ち着いた声で彼女に事の重大さを再認識
させるために訴える。
タイラー達にはこの星の全ての人の行く末が掛かっている事を…ジョディはいま
さらながらに思い出し恥じた…そして今は闇にどんな事情があろうとを封じる他は
ないと自分に言い聞かせる。
ジョディ「…はい、わかりました！！今は航行サポートに徹します！！」
彼女の決意を確かめ安堵したタイラーは再び各クルーに声をかける。
タイラー「医療班のラガン先生もいざとなったら頼りにしているぜ」
ラガン「おらに任せてけれ、どんな重症ば負おうとおらが必ず治してみせるずら」
腕まくりし注射針や手術道具を手に持つラガンを、アレスとミカがうんざりした表情
で見つめていた。
ミカ「うわー痛そう…（汗）、絶対に敵の攻撃避けなくっちゃ！！」
そして一通りクルーに声をかけ終えた後、タイラーはモニターの中央に移る二人
…アイナとオハリオを注視し最後に信頼を託すように力の篭った言葉で語りかけ
る。
タイラー「最後にアイナさん、封印の儀式の方、頼むぜ」
二人は…タイラーに、そして今まで自分達に思いを託してくれた全ての人達に報
いるべく確信に満ちた声で答えるのだ。
オハリオ「心配しなくてもいい、僕はアイナを必ず守り儀式を成功させてみせる」
アイナ「それが私達にできる唯一の贖罪だから…」
…贖罪
その響きに二人が今更ながら無理をしている事をタイラーは感じてはいたがもう
咎めようとはしなかった。
タイラー「贖罪か…相変わらず頑固だね…いいさ、それがあんた達に課せられた
使命の重さだもんな」
オハリオ「…ありがとう、僕たちの事気にかけてくれて…君たちがいてくれたから
こそ僕とアイナはここまで来れた！敵の分断を頼む」
一時はお互いを思う気持ちが空回りし対立する事もあった…そのアイナ達から思
わず感謝の言葉と懇願を受けたタイラーは優しげな笑みで頷いた。そして信頼に
答え未来を勝ち取るためにタイラーは声を大にし号令をかけるのだ！！！
タイラー「任せておけ！！スラスター点火！！加速１００％限界速度までスピードを
上げ敵本軍に突撃する！！」
ミカ、ジョディ「了解！！」
満を持してのタイラー艦長の指示に、クルーは、的確に対応し各種エンジンを、
最大出力に立ち上げる。白いスラスター光が唸りをあげ、一気に最高速度の加
速力を得たランディール号は無人艦の自爆による閃光へとその機体を駆け出し
た！！
ドッカアアアアアアアアアン！！
爆風を抜けた先に広がるは数万の魔族、ランディールはその軍勢に向かい古の
武将が馬で踏み倒すように切り込んでいく！！超高速で突き抜ける白銀の風に
対し翼を持った魔族ジャズナガンの群れが追いすがろうとするが音速の衝撃波
に阻まれ編隊が乱れた。魔族が陣形を再編成しようとした刹那、後方からレジス
タンス艦隊の一斉砲撃が開始された。
ルオン「敵の乱れを見逃すな、全艦一斉掃射！！敵の喉元にありったけの粒子
砲を叩きこめ！！」
ルオンの号令で250隻以上の艦艇から一斉に掃射されたビームの奔流が魔族の
陣形を次々と穿っていく！！
タイラー「スラスター逆噴射、反転後仰角45度で再突入する！！」
タイラーはその期を逃さすランディールを急速反転させダイナミックな鋭い動きで
浮き足立っている魔軍に再び突撃した。
幾度も繰り返されるランディールの超高速の突撃と、レジスタンスの一斉砲撃の
見事な連携に魔族の陣形は分断されていく。
それを異世界より眺めていたダークブリンガー
ダークブリンガー「ほお…戦艦にしては素早き動きなり、戦術も見事ぞ、されどカ
オスよ、あの一隻に我が軍が乱されるとは何という失態、兵の
練度が足りぬなり」
カオス「は、それにつきましては申し開きもございませぬ…」
ダークブリンガーの咎める声にカオスは深々と頭を下げる、ランディール号とレジ
スタンス艦隊の連携は魔族の予想以上だったのだ。
ダークブリンガー「闇の軍勢よ、あの戦艦に攻撃を集中せよ！！」
離散状態から、ダークブリンガーの指令を受け、集合した一部の魔族が大編隊を
編成すると、上空に向かいそして猛スピードで特攻をかけてきた。
レーダーで敵の動きを見続けていたジョディが緊迫した声をあげる。
ジョディ「上空より敵影多数！！ランディール号に突撃してきます！！」
タイラー「敵さん、やはりこちらに攻撃を集中させてきたか…ミカ逃げきれるか！！」
ジョディの報告を受けたタイラーが瞬時に敵の目的を察し、ミカに指令を与える
ミカ「…やってみる！！」。
しかしいくら船速をあげても敵はその動きを先読みするかのようにランディール
の前方へと急降下攻撃をしかけてくる！！
タイラー「く！！主砲掃射後、全面の敵陣に孔をあけブーストを使い突破する！！」
ミカ「りょ…了解！！アクティブレーザー起動！！」
眼前に巨大な黒い柱のように立ちふさがってくる魔族の群れに対しタイラーは即
座に決断指示し、ミカが側面のアクティブレーザー砲を展開させる。
ビシュウウウウウウウウウウウム！！
