スペースクルーザー ランディール
最終話「そして新たなる千年紀に向けて」
バヤマーレ時間 ＡＭ１０：００
二人の聖句に合わせるように光がラインを描き最終封印の巨大魔法陣が形
成され、闇本体を捉えるように大きく広がっていく。
深遠なる闇「滅び去れええええええええ！！！！！！」
闇はそれに眼も暮れず、己が極限にまで高まった憎悪を爆発へと変換され
ていく。凄まじい光と轟音が見るものの目を眩ませ、視界を白く覆う。エネルギ
ーの奔流が渦まき莫大な熱量がランディール号に怒涛のごとく押し寄せる！！
ゴゴゴゴゴゴ！！
核爆発のような押し寄せる地獄の業火にランディール艦橋が赤く染まる。誰
も、凄まじい憎悪の神気に動けない。
アイナとオハリオは今にもランディール号を焼き尽くさんとする怨念を動じず
静かに見つめながら呼吸を整える…。
恐怖がないというと嘘になる。封印を行うこと、それは彼等の死を意味していた。
まもなく滅びる惑星パルマの星霊の代わりとして、彼等は自らの生命力を代価
に捧げていたのだ。生命力と気力がみるみる吸い取られ…息が苦しく、体が重
い。手足の先から這い上がってくる悪寒が体全体に広がっていくのがわかる。
オハリオ「………。僕の体よ、持ってくれ！後…少しなんだ」
薄れゆく意識の中。もう二度と会うことない愛する子供達の姿が走馬灯のよう
にアイナ達の脳裏によぎった。
アイナ（出来ることなら、もう一度あの子達を抱きしめたかった）
オハリオ（けれどそれはもう叶わぬ願い…ならば）
アレク達やレジスタンスの一同と過ごしたほんの僅かだが暖かな記憶が彼等
に躊躇いを生じさせる。しかし彼等が生きるべきこれからの未来を思い起こし、
二人は迷いを振り払った。
アイナとオハリオ（せめてこれからの未来を生きるあの子のためにそしてこれか
ら生まれる小さな命のために我らの命を閃光と化し闇を封ず
る！！）
そしてアイナとオハリオは万感の思いを込め、手に光明“星霊紋”を輝かせると、
最後の言葉を解き放った！
ムゥト ディッツ ポウム！！！！
…強い光が閃いた。
赤、青、緑の３原色の光が一つとなって白い烈光となり、迫り来る憎悪の業火を
突き破ると、瞬く間に『闇』を飲み込み始めた！！
深遠なる闇「我が憎悪が光に消える！！！！我が幾星霜の刻を滅し、ようやく
無間の輪廻から解脱したというのに……嫌だ！無限の時の牢獄
に閉じ込められるなどいやだあああああ！！！」
深遠なる闇は光の氾濫の中をもがきながら、喚き散らし、必死に抵抗する。
…その光景を呆然と見ながら、ハッとアイナ達は自分達が生きていることに気が
ついた。
アイナ達は驚きを隠せないまま自身の心臓の鼓動を確認した。
アイナ「……生きている…」
オハリオ「僕たちは…生きている…まさか封陣が失敗したのか！！」
封印が失敗したと思い、がっくりと肩を落とすオハリオ。しかし、アイナがそれを
否定する。
アイナ「いいえ、違うわ、見て。今も闇は封じられつつある」
オハリオ「確かに…でもこの封陣は僕たちの命を全て捧げないと成功しないはず
なのに」
二人は自分達の生死に関わらず、発動した、最終封印を見ながら頭に疑問が
よぎった。
釈然としない様子の二人の疑門に、タイラーが含みのある笑みを浮かべ、答える。
タイラー「どうやら間に合ったようだな」
そう答えるタイラーの手にアイナ達と同じ封印の星霊の輝きがあった。いや、タイ
ラーだけではない、ジョディ、アレス、ミカ、アベル、スタージェーン…艦橋にいる全員
の手に淡い星霊の輝きがあった。
アイナ「まさか…あなた達は…」
彼等の手に輝く光に、唖然としながらも、思い当たる節があるのか責めるような眼
で見つめるアイナ達に対し、タイラーは肩をすくめて見せた。
タイラー「そう、そのまさかさ、」
…意味ありげに笑ってみせるタイラーに、思わず渋面になるアイナとオハリオ。
彼等の問いに答えたのは、復旧したモニターに映るラシュート地域で頑張っている賢
者達だった。賢者や術師達の手にもタイラーと同じような光があった。
