アファールズ戦記
第１０話『勇者』
何所からか突如魔族が現われて戦争を仕掛けてきた。人々は手に武器を取り応戦したのだが、魔族は
何所から手に入れたのか失われし力『マジック』を使ってきた。マジックに対抗する為テクニックや火炎
槍などを用いて戦った。それにより最初は劣勢だった戦いも徐々に優勢に変わっていった。
そして今、魔王に対し最後の戦いを挑むのだった。
時はＡＷ４２８０年の事である。
そんな中・・・一人の少年、アレル・クラストは自分自身の事を考えていた。高い利息で金を借りてまで
来たのにも関わらず、もう既に最終決戦を迎えようとしている現状について多少困惑したように悩み
つつも、師匠であるキョウカに出会えた事で嬉しそうだった。
別のチームの会話が聞こえてきた。内容は最終決戦を挑む者達の選抜が開始されたらしい。アレルは、
焦りつつもキョウカに促され最終決戦を挑む者達の顔を見に行った。
一人は前にキョウカの話に出ていた茶色の髪をした男、もう一人はその相棒らしき青い髪をした男。
それと奇妙な人型の何かを連れた白い髪をした男に金色の髪をした女。どうやらたった４名+αだけの
ようである。
「あんなので大丈夫かな・・・？」
メンバー構成に多少の不安を感じたのかアレルが思わず、そんな事を口にしていた。
「ほら、アレって機械兵とか言うヤツよ？多分大丈夫でしょ」
キョウカの言う『アレ』とは奇妙な人型の何かの事だ。はじめてみた機械兵にアレルは、この機械兵が
どんな戦い方をするのか見てみたいと思った。だがアレルがこのメンバーに加わるのは不可能に等しい
事だった。
「頑張れよ、ドラハム」
親しそうに剣士風の男が茶色の髪の男に声をかけた。ドラハムと呼ばれた男は何とも言えないような
笑顔で答えるだけだ。どうやらドラハムは相手の男の事を知らないらしい。
「なんか・・・あのドラハムって人、辛そうな顔しているような・・・」
「そりゃそうだろ、誰だって生還率が低そうな所へは行きたくないだろう」
気がつくとクラートが横に居た。まだ目が赤い、つい先程まで泣いていたのだろう。
「・・・あぁ、そう言う事か」
アレルも納得したように頷いた。
ドラハムの不安は生還率が低い所へ行くという事だけでは無かった。後ろに居る機械兵を連れた白髪の
男と金髪の女の事が不安のようだ。
「なぁ、ニール・・・やっぱりゾークを連れて行くのやめないか？」
ドラハムは隣にいる青い髪をした男、ニールに耳打ちした。ゾークとは白髪の男の事で、機械兵は彼の
持ち物の一つらしい。先程から金髪の女はゾークの事を睨んでいた。
「ま、なんとかなるんじゃない？」
楽しそうに言うニールの台詞にドラハムは溜息をつくことしかできなかった。
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時は数時間前の事・・・
魔族との戦争に対し最終防衛線となっているランディッシュIIの艦橋では艦長と思しき人が出撃前の
戦士に対して敬礼をし、別れを告げていた。その戦士の名はドラハム＝バーランドと言い、髪は金色で
長く腰まで届くくらいの長さで目は青い男で年齢は２６歳になったばかりだ。
「すまんな・・・お前以外に頼れる奴が居ないんだ・・・」
「俺は、死にに行くつもりはありません」
ドラハムは、そう言うと自信に満ちた笑顔で笑いつつ部屋を出た。そして自分の部屋へ帰り武器を取ろ
うとした手が震えているのに気がついた。苦笑しつつも自分自身に喝を入れて、武器を手に取り部屋を
出た。
部屋の外には幼馴染みの男が居た。その男の名前はニール・クロッグと言い、髪は青く肩に届くくらい
