アファールズ戦記
第１話『剣士』
暗い闇の中を１人の男が走っていた。その男の姿はまるで回りの闇に溶け込むかのように黒い色をした
服を着ていて髪も黒い。辺りは暗闇だと言うのにも関わらず男は黒い色眼鏡をしていた。彼は後方の気
配を伺いつつ舌打ちした。彼を追う者の人数が予想より多かったらしい。
彼の後を追っている者達は馬に乗り兵士らしき格好をしていた。彼らの手にはそれぞれ長槍が握られて
おり馬上から敵を一突きできそうな長さをしていた。
「なぜ追いつけん！こっちは馬を使っているのだぞ！」
「普通に走っているだけとは思えん・・・」
「えぇい！バケモノめ！」
兵士達は次々に自分達が追っている男について色々言い始めた。何時まで経っても追いつけないでいると
今まで黙っていた１人の兵士が口を開いた。
「まさか・・・何処かに隠れてやり過ごしていたりして・・・」
一瞬時が止まった。そして直ぐに数名を後ろに戻して残りはこのまま前進し男を追う事にした。
後ろに戻った兵士達の前には探していた人が立っていた。兵士達は直ぐに戦闘態勢に入ったが、それよ
りも先に攻撃され簡単に全滅してしまった。その騒ぎ聞きつけて駆けつけた残りの兵士達は全滅してい
る仲間を見て驚愕した。相手はたったの１人でこちらは常勝無敗の騎士団。どちらが勝つか考えるまで
も無いと思っていた。しかし仲間達は１人に全滅していた。いくら油断していたからとは言えありえな
い事だった。
「・・・さすがは、と言った所だな。たった１人で町を１つ壊滅させただけの事はある・・・」
「噂だと思っていたが・・・本当だったようだな」
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
大きな湖と沢山の風車がある事で有名な村、クラグ。この村は比較的山の中にある村なので秘密結社に
よる被害が少なく、もっとも安全と言える場所であると同時に自然災害が頻繁にあるので割と危険な場
所とも言える。そして名物はクラグの側にあるマエリス湖をイメージしたゼリー状の食べ物だ。見た目
はとても綺麗なのだが、味はあまり良くない。それでもこの村を訪れた旅人達にはなぜか人気がある。
村外れの林の中で１人の少年、アレルが黙々と剣を振っていた。彼の髪の色は青と緑の中間のような色
をしており、目は蒼い色をしている。額には既に大粒の汗が大量にあるが、そんな事など気にする様子
も無く剣を振りつづけている。アレルは最近村を訪れた旅人に剣を教えてもらっていた。旅人はとりあ
えず自分の予備の剣を彼に渡し素振りを命じたのだ。まずは普通に剣を振れるようになってから、と基本
練習から始めさせた。
少しすると突然後ろから石が飛んできた。とっさに手に持っている剣で弾こうと思ったのだが、飛んで
きた石と振り下ろした剣の軌道が合わなかったらしく石が直撃した。
「い、痛いじゃ無いですか！」
石の飛んできた方向には１人の女性が立っていた。彼女の髪と目は燃える様に紅い。そのためか彼女は
色々な意味を込めて『紅き衝撃のキョウカ』と呼ばれる事があるそうだ。その名の通り彼女の剣技は衝
撃破を発生させる物が多い。彼女がアレルに剣を教えている旅人で数週間前からこの村に留まっている
が、どんな目的があるのかは不明だ。
「まだまだ未熟・・・ね」
「まだ素振りしかやって無いんですよ！当たり前じゃ無いですか！」
「・・・まぁ、それはそうと少し休憩したら？大分お疲れのようじゃない？」
アレルは剣を地面に置いて石が当たった場所に手を当てた。傷自体は大した事無いが結構痛いらしい。
「・・・・」
「それと君はもう少し肩の力を抜いた方が良いんじゃない？」
「そんな器用な事できないですよ」
キョウカは溜息をついてその辺にある手頃な岩に腰を下ろした。何かを思い出すように空を見上げた。
空は木に遮られてほとんど見えないが気持ちが良いくらい晴れている。
「確か・・・剣を習うのは復讐のためって言ってたわね？今でもその気持ち、変わらない？」
「当然ですよ」
以前キョウカが聞いた話では、アレルは元々この村の者では無いらしい。１０年前に自分の居た町を壊
滅させられ、その際に親兄弟を失っていた。このクラグへは親戚を頼ってきているらしい。そして名物
を初めて食べた時はなぜか美味しく感じた。あの頃は味覚が崩壊していたのかもしれない。
「僕は、『漆黒の嵐』と呼ばれる男を捜して・・・この手で・・・そう決めたんです」
「それは６回も聞いたわ」
「いえ、今回で８回目ですよ」
「・・・・・・」
呆れた顔をしつつキョウカは何処かへ行ってしまった。ここへは観光で来たのでは無く、何かをしに
来たのだと聞いた事があった。一体何をしに来たのかまでは聞いていなかったが。
日が沈みかけてきた頃だった。アレルは１人で剣を振りまわしていると、辺りに妙な気配を感じた。既
に辺りも暗いという事でモンスターでも近くに潜んでいるのかと思いつつ警戒態勢に入った。この辺り
でいつも剣の稽古をしているアレルにはモンスターとの戦いは日常茶飯事と化していた。いつも日が暮
