アファールズ戦記
第６話『決戦』
アファールズ大陸から遠く離れた地、デクリーラス大陸には『魔族』と呼ばれる種がいる。現在アファ
ールズ大陸に居る魔族達は大体デクリーラス大陸から渡ってきたのが多いだろう。
今、デクリーラス大陸では人と魔族が戦争状態にあった。当初は魔族優勢だった戦争も人が何処からか
入手した古代の超兵器『機械兵』などの投入により戦況は大きく変わっていた。対する魔族もモンスタ
ーを人工的に製造しバイオモンスターで対抗していたが、デクリーラス大陸の魔族でもトップクラスの
魔族達は今、アファールズ大陸へ行ってしまっているため戦況は思わしくない。
魔族達の長、魔王ダルバー・バスラドは先程アファールズ大陸へ向けて使者を放っていた。側近でもあ
るアルバート・シェルホンを呼び戻すために。本来ならばもう既に帰ってきている頃合なのだが、なぜか
まだ帰ってきていない。
このままでは全滅してしまうと感じたダルバーは以前から計画していたアファールズ大陸進攻作戦を遂
行させる事とした。予め送りこんでおいた魔族達により造らせておいた場所へ移住する事にしたのだ。
その場所の名はアファールズ大陸の住人が闇の地として恐れる場所、ホーラグ。ここはかつて伝説にあ
る『巨大な闇を放つ者』と戦った地に最も近い場所と記録されている。
「デクリーラス大陸は破棄だ！今より我々はアファールズ大陸へと移動する！」
魔王ダルバーのこの一言によりデクリーラス大陸に居た半数以上の魔族達はデクリーラス大陸より姿を
消したのだった。
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「・・・これは一体？」
古城の謁見の間にて、ラムスは一人硬直していた。妙に酒臭い、それに足元には空のビンが多数転がっ
ている、倒れている５名。とりあえずアルバートを起こそう近づいて軽くゆすってみる。
「起きてください。アルバートさん？」
「・・・・・消えろ！！！」
突然アルバートがマジック、タンドレを放った。ラムスの頭上の静電気が収束し一条の雷となり降って
きた。寸前の所でラムスはマジック、ワーラを使い見えない円形状の盾のような物を出し頭上の雷を防
いだ。
「ね、寝起きが悪いんですね」
「・・・・・・・・・・ラムスか？何しに来たんだ？」
「何しに、って。貴方は何をしているんですか？敵であるアレルと酒を飲んで酔いつぶれているとは、
情けないですよ？」
「・・・・・アレル？」
「そこに転がっている少年ですよ」
そう言ってラムスはうつ伏せに倒れている少年を指差した。一方アルバートはしばらく何かを考えるか
のような格好をするだけだった。
「・・・・・誰だコイツ？」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「ウォル、起きろ」
アルバートの声に反応して遠くでビンに埋っていたウォルが突然起き上がった。
「どうしたアルバート？」
「コイツ誰だ？」
先程ラムスにした質問をそのままウォルにした。
「さぁ？俺、昨日の事はあまり覚えていないんだ」
「・・・オルナは？」
いつのまにか起きていたオルナは服のシワを気にしつつウォルと同じ事を言った。
「そろいも揃って・・・・・」
ラムスは思わず泣きたくなっていた。
この騒ぎで目が覚めたアレルがまず感じたのは頭痛だった。その次が吐き気。アルバートの存在に気が
ついたのは、しばらくしてからだった。
「うぅ・・・頭が・・・何か気持ち悪いよぉ」
ふと声がした方を見るとルーシュが苦しんでいた。それを見たアレルはどうしてルーシュがココに居る
のだろうという当初の疑問を思い出した。そしてある一つの結論に至った。
「汚いぞ！貴様ら、ルディに何をした！」
と、叫んだ直後にビンが飛んできた。投げた奴はルーシュ。小声で何か言っているが聞こえない。
「・・・・・・ルディ？誰の事だ？」
「コレの事か？」
近くに居たウォルが足元で苦しんでいるルーシュを指して言った。気がつくとオルナが何かの薬をルー
シュに渡していた。恐らく、二日酔いに効く薬だろう。
「・・・・・・・・で、ラムス。こいつらが敵だと？」
「そうですよ！」
答えるのも面倒だと言わんばかりに怒鳴るラムスに再びビンが投げつけられた。当然投げたのはルーシ
ュだ。投げるものなら手の届く範囲に沢山落ちている。恐らく叫んだと同時にビンが飛んでくるであろ
