アファールズ戦記
第２話『標的』
アファールズ大陸にその人あり、と言われる程名のしれた人物がいる。その者の名はマード・レンファス。
彼はこの大陸の半分以上を占める国、パフラが誇る最強の騎士団フェトランの騎士団長を務めている。
そんな彼は常に首都であるダルアにおり、そこから離れる事など滅多になかった。だが、今はダルアを
遠く離れた地に居た。かつて伝承の時代に『巨大な闇を放つ者』との決戦の時に最前線とされていた
ワノジスと言う名の砦に居た。この砦は失われた技術で構成されており、その門は誰にも開ける事は
できない。
門の前に立ったマードはどうやって中に入ろうか考えていた。入り口らしき物は、この門のみ。壁に穴
でも開いていればそこから入る事もできるのだがそんな物は何処にも無い。やがてマードの部下の一人
が話しかけてきた。
「隊長、やはり中に入るのは無理ですよ」
言われなくとも解っている。だが、今はどうしてもこの中に入る必要があるのだ。今となっては失われ
た技術は喉から手が出るほど欲しい。最近は秘密結社を名乗るセラーゴという部隊との戦闘が激しくな
ってきている。セラーゴの部隊は何処から持ち出したのかは解らないが失われた技術を大量に持ってい
る。それに対抗するためには、こちらも同じ物かそれ以上の物を手に入れる必要がある。そして一番、
それらがありそうな場所がここなのだ。
「・・・発掘専門のハンターが居ただろ？あいつらは何か見つけたのか？」
「いいえ、彼らでも何も見つけられないそうです」
「何のために高い契約料を払ったと思っているんだ・・・！」
「調査に入ったのはつい先ほどですよ？いくら何でもこんなに早くには無理でしょう」
「そうだったな・・・。俺とした事が、少し焦っているようだ・・・」
パフラにはマード率いる騎士団以外にも多数の騎士団がある。別にここへ来るのはマードで無くとも何
ら変わりは無いのだ。しかしそれでも王はマードに命令をし調査に向かわせた。これはマードならばき
っと何とかしてくれるだろうと言う期待と何かを発見した帰り道に盗賊などに襲われても大丈夫だろう
という信頼によるモノなのだ。その事もあり決して手ぶらでは帰る事のできない状況下にある。更に自
分がダルアを離れるという事は敵に多少なりとも隙を見せる事になってしまう。それゆえに早く帰還し
なくてはならないと思う。しかしこのままでは・・・。それらによりマードにも焦りが見えてきているようだ。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
アレルは日に日に強くなっていった。師であるキョウカの教え方が良い事もあるが、それよりもアレル
の成長速度の速さに驚かされる。既に基本剣技では教える事など無いくらいにまで成長していた。後は
アレル自身の戦闘センスと努力により上達していくのでキョウカが教えられる事が必殺技、及び奥義く
らいだろう。
とは言え、キョウカの必殺技は人に教えられるような物でもない。これは剣の能力を使用した技なので
アレルに教えても使えるとは思えなかった。ちなみに以前教えた技は誰にでもできる程度の技で剣を
振る速度を上げるほど威力が増すという代物だ。
「もう私が教えられる事なんて無いのに・・・。一体いつまでそうしているつもり？」
「・・・僕が納得行くまでです」
アレルは先程から休む事無く剣を振っている。最近の彼は一日の大半を戦闘訓練に使っている。ほとん
ど剣を振りまわし続けているのに疲れを見せる事無く動き続けている。そんなアレルを呆れきった表情で
キョウカが見ている。
「そんなに”復讐”をしたいの？」
「それが僕の全てですから」
「もう何を言っても無駄ね・・・。それじゃぁ後は好きにしなさい」
立ち去ろうとしたキョウカを引きとめた。アレルはもっと色々な事を教えてもらおうと頼んだのだが、
キョウカは笑って断った。
「なぜです？」
「前にも言ったけど、もう私に教えられる事なんて何も無いのよ。後はアレルが自分で何とかしてね。
それに、忘れてたけど私にもやらないといけない事があるから・・・」
「そうですか」
「やけにアッサリしてるのね」
「別にそんな・・・。あ、この剣は・・・？」
「それは貴方にあげるわ」
そう言うとキョウカは何処かへ立ち去って行った。とは言えまだクラグには居るつもりだろう。出てい
