「しっかし怖ぇよなぁ・・・一歩間違えば大惨事だろ？」
「ああ、そして、お前さんの言うところの『大惨事』にはワシらも含まれている
可能性が多分にあった。」
「・・・・・・」
アレンの言葉に、マークはしばし考える。そして一瞬の沈黙の後、彼はアレンに、
もしかしたらこれは『トライデント』の仕業ではないかと尋ねた。
「・・・なぜ、そう考える？」
「な、なぜって聞かれると困るんだけどさぁ・・・ただ・・・あれ？なんて言った
っけ・・・昨日爺さんがフレオに取りに行くって言ってた・・・」
「ネイソードか？」
「そう！それそれ！！」
アレンの言葉に、マークはポン、と拳を叩いた。
「そのネイソードっての、たしか爺さんが５０年前に例のダークファルスってのと
戦う時に使った武器なんだろ？そいつをオレ達が取りに行こうとしたその日に、
こんな事件が起きるなんて出来過ぎな気がするんだよ。ましてや、情報の漏れ口
なんてどこにあるか分かりゃしねぇしな。」
「・・・どういう意味よそれ？」
マークの言葉に敏感に反応し、エリーはキッ、と彼の事を睨みつける。だがそんな
彼女の言葉を、マークはいとも簡単に受け流した。
「ん？オレは一般論を言っただけだぜ？それとも何だ？やましい事でもあるのか？」
「そうじゃないわよ！昨日あれだけ、痛くもない腹を探られればナーバスにもなる
って言ってるの！！もう出てってよ！着替えるんだから！！」
本気で怒った声で言いながらエリーはアレンとマークを強引に部屋から押し出す。
そしてドアについている鍵とチェーンを全てかけると、再びベッドに倒れ伏した。
「エヴィン・・・パパ・・・」
枕に顔を押し当てながら、エリーは力無くつぶやいた。
一方、部屋から追い出されたアレン達は、昨日ツインの同室に泊まっていたため
ひとまず自分達の部屋に戻る。そして、そこでまずアレンの口から出たのはマーク
への叱責の言葉だった。
「さっきの言葉は・・・あまり感心せんな、マーク君。」
「・・・・・・」
アレンの言葉に、マークはしばらく黙り込む。しかしそれでも、彼が次に口を
開いたのは、アレンよりかは先だった。
「・・・爺さんは信用してるのか？・・・エリーの事・・・リィズさんじゃないが、
やっぱりオレはあんまり・・・」
「そうじゃのぉ・・・確かに、あの子には不審な点は多い。トライデント四傑の
筆頭格の一人娘、それが病気で倒れていたエヴィンを救ったのも、偶然
という言葉だけで片付けられないからの。ただ・・・」
「ただ・・・？」
「あの子がどんな過去や背景、十字架を背負っているのかはワシにも分からん。
しかしエヴィンやお前さん同様、素直で真っ直ぐな心の持ち主である事だけは
間違いない・・・ワシはそう思っとるよ。」
「爺さん・・・」
アレンの言葉に、マークは静かにつぶやいた。だが、次の瞬間部屋の電話が音を
鳴らす。アレンは即座に手を伸ばし受話器を取るのだが、数秒後、彼の表情は
急変した。
「・・・ネイソードが・・・盗まれたじゃと・・・？」
「！？」
その言葉に、マークも思わず身を乗り出し、アレンの肩を掴み説明を求める。
アレンは、そんなマークの腕を振り払いつつ、いくつかの状況確認を行うと
受話器を元の位置に戻した。
「なんだったんだよ！今の電話！！」
「・・・聞いての通りだ・・・ネイソードが、フレオの金庫から盗まれた・・・」
「・・・じゃあ、やっぱり昨日のシャトルの故障もトライデントの連中がオレ達を
フレオに行かせないために・・・？」
「・・・かもしれん・・・じゃが、昨日はフレオからネオアリサに向かう便も欠航
されているし、ネオアリサ全土を見回してもシャトルが外から飛び込んできた
という報告は入っておらん。ソードを盗んだ犯人は、フレオから外に出られない
ハズじゃ・・・」
「けど爺さん、物事は常に最悪を考えていた方がいいぜ。つまり、盗んだヤツが
もう、こっちに戻って来てるって可能性も捨てちゃいけねぇ・・・」
「うむ・・・」
マークの言葉に、アレンはコクリと頷いた。
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そして場所は変わり『トライデント』の新本部・・・
ジンドゥにあった旧本部同様、陰気な空気が漂う部屋で、ディルナは一人、パソコン
モニタを見つめながらキーボードを叩く手を動かしている。だが、背後で何者かが、
ノックもせずにドアを開ける音を聞くと彼は椅子をクル、と回転させた。
「よう、任務完了だ。」
「ヘラルドか・・・で、物はどうした？」
「フレオくんだりまで日帰り同然で行って来たんだ。ねぎらいの言葉くらい欲しい
モンだがねぇ・・・ま、それはさておき、こいつだろ？」
言いながらヘラルドは細長いバッグから一振りの剣を取りだした。鞘から柄にかけて、