長「アイナ殿、オハリオ殿、失礼ながら、君達の封印の負担を分散させる術式を６封
陣に書き換えさせて頂いた。」
既に邪龍は長老達の手により倒されていた。今は、封陣の維持に全力を傾けてい
る長の宥めるような言葉にアイナは鋭く反論する。
アイナ「長、なんと無謀な事を…下手をしたらどのような反作用がおこるかわからない
のですよ！！」
長「わし達を誰と心得ておる、書の深奥まで行った君達ほどではないが我らも長年に
渡りあの書を研究しておる身、」
強く食い下がるアイナ達を長老は威厳のある大きな声で嗜める。その一方で、横に
いた賢者の一人がアイナ達の立場をフォローしつつ二人に納得できるように要点をか
みくだき説明した。
賢者「君達の気持ちはよくわかる…しかし二人だけで死に急ぐ必要もなかろうて。我々
も生命力を少しづつ捧げることで誰一人犠牲を出すことなく闇を封印する封陣
を作ることなど造作も無い！！…と言いたいところじゃが」
賢者が説明を続けようとした矢先、横からミラー博士がひょこっと割り込んで、説明
を続けた。
ミラー「実際にこれの原案を考えたのはタイラー君なんだ」
この途方もないアイデアを思いついたのが賢者ではなくタイラーだと知り、何ともいえ
ない驚きの表情で彼を見つめなおすアイナ…
アイナ「そんな…タイラー提督が…」
アイナが思わず呟く声を耳にし、長老が再び口を開いた。
長「…わし等もこの案がテレパシーで送られた時には驚いたよ。 じゃが、老いて思考
が硬直した我等にはできない、若さゆえの発想なのだろうな」
ジョディのテレパシーを通じ、タイラーから突飛な案が提案された時を思い起こし、長
老は感慨深げに呟く。それを受けてミラー博士が一人納得したように頷いた。
ミラー「天才が何かを成し遂げるには９９％の努力、つまり知識を研究する時間が重要
だ。だが言い換えれば１％のひらめきが無ければ９９％の努力も無駄になるっ
てね」
孫ケン・ミラーに説明する言葉を奪われ悶々としていた祖父の賢者がすかさず突っ込
みを入れる。
賢者「こらケン！！わしがこれから言おうとした事を…まったく。……コホン。ともかく、
そのひらめきを考えたのはタイラー君、そして伝えてくれたのがジョディ君なの
じゃ」
ミラー家の賢者はそう言うと咳払いをし、改めてモニターの向こうにいる今回の功労者
を紹介した。
タイラー「…そう改めて言われるとなんか恥ずかしくなるぜ…」
賢者達からの惜しみなき賞嘆を受けるのが照れ臭いのか苦笑しながら頭を掻くタイラー。
アイナ、オハリオ「…」
アイナとオハリオはまだ納得しかねない様子で考え込むようにじっとタイラーを見つめた。
彼女達の戸惑いの視線にタイラーはフッと息を抜くといつもの飄然とした態度で優しく諭
した。
タイラー「何度もあんた達に言って来た事だけどもう一度、念押しさせてもらう。何もあんた
達が全てを背負い、命を捧げなくてもいいんだ。俺達があんた達の痛みを分か
ち合い、支えあえばどんな奇跡だっておこせると思うぜ！！」
オハリオ「だが、何も君達が自分の生命を削らなくても！！」
それでも何か言いたげなオハリオにそれまで二人の会話を黙って聴いていたジョディが眼
差しを和らげ慈愛に満ちた表情で語りかけてきた。
ジョディ「…今から私が預かった声を二人に届けます。どうかこの声に耳を傾けてください…」
ジョディは静かに眼を閉じると、緑色の淡い光に包まれる。彼女は自分に託された多くの
声をアイナ達にテレパシーを通して伝えた。
オハリオとアイナの脳裏に様々な人たちが手に光を翳し、彼女達の心に何かを伝えよう
と語りかけてくる。
ルオン「アイナ様！！私は初めてアイナ様の意に背きます！！あなた方は絶対に生きなけ
ればならない！我らには導き手がこれからも必要なのです！！」
ルオンは自らの主の命に背く苦悩を、表情に表しながら自らの胸につかえてきた思いを言
い放った。
これまで二人に傅く臣下の姿しか見ていなかったアイナにとって、それは初めて映る彼の
必死な告白だった。困惑する二人に今度はアレク達が涙ながらに訴える。
