スペースクルーザー ランディール
第５話 安らぎそして悪夢
ーハルは5年前まで政府のロボット開発主任だった。若干14歳でありながら
代表作ウォーレンシリーズを初め、クーリータイプやバンタイプ
の改造で天才的な能力を発揮、そして最高傑作アーミーアイは特殊機能、
防御力共に無敵でありセキュリティポリスの切り札として採用された。
ハル「・・・あの頃の僕は自信に満ちていた。僕の作ったロボットが人々
の安全を守っているんだと聞くとそれが励みになって次々と新しい
アイデアが思い浮かぶんだよ。第3執政官イアムさんも僕の能力を
認めてくれて、有頂天になってより強いロボットの製作にとりかかったんだっけ。
だけど、あの時僕は見てしまった。見てはいけないものを」
闇の中に巨大な3つ目が浮かび上がる。それはこの世界全てを憎んでいる。
そんな瞳だった。
ハル「その下でイアムさんを初め政府の幹部が全員僕の方をみて
笑いながら手招いたんだ。
”闇の中にこい”って、
僕は恐ろしくなって必死で逃げ出した。
そして無性に悲しくなった。
僕の作ったロボットがあんな恐ろしい奴らの手先になっていたなんて。
僕は・・・僕はただ人々の平和を守りたかっただけなのに。」
薄いもやの中、彼は必死で逃げた。だが彼の目の前に
あの巨大な紅い3つ目が現れ彼の心に囁きかける。
”滅ぼせ、全てを滅ぼせ！！”
闇はゆっくりと彼を足元から飲みこみ始めた。ハルは恐怖のあまり
悲鳴をあげた。
ハル「う、うわああああああああああああ！！」
ウォーレン301「・・・スター、マスター、起きてください」
ウォーレン301がうめいていたハルを起こした。
ハル「夢・・・・・そうか、僕は君のメンテナンス中にだんだん
眠くなって・・・ははは、そうか夢だよね。」
全身の冷や汗を拭い散らばった工具類を片付けるハル。
ウォーレン301「体内のノルアドレナリン値が急激に高まっていたようなので
眠っているところ悪いとおもいつつマスターを起こしたのですが、」
ハル「ううん、感謝しているよ。ウォーレン、僕をおこして
くれてありがとう。じゃ、メンテナンスの続きにとりかかるよ。」
ウォーレンの頭部のカバーを開き彼のAIに新しいプログラムを書きこむハル
ウォーレンは不思議そうに彼に尋ねる。
「マスター、すでに私の戦闘プログラム及び通常生活モードあるいは
特殊機能制御システムは完璧でありこれ以上書き加えるのは
メモリーの無駄ではないかと思うのですが・・・」
彼のその疑問にハルはキーボードを叩きながら優しく答える。
「ウォーレン、これはね、君に心を与えるためのプログラムなんだ。」
ウォ−レン「心？」
ハル「そう、いくらスペックが高くてもそれを制御する心がなくちゃ
人と共存することなんて出来ない。僕はね、人の心を持った
アンドロイドを作ったケン・ミラー博士に憧れていたんだ。いつか
人と機械の共存できる世界を作りたい。・・・・もうこれ以上君らを
奴らの操り人形にさせたくないんだ！」
ウォーレン「マスター？」
ハル「あ、ごめんね。よしこれで情報処理速度は20％アップしたはずだよ。」
頭部のカバーをしめメンテナンスを終えゆっくりと椅子に腰掛けるハル。
その時、携帯電話が鳴った。ハルが出ると大音響の怒声が耳に飛び込んできた。
？？？「ばっかもーん、いつまで待たせやがるってんだ！今日は
午前5時からランディ−ルの整備作業があるっていってたろうが！
早くこんかい！！」
ハル「げ、もう5時30分！うわあ、急がなくっちゃ。ガンツ整備主任今から
そっちに向かいます。」
慌てて整備服に着替え眠気眼をこすりながら、整備ドッグに向かう
ハルであった。
ガンツ「どいつもこいつも近頃弛んでやがる。もっとビシっとしねえか！
ビシっと！！」
部下のだらしない態度にハンドスピーカーで一喝するガンツ、かなりの頑固親父である。
整備員「エンジン部分完全にいかれています。取り替えまでにはあと半日
かかるんじゃないかと。」
ガンツ「バカヤロ〜、おめえ、職人だっつぁら、こう素早く1時間で仕上げやがれってんだ！！」
ハル「そんなの無茶ですよ〜。」
ガンツ「無茶もへちまもねえ！！いいかぁ後1時間で仕上げられなかったら
