スペースクルーザー ランディール
第44話 魂の祭り果て・・・
レジスタンス艦隊がバヤマーレ上空に放った照明弾が次々と誘爆し激しい閃光が
魔族とレジスタンス艦隊を飲み込んでいく。
深遠なる闇も強烈な光に包まれるがそれでも天空に暗黒の吐息を放出すること
を止めることはなかった。
深遠なる闇「小賢しき真似を…そのような偽りの光で我が大願をとめられると思っ
たのか愚かな童よ…いつまで足掻き続ける…滅びの安息はもうすぐ
そこだと言うのに」
抵抗する人類にそう告げる闇の口調は満足そうでいながらどこか疲れた絶望が
あった。
全てを焼き尽くすかのようなフラッシュ光よりも強烈な閃光が魔族のみならずレ
ジスタンス艦隊をも照らしていく。それは遮光用シールドで覆われたランディール
艦橋にいて遮光用グラスを着けたミカやジョディですら、たまらずまぶしそうに目を
細めるほどの強烈なものだった。
ミカ「眩しい！！でもこれって作戦が上手くいったって事だよね」
タイラー「よし！！ジョディ！！思念波をありったけ奴等に叩き込むんだ！！！」
その強烈な光にもひるまずタイラーはジョディに勝利の秘策を指示した！！
ジョディ！！「はい！！わかりました！！」
タイラーの指示を受けたジョディが静かに目を閉じ心の奥底に貯めていた精神
エネルギーを祈りへと変え一気に解き放った！！
ジョディ「闇を振り払いみんなを守る！！私の命にかえても！！」
ジョディの純真な思いは絶望に悲しみに震えていた多くの人の心に微かに届い
ていた。コロニーで震えていた人々が周囲を見渡し誰ともなく呟いた。
「…今誰かの声が聞こえなかったか？」
「ああ…みんなを守るって言っていたな」
「誰かわからないけど俺たちを守ってくれている人がいるんだな…」
「だとしたら私たちはここでただ震えていていいのか…」
横にいる人と囁きあいながら己の内面に問いかける人々。
彼女の思いは寝室で泣いているアレク達とそれを宥めるライラにも届く。
シンシア「ぐす…アレク君、グラント君今の声あの時のお姉さんの声だよね」
グラント「うん…あの人戦っているよ…今もあの闇と」
アレク「…なあ俺達にも出来ることってあるよな…きっとあるはずさ！！」
いつの間にかアレク達は泣くことをやめていた。そして何かを決意したように立
ち上がる。３人を見守っていたライラが彼らの心の変化に微笑みを浮かべるが、
それはどこか寂しさを感じさせる笑みだった。
ライラ（記憶データベースのバグじゃないかと思ったけどアレク君達にもきちんと
届いたのね…ジョディさんの思い。機械である私の心にも届いたジョデ
ィさんの思いの強さが少し羨ましいな…）
ライラは人の心の強さを少しだけ羨ましそうに見つめていたが気持ちを切り替
え子供達に提案する。
ライラ「アンドロイドである私が言うのも何だけど…みんなの応援する想い彼女に
伝えられたらいいんじゃないかと思うけど…どう？」
子供「うん！！」
ライラからの提案に子供達は同意し４人は静かに目を閉じ手を合わせるとジョ
ディを応援する想いを伝えるためを祈り始めた。
子供達の思念が届いたのかわからないが、怯えていた人達も誰に教えてもら
うわけでもなく自然に手を合わせ祈りをこめる。
その思念はランディールを中心に爆発的なエネルギーとして空間を伝播してい
く。巨大移民船アリサ３世の聖域に滞在し結界を構成する術式を組んでいた賢
者達も大きくなっていく思念の一端を感じとった。
賢者「各々方聞こえたな…彼女の純粋なる願いを…人々の優しく強い祈りを！！
こちらも思念を集中させ彼女を援護するのじゃ！！」
エスパー達「おお！！」
賢者達とエスパー集団はジョディの命の炎を輝かせるような強い思いに答える
べく、結界の一部を思念の増幅装置へと瞬時に変換し届いたエネルギーを人々
の祈りと合わせて何百倍にも増幅させ地上へと送り返した。
さまざまな角度からバヤマーレ上空を覆いつくす魔族に増幅された爆発的な
思念波が送り込まれ大混乱が生じていた。
魔族「ぐわあああ！！頭が！！頭が割れるように痛い！！！」
「うぐわあ！！消える！！体が消える！！！」
元々が闇の精神生命体である魔族にとって爆発的に増幅されたジョディ達の
清らかなる祈りは弱い魔族なら存在理由すら消失させるほどの一種の爆弾だ
った。強烈な光と思念波に晒された魔族がまるで爆風に飲み込まれるかのよう
に次々と消失していく。どうやらその消失は思念波だけの影響ではないように見
える。光が次第に薄れるにつれようやく遮光グラスで目が見える状態になったダ
ークランディール艦橋。目が見え次第、すぐにサブモニターで敵の情勢を確認し
たアベルが興奮して声をあげる。
アベル「私はこの時を待っていた、奴らが増援を出し編隊を組みなおすこの時を！！
これほどまでの大軍、編成を組みなおす時必ずそこに隙が生じる！！そ
のタイミングでの激しい閃光は魔族にとって目晦まし以上の効果があると
見た！！」
普段は見られないアベルの興奮した声にミラー博士は肩をすくめながらつぶや
いた。
ミラー「まったくよくこんな事が考え付くよね…閃光弾にエスパーや賢者のエフェス
の念を留めておくなんて力もりもりんの精神増幅作用を応用した新開発の
フォトンジェネレーターを組み込むのにどんなに苦労したことか」
ミラー博士が指摘するように清らか思念による精神攻撃と魔族にダメージを与え
る聖なるマジック、エフェスを応用した閃光弾…アベルはこれら対魔族用に用意さ
せておいた切り札を併用し、敵が編成に手間取っている絶妙なタイミングで切って
きたのだ。
アベル「魔族には有効な手段だろう、本来ならこれは惑星パルマから脱出する時
の闇に対する目晦ましとして用意させたものだが…ここまで効果があると
は嬉しい計算外だ。それより次のプランへ移行してほしい」
そして敵陣に混乱が生じたこの瞬間こそ敵中枢である深遠なる闇に切り込む好
機だとレジスタンス各メンバーに指示を送るアベル。彼の自信漲る指示がミラー博
士を初めとするレジスタンス各員を一気呵成に動かした。
ミラー「そうだね。メテオストライカー装填は終わったかい？ジェリコ君！」
ジェリコ「はい前よりかなり小さい直径１０ｍの残骸をすでに装填完了っす！いつでも
撃てます！！」
ジェリコからメテオストライカーが使用可能であることを確認したアベルが即断即決で
指示を送り返した。
アベル「魔族が光と思念波で動転している今こそ深遠なる闇を止める絶好の好機！！
