二つの「闇」　〜時の交差後伝〜

「そこまでは行ってなかったか・・・ちょっと、カマかけたんだけどよ。」
「・・・？？？」
「まあいいや。んじゃ話の続きに戻るとするか。とりあえず座れ。」
エヴィンの背をバシンと音がするくらいに強く叩きながらマークは言った。だが、本気で痛かった
はずなのにエヴィンは何も反論しない。
「普段なら、こんだけ叩けば文句の一つくらい出てきそうなモンなのに、何も言いやしねえ・・・余
　程気分が浮かれることでもあったんじゃないのか？なあリビア先輩！」
「え゛・・・」
急に自分に話の矛先を向けられ、今度はリビアが赤面した。そんなリビアの顔を見ると、マーク
はまたニヤリと笑い、高らかに声を張り上げる。

「そんじゃ、何色になるかまでは知ったこっちゃないが、ご両人に色をつける未来があるために、
　作戦会議の続きと入りますか。ねえ爺さん！」
「お？お、ああ。・・・しかしお前さん、なんで口調がエセ歌劇調なんじゃ・・・」
マークにそう言わるとアレンは慌ててうなずいた。そんなマークのはしゃぎようを見たリィズは、横
で優しい眼差しとともに微笑む。
（友達の喜びを自分の嬉しさにできる子なのね・・・）
けれどリィズがのんびりとそう思う暇もなく、彼女もマークに声をかけられた。それでリビアも含め
全員が座りなおしたが、もう作戦会議と言うべき内容は残っていない。決まったのは三日後の早
朝６時ににティリアのアレンの家の前で全員集合、それまではそれぞれが自由に行動するという
ことだけだった。
「下手をしたら、これが最後になるかもしれんからの。」
表情を引き締めてアレンは言った。それを見ると他のメンバーの表情もさっきまでとうって変わり、
厳しい物になる。と、そんな中でリビアが小さく手を挙げた。

「あの・・・アレンさん。」
「ん？なんじゃ？」
不思議そうな顔でアレンは言った。
「あの・・・これまでの話だと戦いは結界の中で行われる、そういうことですよね？」
「ん？ああ。」
「じゃあ、その結果のすぐ外には私・・・いてもいいですよね？」
「・・・！」
リビアの発言にエヴィンが真っ先に顔色を変えた。
「そんな・・・危ないよ・・・」
「関係ないわよ。」
不安でいっぱいなエヴィンとは対照的な、明るい表情でリビアは言った。
「だって、みんなが負けたら遅かれ早かれなんでしょ？」
「・・・・・・」
「だったら、私も最後までいさせてもらうわ。せめて応援していたいし。」
「リビアさん・・・」
力の抜けた声でエヴィンは言った。と、同時に横からマークがまた茶々を入れる。

「諦めろよエヴィン。」
「マーク・・・」
「あ〜あ、しかしそうなったらオレらも、ますますもってエヴィンがやられないようにしないとな。じゃ
　なきゃ、たとえ勝ってもリビア先輩に末代まで祟られちまう。」
「祟るってマーク君、あなたねぇ・・・」
「にしてもお前、『リビア先輩』の次は『リビアさん』かよ。もうちょっと、なあ？」
文句を言うリビアを完全に無視し、エヴィンの顔を見るとマークは言った。
「もうちょっと、何さ・・・」
「恋人を気取るんなら、もっとそれらしい呼び方ってモンがあるだろうが。先輩も先輩で、相変わ
　らずエヴィンのこと『君』づけだし。」
「・・・恋人・・・」
エヴィンの顔がまた赤くなった。本日何度目になるのか数えるのも面倒なくらいである。しかも隣
にいるリビアの顔も同じくらい赤い。そしてそれを見るとマークはまたケラケラと笑った。
「あぁ楽しい。」
（前言撤回・・・単に面白がってるだけかも。）
そんなマークの態度に、さっき自分の脳裏をよぎった考えを改めるべきだとリィズは思った。