おまえら今日飯抜きだからなあ！！」
それを聞いた整備員一同はうんざりした表情を浮かべながらも、部品の取り替えや、
傷ついた外装の修復をテキパキと行う。
タイラー「よう、あいかわらず元気にやっているな、おっさん」
整備室にやって来たタイラーはサイボーグの体を隠すように、カジュアル
な服装を身にまとっていた。
ガンツ「お、おめえ今日はそんなおめかししてひょっとしてアレかい。
彼女とデートってやつかい」
タイラー「そんなんじゃないよ。今日ミカのお買い物に付き合う約束をしているんだ。」
そういってとぼけた表情で上を見上げ頭を抑えるタイラー。
「本当は、今日はアベルの番だったんだが、あいつこの前の貸しをだしてきてな、
まあ今日は暇だったしこうやってバチっときめこんできたわけ。」
ガンツ「ほう、そりゃぁ大変だあな。それにしても今日はなんでい、こんな
油臭いところじゃあそんな服も台無しになるぜ。」
親父の皮肉にタイラーはフッと寂しげな微笑を浮かべ、
「心配になってきたんだよ、くそ親父が残してくれたランディールがな。」
ハンガーにもたれかかり、その下で修理されるランディールを優しげな表情で
見守る、タイラーとガンツ。
ガンツ「そうかい・・・・・・主人に心配してもらえるとはこいつは幸せ物
だな。タイロス中将からこいつの建造を頼まれた時には、正直求められる
性能を実現できるかどうか何日間も徹夜して考えて考えて考えて気絶しち
まったりしたこともあったがな。まあそんな苦労してできたこいつは
おいらにとってへそ曲がりな可愛い息子みてえなもんよ。」
作業用アームのダンパーの動く音が木霊する。ドック内は熱気で充満している。
そんな作業を溜息をつきながら見守る親父はフと部屋の壁に掲げてある
小さな写真を見上げた。その写真にはランディールが2機写っていた。
ガンツ「こいつにも本当は兄弟がいたんだがな。あの時政府軍が襲ってきさえ
しなければ！」
グッと奥歯をかみ締めるガンツ、彼にとって思い出したくない記憶なんだろう。
タイラーはガンツに優しく声をかけた。
「おっさん、おっさんの大事な息子の仇は俺とこいつ、ランディールが
かならず取ってやるからな！」
ガンツ「こんな若えヤツに励ましてもらうとはおいらも老けたもんだ。ははは」
そのとき、ドアの向こうで可愛い少女の声が響いた。
ミカ「おにいちゃ-ん、なにやってんのー。早くいこうよー。」
ガンツ「ほら小さいお姫様がおめえをお呼びだぜってんだ。さっさといきな」
タイラー「ああ、また来るよ。」
タイラーを見送った後で親父はふたたびハンドスピーカーを持ち
「そこ！なにもたもたチマチマやってやがる。テキパキやれっていってるだろうが！！」
タイラーに面倒事を押し付けたアベルは個室でディスプレイを睨んでいた。
映し出されるのはマザーブレインの全ネットワーク網の情報だった。
アベル「やはり・・・・既にマザーブレインは我が同胞の制御下ではなくなっていたか。
全システムの85％に極秘裏にアルカディアグループが侵食している
とは、思っていた以上に状況は悪化しつつあるという事か。」
苦虫を噛み潰したような表情で紅茶をすすり考えこむアベル。
「あの時の過ちを再び犯そうと言うのか、あれは、闇は我々が制御できる
代物ではないというのに・・・・・・・・」
同時刻バヤマーレ、アルカディアグループ総本部ビル屋上に1隻の宇宙艇が着陸
した。中から黒装束の一団が現れ、ビルの最下層に向かう。
「シャルルゴーニュ会長、ノアコンツェルンからヨハネ様がお越しですが。」
シェイド「いいわぁ、お通ししてさしあげなさーい。」
ドアが開き黒装束の一団はズカズカと部屋に入ってきた。
イアム「これはこれは、ヨハネ様に宇宙船ノアの皆様今日はいかがなさいましたか？」
ヨハネ「いいかげんいつまで待たせるつもりだ。裏切り者アベルの捜索を
君達にまかせて5年我々の我慢ももう限界だ！」
イアム「はあ、我々としても全力を持って捜索してはいるのですが、」
その時、電撃がアルカディアグループの幹部を襲った。一同苦痛の表情を
浮かべ、立ちすくむ。