メテオストライカーを深遠なる闇へ照準補正を開始してくれ！！」
この好機を逃せば間違いなくレジスタンスが、いやアルゴル人が築きあげた歴史そ
のものが滅びてしまう。その前にこのまま光が薄れていけば混乱効果は半減し生き残
った魔族が反撃を開始するだろう。そうなったらもうおしまいだった。
１秒１秒の判断が作戦の成否に関わるまさに時間との戦いだった。アベルの気迫の
篭った指令が通信を通じてアリサ3世の作戦統合司令室にいる各オペレーターにも伝
わった。作戦の進捗状況、ジェネレーターの状態などがモニターに投影され、ジェリコを
初めとする各オペレーターに先ほど以上の張り詰めた空気が流れる。最早絶対に失敗
は許されない状況下
士官「ジェネレーター始動」
「各コンデンサ電力供給開始」
「磁場安定」
「標準敵中枢部、射角修正よし！！」
システム手順をお互いに確認しあいながらあらゆるシステムが、正常に動作していく様
をオペレーター全員が固唾を呑んで見守っていた。
バリバリバリバリ！！
コンデンサに電荷が充電され、コロニーの残骸に放電が走る。誘導レール内に電力が
供給され、電界と磁界に垂直な方向に力場が生じさせた。
そして照準が再び眼下にいる深遠なる闇に合わせられる。
ジェリコ「タイミングを同期させるっす！！射撃用意…３、２、１…メテオドライバー発射！！」
閃光が覆う一角へ残骸が次々と打ち出された！！
シュゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ！！！！
消えていく……
同時刻、閃光に包まれ消失していく魔族達を見て闇は何が起こったのか信じられないと
いう面持ちで見つめていた。
深遠なる闇「何故だ…消えていく…このようなか細き光に我の愛しき童達が…暗黒の子達
が…消されていく。我を置いて光の中に消えていく…！！！」
半ば半狂乱になりながら消えていく魔族に手を伸ばす暗黒…その赤く濁った瞳には先ほ
どまで絶対的な余裕に満ちた悪意はなく、まるで子を失い悲しみにくれる母の激情が紅い
涙として浮かんでいた。
そして内に湧き上がる激情のため、空から来るメテオストライカーの攻撃を、深遠なる闇は
その腕に受けるまで気がつかなかったのだ。
ドシュゴオオオオ！！
残骸はその勢いのまま深遠なる闇の両手を触手を穿っていく！！半狂乱になっていた闇
にそれを回避する術はなかった。
深遠なる闇「……何！？」
攻撃を受けひしゃげた鋼鉄の腕を闇は呆然と見つめていた。そして深遠なる闇のシャドウブ
レスやディストーションで歪みかけていた時空間が元へと戻り消えていく。
天空を覆っていた蜂の巣状の構造体が消えていくのを見た“闇”の表情が静かに凍てつい
ていく…
深遠なる闇「…………」
あと少しで己が無限なる輪廻の苦しみから解放される幸福感はたかが羽虫の如きに潰され
…いや何度も己の解放を阻んだ人間達の姿が闇の回想に流れては消えていく。
ふ…ふふふ…
呆然としていた深遠なる闇が…哂った。血涙を流し絶望と憎悪と嫉妬に顔を歪ませながら
悲鳴じみた狂笑を浮かべる。それはあまりに陰惨で醜悪を極める魔性の笑みであると同時
に悲しみと絶望が浮かぶ慟哭の叫びでもあった。
深遠なる闇「ふ…ふふふふ！！まただ…またも人間の光が我が望みを閉ざす……」
闇の静かなる狂気の笑いが神気となって周囲の大気を裂いて歪めていく。世界を振るわせ
る笑いは次第に大きくなり音を超え、破滅の咆哮と化し空間そのものを振動させる。巻き込ま
れた魔族が膨れ上がり次々と風船のように破裂していくのが見えた。
魔族「お、お怒りをお静めください闇の御方さぐばあああ！！」
「こ、このままでは我等の身体ですぐべえうぼぁああ！！」
あまりの事態に魔族すら怯え、闇を止めに入るが…闇は艶然と狂える笑みを浮かべるのみ
だ。
深遠なる闇「誰もが我を孤独の檻に閉じ込め時間の彼方にうつろい消えていく…ふふふ…そう
だ……我を受け入れし暗黒の巫子ですら…このように…ふふふふ」
呆然と笑う闇の下で鋼鉄の触手が生き延びた魔を次々と見境なく食らっていく。
暴走した闇の狂気を目の当たりにしてタイラー達は神経に直接氷水を浴びせられるような悪
寒に襲われた。
タイラー「追い詰められてとうとう味方まで破壊し始めたのか！！」
危険などというレベルを超越する狂気がそこにあった。
ミカ「信じられない…おかしいよ…自分の家族をどうして…」
アレス「ありえねえぜ…あまりに馬鹿げているだろう。これって……」
アレスやミカもあまりのおぞましさに言葉を失う。
ジョディ「…でも何て悲しい笑いなんだろう。これじゃあまるで…」
しかし彼女がテレパシストだったからだろうか。ジョディだけは闇の笑いに狂気ではなく胸が
張り裂けそうな悲しみを感じとった…そして何故か彼女の脳裏にある言葉が思い出された。
「憎む心は本当は寂しんぼう」
自分を育ててくれたシンクレア院長の言葉を思い出した時、以前自分の前に自分の影と
シンクレア院長の姿を借りた事とあわせて、ジョディは“闇”の隠されていた“心”がわかった
ような気がした。
「……あなたが私の前に以前現れたのは本当は……」
ジョディの憐れむような視線が笑い狂う深遠なる闇を見つめていた。彼女の視線に気がつ
いたのかそれとも偶然か…闇は己の呪わしき運命に…全ての光に問いかける！！
深遠なる闇「ふふふ…大いなる光が……人間の光が！！！森羅万象全ての光が！！光
が、光が、光がああああ！！！！…我が大願を！！！我が愛を閉ざしてい
く！！！！！！許せぬよなあ…なあ、許せぬであろう…人よ…我が愛しく憎
い童達よ！！！…ふふふははははははははは！！！」
あまりにもおぞましい狂笑いは次第に憎悪の色合いを濃くし猛り立つ神気は大地をいや
惑星パルマ全体を揺るがし始めた…
ゴゴゴゴゴゴゴゴ…ゴドァアアアアアアアアアア！！
閃光に照らされた揺れる惑星は至る所で罅割れだし、裂け目から吹き上がるように溶岩
が湧き上がっていく。
そこは生きている人間は既に脱出した無人の荒野…パルマ原生生物のパ・ラッピーやビッ
グノーズが逃げ場所を探すがそれらも岩石蒸気に瞬く間に飲み込まれ命を落として行く…
ゴゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ！！！
数分もしないうちに惑星パルマは灼熱の大気に覆われる死の惑星と化していく。ルオン