一斉に発射されたレーザーが弧を描きながら前方の黒い群れを次々と穿っていく。
タイラー「今だ！！ブースト起動！！」
ホーミングするレーザーが黒い群れに穴を貫き通したのを確認したタイラーが指
令コードを送った。ランディールの背部スラスターに収束したエネルギーが一気に
弾け神速の翼を手に入れた白銀の龍が敵陣深く開いた穴の中を疾走していく。
だが敵陣を掻い潜った先にはさらに第2第3の黒い柱、魔族の群れが落ちてくる氷
柱のようにランディールを穿こうと特攻を仕掛けてきた。
タイラー「やはりそう易々と抜けさせてはくれないか…」
ミカの操船でランディールは針の穴を通すような回避運動をとった、だが…いくら猛
スピードで敵の特攻をかいくろうが敵の猛追はなおもしつこくランディール号に食らい
ついてくる。
ミカ「駄目！！こんなシューティングのラスト面のような特攻じゃどうしても当たっちゃ
うよ！！」
驟雨のような敵の大群の猛攻はいくら高機動を誇るランディールでも避けきれる
ものではない。ミカの操船で数体やりすごすが別の角度からまた特攻が来る！！
ドゴ！！ドゴ！！
次々とぶち当たる魔族にミカが対応をタイラーに問いかけた。
ミカ「お兄ちゃん！！ミサイルは！？」
衝撃に艦橋がゆさぶられるがタイラーは焦らず落ち着いた声で的確に指示を下す。
タイラー「上部甲板のミサイルポッドは使用するな。敵がミサイルポッドの中に特攻す
れば誘爆する恐れがある。側面のアクティブレーザーで対応してくれ」
ミカ「了解！！」
側面のパネルが開き無数のレーザー砲からレーザーが放たれ魔族を迎撃する。だ
があまりの多勢についにレーザー砲の雨を突き抜け円盤のような魔族デルデプスが
レーザーの防衛網を掻い潜りスラスターに特攻した。途端に頭部を殴られたかのよう
に強い衝撃が艦橋を襲っていく。
ジョディ「左舷に直撃！！左スラスター圧力低下！！」
動きを鈍らした白銀の竜に対し先陣を切って弾丸形態と化したヴィタエが次々とぶち
当たっては砕けていく。しかしその衝撃は確実に白銀の装甲にダメージを与えていた。
そして背後には数百の魔族が控えている。敵が艦内に侵入する事を覚悟したタイラー
が声をあげた！！
タイラー「く、避けることも倒すこともかなわずか！！総員衝撃に備えろ！！」
ドガガガガガガガガ！！ドガアアン！！！
その号令がかき消されるように魔族が次々とぶち当たり装甲が悲鳴を上げる音が
艦内に響き渡る。
このような非常事態に関わらずアレスの心は滾っていた。
アレス「奴さんきなすったようだぜ！！お前ら油断するなよ！！」
チーム「おお！！」
アレスの号令で戦闘チームがそれぞれの武器を構える。そして爆音が響き土煙が
もうもうと立ち込める中、幾体もの黒い影が舞い降りた。
土煙の中から魔族が飛び出してくる。黒い表皮を持つ山羊のような体を持つオル
クディランが前足の蹄が床を掻いて飛び掛ってきた。オルクディランは群れを成して
アレスに押し寄せる。
戦闘チーム「隊長！！大丈夫ですかい！！」
オルクディランの群れに覆われたアレスを見た隊員が動転して声をかける。しかし
心配は無用だった。覆いかぶさるオルクディランの群れをアレスは戦斧の強烈な一
撃で引き裂き跳ね除けたのだ！！
アレス「へん、これぐらいどうって事ないぜ！！」
アレスは気丈に振る舞い隊員を安心させる。
アレス「だが、気を抜くなよ次が来るぞ！！」
むろん、敵に対する警戒を怠ってはいない。隊員もそれぞれの銃器を手に迫り来る
魔族に立ち向かう！！
ガガガガガガガガガ！！
次々と艦橋前の通路に押し寄せる魔族に対し戦闘チームは果敢に戦いを挑む。
くるくる体を丸め回転して襲ってくるガルディンを隊員のレーザー砲が穿つ。
ﾄﾞギャシャアアアア！！
だがそれに気をとられている内に上から隔壁を突き破りジャズナガンが強力な足爪
で真下の隊員の頭に付きたてようとした。
ジャズナガン「キシャアアアア！！」
思わず目を瞑る隊員。…だが爪の攻撃は来ない。恐る恐る目を開ける隊員が目を
開けるとそこには背中に足爪立てられたアレスが仁王立ちしていた。
アレス「まったく世話かけさせやがるぜ…戦闘中は目を瞑るなって言っただろう…」
「隊長…」
背中から鮮血が噴出しているにも関わらず、アレスは隊員を気遣うと振り向きざま
にジャズナガンの頭上に斧を一閃、叩き込んだ。
アレス「ぐふ！！」
しかし傷ついた体で激しく動いたためかアレスは口から吐血した。
チーム「アレス隊長！！」
隊長の危機に思わず大声を上げる隊員達！！その声は隔壁越しにミカの猫耳にも
微かだが届いた。
ミカ「アレスお兄ちゃん？今のはなに！？」
アレスの身に何かがおきた事を直感的に感じたミカが通信回線を開くと悲痛な声で
アレスに語りかける。
モニターの向こうでアレスはミカに見えないように口から出た血を拭うと何でもなかっ
たかのように笑顔を見せる。
アレス「…ミカ、何でもない、かすり傷だ。」