ヨハネ「口答えは許さん。それに近頃君達は我々の知らないところで妙な
企てを起こしているようだが、マザーブレインを我々が管理している以上
勝手な真似は許さんぞ。我らが故郷素晴らしき青き星地球を滅ぼした
お前達には存分に働いてもらわなければ。アルゴル侵攻という目的の
ためにな。」
イアム「は、はいわかりました・・・・・・。」
ヨハネ「逆らおうとしても無駄だぞ。我らは既にお前達を制御するパンドラの
箱をもっているのだからな！！」
そういうと彼らは部屋を出て行った。
後に残された6人の幹部達、だが彼らはくくくと笑い声をあげる。
シェイド「可哀想な坊や達・・・自分が神になったとでも思いこんでいる
かしら。」
ロウ「だとしたら愚かなことよ、お前達の繁栄もまたマザーブレインの管理
の上になりたっているというに。」
イマ「うひゃははははははは、ワシの分身どもに監視されているとも気づかず
にのう。」
ライダ「ふっ、アレぐらいの電撃、我々にはどうって事ないがな、哀れな」
ファーグ「既にマザーブレインは御方様の意識の元にあるというのに。」
イアム「我が兄弟も酔狂な真似を、閉じ込められたふりをして彼らを破滅
に導こうとは面白いことを考えていますね。ふふふふ」
全員「あははははははははははは」
闇の哄笑が暗き部屋に響き渡った。
タイラー達は商業コロニーに来ていた。
ミカ「ねえ、これ買おうよ！この最新式のバーチャルハード（バーチャ君1284）
ねえいいでしょう。」
きれいにおめかししたミカ（猫耳は帽子の中に隠している。）は次々と最新式
のおもちゃや、可愛い洋服をつぎつぎ買いあさる。
タイラーがなかば呆れながら心配そうに尋ねる
「おいおい、あんまり買いすぎるとそのうちお小遣いがなくなちゃうぞ。」
ミカ「ミカ、ちゃーんと計算しているもん。もう子供じゃないから」
「・・・・・・ほう、その結果がこれってかい」
よく見ると、後ろでたくさんの荷物を抱えたアレスがヘトヘトになりながら
歩いてきた。
アレス「ちゃんと計算しているにしてはこの荷物どうみったてお前の
小遣い3ヶ月分じゃねえか！！足し算から学びなおしやがれ！！」
ミカ「べーだ！そういうアレスなんて計算のけの字もない脳みそ筋肉
男じゃないの！」
アレス「人の気にしていることをごちゃごちゃと、許さん。待てー！！」
ミカ「捕まえられるなら捕まえてごらんあっかんベーだ。」
持っていた品物をそこいらに放り投げ、ミカを追いかけるアレスを
呆れながら見守るタイラーとジョディ。
タイラー「よくもまあ、毎日毎日同じ事繰り返すよな。あいつら。」
ジョディ「でもアレスああみえてちゃんと手加減していますよ。
ミカもそれがわかっているからからかえる。それに友達のいないミカにとって
アレスがどんなに頼りになっているか。」
タイラー「そうだな」
お昼時タイラー御一行は近くのレストランで食事を取っていた。
ミカ「ハンバーグ☆ハンバーグ☆今日はあたしの大好きなハンバーグ☆」
アレス「はしゃぐな！みっともねえ」
ミカ「いいでしょう！大好きなんだから！」
横でがつがつやっている二人を置いてタイラーとジョディはＴＶを見ていた。
ＴＶには第3執政官イアムが演説を行なっていた。
イアム「であるからして、私は人民によるクリーンな政治を皆様に保証します。
皆さんが私を選んでくれたからには皆様に夢のような理想郷即ち、アルカディアを
提供することを約束したいと思います。」
イアムは満面の拍手の元、子供から花束を受け取り、にこやかに笑みを
浮かべ車の中に引き上げる。
タイラー「ふん、偽善者が・・・・」
タイラーは小声で呟く。
ニュースはまだ続く。
ナレーター「ええ、第3執政官イアム氏による素晴らしいスピーチをお送りしました。
氏の今後の政治手腕に期待します。続きまして、今日政府はモタビアで近年発生して
いたバイオハザードが終息したことを発表しました。」
ミカ「え！？」
アレスとステーキの取り合いをしていたミカが動きを止めＴＶに釘付けになる。
ナレーター「バイオモンスターは全て派遣されたセキュリティシステムにより
撲滅されたとのことです。いやー良かったですね。」
周囲で歓声が上がる中ミカは真っ青な表情になる。
