| ７月２１日 | 早朝、リィズ・エヴィン・リビア組とアレン・マーク・エリー組に分かれ行動を開始。 エヴィン達はガズニと面会した後、夕方シーレン・エレナと第一回目の戦闘 アレン達、ネイソードを受け取るためフレオに行こうとするが、タリナにてシャトル 故障が発生、一日の足止めを喰らう。 ヘラルド、ネイソードを盗み出す事に成功。 |
| ７月２２日 | エヴィン達、シーレンと第二回目の戦闘、敗北寸前に追い込まれるが撤退に成功。 三人とも丸一日行動不能となる。 ヘラルド、ディルナに対し叛乱を目論むが失敗、クルウェルと融合する。ディルナ クルウェル捕獲のため単独行動を開始。残る四傑のヴァルグも行動を開始する。 深夜、フィルの元へクルウェル配下のソルジャータイプが飛来、フィル出立を決意 |
| ７月２３日 | エヴィン、シーレンと三度目の対戦にて勝利を掴む。その後マークらと電話にて会話。 ヴァルグ、アレン達の滞在するタリナに到着、クルウェル発祥の地とも言えるアイガに 行こうとする彼らに警告を発する。 |
「そう・・・シーレンに、勝ったのね・・・」
「はい。」
リィズの問いかけに、エヴィンはコクリと頷いた。
「それで、エレナはどうしたの？」
「シーレンさんの修理をしなくちゃいけないから、ってシーレンさんと一緒に帰りました。
せっかくリィズさんのお見舞いに来てくれたみたいなのに、悪いことしちゃったような
気もしますけど・・・」
「・・・エレナが私を見舞いに、ねぇ・・・」
エヴィンの言葉に、リィズは苦笑いを浮かべた。その表情を見て、エヴィンも口元に
笑みを浮かべる。そして少し笑ってから、リィズはエヴィンの顔をじっと覗き込んだ。
「ど・・・どうしたんです？リィズさん急に・・・」
急にリィズに顔を近づけられ、のけ反りながらエヴィンは言った。心なしか、その顔は
少し赤いし、発する声も強ばっている。
「なんか、不思議な気がしてね。」
「？？？」
「私にとって、今でもエヴィン君のイメージって、ご両親と一緒にウェンフィールド財団の
パーティーに来た時の、オドオドしてたのがイメージなの。だからそのエヴィン君が、
ダークファルスの力を受け継いでいるだけでも信じられなかったのに、今回はその力
に頼る事なく、伝説とも言えるシーレンと互角以上に渡り合い、そして勝った・・・
本当に、凄い事だと思うわ・・・」
「え・・・いや、その、どうも・・・ありがとうございます・・・」
リィズの言葉に照れ、頭を掻きながらエヴィンは言う。リィズは、そんな彼の反応を見て
微笑むと、もう一つ言葉を付け加えた。
「でも、きっとエヴィン君の力は、この程度じゃないんでしょうね。これからもまだ、
どんどん成長して行く・・・私なんか、及びもつかないレベルに、すぐにね。」
「そんな事ないですよ！」
リィズの言葉に、エヴィン強く頭を振った。
「だって僕、リィズさんみたいに頭よく無いですし、経験も、判断力も全然ですし・・・」
「判断力と経験ねぇ・・・経験・・・経験？」
「リィズさん？」
『経験』と言う言葉を連呼しながら、リィズはその表情を険しくさせる。そして一呼吸を
置いた後、彼女はエヴィンに尋ねた。「エヴィン君・・・あなた、人を殺した事はある？」
と・・・
「な・・・あるワケないじゃないですか！」
「そう・・・良かった・・・エヴィン君？」
「はい。」
「あなたやリビアが、もし人を殺さなくては切り抜けられないような場面に出くわした時には、
何も言わずに私に代わりなさい。これは頼みと言うよりも命令よ。」
「命令・・・？でも・・・それって、リィズさんが・・・？でも・・・」
「あなた達みたいな子の手が、血で濡れるような真似はさせたくないのよ・・・分かるわね？」
静かな、しかし有無を言わせぬ物を感じさせる口調でリィズは言った。だがエヴィンも、それで
すぐに「それじゃあ、よろしく」などと言える筈も無い。かと言って何かいい言葉を出せるわけ
