二つの「闇」　〜時の交差後伝〜

「・・・てっきり、下から来ると思っていたのに・・・」
「クルウェルは元四傑のヘラルドを吸収する事で自由を得たからね・・・そしてその時、ヘラルドは
　ワープ能力を持つ剣『次元刀』を持っていた・・・そこから瞬間異動を習得していても不思議じゃ
　ないわ。」
クルウェルの行動を分析してエレナが言う。そんな五人の前で、クルウェルは咆哮をあげた。

「フゥウォォォォオオオォォォッッッ！！」
「！！」
魂さえも凍りつかせそうなその禍々しい声に、マークは強い戦慄を覚えた。その威圧感は、先に
自分が戦ったアイオーンタイプとは比べ物にならない。
「・・・我ガ名ハ、クルウェル・・・太古ヨリ、コノ地ヲ統ベル王ナリ・・・」
「・・・王様を名乗るんなら、もう少し移民に寛容になって欲しいモンだがねぇ・・・あんたの王朝に
　法務局があるか知らねぇけど、こっちは子々孫々まで、国籍つきで居つくつもりなんだから。」
自分の緊張を振り払うため、マークはクルウェルに対しあえて軽口を叩いた。だが、その言葉に
対して帰って来たのは、全方位に向け発射された、強烈な熱量を持ったレーザービームのような
攻撃だった。

「ちっ・・・やっぱり冗談や正論が通じる相手じゃねぇか・・・」
「・・・当たり前でしょ・・・クルウェルにそんな事言う人間なんて初めてよ。あなたが余程の度胸の
　持ち主か・・・それとも単なる考え無しか・・・９９％後者でしょうけど。」
「んだとぉ！アンタ初対面の人間にさっきから・・・ってぇぇぇえええ！！」
最初の攻撃を回避した時、偶然隣に来たエレナとまたケンカになりかけるマークだったが、敵の
第二波の攻撃をかわす事で再び二人の距離は離れた。

「・・・二人とも何をやってるんだか・・・」
そんな二人のやり取りをわき目で見ながら、呆れた様子でリィズは言った。だが、そうこうしている
うちにクルウェルは自身の部下を召還する。
「出デヨ我ガシモベ・・・」
その言葉で、まず二十体を超すソルジャータイプが空中にあらわれた。そしてクルセイダータイプも
二体、その姿をあらわす。クルウェルはそれらを見ると静かに「行ケ・・・」と命じた。

「フン・・・その程度の敵っ！」
そう言って最初に、ソルジャータイプへの攻撃を仕掛けたのはエレナだった。彼女は懐から拳銃を
抜くと迫り来るソルジャータイプの群れに向けて構える。そして引き金を引くと一気に五体の敵が
後方に弾け飛んだ。
「ハンドガンタイプのショットガン！？」
驚き混じりの声でリィズは言った。だがその間にもエレナは二発・三発と立て続けに引き金を引く。
ハンドガンタイプなので、どうやら威力は大型の散弾銃に比べると若干劣るらしい。また反動も
マグナム銃クラスはあるらしく、エレナが両手で構えて制御できる、ギリギリの物に思えた。だが
ソルジャータイプのような、単体の戦闘力は低いが数で押すタイプの敵には最適の銃に思えた。

「エレナも、色々と考えてるみたいね。」
「ああ・・・クルウェルへの恨みは、エレナが一番深いからね・・・色々研究もしてるんだろう。」
「ええ。」
フィルの言葉にリィズは頷いた。その間、目の前のソルジャータイプを退けたエレナは、今度は別の
銃を懐から取り出し、クルセイダータイプにその銃口を向けた。
「力押しだけが戦いじゃないのよ！」
言いながらエレナは銃を撃った。クルセイダータイプは突進しながら、反射的に背中の触手を傘の
ように広げそれを防ぎにかかる。だがその瞬間、真っ赤な液体が触手をおおった。
「ギャウッ！？」
異変を感じたクルセイダータイプはすぐに触手を元に戻そうとする。だがいくら力を入れても、
こびりつき、ゴムのようになった液体がそれを許さない。
「トリモチ弾よ。ちょっと古典的だけど、効果はあったみたいね。」
「・・・ガルッ！」
それでも敵は、その身を大きく跳躍させてエレナに襲い掛かった。エレナはそれを見ると懐から
三つ目の銃を取り出し、敵の身体中でも特に装甲の薄い部分目がけ発射する。
「これでトドメよ！」
今度は、普通の単発のレーザーピストルだった。しかし単純な攻撃力ではこれまでの武器の中で
最も高い。エレナはそれを乱射し、そして六発目の光弾が身を貫いた時、クルセイダータイプは
その場に倒れ、動かなくなった。

