二つの「闇」 〜時の交差後伝〜

第二部第五話 神子の友の「道」

「ふぅわ・・・眠い・・・」
朝の通学路でリビアは一つ、あくびをした。今日のテンションは、
ここ数年で最悪だった昨日よりも更に数段低い。

昨日あれから警察に同行を求められたのだが、警察が妙に高圧的な
態度で証言を求めたり、手際の悪さで途中随分待たされたりでかなり
時間がかかり、あまり眠れていないのである。しかもその後の警察の
報告によると犯人達の発言はどうも要領を得ない物らしくほとほと手を
焼いているとしか言わず、細かい説明は全くない。正直ここまで警察が
いい加減だとはリビアも思っていなかった。

だが、そんな事への苛立ちよりもリビアの睡眠を邪魔していた物、
それは犯人達の言った「闇の神子」という言葉に他ならなかった。

「闇の、神子・・・」
リビアは小声でその言葉を復唱した。どこをどう考えても初めて聞く
言葉である筈なのに、それと似ている馴染みの言葉があるワケでも
無いのに、その言葉が頭にこびりついて離れない。

「なんで・・・どうしてだろう・・・?もしかして、私が忘れてるだけで
 本当は聞いた事があるとか・・・?」
そう考えた瞬間、リビアは自分の頭が急にキリキリと痛み出すのを感じ、
そして右手の二本の指でこめかみを抑えていると、後ろから声をかけて
来る者があった。

「おはよっす〜」
「え?えっと、あなたは確か・・・エヴィン君のクラスメートだっけ?」
「あれ?まだ自己紹介してなかったっけ?まあいいや、オレの名前は
 マーク・フラン、よろしく!」
「え?あ、はい、よろしく・・・」
エヴィンのクラスメートの突然の自己紹介にやや戸惑いながらリビアは
返事をし、そして自分の改めて、歩きながら自己紹介をする。そうして
双方の自己紹介を終えると、マークがリビアに問いかけた。

「ところで先輩?」
「何?」
「体のケガの方は大丈夫なのか?」
「え?ケガ・・・?」
「ああ、三日前の・・・」
マークがそう言いかけると、リビアの表情がサッと変わった。

「ちょっと!それ、どういう事!?」
「え?・・・!あ・・・」
「『ケガ』って私の背中の傷跡の事言ってるの?そうなのね!?」
「いや、あの、それは・・・」
マークは額に冷や汗が一筋流れるのを感じた。しかしそんな事に悠長に
構っている暇も与えない程、リビアは凄い剣幕でマークをまくし立てる。
「ねえ!あなた何か知ってるの!?ねえ!!」
両肩をがっしりと掴み、顔を目の前10センチほどに近づけ問いただす
リビアに、マークはただ、たじろぐ事しかできなかった。そしてそんな
彼に残された唯一の手段、それは笑って誤魔化し、一瞬の隙を突き、
全力疾走で逃げ出す事であったのは言うまでもない。

「ふぅ・・・危ねえ危ねえ・・・」
教室に駆け込んだ所で、マークはようやく一息ついた。時計を見るとまだ
予鈴まで15分近くあり、こんなに早く教室に入ったのは、彼の十年近い
学校生活でも初めての事と言えるかもしれない。そして直後に教室に雑談
しながら入って来たジェシカとメルは、そこにマークがいる事に対し必要
以上な驚きを示してみせた。

「どうしたのマーク?あんたがこんな時間にいるなんて・・・」
「困ったわね、私今日、傘持って来てないのよ?あ、傘よりも防弾チョッキ
 の方が良かったかしら?」
「い〜や、核シェルタークラスの施設が必要ね。」
「お、お前ら・・・」
「ま、何にせよ早く学校に来るのはいい事よね、こういう時くらい誉め
 といた方がいいのかしら?」
「・・・ま、こっちも来たくてこんなに早く来たワケじゃねぇけどよ・・・」
マークが浮かない声でそう言いかけた時、彼の後ろのドアがまた開いた。

「マーク君?」
「げっ・・・」
自分の左肩に置かれた手の感触と、ついさっきの聞き覚えのある声にマークは
本日二回目の「凍て付き」を覚えた。
「あれ?マーク、そっちの人って確かリビアさんとかいう人じゃないの?」
「あ、ああ・・・」
ジェシカの問いかけにマークはこわばった表情でぎこちない返事をした。
そしてリビアの表情を見ると、眉をこわばらせた、異様な険しさを持って
いる。そしてリビアとマークのそんな表情は、ジェシカとメルに特大の勘
違いを起こさせるのに十分だった。

