アファールズ戦記
第８話『新手』
「・・・・・・ほぅ、まだ生きていたか？」
「アルバートさん！もう止めましょう！無意味ですよ。それに貴方もこんな所で遊んでいる暇は無い
はずですよ？」
「・・・なぜお前がその事を知っている？」
「なぜって・・・それは私が仕組んだ・・・・・・はっ！？」
「ほぅ。つまり、これもお前の言う『計画』とかいう事か？」
ラムスはしまったと思いつつもアルバート、いやヴァルスの台詞を肯定した。それによりヴァルスが
更に怒るかもしれないが、今更否定しても仕方が無いのは確かだ。
「・・・・・まぁいい。お前が何を考えているのかなど、興味無いしな。それに、『移住』が少し早く
なっただけだ」
「そうでしょう？デクリーラス大陸は元々生き物が住むには過酷な環境でしたし、丁度良かったじゃ
ないですか」
「・・・・・ただ、俺は貴様に踊らされているようで腹が立つ！」
ヴァルスが再び攻撃を開始した。フリエリを大量に放ち火炎球を造りだし、その辺に止めておいた。
その火炎球はラムスを取り囲む様にして待機している。後はヴァルスが起爆指令を送れば一斉に爆発し
ラムスと言えど致命傷を与えられる程の火力があるだろう。だが、ラムスは瞬間移動で回避しようと
するだろう。そんな事はヴァルスにも解っている。
「これが、あの『炎の砦』ですか・・・」
噂に聞いた炎の砦を実際に自分にやられて気がついた事がある。これは下手に動くと炎に巻かれるか、
ヴァルス本人に迎撃されてしまう。当然瞬間移動といえど移動直後の攻撃には対処しきれない。
「・・・・消えろ！」
ヴァルスが右手を上げた。火炎球がラムス目掛けて飛んできた。回避するには・・・普通ならば空中
しか無いのだが、ラムスには瞬間移動がある。当たる寸前でラムスの姿が消えた。
今ので”死んだふり”でもしたつもりだったのだろう。だがヴァルスにはラムスが逃げる瞬間が見えて
いた。ちなみにラムスの姿は見えない。恐らく何処かに隠れているのだろう。ヴァルスは低く笑うと
結界を解除した。
「終わったのか？」
近くにウォルの姿があらわれた。オルナの姿が見えなかったが恐らくアレル達を送って近くの都市まで
行ったのだろう。
「・・・いや、逃がしてやった」
「それでこそ、だな。キャッチアンドリリース、釣り人の心意気ってヤツだろ？」
「・・・・・・・・・・なんだそれは？」
「なんだ、違うのか・・・俺は・・・いや、止めておこう」
「・・・ホーラグへ急ぐぞ」
「おいおい、オルナを拾っていくのを忘れるなよ？」
２人の姿が消えた。トルーパを使い何処かへ行ったのだろう。地面の中から砂まみれになったラムスが
出てきた。体中の砂を払い落としつつヴァルスが居ない事を確認した。
「ふぅ、危ない危ない。アルバートさんも本気にならなくても良いじゃ無いですか。まったく・・・」
ラムスは懐から時計を取り出し、唇の端のみで笑うと古城を破壊した。
「多少の狂いはありましたが、これも計算の内。そろそろ計画を次の段階へ進ませましょう」
まるで霧のようにラムスの姿が徐々に消えていった。
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アレルはクラグへと帰ってきていた。あの後オルナは本当に少し休んだ程度で回復したらしく姿が消え
てしまったのだ。アレルは住所や電話番号を聞いておけば良かったと後悔しつつ帰ってきたのだ。
復讐という目的を失ったアレルは生気が失われているような感じがする。生きる目的を失った人間は
大体こんな感じになるだろう。こんなに早く、それも簡単に目的が達成できるとは思っていなかった。
そのため、復讐を果たした後の事など考えていなかった。
「相打ちになるのを望んでいたのかも・・・」
今ではそう思える。だが、ラムスとかいう協力者と共に戦い勝ったのは確かだ。
ルーシュは信用しなかったが、これは変えようの無い事実だ。
「・・・はぁ」
師匠キョウカもクラグには居ない。次にクラグに来る日などあるのかどうかも解らない。
そう言えば青い瞳の剣士の名前ってあったんだろうか？
などと思いつつ一日をボーッとして過ごしていた。
時々思い出したかのように剣を手に取る事もあるが以前のような覇気は無くただ振りまわしているだけ
といった程度になってしまっている。今の状態をキョウカが見たら何と言うだろうか。
自分でも情けないと思いつつアレルは大事そうに部屋に飾っている剣を見た。
「・・・・・」
アレルは剣を手に取った。そしていつもの修行場へと向かう。
今日はいつもとは何かが違った。周囲の雰囲気が普段とは違う。ソレが何なのか、考えるまでも無く
正体は解っている。そう殺気だ。
「・・・何処だ」
この殺気は確実に自分を狙っている。アレルは辺りを警戒しつつ剣を握る手に力を加えた。
「何処だ、何処に隠れているんだ・・・」
全くと言っていい程解らなかった。まるで敵が複数いて囲まれているかのようだ。だが、殺気の元は
一つだろう。なぜかそういう確信に似たものがあった。