う。と、言う訳で声も当然小さくなる。
「・・・・・・・・・・！！！」
「・・・・・・・・・・・？」
「・・・・・・・・・・！！！！！！」
「・・・・・・・・・・・？？？？？」
お互いに何を言っているのか解らないので会話にならなかった。
とりあえず小声でも聞こえる範囲に集まったアルバートとラムスは早速言いたい事を言い始めた。
「アルバートさん、とりあえず台本通りに頼みますよ」
「台本？そんなの貰ってないが・・・」
「その辺はアドリブで・・・」
「そう言えば、お前は俺の名を語って『漆黒の嵐』を演じていたそうじゃないか？それもこれのためな
のか？」
「ご存知でしたか。そうです、このために私は髪を黒く染めて・・・」
「・・・・・・・・・・」
そこまで言ってラムスはアルバートが怒っている事に気がついた。いわれの無い悪名を付けられたのだ
から当然だろう。と、２人でコソコソとしているとアレルが近づいてきた。
「『漆黒の嵐』！！！勝負だ！！！」
アレルが台詞を全て言い終わる前にビンが飛んできた。意外と反応が早い。やむを得ず小声で同じ台詞
をもう一度言うが、迫力が無い。
「さぁアルバートさん！」
「・・・・・・」
アルバートとアレルが戦闘体勢に入るため剣を抜いた。アレルはアルバートに向けて。アルバートはラ
ムスに向けて。一応ラムスは抗議したがアルバートは聞く耳持たないといった様子でラムスを睨みつけ
る。最初に動いたのはアレルだった。
「たぁぁぁぁ！！！！」
気合一閃、初歩的な技だが威力は気合により変えられるので便利な技だ。だが、アレルは間合い内に
アルバートが入っても剣を振る事はできなかった。
「あぁぁー！うるさい！！！」
ルーシュの投げたビンがクリーンヒットしアレルの体勢が崩れたのだ。そしてそのまま無様に倒れこんだ。
彼らが外に出て戦う事にしたのはルーシュの手元にあったビンが半分以上投げた後だった。
「これで戦いに集中できる・・・」
アレルが嬉しそうに剣を握り直した。
「・・・・・・」
アルバートは相変わらず何も言わずラムスを睨み付けている。
「まぁ、どのみち私の計画は変わりませんし・・・。相手になりましょう」
平然と拳を構えるラムス。
それぞれが狙いの人物に向かって攻撃していく。アレルの剣を回避してラムスに向けてフリエリを数発
放ち、続けて突進し剣を振り上げる。その後を追うアレル。ラムスがアルバートの腹部目掛けて拳を放
ったが横に回避したため後ろから向かってきていたアレルを殴った。その直後ラムスの腕が戻る前に肩
目掛けてアルバートの剣が振り降ろされた。器用に拳でアレルの持っていた剣を叩きアルバートの剣に
ぶつけて防御し再び拳を放つラムス。それを回避しようと回避体勢に入ったアルバートにアレルが斬り
かかった。当然アルバートは双方の攻撃を回避したが、ラムスの拳に弾かれたアレルの剣はアルバート
に当たっていた。
「くっ・・・」
致命傷と言う程では無いが、考えてもいなかった攻撃を直撃してしまったアルバートは反射的に傷口に
手を当てた。そこへラムスとアレルの攻撃がきた。アルバートは自分の剣をラムスへ投げて牽制し、接
近てきたアレルの攻撃を回避しようとした。そこへラムスが何か、握りこぶしくらいの物体を投げた。
思わず当たったアルバートは動きが一瞬止まってしまった。
「もらったぁぁぁぁ！！！」
アレルの気合のこもった剣先はアルバートの心臓を貫いていた。そしてゆっくりとアルバートの体は崩れ
落ちていった。
「やった・・・勝った！！！！」
「おめでとうございます。アレルさん」
アレルが嬉しそうな足取りで古城の中へ入っていった。後に残ったラムスは嬉しそうにアルバートの死
体に近づいた。
「これで私の計画が少し早くなりますね・・・」
「ほぅ・・・そいつは良かったな」
「・・・！？」
アルバートが立ちあがった。あの程度で死ぬと思っていた訳では無いが、心臓を貫かれたのだから死んだ
ものだと思っていたのだ。
「これで邪魔は居なくなった・・・」
「いや、アルバートさん・・・。話せば解りますよ、きっと！」
最高の笑顔で話しかけるラムスを無視してアルバートは背中のマントに隠れていた剣を抜いた。
「戦うのは後ほど、という事にしてはどうでしょう？今戦えばアレルさんも帰ってきますし・・・」
「安心しろ。結界を張った。俺以上の魔力を持つ者以外は出入りできない」