「ま、とりあえず我が家に帰るとするかの。チェックアウトは正午じゃから・・・あと二時間そこそこ
　ってとこか。帰り支度をするには十分じゃな。」
腕時計を見ながらアレンは言った。その一言でその場は解散となり、アレン以外の四人は自分
の部屋に戻る。そして帰り支度をしながら、エヴィンとマークは雑談をはじめていた。

「・・・ずいぶん色んな目にあったって言うか・・・修羅場をくぐり抜けて来たんだな。」
「マークこそ。クルウェルとの戦いは見させてもらってたけど。」
お互いに旅の内容を聞き終え、呆れたような、感心したような口調で二人は言った。
「・・・けど、オレ達のこの旅も、いよいよ終わりに近づいている、ってワケか・・・嬉しいような、寂
　しいような、だな。」
「うん。」
「・・・んで、こいつが終わったらカケラも片付いてない夏休みの宿題があって、それから休む間
　もなく新学期となるワケか・・・つまんねーの。」
「・・・無事にいけばね。」
ため息をつくマークの横でエヴィンが言った。と、マークはエヴィンの胸を小突く。
「無事にいけば、じゃねぇよ、無事にいかせるんだろ？」
「あ・・・うん・・・そう、そうだよね・・・」
「しっかりしろよ。とくにお前は人生の楽しみはこれからだろ？リビア先輩との。」
「・・・・・・」
「また黙り込んだか・・・しかし頭の中では何を考えているのやら。このムッツリスケベが！」
「む・・・むっつりってマーク！」
「ほほぅ・・・ムキになるってことは図星だな？」
「違う！」
顔を真っ赤にしながらエヴィンは反論した。そんなことをしたらマークを余計に調子づかせるだけ
だと分かっているのだが言わずにはいられない。そんなこんなで二人のじゃれ合いは出発時間
直前まで続き、二人はバッグの中に押し込むように荷物をまとめて部屋を出る羽目になった。

そして一行は、ギゾの用意してくれた車でティリアに帰った。観光シーズンということで途中道が
渋滞していたため、エヴィンが自宅についた時にはもう夕方になっている。アレンの家に世話に
なることにしたリィズを除く全員がそのまま自宅に戻り、久しぶりに一家団欒の時を過ごした。
そんな晩・・・

「お帰りなさい、アレン。」
結局アーパスでアレンに会わず、一足先に自宅に戻っていたアリスはそう言ってアレンを迎えた。
しかしアレンはそんなアリスを見てニヤリと笑う。
「すぐそばまで来とったじゃろう。」
「あら、分かる？」
「ああ。三つ子の魂百までと言うからの。お前さんがあのままじっとしてる筈がないと思ってたよ。」
「ふふふ・・・」
アレンがそう言うとアリスも笑った。そしてリィズを含めた三人で夕食のテーブルを囲みながら、こ
れまでの経緯を報告し合う。しかしダークファルスのことなどについてはお互い話をしたが、アリス
が自分が持つ力をエリーに与えたことは言わなかった。それを言うことは孫の名誉を傷つけること
になると思ったし、エリーとリィズと仲があまり良くないことも知っていたからである。それに何より、
このことを最初に告げるべきなのは彼らではないことをアリスは理解していた。