は失われていく故郷を苦悶の表情で眺めていたが、気持ちを切り替えると声を張り上げ
全軍に撤退を命じた。
ルオン「今だ！！この空母と数隻をしんがりとし、各艦は大気圏外まで全速で撤退する！！」
残酷なようだが助けるべき人がいない以上もうこの星にこだわったとしても残れば滅び
の道しか残されていない。そして“闇”の大願も潰えた今ルオンはレジスタンス艦隊が無
事に宇宙へ撤退することだけに意識を集中させる。
残されたのは白と黒の双子の龍、ランディール２隻のみとなった。薄れていく光の中、ア
ベルはモニターに映るタイラー艦長に親しげに語りかける。
アベル「タイラー艦長…結局残ったのは我々だけとなったな」
タイラー「ああ…そうだな」
タイラーもただ頷くのみだ…目の前に広がるは白い光と赤い灼熱に包まれた死の世界
……だがそれでも彼らには遥か上空に守るべき多くの命がある。
アベル「…では、打ち合わせていた通り例の攻撃で決着をつける！！」
アベルは遥か上空を一度見上げた後、タイラーにも決断を促すように声をかけた。だ
が当のタイラーは肩をすくめ、この状況になってもいまだエンジン室に閉じこもったまま
のガンツを思うと思わず溜息をついた。
タイラー「…そっちの準備は万端なようだな…後はランディール号のエンジンなんだが…」
アベル「…ガンツがまだ渋っているようだな」
タイラーの落胆した表情を伺い今のガンツの行動を察したアベルも同じように肩をおと
し深いため息をついた。
タイラー「ああ…でももう時間がない、こうなったら艦長の指令コードで無理にでも」
いつまでも時間を掛けている訳にはいかなかった。閃光エフェス弾の強烈な光でその
数を減らしたとはいえ魔族はまだ雲霞の如く空を埋め尽くし漂っている。そして己が大願
を潰された深遠なる闇がどのような行動に出てくるか予想すら難しい中、早く敵の中枢を
叩かねばならなかった。焦りを覚えたタイラーがやむ終えず緊急時の艦長用の指令コー
ドをコンソールに入力しようとした時、突如スペーカーからガンツの怒鳴り声が木霊した。
ガンツ「…指令コードだけじゃあ、例えエンジンが臨界点を超えても求められるスピード
は出せねえってんだ！！」
タイラー「ガンツの親父…頼む！！もう時間がないんだ！！」
ガンツがいまだ怒っていると思ったタイラーが頭を下げエンジンを動かすよう懇願する。
だがガンツは決して怒ってなどいなかった。己の中の迷いを払拭した決断の苦笑いが
髭面の顔に浮かんでいた。
ガンツ「おおっと言いっこなしだ。こっちもしばらく考えていたんだ。炉心の音を聞いてな。
そしたらこいつがおいらがいじくらねえにも関わらず勝手に臨界点まで温度を
高めてきやがった……それで思ったんだ。こいつもみんなを守るために戦いた
がっているんだってな」
モニターに映し出されるエンジン室は幸い魔族の攻撃を受けていないようだ。普段は
薄暗く照明灯と反物質融合炉の仄かな光だけが当たりを照らしているはずのだが、今
その反物質融合炉はまるで心臓が脈打つように激しい駆動音を響かせ、金色に光り輝
いていた。
ギュオオオオオオオオオオ！！
スピーカーを通じて響く駆動音はまるでランディール号自体が命の灯火を守るため、
一緒に戦わせてくれと叫んでいるように耳を澄まして聞くガンツに、そしてタイラー達に
は感じ取れた。ランディールの願いに答えるべくタイラーがコンソールに手をかける。
タイラー「そうか…ランディールお前も一緒に戦いたいんだな…それじゃあ！！」
ガンツ「おう！！こいつらの最後の晴れ舞台！！びっしと決めてやってくれないかって
んだ！！」
ガンツからのお墨付きを受けたタイラーはクルー全員をモニターで見渡すとコンソール
にグンニグル発動指令コード0083を打ち込んでいく。
タイラー「ガンツ・・・そしてランディール号！！そしてみんな！！よし！！行くぞ！！！」
ミカ「お兄ちゃん行くよ！！自動追尾レーザー重力特異点に向け一斉発射。」
ジョディ「レーザー収束率50…70…90……100％！！」
まるでタイラー達の戦う意思に呼応するようにエンジンが唸りをあげた。ランディ―ル
の前方にバリアフィールドが集中、その中心に重力特異点を発生させていく。
タイラー「よーし！！！バーニア最大出力！」
全員「行け〜〜〜〜〜〜〜！！！！」
そして後ろのスラスターがこれまでになく光り輝くと勢いよく白銀の龍は駆け出した！！
グンニグルの槍が軍神の力を借り勢いよく深遠なる闇に向け放たれる！！
アベル「こちらも行くぞ！！」
そして黒き龍も反対側から同じく光のベールを纏い深遠なる闇に特攻する。白と黒、
相対するふたつの龍の槍がこのまま深遠なる闇を押しつぶすかに見えた！！
…しかし！！
深遠なる闇「我がその程度の攻撃でやられると思うたか……思うたかああああ！！！」
なんと、深遠なる闇は光の大海から１０００ｍを超える海獣…リバイアサンのように歪
んだ狂笑いを貼り付けた顔から上げ、
ドバアアアアアアアアアア！！
両肩を大きく動かすと、特攻する二色の刃を軽々と両手で受け止めたのだ！！
タイラー「なに！！」
バシュゥウウウウウウウ！！！
激しくぶつかり合う衝撃波とともに周囲を照らし続けていた烈光が一気に霧消し
消え去っていく。まるで深遠なる闇を閉じ込めていた光の牢獄がはじけ飛ぶよう
に…これにはタイラーもさすがに愕然とした。
アベル「この一撃までも…防がれたのか！！！」
アベルは敵のあまりの強大さに恐怖のあまり蒼白になっていく。
深遠なる闇「もう良い！！我が大願が消えた今！！愚かな童たちには母よりの罰
として永劫の苦しみを与えてやろう！！！報いを受けよ！雷光の雷
よ！！」
深遠なる闇は憎悪の表情そのままに、両手に赤い稲妻が集束させると凄まじい
放電となって二隻の光のヴェールに絡みつかせその雷光を圧縮し爆発的に放出し
たのだ。
ビシャアアアバリバリバリ！！！
凄まじい電磁嵐が押し出す力となって二隻の戦艦を遥か遠くに弾き飛ばした！！
全員「うわあああああああああああああ！？」
数Ｋｍ彼方まで強風に煽られる木の葉のように弾かれた白と黒のランディール号
！！衝撃が艦を強く揺さ振っていく！！
タイラー「…！！艦の姿勢を制御！！反転できるか！！ミカ！」
凄まじい衝撃に対し座席につかまって投げ出されそうになる体を支えたタイラーが
大きく声をあげた。
ミカ「今やっているけど！！でも衝撃が強すぎて！！」