でもなく、エヴィンはその場に立ち尽くした。
「何を言ったらいいのか分からない、って顔してるわね。」
「はい・・・」
リィズの言葉に、エヴィンは力無く頷き、そして「だって、急にそんな事言われても」と付け加えた。
「急な事・・・確かに、エヴィン君にとっては急な事かもしれないわね。この一ヶ月、何度も激しい
戦闘をしてきてる割には、ちょっと想像力が乏しい気がしないでもないけど。」
「・・・・・・」
「けどねエヴィン君、これは何も抽象論じゃないの。そう・・・あなたやアレンさんから、レガード絡みの
話を聞いた時から、ずっと言おうと思ってた・・・」
「・・・レガードの話を・・・？」
「ええ、レガードという男が、ディルナ経由でクルウェルの力を得ていたと聞いた時からね・・・」
「？どういう事ですか？そう言えばリィズさん、クルウェルと戦った事があるって聞きましたけど、
それと関連のある話なんですか？」
「まあね。丁度いいわ、説明するからリビア呼んで来て。どうせ話すのなら、二人いっぺんに話した
方が手っ取り早いから。」
「はい・・・」
リィズの言葉に、今度はエヴィンも素直に頷き、リビアのいる病室へと向かった。
「先輩？」
ドアをノックしながらエヴィンが言うと、すぐに内側から、リビアの「開いてるわよ」という声がする。
そこでエヴィンがドアを開けると、荷物をまとめているリビアがいた。
「あれ？もう荷物まとめてるんですか？」
「ええ、退院は明日だけど、もう身体も良くなったし、いつまでも個室を占領してるのも悪いから、
部屋を変えてもらう事にしたの。」
「へえ・・・ところで先輩、リィズさんがすぐ来てほしいって言ってるんですけど・・・」
「言ってるんだけど・・・？」
エヴィンの不安そうな顔を見て、自身も不安そうな顔になりながらリビアは言う。だが、エヴィンも
そこで更に言葉を付け加える事はできず、二人とも無言のまま、リィズの病室へと歩いて行った。
「来たわね・・・」
二人がドアを開けると、リィズは静かに言う。そして二人に、自分達が来るまでの間に描き上げたと
思われる一枚の絵を見せた。
「・・・？」
二人は無言のままリィズに渡された絵を見た。その上半分は干からびた人間の上半身と、それを
包む籠のような形をしており、下半分は木の根のような形をしている。そして、その木の根のような
部分で、杖を掴んでいるようにも見えた。どこをどう見ても、異形の者にしか見えなかった。
「何なんですかリィズさん、この、気味の悪い絵・・・」
「これが、さっき僕に言っていた事と関係があるんですか？」
「ええ・・・クルウェル配下のドルイドタイプ・・・私が戦ってきた敵の中で、一番イヤな相手・・・」
「・・・！！」
リィズの言葉に、二人は体を硬直させた。
「クルウェルは己の配下を産み出すため、ソルジャータイプと呼ばれる種子を作る事ができるの。
そして、その種子は単体でも様々な能力を持っているけれど、その本領は憑依にある。そして
ドルイドタイプと言うのは、種子に憑依された人間の姿なのよ・・・」
「人間に・・・憑依ですって・・・？」
「じゃあ、これが元人間だったって言うんですか？」
二人の言葉に、リィズは無言で首を縦に振った。
「そしてドルイドタイプは、宿主である人間の意識を完全に支配するけれど、絶命する最後の瞬間
だけ宿主に意識を戻す。そして宿主にされていた人は、自分に何が起きたのか分からないまま、
苦しみながら死んで行く・・・」
「そんな・・・その種子だけを取り除く手段って無いんですか！？」
「それがあれば、私達も苦労しなかったわ・・・」
「リィズさん・・・」
「クルウェルは狡猾な邪神よ。もし、ヤツが自由を得たら、きっと私達への報復に向かうわ。そして
その時には、反撃する力が弱い人達の密集したここに、ドルイドタイプを差し向けて来る可能性が
一番高い・・・」
「・・・・・・」