ミカ「そ、そんな・・・・・ネイお姉ちゃんは・・・・死んだの！？嘘！嘘よ！」
ミカの目の光彩が狭まり前身びくびく震わせる。気付いたタイラーがミカに近寄ると
ミカは大声で泣き叫んだ。
「ネイお姉ちゃーん！！」
そしてそのまま倒れこんだのだ。
タイラー「ミカー！！」
タイラー達は倒れたミカに駆け寄る。ミカは全身を震わせ、呼吸も荒くなっていた。
アレス「おい、どうしちっまたんだよう！ミカは！！」
ジョディ「いけない、艦長、これは免疫拒絶反応です！」
急いでタイラーはホテルに戻り同行していた医師ラガンにミカを診察
してもらった。
ラガン「わしんところに早く運んでくれたのが幸いだったずら。抗免疫抑制剤が効いて
くれたずらよ。だども、このまんまミカちゃんが拒絶反応繰り返したら命にかかわってくるずら。」
アレス「先生！！なんとか、ならねえのか！！」
ラガン「バイオ生物の体は案外脆いものずら、けれんども、わしも頑張って
治療をこころみるずら」
治療がおわりすやすやと寝息をたてるミカ、アレスはそれを見るとやるせなくなり外へと飛び出した。
「1234・・1235・・1236・・1237・・1238！！」
外で必死に斧の練習を行なうアレスにタイラーが近付く。
「アレス、元気だしな！とりあえず、近くに酒場がある。一緒に行かないか」
アレスはそれをきくとタイラーの胸倉を掴み
「タイラー、おめえミカの事が心配じゃねえのか！！」
だがタイラーはじっとアレスを見て
「俺達が残って何ができる！！今ミカには休息が必要なんだ。うるさい俺達が
できることはミカの眠りを邪魔しないことそれだけだ・・・・。」
アレス「タイラー・・・・・・わかった。」
酒場では大勢の荒くれどもが飲めや食えやの大騒ぎをおこしていた。その
片隅でタイラーとアレスは静かに酒を酌み交わしている。
と、そこにごつい顔の男が手首を鳴らしながら近付いた。
「よう、今日ここは俺ら宇宙海賊スタージェーン組の貸しきりなんだよぅ！
出てイってくんな！！」
今日のアレスは酒に酔いすっかりできちまっていた。アレスは閉口一番、
男のわき腹にきついパンチをお見舞いする。
「このやろー！！」
まわりのごろつきがアレスに向かい殴りかかる。するとタイラーが巧みな
フットワークで連打の嵐をお見舞いした。
「今日の俺達は不機嫌なんだ！！手加減できねえから悪くおもうな！」
酒場中のごろつき相手に乱闘が開始された。
ジョディは幼い頃の夢を見ていた。
平和だった家族の生活、だがそれは突然破られた。ドアを破り
黒いライトサーベルをもった銀髪の青年が彼女の父親を打ちそして
連れ去っていく。幼い彼女は泣きながら止める母の言うことも効かず、
父の後を追ったが、彼女の前から父の姿はいずことなく消えた。
「父さん！！」ガバっと起きるジョディの目から涙が一筋浮かんだ。
「ジョディお姉ちゃん・・・・・」ふと見ると枕をだいたミカが彼女
の部屋に来ていた。
「どうしたの？ミカちゃん」
その優しい声を聞きミカはたまらず彼女の胸に飛び込み泣き始めた。
「え、えぐ、ネイお姉ちゃんが、ネイお姉ちゃんが・・・・・」
ジョディはどうしていいのか分からず、取り合えず事情を聞くことにした。
ミカ「えぐ、ミカね、バイオドームで産まれたの。そこにはあたしの姉妹
がたくさんいて、なかでもネイお姉ちゃんはあたしに優しくしてくれたの
・・・・でもある日へんな爺さんがきて大勢のお姉ちゃんたちを廃棄処分
っていって殺したの、そして、ネイお姉ちゃんも殺されようとした時、
変な銀色に輝くおばけがでてきてお姉ちゃんの中に入っていったの、
そしたら・・・そしたら・・えぐ、お姉ちゃん急に怖くなって、ドーム
にいたおじさんやおばさんを殺して・・・・・でもね、あたしだけは
助けてくれたの・・・・ホントだよ・・そのネイお姉ちゃんが・・・・・・・う、
うわあああああああああああああああああああああ」
大声をあげ泣き叫ぶミカを抱きながら彼女は無意識に呟いた。
「誰か私達の悪夢をおわらせて・・・・・・・・」
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