の長さで目も髪と同じ色をしていて年齢は２３歳とドラハムより年下だ。ニールは武装しておりドラハムと
共に行くつもりらしい。
「死ぬかもしれないんだぞ？」
「死にに行く気は無いんだろ？」
ニールは先程の話を聞いていたらしく、そんな事を言ってきた。ドラハムは軽く笑いニールの同行を
許可した。
二人は艦内で最後の食事をしていた。
「ねぇ、ふと思ったんだけど・・・」
食事の最中にニールが突然話し掛けて来た。ドラハムは不意をつかれたような顔をして、焦りつつも
答えた。
「な、なんだ？」
「僕達二人だけで行くの？」
「当たり前だろ？ランディッシュIIには一緒に行ってくれそうな奴は居ないんだから・・・」
「それは分かっているけど、あと二人は欲しくない？」
「そうだな・・・ＲＰＧの基本は四人パーティーだしな
ドラハムは自分でも良く分からない事言ったと思いつつも、なぜか満足そうな顔をしているニールを
見るとこう言う事が言いたかったらしい。
「じゃぁ、誰を連れていく？」
「俺とお前は戦士だから、テクニックとか使える魔法使いタイプがいいな」
「回復役一人と攻撃役一人だね」
「攻撃役なら思い当たる奴が居るぞ」
彼らはルーナ＝ダロースという女性の部屋の前にきていた。ルーナの髪は金色で背中の半ばあたりまで
の長さで目は青く年齢は２０歳らしいが見た目は１７歳くらいにしか見えない。現状で攻撃系テクニックを
操れて一番強いのが彼女なのだ。ドラハムはドアをノックしルーナを呼び出した。
「実は・・・」
「ごめん」
そう言うとルーナはドアと閉めてしまった。ドラハムとニールは顔を見合わせて何が起こったかを考えた。
「おい、ルーナ！いきなりドアを閉めるな！俺の話を聞け！」
ドラハムはドアを叩きつつ叫んだ。
「嫌よ！聞きたく無い！」
「ドラハム・・・聞こえてるみたいだからドアごしに言えば良いんじゃない？」
「それもそうだな。実は・・・俺達と一緒に戦って欲しいんだ！」
ドラハムがそう叫ぶとしばらく沈黙が入り、しらばくしてドアが開くと同時に枕が飛んできた。
『なぜ枕が』と思いつつもこのままだと枕はドラハムに直撃しそうだったので飛んできた枕を見事に
弾いたのだが、弾かれた枕はニールに直撃していた。
「なんで僕が・・・」
ニールは恨めしそうにドラハムを見ていたが、ドラハムは笑って誤魔化した。
「じゃぁ、準備するからちょっと待ってて！」
そう言うと激しくドアを閉じた。
「なんか・・・ルーナ、怒ってなかったか？」
「枕が当たらなかったからだと思うよ・・・」
そう言うとニールは枕をドラハムに叩きつけた。
「さて、ルーナが準備している間にもう一人探しておくか」
「そだね」
彼らは今、最後の一人を探していた。予定では回復・補助のテクニックが使える人なのだが、該当者が
見当たらないのだ。一応医務室に数名居るのだが、今彼らを連れていくと医務室に居る負傷者達が確実
に居なくなる。それで無くとも怪我人は出てくるので医務室を離れなれないと断られるのが目に見えて
いた。
「そう言えば・・・ドラハムさ、回復系のテクニックって使えたよね？」
「あぁ。サレスタとかは出来ないけどな。確か、ニールは補助系のテクニックが使えたよな？」
「うん。・・・それじゃぁ、僕とドラハムって武器が剣でしょ？銃が使える人でも良いんじゃない？」
「そうだな」
ただ、銃を使える人達はランディッシュIIの防衛に当たっている為連れ出したくは無かった。
「で、銃が使えてランディッシュIIを離れても問題が無いという条件の中で選ばれたのが俺なのか？」
彼の名はゾーク＝ライドと言い髪は白く目は灰色をしている『燃え尽きた』感じのする男だ。年齢は