そして翌朝・・・

「どうしたのおばあちゃん？」
突然一人で自分を訪ねてきたアリスに、不思議そうな顔をしてエヴィンは言った。そんなエヴィン
をアリスはすぐに外に連れ出す。
「ちょっと、エヴィンに言っておきたいことがあってねえ・・・」
どこへ向かうともなく歩きながらアリスは言った。まだ早朝なので、人はほとんど歩いていない。
「僕に・・・言っておきたいこと・・・？」
「ええ。」
眠そうな目をこすりながらのエヴィンの質問に、アリスはコクリとうなずいた。そして顔を上げると
同時に、自分の言いたかったことを喋りだす。
「話したかったのは、エリーさんの事なんだけどね。」
「え・・・？エリーちゃんの？・・・って、おばあちゃん、エリーちゃんに会ってたの？」
「ええ、あなたとの辛い別れを経験した、その晩にね。」
「・・・！」
驚きで、エヴィンの瞳が大きくなった。そしてそんなエヴィンがアリスに理由を聞く前に、アリスの
方から話を始める。
「私もアーパスに来ていたの。ほんのちょっとの間だけどね。私の持つ『動のテレパス』の力、そ
　れをこれからの戦いで活かせる人がいないかって思って。」
「そうだったんだ・・・」
「けれど、その途中で私はエリーさんに会ったの。落ちこんで、自暴自棄になりかけていたエリー
　さんに・・・」
「・・・・・・」
アリスがそう言うと、エヴィンは沈痛な面持ちでうつむいた。
「だからあの子を元気にするためにと思って、私の力をほんの少し、分けてあげるつもりだった
　んだけど、あの子はそれを簡単に吸収してみせた・・・コツを掴めば、実戦で使えるほどに・・・」
「え・・・」
アリスがそう言うと、エヴィンの顔面が蒼白になった。

「そんな・・・けど、思い当たるフシはある・・・ディルナさん・・・あ、エリーちゃんのお父さんのこと
　なんだけど、がエリーちゃんのお母さんも『動のテレパス』を使えたって・・・」
「あら・・・そうだったの・・・道理で・・・」
エヴィンの言葉に、アリスはそう言ってうなずいた。
「ともかくエヴィン、エリーさんが本当に戦いの場に来るかは私にも分からないわ。でも、あなた
　が心に決めた人は他にいるとしても、せめて戦いの場くらいは、あの子のことを守っておやり
　なさいな。そして、それだけじゃなくてあなた自身もちゃんと帰ってくる。あなたはそれができる
　子だって、私は信じているからね。」
エヴィンにそう言うと、アリスはニコと微笑んだ。

そしてそれから二時間後・・・

「リィズ・・・」
「戻ってきてたのね・・・」
「ええ。ちょうど良かった、探す手間が省けたわ。」
ティリアの市内にある病院の一室で、ベッドから半起きになるフィルと、その隣にいるエレナに
リィズは言った。シーレンの姿は見えないが、場所が場所だけにやむないだろう。
「探す手間・・・？」
「ええ、エレナ、あなたに話があったからね。」
「話・・・」
いぶかしげな顔でエレナが言った。けれどここは四人部屋で他の患者もいるので、込み入った話
はやりづらい。リィズはエレナを病院の外に連れ出した。後ろでフィルと同室の患者が、フィルに
二人と自分との関係を笑いながら問い詰める声が聞こえてきたが、とりあえず二人とも聞こえない
フリをしてスタスタと病院の外に出る。そしてそのまま病院の横の路地裏、人通りのきわめて少な
い場所へと入り込んだ。

「・・・で、話って？」
「いや、ちょっとシーレンに助っ人を頼みたくてね。こういう事は、マネージャーを通したほうがいい
　んじゃないかと思ったんだけど？」
「・・・誰がマネージャーよ・・・」
あきれ笑いをしながらエレナは言った。そんなエレナを見て、リィズの表情が少し緩む。
「良かったわねエレナ。」
「・・・？」
「ちょっと前までのあなただったら、こういう冗談を受け流せそうになかったから。」
「そんなものかしらね？」
右のこめかみを掻きながらエレナは言った。そしてそれからワンテンポおいて「・・・でも、たしかに
そうかもね。」と付け加える。