アルバートが剣を振りかざし叫んだ。呼応するかのように剣が光を天空へ放った。アルバートが剣を振
り下ろすと同時に剣から放たれた光も振り下ろされていきラムスを両断した。
「・・・・・・幻影か。面白い、そうでなくては・・・」
「い、今のは危なかったですよ！！！」
先程より更に離れた場所に現われたラムスは手にロッドを持っていた。素手では勝てないと思ったのだ
ろう。
「さて、地獄へ行く準備は整ったようだな？見せてやろう、俺の本当の姿を！！！」
アルバートの姿が闇に包まれ、しばらくして闇が晴れるとアルバートの体は多少変化していた。以前よ
り耳が少し尖っていたり目つきが獣のように鋭くなり色が血のようなドス黒い赤い色に変わり肌が褐色
になった程度だ。だが、見た目の変化以上に内面の変化は想像を絶する。
「いや、まだ整ってないんですが・・・」
古城の中に入って着たアレルは早速ルーシュになぜココに居るのかを問いただした。
「え〜っとね、アレルがココに旅行に行ったって言うから・・・」
「・・・で、砂漠で倒れていたのを俺が見つけて持ってきた」
「誰だか知らないけどありがとう！」
「俺の名はウォル・アラグンだ」
「あ、私はオルナ・デスタラーゾって言うの」
２人共名前あったんだ・・・、それがアレルの彼らに対して感じた事だった。アレルは頭痛が収まった
らしいルーシュを連れて帰る事にした。そして古城の出口で何かに気がついた。
「あれ？『漆黒の嵐』の死体が無い・・・。それにラムスの姿も・・・」
「・・・・・本当に倒したの？」
ルーシュが疑いの眼差しでアレルを見ている。アレルは確かに倒したはずだとルーシュに説明したが、
アルバートの死体や戦った痕跡が見当たらない。砂漠なので走りまわれば当然地面には沢山の足跡など
が残っているはずである。それもつい数分前の物なので余程強い風でも吹かない限りすぐに消えたりは
しないだろう。
「た、確かに心臓を・・・貫いたのに・・・」
「夢でも見てたんじゃないの？」
完全にルーシュは信じようとはしていなかった。ふとアレルは助けを求めようとオルナとウォルにも何
か言ってもらおうと思ったが、彼らはずっとルーシュと共に古城の中に居たのだから知っているはずも
無い。
「けど手応えは・・・」
尚も仕留めたと主張してみたが、ルーシュは聞く耳もたなかった。
今まで黙っていたウォルが苦笑しつつオルナに小声で話しかけた。
「『アルバート』は倒したんだとよ」
「とてもそうは見えないけど、それなりに強いのね」
この２人にはアルバートの結界が見えている。曇ったガラスのような何かが、球状になっているような
感じの壁が。いや、正確には見えているのではなく感じているのだろう。その壁には触ろうとしても触
れず、目にも見えないのだから。
ふと気がつくとアレルが何か言いたそうにウォルとオルナを見ていた。
「・・・・あの、できれば近くの都市まで送ってほしいんですが・・・」
「ん？歩いて帰れる距離だと思うが・・・まぁ、いいか。じゃ、オルナ後頼んだぞ」
「ちょっと！私には無理よ！！！ウォルが何とかしてよ！」
「そうか・・・。そうだな。じゃ、後は任せろ」
オルナとウォルが立っていた場所を交換するとウォルはにこやかな笑みを浮かべて手を振っていた。そ
してオルナとアレル達の姿が一瞬にして消えた。これはマジック、トルーパでも使ったのだろう。瞬時
に都市まで飛ぶ事の出きる、このマジックは一日にそう何度も使える代物では無いためオルナが帰って
来るのは少なくとも明日以降となる。
続く
次回予告
ついに宿敵を倒したアレル！喜びに打ち震えている正にその時、宿敵アルバートが再び立ちあがり第２
形態へと姿を変えた！既にアレルには戦える力は残されていなかった・・・。だが、まるでタイミング
を見計らっていたかのようにして懐かしい影が助けに着た！
次回、アファールズ戦記第８話『最終決戦！燃え上がれ烈火の如く！』
アレル「・・・・前回のような事になっても困るけど、これはこれで・・・」
ルーシュ「そうだね・・・」
ウォル「それより前回の予告の時に今回が最終話とか言って無かったか？」
アレル「一種の手違いじゃないか？」
ルーシュ「手違いねぇ・・・」
オルナ「そう言えば、アルバートとラムスは戦っているから居ないのね」
ウォル「あいつら、疲れないのか？」
第７話を読む
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