ミカに不安をかけまいと無理を押して見せた笑顔、だが、その無理な笑顔が逆にミ
カの不安をかきたてる。
ミカ「嘘だよ！！今のは絶対大怪我している！！わかるよそれぐらい。待っていて
！！今ドアを開けてレスタするから！！」
アレスの身の危険を察したミカは動転し、艦橋のドアを開けようとした。それをア
レスが強い調子で止める！！
アレス「開けるな！！今俺を心配する暇があったら操船に集中しやがれ！！」
ミカ「で…でも！！」
アレスの叱責に尚も食い下がるミカ、ミカはアレスの負傷に完全に気が動転してい
た。その時、タイラーはミカを見つめ諭すように声をかける。
タイラー「ミカ…今はアレスの言葉を信じるんだ。あいつの強さはミカお前が一番知
っているはずだろう。そのあいつが何でもないと言っているんだ。信じよう
奴の底力を！！」
ミカを見つめ諭すタイラーの双眸には、アレスに対する信頼の思いがあった。アレ
スとタイラー、二人の強い信頼の想いは落ち着いた声を通しミカの心に痛いほど伝
わってくる。ミカは心の中でわだかまる不安を必死に振り払い、くじけないようアレス
に大きな声で激励のエールを送った。
ミカ「う…うん！！でももしもお兄ちゃん負けたらもうアレスの事お兄ちゃんなんて呼
ばないよ…だから勝って！！」
口調は強がっているが明らかに涙声のミカ…精一杯の激励にアレスはニヤリと笑
うと傷ついた体を奮い立たせる！！
アレス「そいつはきついな…ああ勝ってやるよ！！」
「さあ！！ここから先へは一歩も行かせないぜ！！」
戦闘チーム「おお！！」
アレスの身を挺しての鼓舞に戦闘チーム全員の士気も高まった。アレス達は尚も
襲い掛かる魔族に勇敢に立ち向かう…もう負ける気はしなかった。
タイラー「その間に俺たちは敵の分断を続けるぞ！！次のプランが発動するまで何
とか時間を持たせるんだ…」
壁越しに聞こえる聞こえる銃撃音や爆発音…だがその音も最早、艦橋にいるク
ルーに迷いをおこさせる事はない！！タイラーの号令にミカとジョディは力強く答え
た。
ミカ、ジョディ「了解！！」
その声に応じるかのようにランディールは白銀の輝きを増しながら魔族の群れを
引き裂いていく。
ランディールの孤軍奮闘ぶりは遠く離れたルオンの目にも映った。彼らの奮闘振
りに熱く滾るものを心に感じたルオンが号令を発した！！
ルオン「ランディールを援護する！！白龍に纏わりつく魔族を全て打ち落とすぞ！
弾幕を絶やすな！」
号令一下、レジスタンス艦隊がランディールを援護すべく艦砲射撃を開始した。斉
射三連、数え切れないほどの光条が大空を灼熱に染めランディールに纏わりつく魔
族の群れを撃ち砕いていく。
その様子を深遠なる闇は怪訝な表情で見つめていた…
深遠なる闇「まただ…何ゆえそうまでして我が愛に抗うのだ。何ゆえ苦痛の中、生
きることを望む…何ゆえ我の“闇”の安楽から逃れようと欲する…！
！！」
いかに踏み潰そうと絶望を与えようと、“暗黒”の安らぎを求めず、足掻き続ける人
類に深遠なる闇は苛立ちをおぼえた。その苛立ちの念にランディールの展望室で
封印を行うべく瞑想をしていたアイナは静かにだが毅然とした眼差しで答える。
アイナ「闇の根源よ、あなたには決してわかるはずがありません！！人は、いや生
きとし生ける者は偽りの安楽の中で死を待ち望むよりどんなに苦しくて悲
しくても未来という希望を求めて前へと進んでいくのですから！！」
アイナの強い想いを感じ取り深遠なる闇がランディール号に目を向けた。闇の
視線がアイナを捕える。彼女の毅然とした眼差しと金色の髪を見て深遠なる闇は
“繰り返される輪廻の牢獄で幾度も幾度も自分の前に立ちふさがる聖剣を握り締
めた少年”のことを思い起こし憎悪に顔を歪めた。
深遠なる闇「時の終わり命は孤独へと堕ち行く。それを恐れぬというのか。そして
我をまた無音の輪廻へと追いやるつもりであろう…なれば！！！」
瞳に強烈な憎悪の眼光を滾らせる闇は呪わしき運命を破壊しようとランディール
に向け手を伸ばそうとする。己が憎悪を紅き稲妻に変え、ランディールに放とうとし
たその時…上空に浮かぶ次元の位相に投影されたトラハイトアーハがふいに声を
かける。
トラハイトアーハ「深遠なる闇よ…あのような戯言を気にする必要はございませぬ
でしょう。今は御方のお望みのままに次元の歪みを拡大させる
のが先決かと」
ダークブリンガー「さよう、この軍勢で落とせぬのであれば今すぐにでも彼方にいる
数億の絶望を招けばよいだけのこと…」
トラハイトアーハが皮肉めいた猫なで声で、ダークブリンガーが冷めた目で深遠な
る闇の行動を諌める。
深遠なる闇「……我に指図するというのか？」
その声に一瞬、深遠なる闇は殺意に満ちた視線を送った。闇の眼光を見た周囲
の魔族が風船が弾け飛ぶように絶叫をあげ消滅する。
トラハイトアーハ「いいえ…滅相もございません…我々はただ御方の大願が成就す
るようその御手をお導きさしあげているにすぎませんわ」