「明日の朝、七時には車が来るように手配しておいたわ。一番ケガが長引いていた私が言うのも何
だけど、一刻も早くここを出ましょう。」
「はい・・・」
リィズの言葉にそう答えると、二人は静かに部屋を出る。そして数歩歩いた所で、エヴィンはリビアに
話しかけた。
「先輩・・・」
「なに？エヴィン君・・・」
「先輩、さっき個室を空けるって言っていましたよね？もう体もいいから大部屋に移るって・・・」
「ええ・・・」
「それなんですけど・・・その、さっきリィズさんが言っていた話からすると、危険じゃないかって
思うんですけど・・・」
「・・・やっぱり？」
エヴィンの指摘に、リビアは気まずそうに返事をする。だが、リビアの病室には、次の患者が今晩
入る事が決まっているらしく、それを覆す事はできそうにない。そしてその事をエヴィンが聞くと
エヴィンは一つの提案をした。
「じゃあ先輩、今晩僕の病室に来ませんか？僕の方は、まだ個室をどうするとかそういう話はして
ませんから・・・」
「え・・・？」
その瞬間、リビアの言葉が止まった。
「エヴィン君と同じ部屋に・・・？一晩二人っきりで・・・？」
「あ・・・」
そして、エヴィンの言葉も停止した。二人とも顔を真っ赤にしながら顔をうつむかせ沈黙し、それから
同時に顔を上げ、右手で後頭部を掻きながら大声で笑い出す。そしてリビアは、笑いながら１８０度
ターンして立ち去ろうとするのだが、エヴィンは咄嗟にその肩を掴んだ。
「エヴィン君・・・？」
「これは笑い事じゃないんです先輩。たぶん、生き死にの問題になる・・・それに病み上がりのリィズ
さんに、これ以上負担はかけられない・・・お願いです、僕と一緒にいて下さい・・・」
「はい・・・」
エヴィンの迫力に押され、リビアは半ば放心状態で頷いた。
もっとも、リビアが部屋に来てから緊張していたのは、むしろエヴィンの方だった。自分の方から
呼んだがゆえに、また現実の危険性を考えると前言撤回は絶対にできない。しかし、彼も一応
年頃の男の子なので、リビアの方をチラと見ただけでもいつも以上に意識してしまう。病院の、
広いとは言えない個室の中だから尚更だった。だからなるべくリビアの顔は見ないようにし、
これから自分を待ち受けているであろう戦いに思いを馳せようとした。そして、そんな彼の挙動
不審さが、リビアには何とも言えずおかしかった。
「この様子なら、多少からかっても間違いは起こるまい」
そう確信すると、戦闘だの入院だのへのストレスのせいもあり、リビアの心に珍しくイタズラ心が
こみ上げてきた。
「ねぇエヴィン君・・・」
窓際で、リビアに背を向けながら空を見つめるエヴィンの顔を後ろから覗き込むとリビアは、
ささやきかけるように言った。その言葉に、エヴィンはリビアの期待通りの硬直を見せる。
「は、はい・・・な、なんでしょうか・・・」
「どうしたの？さっきからボ〜っと空を見て・・・」
「え？あ、いや、ちょっとクルウェルの事とか、リィズさんの話していた事とか考えてて・・・
あと、おじいちゃん達どうしてるのかなぁ、とか・・・」
「ふ〜ん、私の事は考えてないんだぁ。」
「そ、そんな事無いですよ！先輩の事は、いつも真っ先に！」
「あっそ・・・ところでエヴィン君、私、ちょっとシャワー浴びて来たいんだけど・・・」
「し、しゃわーですか・・・」
言いながら、エヴィンの顔がさらに真っ赤になった。
「そ、ねえ、どこにあるの？」
わざとあっけらかんとした、何も意識していないかのような口調でリビアは言う。エヴィンは、
そんなリビアの顔に目を背けながら、左手だけを動かし、後方の隅の扉を指さした。
「あ・あの、そっちの右隅のドアで・・・」
「ありがと、それじゃあね〜」
言い終わるとリビアは、足取りも軽くシャワー室へと入って行く。そしてエヴィンは一人、心臓の
鼓動を戻そうと必死に格闘していた。
そして１５分後・・・
ようやくエヴィンの胸の鼓動が収まり、落ち着きを取り戻しかけた時、シャワー室の扉が開く。