「もしあなたがそう思うのなら、たぶんシーレンと子供達のおかげ・・・あなたのお陰だとは、死んだ
　って思わないけど。」
「なんとでも言いなさいよ。それより、さっきの件なんだけど。」
「シーレンのこと？」
「ええ。」
「何が起きようとしてるのよ。前にクルウェルが言っていた、この星に迫る『巨大な質量』の事？」
「いえ・・・その『質量』を落とそうとしていた者・・・ダークファルスよ。」
「・・・・・・！」
リィズの言葉でエレナの顔色が変わった。そしてそのエレナにリィズは自分の知ってる全てを話す。
それらを聞き終えると、エレナはコクリとうなずいた。
「話は分かったわ・・・私も行く。」
「エレナ・・・でも」
「でも何よ？私が前に比べて毒気が抜けたから、戦いの役には立たないって言いたいワケ？」
「・・・・・・」
図星だった。さっきエレナの顔を見て以来、彼女に戦士を感じなかった。けれどそう思いながらもう
一度エレナの顔を見ると、彼女は考えを変えた。表情こそほとんど変わっていないものの、その内
側から急激に感じられるようになった、静かに燃え上がる炎のような気迫にリィズは思わず気圧さ
れる。
「・・・あなたが死んでも、骨は拾ってあげないわよ。」
「安心して、死んでもあんたなんかに拾ってもらうつもりなんか無いから。」
「・・・それ、シャレのつもり？」
「う、うるさいわね！とにかく！あんたこそミイラ取りがミイラにならないようにしなさいよね！」
「ええ、もちろんそのつもりよ。」
リィズがそう言うと、二人はニヤリと顔を見合わせた。

一方その頃、ティリアの町の別の場所では・・・

「マーク！」
急に、そして久々に自分の前に現れたマークにジェシカは驚きの声をあげた。
「あんた一体今までどこに行ってたのよ！？」
「ど、どこにって言われたってよ・・・」
「アンタが店番サボるから、こっちは大変だったのよ！メルが手伝ってくれたけど、男手が足りないと
　色々とね。こういう時ばかりは、あんたの馬鹿力も頼りになるし。・・・って言うか、今年はエヴィンも
　いるから、こりゃ楽になるわと皮算用してたんだけど。」
「ハハ、悪ぃ悪ぃ、ちょっと野暮用ができちまってな・・・」
「野暮用？どんな？」
「う〜ん・・・伝説の武神と一対一で勝負したり、千年ぶりに復活したネオアリサ古来の邪神と戦って
　たって言ったら、お前信じるか？」
「は？」
力の抜けきった表情でジェシカは言った。

「・・・て言うかそれ、嘘にもなってないんだけど・・・」
「まあ、そう思うわな・・・」
「うん、けど・・・」
そう言うとジェシカはマークの全身をじっと見た。ジェシカがそんな風に自分を見るのは初めてだった
ので、さすがのマークも少し慌てる。
「けど、なんだよ・・・」
「単なる野暮用じゃなかったってことは見れば分かるわよ。なんて言うか・・・ちょっとは成長した感じ
　がする。」
「そ、そうか？」
「うん、私の勘違いじゃなければね。まあ、いいかげん多少は成長してくれないと、こっちの身がもた
　ないんだけど。」
「お、お前なあ・・・まあ、お前に誉められっぱなしじゃ、明日の天気が心配になるが。」
意地の悪い笑みを浮かべながらマークは言った。そんなマークに、ジェシカは食ってかかろうとする
が、マークはそれを軽く制止する。
「けど約束すっぽかしたのは悪かったな。なんかおごるよ。また明後日から、２・３日留守にするし。」
「また留守に？」
「ああ。」
「今度はどんな用で？」
「言ったところで信じられる内容じゃねぇよ。」
「何それ・・・」
小ばかにしたような笑みとともにそう言うマークに、ジェシカは不快感をあらわにした。
「さっきはこの星古来の邪神とか言ってたから、今度は宇宙からやって来る邪神と戦いに行くとでも
　言うつもり？」
「・・・よく分かるな・・・さてはお前エスパーか？」
「あんたねえ！いい加減たいがいに・・・」
怒気で顔を真っ赤にしたジェシカだったが、そう言いかけたところで彼女は言葉を止めた。

