「貴様・・・」
怒気に満ちた声でディルナが言った。エヴィンは、そんなディルナの顔を前に、くじけそうな心を
必死に叱咤激励する。
「違う・・・」
「何がだ？」
「違う！！」
「何がだと聞いている！！」
感情的なエヴィンの叫び声を一喝するかのようにディルナは言った。その声の雰囲気は、駄々を
こねる子供を叱り飛ばす父親のそれにも似ていたが、その一声は逆にエヴィンを冷静にさせた。
「ディルナ・・・あなたは危険だ・・・」
「ほう・・・その心は？」
「この星を守ろうとするあなたの気持ちはわかる・・・それが大義だというのもわかる・・・だけど、
あなたはその『大義』のために奥さんを犠牲にして、エリーちゃんも利用した・・・あなたは・・・
あなたは大義のために誰でも殺せる人なんだ！これから先・・・大義のために何をしだすか
分からない人なんだ！」
「！！」
エヴィンの言葉にディルナの顔がこわばった。そしてその顔が、初めて本気の怒りに染まる。
「何も知らぬ者が、軽々しく人の過去に触れおって・・・」
「・・・来る！」
ディルナの魔力が攻撃的に変化するのを感じると、エヴィンは即座に身構えた。だがその視線
の先にあるディルナの腕の動きは、異常なまでにゆっくりだった。しかし、人を幻惑しようとして
いるようにしか見えないその動きから、エヴィンはなぜか目をそらすことができなかった。
「砕けろ・・・エヴィン・ハランツ！！」
「！！！？？？」
そしてディルナが腕を振り上げた次の瞬間、エヴィンは何が起きたのか理解できなかった。だが、
理由はともかく自分が重傷を負っているのは理解できた。両腕があらぬ方向に曲がり、身体中が
スタズタになりおびただしい量の血が流れ出している。
「っあ・・・・・・」
あまりの痛みに、エヴィンは叫び声をあげることもできなかった。意識も、遠くなりかける。しかし、
そんなエヴィンの心の中に、それらの痛みを通り越して響いてくる声があった。
「落ち着いて・・・その傷は幻・・・」
「え・・・？その声は・・・」
「強力な催眠術は、本物の痛みの感覚を脳に残すわ・・・だからあなたも信じて、こんな傷は、嘘
なんだって・・・」
「け、けど・・・」
「はやく！これ以上私は、あなたを助けられない！」
「は、はいっ！」
切羽詰った感じのする、その女性の声を聞くとエヴィンは瞳を閉じ、強く念じた。
「そうだ・・・こんな技があるのなら、ディルナは先に使っていたハズだ・・・こんな技なんて、こんな
技法なんて、どう考えたってありえない・・・ありえない・・・ありえない！！」
そして目を開けると、腕は元通りになっていた。出血も消え、服に血のシミも残っていない。そして
傷の感覚も、脳裏から完全に消えうせていた。
「貴様・・・」
平静を取り戻したエヴィンを前に、驚きと怒りの混じった顔でディルナが言った。
「やっぱり、催眠術だったのか・・・」
「・・・そんな生易しいものではなかったが、破ったお前にはそう言う資格がある。我が第三の刃、
幻魔の拳オボミナスをな・・・」
そう言うとディルナは小さくため息をついた。
「私の戦術のトライデント、第二の刃ブルーティカスと第三の刃オボミナス・・・その二つを受けても
立っていた相手はお前が初めてだ・・・敵ながら見事、正直そう思う・・・」
「・・・・・・」
「だが、それでも私は負けん。大義ある者が、敗れるはずがない・・・」
「さっきも言った・・・あなたみたいな危険な人の大義なんて！」
「ならば貴様の大義はどこにある！」
「っ・・・」
「たしかに、私は地獄に堕ちるべき所業を繰り返してきた・・・だが我が人生、人並な終焉などは
とうの昔に放棄している！」
「・・・・・・」
