「・・・ここが、『トライデント』の本拠地・・・」
あたりを見回しながらそうつぶやくエヴィンだったが、直後に彼は妙な感覚に襲われた。
「？あれ？この感じは・・・」
急にキーンという耳鳴りと、そして耳に見えない幕がかかったような感じにエヴィンはなった。
一瞬慌てたが、すぐにそれ以上の事はないと分かると右手で鼻をつまみ、つまんだ鼻へ息を
吹き込んだ。飛行機内で耳鳴りがした時によく行う方法である。そして彼は、再び周囲を見た。
「この雰囲気・・・なんか、お城みたいだ・・・」
石のレンガのような物でできた壁をさわりながらエヴィンは言った。だが、ここが何と言う城かは
エヴィンには分からない。リーク王家の古城にしてはやけに新しそうなのが気になる。ディルナが
自分のために作ったのだろうか？しかし、それにしても寒いとエヴィンは思った。多少は良い服を
着てリビアと出かけようと思っていた所だったし、そもそも避暑地のアーパスにいたのでブレザー
くらいは着ているが、それでも寒かった。
だが、ディルナに連れ去られたリビアとエリーの事を思うと、それらの事はすぐに気にならなくなった。
「エリーちゃん・・・先輩・・・頼むから、無事でいて・・・」
「・・・無関係な事だ・・・」
「！？」
これまで何の気配もなかった背後から急に聞こえてきた声に、エヴィンは咄嗟に反応した。そんな
彼の目の前に、巨大な火球が迫ってくる。
「ダメだ！間に合わない！！」
自分の目の前に来ていた火球に対し、即座にそう判断するとエヴィンは闇の力を発動させた。
「シールドっ！」
エヴィンの左腕に生じた闇の盾が、敵の攻撃を完全に防ぐ。そしてエヴィンは敵の姿を見た。
緑色のマントに茶色いローブ、それに銀色の靴とガスマスクのような仮面に身を包み、腕に
一本の杖を持った者である。形としては人型だったが、果たしてそれを人と呼んでいいのか、
エヴィンには判断がつきかねた。
「永遠の眠りにつくがよい・・・このラシュートで！」
「させるかっ！」
敵が再び杖を振り上げた隙に、エヴィンは相手の懐に潜り込む。そして腰を落とし、両手を
グッ、と握り締めると攻撃のための技を発動させた。
「ゼロ射程セイバー！」
エヴィン渾身の一撃が敵を切り裂いた。敵は、声もなく後方に倒れる。と同時にその肉体は
消滅し、着ていた物だけが残された。
「人間じゃ・・・ない？」
尋常ではないその消滅の仕方を見てエヴィンはつぶやいた。その顔には、少し安心したような
物が見られる。だが、エヴィンはすぐ眉間にシワをよせた。
「人間じゃなかったから、『人殺し』にはならないけど・・・でも・・・」
エヴィンはため息をついた。
「やっぱり、気持ちの良い物じゃないよね・・・でも、今は前に進む事を考えないと・・・先輩と
エリーちゃんの居場所を探さないと・・・」
そう言うとエヴィンは気持ちを切り替える事にした。そして再び歩き始めた彼に、今度は別の
異形の物が襲いかかる。
「エヴィン・ハランツ・・・」
「闇であって闇でなく、光であって光でなき者・・・」
「汝の在る場所、この世にあらず・・・」
「然しうして、冥府にもあらず・・・」
「滅ぶべし・・・消えるべし・・・我等にその血肉を捧げるべし・・・」
エヴィンの眼前に現れた、新たなる異形の者、それは先ほどの魔導士と同系列と思われるが、
しかしそれぞれ違う色の服を着た者が各一体、人の体に山羊のような顔を持った者が一体、
空中に霧のように浮かぶ男の亡霊のような存在が一体、そしてそれらを統率するかのように
立つ、腕以外の全身を余す所なく緑色のローブで覆った者が一体だった。彼らは先の言葉を
言い終えてからももなお、エヴィンを呪う言葉を吐き続けた。
「エヴィン・ハランツ・・・」
「汝の在る場所、この世にあらず・・・」
「うるさい！黙れ！！」
言いながらエヴィンは走った。そしてその目を、最初に呪文の詠唱を終えようとしていた、先の
敵と同系列だが、赤紫のマントと緑色のローブに身を包んだ魔導士へと向ける。そして詠唱を