赤茶色のサビでびっしりと覆われている剣である。ディルナはそれを受け取ると、満足
そうに頷いた。
「ご苦労・・・ネイソード、確かに受け取った・・・」
「・・・やっぱり、これが本物のネイソードなのか？なんか、サビばっかりでまるで
使い物にならなそうだが？」
「いや、これはサビではなく封印の一種と考えた方がいいだろう。どんな類の物か、
調べんと分からんがな・・・それが証拠に、サビと言っても落ちないだろう？」
「そ、そう言やそうだな・・・」
ディルナの言葉に、ヘラルドは素直に頷いた。
「しかしヘラルド、この際ネイソードは敵から引き離すだけで十分だ。無理に封印を
解こうと刺激する事は無い・・・」
「そうか・・・んじゃ、これで俺の次元刀が正真正銘、最強の剣ってワケだな。
アンタが大量の魔力と、それの増幅器をセットしてくれたおかげで、星間
移動も可能なほどのワープ能力も備えられたしな。お陰でフレオの警備も
完全なザルだったぜ。手応えが無さすぎて、戦う気も起きなくなる程な。」
言いながらヘラルドは口元にニヤリとした笑みを浮かべる。そして言いながら
腰の次元刀に軽く手をそえた。
「ところでディルナよぉ・・・最強の剣を手にした俺が、いつまでも唯々諾々とアンタに
従ってると思ったか？」
「・・・・・・」
「もし、思っていたんなら、アンタ性格悪いクセに人が好すぎるぜ！喰らいな！
海枯石爛斬！！」
そのかけ声とともに無数の刃がディルナを取り囲んだ。その数はかつてアレンに
対して使った時よりも何十倍も多い。そこでヘラルドは、ディルナの顔が恐怖に
染まるのを見ようと一瞬待ったが、相手の表情に何ら変化が見られないとなると
即座に、剣による一斉攻撃を仕掛けた。
「これで組織は俺のモンだ・・・死ねぇっ！！」
邪悪な笑みを浮かべながらヘラルドは叫んだ。しかし剣はディルナを襲おうとは
せず、逆にゆっくりと１８０度回転し、その無数の切っ先をヘラルドに向けた。
「な・・・何が起こ・・・ぐわぁぁぁああああっ！！！」
眼前で起きた光景を理解する間もなく、自らの放った技がヘラルドの身体を刺し、
切り裂き、そして貫く。だが次の瞬間、ディルナが指をパチン、と鳴らすと、彼の
身体には傷一つついておらず、強烈な恐怖の印象のみが残っていた。
「あ・・・い・・・一体何が・・・ディルナ・・・今のは・・・」
「幻影だ。ただし、恐怖と痛みの感触は心に深く刻みつけられ、永遠にそれから
逃れる事はできん・・・」
「なんだと・・・だが、俺はまだ動けるぜ！」
「それは、私が術の威力を手加減したからに過ぎん・・・私の第三の刃、精神を
食い荒らす忌まわしき獣・・・幻魔の拳『オボミナス』のな・・・」
「・・・第三の刃・・・？オボミナスだとぉ・・・？」
「そうだ、『トライデント』の思想は何も組織のあり方だけではない。私自身の
攻撃のコンセプトでもあるのだよ・・・ヘラルド、もうお前に用は無い・・・」
「んだとぉ・・・ふざけるな！」
言いながらヘラルドは再び剣に手をかけようとする。だが、動こうとする彼の
意志に逆らうかのように、指の一本も動こうとはしなかった。
「言っただろう・・・私の技は既にお前の深層精神をズタズタに破壊している・・・
ゆえに身体を動かす事はできず、よって貴様に、次の攻撃を防ぐ手だては
無い・・・地獄を迎える、用意はできたか・・・？」
「ま・・・待ってくれ・・・頼む・・・」
「・・・己の器以上の物を求めた愚を、冥府で悔いるがいい・・・個を滅する第一の
刃・・・デバステイター！！」
その言葉と共に、ディルナの右の拳が妖しく光るのがヘラルドには見えた。そして
それが、とんでもなく危険な物である事も想像がついている。だが、彼には次の
攻撃をかわす事も、防ぐ事もできない。そして直後に彼の腹部を深く突き刺した
ディルナの手刀から発せられた力は、ヘラルドの身体を駆け巡り、全身無数にある
血管の急所を、内部から片っ端に突き破った。
「ぐ・・・ぐわぁあ・・・う・・・」
あまりの痛みの激しさに、叫び声をあげる事もできず、ヘラルドは自らの血で
できた、巨大な血溜まりの前に倒れた。ディルナは、そんな彼の襟首を掴むと
汚い物を見るような目と、生ゴミを扱うかのような手で部屋から廊下へと引き
ずり出す。そして今までいた部屋に鍵をかけると、いずこかへと歩き去って
行った。
「くそ・・・ディルナ・・・俺が・・・このまま素直に死ぬと思うな・・・
このままじゃ終われねぇ・・・このままじゃ・・・終わらせねぇ・・・」
出血多量で秒単位で遠のきそうになる意識と必死に格闘しながら、
ヘラルドは必死に自分にそう言い聞かせていた。
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