アファールズ戦記
第３話『旅路』
とある砂漠にある古城で黒い長髪の男が金色の髪をした男と共にやってきた。この古城には数年前まで
誰か居たらしいが今は人の気配など微塵も感じられない。やがて謁見の間らしき場所まで来ると黒髪の
男がいい加減歩くのが嫌になったのか金髪の男に話しかけた。
「・・・で？そろそろ俺をこんな所に連れてきた理由を教えてもらおうか？」
「アルバートさんも気が早いですね？本来ならもう少し後にする予定だったんですが・・・」
「・・・・・お前の『もう少し』は１ヶ月も先だろうが！」
黒髪の男、アルバートが苛立ちと共に怒りをあらわにしたが、金髪の男の方は気にも留めていないよう
に話を続けた。
「それまでの間、ここで大人しくしていただきたかったのですが・・・」
「・・・・・・・・・・・俺を怒らせたいのか？」
「い、いえ！決してそう言う訳では・・・」
アルバートが戦闘体勢に入ったので金髪の男はさすがに無視するのは無理だと判断した。
「で、ラムス・・・。俺をこんな所へ連れてきた理由を聞かせてもらおうか？」
「言わなくても解っていると思いますが？」
「・・・・・失せろ！！！」
アルバートは左手をラムスに向けてマジック、ヒューンを放った。それにより生じた風の弾丸をラムス
軽く片手で受け止めて握りつぶした。
「威力が落ちているようですね。やはりあの時の傷は癒えていないらしいですね」
「そんな事を言うために俺に会いに来たのか・・・。それとも、死にたいのか？」
いつのまにかアルバートは右手に剣を持ち、その切っ先をラムスの首筋につけていた。後少しだけ力を
入れるだけでラムスの首に剣が突き刺さる程近くに。次の瞬間ラムスの姿は消え、再び現われた時には
少し離れた場所に出ていた。
「相変わらず危険な方ですね・・・。私もこんな事をしに着たのではありませんよ」
「ほぅ・・・？」
ラムスはアルバートにしばらくの間、この古城に留まって欲しいと告げた。その理由はアルバートに
会いに一人の少年が来るから、という事だった。それを聞いたアルバートは詰まらなそうに笑った。
「つまり、俺にラスボスを演じろ・・・と？」
「ま、まぁそう言う事になりますね」
懐から取り出したハンカチで額を拭いつつラムスは苦笑した。
「では頼みましたよ」
「・・・・・・」
そう言うとラムスの姿は消えた。
「なるほど、最初からこのために・・・。そうか、そう言う事か。だがヤツの事だ。まだ何かを企んで
いるかもしれないな・・・。ウォル、居るんだろう？出て来い。」
その声に反応して何処からとも無くウォルと呼ばれた黒髪の男が姿をあらわした。アルバートと同じ髪
の色をしているが、長さはアルバートの方が長い。
「で、俺はラムスの監視をしろ・・・と？」
「相変わらず話が早いな。まぁ、そう言う事だ。」
「無理だと思うけど・・・命令なんだろ？一応やるだけやってみるよ。」
「頼む」
ウォルは敬礼のような事をすると再び何処かへ消えた。後に残ったアルバートは誰も居ない古城で
ラムスの言っていた少年が来るまで何をしていようかと考えるのだった。
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アレルは旅の仕度をしていた。もうこの場での修行では今より強くなれそうに無かったからだ。現状では
まだ不満を感じてはいるがそれでは仕方が無い。そう思ったからこそアレルは砂漠を目指しつつ修行を
する事にしたのだ。
本来一人で旅をする気だったアレルだが、この事を師匠でもあるキョウカに話すと一緒に行くと言われ
て少し戸惑った。キョウカもクラグでの用は済んだらしくジラムズ砂漠付近まで移動するつもりだった
らしい。
「私と一緒じゃ嫌？」
「え！？嫌じゃ無いですよ！」
・・・という訳で共に行く事になった。
だがキョウカは忘れていた。アレルは知らなかった。この旅にはもう一人の同行者が居るという事を。
その事に気がついたのはクラグから出る頃になってからだ。出口へ向かって歩いていると『忘れ者』に
出会った。その『忘れ者』とは青い瞳の剣士。彼は以前からキョウカと共に旅をしていた。そして今、
まさか置いていかれるとは思っていなかったらしく、彼は泣きそうな顔でとても焦ったのは言うまでも
無いだろう。
「キョウカ・・・俺を置いて行く気だったのか？」
「まだ探し物があったんじゃ無いの？」
「そんなの無いって！」
２人が話している間、アレルは見知らぬ青い瞳の剣士とキョウカがどんな関係かを考えていた。ただの
同行者とか仕事上のパートナーとか恋人とか・・・。そんな事を色々と考えているとキョウカが何かを
