スペースクルーザー ランディール
第９話 運命という名の渦を超えて
恒星アルゴルが地平線の彼方に
沈んでいき、辺りを赤く染め上げて行く黄昏時。
深い山道をゆっくり歩きながら帰途に付く親子が見える。
「パパ、もう疲れた〜！お腹がすいたよ〜！足が痛いよ〜！
ねえ、ここで一休みしよう、ね、パパ。」
「ジョディ。もう夕暮れ時だぞ。この辺りは日が暮れたら危ないし
それに母さんも心配するからあと少し頑張ろうな。」
8歳の少女のわがままに父と思しき人物は優しげな口調で彼女を慰める。
だが少女は愚図りだしやがてわんわんと泣き始めた。
「いやだよ〜。もう一歩も歩きたくないんだもん。うええええん
パパが意地悪するよ。えんえん、パパなんか嫌いだー。」
駄々をこね泣きじゃくる少女に少し困ったような表情を浮かべ父は
腰を屈める。
「ほら、ジョディ父さんの肩に乗りなさい。」
「ぐず・・・肩車してくれるの？」
さっきまで泣いていた少女は途端に笑顔になり父の肩に飛び乗った。
「わーい、わーい、肩車だ。ねえパパ早くお家に帰ろうよ。」
「はははこいつめ。さっきは休みたいって言ってたのに今は
お家に帰ろうか。ホントにジョディはわがままだな〜。」
「いいもん。・・・・・・・ねえパパ。」
「なんだい？」
「パパ大好き！！」
それは幼い日の微かな記憶・・・・・。
あの時少女は暖かな幸せに包まれていた。
「父さん！！」
少女が一時の懐かしい夢から目が覚めたとき、眼前に広がる光景は
あまりにも異様だった。不気味に脈動を続けるパイプは血管の様に
蠢き時に青黒い蒸気を部屋中に解き放つ。制御装置のランプは交互に
激しく明滅し気を抜くと癲癇を起こしそうになる。その中でも
一番目に撞いたのは中央で淡く光る丸い水槽とその中に浮かぶ
人間の脳髄だった。
ー時間を少し遡ろう。
政府軍、宇宙海賊の入り乱れる戦場に殴りこんだタイラー達は
そこで時空衛星ヴェルダンディアの恐るべき力を目の当たり
にする。時間を操るという物理科学では解明不可能な事象を突然
現れた白衣の老人が説明した。だが白衣の老人はジョディを連れ去る
と、その場から姿を消したのだ。連れ去られた先がヴェルダンディア
であると判断したタイラー達はジョディを救うために時空嵐の
中心へと歩を進めるのであった。
空間の激しい歪みがランディ―ルに襲いかかる。
ミカ「タイラーお兄ちゃん、外見て！船がぐにゃ―って曲がって
みえるよ。それに近づいてくるお船は青くもの凄く速く見えて、
遠ざかるお船は赤く、ゆっくりに見える。不思議だよね。」
アレス「このバカ猫！！外眺めている暇があったら、オペレート
に集中しやがれ！！危ねえだろうが！！」
確かに外を眺める余裕などなかった。激しい揺れが幾度もブリッジ
を襲い、衝突しばらばらに粉砕された戦艦の破片がランディ―ル
の横を掠めていく。微妙な操舵技術がなければこのランディ―ルも
他の船と同じ運命を辿ることになる。
ミカ「アレスに言われなくたってそれぐらいわかっているもん！！
ゲームだったらこれより凄いアステロイドステージもクリアしているん
だから！ジョディお姉ちゃんがいない今あたしががんばらなくちゃ！！」
ミカの指さばきがランディ―ルを確実にヴェルダンディアに近づけさせていた。
他のクルーが必死で機体を保つため悪戦苦闘する一方、アベルは
ノートパソコンでどこかにメールを送信していた。
アレスがたまらず罵倒を浴びせる。
「おい、アベル、俺達が必死でやっているのにおまえは何ノンビリ紅茶を
啜っていやがる。今は猫の手も借りているんだ！！少しは手伝え！！」
アべル「私はいつでも最善を尽くして行動している。
今行った行為もこれから起こるであろう事象を予測してのいわば
保険みたいなものだ。」
ハル「電子メール？一体どこに向け送信したの？」
ハルの疑問にアベルは人差し指を口に当て
「それは秘密だよ。」
と軽く答えるだけであった。
ディスプレイにはヴェルダンディアまでの進路が映し出されている。
他の喧騒には目も暮れず、今タイラーは時空嵐の中心だけをしっかり
と見据えていた。
タイラー「ジョディ、俺が今すぐ行く！それまでどうか無事でいてくれ！！」
ジョディはその淡く輝く水槽に恐る恐る近づいた。
足が震え、顔面が蒼白になりながらそれでも一歩づつ水槽に向い
歩いていく。
彼女は薄らとだが事態を把握しつつあった。それが
例え信じられない内容であったとしてもである。
？？？「くくく可愛い娘さんは父を探して三千里、
果たして彼女の父親はどこにいるのかな？うひゃひゃひゃひゃはははは」