しかしトラハイトアーハは全く悪びれた様子無く言葉を続ける。嘲りが浮かぶ不遜
な態度にしかし、深遠なる闇は口の端に笑みを浮かべる。紅い三つ目はその時、
憎悪の激しい炎ではなくただ倦怠と諦観の鈍いゆらめきが漂っていた。
深遠なる闇「ほおう…ふっふふそれでよい。確かに我は少し安寧を欠いていたよう
だ。汝らが我を嘲笑うのもうなづける。よかろう、空ろいゆく世界よ歪
め我が暗黒より生まれし童たちをいざこの地に！！」
深遠なる闇はランディールに向けていた手を再び上空の時空の歪みに向け、次
元歪曲波動ディストーションを放出する。指先を微かに動かすと時空を歪ませる波
動の一部が拡散し、距離が離れた空間同士を繋ぐ扉、“ゲート”を天空に複数出現
させた。その“ゲート”から無数の魔族が堰を切った洪水のように溢れ出す。
士官「重力波に異常を感知！！」
士官「空間が湾曲！？これはまさかワープ！？」
ダークランディール艦橋で敵の動向を観測していたオペレーターが上空の異変を
察知し声をあげる。報告を受けたアベルとルオンは上空の異変を予期してかお互い
に頷きあった。
アベル「ついに…」
ルオン「…来たようだな」
オペレーターは突如現れたゲートから溢れ出す敵の光点を計測するが、その余
りの多さに絶句した。
士官「空間の裂け目から魔族が…魔族が！！！」
「数…数万…いや数十万…尚も増加中！！！」
「まさか遥か彼方にいた数億の魔族がここに…それじゃあ」
「おいどうする！！このままじゃ…駄目だ！！とてもじゃないが勝てねえよ！！！」
敵の数は最早、以前の数万倍、天空を黒く覆い尽くす魔族に士官は慄然とした。
モニターに映し出される絶望的な状況に艦橋内があわや恐慌状態に陥るかと思わ
れたその時、
ビシ！！
スタージェーンの鞭がしなった。
スタージェーン「お前たち！！慌てるんじゃないよ！！どうせ慌てたところで何がど
うなるってもんでもないじゃねえのさ。男ならどっしとこういう時こそ
腰を落ち着けるんだよ！！」
恐慌状態に陥りかけたクルー達をスタージェーンが一喝した。耳をつんざくような
怒声に思わず固まるダークランディール艦橋内…
士官「でもスタージェーンの姉御…これはどう逆立ちしたって勝てっこねえじゃない
ですか」
それでも不安を隠せないクルーがスタージェーンに尋ねるとスタージェーンはニヤ
リと微笑みながらもアベルを睨みつける。だがその目は何故か笑っていなかった。
スタージェーン「…ふふふ…それがあるのさ。そうだろうアベル！！」
スタージェーンの睨みつける視線にも動じずアベルは自分の考えていた最後の
作戦の有無を口にした。
アベル「…確かに策は用意してある…士官諸君安心してほしい。この作戦が上手
くいけば我々はこの危機的状況を乗り越え、無事に脱出することができる」
士官「アベル参謀、あんたがそこまで言うなら俺たちはあんたに命を託します」
アベルのこれまでの作戦の成功が功をそうしたのか、アベルの落ちついた説明
にクルーも何とか安堵し、その場は上手く収まった。
作戦の要となるブラックボックスのコンソールを操作し調整作業に入っていたハル
とハックも艦橋内の空気が落ちついたのを見てほっと胸をなでおろす。
ハック「…なんとか上手くまとまったな」
ハル「ええ…後はこのブラックボックスを…手筈通り…開放するだけです」
口では軽く言うもののコンソールを操作するハルの手は緊張に震えていた。もし
誤って今解放してしまった場合…そんなハルの不安を知ってか知らずかスタージ
ェーンが声をかけてくる。
スタージェーン「震えているのかい…なんならあたしが手助けしてやろうか？」
と妙に優しい声をかけブラックボックスに触れようとする彼女をハルが慌てて止
める。勝手にいろいろ弄くられ暴走でもしたらそれこそ只ではすまない。
ハル「いえ…いいですよこれは僕の」
ハルの慌てぶりを見てスタージェーンは興をそがれたのか肩をすくめ、その場
を後にしようとする。再びほっと溜め息をつくハルにその時、油断が生じた。
スタージェーン「そうかい…なら！！！」
ビシ！！
スタージェーンは鞭をしならせブラックボックスに絡ませるとそれを自分の元に
引き寄せた。
ハル「うわああ！！」
驚いて腰が抜けたハルに駆け寄るハックとウォーレン。
ハック「ハル君！！」
ウォーレン「マスター！！！」
スタージェーンの突然の暴挙に艦橋は緊迫に包まれる。
アベル「これはどういう事か説明して頂こう…スタージェーン」
この事態の急変にも関らずアベルは全てを見通したかのような怜悧な眼差し
でスタージェーンに問いかける。一方の彼女ももう後にはひけない。彼女はそ
れまで心の中に隠していた鬱憤をアベルに対しぶちまけた。
スタージェーン「…アベル、あんたは気が付いていたんだろう。あたしがこのブ
ラックボックスに目を付けていたことぐらい…」
ハル「スタージェーンさんそのブラックボックスはお宝なんかじゃないです！！