「貴様に大義が！ネオアリサとネオパルマの人間をともに救う策があるのなら！口にしてみろ！！」
「・・・・・・」
「それが無ければ・・・私の前に立つな！」
一瞬で間合いを詰めたディルナの拳がエヴィンに迫る。エヴィンはディルナの鋭い手刀を紙一重で
でかわした。だが、彼の着ているシャツは、まるで本物の刃物に切られたかのように裂けている。
エヴィンは、ディルナの拳が鈍器であるだけでなく、鋭利な刃物でもあることを理解した。
「なんてキレだ・・・けど、怖がってちゃ勝てない！」
本能的に後退しようとする足にブレーキをかけ、エヴィンは前に踏み出した。そして左の拳に闇の闘
気をまとわせ、攻撃に出る。だが、その拳はディルナに簡単に受け止められてしまった。
「なんで・・・」
「お前の心に、戸惑いとためらいがあるからだ。そのような者の攻撃など！」
「ぐぁっ・・・」
その一言とともに、エヴィンは拳を潰された。骨こそ外に出ていないが、中で何箇所も折れた感覚が
確実にある。それでもエヴィンは、痛みをこらえ、自分の左手をつかんでいるディルナの右手を打ち
砕こうとするが、その瞬間ディルナはサッと自分の方から手を引いた。
「なっ・・・」
「もらったっ！」
今度は、ディルナの蹴りがエヴィンの脇腹に食い込んだ。ここでもまた、骨が折れたらしい痛みが走る。
肋骨を数本やられたようだった。
「本来なら、このようななぶり殺しは好むところではない・・・だが、私の三枚の刃のうち、二枚まで持ち
こたえてみせた男が相手だ・・・万全を期する。無事に負けられることは無いと思え！！」
「・・・無事に、負けるだって・・・？」
「ああ！お前の実力が私の想像の範囲内であれば、手心を加えられた！オボミナスが直撃していれば、
貴様の肉体は傷つかずに済んだ！これからの痛みと恐怖は！貴様が望んだ物だ！！」
「ヘリクツを！」
怒気を含んだ声でそう言いながら、エヴィンはディルナの上段蹴りを左腕でブロックした。今の防御で、
また腕が折れた気がしたが、その痛みが全身を支配するよりも早く、エヴィンの拳はディルナの顔面を
捉えていた。カウンターで入った渾身の一撃に、ディルナは大きくよろめき、そして尻餅をつく。
「痛みで怯まないのは、僕だって同じだ！」
倒れたディルナをすかさずエヴィンは追いかける。だがディルナは起き上がりながら蹴りを放ってきた。
その、不十分な体勢から放ったとは思えない鋭さと威力を持っていた蹴りは、エヴィンの折れた肋骨を、
再度痛めつける。
「かっ・・・」
折れた肋骨が内臓に突き刺さり、エヴィンは血を吐いた。だがディルナは、そんなエヴィンに対しても
攻撃のペースを落とさない。
「貴様の技、所詮は道場拳法・・・倒れた相手に対する攻撃も、倒れてからの攻撃も想定されておらぬ！
だからこそお前は、これまでも倒れた相手に攻撃を仕掛けなかったのだが・・・焦ったな！」
「・・・・・・」
そして、ディルナの一方的な猛攻が始まった。エヴィンは守りを固め、反撃の機をうかがうのだが、時間が
経てば経つほど、状況は自分に不利になっていく。何箇所の骨が折れたのか、もう確認する気も失せた。
やがて時が経つとともに、エヴィンの心も次第にしぼんで行った。
（ダメなのか・・・やっぱり僕は、ディルナにかなわないのか・・・）
（最初は互角に近かったのに、いつからこんなに押されてるんだろう・・・やっぱり、ディルナが自分の目的を
明らかにしたときからかな・・・でも・・・）
（ネオアリサの数億の人が助かるために、ネオパルマの万単位の人が犠牲にならなくちゃならないなんて・・・
そんな解決のしかた、絶対、間違ってるのに・・・絶対、嘘なのに・・・）
（みんなを助けるための、もっと良い方法が僕には思いつかない・・・）