アレク「父ちゃん、母ちゃん二人だけで行っちゃうなんて卑怯だぞ！！」
グラント「民を護るために命をかけるのは貴族の責務です…でもそれ以前にあなた達は僕
らの両親だ！！僕たちをおいていかないでよ！！僕たちは母上と父上のためな
らどんな事だってします！！」
シンシア「もうこれ以上、家族が消えるなんていやだもの！！アイナ母様オハリオ父様、お
願いだから帰ってきて！！」
親を思慕する子供達の気持ちがアイナ達の心に痛いほど伝わってくる。
そこまで言い放ってわんわん泣きじゃくる子供達をあやすライラ…。
彼女はアイナ達の方を振り返ると、子供達を支えながら、臆することなく言った。
ライラ「アンドロイドの私が言うのもなんですけど、どうかこの子達の気持ちを感じ取ってくだ
さい！！今この子達に必要なのは両親の愛なんです！！」
アイナ様！オハリオ様頑張ってください！
俺達の力を使ってください！
闇になんて負けるな！！
私たちもあなた方と共にいる事を忘れないで！！
そしてコロニーにいる大勢の人々が光り輝く手を高く掲げながら、言葉を紡いでいく。胸に
響き渡るみんなの声にアイナの中に熱い想いが込み上げ思わず涙ぐんだ。
アイナ「アレク…グラント…シンシア…それにみんな…」
二人から何千万人に分散したとはいえ、最終封印の術式は全ての人間に負担をかけて
いた。手を高く掲げていたミカが息を荒くし、苦しそうな表情を浮かべる。少女の体の輪郭
がぼやけ、本来のピンク色の獣の姿と少女の姿が交互にうつろっている。それは人間の姿
を維持できないほどのミカの体力の低下を意味していた。
ミカ「はあ…はあ…。」
見ていられなくなったアレスが、強引にでも休ませようと彼女の肩に手をかけた。
アレス「ミカ、無茶はするな。俺の方が体力があるんだ。お前は少し休んでいろ！」
ミカ「…ミカこれくらいへっちゃらだもん！！アレスこそ、少し顔色青ざめてない！？」
それでもミカは強がり、アレスの懐からスッと立ち上がると、まだまだ余裕があると、意地
悪く笑ってみせる。
アレス「元からだ！！ほっとけ！…まったくおまえはよぅ」
ミカの皮肉に軽くぼやいたアレスが、ぷいっと顔を背けながらも、ミカの側に立ち彼女と一
緒に手を翳した。
ミカ「…でもアレスの気持ち嬉しいよ…一緒に頑張ろう、後もう少しだよ！！」
アレスの素っ気無い優しさがミカの心を支えてくれる。不思議なことにさきほどまで苦しか
った体調すら良くなったかのように姿勢を正すと、彼女は己が内に湧き上がる熱い思いを
光に変えた。
タイラー「さあ、俺達がこんだけお膳立てしたんだ！とびっきりの奇跡を見せてくれ！！」
タイラーの軽快な掛け声に込められた、アイナ達を応援する真摯な気持ちがオハリオ達
の頑なな決意を和らがせていく。オハリオがふっと笑い、アイナを優しく諭した。
オハリオ「アイナ、僕たちも素直になるべきだと思う。みんなの想いが僕らを支えてくれる
んだ！今はそれを甘んじて受けよう」
アイナ「…ありがとうございます。皆さんどうか、この封印のために力を貸してください！！」
そしてついに、みんなの優しさに折れたアイナが、素直に頭を下げ、助力を求めた。
その真摯な言葉に呼応するようにみんなの手に輝く光が勢いを増していく。
長「各々方、後少しだ！！祈りを高く掲げ、霊力をアイナ殿の下へ送るのじゃ！！」
高まった光が、ついに中枢核の崩壊に耐えられなくなった惑星パルマの爆発と連動して
闇を封縛していく。
ドッカアアアアアアアアン！
限界点を超えた光の勢いを制御し、統合する最後の聖句をアイナが高々と唱えた。
アイナ「深遠なる闇よ！！これで最後です！！…ファーラ、エストラ、ゴウラ、パイラ、レイラ、
マイラの双子、グラニル、パシフィル、フロージル、ミドガルよ古よりの盟約に従い、
大いなる光の力をもって我らに闇を封じる最後の印を与えたまえ！！…無限なる
律 今ここに再び印 結びなさん！！！」
手に星霊紋を輝かした全ての人々の想いが今、一つの光輝となって闇を覆い尽くす光の
結界と化した。
