アファールズ戦記
第５話『酒宴』
ラムスを追っていたはずのウォルが突然帰ってきた。何か有力な情報を掴んだのかと思っていたが、全
然違った。なぜかウォルの腕には少女が抱えられており、後ろにはアルバートより少し長い黒髪を風に
なびかせて立っている女性がいた。
「・・・そうしているとまるで『魔王』みたいね」
現在のアルバートの格好は古くなった玉座に座り足を組み手にはグラスを持っていた。グラスの中には
赤い液体が入っている。
「それって、血液？」
「何を馬鹿な事を言っているんだ？ワインに決まっているだろ・・・。それより何でオルナまで一緒何なんだ？」
ウォルの後ろに居る女性、オルナは軽く笑いつつ書状をアルバートに渡した。何も言わず書状を開いた
アルバートは楽しそうに唇の端を釣り上げた。そして片手で握りつぶし、そのままマジック、フリエリ
を使い生み出した小さな火で燃やし灰にしてしまった。
「・・・なんて書いてあったのよ？」
「気にする事じゃない。結果は見えている・・・。俺の予想通りだ」
「それじゃぁ・・・」
オルナが驚いたような、嬉しそうな表情をした。それに対しアルバートは小さく頷いてみせた。
「もう少しラムスと遊んでみるのも・・・一興か」
アルバートがグラスの中のワインを飲み干し、足元に置いてあったビンを拾いグラスの中に新たに液体
を入れた。
「おい、アルバート。そのワインって何処から持ってきたんだ？それにグラスも・・・」
「ワインはこの城の地下に沢山あった。まぁ、大半は飲めそうになかったが・・・。グラスは、その辺
にあったのを使った」
「じゃぁ、俺も軽く飲んでみようかなっと」
「ウォルってアルコール大丈夫だっけ？」
オルナの問いにウォルはビシッと親指を立てて笑顔で返した。恐らく克服したのだろう、オルナはそう
思う事にした。謁見の間のはずだが、なぜか置いてある戸棚を開け中からグラスを取り出してアルバー
トの足元に置いてあるビンを取り、中の液体をグラスに入れた。
「・・・ねぇ、ここって謁見の間・・・に見えるんだけどさぁ・・・」
「どうかしたのか？」
「どうして戸棚が・・・」
「持ってきたんだよ。『客人』をもてなすためにな」
「・・・」
ウォルが既にグラスを開けたらしく再びビンを手に取り、グラスにビンの口を近づけて傾けたが液体は
一滴も出てきそうになかった。どうやらもう空のようだ。
「・・・・・・・・そのビン。ついさっき開けたんだが・・・」
「・・・地下にあるんだよな？取ってくる」
酔っている様子など微塵にも見せずウォルはしっかりとした足取りで地下室へ向けて歩き出した。
「さっきから気になっていたんだが、それは何だ？」
それ、とはウォルが持ってきた少女の事である。持ってきたウォルは地下室へ行ってしまったので答え
は返って来なかった。どうやらオルナも知らないらしい。
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色々とあったが何とか砂漠の入り口までやってきたアレルの姿は、なぜかいつもと同じ服装だった。そ
してキョウカと結局名前の解らなかった青い瞳の剣士の姿は無い。彼女達は王都ダルアへ行ってしまっ
た。誰かに何かの報告をするつもりらしい。その辺の話は聞いても教えてくれなかったので知らないの
だが。
アレルはキョウカ達に一緒に来て欲しかった。その方が心強いし、今のようにこうして砂漠で倒れる必
要も無かっただろう。
「あぁ、だから・・・装備とかの話をしてくれていたのか・・・」
今更になって思い知った。どうしてちゃんと聞いていなかったのだろう、と後悔している。思えば、砂漠の
『何処かにある古城』なんて行ける訳無い。それに正確な場所を教えてもらっても目印など存在しない
砂の世界では意味が無い。