２７歳とドラハムより一つ上なのだが、とてもそうは見えない。銃は使えるが大して強い訳でもなく、
かと言って弱い訳でもない。そんなゾークは馬鹿にされたと言わんばかりの表情で怒っていたが、事実
なのでドラハム達は無視する事にした。
「おい、無視するなよ！俺だってな、秘密兵器くらい用意してあるんだ！」
「ひみつへーきぃ？」
「見よ！脅威の新型機械兵・・・その名はガダラドだ！」
突然部屋の奥の方が明るくなった。見ると、スポットライトを浴びて機械兵が立っていた。
「創作日数一ヶ月、製作日数二日のオリジナル機械兵だ！どーだ、恐れいったか！」
「製作日数が妙に短いのが気になるが・・・恐れ入ったぜ」
ゾークは自慢げに笑い出したが、ドラハム達の頭には一つの疑問があった。
たった一つの・・・それもシンプルな疑問。
（これ、動くのか・・・？）
準備が終わったルーナと合流したドラハム達は、ようやく決戦の地へと向う事になりランディッシュII
の出入り口付近で同志達の声援を受けていた。
（気楽なヤツらだ・・・。俺達の気も知らないで・・・）
ドラハムはそう思いつつ仲間達の表情を見てみた。ニールが妙に楽しそうにしている。どうしたのかと
聞こうと思った直後に後ろの方から妙な気配を感じた。ゆっくりと後ろを確認して見るとルーナがゾー
クを睨んでいた。
ルーナが何かをやりだす前に、急ぎ外に出たドラハムは何事も起こらない事を祈っていた。だが、その
祈りは無駄に終わる。突然ルーナがゾークを指差して文句を言い出した。そう、ドラハムは知らなかっ
たのだ。ルーナとゾークは仲が悪い事を。言うまでも無くニールは知っていたらしく、その光景を笑っ
て見ているだけだった。
「ねぇ、ドラハム。なんでゾークが居るのか分からないんだけどさ・・・」
「貴様如き小娘に俺の真の強さなど分かるまい！」
「真の強さって・・・。ゾークにそんな物があったなんて・・・まるで茶碗蒸の中に銀杏が入っている
くらいの驚きね」
「あ、一応説明するけどさ・・・ルーナって銀杏嫌いなんだってさ」
「知ってる」
少し離れた所で退避していた二人は辛うじて聞こえる程度の小声で会話していた。
「ふふふ・・・所詮小娘の例えなど、その程度か？あの茶碗蒸の中から銀杏を見つけ出した時の喜びと
言ったら、そりゃぁもう・・・」
「な、何よ・・・！」
「えーっと、ゾークは銀杏が好きなんだ。」
「へぇ」
もはやドラハムに取ってはどうでも良い事だった。
「俺ならば、こう例えるな・・・。ビーフカレーパンにビーフが入っていなかった程の衝撃！とな」
「全然分からないわ！」
「な、何だと？これだからガキは困る・・・」
「何ですって！？」
「良いか？良く聞け！まず貴様にも分かるように、この屈辱を教えてやろう！」
「ゾーク、その辺にしておけ！」
いい加減飽きたドラハムは、とりあえずゾークから止めようとした。後で気がついたのだが、この時
ニールは既にドラハムから離れていたらしい。
ドラハムと言う第３者の仲間を得たルーナはここぞとばかりにゾークに攻撃をはじめた。それに対し
応戦するゾーク。もやはドラハムには早く目的地に着くことを祈る事しかできなかった。
目的地・・・魔王の居る場所に着いた時、ドラハムだけが妙に疲れていた。あの後、二人を静めるため
にゾークとルーナの両方に怒鳴ったドラハムは、この二人から集中放火を浴びる事となったようだ。結
局、この言い争いはニールの手馴れているかのような妙に鮮やかな仲介によって静められていた。
「ニール・・・俺としてはもっと早く止めて欲しかったんだけど」
「あはははは。邪魔しちゃ悪いと思ってね」
「・・・お前さ、実は確信犯だろ？」
「まあね」