激しいがどこかに命の暖かさを感じさせる光輝が世界を包み込んでいく。それは崩壊する
世界に屯していた魔族の魂ごと全てを絡み取っていった。
シェイドミラージュ「！絶望の舞台の幕が閉じられてしまう！！いやよ私はもっともっともっと
悲劇が見たいのにぃいやああああああ！！」
イマジオメイジ「ありえぬ…奇跡などという下らぬ事象が我らを封じるなど理解できぬ！？」
カオスブリンガー「運命を操る力を有する我らがこのような力なき蟻ごときに！！！」
ギ・ル・ファーグ「至高なる我等、闇の眷属が封印されるなど…！！」
ダークライダー「御方様…無念でございます！！」
魔族達が絶叫をあげ、封印の光の中一体、一体、消えうせる中
闇は光に包まれ、定形を失い溶け崩れ始めながら、絶望的な悲鳴をあげた。
深遠なる闇「我が…WAREらだけＧＡ…時に取り残されル…永劫の牢獄…無音の輪廻…ｉｙａ
ｄａ…置いていくな…我を置いていくなあああａａａａａａ！！！」
そして定形を失った闇が一瞬のうちに何倍にも質量を増大させながら醜くおぞましい腐海
と化して脱出しようとする船団を道連れにしようと迫ってきた。
グロロロロロロ…
惑星パルマの爆発の衝撃波にのたうちひくつきながら尚も執拗に追いかけてくる闇がモニ
ターに映し出された。そのグロテスクな姿に改めて戦慄を覚えるアベル。
アベル「なんという奴だ！！封印の効果が発動しているにもかかわらず」
アイナ「大丈夫。もう闇は封印から逃れることはできません。これは最後の悪あがきです」
しかしアイナは冷静な眼差しで迫り来る闇を見返し言い放った。
スタージェーン「でも…やばくないかい！このままだとあたし達も巻き込まれるよ？」
だがスタージェーンが指摘するとおり、このままのスピードでは惑星の爆発と、闇の追撃に
巻き込まれるだろう。
それだけではない…ＧＳＣ効果が失われた特殊空間が不安定になり圧縮をはじめたのだ。
このままでは時空間ごと、船団は飲み込まれ消滅してしまう。
タイラー「全艦隊に通達してくれ！！スピードを最大船速以上に上げ、今すぐこの空間から
脱出せよと！！」
緊迫した状況の中、タイラーはモニターに映る、ルオンに向け、朗々とした声で指示を送る。
ルオン「りょ…了解した！！全艦最高巡航速度を超えさせろ！！この空間から離脱する！！」
ルオンはそれを受け、直ちに全船団に限界まで、スピードを上げさせ、圧縮崩壊していく空
間から離脱を命じた。
深遠なる闇「置いていkuなａａａａａ…ＩＫＵＮＡＡＡＡＡＡＡＡＡＡＡ！！！！！」
最早、悲痛なわめき声と化した闇の声を聴きながら、タイラーはその痛ましい姿を鎮痛な面
持ちで見つめていた。
ほんの少しだが闇と怒りと悲しみを共有していたタイラーは哀切を含んだ声で追いすがる深
遠なる闇に語りかける。
タイラー「あんたの悲しみ…今ならわかる気がする…でもその悲しみを苦しみを他者に押し付
けるなああああああーーーーーーーーー！！！」
しかし己の悲しみと憎悪を他者に押し付ける闇の暴虐に、タイラーはやりきれない思いを叫
び、ランディール号の艦首を反転させ、艦の全砲門を最大出力で解き放った！！
タイラー達の思いが篭った最大出力の砲撃が闇を穿ち、惑星の爆発の収束点へと押し込
めていく。次の瞬間、惑星爆発の業火と光が『闇』を捉えた。
体が熔けて行く。
融けていく…。
深遠なる闇「ＩＫＵ…N…ＡＡＡＡＡＡＡＡＡＡＡＡＡＡＡaaaaaaa…a…」
断血魔の叫びを上げ『闇』は怯えたように震えた後、まるでひとときの幻のごとく、烈光の中
に消えていった。
「うえええええええええええんん」
最後に翡翠色の髪の女の子が泣きじゃくる光景が蜃気楼のように浮かんだのは気のせい
だろうか…
ジョディは泡沫のように消え行く少女の幻に、労わるような優しい声を送った…
ジョディ「深遠なる闇…いつかあなたも救われるよ。一時的にあなたと意識を共有した私には
わかる。あなたも本当は心のどこかで理解しているはず、そうでなければあなたの
巨大すぎる力に私はとても対抗できなかった。千年の後に聖剣に宿る想いがあな
