スペースクルーザー ランディール
第８話 時を制する者
時空衛星ヴェルダンディア：白い有機的デザインは何処と無く
脳髄にも見え、そこから神経端のように揺れ動く不気味な
マニピュレータが獲物をねらい蠢いていた。
ようやくランディールが目的地に到着した時、そこは激しい
戦場に変わっていた。
閃光と爆発が錯綜し、政府軍、宇宙海賊、賞金稼ぎが入り乱れて
互いに争いあう様はどこか滑稽にすら思えてしまう。
欲望と疑念と使命感、彼らを動かすのは果たしてどの感情なのであろうか？
ジョディ「政府軍駆逐艦50こちらに向け急速接近！！高熱源反応探知しました
！！」
タイラー「艦は小惑星に後退！駆逐艦隊が接近するまで待機しろ！」
小惑星の裏側に退避したランディールを追い駆逐艦隊が光りの雨を
小惑星に向け大量に降らす。見る見る、亀裂が走りその隙間から
幾本もの光条がランディールを掠めていく！！
アレス「おいおい、このままじゃ、俺たち御陀仏だぜ、どうするんだ！！
艦長！！」
小惑星の亀裂の流れ具合を見つめながらじっとその時を待つ
タイラー。既に光条は幾本もの槍となってランディールを貫こうと
している。亀裂が小惑星の中心まで達しようとした瞬間
タイラーが号令を放った。
「突っ込むぞ！！ランディール前面にバリアフィールドを広域に
展開！！小惑星に突っ込むと同時に右舷左舷全砲門一斉掃射！！
行け−！！」
急スピードで小惑星中心に向けランディールが突き進んでいく。
と同時に展開されたバリアフィールドが粉々に砕かれた小惑星の
岩魁を押し出した。猛スピードでつき押された岩魁は、まるで
ビリヤードの玉の様に、予測不可能な動きで駆逐艦隊に向かい
その全てを破砕していった。
紅い戦艦レディバイパーの艦長スタージェーンはランディール
の闘いぶりを眺めながら、ライバルの宇宙海賊どもの攻撃を
巧みな操舵技術で交わしていく。
スター「ひゅー、タイラーの奴やるねぇ、
こりゃ私もうかうかしてはいられないってとこか。」
敵海賊「女の分際で俺たちの宝横取りしようなんざ
10万年はええわ、おら、死ねや！！」
スター「女の分際で？いうじゃないか。そんな陳腐で下らない
言葉は、」
レディバイパーの側舷から双頭の光条が産まれそれは
鞭のように撓りながら、敵を打ち据え、
スター「この私をとめてからいいな！！、おらおら邪魔だよ、あんたら
この麗しのスタージェーン様の御通りだよ！！」
並み居る敵を全て叩き伏せ、紅い蛇の群れは
時空衛星ヴェルダンディアに向け猛烈な勢いで進んでいく。
混乱極まる戦場をまるで子供のようにはしゃぎながら、観戦する
白衣の老人。
イマ「うひゃひゃひゃひゃ、面白い、面白いのう、人が死に行く
様は千差万別、計算では割り切れぬ程のカオスに満ちておる。
さあ、この波紋渦巻く水面に一石投じてみるとするかのう。」
一瞬何も無い宇宙に津波が見えた。
ヴェルダンディアの周囲の空間が突如歪みはじめ、
接近していたレディバイパーの方に空間の波が押し寄せたのだ。
スター「なに！一体ナニがおきたのさ。」
巻きこまれた紅い戦艦群は波間に揉まれる難破船のように
くるくる舞い散りながら飛ばされていく。
タイラー「おい！大丈夫かスタージェーン！！」
レディバイパーに通信回線を開くタイラー
だが画像は酷く乱れており、スタージェーンの動きが
まるでビデオのスローモーションみたいにゆっくり見えた。
スター「い〜〜た〜〜っ〜〜い〜〜な〜〜に〜〜が〜〜
お〜〜き〜〜た」
アレス「おい、あいつ、ふざけてんのか。こんな緊急事態に
そんなチンタラとやってる場合じゃねえだろうが。」
アベル「いや、ちがう。やはり思ったとおりだよ。画像の下の
タイマーを見れば今どんな現象が起きているのかよく分かるはずだ。」
アベルにそう言われ、ディスプレイのタイマーを拡大すると、
それは巻き戻ったり、早送りになったり不規則な動きを指し示していた。
アベル「驚くべき事象だよ。時間の流れを自由自在に操れるなど
今まで知られているどの科学法則すら説明できない事象が目の前で
展開されているのだ。どうすればこのような現象を起こすことが
できるのだ？」
？？？「ほほほ、教えてやろうかのう。」
奇妙なエコーがブリッジ内に不気味に響き渡る。
アレス「誰だ！こんな素っ頓狂な声を出しやがるのは！
隠れてねえで出て来い！！」
空間が渦巻き、ねじ切れたかと思うとそこに不気味な笑みを浮かべ
た皺だらけの醜怪な老人が現れたのだ！！
ミカ「あ・・・・ああ・・・・」
ミカは老人を見るや躰が震えはじめ恐怖に打ち震えだした。
ジョディ「ミカちゃん。どうしたの。」
ミカ「お姉ちゃん、この前あたし、話したよね。・・・・・・
あの人だよ・・・・・あの人があたしのお姉ちゃんたちを
殺せって命令した人なんだよう。」