「まあ、ざっとこんなモンね。さて次は・・・」
そう言ってクルセイダータイプに背を向けたエレナだったが、直後に彼女は強烈な殺気を背後に
感じ取った。死んだと思っていたクルセイダータイプが突如息を吹き返し、彼女に飛びかかった
のである。
「そんな！？」
エレナは身を翻し攻撃をかわそうとする。だが不意をつかれた今の段階では、攻撃をかわす事は
できそうにない。しかし、その鋭い爪がエレナの顔を切り裂こうとしたその瞬間、クルセイダー
タイプの身体は大きく横へと傾いた。

「番犬風情が調子に乗ってんじゃねぇぞコラァ！」
「マーク！？」
突然の救援に驚くエレナ、だがそんな彼女には目もくれず、マークは敵の下に回りこむ。そして
一瞬身をかがめると、アッパーカットが相手の顎を砕いた。
「ギャウッ！」
顎を砕かれたクルセイダータイプは、口から大量の血を流しながらも、前足の爪は本能的に動き、
マークを切り裂こうとする。だがマークは、その攻撃も簡単にかわすと、逆に敵の前足を踏み台
として相手を駆け上った。

「こいつでトドメッ！」
その言葉とともに、敵の上空を取ったマークの踵落としが今度は敵の脳天を砕く。そして前のめりに
倒れたクルセイダータイプは、今度こそそのまま動かなくなった。
「動物は死んだフリするんだぜ、気をつけろよオ・バ・サン！」
「く・・・」
今度はエレナも反論できなかった。そしてその直後、戦闘の流れで自分のすぐそばに来ていた
リィズに声をかける。

「リィズ・・・」
「なに？」
「あの子・・・どういう子なの？シーレンの銃弾をかわすし、クルウェルモンスターを相手に
　あそこまでやるなんて普通じゃ・・・」
「どうやら、ヴァルグと戦ったみたいね・・・結果はよく分からないけど、それでスイッチが入った
　みたい。初め見た時は、せいぜい町のケンカ自慢程度だったんだけど。やっぱり血筋のなせる
　技なのかしらね。」
「・・・血筋・・・？」
「ティーズのひ孫よ、あの子。」
「・・・そう、だったの・・・ティーズの・・・イメージ違うわね。」
「表面的な性格は血筋よりも環境の影響の方が強いっていう良い見本よ。」
驚くエレナに、リィズはサラリと言い放った。そしてその一方で、フィルとシーレンは残る一体の
クルセイダータイプに挑みかかっていた。

「・・・・・・」
無言のままシーレンは腕を突き出し、仕込まれていたハンドガトリングを展開させ乱射する。
クルセイダータイプは、いつも通りそれを背中の盾で受けながら突進して来たが、突如その
盾を大きく、背中で高速に回転をさせはじめた。

「・・・別方向からの攻撃が来る事も読んでいたというワケか・・・さすが野性の本能・・・」
敵の動きを見て、ニヤリと笑いながらフィルは言った。事実、シーレンの攻撃に気を取られている
隙にフィルが一撃を叩き込むつもりだったのだが、そこまで単調な相手でも無かったらしい。だが
そうと分かった後でも、フィルの顔から余裕は消えていなかった。
「なら、作戦変更だ。僕の力を見せてやる・・・」
フィルのその言葉とともに、空気がパチパチと音を立てながらかすかに震えるのを、場にいた他の
全員が感じ取った。
「静電気・・・？」
その空気の流れを見てマークがつぶやく。そして、その言葉は正解だった。空気中の静電気が
フィルの元へと集束し始める。そしてそれは間もなく一つの青白い、バレーボール程の大きさの
電気の球となった。