たを悲しみと絶望から解放してくれる事を願って…」
憎む心は本当は寂しん坊…
例え彼女の声が届くことがなくても、いつか『深遠なる闇』が無限の輪廻から本当の意味で
救われることをジョディは願わずにはおれなかった。
バヤマーレ時間ＡＭ１０：０５
脱出を急ぐ船団、しかしその直後から空間が崩壊していく。崩壊の速度は思った以上に速く、
おまけに重力震で脱出船団の船体に相当ガタが来ている。
空間の嵐に揺さぶられるランディール艦橋で船団ネットワークとリンクさせ、脱出経路をトレ
ースしていたアベルが叫んだ！
アベル「空間の出口だ。後少しで！！」
アベルが指示した位置に通常空間へと通じる裂け目が見えてきた。既に多く艦隊や脱出コロ
ニー郡がその彼方へと向かって脱出を無事終えている…
しかし全長６０ｋｍ近くのコロニーがしかも４００隻以上通り抜けるにはどうしても時間がかか
る。最後尾にいた『アリサ３世』を始め数隻がまだ抜け出せずにいた。
このままでは空間の崩壊に間に合わない…
艦長「駄目だ、裂け目の範囲が狭すぎる！コロニーのスピードでは逃れることは」
護衛艦の艦長が絶望に頭を抱える…そこにルオンの一喝が轟いた。
ルオン「諦めるな！！こんなところで死ぬなら！！私が殺す！！とにかく生き延びろーーーー
ー！！！」
ジェリコ「そんな無茶っすよ！！」
艦長「しかしどうやって！！」
アリサ3世のオペレーター室にいたジェリコを初め護衛艦隊の提督達が泣き言のように反論
するがミラー博士はそれに対する回答を既に用意していたのだ。
ケン「サテライトシステムを使う…紫の月と青の月を移動させ、スイングバイ（重力ターン）を
狙う。その後、月を待機させ、崩壊する時空の直前で爆発させ一時的に足止めする
間にアリサ３世を脱出させる…何壊れたらまた再建させればいいさ！」
ミラー博士は楽観的にそう告げると、即座に計画を実行に移した。
紫の月と青の月が博士が開発した引力制御装置を暴走させブラックホールを逆転させた
ような強烈な引力が二つの月の間で干渉しあい、アリサ３世とランディール号を押し出す推
進力となった。
タイラー「まったく…あの博士は無茶ばかりしてくれるぜ、よしランディール号、エンジン全開！！」
猛烈なＧに、思わず、タイラーがぼやくが、この最後のチャンスに掛けることした。数十秒
後、後ろで二つの月が爆発、その衝撃波がアリサ３世を押し出す、最大の推進力となった。
加速度的に崩壊する空間から裂け目を通じて通常空間へと艦首が到達した。
タイラー「もう少しだ。みんな耐えてくれ！」
ジョディ「空間が崩壊します！ 残り３秒……２秒……１秒！！」
空間崩壊による光で視界が染まり………
バヤマーレ時間ＡＭ１０：１０分
いや、外の空間は数十秒しか立っていないため前日のＰＭ７：００
４００隻の脱出コロニーと、護衛艦隊、そしてランディール号は無事帰還を果たしたのだ。
しかし通常空間に無事に帰還を果たしたものの彼等の顔に安堵感はなかった。
ＧＳＣ空間から脱出する時、人やデーターバンクは中であった記憶を全て忘れてしまう。
例えそれがどんな悲しいことでも…
スタージェーン「…あたし達、無事に脱出することができたようだね…でも何だろう。この
痛いほどの喪失感は…」
ハック「どうやらゲーベルトシュターケンサーキットが発動した後の記憶がなくなっちまった
みたいだな」
ハル「僕にもわからない…。データーバンクにもこの数分何があったか残っていないし…
でもこのコンピュータの中にウォーレンの心が宿っていることは理解できる…たぶ
ん、僕たちは生き残ったんだ」
胸に去来する喪失感…。
この戦いで成長したハルや元々強かに生きてきたスタージェーンはそれに耐える心の
強さを持っている。
だが、一般の人たちは何か大切なものを一瞬にして失った喪失感に果たして耐えられ
るだろうか…
ここはどこだ…
俺達生き延びたのか
でも家族が見えないけど
パパ…ママ…どこなの？
見ろよ…我等の母星パルマが跡形も無い…
私たちはどうすればいいの…