衝撃がクルーに走る。だが当の本人はさも嬉しそうな笑みを浮かべる
とまるで自慢話をするような口調で嘯く。
イマ「おお、そうじゃった。いひひひ、あの時の人工生命体の件じゃな。
あれは楽しかったぞい。可憐な美少女達が憐れに無残にミンチされ
潰されていく様子が今思い返しただけで興奮してくるわい。
うひゃひゃひゃはははははははははは。」
ミカ「いやー！！」
ミカの悲鳴にアレス達は怒りをもって立ち上がった。
アレス「狂っていやがる。貴様だけは許せん！ミカがお前の為に
どれほど傷ついたかその体に刻みつけてやる！！」
アレスは手に持ったレーザーアックスで老人に切りかかる。
真っ二つになるイマージュ。だがそれはふっと掻き消えると
次の瞬間ブリッジの周りに次々と老人の醜怪な顔が
浮かび上がった。たち尽くすタイラー達。
それを出来の悪い生徒をみるような顔で蔑むイマージュ
「やれやれ、全く出来の悪い生徒じゃわい。この世にも素晴らしい
事象を説明してやろうというにのう。まずおまえさんたちは
こう思うはずじゃ。いったいどうすれば時間という難物を制御
できることが可能か。」
ディスプレイに映し出される戦闘は重大な局面を迎えていた。
ヴェルダンディアから、次々と放たれる見えない津波に襲われた、
戦艦は動きが速くなったものもあれば、非常に遅くなったものもあり
その動きに人間の反射神経は対応できず味方同士で衝突を繰り返していた。
イマ「わしらがいる世界は3次元という立体的な世界じゃ。この中では
時間はある一定の速度で動いておりそれは現在科学では制御不可能な
領域じゃ。」
アレスやタイラーの攻撃を巧みにかわしつつ説明をつづける老人。
イマ「じゃが、ここより上の次元、即ち、立体に時間を組み合わせた
4次元には時間の流れがまるで水面の様に流れており、そこに
一石投じれば広がる波紋は乱れ、わしらが制御することも可能
なんじゃよ。」
アレス「なに訳わかんねえこといってんだ。このじじいは！！」
アベル「君にはちょっと難しいかもしれないな。だが、
一石を投じるとしても現在それをできるのはこの世界には時空を
歪ませるブラックホールしかないはずだ。そのような高重力が
あの衛星で作れるとも思えないのだが。」
冷静に答えるアベルに老人は馬鹿にしたような笑いを浮かべ
イマ「ひょひょひょ、ではグラフトというテクニックがあるが
あれにはどのような効果があるのかのう。」
その問いにアベルはハッと表情を変えた。
「重力を操る。・・・そうか。そういうことか。お前達はテクニックを
増幅する装置を完成させたのだな。ケン・ミラー博士の例の装置を
応用して！！」
イマ「そうじゃな、だが使われているテクニックはグラフトではないぞい。
それはある家系にのみ伝わる特殊能力じゃ。その名もライジィングという。
わし等はそれを抽出し別の人間の大脳皮質に埋めこむことに成功したの
じゃよ。のう、ジュディとやら。」
彼はジュディの肩に手を当てるとぞっとするような笑みを浮かべた。
ジョディ「まさか・・・父さんを！？」
イマ「ひひひ、それを確かめたくはないかね？では今日の授業は
ここまでじゃ、さらば馬鹿で低脳な諸君、うひゃひゃひゃはははははは。」
そう言い残し老人はジュディを連れてブリッジから消えた。
タイラー「ジョディー！！！！」
タイラーの絶叫がブリッジ内に空しく木霊した。
ミカ「う、うえええんお姉ちゃんが、お姉ちゃんが」
アレス「ミカ、ピーピー泣いているんじゃねえ。ようタイラー
男だったら当然助けにいくよなあ！！」
アベル「おそらく、ジョディはヴェルダンディアの中に連行
されているはずだ。だが、あの時空嵐の中無事に帰れる保証は
ないぞ。」
アベルの忠告をゆっくりとかみ締めつつ、しかしタイラーは意を決し
全クルーに向け話し掛ける。
「俺は今から軍事衛星ヴェルダンディアに強行接舷を行なおうと思う。
これは、俺の意思で行なうものであり、みんなに強制するつもりは
ない。だから、出て行きたい奴を俺は止めはしない。自動操縦に
設定すれば俺だけでも動かせるからな。だから、みんなは自分の事を
考えて行動して欲しい。俺からは以上だ。」
アレス「おい一体誰にいっているんだい。」
アレスが苦笑を浮かべつつそこにいるクルーの顔を見渡す。
クルーの誰もここから逃げ出そうとする者はいなかった。
アベル「状況は明らかに困難だが、確率的に君達はこれまで
99％死亡が確実な事態を乗り越えてきた。私も力を貸そう。
見事この生還率0.1％の難関を乗り越えて見せろ！！」
タイラー「みんな・・・・・よし、航路修正
目標軍事衛星ヴェルダンディアにも強行突入開始だ！！
まってろ・・・・・・・・・ジュディ」
第８話 -終-
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