「喰らえっ！」
フィルがそう言うと、電気の球はクルセイダータイプ目がけ一直線に飛んで行く。だが、それは
回転するクルセイダータイプの装甲に簡単に阻まれ四散してしまった。
「なんだ・・・？」
フィルの攻撃があまりに簡単にはじき返された事に、拍子抜けした顔をマークは見せる。だが、
当のフィルは全く落胆しておらず、相変わらず集中した顔で、今度は腕を上に振り上げた。

「出ろ・・・四百の銀龍！！」
「なにっ！？」
その瞬間、マークは目を疑った。四散したかに見えた電気の球の破片の一つ一つが、小さな
龍のような形となってクルセイダータイプに襲いかかったのである。あらゆる方向から襲い
かかるその様子は、無数の小さな龍が、一匹の獣を喰いちぎっているかのようにマークには
見えた。

「・・・・・・」
クルセイダータイプは断末魔の声をあげる事もできず黒コゲになりその場に横たわった。辺りに
焦げ臭い異臭が漂う。そしてフィルはクルウェルの方を向き直した。

「勝負だ、クルウェル・・・」
言いながらフィルは攻撃態勢を整えた。無論、シーレンとエレナ、マークとリィズも同じである。
だがクルウェルは攻撃を仕掛ける事もせず、また新たに部下を召還する事もしない。不気味な
までに沈黙していた。

「くっ・・・」
クルウェルの不気味な動かなさに、彼らも動けなくなった。クルウェルモンスターは、フィル達が
十年前に戦った時よりも大なり小なりその性質が変化していた。だからクルウェルもそうである
可能性は限りなく高い。迂闊な行動は即、死を意味するように思えた。

「・・・・・・」
シーレンを除く全員の額に、冷たい汗が流れる。シーレンも、エレナの守護のため動かなかった。
そして、そんな中で真っ先に沈黙を破ったのはマークだった。
「止まっててダメージを与えられるワケじゃねぇ！」
「マーク君！無謀よ！！」
マークの行動にリィズが叫ぶ。だがその瞬間、彼女はクルウェルがニヤリと笑うのが見えた。それは
リィズが生まれて初めて見る、魂が凍りつくかと思うような不気味な笑みだった。

「地熱ヨ・・・弾ケヨ・・・」
「なにっ！？」
「まずいっ！」
クルウェルの言葉と、一瞬で起きた地面の熱の膨張に、全員の顔が戦慄する。そして次の瞬間、強烈な
爆発音が辺りを包み込んだ・・・

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・・・それをさかのぼる事四時間半、ネオアリサ北部の地・アーパス・・・

「エリーちゃん・・・僕達、『トライデント』の本部に行くんだよね・・・？」
「そうだけど？」
「でも、さっきからずっと駅と逆の方向に歩いてるけど・・・」
「・・・あんたね・・・」
不安そうな声で尋ねるエヴィンに対し、若干呆れ顔でエリーは言った。
「電車なんか使わないわよ。第一、私がどうやってタリナからアーパスまで、一瞬で来れたと思って
　るの？」
「そう言えば・・・それもそうだよね。」
ポン、と手を叩きながらエヴィンは言った。そしてそのまま町外れまで歩き続けると、誰も住んで
いないような家の前に着いた。

「パパが調べたんだけど、ここはオーナーが冬にしか来ないんだって。」
エヴィンが何も聞かないうちに、エリーは家についてそう説明する。そして言いながらエリーはドアの
ノブをひねり、エヴィンを中に招き入れた。

「こっちよ。」
大なり小なり、不法侵入の罪悪感に駆られソワソワするエヴィンを、エリーはそう言って先導する。
そして入ったリビングの中では、一本の光の柱がフワンフワンという不思議な音を立てながら立って
いた。