れてくるとアレルを襲おうと寄って来る。最初は戸惑っていたが実際戦って見ると割と楽に勝てた。そう
している内に多少の実践経験と気配を読む能力を身につけたのだった。
「そこか！」
気配を察知し剣を構え走り出したアレルは石につまづいて盛大に転んでしまった。それと同時に笑い声が
聞こえてきた。アレルが察知した気配とは別の方から髪が金色で目が青い少女が現われた。気配を読み
違えたか、と思いつつアレルは照れくさそうに体についた土埃を払いつつ立ち上がった。
「まだそんな事やってたんだ」
「良いじゃ無いか、別に・・・」
「アレルって自警団にでも入るつもりなの？」
「え？」
「だっていつも剣の稽古しているじゃない」
「そう言えばルディには話してなかったなぁ」
アレルは一呼吸置いてからルディに説明しようと思ったが、最初に気配を感じた方向に殺気を感じた。
多少慌てつつも戦闘体勢にはいった。ルディは訳が分からずに呆然としているだけだ。
気配が動いた。茂みから何かが飛び出すと同時にアレルは剣を振っていた。剣を振り終わってから体に
衝撃を受けた。どうやら体当たりされたらしい。
「アレル！何ふざけているのよ！！！」
「こ、こんなハズじゃ・・・」
よろよろと立ち上がり再び剣を構え直し相手の気配を伺った。
「そんな奴さっさと倒しちゃってよ！」
「うるさいよ！少し黙ってて！」
初めて見るモンスターにルディは多少パニック状態になっていた。そんなルディに気を散らされるアレルは
思い通りに戦う事ができない。普段なら楽に勝っている程度の相手だと言うのにこの程度の事で苦戦
するとは思っていなかった。それがアレルを苛立たせ戦いは次第に不利になっていく。誰かを守りながら
戦う事ができないアレルはモンスターが気をルディに向けないように動くくらいしかできない。
「こんな時・・・必殺技でもあれば・・・」
アレルはモンスターの注意を引き付けつつ何か手は無いかと考えた。必死になって考えた末の結果は、
昔に何かの本で見た必殺技だった。両足を肩幅程に開き剣を頭上に掲げた。その姿を見てモンスターと
ルディはアレルが何をするつもりなのか解らなかった。
「必殺！円月殺法！」
と、叫ぶとアレルは肘を伸ばしたままで剣を一回転させ始めた。およそ半回転した所でモンスターの攻
撃を受けて吹っ飛ばされたのは言うまでも無い。
「アレル！歳いくつなの！・・・いえ、その前に何か問題があるような・・・」
「考えたら負けだぞルディ！」
とりあえず誤魔化しておいた。アレルは新必殺技が発動中に破られた事に焦りを感じていた。もっと発
動が早く、そして強力なヤツは何か無いかと考えた。
「あるじゃないか！素敵なのが！！！」
今度は剣を逆手に持ち腰を低く下げた。そして少し重心を前に傾け、一歩踏み込むと同時に技を発動さ
せる。剣が振られると同時に生み出された真空波が竜巻となりモンスターの体を引き裂き上空へ打ち上
げた。
「やった！！！」
「アレル、今の技って・・・」
「気にするなって。それにしても、まさか本当にできるとは思ってなかったなぁ」
「どうでも良いけど今度はオリジナルの技を考えなさいよ」
最後のルディの台詞がアレルにグサッと突き刺さったのは言うまでも無い。
それから少しして騒ぎに気がついたのか、キョウカが駆けつけた。アレルはキョウカに何があったのか
説明した。しばらく何かを考えていたキョウカは溜息と共に頭を左右に振り考えを打ち消した。
「アレル、その必殺技は色々な意味で危険よ。今後一切使用しない事、いいわね？」
「・・・はい」
「それじゃぁ、代わりに私の技を教えてあげるわね」
それまで２人の会話を黙って聞いていたルディに気がついたキョウカは、ルディを指差して「所で、
この子誰？」とアレルに聞いた。
「えっと・・・名前はルーシュ・ディラスト。なんか苗字と名前が混ざってルディって呼んでます。そ
れで、ルディは僕の・・・・・・親戚です。」
「それじゃぁ今はアレル君と一緒に暮らしているんだ」
「まぁ・・・そうなりますね」
何か気になるような感じもしたが、今はとりあえず無視しておいた。
「じゃぁ、帰ろっか？」
これ以上ここにいても仕方が無いし日も暮れて辺りが暗くなってきた事と、何よりそろそろ夕飯時なの
で空腹感を感じて帰る事にしたのだった。
続く
次回予告
今回の戦いで実は”必殺技”と呼べる切り札が無いと悟ったアレルは新たな技を編み出すため旅に出る
事を決意したのだった。だが、そんなアレルを引きとめるかのようにして起きたちょっとした事故でアレルは
２度と野球のできない体になってしまったと医師に通達されるのだった。
次回、アファールズ戦記第２話『野球少年復活』へと続く・・・。
アレル「・・・何これ？」
キョウカ「次回予告、でしょ？多分・・・」
アレル「前回のあらずじに見えない事も無いけどね・・・」
ルーシュ「その前に野球って関係無いんじゃないの？」
アレル「言われてみれば・・・」
キョウカ「・・・そうよね」
ルディ「ちゃんとした次回予告をやりたかったのに・・・」
第２話を読む
投稿の広場に戻る