突然、知らない大型移民コロニーの船室に閉じ込められ訳がわからない人々は窓の
外に映る、惑星パルマの残滓であるアステロイドを眺め不安や戸惑いを浮かべている。
家を失い、家族を失い、故郷を失った人々の不安がやがてデモや暴動に発展するのは
時間の問題だった。
アイナとオハリオは不安のまじった人々のざわめきを厳しい表情で見つめていた。
その横で溜息交じりに見つめていたタイラーがアイナとオハリオに顔を向けて語りか
ける。
タイラー「アイナ、オハリオ、どうやらあんた達の出番のようだぜ！！」
アイナとオハリオは彼のタイラーの妙に屈託のない表情に眉を潜めるが、彼の目に
宿る確固とした意思の輝きから彼が自分達と同じ、記憶を失わなかった者と気づいた
のだ。
アイナ「あなた方は深遠なる闇との戦いの記憶が残っているみたいですね…」
タイラー「ああ…俺が一時的に深遠なる闇の器になっていたからか…悲しい記憶だが
この胸に疼く心の傷を俺は決して忘れない」
深遠なる闇との凄惨すぎる戦いを記憶に持つと言う共通項を得た彼等は互いに気
遣うように寂しく笑った。しかしその眼には悲しみの色が見える。
ジョディ「人は悲しみに打ちのめされても乗り越える強さがあると私は信じます」
…だがジョディは違った。深遠なる闇に取り込まれた時、多くの人々と交信できた事
が彼女の心に強さを与えていたのだ。テレパシーで見てきた人々の様々な思い…そ
して『闇』の心の弱さを見続けた彼女だからこそ人を信じるという言葉に説得力があ
った。
ジョディの本当の心の強さがアイナにはとても眩しく見える。自分も彼女のように本
当の意味で強くなろうとアイナは決意すると年頃の少女に戻りニコリと微笑んだ…。
アイナ「…そうですね。私もあなた達から大切な絆と強さを教えていただいたからこそ
あの奇跡を成し遂げることができたと思います。…あなた達と出会えて本当
によかった」
オハリオ「僕達も今も生きているのもきっとこれから彼らを導く使命を与えられたからだ。
残念ながらダークファルスを脱出船団から取り除く事は不可能だがこれから
は、這い蹲ってでも生き延び、幸せを妬む神のいないファンタシースターへ
辿り着いてみせる」
オハリオもアイナに支えるように寄り添い手を重ね合わせると、自身の言葉を肯定
するように力強く握り締めた。
二人の微笑ましい光景をひゅーと口笛を吹きながらも、タイラーは暖かい眼差しで
見つめながら、手を差し出した。
タイラー「応援しているぜ！！二人とも…」
アイナはキョトンとしていたが笑みを浮かべると力強く握手を握り返した。
アイナ「ありがとうございます…タイラー提督。さあ、みんなが待っています。行きましょ
うオハリオ」
オハリオ「ああ…」
そして、二人は踵を返すと、人々がざわめく方向へ真っ直ぐに顔を上げ落ち着いた
足取りで進んでいった。
モニター室で４人の微笑ましい姿をアベルも紅茶を飲みながら嬉しそうに見守って
いた。
アベル「ふふ…故人いわく、車来到山前必然有路，船到橋頭自然直もしも困難に突
き当たっても驚くことは無い、必ずや終いには解決する方法が見つかって克
服できる…か。さて…アルゴル人の選んだ未来を、かつての同胞達はどう見
るかな」
アルゴル人はこれからの苦難に強く立ち向かう姿を見せた。それなのにかつての
同胞は…アベルは振り返って深く溜息を付きながら宇宙を見上げていた。
アルゴル太陽系内のどこか、ステルス機能で隠された巨大宇宙要塞ノア内で次の
ような会話が交わされていた…
地球人「どうやらパルマのダークファルスが敗北したようだな」
「ふ、所詮、原始的な精神生命体に過ぎない彼らに期待などしてはおらぬ」
「だが惑星パルマが破壊された今、我等の計画は新たなる段階に移行する」
「アルゴルをこの手にする時は近い…ふふふふはははははははははは！！」
彼等、地球人は惑星パルマが消滅する光景を傲慢な神の視線で見下ろし笑って
いた。しかし全てを操る力を有しているはずの彼等は知らない…
ノアの中で彼等が制御したと思い込んでいる魔族の卑しげな視線…パンドラの箱の