「これは・・・？」
「転送ゲートよ。これを使うと、一瞬で目的地に行く事ができるの。前に一度私が使った時は一方
　通行だったけど今は往復で使えるみたい。」
「ふ〜ん・・・」
「エヴィンも一度、使った事があるんだけど・・・覚えてないわよね。あの時、意識不明だったし。」
「え？う、うん・・・」
エリーの言葉に、エヴィンは申し訳なさそうに頭を掻いた。そんなエヴィンを見て、エリーは微笑み
ながら「まあ、仕方ないけどね。」と言い、光の柱のすぐ隣へと歩み寄る。

「それじゃあ・・・行きましょう？」
「うん・・・けど、ちょっと待って。」
「？どうしたの？」
エヴィンの言葉と、何かを考え込んでいるかのような態度にいぶかしげな顔を見せるエリー。だが
直後にエリーは、彼が何を考えているのかに勘付いた。

「・・・リビアさんの事考えてる・・・？」
「・・・！」
エリーのボソとした一言に、エヴィンは体をビク、とさせ、歯を食いしばってて硬直する。その様を
見て、エリーはフゥとため息をついた。
「やっぱり、気になるんだ・・・」
「うん・・・」
力なくエヴィンはつぶやいた。
「先輩には黙って出て来ちゃったし・・・それで、もう会えなくなるかもと思ったら、ちょっとね・・・」
「・・・・・・」
エヴィンの言葉に、エリーは無言で少し、ムッとした顔をする。そしてそのまま、怒ったような表情で
口を開いた。
「パパが興味があるのはエヴィンの中の力だけよ！だから命までは取らないわよ！」
「・・・実の娘の命を脅す人が・・・・・・他人の僕の命を気づかうと思う・・・？」
「あ・・・」
エヴィンにそう言われた瞬間、今度はエリーの体が硬直した。

「パパ・・・エヴィンを殺すつもりで・・・？」
震える声でエリーは言った。その可能性に、初めて気がついた。実際エリーはディルナに、彼が興味が
あるのはエヴィンの持っている力だけだと言われていた。だからそれさえ切り離せば、エヴィン自身に
特に興味は無いと言われていた。もちろん、その過程でエヴィンが抵抗するであろう事は考えていたが、
そこでのエヴィンの多少のケガよりは、自分の命を優先していた。
だが、「興味が無い」と言う事は、「どうなったって知った事ではない」という意味にもなってしまう。
ディルナがエヴィンからダークファルスの力を切り離すのにどんな方法を使うのかは分からないが、
その後の結果として都合よく、通常人なエヴィンが残るという保障はどこにもなかった。

「わたしは・・・エヴィンを殺す手助けを・・・？」
目の前の一瞬一瞬の出来事に心を奪われすぎていたエリーは、その言葉のショックで急に目の焦点が
合わなくなった。そしてうわ言のように言葉をつぶやき続けるエリーの肩を、エヴィンは激しく揺する。
「エリーちゃん！エリーちゃんっ！！」
「ごめん、変な事言って！大丈夫だから！全部、僕が何とかしてみせるから！！」
「友達だろ！僕を信じてよ！！」
「！違うっ！！」
エヴィンが「友達だろ！僕を信じてよ！！」と言った瞬間、エリーの瞳は再び焦点が合い、そして目一杯の
力でエヴィンを突き飛ばした。

「嫌よ・・・私、やっぱりエヴィンを、パパの所には案内しない・・・」
「エリーちゃん！」
「だって違うもの！エヴィンにとって、私は友達かもしれないけど、私にとってのエヴィンは友達じゃないから！
　私は・・・私はエヴィンの事が好きだから！」
「！！」
その言葉を聞いた瞬間、エヴィンは再び硬直した。エリーもまた、顔を真っ赤にして硬直する。だが、
それも長くは続かなかった。さっきまで真っ赤だったエリーの顔が一瞬にして真っ青になり、同時に
腕もだらんと下がってしまったのである。