壁の中から醜悪な容貌の老人がその邪悪な姿を具現化させた。
老人はジョディの様子を眺めまるで道化のようにおどけつつ
イマ「君のお父さんはここかな？」
「それともここ？」
「それともこんなところかな？うひゃはははははは。」
狂ったように笑いながら、子供のように部屋のあちこちを探すイマージュ。
慇懃無礼な老人の態度に耐え、体を震わしつつじっと立っていたジョディ
だがついに我慢できなくなり彼女は怒声を発した。
「ふざけないでよ！！いくら鈍感な私だって気付くわよ！！
目の前のこの脳髄が・・・・・・・・お父さんなんでしょう！！！」
一瞬静けさが部屋を包みこんだ。
だが、ジョディの怒りはこの老人の快楽中枢を刺激したらしい。
イマージュは興奮しながら、水槽をゆっくり撫でつつ
「そうじゃよ、これがきみのお父さんじゃよ。くくく素晴らしいとは
思わんかね。お父さんは我々のアルカディア計画の礎となるのじゃー！！
喜ぶがいい。お前さんは果報者じゃて。うひゃはははははあ」
ジョディ「・・・・・あなただけは絶対に許せない！！」
イマ「いいぞい、もっと怒ってくれ、もっと憎んでくれい。それこそが
御方様への最大の贄となるのじゃからな！！」
その瞬間、部屋が大きく揺れ、固く閉ざされたドアがアレスの斧の一閃で
切り裂かれた。
アレス「うおおお、いくぜ！！くそじじい！！」
タイラー「ジョディ！助けにきたぞ！！」
タイラーのその言葉が憎しみに染まりつつあったジョディを
現実に引き戻した。
「艦長・・・・・・私、私もうどうすればいいのかわかりません。
だって、・・・父さんが。」
タイラーは彼女の尋常でない悲しみを感じ取りそして、それが目の前の
水槽に浮かぶ脳髄に起因していることにどんな意味があるのか理解
した。
「貴様！よくもジュディの父親を！！お前達はいつもそうだ！！
人の幸せを踏みにじり、最悪の悲劇を楽しむ、俺はそんな
お前達を許しはしない！！覚悟しろ！！」
タイラーの怒りがライトサーベルに伝わり光の刃が凄まじい輝きを
放った。
飛び出したタイラーはイマージュに向け鋭い一閃で凪いだ、
だがそれを老人は巧みに交わすと、まるで遊んでいるかのように
よろけ、手に持った杖で、水槽の中の脳髄を突き刺したのだ。
ジョディ「あ・・・・・ああ・・・・お父さーん！！」
ジョディの絶叫が部屋に響き渡った。ゴボゴボ泡を立て脳細胞が
壊死してゆく。
イマ「ひひひ、すまんすまん、お前が攻撃するから思わずよろけてしまって
娘さんの父親を壊してしまったわい。うひゃはははお前さん達が
悪いんじゃよ。
さて、質問じゃが、水は手で勢い良くかき乱した後どうなるのかのお？」
アレス「ふざけやがって！てめえの質問に答える義理はねえ！！」
その時アベルから緊急コールがかかった。
「今すぐそこから避難しろ！！敵は最も卑劣な手を打ってきている
よく聞け。水はかき乱すとすぐに元に戻ろうとする。」
アレス「それがどうしたんだよ。」
アベル「水とは即ちこの時空嵐そのもののことだ。時間と空間は
密接に繋がっていてもし、無理に開いた空間が元に戻ろうとしたとき
それはブラックホール並の重力を発生することになるんだよ。」
全員「！！」
場の雰囲気が凍り付く。と同時に衛星全体が収縮を始めていた。
状況を理解したタイラーは皆を逃がそうとする。
だがジョディだけが底から一歩も動こうとしない。
「ジョディ！！もうここは危ない！！一緒に逃げるんだ！！」
ジョディ「いやです！！たとえ艦長命令でもこれだけは聞けません
だって父さんが！！」
タイラー「ジョディ・・・。」
イマ「ひひひ、麗しき親子愛じゃのう。さて、わしもここから
おさらばするとしようかのう。うん？」
イマージュが杖を引きぬこうとするが、杖は脳髄に刺さったまま
抜けなかった。
イマ「こ、これはどうしたことじゃ！？杖が抜けぬ！！」
それを呆然と見るタイラ―とジョディ、二人の前に緑色の淡い
光に包まれた男性が浮かび上がり、ジョディに優しく微笑みかけた。
ジョディ「・・・・父さん」
父「ジョディ、私がこいつを押さえているうちに逃げなさい。」
ジョディ「・・・・いやだよ、父さん残してなんていけないよう。
私もここに残る！！」
父「ジョディ、お前には頼れる仲間が、そして愛すべきひとがいる。
それにこの時空間は閉じるときそこであった事象は全て忘れ去られて
いくんだ。お前が悲しむことはない。さあ」
ジョディ「いやだ！！お父さんと、ううんパパにまた肩車してもらいたくて