中で封じ込めたと思い込んでいる魔王ダークファルスの嘲る視線…
彼等地球人を見下ろす女神の彫像の形をしたマザーブレインの冷たいカメラアイの
視線…
そして彼等地球人の心の中の影で『闇』が…『深遠なる闇』が嗤っていたこと
を…
深遠なる闇“ふふふ…人の愚かな欲望がある限り闇は再び求められる。そしていつの
輪廻か我は解放されるだろう。その時こそ我と共に全てが滅ぶ…
滅ぼせ…
人を滅ぼせ…
命を滅ぼせ…
万象の時を滅ぼしつくせ…”
不安にざわめく人々の前に立ちこれからの進路を落ち着いた表情で説明するアイ
ナ達を微笑ましげに見つめていたタイラー…。
もう彼等は大丈夫とその場を立ち去る彼の横からジョディが寄り添い、共に歩いてい
く。
ジョディ「行ってしまいましたね」
タイラー「ああ…さて俺達はこれからどうするべきか」
そう言って背中に手を回し暢気に自分達の未来について考えるタイラーにジョディ
が自分と彼の顔を見比べ思わず苦笑した。
ジョディ「お互い少し老けちゃったかな」
ジョディの言うとおり、二人は先日より１０歳ほど老け込んで見えた。
タイラー「ああ、生命力をかなり出し尽くしたからな。でもまだまだ、これからだろう」
そう言って、自分の腕をぐるぐる回しながら元気に笑ってみせるタイラー。両者は
お互いに顔を見合わせ笑いあった。
そこにラガンが咳を切って駆け込んできた。
ラガン「艦長！ ああちと邪魔だったずらか！？」
ラガンは顔を見合わせるタイラー達を凝視するとクスリと皺だらけの顔を歪ませ
笑う。タイラーとジョディはあたふたと赤面しながらうろたえた。
タイラー「ちょっと何を誤解しているんだ！！」
ジョディ「ラガンさん！！もう！！」
ラガン「まあ、それは置いといてどうやら、治療カプセルの客がお目覚めのようず
らよ」
ラガンは両者の慌てぶりをあえて無視して、報告を続ける。
タイラー「わかった」
その報を聞くと、タイラーはすぐに真顔に戻り、医療室へと歩き出した。
青い髪の青年は眼を覚ますと、頭をふらつかせベットから起き上がった。
ユーシス「う…ここは？」
自分の身に何がおきたかいまだわからず呆然とするユーシスに側にいたタイラ
ーが親しげに語りかけてきた。
タイラー「気がついたかい？ 俺はタイラー。宇宙海賊だ。俺はマザーブレインに
雁字搦めにされてる暮らしが嫌でパルマを抜け出したんだよ。
君達はガイラに閉じ込められていたんだろ。丁度近くを通りかかって良
かった。
君の仲間達を今再生装置にかけている。直に目覚めるだろう。」
あえてパルマでおきた激動を隠し嘘をつくタイラーをユーシスは不審げに見つめ
ていた。当然だ。宇宙海賊というアウトローが政府のエージェントである彼を助ける
など道理に合わない。
彼が警戒の視線を送るが、タイラーのまるで子供を見守るような温かな視線に毒
気を抜かれてしまった。タイラーはユーシスの戸惑いを受け、医療室のモニターに
惑星パルマ消滅の瞬間を写した映像を流した。
タイラー「それにしても酷い目にあったもんだね。ごらん、これがパルマの最後だ。
…、一つの星が死んだ。一体アルゴルはどうなっちゃうんだろうね。
今の俺には君に何て言って良いのかわからない」
ユーシス「…」
首都である第一惑星の消滅にがっくり肩を落とす、ユーシス。タイラーはそんな
彼を見やり、さらに重い事実を告げた。
タイラー「ニュースでは君達が マザーブレインを狂わせた犯人だと言っていたが、
君達には こんな事は 出来やしない。そうだろ？とりあえず パセオま
で送ってあげよう。君達の荷物は取り返しておいたよ」
語られた事態にユーシスは血の気を失いかけるが自分を見るタイラーの穏やか
な表情と労わるような口調に彼が本気で自分の事を心配しているのだと肌で感じ
た。
やっとユーシスは緊張を和らげると自分と仲間を助けてくれたタイラーの心遣い
に素直に頭を下げた。
ユーシス「ありがとうございます！！」
タイラーはユーシスの素直な謝辞に父のように顔をほころばせ、咄嗟に今思い