終えた魔導士の杖に、エヴィンの闇のワイヤーが絡んだ。
「それっ！」
エヴィンが急激にワイヤーを引っ張ると、敵の杖はエヴィンではなく空中の亡霊の方を向いた。
しかし一度発動した魔術を止める事はできず、魔導士の発した火炎は、味方であったはずの
空中の亡霊を一瞬で焼き払う。だがそれはエヴィンにとって序章にすぎなかった。
「縮め！」
エヴィンの一言でワイヤーは急速に縮み、エヴィンと魔導士の間合いを一瞬にして詰める。
エヴィンは魔導士の胸倉をつかむと、即座に相手の腹部に膝蹴りを入れた。
「ぐふ・・・」
敵の魔導士の顔が苦痛にゆがむ。しかしその無防備な背中に、彼らの首領格の魔導士が
マジックを放った。
「タン・・・ディ・・・ラ・・・」
魔導士がそう言うと同時に、青い閃光がエヴィン目がけ放たれた。だがエヴィンは、自分が
掴んでいた魔導士を盾にしてそれを防ぐ。当然その瞬間に、赤紫のマントの魔導士は絶命
していた。
「見える・・・一対多数でも、空気の流れが！」
珍しいくらいに自信に満ち溢れた声でエヴィンは言った。だがその瞬間、全身に緑のローブを
着た魔導士と、今しがた自分が倒したのと同系統の魔導士の二体が左右から同時に放った
攻撃テクニックがエヴィンを襲う。そしてその直後に両者の魔力は空中でぶつかりあい、巨大
な爆音が辺りを包む。そして音がやみ、煙もおさまった時、中心にいたはずのエヴィンの姿は
何処にもなかった。
「葬ったか・・・」
「骨も残らなかったか・・・」
顔を見合わせ二者は言った。だが、その言葉と予想は完全に外れていた。エヴィンは闇の翼を
使い、上に逃れていたのである。そして相手が自分の位置を再び把握する前に、エヴィンは次の
攻撃へと移った。
「エアレイドっ！」
空中で翼を剣に変換させたエヴィンの、加速をつけた斬撃が首領格ではない方の魔導士の背を
切り裂いた。そして着地すると同時にエヴィンは後ろ蹴りを放つと、それは、背後から彼に襲い
かかろうとしていた山羊の頭を持つ怪物の腹部を、正確に捉えていた。怪物の体が「く」の字に
曲がる。
「ぐかっ・・・」
「急所の位置は、人体と同じ・・・それなら！」
そう判断したエヴィンは、素早いフットワークでヨロヨロと後退する怪物を追った。そして敵に
追いついた瞬間、彼の拳が怪物の眉間にめりこむ。
「正中線四連突き！」
「グフォッ！」
急所に立て続きにのめりこむエヴィンの拳を前に、怪物は苦しみのうめき声をあげた。そして
そんな敵へのトドメに、エヴィンが鉄山靠を叩き込むと、相手は受け身も取れず真後ろに倒れ
動かなくなった。
「これで残りはあと一体！」
振り返り、戦闘態勢を整えながらエヴィンは言った。だが首領格の魔導士はがゆっくりと右腕を
上げ、さらにそこから指を一本動かすと、これまでエヴィンが倒してきた相手は再び立ち上がり
エヴィン目がけて襲いかかってきた。
「・・・ウソでしょ・・・」
目の前の状況に唖然としながらエヴィンは言った。しかし、甦って来てしまったものは仕方ない。
エヴィンは再び敵に向かうが、そこから何度敵を倒しても、緑色の魔導士はそれを甦らせた。
「このままじゃキリがない・・・」
膝を落とし、肩で息をしながらエヴィンは言った。これまでダメージらしいダメージは受けて
いないが、このままではやられるのも時間の問題である。しかも首領格の魔導士は他の
者に完全にガードされ、近づくことはできそうになかった。
「それなら全員一撃で倒すしかない！」
敵を見据え、歯を食いしばりながらそう言うと、エヴィンは大きく息を吸い込んだ。そして敵の
攻撃をかわしながら、彼らが一直線に並ぶのを待つ。そして彼らの陣形が、エヴィンの望む
ような状況になった所で、彼は残る力の全てを全身にみなぎらせた。
「闇の翼よ・・・羽ばたけぇぇぇっっっつ！！！」
・・・
・・
・
そして、五体の敵は跡形もなく消滅していた。エヴィンは疲労を満面に浮かべた顔で、その場に
ドカと腰を下ろす。
「はぁ・・・はぁ・・・まずいな・・・まだ来たばっかりだって言うのに、こんなに疲れてちゃ・・・」