「マーク、あんたまさか・・・」
「な、なんだよその冷ややかな目は・・・」
「最低ね、友達の好きな人に手ぇ出すなんて。」
「ち・ちょっと待てお前らぁぁあぁぁあああ!!」
二人の冷たい視線にマークは慌てまくり、すがるような目でリビアを見た。
「リビアさん何とかしてくれよ!コイツらとんでもねぇカン違いしてる!」
「え?カン・・・違い?」
「そう!カン違い!!なんかコイツら、オレがあんたに変なちょっかい出した
 とかカン違いしてるんだよ!」
「へ?」
マークの急な言葉に、その意味を即座に理解する事のできなかったリビアは
鳩が豆鉄砲を喰らったような顔をする。だが間もなくマークの言葉の意味を
理解するとこわばらせた顔を緩め、クスクスと笑い出した。

「や〜ね、そういう話じゃないわよ、ちょっと聞きたい事があっただけ。」
「あ・・・そうなんですか?」
「ったく・・・『そうなんですか?』じゃねえよ、早とちりにも程があるぜ。」
「アハハハごめんごめん、でも、アンタの素行が悪いから、つい私も疑い
 たくなるのよ。」
「な・・・んだとぉ!」
そしてまたマークとジェシカの「日課」が始まった。初めて見るリビアはその
様子を唖然としながら見、そんなリビアにメルが横からフォローを入れる。
そしてそうこうしているうちに始業のチャイムが鳴ったためリビアは自分の
教室に戻らざるをえなくなったが、放課後マークを捕まえる事には成功し、
河原のベンチに缶ジュース片手に二人は腰を下ろした。

「・・・で、何の話だったっけ?」
わざとトボけた口調でマークは言う。しかしそれは何の意味もなさない。
「私の背中のキズの事よ・・・なんで知ってたの?」
「そ、それはだな・・・」
「私が病院にかつぎ込まれる前まで、あんなキズは絶対に無かった。しかも
 傷跡の形は背中を転んだ拍子に打ったとかそういうのじゃなくって、そう、
 まるで鉄砲か何かに撃たれたような傷跡だった・・・」
「・・・・・・」
「普通じゃできないような傷、そして聞き覚えの無い、それでいて私と何か
 関係のありそうな『闇の神子』っていう不吉な名前・・・ひっかかるのよ、
 何か関係があるんじゃないかって・・・」
「・・・気のせいだよ・・・第一『闇の神子』だなんて、そんなオレも知らない
 単語出されたって答えようがねぇ」
困った顔で顔を掻きながらマークはそう言いかけ、そこで彼は言葉を止めた。

「出て来いよ、オレは覗き見される趣味はねぇんだ。」
首を後ろに傾け、背後にある木を睨みつけマークが言うと、木陰から一人の
男が姿を現した。がっしりとした体格の、三十代後半から四十代前半だと
思われる男性である。背はマークよりやや高いくらいであろうか、男は数歩、
マーク達の方に歩みを進めると汚い物でも見るかのような目で二人を見た。

「闇の神子、エヴィン・ハランツの親友マーク・フランと同じく神子の意中の
 人間リビア・トウェインか・・・一石二鳥とはこの事よ。」
「!神子って・・・てめぇ、いつものバカどもの仲間じゃねぇな?」
男の言う『闇の神子』の言葉に鋭く反応し、射るような視線で相手を睨み
マークは言った。しかしマークの視線が鋭くなっても、男は自分の表情を
全く崩そうとしない。

「貴様レガードの仲間か!」
「レガード?フン、あんな噛ませ犬知った事か。もっと崇高な物だよ、もっと
 崇高なな・・・」
「チッ・・・崇高だか何だから知らねぇが、オレは面倒臭ぇのは大嫌いなんだ!
 やるってんなら相手してやるからとっととかかって来い!」
苛立ったマークがにそう吼えかかると同時に男は上手側から鋭い跳び蹴りを
放ちマークに向かってくる。マークはそれを紙一重でかわしながらカウンター
狙いのパンチを放ったがそれも空を切った。

