スペースクルーザー ランディール
第６話 意識の残影
それはアルゴル太陽系のネットワークという情報の海に漂う
意識の残影だったのかもしれない。
裏稼業で盗聴やハッキングを行ない、マザーブレインやアルカディア
グループの陰謀を独自に追いつづける情報屋ナイトクロウ、彼は危ない橋
を幾度と無く渡りながら、貴重な情報を反マザーブレイン組織や
宇宙海賊タイラー達にリークしてきた。
その彼がたまたま開いた正体不明の情報データーには意味不明の
乱数表と共に
＜ジョディ、ジョディ、ジョディ、ジョディ、ジョディ、ジョディ、
ジョディ、ジョディ、ジョディ、ジョディ、ジョディ、ジョディ、ジョディ、ジョデ＞
という言葉がまるで呪文のように繰り返し書かれていたのだ。
ナイトクロウ「正直、電波系のイカレタヤローの悪戯とも思ったが、
何か引っかかるものがあってよー。乱数表をいろいろ調べていくうちに
とんでもねえ事実がわかったて訳だ、これが」
ディスプレイの向こうのナイトクロウは頭を掻きながらぼやいた。
別のディスプレイに映る金髪のおしとやかな少女と黒髪の活発そうな
青年はナイトクロウから送られてきたデーターを驚愕の眼差しで見つめている。
そこに記された情報は政府軍の打ち上げた軍事衛星の資料だった。
秘匿レベルはＳクラス、つまり政府の中でも限られた者しか見られない
極秘情報、それがなぜ、一般のネットワークに紛れ込んでいるのか？
電子会議をランディールのブリッジから聞いていたアベルは呟く。
「無中生有ーありもしない物で我々を撹乱するにしては情報が
具体的ではない、かといって単純な罠にしてはもう少しひねりがあっても
いいはずだが、この繰り返される言葉に発信者の意図が隠されているとすれば、
やはり彼女の力が狙いなのか・・・・」アベルはオペレーター席の
ジョディを見つめながら発信者の意図を推測しかねていた。
押し黙る彼女にクルー達はかける言葉がみつからなかった。
だが、彼女は意を決して立ち上がり明るい表情を作ると
「艦長、私なら大丈夫ですよ。それに、私の名前を知っているということは
このデータの発信者にあえばもしかしたら、父さんの行方もわかるかもしれないし、
ほら、アベルさんもよく言っているじゃないですか。えーと」
アベル「虎穴に入らずんば虎児を得ずかな。それは君の様な淑女には
相応しくない。どちらかといえば、うちの艦長に似合う言葉だ。
危険を顧みない無鉄砲な態度といい、」
紅茶をすすりながら自分の上司にチクリと釘をさすアベル。
タイラーは反論を言おうとしたが思い浮かばず
「ちぇ、へいへいどうせ俺は無鉄砲な指揮官失格男ですよ（笑）」
とすこし拗ねて見せた。
そんな彼らのやり取りをみてディスプレイの向こうの金髪の少女アイナ
は寂しげな微笑を浮かべ
「強いですね。彼らは・・・・お互いに暗い過去をもっているというのに」
オハリオ「ああ、彼らは互いに寄り添い助け合いながら生きている。
それと引き換え、僕らの組織はいまだ纏まりきれない。こんなんで
マザーブレインとアルカディアに勝てるかどうか」
黒髪の青年は曇った表情を浮かべると、アイナが優しく励ました。
「オハリオ、奴らと戦うのは私達だけじゃないわ。タイラーやルツ、
エシル家やミラー家それに、多くの人達と一緒に戦えば絶対に勝てます。」
オハリオ「うん、そうだね」
微笑ましいその場の光景にいささか辟易したナイトクロウは
「け、やってられねえぜ、じゃ俺は切るぜ。」
と煙草を吹かしながら、ディスプレイを切ろうとしたその時、軍の
緊急通信を傍受したとメールが入ってきた。
ナイトクロウ「ん、なになに、・・・・・・！！こいつはやばいのか
良いニュースかわからねえが取り敢えず聞くかい？」
タイラー「なんだよ、勿体付けず聞かせてくれ。」
ナイトクロウ「よし、じゃ言うぜ。現在例の軍事衛星が暴走し軌道を
外れ、逃亡中、それを政府軍の大艦隊がわんさか追跡中ということだ。」
この知らせにそれまでの雰囲気が一気に消し飛びクルーに
緊張が走った。
タイラー「こいつは放っておけないな！ジョディの父親の手がかりが
あるかもしれないんだ！！みんないくぜ！」
クルー全員「了解！」
艦の最終調整に入る整備班、エネルギーや物資が積み込まれ、ランディール
の計器はつぎつぎオールグリーンの緑のランプを灯す。ブリッジではミカや
ハルが慌しく乗組員の報告を処理していた。ジョディも同じ作業に追われな
がら心の片隅にある一抹の不安を忘れようとしていた。と、彼女の目の前に
ディスプレイが現れ、アイナが彼女に話しかけてきた。
アイナ「ジョディさん、あなたの気持ちは私にも痛いほどわかります。
私も自分の家族を銀髪の男に全員連れ去られましたから。」
ジョディ「どうしてそれを？」
アイナ「失礼だと思ったのですが、あなたの資料読まさせてもらいました。
あなたの顔が８年前の私とオハリオにダブって見えたので、つい」
済まなそうにいうアイナにジョディは明るく笑って答える。
ジョディ「いいですよ、もう、それにくよくよしてたらお父さんに会ったとき
笑われちゃうし。」
アイナ「本当に強い心を持っているんですね。でも気を付けて下さい。
敵は、特にアルカディアは我々の心の隙間を狙ってきます。ほんのちょっと
した迷いを奴らは手薬煉ひいて待っていますから。だから、
どんなことがあろうと気をしっかり持ってください。押し付けがましく
いろいろいってすいませんでした。」
ジョディ「ありがとうございます。心配してくれて・・・・・・。」
全ての計器がオールグリーンになり、発信準備が完了した。
整備員は全員ドッグから退避し、天井のハッチがゆっくりと轟音を立てながら開いた。
デゾリスの雪嵐がドッグまで吹き荒れるなか、空に向いカタパルトが延びる。
ジョディ「コンディションオールグリーン！第1.第2エンジン圧力上昇」
ハル「トリムチェック終了したよ！」
エンジンの音が艦内に木霊する。
ウォーレン「対慣性中和システム作動」
タイラー「目標暴走中の軍事衛星ヴェルダンディア！宇宙戦艦
ランディール発進せよ！！」
雪嵐を貫き宇宙戦艦ランディールはデゾリスの空を駆け上る。漆黒の
宇宙に向けて！
デゾリスの上空電離層に１人の白衣を着た老人が浮かびあがり
ニタニタと不気味な笑みを浮かべ空を往くランディールを眺めていた。
イマ「うひゃひゃひゃひゃひゃひゃ、わしの計算通りじゃ、
くくく時間という名のあり地獄の中でもがき苦しむ様、想像するだけで
よだれがでるわい。うひゃはははははははは、」
時間という名のあり地獄とは一体何をあらわすのであろうか！？
ランディールに恐るべき魔手が迫っていた。
第６話 -終-
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