「ジェシカ・・・？」
「いい加減あんたとも付き合い長いからね。望む望まないに関わらず。」
「・・・・・・？」
「あんたが私を怒らせて、どっかに行かせたい時ってのは、私でも心配して止めるだろうことをする
　時だってこと、わかってるのよ。」
「ジェシカ・・・」
ジェシカの指摘に、マークは返す言葉がなかった。
「なんか・・・ものすごく危ないことをしようとしてるんでしょう・・・邪神云々ってのは信じらんないけど。」
「・・・とうとう、お前にゃ何も隠し事ができなくなったか・・・」
ため息をついてマークは言った。
「・・・けどよ、何も世間様に対してメーワクかけるようなことするんじゃねえからな。」
「それくらい分かってるわよ。アンタが、イタズラはしても犯罪はしないってことくらい。」
「・・・そういうレベルで語るってくれるなよ・・・」
ジェシカの言葉に、マークは思わず苦笑いした。
「たぶん、人生一番の無茶になるだろうが・・・な〜に、何とかなるさ。オレは運が強えんだ。」
「マーク・・・」
今度はジェシカに返す言葉がなくなった。表面上はともかく、内面は今まで彼女が知っているどの
マーク･フランとも違っている。何か強烈な、自分ではどうしようもない強い意思を感じた。けれど、
ジェシカがそう思った直後にマークの顔は、彼女が一番よく知っている悪ガキの物に戻っていた。

「エヴィンとリビア先輩の行く末も見たいしな。あの二人、とうとう付き合うことにしたみたいだし。」
「うそ！」
「嘘じゃねえさ・・・そんなこんなで、オレの人生はまだまだ楽しみな事が多い。ま、もちろん・・・その、
　なんだ？・・・ジェシカ・・・」
「・・・？？？」
「お前と歩く人生も含めてな。」
「ま・・・まーく？」
マークのあまりに突然の一言にジェシカの顔は真っ赤になった。そしてマークの顔も、ジェシカほど
ではないが赤くなっている。
「じゃ、じゃあな！また今度！！あ、戻ってきたらフィルさんと会わせてやっからな！」
硬直したジェシカに早口でそう言うと、マークはあたふたと歩き去って行った。

そして、さらにその翌日・・・出発前日の夕方・・・

「ここが、お爺ちゃんとお婆ちゃんが若いころ好きだった場所・・・」
昔は町の遥か彼方まで見渡せた、けれど今はビルなどに阻まれて何も見えない丘の上に腰を下ろし
エヴィンは言った。
「昔は・・・きっと良い景色だったんでしょうね・・・でも・・・今でもいい所だと思うわ。」
一緒に来ていたリビアも、そう言いながら腰を下ろす。柔らかい芝生の上で夕日を浴び、そよ風を身
に受けると、何とも言えず心地よかった。ちなみに、まわりに人はほとんどいない。エヴィンはフゥと
ため息をついた。
「いよいよ・・・明日出発なんですね・・・」
「やっぱり・・・怖い？」
力無げにつぶやくエヴィンに、不安そうにリビアは聞いた。
「そりゃ怖いですよ・・・でも、そんなこと言ってられないですから・・・リビアさん・・・」
「なに・・・」
「リビアさんが近くにいてくれるって言ってくれたとき、嬉しかったです・・・」
「エヴィン君・・・ありがとう・・・」
「いや・・・ありがとうを言うのはむしろこっち・・・」
お互いに照れながら二人は言った。

「けれど、部活のほうはだいぶサボっちゃいましたね。フルート・・・せっかく慣れてきたのに・・・」
少し残念そうな顔でエヴィンが言う。と、リビアは意外そうな顔をエヴィンに見せた。
「あら？私はエヴィン君と一緒にいた何日か以外、毎日練習してたけど。」
「へぇ・・・さすが・・・」
「明日のことが終わったら、また特訓してあげるわよ。これは先輩として、部長としてね。」
「は、はい・・・」
少し顔をひきつらせながらエヴィンは言った。そして二人はまた話を元に戻す。