「・・・エリーちゃん？」
エリーの急激な変化に不安を覚えたエヴィンは、声を震わせながら話しかける。だがその瞬間、エリーは
口から大量の血を吐き前のめりに倒れこんだ。
「エリーちゃんっ！！！」
床に倒れそうになるエリーを、エヴィンは絶叫とともに抱きとめた。だが密着したエリーの身体から、
彼女の心臓の鼓動は伝わって来ない。

「エリーちゃん！しっかり！！」
腕の震えを必死に押さえながら、エヴィンはエリーを静かに寝かせ心臓マッサージをしようとする。
だがその前に目の前の光の柱が動き出し、中から一人の人物が姿を現した。

「ディルナっ！」
「その手を離せ！エヴィン・ハランツっ！！」
戦闘のための態勢が全く整っていないエヴィンにそう一喝すると、ディルナはエヴィンの体を蹴り飛ばし、
エヴィンからエリーを奪い取った。そして動かなくなったエリーを一瞬、寂しそうな顔で見つめると一言、
「愚かな・・・」とつぶやき、自分の後方へ投げ捨てた。

「全く、どうしようもないバカ娘だ・・・私の意に逆らえば、その瞬間に命を落とす事になると、あれほど
　言っておいたのにな・・・」
「ディルナ！」
エヴィンは自分の体が、これまで感じた事のないような怒りで満ち溢れるのを感じた。そしてその怒りは
反射的にエヴィンの体を突き動かす。
「本当に・・・自分の子供に・・・っ！」
「ああ！しかし、我が子がこれ程までに愚かだとは思わなかったぞ！刹那の情愛に命を捨てる・・・しかも！」
「！！」
ディルナの爪がエヴィンに迫った。エヴィンは突進する体を大きく横に振り、紙一重でそれをかわす。
だが、ディルナの拳には彼の爪が切り裂いたエヴィンの髪の毛が数本握られていた。
「しかも、相手の心の中心にいるのは、自分ではないと知りながらな・・・」
その言葉とともに、ディルナの握っていたエヴィンの髪の毛は紫色の炎に包まれ、一瞬で燃え尽きた。

「・・・若干、行動予定が狂ったが・・・ここで終わらせるとするか・・・」
静かな、しかし底冷えのする声でディルナは言った。その言葉を前にエヴィンも身構える。だが次の
瞬間、ディルナはエヴィンの方へではなく、自分の真横へ飛んだ。
「！？」
エヴィンは、ディルナの行動の意味が即座には理解できなかった。だが、それもすぐに理解できた。
ディルナが横の扉を開けると、そこにリビアが立っていたのである。

「先輩！？なんで！？」
「貰ったぁっ！！」
リビアが何も言い出せないうちに、ディルナの左腕はリビアの首筋を掴んでいた。それからディルナは
再び自分の元いた位置へと飛び直すと、右肩にエリーを抱える。そして右腕に魔力をこめ、それを床に
放つと、もう一本の光の柱があらわれた。
「く・・・離し・・・」
首筋を掴まれ持ち上げられたリビアは、苦しそうにそう言いながら腕を振り解こうとする。だが、その
程度の抵抗はディルナに何の意味もなさなかった。

「動くなよエヴィン・・・動けば、こいつの首が折れる・・・お前が、心の中心に置いている者のな・・・」
その言葉にエヴィンは歯噛みした。そしてディルナは、そんなエヴィンに嘲笑を浴びせながら話し続ける。

「今、私が作り出した転送ゲートはトライデント本部の最下層に通じている物だ。そして私は館内の防衛
　レベルを最大にした上で、最上階でお前を待つ。一人で追いかけて来るのだなエヴィン・ハランツ。」
そう言うとディルナは、隣にあった元からある転送ゲートに飛び込んだ。するとゲートは強烈な光を放ち、
エヴィンの視界を塞ぐ。そしてエヴィンの視界が戻った時にはその光の柱は消え、ディルナが「本部の最
下層につながっている」と言っていた転送ゲートのみが残っていた。

「エリーちゃん・・・先輩・・・僕が、絶対助けるから・・・」

呼吸を整え、静かにそう言うと、エヴィンは光のゲートに飛び込んだ。

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