「簡単に言ってくれる・・・」
魔王が居る場所は塔のような建物になっていた。その塔はドラハム達を待ち構えているかの如く静かで
入り口は無造作に開かれていた。罠と言う可能性もあるが、他に入り口も見当たらないのでここから入
って行く事にした。だがドラハムは塔に入る直前で足を止めて上を見上げた。
「どうかした？」
横に居たニールが心配そうに聞いて来たが、ドラハムはそのままの体勢で答えた。
「この塔・・・高いな」
「そだね。でも頑張って最上階まで行かないと・・・」
「なぁ、外壁登って行かないか？どうせ内部には敵が沢山居るんだろうし、その方が絶対速い！」
ルーナが高い所が駄目だから、と嫌がったが迷路のような塔を敵と戦いつつ無駄に体力と薬を消耗
させるくらないなら、と言うドラハムの説得により結局ルーナは外壁を登る事になってしまった。
「問題はどうやって登るか・・・だな」
「そうだ、ガダラドに先行させて上からロープでも降ろして貰おうよ」
「ふふ、甘いなニール！ガダラドには『空を飛ぶ』機能などついていない！」
なぜか自慢げに言うゾークを殴り飛ばしたドラハムは、普通によじ登る事にした。
まずフリークライミングが得意なニールが登り、適当な所からロープを降ろした。そのロープを使い
ルーナを担いだドラハムが登り、ゾークとガダラドが登った。
「大体この辺は二階くらいかな？」
「えぇー、まだ登るの？」
ルーナが文句を言うが、それ以上に文句を言いたいのはドラハムの方だった。自分一人ならいいがルー
ナと言う余計な荷物を持ち、それもロープが揺れると暴れ出す荷物を持ち落ちないように登るのは思っ
ていた以上に体力と精神力を消耗していた。
「ルーナ！頼むから動かないでくれ！」
そんなドラハムの声も届かない程、悲鳴を上げてもがいているルーナが邪魔になってきていた。
「ルーナ！お前が落ちると俺も落ちるんだ！だから落ちついてくれ！」
だがルーナには聞こえていない。完全にパニックになってしまっていた。
「おいドラハム！そいつ気絶させろ！」
下にいたゾークの発案によりドラハムはルーナを気絶させた。
「これでようやく安心して登れるな・・・」
「全くだ・・・」
いままで気がつかなかったが、ドラハム達が落ちると丁度真下に居るゾークも巻き込んで落ちてしまう
らしい。最初はドラハムとルーナの光景を楽しそうに見ていたゾークだったが、その事に気がついた
らしくルーナを気絶させろなどと言ったのだろう。
「大体この辺が最上階だ」
「じゃぁ、壁に穴を開けて入るとするか」
「これで穴が開かなかったら面白いんだけどな」
ゾークが全く面白くない事を言って一人で笑い出した。恐らくここまで登ってくる間に何かあったのだ
ろう。
「テクニックで穴を開けるか。おい、ルーナ」
ドラハムはルーナを起こしたが、一つ忘れていた事があった。ルーナは高い所が苦手であると言う事と
暴れるという事を。目が覚めて状況を認識すると同時に暴れ出したルーナを再び気絶させた。ガダラド
の火力を持って破壊しようとも思ったのだが、製作時間が足りなかったせいで戦闘用の武器は一切持っ
ていないようだった。
「こいつ、役立たずじゃないか！」
「そうだが？」
ゾークは当然の事を言うなと言わんばかりに頷くが、だったらなぜ持ってきたという疑問を聞く気には
なれなかった。
あの後、ドラハムとニールの努力により壁を破壊し何とか塔の内部に入ったドラハム達を待ち構えてい
たのは意表を突かれて驚き戸惑っている魔王と、その側近一名だった。魔王の方は暗い所に居て良く見
えないが側近の方は、長い黒髪が美しい女性だ。一瞬ニールが黒髪の女性を見て動きが止まった事には