「でも・・・明日で本当に終わるんですよね・・・」
空を見上げながらエヴィンは言った。
「この星のこと・・・ネオパルマのこと・・・もっともネオパルマの人達と仲良くやっていけるかは、その
　時が来てみないと分からないけど・・・」
「そうね・・・でも、それはみんなで決めればいい・・・個人レベルでとやかく言える問題じゃないわよ。
　法律のこととか、彼らが住む場所のこととか・・・それに、みんながみんな、ここに住みたがるとは
　思えないし。ネオパルマの人達だって、それまでの生活があるんだから。」
「はい・・・」
「でも、こんなときはまだ選挙権すらない我が身が恨めしいわね。」
「ええまったく。」
リビアの言葉に、エヴィンは苦笑いしながらうなずいた。
「でも、そういったことを考えられる世界になるためにも、頑張らなくちゃいけませんね。それと・・・」
「それと・・・？」
「それと本当はもう一つ、助けたいものがあるんです・・・」
「もう一つの・・・助けたいもの・・・？」
「ええ。」
オウム返しにリビアが言うと、エヴィンはコクリとうなずいた。

「ネオパルマにいるダークファルスです・・・戦いの理由が無い今も戦い続ける存在・・・それを・・・」
「エヴィン君！」
そう言いかけるエヴィンの両肩をリビアは必死の形相で掴む。そして彼のことを真正面から見据えた。
「り・・・リビアさん・・・？」
「お願いエヴィン君・・・余計なことは考えないで・・・」
「よ・・・余計なことって・・・」
「だってミューさんは、ダークファルスを救った結果この世から消滅しちゃったのよ！・・・そりゃ、魂は
　エヴィン君の中で生き続けてるかもしれないけど・・・でも私は嫌なのよ！そんなの！！」
エヴィンがこれまで聞いたことのないくらいに強い口調でリビアは言った。そして言い終えると今度は
ポロポロと涙を流しはじめる。
「リビアさん・・・」
そんなリビアに、エヴィンは何て言ったらいいのか分からない。ただただ沈痛な顔で、黙り込むだけ
である。そして、そんなエヴィンの肩に手を置いたまま、リビアは顔を下に向け話し続けた。

「分かってる・・・私がそう言ったって、誰が何を言ったって、エヴィン君は、たとえ今は『大丈夫』って
　言ったとしても、いざとなったら全力でダークファルスのことも何とかしようって思うって・・・それが、
　エヴィン君だから・・・そんなエヴィン君だから、みんなついて来ようって気になった・・・私も、そんな
　ひたむきなエヴィン君のことが好き・・・けど、それでエヴィン君を失うようなことになったら・・・」
「リビアさん・・・」
リビアにそう言われ、エヴィンの顔も涙ぐんでくる。そして二人とも何も言えなくなったが、やがてエヴ
ィンはそっとリビアの肩に手を回し、彼女のことを優しく抱きしめた。

「え・・・エヴィン君・・・？」
「・・・ごめんなさい・・・悲しませて・・・」
急に抱きしめられ、わけも分からないまま顔を真っ赤にしたリビアの耳元で、小さな声でエヴィンは
言った。そしてそのままリビアに優しい、しかし力強い口調で語りだす。
「約束します・・・僕、リビアさんを悲しませるのは、今ので最後にします・・・」
「エヴィン君・・・信じて・・・いいんだよね？」
おそるおそるリビアは言った。リビアの心臓の鼓動は、彼女のこれまでの人生で一番と言えるくらい
強くなっている。そしてそれが身体の密着しているエヴィンに伝わらないはずがなく、しかも逆に、エ
ヴィンの身体からも、心臓がドクンドクンと鼓動する感覚がリビアに伝わってきた。
「はい・・・」
短い言葉でエヴィンは言った。そんな一言でも、語尾が震えているのがリビアには分かる。けれど、
次にリビアが言った言葉は、その全てが震えていた。
「約束だからね・・・絶対・・・破らないでね・・・」
リビアがそう言うと、エヴィンは彼女を抱きしめたままコクリとうなずいた。

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