今すぐ手を離してください、取り扱いを間違えるとそれは…」
ハックとウォーレンに支えられようやく立ちあがったハルがブラックボックスを
手荒に扱うスタージェーンを見て、驚きと恐怖のあまり声を荒げた。
その警告に対し彼女は自虐的にふっと笑うとアベルを再び見つめ静かに言っ
た。
スタージェーン「この箱の中身はもう知っているさ。あたしとそしてドン・オセロは
ね…」
アベル「君たちにはすまないと思っている…」
アベルは自分を責めるその言葉を予想していたのか、目を伏せ静かに詫びた。
だがその淡々とした言い方が癪にさわったのか彼女はいきりたち捲くし立てる。
スタージェーン「アベル・・・・まったくあんたは厄病神だよ…あたし達がこうする
事を気がついていながら止めないなんて！！！出来ることなら
止めてほしかった！！！このままじゃあオセロのおやっさんは…」
柳眉を逆立て罵倒する彼女の声は次第にすすり泣きに変わり、アベルに縋る
ような目で涙を零しながら訴えた。だが彼女の訴えを止めたのは以外にも彼女
のビジフォンに映るオセロその人だったのだ。
オセロ「スタージェーン…もういい！そいつの転送を早くするんだ、そいつしかあ
の化け物を倒す手段はない！！…違うか、アベル参謀」
モニターにも映し出されたオセロはスタージェーンにブラックボックスの転送を
促すかたわら、アベルにブラックボックスが何なのかを問い正した。アベルはオ
セロの決意の表情を黙って窺っていたが、観念したようにブラックボックスの真
相を語り始めた。
アベル「ああ、それは深遠なる闇の装甲に対するカウンターウイルスの試作品
だがジョゴスウイルスを元にしたそれは自己進化を繰り返し、いつ暴走
してもおかしくない危険な代物だ…いいのかそれでも？」
アベルはブラックボックスの中に封じられたカウンターウイルスの危険性を隠
さずに事細かく説明した。その上で念を押すアベルに対しオセロは危険を承知
の上でスタージェーンにブラックボックスを転送するするよう強い口調で怒鳴りつ
けた。
オセロ「だがだからこそ、これは奴にとって致命的な一打となるはずだ！毒を持
って毒を制す…こんな危険な任務は堅気には任せられんよ…さあスタ
ージェーンそれを早く！！」
オセロの強い決意の言葉を聞きスタージェーンの腹も決ったようだ。彼女は転
送装置のスイッチを起動するとブラックボックスをその中に放りこんだ。
スタージェーン「…おやっさん…わかったよ…落とし前は必ず返す。それがあたし
たち極道者のけじめってやつさね…メルヴィルの、ファミリーの
仇を頼んだよ…」
メルヴィル…孤児の彼女が兄貴分と慕っていた若頭の名前を口にした後、任務
を終えた彼女は憔悴したようにその場に倒れこもうとする。ルセロはその肩を持
つと労わるように声をかけた。
ルセロ「…スタージェーンとりあえずお前を懲罰房に連れて行くぞ」
スタージェーン「ああ…お願いだよ…あたしは疲れたからさ」
ルセロに連れられスタージェーンは艦橋を後にする。二人がいなくなったダーク
ランディール艦橋に重苦しい空気が流れた。それを変えたのは当事者のオセロの
言葉だった。
オセロ「…それでこそ我がファミリーだ…さあアベル参謀、作戦を始めてくれ」
危険を覚悟の上でそれでも威風堂々とした態度を崩さないオセロはアベルに
作戦の詳細説明を促す。 アベルは彼の覚悟の強さに感じ入った。内心、自分
の覚悟がいかに小さいものだったかを思い知り自らを恥じたのだ。そして決意を
固めるとアベルは仕官に命じ解析を終えたデータを自分のシステムに転送させる。
アベルはディスプレイに表示させると高速でスクロールさせながら最終チェックを
かけつつオセロに沈痛な思いで声をかける。
アベル「本来ならそれは私一人が残り開放させるはずだった。だが君たちに任せ
る以上、私も万全を期したいのでこれを受け取ってくれるかな。」
そう言うと、アベルは解析に回していたあるデータを通信を通してエクストリアのシ
ステムにダウンロードさせる。
オセロ「これは何だ…？」
訝しげにそのデータを見つめるオセロにアベルは詳細を説明する。
アベル「それは深遠なる闇が放つシャドウブレスの波動グラフだ。これをバリア
フィールド発生システムと同調させれば闇が放つ暗黒波動を数秒だけ
中和させる事ができるはずだ」
オセロ「…ふ、ありがてえな…じゃあ遠慮なくもらっておくぞ」
アベルの贈り物に納得したようにオセロが笑みを浮かべた。アベルはそんな彼
をみて拳を硬く握りうつむいた。
アベル「…それをどう使うかはあなた次第だ。無茶を…とはいえぬな…すまない。
だが君たちの行為を無駄にはしない…私も全力を賭してこの作戦を必
ず成し遂げて見せる！！！」
オセロの覚悟に敬意を払い礼をして見送るアベル…一連の会話をウォーレンは
黙って見つめていた。
ウォーレン「……」
ハル「…ウォーレン？」
作戦開始前、アベルは通信コンソールに歩み寄り、マイクを手に取るとレジスタ