危うくコンソールパネルにすがりついたミカがそれでも必死に逆噴射をかけ、体制を
立て直そうとするもあまりの衝撃の大きさに姿勢を戻すのさえ困難だった。
タイラー「頑張ってくれ！！そして艦を180度反転後、再度グンニグルの槍で奴を！！」
自分でも無茶な指令だと思いながらも怜悧な声で反撃命令を下すタイラーだが、
機関室のモニターが開きガンツが悲鳴じみた声をあげる
ガンツ「無茶いうな！！今ので炉心に相当がたが来ている！！せめて炉心を冷却
する時間をくれ！！」
ガンツの後ろでは赤く赤銅色に周囲を照らす対消滅炉と整備スタッフが必死にエ
ンジンの冷却化を試みる光景が映し出されさしものタイラーも言葉に詰まる。
タイラー「く、……おいおい」
焦りを静めようと艦橋の外を見上げたタイラーが言葉を失った。
シュゴオオオオオオオオオオオオ！！
見ると、深遠なる闇が再び瘴気とプラズマを口内に蓄え今にもシャドウブレスを
放たんとしている光景が目に飛び込んできたのだ。その斜線軸の先にあるのは
撤退していくレジスタンス艦隊と大気圏上空で待機している脱出船団！！
タイラー「シャドウブレスだと…本当に冗談はよしてくれよ…急いでくれガンツ！！」
闇がシャドウブレス放てば全てが終わる。不安と募る焦りを押さえ、タイラーはガン
ツに懇願する。
ガンツ「わかっているさ！！おいらに任せろ！！」
ガンツも艦長の信頼にこたえるべく修理を急がせる。
深遠なる闇「ふはははははは愛しき童たちよ、我が滅びの子守唄を聞き、永劫の
虚無の中我と同じ無限の孤独を知るがよい！！！！」
だがタイラー達の足掻きをあざ笑い、深遠なる闇は勝ち誇ったような哄笑を響か
せ顎門を大きく広げた！！
その時だった。闇に猛スピードで接近する機影をレーダーが捉えジョディが慌てて
報告する。
ジョディ「深遠なる闇に猛スピードで接近する艦あり、艦の識別コード戦艦エクストリ
アです！！」
モニターに浮かび上がるエクストリアの速度とその目標を見て、オセロが何をする
のかいやな予感を感じたタイラーが声を大きく、ジョディに指示した。
タイラー「ドン・オセロ、馬鹿なまねはよせ！！ジョディ！テレパシーを送ってくれ！！」
ジョディ「すでに送っています！！通信も試みていますが応答がありません！！」
ジョディは通信を何度も試みながらテレパシーを送るが一向に返事がない事に
悲痛な声をあげる。
一方エクストリア艦橋ではのオセロが眼前に迫り今にもシャドウブレスを放とうと
する深遠なる闇を不敵な笑みで見返していた。
オセロ「そう悪事が上手くはいかねえのが世間ってもんだろう…」
瘴気を集めることに精神を集中させていた深遠なる闇は小虫のようなエクストリ
アなど気に留める事無くシャドウブレスを吐き出した。
深遠なる闇「はははははははははははは滅べ！！滅んでしまうがいい！！」
だが射出される暗黒のプラズマを気にすることなくオセロの気迫が宿ったような
エクストリアはアベルから頂いたデータを元に対暗黒波動用バリアフィールドを展
開する。そして艦首にミラー博士がつけたドリルを展開しさらにスピードを上げシャ
ドウブレスもろともに巻き込んで特攻を仕掛けた！！
深遠なる闇「ははははくばあ！！……うぐぅううばあああ！！」
口内に戦艦エクストリアがドリルを回転させ突撃し、思わず闇の機械竜が仰け
反る。口に有り余る異物が特攻したことにより深遠なる闇の顔は大きくひしゃげ
首が曲がる。
ブィイイイイイイイイイン！！
ドリルが高速回転すると折れた牙が飛んで顎がねじ切られていく。
ドカアアアアアアン！！
そしてついに耐え切れなくなった深遠なる闇の頭部が大爆発をひきおこした。
そのときエクストリアの通信機器に異常が発生したのか回線が繋がった。
タイラー「やっと通じた！！オセロ大丈夫か！！」
通信に出たオセロは額から血を流しながらも不遜に笑おうとする。
オセロ「よぉ小僧…おまえ達とはうちのジェーンがいろいろ面倒かけたようだが
これからもし海賊家業続けていくんだったらジェーンが寂しくならないよ
う励ましてやってくれないか……」
まるで娘の行く末を案ずる父親の表情を浮かべるオセロ。
タイラーは自分を命を懸けて護った父オーレスンと同じ護るための覚悟を彼の
表情から感じ取った。
タイラー「…ドン・オセロ…あんた」
呆然とつぶやくタイラーに対しミカはもう２度と自分の目の前で人が殺されていく
のを見るのが耐えられなかった。焦る思いに切羽詰った表情でタイラーに詰め寄
るミカ…
ミカ「タイラーお兄ちゃん！！助けに行かないとあの人このままじゃ！！」
タイラー「…ミカ、彼の体を見るんだ…お前なら今の彼の状況がわかるはずだ」
だがタイラーはただ悲しそうな表情を浮かべミカを静かに制するとモニターに映
るオセロを指差す。指差されたモニターをよく見てミカは運命の残酷さに愕然とし
た。オセロや周りの人間の体には小さいながら黒いでこぼことした腫瘍ができて
いた。黒い腐敗液をばらまく腫瘍それはジョゴスウイルスの症状だったのだ。
ミカ「え？…あ、ああ…そんなおじちゃん…何でジョゴスウイルスに…」
震える声で呟くしかないミカ。ジョゴスウイルスを患い一度は生死の境をさ迷った
ミカだからこそわかる。オセロはもう助からないことを…
涙を浮かべ見つめることしか出来ないミカと真摯に彼の決意を受け止めようとす
るタイラーをオセロは好々爺の表情で見つめ優しく語り掛ける。
オセロ「…こいつは対深遠なる闇用に調整された特別製のアンチプログラムを組
み込んだウイルスだ。これで奴は一時的にだがその機能を失う。アベル
が開発していながら封印していたものをわしがかっぱらった。だが、こいつ
はすぐに変異し人間にも感染する。こいつが大気中に出る前にその槍が
衝突し生まれるブラックホールで全ての悪を飲み込んでくれねえか……」
タイラー「オセロ…わかった…あんたの意地に俺達が必ず応える…」
死期の迫ったオセロの穏やかな覚悟に立ち上がり敬礼を持って答えるタイラー。
オセロ「へ、言うじゃねえかじゃあ頼んだぜ……」
彼の真摯な表情を見てオセロは満足したように笑みを浮かべると通信を切った。
オセロ「すまねえな…みんなわしの死に様に巻き込んじまって」
オセロはモニターからエクストリア艦橋に顔を向けると自分と同じようにジョゴスウ
ィルスに犯された乗組員を見渡し申し訳なさそうに言うが