私は頑張ってきたの！なのに、こんなのって辛過ぎるよう。」
ジョディの叫びに父は困った顔を浮かべると彼女の頭に触れた。
ジョディ「あ・・・・・と・・う・・さ・・・・」
父「さあ、眠りなさい。これからは父さんの代わりに彼がお前を
まもってくれる。タイラー君私の愛娘の事どうかよろしく頼みます。」
彼の涙ながらの頼みにタイラーは敬礼をもって答えた。
タイラー「ジョディのことは俺に任せてください。けれどあなたとは
もっと別の形でお会いしたかった。本当にすいません。」
父「いいんですよ。タイラー君、君も早く逃げなさい。君達には
輝かしい未来がある。どうかそれを掴んで欲しい。」
そういうと彼の残像は光の中に消えていった。
タイラーは涙を拭きつつ、ジョディを抱えランディ―ルに向かう。
と中でジョディが目を覚まし体をじたばたさせるが
タイラーは決して離さない。
ジョディ「離してよ！！父さんが！！父さんが！！！」
その時、ふいにタイラーはジョディの唇に深くキスをした。
タイラー「君の父さんは俺に君を託して空に逝ったよ。
これからは俺が君を守る。それが君の父さんが望んだ願いだ。」
顔を赤らめ、ジョディは大人しく彼に抱えられランディールの
ブリッジに向かった。
スタージェーン「いいかい、この宙域にいる、戦艦の中で重力制御
機能のある奴、私に力を貸しな！！今から、このレッドバイパー
の機能を使ってあの時空嵐に重力トンネルを作る。」
敵海賊「なんで俺達がお前の手伝いしなくちゃなんえんだ！！］
それを聞いたスタージェーンはレッドバイパーの鞭を相手の船に向け
絡みつかせた。
スター「いいかい、一度しかいわないよ。あたしに力を貸しな！
でないと、」
鞭が船を絞めつける
敵海賊「わ、わかったよ」
スター「まったく、なんで私があいつらを助けに行かないといけないのかね。
それもあのキザ男にあたしの不正蓄財の証拠を握られるなんて・・・・・・
はあ、お前達とっととやるよ！！」
アレス「くうう、重力の歪みが激しくてお腹が破けそうだ！！」
ミカ「見て！！渦の中心に何か見えるよ！！」
時空嵐を抜け出そうとするランディ―ルが刹那垣間見たもの。
それは赤い暗黒星雲と青い銀河がまるで争うように隣接し合う
不思議な光景だった。
アベル「今のは一体・・・・！？」
タイラー「関係ない！！今はここから抜け出すことを考えろ！！」
ジョディ「父さん！私達を守って！！」
最大の空間の歪みがランディ―ルを襲いかかる。いくら
ランディ―ルでもあれに飲み込まれたら一環の終わりだ。
タイラー「やはり、駄目なのか！」
画面が白み、そのまぶしさの中記憶が薄れて行く。
その時奇跡はおきた。
赤い鞭が時空の嵐に穴をあけ、ランディ―ルに絡みつくと、
勢い良く通常空間に引きずりこんだのだ。
静寂の後、
タイラー達は目を覚ました。
アレス「俺達あの時空嵐に向かったよな？」
ハル「うん、けどそれからが思い出せない。」
アベル「ふ、やはりな。」
アベルだけが何が起きたか分かったかのように
紅茶を悠然とすすっている。
ミカ「あ〜ジョディお姉ちゃん、タイラーお兄ちゃんから
離れてよう！！」
よく見るとジョディがタイラーに抱えられている。
ジョディ「御免なさい、でも、今だけはこうさせて、なぜだか
分からないけれど、涙が止まらないの。」
タイラーは優しく彼女を抱え消えゆく時空嵐を万感の思い
で眺めるのであった。
イマ「はあ・・はあ・・・・く、実験体の分際でわしに歯向かうとは
どいつもこいつも愚か者め！！！」
辛くも転送したイマージュは何処かの工場に避難していた。
ライダ「ふん、やつらを甘く見るからこうなるのだ。イマジオメイジよ。」
イマ「く、わかっておるわい、ダークライダーよ！！」
シェイド「でも、大丈夫なわけ〜？貴重な実験体だったんでしょう。」
踊りながら尋ねるシェイドミラージュにイマジオメイジは再び
狂ったような笑みを浮かべ
「ふん、あれなどもう利用価値のない廃棄処分決定のゴミ屑だったんじゃよ。
完成品ならほれここに、うひゃひゃはははははははは」
ライトが一斉に付き工場を埋め尽くさんばかりの、脳髄の入った水槽群が
浮かび上がった。その数一万！！
イアム「よくやりましたね。ふふふ、これで計画は最終実験も終わり、
後はアルカディアの最後の楔が育つのを待つばかり。それが完成したとき
絶望の宴が始まるのですね。ふふふふ、あーははははははは！！！」
第９話 -終-
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