だが、そこでバスタオル一枚で出てきたリビアの姿を見た時、彼の目は点になった。思考は
停まり、目眩さえ感じた。本当はちゃんと下に服を着ているのだが、もしかしたらそうかもとか
なんでリビアがこんな事をするのかとか、そんな事を考える前に、瞬間的な過電圧で脳味噌の
ヒューズを数本飛ばされたエヴィンは、目を開けたまま気を失っていた。
「エヴィン君？」
明後日の方向を向き、微動だにしなくなったエヴィンに近寄ると、心配そうにリビアは言った。
若干、何を今更という気がしないでもない。そして黄色いバスタオル（とその下の服）ごしの
胸元が彼の顔に近づいた時、白目を剥いていたエヴィンの瞳に急に生気が戻った。
「先輩っ！」
「！？」
エヴィンの突然の大声と行動に、今度はリビアの思考が停止した。自分の両肩をがっちり
掴むエヴィンの両手の感触と、押し倒された先の背中のベッドの感触以外、感じようにも
感じ取れない。
だが、直後に自分の肩にのしかかる感触は消えた。エヴィンは起きあがり、目をいからせて
ドアの方を向く。そしてそこでリビアも初めて、自分達を取り巻く空気の異常さに気がついた。
「なに・・・この妖気・・・」
「・・・来るっ！」
戦闘態勢を整えながらエヴィンは言った。そして直後にドアが破壊されると、さっきリィズが
描いて見せてくれた物と寸分違わぬ姿をしたモンスターが数体、病室になだれ込んできた。
「このっ！」
言いながらエヴィンは眼前の一体の、杖による一撃をかわしながら相手の懐に潜り込む。
そして腰を落とし、剣を持つかのように構えた両手を相手の腹部に押し当てた。
「ゼロ射程セイバ・・・」
「ダメぇっ！」
瞬間、リビアがエヴィンの腰のあたりに抱きつき、体を横倒しにする。だが、その結果振り
下ろしたドルイドタイプの杖がリビアの背中を直撃した。
「先輩！」
エヴィンはリビアの耳元で叫んだ。しかし息はあるものの返事が無い。完全に気を失って
いるようだった。そんなリビアを抱きかかえ、後退するエヴィン。その顔には言い様のない
悔しさが滲み出ていた。
「僕のせいだ・・・浮かれて、敵の接近に気がつかなかった・・・」
「それで冷静になれなくて、反射的に敵に斬りかかって・・・それで人殺しをしようとする
僕を、命がけで止めてくれた・・・」
「先輩・・・ありがとうございます・・・ここからは、僕が先輩を守ります！」
そう叫ぶとエヴィンは、自分達にもう一撃入れようとする敵に一撃を加えると背を向け、
窓を目がけ一直線に走り出した。
そしてエヴィンは三階の窓から飛び出した。当然、その背中には翼がある。だが、エヴィンは
そのまま下には降りず、逆に翼を羽ばたかせ上昇する。そしてもう一階上にある、リィズの
病室へ飛び込んだ。
だが、リビアの傷の手当をして貰うために飛び込んだその部屋でも、既に戦闘が開始されて
いた。しかも戦況は圧倒的にリィズが不利になっている。ドルイドタイプ数体が同時に発する
グラブトにより押さえ込まれ、更にザンの嵐が彼女に無数の切り傷を負わせる。リィズは両
腕を前面で交差させ、やられないように守りを固めるのが精一杯のようだった。
「リィズさんっ！」
言いながらエヴィンはドルイドタイプの群れ目がけ突進した。そして敵の中でグラブトを放って
いる物を即座に見抜くと、それらの腕に一発ずつ蹴りを見舞う。そしてリィズを押さえ付ける
力がひとまず無くなった事を確認すると、すぐに後ろに引いた。
「大丈夫ですかリィズさん？」
「ありがと・・・ちょっと、危なかったわ。エヴィン君、逃げるわよ！」
「はいっ！」
言い終わるやエヴィンとリィズは一斉に窓から飛び降りた。エヴィンには翼があるし、リィズも
下降中にグラブトを使えばいくらでもブレーキはかけられる。そして地上に降りるとエヴィンは
リビアの手当てを頼んだ。
「ドルイドタイプにやられたの？」
リィズの質問に、エヴィンは悔しそうに頷いた。