マフィア「いいですよ、ドン・オセロ、俺達はもう身寄りがない奴ばっかりでさ」
そう天涯孤独の孤児だった彼らの父親代わりになっていたのがオセロだった。ど
うせ身寄りのない身ならせめて親分の役に立ちたい。乗組員達は別に普段と変わ
ることなく親分に朗らかな笑顔を向けるのだ。オセロは舎弟達の思いやりに言葉を
詰まらせた。
深遠なる闇を再び犯し装甲を腐食させていくウイルス。先ほどのナノマシンと同じ
症状だがこちらの方が遥かに崩壊速度は早かった。深遠なる闇は体内のＧＳＣシ
ステムを起動させ修復を図るが崩壊と再生の速度は互角だった。
だがオセロファミリーの覚悟の特攻も深遠なる闇を止められるものではなかった。
深遠なる闇“例えこの鋼鉄の体が朽ちようと我が暗黒の吐息は止められぬ！！！”
闇は腐食する黒い血涙を流しながら頭部を再生させシャドウブレスを吐こうと瘴
気を集める。せっかくのオセロの覚悟が闇には通じていないことにアベルは憤懣
やるかたない思いでモニター内で再生していく深遠なる闇を見つめる事しか出来な
かった。
アベル「エクステリアの特攻だけでは頭部を壊せないのか…く、修復を急げ！！彼
等の決意を無駄にしてはならない！！」
自分達は何も出来ない不甲斐なさに忸怩たる思いを抱くアベル。
オペレーター「エクステリアの後ろから別の戦艦が突っ込んできます！！」
その時オペレーターが闇に接近するもう1機の艦影を捕らえ報告する。
アベル「何！？」
闇に接近するもう1機の艦影からエクストリアに通信が入った。
トニーＧ「オセロてめえにだけ死なれてたまるかよ！！」
たこ頭にごつい表情のトニーＧが頭に青筋を浮かべオセロに怒声を浴びせる。
オセロ「なんだ…トニーＧ…てめえは命の方が大事なんじゃねえのかよ…」
腐れ縁の男の意外な行動に唖然としていたオセロが肩をすくめうんざりした表情
で尋ねかけた。するとトニーＧは待っていたとばかりにふところから５６億メセタの借
用書を取り出すと底意地の悪そうな笑顔を浮かべ胸を逸らした。
トニーＧ「へ、てめえだけ地獄に逃れたんじゃ、５６億メセタのこの借用書が紙くずに
なっちまう。そうは問屋がおろさねえ…地獄まで追い立ててやるからよ！！」
オセロ「おめえ部下はどうした？」
よく見るとモニターにはトニーＧ以外乗組員は誰も乗っていなかった。艦の方向を決
めた後は自動操縦に切り替えたのだろう。オセロから尋ねられたトニーがふてくされ
た顔で答える。
トニーＧ「け、借金を回収するのに尻込みするような奴はこちらから願い下げっだ！！」
オセロ「ほう…追い出したねえ」
彼の命をもとわない金の亡者ぶりに心底呆れながらもオセロはまんざらでもない表
情で笑った。だがオセロはトニーＧがあえて金にこだわる事で部下達を呆れさせ危険
な特攻から逃したと察したのだ。
オセロ「まあいいさ、てめえもしつこさは本物だ……なら一緒に行こうじゃないか、地獄
へと」
オセロは後ろに迫るトニーＧの戦艦を待ちながら肩をすくめ指を深遠なる闇の顔へ
指し示す。その指にはしっかりと年代ものの葉巻が握られていた。
トニーＧ「おう、俺の部下は全部逃げ出して５６億は一人じめだが俺が命を懸けるんだ。
それだけじゃあとても足りねえ！！化け物！！てめえも道連れにしてやんよ
！！！」
トニーＧが最後の馬鹿笑いを響かせオセロの指す方向に惹かれるように戦艦をエクス
トリアの後方にそのままの勢いで突入させる！！
ドガガガガガ！！
押しつぶされていくエクストリア艦橋の中でオセロはゆったりと艦長席にもたれかかり
最後に服から写真を取り出すと穏やかな表情で語りかける。
オセロ「メルヴィルそしてファミリー達よ…待たせてすまなかったな。お前の待つ地獄へ
今から私も向かう…そしてスタージェーン、わし達の分まで生きて幸せになるん
だ…オセロファミリーの矜持を受け継ぐものとして…」
閃光が艦橋にいる全員を飲み込みながら最後に写真を照らした。そこに映っていた
のはにこやかな笑顔を浮かべるオセロとまだストリートギャングだった頃のメルヴィルを
初めとするファミリー達そしてまだ幼いスタージェーンの笑顔だった…
爆発の閃光はスタージェーンの入っていた懲罰房にも届く。光を紅い猛禽ティアーラ
と共に見上げたスタージェーンが寂しそうに問いかける。
スタージェーン「おやじ…その生き様で満足だったかい？」
ご主人様の悲しそうな顔を見てティアーラが嘴をなでる様に寄せる。
スタージェーン「ティアーラあたしを慰めてくれるのかい…ありがとうお前は本当に良い
子だよぅ」
彼女はその暖かさにまた涙をこぼすのだった。
ドッカゴオオオオオオオン！！
２艦は互いに衝突し互いにめり込み合いながら閃光と爆炎に包まれていく。
深遠なる闇“うぐあああああああああああああ！！！！”
灼熱の爆炎と衝撃波が深遠なる闇の頭部を完全に破砕した。
マフィア達の生き様をミカは涙をぼろぼろ零し眺めることしかできない。
ミカ「……お兄ちゃん……あたし達おじちゃん達に何かしてあげられることはできな
かったのかな……」
この戦いで何度も味わった無力感に肩を震わせ、涙で顔を濡らしていた。そんな
ミカの顔を大きな頼りがいのある腕が力強く拭った。
？？？「この馬鹿猫…涙でくしゃくしゃでせっかくの笑顔が台無しじゃねえか」
ミカ「むううううう…ぷはっ！！ミカ馬鹿猫じゃないもん！！」
顔から無理やり涙を拭われたミカが腕をどけると拭った相手に文句を言うミカ。そ
こに傷つきながらも優しげな笑みを浮かべるアレスがいた。
アレス「ミカ…あいつらはああやって…命を燃やしてまで俺達に道を作ってくれたん
だぜ」
よく見るとアレスの体には、無数の刺し傷や火傷の跡が見られた。ミカは慌てて駆
け寄ると心配そうにアレスを見つめる。
ミカ「アレスお兄ちゃん…大丈夫！！！痛くない？」
ラガン「大怪我ばおっちょるが大丈夫ズラよ。おらがレスタで回復させたずら保証する」
不安気なミカを安心させるようにアレスの横にひょっこりラガンが現れる。
ミカは安堵した。自分がひ弱なバイオモンスターだった時も彼の治療のおかげで無
事にこうして今まで生きることができたからだ。
ミカ「そう…でも…でもね…あたし達無力だよ…おじちゃん達どう思ったんだろう…」
だがミカは心の底から喜ぶことはできない…亡くなった人の想いは例えクローン技
術を駆使したとしても戻るかどうかわからないのだから……それは死の淵に立った
自分が感じた疑問だった。思い悩みまたも涙を零しそうになるミカの頭をアレスがそ