「・・・・・・(ん?こいつ・・・)」
「ホウ、今の蹴りをかわすとは、ガキのクセにやるじゃねぇか。」
「フン、こっちはもう15なんだ、ガキは余計だ!」
言いながらマークは突進し、その加速を活かした浴びせ蹴りを放ったが
それは簡単にかわされ、逆に上段突きをマークの顔面目がけ放たれたの
だが、マークもそれを左手でガードしてかわした。そしてそこからは一進
一退、ジャブやフェイントを使った牽制合戦となり、互いに決め手を
見出せないまま数分が経過した。

「・・・思ったよりやるみたいだな、さすが獅子の血を受け継ぐ者・・・」
「やるだって?オレが?ヘッ、生憎、それはお門違いってヤツだな。」
「・・・なんだと?」
マークの言葉の意味が掴めず、男はいぶかしげな顔をした。
「オレは前、レガードと戦った時まるっきり歯が立たなかった、そしてその
 執事、ヘインさんとアレンの爺さんの戦いを見てもとてもついて行けない
 物を感じた・・・情けねぇ話だけどな・・・オレが強いんじゃねぇ、テメェが
 ザコなんだよ!思い上がってんじゃねぇ、このボケ!!」
「なにを!!」
マークの言葉に男は目を吊り上げ、一直線に突進して来た。そしてそこから
続く弾幕のような突きと蹴りの嵐にマークは防御を固める事しかできない。
だがマークは分かっていたのである、ペース配分も何も考えていない攻撃は
間もなく燃料切れを起こすであろう事を・・・そして男の、スピードが落ちて
きた右ストレートを右腕上段受けで受け止めると同時に、マークの左の拳が
唸りを上げた。

「だからテメェはザコなんだよ!喰らえダブルアッパー!!」
マークの左ボディアッパーが相手のみぞおちに深くめり込む。そして首の
落ちてきた相手を追いかけるようにもう一歩前に踏み出し、今度は顎への
右アッパー、この二発で大勢は決したかに思えた。だがマークは攻撃の
手を緩めない。

起きあがった相手の体を再び前屈みにさせるかの如く打ち下ろしのスカイ
フックが相手の脳天を直撃し、それで屈んだ相手を更に起きあがらせる
肘アッパー、もう男の意識は完全に朦朧としているのだが、そんな相手に
マークはもう一発、トドメとばかりに正拳突きを叩き込んだ。最初の裏拳を
抜かした三段式のブロンコラッシュである。そしてブロンコラッシュの終了
とともに、マークはようやく拳を納めた。

「カッコつけんな!このザコ!!」
倒れた男の胸ぐらを掴み、目一杯の憎悪と嫌悪を込め、吐き捨てるように
マークは言った。今の彼の心の中は、相手への怒りがとぐろを巻くように
渦巻いている。
「言え!お前らの狙いはなんだ!!」
「う・・・うぐ・・・」
「もう一発殴られれば思い出せそうか?」
再度拳を振り上げマークが言う。
「あ・・・いや・・・・・・・・・喰らえぃっ!」
「!!」
瞬間、マークの目の周りに刺すような痛みが起き、目を開けられなくなった。
男が口の中に仕込んでいた含み針を使ったのである。男は目を開けられない
マークに一撃入れ、間合いを離した。

「ま・・・まだまだ甘いな・・・だが・・・こっちももう限界のようだ・・・今日の所は、
 退かせてもらうぞ。だが覚えておくといい、上層部の悠長な手段に業を煮やし、
 トライデント完遂を急ぐ者は他にもいる事を・・・」
「ま、待ちやがれ・・・」
目の周りに刺さった針を抜き、まだ朦朧とした視界の中マークは必死に相手を
追いかけようとしたのだが、相手の逃げ足は存外に速く、その姿はすぐに見え
なくなってしまった。

「大丈夫?目の方は・・・」
相手の姿が見えなくなると同時に尻餅をつき、呼吸もまだ安定しないマークに
サンフォースをかけながら、リビアは心配そうに尋ねた。
「目?ああ、大丈夫だ、所詮あんな体勢じゃ、狙いを定める事なんぞできや
 しないからな。」
「でも、後で病院には行った方がいいと思うわ。万一って事もあるし。」
「ああ、そうだな。」
リビアの言葉にマークは素直に頷き、口を閉じ、リビアの治療に身を委ねた。
暖かみのある手である、エヴィンが好きになるのも分かる、そんな気がする
暖かさを持った手だった。