ンス艦隊各乗組員に激励の声を送信する。
アベル「作戦の手順はテレパシーと各艦のメインフレームに収められた手順ファイ
ルを参考にし、各自即座に行動してほしい！！これは時間との戦いだ！！」
アベルの声に反応するように各艦のメインフレームに秘匿されていた作戦プランが
それぞれの戦艦のメインモニターに映し出される。その作戦に想定されていた仮想
敵は深遠なる闇ではなかったが、ジョディからのテレパシーによる補足により十分、
今回の最終作戦にも応用できる内容だとかそれぞれの艦長も理解した。
艦長「事前にこれを仕込んでいたとはさすがアベル殿先見の明がおありになる」
「しかしこれが効果があるのか」
「やってみなければわからん、もはや後がない我らにとってこれがおそらく最
後の希望だ」
各艦長が決断し表情を引き締める中、 モニターには時空の裂け目から尚も魔族
が湧き上がり、空は最早、暗雲すらほとんど見えず魔族の群れに覆い尽くされてい
る。そして空域に到着した魔族がそれぞれ編隊を組みレジスタンス艦隊に襲撃をか
けてきた！！
弾丸のような形態と化したSEEDヴァンスの大群がレジスタンス艦隊に特攻をしか
ける。猛烈な勢いで迫るSEEDヴァンスの大群にオペレーターの報告の声も緊迫の
度合いを増してきた。
オペレーター「敵尚も増加中、ミサイル状の魔族がこちらに向け攻撃を開始しまし
た！！」
さらにその後方からは 巨大な甲殻類の殻を持つ邪龍レウ・マドアが口を大きく
広げ雷光を帯びた吐息ライトニングブレスをレジスタンス艦隊に向け発射してきた。
先行してくるヴァンスを巻き添えに飲み込みながら雷撃の光が今にも空母にぶち
当たらんとするが、ルオンは冷静に号令をかけた。
ルオン「慌てるな！！バリアフィールド最大出力で展開ッ！」
ルオンの指令に従い、バリアフィールドが展開され、雷光もろともＳＥＥＤヴァンス
の特攻をぎりぎりのタイミングで防いでいく。ヴァンスが防壁にぶち当たり弾かれて
いくのを見たレウ・マドアは
「キシャアア！！」
と奇声を上げると両腕の鎌を大きく振り上げ急速に接近し、バリアフィールドを切り
裂こうとする。
ルオン「そして対応は臨機応変に！！迎撃を忘れるな！！」」
しかし鎌を振り下ろす前にルオンの号令を受けた艦隊の側面の砲塔が光を放ち甲
殻巨龍を打ち抜いていた。
オペレーター「敵主力、前衛部隊尚も接近！！接触まで後２０秒、主砲有効射程距
離に入ります！！」
ヴァンスの特攻は辛うじて防いだが間髪いれず敵の主力である前衛部隊数万体が
空を埋め尽くしながら迫ってくるのが補足された。その報告を受けピリピリと張り詰め
た緊張感が否応なくレジスタンス艦隊の艦橋を覆っていく。
ルオン「まずは相手の出鼻を挫く！全砲門一斉掃射撃て！！」
ルオンの号令と共にレジスタンス艦隊から一斉にまばゆい熱線が次々と放たれ敵の
前衛部隊の一部を穿ち抜いていく。幾多の爆発光が横に広がりながら夜空を瞬間白
く染め上げる。
オペレーター「敵前衛70％消滅を確認…しかしその後方にさらに敵増援です！！数
は第1陣の2倍強！！」
しかしオペレーターが報告するように後ろから次々と新たな魔族が飛翔し撃ち裂か
れた穴を埋めていった。倒しても倒してもさらに倍する増援を送り込む敵にルオンで
すら言葉を失った。
刻一刻と変化する戦況を脳内で整理しながらアベルはこの作戦の要であるランディ
ールの安否を問う。
アベル「ランディールの状況は！！」
オペレーター「敵に猛追を受けています。外部損傷も見受けられかなり危険な状況
です！！」
だが観測していたオペレーターからの悲痛な報告と、サブモニターに映し出された
魔族の大群に猛追を受け、損傷していく白銀の船を見てアベルの表情が思わず険
しくなる。
アベル「………」
眼前の敵の大群が迫る中、アベルはすぐに表情を元に戻すが艦長席の肘掛につ
いている両手は胸中に渦巻く焦燥感に微かに震えていた。横にいたハルがアベルの
様子を見て優しく声をかける。
ハル「大丈夫です。僕らの艦長や仲間達はこんな事では挫けたりしません！！今は
タイラー艦長を信じましょう」
アベルに向けるハルの微笑みは今までのどこか頼りない不安げな少年のそれでな
く、仲間に対する厚い信頼に裏打ちされた心からの親愛の想いが表情となって浮かび
上がったものだった。アベルはそれを見て仲間を思いやる男になったハルの成長を
嬉しく思うと同時に、ランディールで懸命に戦っているタイラー達に思いを寄せ呟いた。
アベル「……君は私より遥かに心が強くなったな…そう今は信じる他ない！！」
アベルの呟きにモニターの向こうで迎撃の指示を送っていたルオンが彼の逡巡の果
ての決意に同意するように強く頷き、自分達が今出来ることを指し示した。
ルオン「うむ、このファイナルミッションはお互いの信頼こそが成功への要となる！我
々が出来る事はただ一つ敵の注意を分散させる事！！」