っと撫でる。
アレス「ミカ…そんな事はない、俺達はあいつらからいや多くの人達から託された思
いがある、その背負ってでも俺達は負ける訳にはいかないんだ！！そうだ
ろう艦長！！」
それはかつて復讐を果たすため人を殺めてきたアレスだからこそ背負わなければ
ならない重みだった。自分達には死んだ人の分まで生きて生きて生き抜かなければ
ならない。そのためにこんな所で闇になんか負けてはいられなかった。アレス、ミカ、
ジョディそれぞれ重い十字架を背負った者たちが生き残るための戦いに勝つため艦
長の命令を待っている。
ミカ、ジョディ「タイラー艦長！！」
ガンツ「…エンジン炉心ようやく冷却したぞ…後１回いけるはずだ！！艦長！！」
ガンツそしてランディール号もこの未来へつなぐための戦いを臨んでいた！！仲間
たちの想いを受け止めたタイラーが意を決して指令を下した！！
タイラー「…わかった！！これが最後の攻撃だ！！行こうランディール号！！！」
アベル「こちらも行くぞ！！」
みんなの想いが白竜の心臓たるエンジンがさらなる唸りを与えた。ランディ―ルの
前方にバリアフィールドが集中、その中心に重力特異点を発生させていく。
ミカ「お兄ちゃん今度こそ！！自動追尾レーザー重力特異点に向け一斉発射」
ジョディ「レーザー収束率50…70…90……100％です！！艦長！！」
タイラー「みんなこの船に力を貸してくれ！！！バーニア最大出力！」
白と黒の聖竜が光の軌跡を残しお互いに呼び合うように舞うように暗黒の機械竜の
周りを駆け巡る！！
全員「これで最後だ〜〜〜〜〜〜〜！！！！」
そして断罪の聖槍が光の衝撃を纏い“闇”の根源にその罪科の裁きを下すときが
来た！！黒と白の光のベールが激突し激しい光の明滅が苦悶する闇をを照らし出
す。
深遠なる闇“愚かな真似を！！！”
深遠なる闇は両手を再び翳すがタイラー達の悲しく強い思いが込められた一撃に
鋼鉄の両腕がバキバキと音をたてて砕かれていく。
深遠なる闇“こ…これわああああああああああああああ！！！”
やがてぶつかった中央部の重力特異点が重なり合い小さなブラックホールが誕生
する。空間が圧縮され深遠なる闇を中心に周りにいる幾億の魔族を吸い込み始め、
さらには黒と白の龍を交互に引き寄せる。
ブラックホールの重力に吸い込まれる“闇”が断血魔の叫びをあげた！
深遠なる闇“うぐあああああああああああ！！……我がこのような偽りの闇に閉じ
込められるというのか！！この深遠なる闇があああ！！逃さぬ！！
我が閉じ込められるというのなら我と共に永劫の牢獄へ汝らも参らね
ばならん！！”
闇は悲痛な叫びをあげ、生き残った触腕を伸ばし、脱出しようとしていた２隻のラ
ンディール号に絡みつかせ締め付けた。
ジョディ「大変です！！深遠なる闇が触手をランディール号とダークランディール号
に！！」
触手の絡みつく強さがあまりにも大きいためか白銀の装甲に皹が入り始める。衝
撃でビリビリと艦が揺れモニターにも次々と警告メッセージが映し出されていく。
アレス「ちっしつけえぞ！！」
深遠なる闇の執念深さにアレスは辟易するがタイラーは落ち着いた声で対応策を
指示した。
タイラー「副砲で触手を断ち切り、脱出する！！」
ジョディ・ミカ「了解！！」
ミカがコンソールに指を走らせ副砲を操作し絡みついた触手を片っ端から破壊して
いく。
ダークランディールにも触手は絡み付いていた。だがこちらにはランディールより
多くの触手が絡みつきダメージが大きく、ひび割れた装甲から触手が進入し侵食を
開始し始めていた…
アベル「ダークランディールの侵食率は！！脱出できるのか」
ハック「駄目だ！！エンジン部分を取り込まれた…残念ながら…この船は…」
アベルは艦の状況を確認するが艦の状況を映し出すモニターを見ていたハックは
残念そうに首を振る。ガンツが自分の息子同然に思っていた双子の戦艦。 その片
方がこのままでは沈む。いざその事態になった時ハルはガンツがどんなにつらいか
を思うと、やりきれない思いにかられる。
ハル「そんな…ガンツさんに何てお詫びすればいいのか…僕は…」
その時、ランディールのガンツから通信が入った。
ガンツ「ハル…も…いい…今・・す・・脱出艇でみんな・・脱出す・んだ」
ブラックホールの影響か、モニターや音声にはノイズが入っていたが、ガンツの顔
は悲しげに見えた。しかしダークランディールがもう助からないと覚悟したのだろうか
ガンツはハル達に脱出を促した。
アベル「だが、深遠なる闇が脱出艇を見逃すかどうか…」
すでに格納庫に乗組員のほとんどが集結したのをモニターで確認したアベルが脱出
手段を考えあぐねていたとき…
ハル「そうですけどこのままここに居たら…あれ…ウォーレンは？」
ふとハルはウォーレンが自分の傍にいない事に気がついた。
ルセロ「そういえば見なかったな」
スタージェーン「……ごめん、あたしも見ていないよ…」
みんなに確認するが誰もウォーレンがどこに行ったかを知る者はいなかった。
ハル「…まさか？」
その時ハルはいやな予感を感じてしまう。そして予感を証明するかのように艦内に
アナウンスが流れた。
ウォーレン「…艦内にいる皆さん聞いてください…」
アナウンスの声はウォーレンだった。その声の響きからはまるで死を覚悟するかの
ような悲壮な決意が感じられ、ハルは湧き上がる不安に彼にしては珍しく声を荒げ居
場所を確認する。
ハル「ウォーレン！？どこにいるの！！」
ウォーレン「現在私はダークランディール内のメインフレームに結合しています。触手
は私がダークランディールを操作して破壊します。その間に皆さんは逃げ
てください」
メインフレームに自分の回路を接続したウォーレンの姿がモニターに投影される。穏
やかな表情で答えるウォーレンが突然自分で残ると明確な意思表示を示したのだ。
こんな状況でなかったのならハルはウォーレンの意思の発露を喜んだのかもしれな
い。だがハルにはどうしてもウォーレンをここに置いて行く事は出来ない。ハルは今一
度ウォーレンがどうするのかを目尻に涙をため問いかける。
ハル「でも…それじゃあ…ウォーレンは！？」
ウォーレン「…残念ですがそちらに行く事はできません。私の身体も侵食され始めまし
た。…ですがこの方法が乗員が助かる最も確率の高い手段だと思われま
す」
だがウォーレンは錆のように彼の体を侵食し始めた暗黒瘴気をハル達に見せ付け