誰も気がついていない。
「おぉ、俺達がいきなりここに来るなんて思っていなかったと見えて驚いているぞ！」
「よし、先制攻撃だ！」
ドラハム達は武器を構えて魔王に飛びかかっていった。攻撃は見事に魔王に当たったのだが手応えが全
くと言って良いほど無かった。見ると魔王の姿は霧の様に消えはじめた。
「甘いですね。それはただの幻影ですよ」
近くに居た側近がそう言うと棒状の物で殴りかかってきた。ニールは慌てつつも軽く受け流し攻撃を無
効化し、それにより生じた隙にドラハムが攻撃をしかけた。
「少しは出来る様ですね・・・」
ドラハムに付けられた傷を押さえつつ立ちあがって構えた。
「私の名はオルナ＝デスタラーゾ。あなたは？」
オルナと名乗った魔族はドラハムの方を見てそう言った。
「お、俺か？俺はドラハム＝バーランドって言うんだ」
「そうですか」
「・・・」
妙な反応をしてきた魔族に少し戸惑いながらもドラハムは戦闘を再開した。
オルナはなぜかマジックを使わず、手に持った武器でのみ攻撃をしてきた。正々堂々と戦うつもりなの
かも知れないがドラハム達にとってそれは有利な事になる。更にニールやルーナも戦いに加わりオルナ
はあっさりと負けを見とめて逃げていった。
「一体なんだったんだ？」
「知るか」
「それより、魔王は何所だ？」
「上じゃないの？」
ルーナが指差していた方を見ると階段があった。恐らく屋上へ続いているのだろう。どうやら魔王は屋
上にいたらしい。
「そのまま登っていけば良かったな・・・」
屋上には二人の魔族がいた。一人は下の階にあった玉座に似ているような椅子に座り、もう一人はその
側に立っていた。見た感じでは玉座に座り偉そうにしている方が魔王に見える。
魔王も、その側に居る魔族も共に髪と目の色が黒い。ただ、魔王の方は少しだけだが青みがある。ドラ
ハムはふと魔族達は全員が黒い髪をしているのでは、と思った。下に居たオルナとかいう魔族も黒い髪
だったし目の前に居る魔族もまた黒い。
「以外と早かったな・・・」
どうやら魔王はドラハム達が攻めこんで来ていると言う事を知っていたようだ。だが、予定よりもやけに
早かったので少し焦りが見えない事も無い。
「あぁ、外壁を登ってきたからな」
疲れたように言うドラハムの台詞を聞いて、魔王は少し考えるような仕草をした。魔王が求めていた答
えは下の階にはオルナと言う名の魔族が居たはずなのに、妙に上がってくるのが早いのでは無いかと
いう質問の答えだったのだが、ドラハムにはその意図が通じていなかったようだ。
魔王が玉座から立ちあがり戦闘態勢に入るが、もう一人の方は戦おうとする素振りさえ見せずいた。
これは彼が魔王一人で十分と見たからだろうか。
「お前はなぜ俺と戦うのだ？」
攻撃を仕掛けようとしていたドラハムは思わず立ち止まり、自分の戦う理由を答えた。
「平和な世界を取り戻す為だ！」
「ふむ・・・まぁ妥当な答えだな。だが、俺を倒した所で何も変わらないという事を覚えておけ」
そう言うと魔王は一気に接近してドラハムの腹部に膝蹴りを入れ、腹部を押さえて前かがみになってい
るドラハムの後頭部に肘撃ちした。そのまま地面に叩きつけられたドラハムはそれで動かなくなった。
「まず一人・・・」
「ド、ドラハム！？」
逆上したルーナがギフォイエを放つが、手で受け止めて握りつぶした。この隙にニールは倒れているド
ラハムの所まで走りムーンアトマイザーという不思議な香りのする液体を使い気絶しているドラハムを
起こした。
「痛てぇ・・・」
ドラハムは強打された後頭部を押さえつつ立ちあがり剣を構えた。そしてルーナのギフォイエを手で受