「・・・・・・」
アレルは自分を落ちつかせた。ここで焦ると確実に負ける、そう判断したからだ。目を閉じて痛い
くらい強烈な殺気を放つ者を探した。
「・・・見つけた！」
剣を構えて旋風斬を放った。素早く剣を振れば振るほど威力があがる全方位攻撃だ。これを使うくらい
ならば殺気の位置を確認する必要など無かったかもしれない。
何かが空へ飛んでいった。最初は鳥だと思ったが、それにしては大きすぎた。
「落ちてくる！？」
急降下してきた物体を迎撃しようと剣を構えた。だが、少し遅くアレルは遠くへ弾き飛ばされ木に激突
した。痛みを堪えつつ先程降って来た物体を確認しアレルは驚愕した。
「モンスター・・・！？」
「俺をそんなのと一緒にしないで欲しいな」
「喋った！？」
「・・・」
一々驚くアレルを見て異形の影は少し困ったようにに溜息を漏らした。どうやら想像していた者とは
違ったらしい。
「すまん。人違いだった」
「人違い・・・って・・・？」
それだけ言うと異形の影は何処かへ行こうとした。だが、それと同時に別の異形の影が風と共に現れて
アレルの左腕を切り裂き駆け抜けて行った。
「今度は何だ！？」
新たに現われた異形の影に付けられた傷を気にしつつもアレルは二つの異形の影を見ていた。互いに
警戒しあっている。この二つの異形の影は仲間では無いらしい。
「・・・見ツケタゾ」
聞き取りずらい声で新たに現われた異形の影は言う。意識していなくては何を言っているのか解らない
程酷い声だったのでアレルには何を言っていたのか解らなかった。
「五番目か。一体お前ら何番目まで居るんだよ・・・」
異形の影が疲れたような仕草をしている。もう一つの方は笑い声らしき音を立てているだけだ。
「既に自我が無いようだな・・・。今楽にしてやる」
異形の影達は素早い動きで戦い始めた。アレルの目には影の残像しか見えていない。だが、このまま
ココに居ると巻き込まれると思ったアレルは逃げる事にしたのだった。
誰か居た。逃げようとしたアレルの視界に赤い髪の少年が映っていた。木の上でこの光景を楽しそうに
見ている。尚も異形の影同士の戦いは続き木々や草などに爪で斬りつけたらしい後や溶解液らしき液体
が飛び散っている。近くに居るだけで巻きこまれても文句が言えない程に。それなのに平然と、それも
楽しそうにしている少年が居る。
「おい、お前も逃げないと危ないぞ！」
「・・・俺に言ってるのか？」
「他に誰が居るっていうんだよ！」
「そうだな・・・。けどよ、こんな面白そうな事なんて滅多に見られないぜ？逃げたら勿体無いだろ」
「勿体無いって・・・」
赤い髪の少年の感覚に着いて行けそうに無かった。アレルは素直にこの場を立ち去った。
片方の異形の影が地面に倒れている。そこへもう片方の異形の影が追い討ちをかけ腕を引き千切り、
足を切断し首を噛みきった。
「うぉぉぉぉ！！！！」
楽しそうに咆哮しつつ尚も異形の影は死体へ向けて攻撃している。この光景を見ていた赤い髪の少年は
胃の中の物を吐き出しそうになった。
「さっきのヤツの言っていた通り、逃げればよかった・・・」
「・・・誰だ！」
「気づかれた！？」
返り血を全身に浴びた異形の影がゆっくりと赤い髪の少年に向かって近づいてくる。赤い髪の少年は意
を決して枝から飛び降り異形の影の前に降り立った。
「・・・俺はフォード・ガーゼルってんだ」
とりあえず自己紹介してみた。これで何とか和ませようと思ったようだ。
「俺は・・・バイオ・モンスター・ミュータント・プロトタイプ。コードネームはセリオス」
まさか向こうも自己紹介で返してくるとは思っていなかった。フォードは少し焦りつつも戦闘体勢に入
っているセリオスを和ませようとした。
「ヤツが来た！」
そう言うとセリオスは何処かへ走っていった。後に残ったフォードは思わず腰が抜けていた。
「な、何だったんだ？」
その問いに答える者は誰も居ない。
続く
次回予告
魔族が闇の地として恐れられるホーラグへと終結した。その事をしったアファールズ大陸の王は迎撃
部隊を派遣した！魔族と人の決戦が近い。そんな中アレルは生きる屍と化し、剣を持つ事を止めるの
だった。彼に残された道は・・・・。
アファールズ戦記、第９話『大道芸人』
アレル「最初は普通だったよな？」
フォード「あぁ。けどお前、大道芸って何かできるのか？」
アレル「できる訳無いだろ！」
フォード「何も怒らなくても・・・」
セリオス「そうだぞ？短気は損気ってな」
フォード「それはそうと、そろそろ主人公も交換した方が良さそうだな」
アレル「なんで！」
フォード「もうお前がやる事なんて無いだろ？」
アレル「まだあるって！」
フォード「魔族との戦いには参加しそうに無いし・・・何やるんだ？」
アレル「えぇい！エキストラが主役に向かってそんな事言うな！！！」
フォード「お、俺・・・エキストラ？」
セリオス「俺も？」
第９話を読む
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