「マーク君・・・」
手当てを終え、軽く深呼吸をするとリビアはマークに再び声をかけた。
「やっぱり、知っていたのね、『闇の神子』の事。しかもそれがエヴィン君?
 一体どういう意味なの?」
「・・・・・・」
リビアの問いかけにマークは考えた。さっきの事があるから、もう言い逃れは
できそうにない。少し気が引けるが、リビアに当て身を入れて気絶させて逃げ
出そうか?だがそれにしてもその場しのぎだし、それにさっきの男の言葉が
気にかかる。自分やリビアがまた何者かに狙われるかもしれない。そんな事が
あった時の事を考えると、今話せる事を話しておいた方が予防策も立てやすく
なるのではないか?そんな事をマークは色々考え、やがてゆっくり口を開いた。

「今からオレが話す事は、オレが知ってる限りの真実だ・・・ただ、少しばかり
 現実離れしている・・・だから、信じる信じないはアンタの勝手だ・・・」
「う、うん・・・」
「正直、この目で見たこのオレでさえ信じられないんだが、エヴィンは何か
 とてつもない力を持っている。自分の何倍もの大きさの化け物も一撃で
 倒せるようなな・・・そしてエヴィンがそんな力を持っているのはあいつが
『闇の神子』だからだ、って言う連中がいて、そんなヤツらがエヴィンの事を
 狙ってる・・・」
「え?ちょっと、そんなお話みたいな事・・・」
「・・・信じる信じないは勝手にしてくれ、って言っただろ?オレは、オレの
 言葉を続けるだけだ・・・」
「あ、うん。ごめんね・・・でも、それが私達どどういう関係が?」
「それは・・・・・・」
リビアの問いかけに、マークは深刻と言うよりもむしろ困った表情になった。

「・・・こういう事を、当の本人より先に他人のオレが言うのは気が引けるけどよ・・・」
「え?”こういう事”って何の事・・・?」
「エヴィンはな・・・アンタの事が好きなんだよ・・・」
「!・・・・・・それ、ホント・・・?」
「直接本人から聞いたワケじゃないけどな、態度で分かるさ。」
「態度で、って・・・他の部員にもそういう人はいたけど、私はそんな・・・」
「ま、こういうのは当事者よりもむしろ第三者の方が分かるモンだからな。
 それでエヴィンをコントロールしやすいように、連中の一人のレガードって
 男がアンタを誘拐して、さらにあんたはそこで殺されかけた・・・背中の傷
 っていうのはきっと、その時にできた物の事を言ってるんだろうな。」
「そう・・・だったの・・・」
マークの言葉に、不安そうに頷きながらリビアは言った。彼の言葉を全て信じて
いいのか、彼女には分からない。しかし彼の言っている事を否定できる材料も
無いし、また彼の態度もウソを言っているようには思えない。そんな事を考え
話を聞いている中で、また一つリビアの中に不安が生じた。

「ねえマーク君・・・」
「ん?」
「実はね、昨日の夕方にも、さっきの人と同じような事を言ってきた強盗が私の
 家の中に入って来たの・・・じゃあ、その人達の言っていた事も、本当だって
 事になるの・・・?」
「ああ、連中がレガードやさっきのザコと同じ組織上の人間だとしたら、その
 確率は高いだろうな。」
「そんな・・・じゃあ、お父さんとお母さんは、私のために殺されかけたの・・・?
 私の、ために・・・?そんな・・・」
自分の辿り着いた結論にリビアは全身を震えせずにはいられなかった。こんな事
なら、あれがただの空き巣狙いの居直り強盗であった方がいくらかいい。

「じゃ、じゃあ、私がいる限り、お父さんとお母さんも襲われる危険が?」
「・・・オレもそうだが、その可能性は否定できるモンじゃねぇ、そしてそれが、
 エヴィンのヤツがいなくなった理由だ・・・」
「エヴィン君がいなくなった?そう言えばエヴィン君は今どこにいるの?」
「わからねぇ・・・」
目を閉じ、首を数回横に振りながらマークは言った。

「エヴィンは、自分のせいでオレや爺さん、それに何よりあんたを危ない目に
 遭わせた事がショックだった、そしてそれをすごく気に病んでる・・・だから、
 自分がいてもみんなが苦しまない方法を探してくる言って、あいつは・・・
 ティリアから出て行ったんだ・・・」
「そんな!そんな事って・・・マーク君、その時その場にいたの?」
「一応な・・・」
「止める事はできなかったの?」
「オレだって、止めたかった・・・でも、止める言葉が見つからなかったんだ・・・
 情けねぇ話だけどよ・・・オレは、あいつが一番悩んでいる時に、何も助ける事が
 できなかった・・・それで友達だなんて、笑っちまうよな・・・」
そう語るマークの声は弱々しく、震え、そして涙混じりの声になっていった。
だがマークはそんな自分の声を嫌い、涙を拭い息を整えてからまた話し始めた。