け流している魔王に後ろから斬りかかったが、ドラハムが立ちあがっている所を見てルーナがテクニッ
クによる攻撃をやめてしまっていたので、ドラハムの攻撃は簡単にかわされてしまった。そこにニール
が走りこみ攻撃をしかけ、魔王に初めての傷を付けた。
「ちぃ、やるな・・・。このダルバーを本気にさせるとは・・・面白い！」
「ふふふ、遊びは終わりだ・・・行くぞ！」
魔王ダルバーが攻撃を再開し呆然としていたニールを殴り飛ばし、何もやっていないゾークに回し蹴り
を当てた。
「なんで俺まで！」
ゾークが何か言っているが、ダルバーから見るとこの場にいる者全てが敵なのだからしょうがない。
その事に気がついたゾークは待機させておいたガダラドに指示を出して攻撃をさせる事にした。
「ガダラド！コンビネーションＢ」
その声に反応しガダラドが素早くワンツーパンチを繰り出し、少し前進してから膝〜蹴りへの流れる
ような連携技を出した。
「ゾーク！真面目にやれ！」
思わずドラハムは叫んでいた。
ガダラドはゾークの命令通りに登録されているコンビネーションをやったのだが、魔王はガダラドから
遠く離れた間合い外に居たのだった。つまり、ガダラドは１歩も動かずにその場でコンビネーションを
やっていただけなのだ。
そのガダラドを見て一人満足そうなゾークはゆっくりと何かを確信したように頷き再び命令を出した。
「ガダラド！前進だ！」
再びゾークの命令を受けてガダラドは前進を開始した。ダルバーはガダラドを警戒し防御体勢に入るが
ガダラドはダルバーの横を素通りし、そのまま前進し続けた。
「こいつ、役に立たないじゃねぇーか！！！」
「ふふふ・・・ガダラドを見くびって貰っては困るな。ガダラド！反転してロケットパンチだ！」
ガダラドが後ろを向き両手を前に出すと肘の辺りから煙が吹き出て両手が撃ち出された。飛んできた両
手を軽く身を捻って回避したダルバーは戻って来るロケットパンチに警戒したが、飛んでいった両手は
何時まで経っても帰って来る事は無かった。
「良し！ちゃんと動いた！」
「ゾォォォォク！貴様何しに着たんだぁぁぁぁぁぁ！！！」
ドラハムの怒りに身を任せた叫び声にゾークは軽く溜息をついて簡単に説明した。
「ガダラドの実験に来たんだよ。しかし、音声入力式だと相手に何が来るか直ぐにバレるな・・・」
「だからゾークは役に立たないって言ったのに・・・」
そんな事は一言も言っていなかったはずなのだが、そう呟いたルーナに同意するかのようにドラハムと
ニールが肩を落して頷いた。
「お前等、遊びに来たんなら見逃してやるから帰れ」
ダルバーが哀れみの目で彼等を見ながら、そんな事を言いだした。それで『はい、そうします』と言う
者など一人も居ない。ドラハム達はダルバーを倒しに着たのであってゾークの下らない実験に付き合い
に来たのではないのだから。しかし、そんな中・・・両腕を失いガラクタと化したガダラドの側まで移動
したゾークは彼らに手を振って爽やかな笑みと共に立ち去ろうとしていた。
こんな奴でも居ないよりはマシだと判断したドラハムはゾークを止めようと近づいたのだが、ゾークは
ガダラドにしがみついて信じられない命令を下した。
「ガダラド、空を飛んで帰還するぞ！」
塔を登るときに『そんな機能付いていない』と言っていたのは嘘だったらしい。ガダラドの足から火が
吹きだすと、二人の体は空高く飛びあがっていた。
「今度会ったら覚えてろよぉぉぉぉ！！！」
ドラハムとへインのどちらかが叫びつつ無駄と知りつつも石をガダラドとゾーク目掛けて投げ出した。
「・・・ふざけるのも大概にしてもらおうか？」
「俺達だって好きでやってるんじゃねぇ！」