出したかのように彼にヒントを与える。
タイラー「あっ そうだ！君達デゾリスへ行ったかい？確かあそこにはマザーブレ
インが、最も苦手とする力を持った人物がいるという噂だ。案外そいつ
が犯人かもしれないよ！それじゃ！またいつか会おうな！ 」
そして再開を約束するとタイラーは振り返りざま、とびっきりの笑顔とサムズアッ
プサインを見せ、医療室を後にした。
部屋の外で、アベルが背を壁にもたれかけ待っていた。
彼は扉から出てきたタイラーに怜悧な表情で問いかける。
アベル「良いのか真相を言わなくても…」
アベルが言う真相…アルゴル太陽系がマザーブレインを通して、地球人そして
闇に破壊されようとしている事実
タイラー「彼らならきっと真相に辿り着くと思うぜ。きっとオコーナー総督やデゾリ
スにいるという、俺の先祖様の仲間だったルツが彼らを導いてくれる」
その問いにタイラーはあっけらかんと楽観的に答えた。
アベル「塞翁が馬か……艦長のその楽天的な思考が羨ましいよ、あまり無茶は
しないでくれたまえ」
タイラーのあまりの楽観振りにあきれ果て肩を竦めるアベル。
しかし彼はタイラーが無理をしている事を当に見透かしていた。言葉とは裏腹
に同情の眼差しで見るアベルにタイラーは苦笑すると、自分の今の心情を吐露
した。
タイラー「彼らが何を選択するかはわからない。でも俺達はもう、ダークファルス
と戦うだけの力も資格も残されてはいない。今アルゴルの命運は本当
のランディールの後継者である彼らに託された。けど彼らがマザーブ
レインを壊すなら、その後過酷な運命が待っていると思う。ならせめて
俺達がサポートすればいいだけさ」
タイラーは自らが抱えていた怒りを闇に付け込まれ、パルマ崩壊と多くの人が
亡くなる原因を作ってしまったことに責任を感じていた。
そして彼は、ユーシスにも自分と同じような暗い影を感じ取っていた。
彼がもし真相を知った時…彼がアルゴル太陽系に混乱をもたらす様な決断を
したとしても、誰かに責められないよう自分がサポートしよう…そうタイラーは心
に強く決めていた。
アベル「…あえてあの時間に何があったか聞かないでおこう…確かに、そうかも
な」
パルマでの記憶をなくしたアベルに、タイラーの胸中を本当の意味で理解する
ことはできない。だが長年のつきあいでタイラーが大きな決断をした事を察する
と後は何も言わず彼に付き従った。
タイラーにはアベルのそんな不器用な思いやりが有難かった。
そして元気を取り戻すと彼等は艦橋へと急ぐ。
タイラー「さあ、これからいろいろと忙しくなる！！まずはユーシス達をモタビアに
送り届けた後、宇宙船ノアの動向を監視しないとな！」
艦橋ではすでに仲間達がそれぞれの座席に座り艦長が来るのを待っていた。
ジョディ「艦長！！お待ちしておりました！」
ミカ「もう！遅いよ！タイラーお兄ちゃん！」
アレス「とっくの昔に全員揃っているのに艦長と参謀が遅刻とは気が緩んでいるぞ」
ジョディが笑顔で艦長を迎え、ミカとアレスが遅れてきたことに腹を立てていた。
タイラー「みんな、遅れてすまない。」
タイラーは素直に遅れてきたことを謝ると
二人とも呆れながら「しょうがないな」と許した。
そんなやり取りが終わりタイラーは艦長席に座ると艦橋前面に映る広大な宇宙
を見据える。
タイラー「じゃあさっそく始めよう！アルゴルの未来を護るために俺達は行く！！」
艦長の真摯な言葉に艦橋のそしてモニターに映る８０人の乗組員が力強く頷いた。
全ての計器がオールグリーンになり、発信準備が完了した。
ジョディ「コンディションオールグリーン！第1.第2エンジン圧力上昇」
ハル「トリムチェック終了したよ！」
エンジンの音が艦内に木霊する。
ガンツ「対慣性中和システム作動」
タイラー「目標第２惑星モタビアに向けて発進せよ！！」
宇宙戦艦ランディールは漆黒の宇宙に駆ける！アルゴルの未来に向けて！！
最終話 −終−
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