「けど、気のせいかな・・・なんか、息が上がるのがいつもより早い気がする・・・」
「第一、ここはどこなんだろう・・・ん？」
その時、エヴィンはふと、光が漏れている所がある事に気がついた。どうやらその光は、床の
方から射し込んで来ているらしい。エヴィンは少しフラつきながら立ち上がると、光の射す方
へと歩いて行き、そして我が目を疑った。
「ここは・・・空の上？」
地面にはめ込まれた窓、そこから見下ろすと下に見えていたのは大地と川だった。この高さ
なら、高度は数千メートルという事になる。エヴィンは、なぜここに来た瞬間耳鳴りがした
のか、なぜここがやけに寒いのか、そしてなぜ自分の息が上がるのが早いのかを理解した。
「けど、それが分かったからってどうなる物でもないし・・・！」
そう言いかけた瞬間、エヴィンは自分の方へ足音が迫るのを聞いた。しかし、カシャーン・
カシャーンという音の混じった、どう聞いても普通の人間の物とは思えない足音である。
エヴィンは物陰に隠れ、迫ってくる音の正体を待ち構えた。そしてエヴィンが待っている
間、足音は一度も遠くならず、真っ直ぐにエヴィンの方へと近づいて来る。そして数分、
エヴィンのいる所のかなり近くまで来た所で、それらの足音は止まった。
「ターゲットに対し、半径２メートル以内に接近・・・排除行動、開始・・・」
「！今の声は・・・」
すぐ近くから聞こえてきたその声に、エヴィンは敏感に反応した。しかし、彼が身を乗り
出す前に、銃弾の嵐が飛んで来る。エヴィンは反射的に、再びその身を隠した。
「ワイヤー！」
その言葉とともに、エヴィンは物陰から闇の闘気をワイヤーとして出し、動かす。彼の
身体の一部と言えるそれは、エヴィンの視界の外からでも正確に敵の銃を絡め取った。
そして銃撃が止むと、エヴィンはすぐに正面に出る。そしてそこで彼は、自分がよく知る
者と非常によく似た姿かたちをした者を見た。
「シーレンさん！？いや・・・違う！」
敵の姿を見たエヴィンは、一瞬おどろいた表情でそう言いかけるが、すぐに自分の言葉で
自分の言葉を否定した。そして闇の闘気を完全に解除して、真正面から立ち向かう。
「ファイア・・・」
体勢を立て直した機械兵がもう一丁所持していた拳銃を取り出し引き金を引いた。だが、
エヴィンには当たらない。
「シーレンさんならまだしも！」
その言葉とともに、エヴィンは相手の右腕に蹴りを入れ、機械兵の手から銃を落とさせた。
そして今度は、相手が拾う前に相手の手の届かない所へ蹴り飛ばしてしまう。
「・・・・・・」
手にしていた銃が無くなった機械兵は、しかし接近戦を挑むのではなく更に間合いを取った。
そして、そんな機械兵の背後で機械音がしだす。エヴィンはそれが何を意味するのか即座に
読み取ると一直線に突っ込んで行った。
「撃たせるかっ！」
その一言とともに放った蹴りが、敵の機械兵が背部に搭載しているツインライフルを発射
するのを防いだ。そしてエヴィンは、相手の体を一本背負いで投げ飛ばす。格闘技の投げ
技に対して受け身を取る術を知らなかったその機械兵は、そのままの姿勢で脳天を石畳に
打ち付けられ、完全にその機能を停止した。
「こんな心の入ってない機械じゃ、僕には勝てないよ・・・」
動かなくなった機械兵を前に、少しだけ哀れみの表情を浮かべながらエヴィンは言った。
そしてさらにもう一言つぶやいた。「心、か。」と・・・
「僕は・・・エリーちゃんの心を・・・気持ちを、全然分かってなかった・・・」
そう言うとエヴィンはため息をついた。彼の頭の中でエリーの『私はエヴィンの事が好き
だから！』という一言が洞窟の中での叫び声のようにこだまする。彼にとって、誰かに
「好き」と言われたのは、これが初めての事だった。
これがもし、日常の中での出来事だったら、その言葉に対して今自分が抱いているような
気持ちにはならなかったであろう。今のエヴィンの心の大部分が、エリーに対する後悔と
慙愧の気持ちで占められていた。