くなら一言くらい何か言うだろうし。そう思ったアレルはキョウカを放っておいて再び剣を振り始める
のだった。
アレルと別れたキョウカは湖の前に着ていた。そこには青い瞳の剣士が一人立っていた。彼の鎧は緑色
や紫色、それと赤い液体が付着していた。今まで何かと戦っていたかのような闘気を発してボロボロに
なった剣を握っている。
「相変わらずね」
「・・・たまには俺と変わってくれ。さすがに体が持たない」
「で、見つかったの？」
「無視かよ。まぁいいが・・・ターゲットは手中に有り、だ」
「そう。思ったより速かったのね」
男は”ターゲット”の説明をキョウカにした。それを聞いてキョウカは少し嬉しそうに微笑んだ。
「それはそうと、この辺で魔族と戦った？」
「いや？魔族とは一度も戦っていないが・・・。それがどうかしたか？」
「え！？この辺の魔族を倒したのって貴方だと思ってたのに・・・」
ラムスと言う魔族の襲撃の事を男に話すと驚いたような表情をした。彼は魔族がこの辺に居た事さえ気
がつか無かったそうだ。そんな彼が助けに来るだろうと期待していたキョウカは自分が少し悲しくなっ
たのは言うまでも無いだろう。
「それじゃぁ、一体誰が・・・？」
「俺達以外にも魔族と戦えるような程のヤツ・・・か？」
「そうとしか考えられないわね」
魔族と戦える人間はそうそう居る訳では無い。他に居るとすると、有名な人でマード・レンファスとい
う騎士団長くらいだろう。だが、彼がこんな辺境の村まで足を伸ばすとは思えない。となると次の候補
に上がってくるのは秘密結社セラーゴの幹部でもあるブラド・レゾナ。彼はセラーゴの目的のために動
いているため、こんな所に居るくらいならばダルアを攻撃しに行くはずである。
「・・・そうなると、無名で魔族と戦える程の強さを持っている事になるわね」
「あぁ。一体どんなヤツなんだろうな？意外と、その・・・アレル、とか言うヤツを見張ってたら見つ
かるかもな」
「そうかしら？私はずっとアレルと居たけど、それらしい人影なんて見なかったわよ？」
「ま、何にせよ俺達以外にも魔族と戦えるヤツが居るってのは確かなんだし・・・ソイツを探してみる
のも楽しそうだな」
「念のために言っておくけど、私は手を貸さないわよ？やるならお一人でどうぞ」
「・・・解ってるって。」
少し寂しそうに頷いた男はそのままアレルが居る場所へ移動を開始した。その姿を見送ったキョウカは
この事をアレルに説明した方がいいかもしれない、と思いつつ空を見上げた。何を思ったのか軽く笑い
つつ放っておく事にし宿へ帰っていった。
そして男はアレルが居るはずの修行場へやってきた。しかし、そこには既に誰も居なかった。ただ誰か
が居たような気配はする。確かにここにアレルは居たのだがどう言う訳か今は居ない。その内戻って来
るだろうとしばらく待ってみる事にした。
「夜の風が身に染みた・・・」
戻ってきた彼が最初に言った台詞がこれだった。結局、月が真上に来るまで待っていたらしい。そんな
彼をキョウカは笑いつつアレルの修行は日が沈む少し前に終わる事を教えた。それを聞いた彼が”なぜ
それを先に言わないんだ！”と怒ったらしいが、それはどうでもいい事でもある。
続く
次回予告
新たに送りこまれた刺客との戦いにより師匠、キョウカから授かった剣が折れてしまった。その事を苦
に思うアレルは剣を直そうとする。だが、直そうとすればする程壊れていく剣を見てアレルは再びギター
を手にとり戦うことを決意した。それがアレルの新たな冒険の始まりとなるのだった。
次回、アファールズ戦記第４話『実はギターを弾けない』に続く
アレル「前半は普通だったのに・・・」
青い瞳の剣士「それより、アインってギター弾けないのか？」
アレル「弾けないよ。練習すらしてないし」
キョウカ「普段は剣を握っているしね」
青い瞳の剣士「なぁ、疑問に思ったんだが・・・なんでギター持って戦うんだ？」
アレル「いや僕に言われても・・・」
青い瞳の剣士「それと、どうしてギターを持つ事が冒険の始まりになるんだ？」
アレル「だから僕に言われても・・・」
キョウカ「所で、何で青い瞳の剣士なの？」
青い瞳の剣士「あぁ、まだ名前出てないからだよ・・・」
第３話を読む
投稿の広場に戻る