（今の僕に、大義と呼べる物はない・・・）
ディルナの攻撃を受けながら、エヴィンはずっとそんなことを考えていた。一度考えが悪い方向に行くと、立て
直すのは容易ではない。そしてついに、ディルナの左腕がエヴィンの首を掴んだ。
「ぐ・・・」
強烈な握力で自分の首を絞める腕を放させようと、エヴィンは両腕でそれをほどきにかかる。だがその瞬間、
ディルナはニヤリと微笑んだ。
「ガードを開けたな、エヴィン・・・」
魂さえも凍りつかせそうなその言葉とともに、ディルナの右腕の五本の指が、第一関節までエヴィンの腹部に
めり込んだ。そしてその腕に、ディルナの魔力の全てが集束される。
「個を滅する第一の刃・・・デバステイター！！」
・・・
・・
・
（ここは・・・どこなんだろう・・・？・・・真っ暗だ・・・）
エヴィンは、周囲を見渡した。だが全てが暗闇で、自分以外の何も見えない。そして地面に足がついているの
でもなく、落下しているのでもない、経験したことはないけど、無重力ってこんな風なんじゃないかと、エヴィンは
思った。
（さっきまで、僕はディルナと戦っていた・・・それで、隙を突かれて、ディルナの指が僕の体に刺さって・・・
身体が、中から爆発したような感じがした・・・）
（僕・・・死ぬのかな・・・）
（エリーちゃん・・・リビア先輩・・・そして、まだ誰も会ったことはないけどネオパルマの人達・・・助けられなくて、
ごめんなさい・・・）
寂しげにそう言うと、エヴィンの瞳から涙が溢れ出した。止まりそうもないし、止める気もない。だが、その時
エヴィンは、遠くにこれまで無かった光があることに気がついた。
（・・・？）
（なんだろう・・・あそこに、光がある・・・すごく、暖かそうな光が・・・）
（あれが、天国への入り口なのかな・・・でも、僕、天国に行けるのかな・・・とりあえず、法律に触れるような
ことはしていないと思うけど・・・でも、それ以前に僕、まだ死にたくない・・・）
そう思うとエヴィンは、一度は光から逃れようとした。だが、どんなに遠くに逃げようとしても、光はエヴィンから
遠ざからない。その事実にエヴィンはしばらく悩んだが、やがて意を決すると光の方へと向かっていった。だが
いざ近寄ろうとすると、それは案外遠く、最初は針の先くらいの大きさに見えていた光だったが、近づくと硬式
野球のボールくらいの大きさがあった。そしてそれを前にすると、エヴィンは表情を変えた。
（違う・・・これは天国とか地獄とか、そういう物じゃない・・・）
（前に進みたければ、自分を掴めって言っている・・・大義が欲しければ、自分を掴めって言っている・・・！）
・
・・
・・・
「凄まじい・・・凄まじいまでの闇の力が、私の中に入り込んでくる・・・」
もはや完全に動かなくなったエヴィンの身を左腕で掴み上げ、右腕でその中の力を吸収しながらディルナは
言った。
「デバステイターの直撃を受けた上に、これだけの力を吸い取られているのだ・・・命の保証はできん・・・
だが、これがお前の選択した道・・・恨みたくば恨むがいいが、それは筋違いと言うもの・・・！？」
そう言いかけた瞬間、死体同然となっていたエヴィンの体が、左腕が動いた。そしてその腕は、ディルナが
阻止するよりも早くネイソードを掴む。そして、錆びのような形をしたネイソードの封印の中から、光が漏れ
出した。
「！その手を・・・うぉぉっ！？」
驚愕の表情で、エヴィンの腕を離させようとするディルナだったが、次の瞬間に彼の体はエヴィンが両足で
同時に放った蹴りで突き飛ばされていた。ディルナは、２メートルほど押し飛ばされながらも踏みとどまる。
