「僕が、闇の神子だなんて・・・その力が欲しいからリビア先輩をさらった
だなんて・・・ウソをつくなぁぁぁああああっ！！！！」
叫び声にも似た口調でそう言うと同時にエヴィンは頭を上げ、レガードを
睨み付けると、レガードの首を狙った飛び蹴りを放つ。その一撃は難なく
かわされ、エヴィンは壁に激突しそうになるが、そこでエヴィンは壁を蹴り
激突を防ぐと同時にスピードを上げてレガードの懐に潜り込み、彼の腹部に
一拳を叩き込んだ。
「う・・・うわぁぁぁあああっ！！」
それからもエヴィンの怒濤のラッシュは続いた。それは全て命中する。
だが、興奮しきっていたその時のエヴィンには確認する余裕なんかありは
しなかったのだが、レガードの表情は全く変わっていなかった。
「大人しく、落ち着いた性格だと聞いていたが、激情も持ち合わせていた
ようだな・・・だが、遊びはここまでだ！！」
「！！」
その瞬間、掌打を放とうとするレガードの掌が妖しく、紅く光るのがエヴ
ィンには見えた。エヴィンは慌てて両腕でそれを防ごうとしたのだが、それ
よりも先に何らかのエネルギーが込められた掌の一撃がエヴィンの腹部を
とらえ、エヴィンの体中を全身がバラバラになりそうな衝撃が走る。そして
彼の体は、まるでバットで打たれたボールのように吹っ飛び、教室のドアを
突き破り廊下の壁に激しく叩きつけられた。しかし、これはある意味幸運
であったかもしれない。もし反対側に飛ばされていたら、彼の体は間違い
なく背のあまり高くないベランダを飛び越え、下のコンクリート製の校庭に
叩きつけられ、全身の骨がバラバラになっていただろう。
だが、大きなダメージを受けたことに変わりは無く、その一撃で完全に気を
失ったエヴィンにレガードはさらに攻撃を加えようとしたのだが、そこで
目の前の階段を上がってくる者がいる事に気づき、そしてその足音の主、
アレンとマークが駈け付けた時には、既にレガードの姿はいなくなっていた。
・・・
・・
・
「う・・・うう・・・」
「おっ気がついたみてぇだな。」
「あれ？マーク？それに・・・みんな・・・？」
気がつくと、エヴィンは自分の部屋のベッドに寝かされており、そして
アレンとマーク、クリスとアリスが心配そうな顔をして、自分の事を
見つめていた。
「大丈夫？エヴィン？」
心配そうな声でクリスが言うと、エヴィンは痛みを堪えニコと微笑んだ。
「うん、所々体は痛いけど大丈夫だよ・・・でも、誰がここに僕を？」
「パパと、そこにいるマーク君よ、良かったわね、いい友達ができて。」
「そうなんだ・・・ありがとう、マーク。」
クリスにそう紹介され、さらにエヴィンにそう礼を言われるとマークは
照れくさそうに頭を掻いた。
「ところで、お爺ちゃんに聞きたい事があるんだけど・・・」
「ワシに、か？」
「うん・・・それで悪いんだけど、他のみんなにはちょっと席を外していて
ほしいんだ・・・」
「え？」
「ごめん・・・ほんの少しの間でいいから・・・」
「しょうがないわね・・・じゃ、母さん、ママと下でお茶でもしてるわね。」
「ええ、そうしましょうか。マーク君も一緒にどう？昨日よそから美味しい
ケーキをもらったんだけど。」
「え？いや・・・いいや、俺は。ちょっと寄りたい所もある事だし・・・」
「そうなの？でも悪かったわね。エヴィンを運んでもらっちゃって。」
「いや、別にそんな礼を言われる事したワケじゃないしさ。んじゃ、また
明日な、エヴィン。」
「え？う、うん・・・」
友人の家族に礼を言われたりするのが照れくさかったのか、マークは足早に
その場をあとにし、そしてクリスとアリスも部屋を出る。そして部屋の中にいる
のがアレンとエヴィンだけになると、アレンはエヴィンの方に体の正面が
向くように座りなおした。
「それで、なんじゃ？話っていうのは・・・」
「お爺ちゃん、前変な人に襲われた、って言ってたよね・・・たしかレガード
っていう名前の・・・」
「うむ・・・ま、大方、季節の変わり目に出てくる輩じゃろう。」
「たぶん、同じ人なんだ・・・僕が学校で襲われたのも・・・」
「！！」
「それで、その人が僕に言ったんだ、僕がダークファルスの力を受け継いだ『闇の
神子』とかいうのなんだって・・・お爺ちゃん、昔そのダークファルスっていうのと
戦った事があるんでしょ？だったら何か知らないかと思って。」
「さあ・・・そんな事もあったかのう・・・最近は三日前の晩飯さえもよく思い出せない
のに、そんな五十年前の事を聞かれてものう・・・」
「誤魔化さないでよ！」
のらりくらりとした口調のアレンに、エヴィンは思わず怒鳴りつけた。
「僕は、自分がその『闇の神子』だなんて信じる気は全然ないけど、それでも
僕は、そのレガードって人に下手すりゃ殺されてたし、それに、リビア先輩が
それを理由にさらわれてるんだよ！・・・僕にだって、知る権利はあるよ・・・」
引き続きエヴィンが怒鳴るような口調でそう言うと、アレンは目を閉じてしばらく
何事かを考える。そして小さくため息をつき、自分に何か言い聞かせるかのように
「ウン」と小さくうなずくと、再びその目を開いた。
「正直、ワシも婆さんも、昔の事をあまり話したくはなかった・・・」
「お爺ちゃん・・・」
「これからの世の中に、仲間とともに剣と魔法で邪神を倒したような英雄は必要
ではない、必要ではないどころかむしろそのような人間は往々にして偶像に
祭り上げられ、その偶像は人に依存心を植え付けその進歩を妨げる・・・いや、
理由はそんな高尚な物だけではなく、偶像に祭り上げられた自分達を想像
すると正直、うざったかったというのもあった・・・」
言いながらアレンはポケットの中から自分の財布を取り出し、その中に入っていた
一枚の古ぼけた写真をエヴィンに手渡した。その写真には青い髪の青年と金色の
ポニーテールの少女、朱色の髪の女性を中心に、緑色の長髪の青年に青い短髪の
女性、それに短い黒髪の、大柄な中年の男性の六人が写っている。そして写真の
右下には、インクで「ＡＷ４２８４．８．２４」と書かれていた。
「あれ？この真ん中にいるのって・・・」
そう言いながらエヴィンがアレンの方を見ると、アレンは無言で頷いた。
「そう・・・真ん中にいるのが若い頃のワシと婆さん、そしてミューさんにギゾ、
テオさんにガズニ大佐・・・今から五十年前、ダークファルスを倒すためにともに
戦った仲間達と、最後の戦いに赴く日の朝に撮った写真だ・・・」
「ダーク・ファルス・・・」
エヴィンはつぶやくような声で、その邪神の名を口にした。ダークファルスの名は
創世神話の中で聞いた事があるので、一応以前から知ってはいる。だが今の彼は、
その名前が妙に身近な物に感じられた。
「少しばかり長話になるが、寝ないで聞くんじゃぞ・・・」
アレンのその言葉に、エヴィンは無言でうなずいた。
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