「僕のせいなんです・・・僕が取り乱して、相手を殺すような技を使おうとしたから・・・先輩、
それを止めようとして・・・」
「そう・・・」
「でも、リィズさんの近くにも死体とか、それっぽい物は無かった・・・」
「ええ・・・」
リビアの背中にサンフォースをかけながら、今度はリィズが悔しそうに頷いた。
「私も不意をつかれたからね・・・それに、前よりも気配を感じさせないのが上手くなってる
ような気がする・・・ま、ヤキが回ったって事かしらね。」
「そうですか・・・良かった・・・」
「良かった？何が？」
「だって、それってリィズさんも今回、一人も殺していないって事ですよね？前に一度した
からって、もう一度それをして、傷ついたりしていいワケないですから・・・」
いぶかるリィズにそう答えると、エヴィンはスクと立ち上がった。
「エヴィン君？」
「でも、ああいう風に怪物化した人達を、放っておくわけには行かないですよね？・・・僕、
また戦って来ます・・・先輩の看病、お願いします・・・」
「エヴィン君！」
焦りを満面に浮かべた顔で、リィズはエヴィンの肩を掴んだ。だが、エヴィンは即座に
それをはねのける。
「あの怪物を放っておく事はできない、リィズさんは彼らを殺す以外の対策を知らない、
けれど怪物化した人達を助けたい、そうでしょう？」
「え、ええ・・・」
「だったら、僕に任せて・・・いえ、１０分だけでいいから時間を下さい・・・彼らを前にすれば、
もしかしたら何か対策を思いつくかもしれませんから・・・」
「エヴィン君・・・」
そう言われると、リィズもエヴィンを見送る事しかできなかった。
「いつの間にか、ねぇ・・・」
エヴィンの背中を見たリィズは、苦笑いしながらそう呟いた。
一方病院では、数十体のドルイドタイプが大挙して正面玄関に押し寄せていた。エヴィンが
来るのがもう少し遅かったら、外部に散らばっていただろう。そう考え安心しかけたが、彼が
そんな事を考えている間に、ドルイドタイプ達はエヴィンに一斉にグラブトを浴びせていた。
「くっ・・・」
足下が陥没しながらも堪えるエヴィン。だがそんな彼目がけ更にザンが放たれる。これでは、
さっきのリィズと戦況は何ら変わらない。
「何とか・・・何とかしないと・・・！？」
必死で次の手を考えるエヴィン。だがエヴィンは、突然彼を押さえ込む重力が消えている事に
気付く。そして、そんな彼の背には翼があった。
「翼が・・・？僕が呼んでないのに・・・？」
エヴィンは自分の目と体を疑った。ダークファルスの力が、こういう形で出てきた事は一度も
無い。何が何だか分からないまま発動したレガードとの一戦を除けば、基本的に毎回、自分の
意志でコントロールできていた。今回みたいに、自分の意識ははっきりしているのに、勝手に
力が出てきた事なんて、一度も無かった。
「・・・僕に・・・使えと言ってるの・・・？」
背中の翼に、語りかけるように言うエヴィン。しかし彼は、直後にそれを強く否定した。
「ダメだ！できるわけがない！！」
「確かに敵は密集してるし、翼の力を全開にすれば一気に倒す事ができる！けど、それじゃ
何にもならないじゃないか！！」
（案ずるな・・・）
「・・・？誰・・・？声が・・・」
エヴィンは辺りを見回した。だが、自分とドルイドタイプ以外誰もいない。それにその声は、
太く低い声だったが、彼が知っている誰の声とも違った。そして再び、エヴィンの頭の中に
声が響いてきた。
（翼に、お前の意を乗せよ・・・濁流が業火を制するように、闇で闇を切り裂いてみろ・・・）
「だ・・・誰・・・姿も見せず、直接僕の頭に語りかけてくるあたなは・・・」
（姿を見せないのではない・・・エヴィン、私はお前の中にあるがゆえに、お前は私の姿を見る
事はできない・・・）
「・・・？？？」
（我が名はダーク・ファルス・・・滅びのためにもたらされし者・・・そして今は・・・約定のため
お前とともにある者・・・）