しかし彼の背にあったネイソードと鞘は、エヴィンの手にしっかりと握られていた。
「ディルナ・・・」
ほんの少しだけ、眉をいからせながらそう言うと、エヴィンは右手に剣の柄を、左手に鞘を、しっかりと握り
しめた。そしてエヴィンがゆっくりと左手と右手の距離を離すと、中からまばゆい光を放つ剣身がその姿を
あわらし、同時に光がエヴィンの傷を癒す。だが、異変はそれだけではすまなかった。
「・・・エヴィンの背中に闇の翼が・・・あれだけ私が、ヤツから吸収したというのに・・・しかも、剣の光が強く
なるのと同時に闇の翼も大きくなっていく・・・光と闇が、共鳴しているというのか・・・？融合することもなく、
そのままの姿で・・・」
「そうだ・・・光と闇は、たとえて言うなら昼と夜・・・両立できる物なんだ・・・」
声を震わせるディルナに、エヴィンは静かな声でそう答えると、剣の全てを鞘から抜いた。
「これが、たった今生まれた、僕の大義・・・貰い物だから、自慢はできないけど・・・」
「貴様の・・・大義だと？その、ネイソードと闇の翼が生んだ共鳴現象がか！面白い・・・話してみろ！いかなる
大義をお前は得た！」
怒りと笑いが入り混じったような表情を顔に浮かべ、ディルナは言った。だがエヴィンは、静かにそれを拒否
した。
「この剣は・・・ネイソードは、まだ僕にほとんど何も話してくれていない・・・だから、説明のしようがない・・・」
「なんだと・・・そんなものを貴様は大義と呼ぶのか・・・ふざけるな！」
「けど、あなたが剣の声を聞いてくれなかったことに対しては、文句を言っていた・・・」
「フン・・・」
エヴィンの言葉を、ディルナは鼻で笑った。そしてそのまま、言葉を続ける。
「まあいい。いずれにせよ、大義の無い者に勝利は無いのだからな・・・どちらの持つ物が真の大義か・・・」
その言葉と同時に、ディルナは自身の闘気を一気に爆発させた。エヴィンの闇の闘気をも吸収したその力は、
これまでよりもさらに膨れ上がっている。ディルナは、獣のような咆哮をあげて突撃した。
「うぉぉぉおおおおぉぉっ！！！」
ディルナは、瞬く間にエヴィンに接近した。そしてその勢いをそのままエヴィンに、ショルダータックルという形で
ぶつける。だがエヴィンは、それを両腕で受け止め少しも後退しなかった。
「これを受け止めるとはな・・・だがボディがガラ空きだぞ！」
自分の攻撃が受け止められたことにディルナは一瞬の狼狽を見せたが、すぐに彼はその中に勝機を見出した。
両腕に守られていないエヴィンの胴体目がけ、彼は再びデバステイターを放つ。
「私の勝ちだ！」
勝利を確信した表情で、ディルナは右腕を突き出した。しかし、ディルナの指はエヴィンの胴体を貫かず、
逆に全ての指があらぬ方向に曲がってしまっていた。
「バカな・・・！？」
「ハッ！」
狼狽するディルナに、エヴィンはそのまま両手で発頚を放った。ディルナの身体は、嘘みたいに遠くへ飛び
何メートルも後ろの石壁に、強く叩きつけられる。だが、それでも動きが鈍くなるほどのダメージは受けて
いない。彼はすぐに、体勢を立て直そうとするのだが、直後に彼を襲った強烈な闇の波動がそれを遮った。
「ぬうっ！」
過去最大の大きさになった闇の翼から生じる黒い突風、その強烈な風圧に、ディルナはほとんど身動きが
できなくなっていた。そして、そんな彼の視線の先に、体の正面でネイソードを水平に構えていたエヴィンが
いた。翼からは闇の力を生みながらも、彼の身体は光に包まれていた。
「・・・ディルナ・・・これで終わりにする・・・」
いつものように静かな口調でそう言うと、エヴィンは前に飛んだ。そのために踏み出した一歩目は、ほとんど
音がしなかったが、ディルナ目がけ水平に飛んでいくエヴィンの動きは矢のように速い。