その間にも敵前衛はさらに数を増大させたちまち複数のモニターの画面を占拠して
いく。先行していたさらに強大なＳＥＥＤヴィタスが先ほどと同じ様にバリアフィードに幾
度もぶち当たっていく。
ズガガガガガガガ！！！
あまりにも無謀と思える特攻だがそれが数万体も連続でぶち当たっては幾らバリア
フィールドといえど耐えられるはずがない。
「バリアフィールドの出力が下がっていきます。」
敵の特攻にバリアフィールドに多大な負荷がかかり既に、綻びがあちこちに見受け
られた。その綻びから蝙蝠のような魔族ジャズナガンや魔道師カオスソーサラーの表
皮を装甲化させたカオゾランが次々と潜入してくる。
オペレーター「バリア一部崩壊！！敵部隊接触します！！」
バリアフィールド内ではすでに至る所で迎撃戦が始まっていた。滞空するカオゾラン
の群れが重力球グラフトやフォイエの火球を戦艦にぶつけて来る。単体ならそれほど
の威力ではないが数十体が連続でフォイエやグラフトをぶつけて来ればいくら戦艦の
装甲といえどひしゃげてくる。そうなる前にルオンは矢継ぎ早に号令を飛ばした。
ルオン「崩壊したバリアフィールドの修復を急ぐと同時に砲雷撃戦用意！！対空砲撃
て！！」
対空砲で殺到する魔族を迎撃し、バリアフィールドの修復を急がせるレジスタンス艦隊
！！反撃の砲火やミサイルがまとわりつく魔族を撃墜していく。だが、バリアフィールド
が修復され安堵の息を継ぐ暇すら敵は与えなかった。
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ！！
上空の次元の境界線から300ｍ級のアワビに目玉がついたような形状の巨大魔族
ＨＩＶＥが複数接近降下してきたのだ。。
オペレーター「戦艦クラスの巨大魔族っ接近してきます！！」
補足したオペレーターが敵のあまりの大きさに絶望のあまり絶叫をあげた。
ＨＩＶＥは上甲板に無数の魔族を乗せ蝶形の黒い魔族モルフィスを引連れまるで艦砲
射撃のように無数のビームをバリアフィールドに叩きつけてきた。バリアフィールドの
綻びが再び拡大し始める。そのバリアの間隙にさらに無数の光条が殺到した。
バリアの傷口は次第に大きくなり幾つもの綻びを貫き豪雨のような無数の光条がレ
ジスタンス艦隊の右翼を焼いていく。
ドドドドドドドッキャーン
貫かれ爆発していく味方の艦。そしてその間隙を縫い無数の魔族達が容赦なくレジス
タンスの戦艦に攻撃を仕掛けてきた。膨大な数の対空砲火、ミサイル、ビーム、魔族
の魔法が交錯する。
艦長「ぐ・・・乗組員の退避を急がせろ！！」
仕官「隔壁を閉鎖し魔族の侵入を食い止めます！！」
艦橋が炎に包まれる。その火に包まれた戦艦をまるでハゲワシが屍に群がるように
魔族たちが取り付き装甲から破壊していく。
ドゴ！ドゴ！！ドゴ！！！
ミサイルのように装甲を突き破り内部へと突入したSEEDヴァンスから魔族が発生し、
殺戮活動を開始した。
巨大な両手に刃を持ったディルナズンが隔壁を刃で切り裂き小悪魔ドラキュルが配
線をかじり伝送系をショートさせ、翼を持つ蛇サーペントが人を次々と炎で燃やしてい
くなど、幾多の魔族が殺到し陵辱し噛み砕き引き裂いていく。そんな凄惨な地獄絵図
の光景が至る所で見られ轟沈していく船が煙を吹きながら地上へ落下していく。
ドオン！ドゴオオン！！ドカアアアアン！！！
間断なく続く閃光そして爆発、その中に幾人の乗組員が若き命を散らしていったか…
空母マリーチャー艦橋で悲痛な声で味方の損害報告を続けるオペレーターの悲痛な声
が空しく響いた。
オペレーター「６番艦、セバ・ファルサン中破、戦線離脱！！15番駆逐艦シッガ・ボマック
沈黙！！」
「迎撃対応しきれません！現在バリアフィールド出力２３％にまで低下！！
このまま攻撃を受けつづければ撃沈されるのも時間の問題です！！」
艦隊の戦艦が次々と撃沈もしくは大破する中、圧倒的な戦力を次々と繰り出してくる
闇の軍勢に、ルオンは口を噛むが絶望に打ちひしがれることなく気持ちを切り替え、味
方の損害を最小限にすべく指令を送っていた。
ルオン「各艦攻撃の手を緩めるな！！損傷した艦を上空に後退させる時間を稼ぐんだ！！
耐えろ！！後少し…ぎりぎりまで敵を引き付けるんだ！！」
ルオンの叱咤激励に答えるように、多くの戦艦がミサイルや主砲を打ち続ける。無数の
光条が黒い群れを切り刻み、数千躰の魔族を消滅させていく。中にはエンジン部から火
を噴きながら魔族に向かい徹底抗戦する戦艦もあったがルオンはその艦長を呼びつけ
怒声を浴びせた。
ルオン「先言った事が聞こえなかったか！！損傷した船はすぐに空にあがれっと！！」
艦長「まだ我が艦は戦えます！！」
と抗議する艦長にルオンはさらに怒声をあびせる。
ルオン「傷ついた船は艦隊の艦列運動を乱す！！正直足手まといださっさと上に上が
って損傷を直して来い！！」
ルオンの不器用ながらも味方を思う叫びに打たれ、損傷艦は上空に退避する。