ると理路整然とした説明でもう手遅れである事を告げるのだった。
しかしハルにはそんな事などうでもよかった。両親がいなかった（そもそも存在すら
しない）ハルにとってウォーレンは手塩にかけて育てた息子であり、親友でもあり、時
に自分を守ってくれる父でもある家族のような大切な存在だった。そんな大切な家族
との突然の別離に少年は悲しみに耐え切れず、悲痛な声でウォーレンに命令する。
ハル「そんな…嫌だよ！！…ウォーレン、僕がマスター権限で命令する一緒に脱出
するんだ！！！」
だがマスターの命令にウォーレンは初めて明確な意思を持ってはねのける。
ウォーレン「マスター、私を思ってくれるマスターの思いを嬉しく思います。ですが、権
限を受け取るべきクラスターが故障しています。その命令は受け取れま
せん…」
否定の言葉の中にはマスターの事を案ずる優しさが含まれていた。それはハルも
頭では理解している。だがどうしても胸からあふれ出るこの悲しみを抑えることはで
きなかった。ハルは駄々をこねる子供のように泣き喚きながらウォーレンの映るモニ
ターにしがみつく。
ハル「嫌だ…嫌だよ！！…だって君は僕の初めての友達じゃないか…」
ハルとウォーレンのそれぞれの思いをアベル達は見続けていたがスタージェーン
が居てもたまらず、ハルに歩み寄るとモニターにしがみついたまま離そうとしないハ
ルの胸倉を思いっきり掴み怒鳴りつけたのだ。
スタージェーン「何を泣き言言っているんだい！！ウォーレンの覚悟を！！無駄に
しちまうつもりかい！！あんたは！！！さあとっとと格納庫に行く
よ」
スタージェーンも育ての親であるオセロとの悲しい別れをすませたばかり。生きて
ほしかったという思いはハルと同じだった。だがだからこそハルの甘えが許せなか
った。スタージェーンはハルの首根っこを強引に掴むと格納庫まで引っ張っていく。
ハル「う…ウォー…レン…うわああああああああああああああん！！」
スタージェーンに無理やり引っ張られながらハルはとめどもなく溢れる涙と鼻水を
拭こうともしないで、手を必死にモニターに伸ばし見えなくなるまで叫んでいた。ハッ
クやレジスタンスクルーがその後に続いていく。
アベル「百歳人生竟不全
哀君為客到黄泉
ウォーレン、君の覚悟に感謝する…脱出艇…発進準備してくれ！！」
最後まで残っていたアベルが艦長席から立ち上がるとモニターに映るウォーレン
に故郷での哀悼の詩を読み敬礼をするとその場を後にする。
ウォーレンは暗黒瘴気が侵食していくメインフレーム内で回線を通して砲塔システ
ムを操作し、深遠なる闇の触手を破壊していく。そして解放されたダークランディール
艦載機発射口から発進していく脱出艇とマスターが乗っているであろうグレートダロス
を穏やかな眼差しで見送った。…最後にダークランディールの対消滅エンジンに暴走
するよう司令コマンドを送る。
ウォーレン「どうやら脱出艇は無事ランディール号に到着したみたいですね。安心し
ました…これで私の任務は全て終了しました…後は…」
すべての仕事をやり終えたウォーレンは侵食されていく自分とダークランディールの
中枢を見つめながら安堵のため息をつく。
ゴオオオオオオオオオオオオオオ！！
対消滅エンジンが暴走し炉壁が軋む音がやけに大きく聞こえてくる。ウォーレンは
その音を聞きながら最後の時をひたすら待ち続けた。
その時…奇跡がおこった。
メインフレームが突然光輝くと、ウォーレンと接続した回路からウォーレンのデータを
どこかに転送し始めたのだ。
ウォーレン「！？……これは……そうですか…ダークランディールあなたの好意に感
謝します………」
ウォーレンは黒きランディールが命を賭しておこす奇跡を見つめるとその思いに感
謝するように光り輝くメインフレームに向け微笑んだ。微笑みに答えるようにメインフ
レームの輝やきはさらに増して行き、ついにメルトダウンした対消滅エンジンの激しい
爆光と共に深遠なる闇を明るく照らした。
深遠なる闇“我を忘却の彼方に置き去りにする気か…また…またああああああああ
あ！！……ふふふ…されど汝らは我が手から逃れること適わず決して
なああ！！！……”
ダークランディールの命を賭した最後の爆発に鋼鉄の身体を砕かれ、マイクロブラ
ックホールに無数の魔族ともども飲み込まれながら深遠なる闇は、無事脱出した脱
出艇とランディールに必死に再生させた手を伸ばすと最後に呪いの言葉を吐き掛け
る。そして原子単位になるまで圧縮されると重力の底に飲み込まれていった……
バヤマーレ時間ＡＭ９：００
…アルカディアとの戦いはこうして一応の終結を迎えた。
だが失った犠牲は決して少なくはなかった。
タイラー「そうか…ウォーレンが……」
ランディール艦橋の端で膝を抱えすすり泣くハルをタイラー達は痛ましげに見つめる
しかできなかった。
ハル「ウォーレン…ぐす…」
その時ジョディのコンソールに発信元がわからない通信が入った。
ジョディ「……これって、ハックさんちょっと来てもらえますか？」
プログラム用語の羅列が並んだ意味不明な通信、しかし彼女はこの通信から微
かな意思を感じ取り、ハックを呼び寄せる。
ハック「ああ…いいが、このデータはプログラムの構成データかな」
ジョディに代わりハックが席に座りモニターに移る。
通信のプロトコルを解析していく。解析を続けていく内にハックはこれがあるアン
ドロイドシリーズのＡＩプログラムの構造に酷似している事に気がつき、驚いてハル
に声をかけた。
ハック「ハル君……このデータ通信を見てくれないか…マイクロブラックホールの影
響で若干の乱れはあるがこのアルゴリズムは…きっと君に解析してもらい
たがっている」
ハックに呼びかけれたハルが顔を手で拭うとハックから指し示されたプログラム構
造を憔悴した表情で仕方なく解読していたがその構造にやがて驚愕のあまり思わ
ず声をあげた。
ハル「え？…このデータって……このアルゴリズムはウォーレンの人格データ…」
そうノイズで大分、データが損傷していたがそれは間違いなくウォーレンの人格デ
ータ…
いや心そのものだったのだ。
信じられないといった顔付きのハルに後ろからガンツが声をかけた。
ガンツ「そうか…こいつはダークランディールがおめえにウォーレンの心を届けた
にちげねえぜ」
ミカ「うん…きっとそうだよ…」