「ディルナっ！」
「来い！」
接近するエヴィンを前に、ディルナは両腕を十字に組んだ。そして彼の持つ力を、全て防御に集中させる。
（エヴィンは、この一撃に全精力を集中させている・・・これを防げば、私の勝ちだ！）
それが、ディルナの考えだった。そして、事実彼の考えは当たっている。ディルナの魔力もまた、エヴィン
同様、目に見えるほどになった。そして一瞬の後、、両者の力は衝突した・・・
・
・
・
「・・・・・・」
「・・・・・・」
二人とも、ピクリとも動かなかった。ディルナの背後の石壁には、衝撃で無数の亀裂が入っている。やがて
長い沈黙の後、エヴィンは後ろによろめき片膝をついた。
「フ・・・」
そんなエヴィンを見て、ディルナがニヤリと笑う。
「やはり、トライデントは至高の力を生むようだな・・・」
「・・・・・・」
ディルナの言葉に、エヴィンは何も言い返すことができなかった。もう、しゃべる気力も彼には残されていない。
だが、ディルナはしゃべり続けた。
「光の力・・・闇の力・・・そして、それを束ねる人の力・・・貴様は、貴様自身のトライデントを、私よりも先に
手にしていた・・・」
「・・・？」
「トライデントの力、堪能した・・・」
言い終えると、ディルナの口から一筋の血が流れた。そしてさらに大量の血を口から吐き出すとディルナは、
その場に崩れ落ちる。
「僕が・・・勝ったの・・・？」
半信半疑の口調でエヴィンは言った。そんなエヴィンに、ディルナは身動きの取れぬまま再び話しかける。
「どうやら、そのようだな・・・だが、これでお前は後戻りができなくなった・・・」
「・・・・・・」
「できると思うのか？お前に・・・制限時間はあと一週間なのに、まだ何も具体的なことは掴めていないのに・・・」
「・・・とりあえず、まずネイソードに話を聞きに行こうと思ってます・・・」
「話を聞きに行く・・・？・・・ネイソードに？」
「はい、ネイソードが僕にそう言ってきていて・・・！？」
ディルナにそう言いかけたエヴィンだったが、足音がこの部屋に近づいてきているのを聞くと途中で言葉を止めた。
（まだ、何かいるの・・・？・・・って、あれ？でもこの足音は・・・この、雰囲気は・・・）
エヴィンは、不安と期待が入り混じった、複雑な気持ちになった。警戒は解いていないが、警戒に集中できない。
そして間もなく、扉が開いた。
「エヴィン！」
「お爺ちゃん・・・リビア先輩・・・それに・・・それにエリーちゃん！」
エヴィンは、自分の目が信じられなかった。足音を聞き、まさかと思っていた三人が、目の前にいるのである。
「エラく、苦労をかけたみたいじゃの。力になれず、すまんかった。」
エヴィンの肩をポン、と叩きながらアレンは言った。だがアレンには悪いが、今のエヴィンの心は完全にエリー
の方へ行ってしまっている。
「エリーちゃん・・・無事だったんだ・・・よかった・・・本当によかった・・・」
「まあ、見ての通りね。」
エリーはそう言ってエヴィンに微笑みかける。そして後ろを向き、リビアと目を合わせると二人して、うなずき
ながら微笑みあった。
「エリーちゃん、先輩と仲良くなったんだ。」
「あら？これまで仲悪そうに見えた？」
「え？いや、あの・・・べつに、そういう意味じゃ・・・」
エリーの指摘に、エヴィンは口ごもった。『はい、そうです』だなんて、思っていても言えやしない。そして戸惑った
様子のエヴィンを見て、エリー達三人は穏やかな微笑を見せる。そしてディルナもまた、彼らのそんな様子を遠く
から眺めていた。
（・・・エリーが無事だったか・・・それに、友人もできたみたいだ・・・）