傷つき上空に上っていくその艦をいたぶるように魔族の群れが後を追うが
ルオン「その艦に手を出すな！！傷つくものをいたぶる卑怯者が！！」
ルオンの苛烈な怒りの号令に艦隊も呼応し、敵を殲滅しながら損傷艦が脱出するのを
サポートしていく。
このように、全体のチームワークや武装の面ではこちらの方が有利だった。しかし、深
遠なる闇が開いた時空の穴からどんどんと増援が出てくる毎に状況は確実に悪化し、敵
はもはや数億の軍勢、打ち落とされても打ち落とされても後からぞろぞろと沸いてくる魔
族にレジスタンス艦隊は次第に劣勢を強いられていく。中破した味方艦が次々と戦線を
離脱していく中、損耗率がモニターに提示される。
オペレーター「味方艦隊の損耗率が30％を超えました！！敵に完全に包囲され逃げ場が
ありません！！」
オペレーターの悲痛な報告が告げるとおり、もはや戦況は危機的状況を迎えつつあった。
仲間の船が次々と魔族の激しい攻撃に晒され中破し戦線から離脱していく。
だがそれでもレジスタンスは諦めることなく内なる絶望と必死に戦い己を奮い立たせ絶
望の闇に立ち向かい戦った。
なぜそこまで戦えるのか？それは彼らに最後の希望が残されていたからだ。
ルオンそしてアベルは敵がある状態になる時をじっと待っていた。
オペレーター「敵がレーダーでの観測限界数値を超えました！！！」
レーダーを埋め尽くす白い光点、もはやセンサーすら敵の数の計測が不可能になった
その時、オペレーターが報告を伝える。
天に大地に覆い尽くす幾億の魔族、普通だったらあまりに絶望的な戦況に悲痛な叫び
をあげるだろう…だがオペレーターの声はまるでその状況を待っていたかのように明る
かった。それまで耐えるように押し黙ったまま苦戦を見つめていたアベルがついに立ち
上がる！！
アベル「ついに…機は熟した！！各自閃光弾を発射！！プランをファイナルミッションへ
移行後、全艦主砲最大出力で一斉掃射を開始する！！そして…」
アベルからの号令で全包囲に射出される照明弾。
微かに輝く照明弾の閃光と同時にランディール艦橋で必死にオペレートに従事していた
ジョディにアベルからの思念が流れ込んできた。
ジョディ「アベルさんからのテレパシーです！！ようやく作戦発動です！！」
ジョディからの報告にタイラーやミカも笑みを浮かべた。ついに待ち望んでいた瞬間が
訪れたのだ。
タイラー「やれやれようやくか！！待ちくたびれたぜ！！各員閃光ゴーグルを装着！！
対閃光防御後、スラスター全開！！そしてジョディ今度はお前の番だ！！」
艦長の支持に従いランディールの各部署で、いやレジスタンス艦隊全てで同じときに
それぞれ対閃光ゴーグルを装着し始めた。閃光ゴーグルを装着する寸前、タイラーと
ミカがジョディに信頼の篭った眼差しを送った。
ジョディ「はい！！了解です！！」
二人のいやここにはいないが多くの仲間達の期待がジョディの心にひしひしと伝わって
くる。その輝きに答えるべくジョディは目を静かに閉じ、手を組み合わせ心を集中させて
いく。
一方、有利に進める戦況を次元の境界面より闇の３元帥は薄笑いを浮かべ泰然と
眺めていた。
だがその中でグランソーサラーだけは胸中に奇妙な違和感を感じていた。何かたち
の悪い詐術に引っかかったような不快感を感じ、静かに呟く。
グランソーサラー「おかしい…敵の反撃が単調すぎる…」
グランソーサラーの不安な物言いに残りの二人は嗜めるように冷笑を浮かべ、再び
地上を見下ろすのみだ。
トラハイトアーハ「奴らがどんな策を労しようとこの数を相手に戦うなんて不可能ですわ
よ」
ダークブリンガー「杞憂なり…んむ！？」
しかしグランソーサラーの参謀としての直感は正しかった。バヤマーレ上空に放たれ
た照明弾が一斉にその輝きを解き放ったのだ！！
闇の３元帥「こ、これはあああ！！！！」
フィールド内で炸裂する猛烈な閃光は光に竦む闇の３元帥もろともその姿を投影して
いた次元の淵を飲み込んでいく。
バヤマーレ上空を覆う太陽の如き閃光…それがレジスタンスの反撃の狼煙だった。
ルオン「クルー諸君よくここまで耐え抜いた！！だが我慢もここまでだ！！全艦バリアフ
ィールド解除！！戦艦のエネルギーを主砲に回し最大出力で敵陣がいると思わ
れる方向に叩き込め！！」
ルオンがそれまで溜め込んだ怒りを開放するように大きく命じると残ったレジスタンス艦
隊全１８０隻が徹底的に烈火の如くレーザーの槍を魔族軍に向け連投していく。
ドオオンドオオオオオオオオン！！
光の中で視界を失い完全に混乱をきたした魔族軍に対抗する術はなかった。要塞型魔族
HIVEが次々と爆発したのを皮切りに爆発の嵐が魔族を撃墜していった。
タイラー「これが最後の勝負時だ…行くぞ！！」
タイラーは己の戦意を滾らせ全てを覆う閃光を見つめていた…
第４３話 −終−
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