「この俺を本気で怒らせた事を後悔させてやる！行くぞヴァルス！」
ダルバーが今まで何もしていなかった魔族の方を向き攻撃命令を出してから一番近くに居たドラハムに
向かって走り出した。盾を構えたドラハムはダルバーの攻撃を盾で受け流してカウンターを狙っていた
のだが、ダルバーはドラハムの持つ盾に手を当ててマジックを発動させた。フリエリと呼ばれるマジック
により生じた火炎弾はドラハムの持つ盾の内側で炸裂した。
「ぐはぁ！」
ドラハムが叫び声と共に口から大量の血液を吐き出し、手に持っていた盾を捨てた。盾は爆発により変
形していたが、それ以上に盾を持っていた手が黒く変色してしまい使い物にならなくなっているのを見る
限り盾を捨てたのでは無く落としたと言う方が正しいだろう。
「ドラハム！大丈夫！？」
慌ててルーナが駆け寄ってきたが、そこへダルバーが再びフリエリを放った。その威力は先程と比べる
とわずかなモノで直撃しても鎧や服、それに髪が少し焦げる程度の威力でしか無かった。
「ちぃ！やはり魔力が・・・もう限界になっていたか！！！」
「じゃぁマジックはもう撃てない・・・って事だね！」
ニールが走りこんできてダルバーに斬りかかろうとしたが回避され、腹部に膝蹴りを貰ってしまった。
間合いを取ったダルバーは先程から自分一人しか戦っていない事に気がつき後ろを振り向いた。ヴァル
スと呼ばれた魔族は最初に立っていた位置から少しも動こうとはせず、ダルバーが戦っているのを黙っ
てみていた。
「ヴァルス！何をしている！」
期待していた援護射撃すらしないヴァルスに叱咤するが全く相手にされていない。その間にドラハムは
ギレスタを使い傷を癒し剣を持ち直すとダルバーに向かって走りだした。ダルバーは何もしようとしな
いヴァルスに激怒し『仲間割れ』をしようとしていた所へドラハムの一撃が放たれたが、この攻撃はヴ
ァルスによって阻まれてしまった。
「しまった！もう一人居たんだった！？」
すっかりもう一人の存在を忘れていたドラハムにはヴァルスの介入は驚くべき事だった。ヴァルスの不
意打ちを受けドラハムの体は宙に打ち上げられていた。
地面に叩きつけられたドラハムを無視してヴァルスはダルバーの前に片膝を付き頭を下げた。腹部を押
さえてうずくまっていたニールと地面に叩きつけられた衝撃で体が動かないドラハムの二人を見てルー
ナは何をしようか戸惑っていた。自分のＴＰには余裕があるのだが、一人ではヴァルスと言う新兵器に
太刀打ち出来そうに無く更にダルバーはヴァルスの持つ薬『モノメイト』によって傷を癒されていた。
「一体どうすれば・・・」
ただ一人無傷のルーナはどうやって現状を打破するか考え始めた。
続く
次回予告
ただ一人残されたルーナ！万策尽きた彼らに残された道は全滅しかないのか！？しかし、そこへ
宅配便が・・・。ダルバーはハンコを探しに居なくなり、ヴァルスはお茶の用意をはじめる。その隙に回復した
ドラハム達は、全てをかけて最後の戦いに挑む！
次回アファールズ戦記最終話『英雄』
アレル「主人公なのに出番無し・・・」
ドラハム「ま、気にするなって」
ルーナ「何でも無理矢理軌道修正したらしいわ」
ニール「今回は人が多いなぁ・・」
ドラハム「ゾークは居ないけどな」
ヴァルス「で、だ。何で俺が茶など出さねばならんのだ」
ダルバー「しかも宅配便って・・・」
アレル「そこは突っ込む必要無いって。それより俺の出番が・・・」
ドラハム「ま、次回が最終回らしいし・・・一応あるんじゃないか？」
アレル「一応・・・」
最終話を読む
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