（だがエヴィン・ハランツ・・・お前の言う大義とは何なのだ・・・何が、あそこまでの力をお前に与えた・・・）
（見させてもらうぞ・・・そして、お前の持つ物が賭けるに値するものでなかったら、私はもう一度・・・！！！）
その時、ディルナは突然身体の中で何かが暴れ始めたのを感じた。全身をこれまでとは全く別の強烈な痛みが
駆け抜け、そしてその痛みは彼を中から食い破ろうとしている。そして、それが何であるのかディルナは分かって
いた。
（私が三年前に吸収したダークファルスの力が・・・私の支配を逃れ外に出ようとしている・・・）
（こいつは・・・ずっと私から逃れようとしていた・・・私と違い自分が支配できる肉体を探していた・・・）
（・・・だとしたら、こいつが向かうのは・・・私と似た波長の身体の持ち主・・・すなわち！）
「貴様の思い通りにはさせん！」
「！？」
突然聞こえてきたディルナの怒声にエヴィン達四人は振り返り、そして言葉をなくした。ディルナが自分の手を、
自らの心臓に突き刺していたのである。
「パパっ！！」
エリーは、顔を真っ青にしてディルナに駆け寄った。
「パパ・・・どうしたのよ・・・何を、急に・・・」
「なんてことはない・・・お前につこうとしていた悪い虫を一匹、始末しただけだ・・・」
「え・・・？」
ディルナの言葉を、エリーは理解することができなかった。
「どういう意味よパパ・・・言ってる意味が分かんないよ・・・」
「気にするな・・・私はお前を、長いこと苦しめてきた・・・だがお前はもう自由・・・大切なのはそれだけだからな・・・」
そう言うと、ディルナは静かに息を吸い込んだ。顔は、すでに血色を失っている。リビアがテクニックで傷を治そう
としたが、あまりの傷の深さに手の施しようがなかった。ディルナは、リビアを制止させるとゆっくりと口を開いた。
「エリー、少しお前の顔が見えにくくなってきた・・・」
「パパ！」
「だから、お前のことを抱きしめさせてくれ・・・最後だけ、、父親ぶるのもなんだが・・・」
「そんな事・・・パパ！」
エリーは号泣しながら、ディルナを強く抱きしめようとする。だが、そんなエリーをエヴィンは横から押しのけた。
「あ・・・」
「エヴィン君・・・？」
「エヴィン・・・お前、なんて事を・・・」
エヴィンの行動の意味が理解できず、アレン達三人は言葉につまった。だが、そんな三人の様子は、エヴィンの
中に全く入ってきていないらしい。エヴィンは片膝をついてディルナに話しかけた。その言葉には、少し怒気が
こもっている。
「ディルナ・・・あなたは死んじゃいけない人なんだ・・・」
「あなたが死んだら、エリーちゃんはもっと悲しむし、苦しむ・・・」
「もうこれ以上・・・」
・
・
・
「もうこれ以上僕の好きな人達を苦しめないで！」
そして、エヴィンの身体は再び光に包まれた。エヴィンはそのまま、両手の掌をあわせてディルナの心臓部へ
押しあてる。するとエヴィンのエヴィンの身を包んでいた光の一部は、彼の頭上で一人の女性の形になった。
「・・・ミューさん・・・」
その光を見て、アレンは呆然とつぶやいた。そんなアレンの横で、エヴィンは言葉を搾り出す。
「グランツ！」
エヴィンの言葉で、光はディルナへと流れ込んだ。その光で、ディルナの傷は瞬時にふさがっていく。やがて
傷が完全に癒えると、ディルナはゆっくりと立ち上がる。エリーは、そんなディルナに今度こそ力いっぱい抱き
ついた。
「パパ・・・」
「エリー・・・」
抱きつき嗚咽するエリーの頭を、ディルナは優しくなでた。そのときのディルナの顔には、父親以外の物はなかった。
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