アファールズ戦記
第４話 『仕度』
家に帰るとテーブルの上に置いてある紙切れが目に止まった。最初はソレが何なのか良く解らなかった
のでゴミだと思い丸めてごみ箱へ入れてしまった。
日が暮れてもアレルが帰って来なかった。どうしたのだろうと心配してアレルがいつも修行場にしてい
る森の中へ入って行った。当然そこには誰も居なかった。最初は行き違いになったのか、と思いつつ家
に戻る事にしたが、そう言えばキョウカ達もクラグから出て行ったという話を聞いた事を思い出した。
彼女は嫌な予感がしてならなかった。まさか・・・、そう思いつつ家に向かって走った。そして家の中に
入るなり彼女は突然ゴミ箱を漁った。当然何事かと親に不思議な顔をされるが今は無視。だが、いくら
探しても自分が捨てた紙切れは見つからなかった。親に尋ねるとさっき焼却炉に放りこんだという素敵な
答えが返ってきた。
もしかするとまだ燃えていないかも、と無謀な事を考えつつ家の庭にある焼却炉へ向かった。そして、
やはり無謀だったと痛感した。焼却炉の煙突からは黒い煙が上がっている。紙切れ程度ならば一瞬で
灰にできる程に。
念のため親にテーブルの上に置いてあった紙切れの事を聞いて見ると、アレルがジラムズ砂漠まで出か
けてくると書かれていた事を教えてくれた。しかもいつごろ帰るとまで明記されていたそうだ。
彼女はクラグからは月に一度しか出ていないバスに乗って砂漠へ行く事を決意した。別にアレルが旅に
出たとしても、彼女が困る事など何一つとして無い。だが、何となく面白く無かったので追撃でもしよ
うかと思ったのだった。丁度学校も長期休暇に入った事だ。丁度良い旅行だろう。
彼女にとって砂漠へ向かう事はその程度の事でしか無かった。
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街道を歩いているアレル達は一つ思い知る事となった。整備されて歩きやすい道、それに夜になっても
足元を照らす事の出きる街灯。それはまだ良いとして、それよりも問題なのは道筋に立っている兵士と
思われる装備をした者達の事だ。
前にキョウカも言っていたが最近は盗賊も出る。そのため警備を強化したのだろう。さすがにクラグの
ような辺境までは手が届かないらしいが、都市が近い場所ともなると相応の警備体勢となってくる。
「長い事クラグに居たから解らなかったわ・・・まさかこんな事になっているなんて・・・」
「バス使った方が早かったじゃねぇか！」
「そうですね・・・」
最初この警備体勢を見た時にはこう言っていたが、バスに乗ろうとすると話は変わっていた。
「そうだよな、そもそも砂漠なんて所に好き好んで行く奴なんて居ないよな」
「仕方が無いわよ。歩いて行きましょう・・・」
「ごめんなさい・・・僕のせいで・・・」
別にジラムズ砂漠へ行くバスが無かった訳じゃ無い。その辺のバス停からも行けるようになっている。
だが、その値段がとんでもない事になっている。ただでさえ手持ちの金が無いアレルにしてみると、
とても乗れたものじゃ無い。キョウカと青い瞳の剣士だけなら乗れるが、さすがにアレルの代金までは
手が回らなかったのだ。とは言え、バスを使えない事も無いのだ。ただ、砂漠に入るための装備を整える
だけの資金が無くなるだけで。無論そんな事をすれば２日くらいで簡単に死ねるだろう。
とりあえずバスでファードラまでは来たのだが、この時点でアレルの財布は大分軽くなっていた。元々
収入があった訳では無いが、いままでの資金はハンターまがいのバイトで稼いだ、それも小遣い程度の
収入だった。それでもある程度の持ち合わせはあったのだが、現在の装備一式をそろえるだけで半分消
耗し、更にここまでの旅費で大分消耗していた。
アレルの考えではその辺で『渡り鳥』のように資金調達をするつもりでいた。だが、正規の仕事は正規
のハンターしか受ける事ができない。ならば、と正規では無い仕事を・・・と思ったが、あまりにも危険