「お願いだから無事でいて・・・もし今、生きるか死ぬかの瀬戸際にいるのなら・・・頑張って！
エリーちゃん！！」
小さな声で、しかし言葉を噛みしめながらエヴィンは言った。この言葉が、エリーの元へ届けと
心から思った。そして体力が回復するとエヴィンは再び歩き始めた。だが、エヴィンが思って
いた以上に建物は入り組んでいて、数時間さまよい続けても景色に変化は見られなかった。
「・・・どう行けばいいんだろう・・・？」
精神の消耗を顔に浮かべながらエヴィンは言った。しかし、消耗しているのは精神だけでは
ない。さまよっているこの数時間中も、異形の怪物や機械兵に幾度と無く遭遇した。当然、
それらを全て撃退して来たから今も生きているのだが、全てが無傷の勝利というわけでは
ない。深手は負っていないものの傷は多く、彼の着ていた服の両袖は止血の包帯がわりと
なりボロボロになっていた。そしてまた、彼の五感は敵の接近を感じ取った。
「くっ・・・また！」
そう言いながら彼はまた、目の前に現れた異形の魔導士を一体、接近戦で葬った。とにかく
体力の消耗を抑えたいエヴィンは、この数時間の戦いを「空気の流れを読む事で敵に接近し、
最接近した所でゼロ射程セイバーなどで倒す」という戦法をメインとして戦って来た。
「ちょっと、バテるのが早くなって来たなぁ・・・」
周囲に敵がいない事を確認すると、エヴィンはそう言って腰を下ろした。体の疲れもそう
だが、何より喉がカラカラに乾いている。飲料水なんて持って来ていなかったし、ここでも
それらしき物は見ていない。もっとも、たとえ水があったとしても、敵地で、しかも住人が
機械兵と異形の者しかいないような場所の水が安全だという保障は全くないのだが。
「・・・こういう時は、たしか酸っぱい味の物を想像して・・・」
昔読んだ歴史小説の一節を思い出してエヴィンは言った。そしてそれを実践してみた結果、
多少は渇きが癒されたが、こんな事をまさか自分が本気で実践する事になるとは思わなかった。
「もっと、きちんと準備してから来るべきだったかな・・・」
エヴィンはつぶやいた。しかし今となってはどうしようもない事である。それに、町に買い
物に戻っている間にゲートが消えているという可能性もあった。とりあえず、今はそう思う
事にした。
「お金なら、今日は結構もってるんだけどね・・・ってお金？」
苦笑いしながらそう口にしたところで、エヴィンはふとトライデントの資金源は何なのかと
疑問に思った。
「シーレンさんを復活させたり・・・ギゾさんの屋敷を襲えるような構成員が沢山いたり・・・
お金がないと絶対できないよね・・・けど、お爺ちゃんとかも資金源がどうなったとかの
話はしていなかったし・・・」
そんな事を考えながら、エヴィンは探索を再開した。今度は、曲がり角にあたったらその角に
小さな傷をつける事にした。こうすれば、とりあえず同じルートを二度通ってしまう事はない。
そしてこれまで見た事のない場所に出たエヴィンの前に、上に登るための階段が現れた。
「ようやく・・・何時間ぶりだろう、階段を上るの・・・」
ホッとしたような、ゲンナリしたような顔をしてエヴィンは言った。ディルナがいるのは最上階、
自分が来たのは最下層、このディルナの言葉を信じるのなら、ディルナを目指すにはひたすら上に
行く必要がある。そして、今自分が登っている階段はここに来てから三つ目の階段、これからまだ
どれだけの道のりがあるのか、エヴィンはあえて考えないようにしていた。そして階段を駆け上る
途中で、エヴィンは上の階から物音が響いて来るのを耳にした。
「なんだろう・・・」
エヴィンは耳をこらしてその音を聴いた。駆ける音や魔力の発射音、そして金属的な物のぶつかり
あう音が入り混じった音だった。
「誰か・・・戦ってる？まさか！？」
そしてエヴィンは、ほとんど無我夢中に残りの階段を駆け上り、戦いの音がする方へと走る。そして
そこでエヴィンが目にしたのは、確かに戦闘だった。しかし、双方とも人ではなかった。異形の姿を