「・・・ダーク・・・ファルス・・・あなたが・・・？」
（ええ・・・）
今度は、別の声がエヴィンの頭の中に響いてきた。優しそうな女性の声である。そしてその声に、
エヴィンは聞き覚えがあった。
「その声！あなたは確か、僕がディルナに捕まって苦しめられていた時に精神世界で僕の事を
助けてくれた人！？」
（はい・・・覚えてくれていたのですね・・・）
「もちろんです！あの、ずっとお礼を言いたくて・・・今、どこにいるんですか？」
（ダークファルスと一緒よ・・・あなたの、心の中に・・・あなたが生まれた時から、ずっと・・・）
「・・・！！」
（エヴィン・ハランツ・・・アリスとアレンの孫・・・二人と私との、約束の子・・・）
（恐れないで・・・あなたの中の闇の力は、夜の安らぎのような力・・・）
「夜の・・・安らぎ・・・？」
エヴィンは、その言葉の意味を掴みきる事はできなかった。だが、そんな事を考えている間に
ドルイドタイプ達は更にその距離を詰め、必殺の間合いまで来ている。エヴィンは息を大きく
吸い込むと目を見開き、背中の翼に全神経を集中させた。
「この一撃に全てを賭けて・・・」
「闇の翼よ・・・羽ばたけえぇっ！！！」
・・・
・・
・
それと同じ瞬間、病院の外庭・・・
「う・・・うん・・・」
「大丈夫？まだどこか痛む？」
意識が戻ったリビアに対し、心配そうな声でリィズは言った。だがリビアは、自分のケガの
事など全くと言っていいほど気にしていない。
「リィズさん・・・！エヴィン君は！？」
「・・・一人でドルイドタイプを止めに行ったわ・・・」
「なんで・・・なんで止めてくれなかったんです！」
怒りと焦りの入り混じった顔でそう言うと、リビアは一直線に病院へ駆け出した。当然、
リィズもリビアとともに走り出す。そして駆け込んだ病院のロビーで、二人は無数の
ドルイドタイプの死体と、その奥で二人に背を向け、両膝をつき動かないエヴィンを見た。
「エヴィン君！」
反射的にリビアはエヴィンの元へ駆け寄った。そして顔を覗き込むと、その瞳からは涙が
止めどもなく溢れている。だが、そこでエヴィンは、リビアの理解できない言葉を口にした。
「よかった・・・」
「・・・エヴィン君・・・？」
「五十年前の願い・・・無駄になってなかった・・・」
「？？？」
エヴィンの言葉の意味が全く理解できず、リビアは何をすればいいのか分からない。
そして何をすればいいのか分からないまま振り返ると、後ろで倒れていた人達は皆、
ドルイドの姿から人の姿へと戻っていた。そして、それらの人々の口元に手を当て、
驚きの表情を浮かべているリィズがいた。
「生きてる・・・」
「リィズさん・・・？」
「ドルイドに取り憑かれた人達から・・・ドルイドだけが消滅している・・・」
「え・・・それって・・・」
「やったわエヴィン君！あなた勝ったのよ！！」
普段のリィズからは考えられないくらいはしゃぎながら言うと、リィズはエヴィンを、
窒息しそうなくらいに抱き締めた。
「エヴィン君・・・あなたって子は本当に・・・」
「うぐ・・・く・苦しいですリィズさん・・・」
「あら・・・」
エヴィンにそう言われ、リィズはやっと手を離した。
「けど・・・あなた一体何をしたの？」
「はい、あの、闇の翼で・・・」
「闇の翼で？」
エヴィンの答えに、リィズは意外そうな顔をした。
「闇を制する闇・・・それがあなたの闇の力の本質なの？」
「分かりません・・・」
リィズの問いに、エヴィンは静かに答えた。
「でも、５０年前の戦いの時のミューさんの想いが無駄になってなかった・・・それで
今回、巻き込まれた人達を助ける事ができた・・・今は、それで十分です・・・」
全精力を使い果たし、疲れ切った、しかし満足そうな表情でそう言うと、エヴィンは
ニコ、と微笑んだ。
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