すぎるのでキョウカに止められた。いや、止められなくともやらなかっただろう。
一応『見習いハンター』としてキョウカと青い瞳の剣士と共に仕事をしある程度の収入を得る事はでき
たのだが、所詮は見習い。一流のハンターと比べると・・・一日くらいなら何とか過ごせる程度しか得
られなかった。
「・・・で、砂漠までどう行くか。だが・・・」
「はぁ・・・」
青い瞳の剣士が何やら色々と細かく説明してくれているのだが、アレルの耳には入って居なかった。つ
い先程まで砂漠仕様の装備の説明及び装備した時としなかった時の違いを講義していた。だが、そんな
事など一切聞いていなかった。アレルは今全然別の事を考えていた。それを見抜いたかのように青い瞳
の剣士は話を中断して恐らくアレルが考えているであろう事に触れてみる事にしたようだ。
「お前、キョウカが居ないと何もやる気がしないのか？」
「・・・・・えぇ！？」
今キョウカは食料や薬などの消耗品を買いに出かけていた。そのため今は宿の一室で青い瞳の剣士と２
人きりになっていた。
「違うって！！！俺はただ・・・」
慌てて否定するアレルを見て何を思ったのか青い瞳の剣士は椅子から立ちあがってアレルの近くまで移
動してきた。
「そうか。なら・・・俺の名前を考えていたんだろう？そうだろう？」
「・・・・はぃ？」
「よし、教えてやろう。俺の名は・・・」
「そうじゃなくて！俺って完全に『お荷物』になってるなって思ってたんだよ！」
「・・・・・・・どうでも良いけど、お前さぁ・・・」
「アレルだ！俺の名はアレル・クラストだよ！」
「・・・そうか、じゃぁアレル。何で口調が変わってるんだ？」
「師匠でも無いお前に敬語を使っても仕方ないだろ！」
「いや、そうだけどさ。けど俺、アレルより年上だぞ？しかも・・・『お前』って・・・」
「仕方ないだろ？名前知らないんだし」
「だから教えてやろうと・・・」
「アンタ達、喧嘩するなら外でやってね。この部屋の修理費なんて払ってる余裕無いから」
気がつくとキョウカが部屋に入ってきていた。青い瞳の男がアレルの襟首を掴んで怒鳴っているので喧
嘩でもしようとしているのだろうと思ったらしい。
「キョウカさん、良い所に！突然この人が・・・」
一瞬間を置いて青い瞳の剣士の手を振り払ったアレルはキョウカの背後へ逃げた。キョウカの表情は見
えないが青い瞳の剣士の顔は何か言いたそうな顔をアレルに向けていた。
「・・・アナタ・・・そういう趣味だったの？」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「何処をどう取ればそういう風に見えるんだ？」
やっとの思いで口を開いたのは青い瞳の剣士だった。
「冗談に決まってるじゃない。それより、少し大人気無いんじゃないの？」
と、アレルに向かって言ったのだった。
「ちょっ、俺の方が・・・」
もう何をどうしても話がこれ以上続かなくなっているのは言うまでも無いだろう・・・。
ちなみにアレルは１６歳で青い瞳の剣士は２６歳。キョウカよりも２つ上だったりする。
続く
次回予告
闇の帝王との決戦にそなえアレルは一人闘技場を後にした。敵の血を飲みすぎて赤黒く錆びつき今にも
折れそうな剣を片手に、至る所にヒビの入った盾を持ち、少しボロボロになった赤いマントを風になび
かせアレルは闇の帝王が待つ扉の門を開ける・・・。全ては自らが生き残るために。
次回、アファールズ戦記第６話『裸の大将』
アレル「・・・・僕が全裸？それとも・・・」
キョウカ「さぁ、どっちでしょうね？」
アレル「・・・あ、あれ？前に居た”クラート”って人が居なくなってる」
キョウカ「寒くなってきたから消えたのよ・・・アレは『そういう物』なの。それより、鎧の事が書い
てないから恐らく・・・」
アレル「考えたくないのにぃぃぃ！！！！」
第５話を読む
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