察知して”ただの相棒”だと教えてくれた。
「・・・それで名前は？」
「それじゃぁ、早速出発しましょうか」
「・・・・・」
「あまり時間をかけると一緒に行きたいって言う人が増えるかもしれないでしょ？」
「そ、そうですね」
キョウカが一体誰の事を言っているのかは知らないが、どのみちこれ以上立ち話するつもりもなかった
ので後は歩きながらにしようと思った。
「所で、そっちの剣士の名前は・・・？」
「あ、そういえばアレル君。家の人はこの事知っているの？」
「え？・・・あ、あぁ・・・一応置手紙を・・・」
「そう、なら安心ね」
青い瞳の剣士の名前が解らない。アレルがキョウカに聞こうとすると上手く話を変えられてしまうため
教えてはくれなかった。直接聞けば早いのだが、何となく気が引けたのでやらなかった。もしかすると
『名前が無い』のかもしれないからだ。
「いや、でも・・・・・」
「どうしたの？」
「いえ、なんでも・・・」
「・・・？」
もしかすると有り得るからこそ、今のアレルにその事に触れるだけの勇気は持ち合わせていなかった。
クラグを出て少し行った所で、どうやって砂漠へ行くかという話が出てきた。言われてみれば考えてい
なかった事に気がついたアレルは地図を開いて道のりを調べる事にした。直線距離でいくならば、まず
南東にあるカエリス山脈を越えて少し行った所にあるのだが、その途中には都市が一つも無い。これで
は食料は自給自足確定、更に常に野宿となる。運良く廃屋などがあるかもしれないが、確率はとても低
い。もう一つが南にある都市ファードラを経由するコース。言うまでも無く遠回りになるが、断然こちらの
方が街道を行く事になるので宿屋との遭遇率は上がる。街道には旅人向けに造られた宿屋や名も無き
村などがある。アレルは迷う事無くファードラ経由で行く事にした。
街道を歩き続け暗くなってきたので近くにあった宿に行き夕食を食べている時に、アレルは恐る恐る青
い瞳の剣士に話しかけた。
「あの・・・ずっと気になっていたんですが・・・」
「なんだ？」
「名前、何て言うんですか？」
「・・・あぁ、そう言えばまだ言って無かったな。俺の名は・・・」
「そんな事よりさ、何となく急いで出てきちゃったから歩いていたけど、何処かでバスにでも乗った方
が良くない？そっちの方が早いし・・・」
「そ、そんな事・・・って・・・」
「ん〜、確かに早いですけど軽く剣の練習もしつつゆっくり歩いて行きたいですね」
「・・・・」
アレルにまで無視された青い瞳の剣士はやり場の無い、言いようの無い怒りをとりあえず目の前にある
食べ物に向けた。力任せに振り下ろされたナイフで強引に肉を切り、そのままナイフの先に突き刺して
口に運んだ。だがそんな青い瞳の剣士の行動はアレルとキョウカの２人の目にはうつらなかった。
「まぁ、旅の醍醐味は足で歩く事にあるって昔から言うし。それも良いかもね」
「・・・それに、そっちの方がモンスターなんかとも戦えるしな」
「そうね。強くなるための基本は実戦あるのみ、だし・・・最近だとこの辺に盗賊も出るって言う噂も
ある事だし。砂漠につく頃にはかなり強くなっていると思うわ」
誰にとも無く呟いた青い瞳の剣士の台詞に相槌を打ったキョウカ。どうやら完全に無視されている訳で
は無いようだ、と少し嬉しくなる青い瞳の剣士だった。
「ただし！俺はアレルを守るつもりは無いからな！！！」
「自分の身くらい自分で守ってね？」
「それくらいできますよ！」
確かに２人からすると年下だし旅をした事も無いし剣技だって最近覚えたばかりのレベルだ。だからと
言ってそんな子供扱いするかのような台詞を聞いて思わず声を荒げてしまったアレルは、他のテーブル
に座っている旅人の視線を気にするように辺りを見渡しコップを手に取った。
続く
次回予告
初めての旅、更に年上の女性との２人旅に心を躍らせるアインはギターを捨てる事を決意した。だが、
そんな２人を引き裂くかのように現われた一筋の閃光。突然キョウカと永遠の別れを迎えたアインは全
ての怒りを悪の帝王ゾルアグスターに向け、新たなる力『ブラスター』が目覚めた。
次回、アファールズ戦記第５話『目覚めよ戦士』に続く
アレル「２人旅って・・・青い瞳の剣士は無視か・・・」
キョウカ「それに私って死ぬの？」
クラート「それよりも悪の帝王って、これそういう話じゃ無いだろう」
アレル「・・・・誰？」
キョウカ「気にしちゃ駄目よ。温かくなると良く出てくるアレだから」
クラート「・・・」
アレル「そ、そうですね・・・」
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