ガンツやミカの温かな激励の言葉がハルの心に染みいってくる。そして彼の目
の前にウォーレンの心が帰ってきたのだ。
ハル「ダークランディールが……ぐす…みんなありがとう……本当に…ありがとう…」
ハルは今度は嬉し涙を流しながら自分を励ましてくれたみんなに心から感謝した。
オハリオとアイナも彼らの微笑ましい光景を見つめ笑顔を浮かべる。だが艦橋の
外で闇を吸い込んだマイクロブラックホールに向きを変えると、いよいよこれから始
まる封印の儀式に対する重圧が彼らの表情を毅然としたものに変えていく。
オハリオ「…この戦いで多くの犠牲が出てしまった。けれど僕達はその思いに報い
るためにも立ち止まってはいられない。深遠なる闇の外装が砕かれ魔法
陣が消滅した今こそ封印の儀を行うその時だから！！」
タイラーは彼らの重責と不安に思いを寄せながらもあえて軽く手を振った。
タイラー「ああ！！頼んだぜ！！！」
そう彼らの重責を俺達全員で支えればいい。心にそう決めたタイラー達も真摯な
表情になる。彼らの思いを知ってか知らずか…二人はランディール内に急遽設け
られた魔法陣の中でお互いの顔を見つめあう。これが今生の別れであると覚悟し
つつ…
アイナ「では…始めましょう…オハリオ最後に…私の手を握ってください」
オハリオ「わかっているよ…」
二人は手を重ねあいお互いに複雑な術式を編成し手を通して交じらせ再編成
する。二人の手には数億の魔術文字が帯のように幾重にも重なり合いながら、
より高度な術式を形成していく。
アイナ「今こそ心をひとつに！！光ありて 影を成し、対ありて 対無く…」
アイナは手にした術式秘術の呪文を唱える事で八旁星の形に整えていく。
アイナの歌声にあわせ空から大地から光明が現れた。
いまや消え入る蝋燭の火の如くか細い赤い輝きの光……ポウム
神妙なる蒼い輝きの光……ムゥト
穏やかな緑の輝きの光……ディッツが飛んできて言霊に従い幻惑的に輝きな
がら八旁星の巨大な結界をさらに幾重にも重ね術式の効果を高めていく。
その幽玄の光景をジョディは静かに見つめていた。
ジョディ“これで長かった戦いもようやく終わるんだよね…父さん母さん…”
両親との絆がアルカディアのために失われてから幾年の月日が流れた。よう
やくその苦難の道のりが終わりを迎えるのだ。ほっと安堵するのも当然だった。
しかし、一瞬の安らかな時は脳の深淵より湧き上がるどす黒い“声”により再び
打ち砕かれた。
いつの前にジョディの心理光景の中に同じ姿をした影が立っていた。
影ジョディ“果たしてそれはどうかしら……いよいよあなたのあの時の決意が
試される時が来るわ……闇が来るわよ…私という影を通して…”
自分の影からの忠告をジョディはまるでこの事態を予感していたように静かな
がら強い意思の篭った言葉で返す。
ジョディ“……そう来るのね……でも私は負けない絶対に………”
それを嘲笑するようにもしくは励ますように影ジョディは複雑な笑みを浮かべる
と巨大な暗黒星雲に身を変じていく……影の中からあの時の巨大な紅い暗黒
星雲が溢れ出しジョディの小さな身体を飲み込もうとしていた。津波にように覆
おうとする闇をジョディは強い決意の眼差しで睨みかえし…そして飲み込まれて
いった。
俯いていたジョディが静かに笑い始める。
ジョディ「ふふ……」
タイラー「…ジョディ？」
それを訝しげに見つめるタイラー…だが彼女の笑い声は次第に狂気を孕ん
でいく。
ジョディ「ふふふふ…ふははははははははははははは！！！！我は帰還せ
り！！…我は帰還せり！！！！」
ジョディの表情が邪悪に歪み双眸が紅い光を帯び始めた。
ミカ「ジョディお姉ちゃん！？」
彼女の急激な変化に戸惑いを隠せないミカ達。だが術式の編成に集中して
いたアイナがジョディの異変に気がつき声を大に警告を発した！！
アイナ「！？…皆さん離れてください！！！今の彼女は深遠なる闇に同化さ
れています！！」
変化はそれだけではなかった。
アベル「それだけではない！！馬鹿な…ブラックホールに封じていたはずの
闇が重力の井戸を抜け出すなんて………」
再び暗雲が世界を覆いつくすとモニターに投影されるマイクロブラックホー
ルが大きく歪んでいく。凝集されていた重力波が光速限界を下回り内側に封
じられた光が堰を切ったように放射され始める。その光の中から灰色の女性
の手が現れブラックホールを内側から引き裂いていく。そして黒い卵から孵る
雛鳥のように中から甲殻類の爪にも似た大きな8対の翼を持ち、緑色の長髪
を炎のように棚引かせ６本の大きな角を持つ、灰色の成熟した女性体がマイ
クロブラックホールを突き破りこの世に再臨したのだ。
滅びへと向かう黄昏の天空にに現れた美しき女神。
だがそれは決して人々を救う慈愛の神ではない。
これまでのダークファルスや暗黒の機械竜を凌駕するほどの邪悪を孕む狂
える破壊の女神…
炎のように燃える紅い三つ目が静かに開きランディールを見下ろす。あまり
にも荘厳で忌まわしい神気が哄笑と共にその場にいる仲間全てを貫いた。
深遠なる闇“ふははははははああははははははははははははははは！！！！
滅ぼせ！！人を滅ぼせ！！命を滅ぼせ！！！そして我が無間の静
寂へと皆を誘おうぞ！！！”
狂気の絶叫と共に魂すら粉みじんにするような圧倒的な神気がジョディと後ろの
破滅の女神から放たれる。
アイナ「みなさん私が結界を展開します。その間に彼女の動きを！！」
危機を察したアイナとオハリオが術式を展開し、防御結界がランディールの展望
室から艦全体を覆っていく。
アイナ「ぐうう……アルゴルを護る全ての神と聖霊よ、我等をお守り下さい…ぐ」
だが深遠なる闇の神気はあまりも強大すぎた。２人の脳はあまりの負荷に限界
を超え灼熱する。身体の到るところから血が滲み出て…ポタリぽたりと…滴り落
ちていく。
しかしアイナとオハリオが防御したにも関らずジョディから放たれる凶悪過ぎる神
気にその場にいる全員が動きを封じられた。魂を粉みじんにするような衝撃にア
レスですら自分を失いかけ動けない。だがその中で辛うじて自分を保っている者
がいた。
……タイラー・オーレスン
彼は内からその本性を変化させたジョディをじっと見詰め彼女の名前を口にする。
タイラー「ジョディ……俺はお前を信じる…」
バヤマーレ時間 ＡＭ９：２０、世界の命運を決める最後の決断が下される…
第４４話 −終−
第４５話を読む
投稿の広場に戻る
トップページに戻る