「だからエヴィンのヤツが今何をしているのか、正直全然想像がつかなくて、
 その事はすごく気になってた・・・でも、冷静になって考えてみれば考えて
 みるほど、自分がその世界に首を突っ込むのが怖くなって来た・・・さっきは
 自分が情けなくて泣けて来たけど、悔しかったのは何もしてやれない自分じゃ
 なくって、逃げようとした自分なのかもしれない・・・」
「マーク君・・・」
「でも、それも今日までだ。オレはエヴィンのヤツを追っかけてみようと思う。
 何ができるか、皆目検討つかないけどな。第一、待っているのはオレの
 性分にあわねぇ。」
静かな、しかしはっきりした口調でマークは言った。だが直後に、そんな彼の
行動を制止しようとする声が後ろからあった。

「これから先の世界は、あなた達みたいな子供が首を突っ込める世界じゃ
 ないわ。命が惜しければ、やめておく事ね。」
「!!」
背後からの聞き覚えのある声に二人は一斉に後ろを振り返る。と、そこには
一人の女性が立っていた。すぐ真後ろまで来ているのに、二人ともその事に
まるで気付かなかった。

「あなたは・・・」
「リィズさん・・・どういう意味だよ、それ・・・」
「読んで字の通り、裏の意味はないわ。」
「仲間を見殺しにしてろって言うのか!?苦しんでる仲間を!!」
「そう言うつもりは無いわ、闇の神子の・・・エヴィン・ハランツの動きは
 ウェンフィールドの人間がチェックしている、あなたの出番なんか無いと
 言ってるだけよ。いえ、むしろ足手まといかも。」
「そんな言い方あるかよ!」
「待って!」
血気にはやろうとするマークをそう言って止めると、リビアは数歩前に出る。
リィズはそんなリビアを見るとニコと微笑んだ。

「昨日は、あれから色々と大変だったみたいね、大丈夫だった?」
「え?はい・・・昨日は本当に、どうもありがとうございました・・・
 お礼も言えなくて・・・リィズさんっておっしゃるんですね。」
深々と頭を下げながらリビアは言った。
「ええ、私の名前はリィズ・ファラシュ、覚えて貰えれば嬉しいわ。それと
 昨日の事は仕事のうちだから気にしなくていいのよ。ただ、そっちの子が
 何もかもしゃべっちゃったのは計算外だったけど。せっかく私があなたの
 記憶を消したのに・・・」
「あなたが、私の記憶を消したんですか?」
「ええ、それがあなたの身のためだと思ったから。アレンさんの依頼でね。」
「そう、だったんですか・・・」
リィズの言葉に、リビアは意外そうな顔をしながら頷き、そしてリィズに
何故ここにいるのかを尋ねた。

「私がここにいる理由?それはね・・・」
言いながらリィズは左手の裾に右手を伸ばす。そしてその動作の意味をリビアが
感付いた時には、二人の手足はリィズの投げた針によって神経節を貫かれていた。

「な、なんだ、これは・・・」
「身動きが・・・取れない・・・昨日、あなたが強盗相手に使ったのと同じ・・・」
「フフ、ま、そういう事。じゃあ、行きましょうか?」
「行くってどこに?」
「ウェンフィールド夫妻の私邸、あなた達二人には、これから事件解決が確認
 されるまで、そこで保護される事になったの。事態が予想以上に深刻みたい
 だからって事で。」
「え?えええ???」
リィズの突然の言葉に二人は顔を見合わせた。

「ウェンフィールド夫妻って言えば・・・」
「世界最大の財団の総帥・・・」
「ええ、その私邸はセキュリティ設備も当然世界トップレベル、そこならあなた達が
 いるせいで家族に危害が及ぶ心配も無いでしょ?あなた達が軽率な行動に出る
 心配も無いし。」

リィズが微笑みとともにそう言うと、彼女の脇に一台の高級車が止まる。
リビアとマークはその車の運転手の手により後部座席に押し込まれ、扉を
閉じられた。そしてリィズが助手席に座ると、車は再び動き出した。

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