アファールズ戦記
第７話『疑惑』
とある森の中。一つの影が駆けぬけていた。その影の姿は人型ではあるが、人とはかけ離れた形をして
いる。肘には刺のような物があり頭部には角のような物もある。目は赤く光っており口からは牙が見え
ている。
「感じる・・・。感じるぞ！近くに居るな！！！」
異形の影は楽しそうに笑いながら邪魔な木々を肘の刺で粉砕しつつ駆け抜けている。そして、突然跳躍
し木の枝を蹴り空へ駆けあがり目標目指して急降下を開始した。着地予定ポイントには魔族が立ってい
た。魔族が突然空から降ってくる物体に気がついた時には既に、喉を長く伸びた爪により切り裂かれて
いた。
「・・・この辺の魔族は、もう居ないな・・・」
爪についた血を舐めて倒れている魔族を見下ろした異形の影は、詰まらなさそうに呟くと爪が急に短く
なった。伸縮自在な爪なのだろう。
「いや、まだ居るな・・・。それも楽しそうな程強い奴が・・・。こっちに向かっている？そうか、俺に
感づいたか・・・？」
異形の影は当初、向かってきている『強い奴』を待とうとしていた。だが、待っている間に何もする事
が無いので出向いてやろうと思った。
「・・・。止めだ。しばらく大人しくするか」
そう言うと異形の影はその辺にある木に背を預けて眠りはじめるのだった。
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アレルとルーシュはオルナに送られてファードラまで着ていた。一瞬の内にこんな所まで着た事に二人
は驚いたが、それよりもオルナが疲労で倒れた事に更に驚いた。宿で休ませてやりたかったのだが、先
立つものが無いために、その辺の日陰で休む事にした。
「大丈夫ですか？」
「えぇ・・・。少し休めばすぐに元気になるわ」
「アレル、オルナさんを置いて帰りましょう？」
「そう言う訳にもいかないだろ！」
「私なら大丈夫だから。少し休めば・・・」
「その間に襲われたらどうするんですか！！！」
「ふふ、この状態の私を襲っても返り討ちにする自信はあるわよ」
「ほらオルナさんも大丈夫だって言っているし・・・」
「ルディ、少し黙ってろよ！」
「・・・」
面白く無さそうにルーシュはアレルとオルナから離れ、一人で帰る事にした。別に一人で帰れない訳で
は無いのだから。来た時も一人だったし、帰る時だって一人でも問題は無いだろう。そう自分に言い聞
かせつつルーシュはバス停まで歩いた。
「・・・所で、良いの？ルーシュがいなくなったみたいだけど・・・」
「あぁ、良いですよ。別に。アイツは子供じゃ無いし、一人で帰れるでしょう」
「いや、そうじゃなくて・・・襲われたら・・・」
「まさか。襲う奴なんて居ないですよ。金持ってそうに見えないし・・・」
「でも・・・」
「アレは放っておいても大丈夫ですよ」
「そう？自分の身くらい自分で守れるようには見えなかったけど・・・？」
「人は見かけによらないって言うじゃないですか」
相変わらずアレルはオルナと談笑を止めようとしなかった。
バスに乗ったルーシュは先程から独り言を呟いていた。その内容は全てアレルに関する事だが、ルーシュは
その事に気がついていない。
「どうして、いつもあーなるのかしら・・・。年上の女性相手だとすぐに・・・」
と、いうように。やがてバスが止まった。窓から外を見て見ると、まだバス停と言う訳では無い。にも
関わらずバスが止まった理由はすぐに解った。街道沿いに立っているはずの警備兵の姿が無い。変わり
に鎧を着て血だまりに倒れるようにして寝ている物体。それと山賊か盗賊らしき男達がうろうろしている。
「・・・・！！！」
この状況を見てルーシュはようやく理解した。どうやらバスジャックされたらしい。バスの中にも賊が
数名入ってきた。金目のものを要求し始めるが、前の方の席に座っていた剣士に切り倒されたようだ。
その剣士の髪の色は茶色で目の色は黒い色をしている。
「こっちは急いでいるんだよ！邪魔するなら斬るぞ！！！」
剣士は賊に向かって叫びつつ剣を構えて走っていった。狭いバスの中でも剣士には普通の広間かのよう
に素早く動きバスの中に乗ってきた賊を全て倒した。そしてそのまま剣士はバスを降りて外に待機して
いた賊と戦い始めた。
「頼むから邪魔するな！！！こっちは俺の命がかかっているんだよ！」
既に半数以上倒しておきながら剣士は戦っている暇は無いと言い出す。賊の方は何処からともなく出て
くる出てくる。まるで手品のようにその辺の物陰等から沢山出てきていた。
「・・・ニール！貴様も手伝え！！！」
「えぇー、僕を巻きこむなよ・・・」
ニールと呼ばれた男の髪の色は青く肩にかかるくらいの長さで目の色も青い。彼はバスの中から楽しそ
うにこの光景を見ていた。
「ニール、遅刻するとお前も俺も命にかかわるんだぞ！」
「・・・なんで僕の命まで・・・。大体、僕は無関係じゃ無いか！」
「俺が死ぬ前にお前を殺すからだよ」
「・・・・・。」
ドラハムの目が座っている。あの目は本気だ！身の危険を感じたニールは止むを得ず戦う事にした。
「解ったドラハム！僕も加勢するよ！」
ニールは窓から外へ飛び出そうと足を窓の枠にかけて、しばらく考えた。どう見ても窓を全開にしても
通れそうに無い。装備を全て外せば可能だろうが、それでは外に出た意味が無い。止むを得ずニールは
普通にバスから降りた。
「さぁ、死にたい奴は・・・・！？」
威勢良く剣を構えたニールだったが、既に賊は全滅していた。
「ドラハム、僕・・・何か馬鹿みたいだ」
「いや、俺は馬鹿そのものだったと思うぞ」
２人はそんな会話をしてバスの中に戻ってきた。一部始終を見ていたルーシュは少し楽しそうにこの光
景を見ていた。
続く
次回予告
新たなる敵の出現に敗北したアレル！だが、彼の意思を告ぐ第二の勇者が姿をあらわしたのだった。先
輩であるアレルの死に悲しむ暇も無く第二の勇者ドラハムは闇皇帝が待つ異空間へと向かう手段を探す
事となった。そうしている間にも敵の刺客がドラハムを襲う！！！
次回、アファールズ戦記第９話『戦え、その命燃え尽きるまで！』
アレル「・・・俺、死んだのか」
ルーシュ「死んだんでしょ？もう出て来なくていいから」
アレル「いや、でも俺って主人公だし・・・」
ルーシュ「こんな所に変な死体が・・・邪魔ねぇ」
ドラハム「変な死体か。片付けるか？」
ニール「そうだな。どう言う訳か都合よく棺桶がある事だし」
アレル「待てって！お前ら俺を殺そうとするんじゃない！」
オルナ「そうよ、仮にも主人公なんだし・・・」
ドラハム「そうだな『仮にも』主人公なんだしな」
ニール「殺すわけにもいかないな。『仮にも』主人公だし」
ルーシュ「そうね。『仮にも』主人公だったんだし・・・死体が動いても我慢するわ」
アレル「お前らなぁ！！！」
第８話を読む
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