した者同士が戦っていた。
仲間割れかと一瞬思ったエヴィンだったが、彼はすぐにその考えを否定した。片方は確かに、この場で
これまで戦ってきた者達だったが、もう片方の、複数の敵を相手に一人で、しかも互角以上の戦いを
繰り広げている者はここではこれまで出くわした事の無い者であった。そしてその者が、他の者とは
系統が違うというのも、直感的に感じ取っていた。
「あいつ・・・ここで僕が戦ってきた相手というよりも、むしろ・・・」
そう言いながらエヴィンは物陰で戦いを見た。単騎で戦う異形の者、その者は虎のように巨大な体を
持った狼とでも言えばいいのだろうか、体毛は銀色で、その毛並みと、冷徹にかつ激しく獲物を見据
える眼光の鋭さにはある種の美しさまでが感じられた。そしてその背中には、青黒い大小多数の石で
できた、人のような形をした物体がくっついていた。シルエットだけを見るのなら、鎧を身につけ、馬に
またがった騎士のようにも見える。そして、その石でできた人型の物体は、言葉を発した。
「・・・無駄だ。お前らと私とでは格が違いすぎる・・・死ぬがよい。」
その言葉と同時にモンスターは、石でできた身体の右腕のような部分をムチのようにしならせた。
するとそれは凄まじい速さで伸びて行き、四、五体はいた敵を次々に刺し貫く。そして全ての敵を
葬ったところで、その者はエヴィンのいる側を向いて声を発した。
「いるのだろう、覗き見るという行為は、誉められた物ではない。」
「・・・・・！」
その言葉にエヴィンはビク、とした。しかし、ああいう言われ方をされてもなお逃げ隠れする事が
できないのがエヴィンの性分だったので、彼は全身を警戒させながらも表に出た。
「やはりエヴィン・ハランツか・・・」
石でできた腕を組みながら異形の者は言った。
「！僕の名前を・・・あなたは、一体・・・」
警戒しながらエヴィンは尋ねた。
「私は、クルウェル様により産み出されたクルセイダータイプ。だが私は通常のクルセイダーとは
若干異なっている・・・突然変異体、『βタイプ』とでも言うべき者だ。」
「クルウェルだって・・・」
「ああ、エヴィン、貴様に関する情報は、お前が倒したドルイドタイプを通じて我が創造主である
クルウェル様に送られて来た。故にお前の事は知っていた。それも、覗き見かもしれんがな。」
淡々とした口調でクルセイダータイプは言った。その口調に敵意はなく、これからすぐにエヴィンと
戦おうという様子にも見えない。だが、それでもエヴィンに安易な接近を許さない何かがあった。
そしてクルセイダータイプはなおも話し続けた。
「お前も目的はディルナ・ロックフィールドの命か。」
「え・・・」
「どうなんだ、イエスかノーか。」
「・・・ノーだ・・・」
「ほぅ・・・」
一瞬の戸惑いを見せた後、エヴィンの口から出たその答えにクルセイダータイプは少し意外そうな
声をあげた。
「ならば、なんだと言うのだ？貴様の目的は・・・」
「・・・・・・」
「答えられぬ、か・・・ならば先ほどの言葉は虚言と考えてよいのだな？」
「違う！」
相手の、自分を小ばかにしたような口調に対し、食ってかかるようにエヴィンは言った。
「ディルナに僕の好きな人達がさらわれた！その人達を助けたいから来た！！」
「・・・・・・」
エヴィンの答えに、今度は相手の方が黙り込んだ。そして一瞬の沈黙の後『理解不能だな』と答えた。
「クルウェルモンスターに理解してほしいなんて思っちゃいないさ・・・」
「だろうな。私も、外星系から来た者の末裔の思考など、理解したいとも思わん。」
「・・・・・・」
「だが、お前がディルナを敵視しているという事は理解できた。そして、私はクルウェル様より
命を受け、ディルナの抹殺に来た者だ。」
「！？」
「敵の敵は味方・・・手を組まないか？」
腕を組み、悠然とエヴィンを見下ろしながらクルセイダータイプは言った。
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