「ラムス・・・って言ったよな。アイツ・・・。俺を、殺す気だったんだ・・・・」
既に水は底をついているし、干からびた喉は食べ物を受け付けないため先程から腹部が食料を要求する
かのように音を立てている。
「・・・ふふふ、まさか俺がこんな所で干からびて死ぬとはな・・・しかもあっけなく・・・。思えば
俺の人生、全てを復讐のために費やして生きてきていたんだなぁ」
そう呟いていると走馬灯まで見え出している。そろそろ本格的にヤバくなってきているようだ。そろそろ
シャレにならないと思い立ちあがったアレルは立ちくらみで再び倒れたのだった。
「急に立つから・・・」
気がつくとアレルは、いや正確にはアレルの指が砂に文字を書きはじめていた。どうやら遺言でも書い
ているのだろうか。こんな所に誰かが通りかかる確率は低いというのに。されど何かを残したかったの
だろう。最も、書いている先から風に散らされて消えていくのだが。
次にアレルが目を覚ましたのは古い建造物の中だった。部屋の中はボロボロなのにアレルが寝ている
ベッドだけは妙に新しい。遠くから騒ぎ声と心地よい振動が伝わってくる。割と広い建物らしい。
「・・・・・！？」
聞こえてくる騒ぎ声の中に良く聞いた事のある声が聞こえてきた。聞きなれた少女のような声。それと
騒ぎ声。一体何が起こっているんだ？そう思ったアレルはベットから飛び降りて近くに置いてあった剣
と盾を取り騒ぎの元へ向かって走った。
「・・・・・！？」
アレルは再び絶句した。謁見の間のような場所で黒く長い髪をした男と女、それと同じく黒髪だが短髪
の男。今はそれらはあえて無視。それよりもアレルが驚いたのは、なぜかルーシュが居るという事だ。
「ルディ！なんで・・・？」
「あはあははははは」
ルーシュは笑っているだけでアレルに気がついていない。
「気がついたか？」
長髪の男がアレルの存在に気がついたらしく声をかけてきた。アレルは相手に見覚えがあった。
「お前は！？『漆黒の嵐』！！！」
「ん？何の事だ？それよりお前もどうだ？」
そう言って『漆黒の嵐』はグラスを投げて渡してきた。突然だったので思わず受け止めてしまったが、
これが何を意味しているのか理解するのに時間がかかった。
「はい、これ」
そう言って黒髪の女がビンをアレルに渡してきた。中からはアルコール独特の匂いがする。
「・・・いや、俺は・・・」
「これは好みじゃ無かったのね。じゃぁ、次はこれ」
「・・・・だから、そうじゃなくて・・・」
「これも嫌いなの？ならこれならどう？」
「・・・・・・・」
どうも断りきれなくて結局アレルはグラスに注がれた緑色をした液体を口に運んだ。少し苦い味がする
が嫌な味ではない。とりあえずグラスを開けたアレルは再び先程の続きをやろうと思ったのだが、アル
コールが回っているためか何を言っているのか解らない。そして再びグラスに注がれる液体。今度は先
程とは違い朱色をしていた。
続く
次回予告
アレル「訳の解らない次回予告は却下！」
ルーシュ「という訳でアタシ達がやるのね？」
アルバート「・・・やるのか？」
ウォル「今回は人数が多いな」
オルナ「全くだわ」
ラムス「それで、次回ですが・・・」
アルバート「お前出てたか？」
ラムス「・・・出てません、けど」
オルナ「なら邪魔ね」
ウォル「消すか・・・？」
ラムス「や、止めてくださいよ！！！」
ルーシュ「・・・・・・・・」
アレル「まだ前の方が良かった・・・・かも。せめてこれだけでも・・・！！！」
次回、アファールズ戦記第７話『最終回、そして新たなる旅立ち』
ルーシュ「へぇ・・・次、最終回なんだ」
アレル「気にするな！いつもの事だって！」
第６話を読む
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